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しかし数歩近付いて分かったが、人がいない。通行人も店の常連年寄り連中も店員のオッサンも、さっきまでいたはずなのに気配が無い。人の話し声がすると思ったらラジオだった。
ふと父の視界の隅で何かが動いた、と思ってそちらを見やると、1階に店を構える民家の窓のカーテンが閉じられたらしく揺れていた。それに気付いてから他の店の上階もよく見ると、窓の向こうの部屋の奥に人がいた。みんな年寄りで、昼間見た顔もあった。そのいくつもの目線がどれもが無表情で父と母を見下ろしていた。母も同じ光景を見ていた。
あの鳥居の下へ行くことを二人に勧めた人達が、感情の無い目で睨んでくる。その意味が分かる前に、母が父の背を押して、我に返った父とともに走り出した。俺はというと、あの叫び以降何の異変も無かったという。
「海に水があったことより、あの神社勧めといて町の人みんな海に入るとこ見てたことの方が怖かった。本当は最初から人はいませんでしたって方が怖くなかったかもしれん」というようなことを母が笑いながら言ってたし、「あんたがおらんかったらお父さんあのまま沈んでたわ」とも言ってた。

でもいくら調べてもそんな神社見つからないし、何なら神社じゃないのでは?と思う。