大学の夏休み、地元に帰ってきた俺は幼なじみの薦めで祭りの御輿を担ぐことになった。
両親にその事を話すと猛反対されたがもう約束してしまっていたので今さら取り消す訳にもいかない。
「断ってくるわー」と適当な嘘をついて俺は神社へと向かった。

両親が猛烈に反対したのには理由がある。この町内の御輿には妙な都市伝説があるのだ。
御輿の順路は決まっているにもかかわらず、見たこともない路地に迷い込むことがあるらしい。
そして道路の一角に4つのマンホールが固まって配置されている道を通ってしまった御輿は二度と帰ってこられないのだそうだ。
もちろん俺は信じていない。
二度と帰ってこられないのなら、この都市伝説は誰が伝えたんだって話だ。

神社に着くともう準備が始まっていた。
御輿は2基、6人ずつ2組に別れて町内を練り歩く。
俺は友人とは別の神輿を担ぐことになった。
御輿の左右に3人ずつ、先頭の2人は何度か参加したことがあるらしい人が立つ。俺は右側の真ん中。
自治会のおっさんの説明もそこそこに、御輿は境内から出発する。
この神社の参道には、どんな謂れがあるのかは知らないが北側だけに狛犬が何体も並んでいる。横を通りすぎるたびに狛犬に睨まれてるような気味の悪さを感じて、俺はなるべく前だけ見るようにして鳥居へ向かった。

30分ぐらい歩いただろうか。
住宅街の中の小さな十字路を右に曲がったところで神輿は突然止まった。
前列の2人が立ち止まってしまったようだ。俺の位置からは前の人の横顔しか見えないが、左側の人の方を見てなにやら話している。やけに顔色が青ざめて見える。
しばらくして、御輿はまたゆっくりと進み始めた。「道を間違えたのかな?」などとぼんやり考えていた時だった。
コトン
と、何かを踏んで下を見た瞬間、俺は小さな悲鳴を上げた。マンホールの蓋だ。しかも一ヶ所に4つ。
御輿の胴に視界を遮られて俺からは前の人の後頭部しか見えない。不安になった俺は思わず後ろを振り返った。
後ろの奴は真下を向いたままで表情は見えない。それでも肩が震えているのははっきりと分かった。
出来の悪い都市伝説と思っていた事が自分の身に起こった現実に頭がついていかない。
十三階段を昇る死刑囚のように、抵抗するすべもなく俺は御輿と共に進み続けた。

結末は、というと
御輿は神社へとなにごともなく帰ってこれた。
巡幸の間ビビりまくっていた自分が恥ずかしくなった。
行きはあれほど不気味に見えた狛犬も俺の帰りを歓迎してくれている様に見えて、横を通り過ぎるたびに一体一体に愛想笑いして通りすぎた。

御輿を倉庫に降ろすと俺は大きく安堵のため息をついた。
無事に戻ってこられた。当たり前だが。
それにしても、もう一基の御輿、なかなか帰ってこないな…


なんだか味気無いな