それと,学校で伝統音楽を指導する際に音楽用語などの問題があります。中学校
音楽科学習指導要領でも「間」や「序・破・急」などの伝統音楽の音楽用語を指導
するようになっています。伝統音楽の表現法や楽器などの音楽用語については,一
般化されていないものも多くあります。音楽用語については,学校教育を通して,
だんだんと共通の言葉にしていかなければならないという課題があります。箏・尺
八・三味線などの演奏法が民間で伝承されていますが,そこで使用されている音楽
用語が学術的なものなのか,民間で伝承されるなかで使われる用語なのか判然とし
ないものもあります。学校教育の音楽教育として指導する内容となると,誰にでも
共通に理解できる学術用語にしていかなければなりません。これも,本事業のよう
な教材開発というなかで整理されていくものと思います。
3.生成の原理で指導する
伝統音楽を学校で指導する際には,音楽として在るものを「再現」するのではな
く音・音楽を「生成」するという考え方をとることが重要です。楽譜として在る音
楽を「再現」するのではなく,常に現代の子ども達の感覚や感性で音楽を生成して
いくことです。「生成」とは,子どもが音や音楽に自分の感性によって働きかけ,
その働きかけた行為によってどのように音や音楽が変化したかを感受しながら,音
楽の世界を構成(生成)し,それと共に自分の内面の世界のイメージや感受性を再
構成(生成)していくことです。
この事業で開発した教材の中にも,「身のまわりのようすをことで表現しよう」
という題材があります。海・雨の日・卒業式などの様子を箏で表現するものです。
このような教材においても,子ども達の感性を生かし,箏の音色に働きかけながら,
リズム・旋律・速度・強弱・構成などを変化させると共に曲想の変化を感受させま
す。このように外的世界の音楽を構成(生成)しながら,内的世界のイメージや感
受性を再構成(生成)していくようにします。このような方法をとることで,子ど
も達の音色や音楽に対する感性や美意識を培うことができるのです。
4.指導内容を設定し子どもの学力(知覚・感受)を育成する
学校教育として伝統音楽を指導するとなると,指導内容を設定し子どもの学力を
育成することが必要となります。例えば,小学校の第5学年及び第6学年の器楽の指
導事項には,「曲想を生かした表現を工夫し,思いや意図をもって演奏すること。」
また,中学校第1学年の器楽の指導事項には,「楽器の特徴をとらえ,基礎的な奏法
を身に付けて演奏すること。」とあります。そして,小学校も中学校もこれらの指
導事項は,共通事項の音色・リズム・速度・旋律・強弱・構成などの音楽の要素を
知覚し,それらの働きから生まれる曲想・特質・雰囲気を感受することを関連させ
ながら指導するようになっています。
従って,小学校においても中学校においても伝統音楽を教材として取り上げ,箏
や尺八・三味線などの和楽器を指導する際には,演奏の技能と共に音色・リズム・
速度・強弱・構成などの音楽の要素を知覚させ,それらの要素や要素同士の関連か
ら生まれる曲想・特質・雰囲気を感受させるようにし,子どもの音楽的な学力を育
成するように計画します。
このことは,鑑賞指導として伝統音楽を指導するときも同じです。例えば,中学
校で吉沢検校の箏曲,「春の曲」「夏の曲」「秋の曲」「冬の曲」を鑑賞として指導す
るときにも,学習指導要領のなかの共通事項,音色・リズム・速度・強弱・形式・
構成などやそれらの関連から生まれる曲想・特質・雰囲気を知覚・感受させ,生徒
の学力を育成するように計画します。
その際には,その楽曲が日本の伝統音楽としては,どういうところに特質がある
のかを見極め,そこの部分を教材化していくことです。その部分に焦点を当て,生
徒との接点をつくり,この部分を通して知覚・感受の能力を育成するようにします。
以上のように,学校教育で伝統音楽を教材として取り上げる際には,指導内容を
設定し学力を育成するようにするところが,地域においてそれぞれの実演家が演奏
として継承しているところとは違います。
5.日本の伝統文化を教えることの意味
箏や尺八,三味線を学校に持ち込んで,演奏している子どもの姿が教室にある様
子は,田園風景の日本の学校によく合っています。ピアノが教室にあるよりも,箏
や尺八・三味線の方が地域の田園風景と合った音色だなと思います。それは,これ
らの日本の楽器の音色は,日本の自然に溶け合う音色だからです。また,日本の伝
統音楽は,日本の四季の変化を表現したものや,花鳥風月