希の蛇狼牙が絵里へと襲い掛かる。例え自身にロシアの血が流れていようと直撃すれば只では済まないということを絵里は既に一撃目で理解していた。
肉は飛び散り、骨は砕け、二度と踊れなくなる程に自分は無惨な姿になるであろうと。

「…こっのぉおおおおおおッ!!」

それを理解しているからこそ、なんとしても避けねばならなかった。希を正気に戻し連れ帰っても、自分がアイドルとして踊れなくなっているなんてことはあってはならなかった。
絵里は後方へと腰を限界まで折り曲げ蛇狼牙の直撃を間一髪で回避する。
自身の胸元を通りすぎた蛇狼牙の衝撃波が遥か遠く、背後にあった山の一部を大きく抉り取ったのを絵里は確かにその目で見た。

「あんなぁ……避けんなや!!!!」

必殺の技を二度も回避された事実に希は苛立っていた。絵里は距離を取り再び蟷螂拳の構えをとる。
蟷螂拳―――近接から中間距離においての素速いスピードの攻防を得意とする絵里のこの戦闘スタイルだが、希の蛇狼拳とは相性が悪く、これまで攻撃をすれば完璧に去なされ、防御をすればそれをいとも容易くに崩されてしまっていた。
ここまではなんとか唯一希を上回るスピードと直感で直撃は避けてきたがそれも限界が来ている。
どうすれば―――もう諦めてお家に帰るしかないのか、そう考えた絵里であったがあることに気付く。

「…………」

希が追撃してこないのだ。
よく考えてみれば、先程の蛇狼牙を避けたときにだって希は自分に攻撃できた筈なのにそれをしなかった。それは何故か?賢い絵里は考えた。考えて考えて考えて…絵里のなかで、一つの仮説が生まれた。

「もしかして……蛇狼牙は連発できないんじゃない?」

「―――ッ!」

「しかも……蛇狼牙を撃ったあとはその反動で少しの間動けなくなる……違う?」

「……は、はは! 流石としか言いようがないやん? すごいね絵里ち……たった二発撃っただけで蛇狼牙の弱点を見抜くなんてね」

「私を誰だと思っているの? 賢い可愛いエリーチカよ」

「でもそれがわかったからってウチには勝てへんよ。次は当てる」

「それはどうかしら」