9月7日16時過ぎ。自民党本部4階の総裁応接室は重苦しい雰囲気に包まれていた。

「接点のあった全員の氏名を公表すべきではありませんか」

岸田文雄首相(65)がいつもの淡々とした口ぶりでそう切り出すと、やんわりとではあるが、険しい表情でこれを否定する「重鎮」がいた。

「なかなか難しい。議員が知らないうちに秘書が祝電を送った場合もありますから」

声の主は茂木敏充幹事長(66)。自民党のナンバー2である。

旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との「ズブズブの関係」が、自民党内で大きな問題となっているのはご承知の通り。「国民への丁寧な説明が大事」と考えた岸田総理は、自民党の全所属議員に「統一教会との接点」の調査を指示。接点があると答えた議員の名前を公表し、国民からの信頼を得ようとした。調査が終わった直後に、旧統一教会と所属議員379名との接点を公表する記者会見まで予定されていた。

ところが、だ。フタを開けてみれば、9月8日に行われた記者会見で、茂木氏が「接点がある」と公表した議員数は179名にとどまった。どうしてここまで「規模縮小」してしまったのか。

実は、自民党所属議員との接点の公表を巡り、自民党トップの岸田氏とナンバー2の茂木氏の間で、鞘当てが起きていたようなのだ。自民党関係者が明かす。

「自民党が急速に支持を失っている原因を、岸田さんは『自民党の説明が足りないからだ』と思っている。一方の茂木さんは逆の発想で、『たかだか統一教会に挨拶をしたぐらいの議員の名前まで公開すると、火が燃え移るばかりだ』と考えているようだ。その考え方の差が縮まらず、いびつな形の公開となってしまった」

調査・公開をめぐる二人の温度差は、この問題に火がついた直後から生じていたという。

「旧統一教会問題が発覚した直後の7月26日の会見で、茂木幹事長は『党としては一切関係がない』と組織的な関与をまっさきに否定し、立憲民主党や日本維新の会と同様に、所属議員への聞き取り調査をしなかった。その後、接点のあった議員が五月雨式に発覚し、調査や説明に後ろ向きな姿勢が強い批判を生んでしまった。総理は『幹事長の誤った判断のせいで、初動からミスをした』と考え、後手に回る幹事長の手腕に疑問を感じていた」(総理周辺)

膿を出し切り、反転攻勢につなげたい岸田総理と、全面公表は避け有耶無耶のうちに処理をしたい茂木氏の間で、何度も言葉が交わされたが、結局、二人の距離は9月に入っても縮まらなかった。

冒頭の会議の様子からも、二人の溝が決定的に広がっていることがわかるが、この会議には二人の他に、麻生太郎副総裁(81)、遠藤利明総務会長(72)、萩生田光一政調会長(59)、世耕弘成参院幹事長(59)らも同席。「全面公表か、一部公表か」で議論が続いたという。

「それでは、『旧統一教会の会合に議員本人が出席した』以上の議員を公表する。それ以下は非公表、でいかがでしょうか」

世耕氏がそう述べると「それがいい落とし所だな」として出席者から賛同の声があがった。これ以上の議論は、ただ両者の溝を広げるばかりだと判断したのだろう。かくして179名(重複を除くと121名)の氏名公表となった。

しかし、この「折衷案」がさらなる国民の不信を招くことになる。その翌8日の閉会中審査で、岸田総理は従来の見解を繰り返した。茂木氏の会見を含めても、数々の疑念を払拭するだけの説明はなされず、旧統一教会問題が「幕引き」とはならなかった。

「やはり、全員公表とすべきだった……」

そんな無念が、岸田総理の脳裏を駆け巡っているのではないか。8日夜、記者団から、「今回の調査で国民の理解は得られ、批判は解消されるのか」と問われると、岸田総理は疲れた表情でこう返した。

「調査結果を重く受け止め、信頼回復に向けて努力していく。詳細は幹事長に聞いていただきたい」

一説には「岸田が倒れたら次は茂木」という声があがるなか、茂木幹事長はあえて岸田内閣の失点となるような悪手を打ってるのではないか…などという声も聞こえてくる。その本心は、議員の名前と同じく公表されることはないだろうが、しばらく二人の「暗闘」は続きそうだ――。

FRIDAYデジタル
9/19(月) 11:00
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