0001名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:11:51.89ID:Sz9ZTITW
ようまり。
0002名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:12:46.15ID:Sz9ZTITW
曜「やっぱり、おかしいかな…」
買ったばかりの服を体に当てて、鏡に映る自分の姿をのぞきこむ。
手にしているのは、私には珍しい赤色の服。明るく元気な色合いとは対照的に、鏡の中の私はどうにも冴えない表情を浮かべていた。
本来ならば、新しい服が手に入ったというだけで気分が上がっているところだ。
赤はあまり着る色ではないけれど、袖に二本の白いラインが入ったデザインは可愛らしくて好みだし、丈の長さやサイズも良さそうだから、言うこと無しのはずなんだけど…
何度確認してみても、私の心はぜんぜん定まらない。いや、確認するたびに、どんどん深みにはまっていく気さえする。
私が鏡の前に立ったり、頭を抱えたりを繰り返しているのには、たったひとつのシンプルな理由がある。
曜「いきなりお揃いって、変かなぁ…」
それはこの服が、鞠莉ちゃんが以前着ていたものとそっくりだからだ。
0003名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:13:23.01ID:Sz9ZTITW
この服が私の手元にあるのは全くの偶然だ。
いや、この言い方は正確じゃない。通販サイトを通じて購入したのは、他ならぬ自分の意思に基づいているんだから。
私が言いたいのは、この服との『出会い』が偶然だったということだ。
それは数日前に遡る。ベッドに寝転がって通販サイトを眺めていた私は、画面に映し出された見覚えのある赤い服に釘付けになった。
曜「これ、鞠莉ちゃんが着てたのとそっくりだ…!」
そう。さっきも言ったけど、それは少し前に鞠莉ちゃんが着用していた私服ととてもよく似ていたんだ。
袖に白いラインが入っている以外は赤一色という、非常にシンプルなデザイン。
それ故にごまかしがきかない難しさがあるけれど、鞠莉ちゃんは品よく着こなしていて、それがまた凄く可愛かったから、強く印象に残っていた。
0004名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:13:53.44ID:Sz9ZTITW
どうやら人気のアイテムみたいで、紹介欄には「残りわずか!」と点滅文字が表示されている。
売り切れているカラーバリエーションもあったみたいだけど、幸いにもこの赤色は購入可能だった。
私が迷わず『買い物かごに入れる』を押したのは、在庫切れに急かされたというよりも、思わぬ偶然が嬉しかったからだ。
購入手続きが完了したことに安堵しつつ、商品の到着を今か今かと心待ちにする日々が続いた。
いよいよ荷物が到着して、待ちに待ったお目当ての服を箱から取り出したその瞬間。ワクワクと心踊る気持ちは、不安と戸惑いに切り替わっていた。
「勝手にお揃いの服を着るのって、おかしいことなんじゃないか」って――
0005名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:14:32.55ID:Sz9ZTITW
お揃いとは少し違うけど、鞠莉ちゃんのテーマカラーである紫を、こっそりとアクセントに取り入れてみたことはこれまでも何度かあった。
それは、私が鞠莉ちゃんに対して密かに憧れを抱いているからだ。少しでも近づけたらいいな、繋がれたらいいなという、淡い気持ち。
だからこそ、服を見つけた嬉しさに舞い上がって、後先を考えないまま『そっくりすぎる』服を買ってしまったことに、今更ながら困惑を覚えている。
曜「衝動買いって、怖いなぁ…」
鏡の前にまた立って、服を体に当ててみる。裾の部分にはラインが入っていなかったりと、細部の違いはあるけれど、全体としては鞠莉ちゃんが着ていたものとほとんど同じ作りと言っていい。
サイズもちょうど良さそうだし、服自体にはなんの問題もない。
問題なのは、私の心の方だ。
0006名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:14:46.92ID:Sz9ZTITW
曜「どうしよう…そもそも、鞠莉ちゃんだから着こなせるんであって、私が着ても似合わないんじゃないかな…サイズ的には良くたって、似合うかそうじゃないかは別問題だし…」
そんなことまで考え始めると、袖を通す勇気がどうしても湧いてこなかった。
曜「優柔不断って言うか、なんて言うか…」
鏡に映る私が、静かにため息をついた。
0009名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:26:45.24ID:Sz9ZTITW
私がこの服を買ってしまったのは、実はもう一つの理由があった。今度の日曜日、二人で遊びに行く予定になっていたからだ。
その日を楽しみにする中で、偶然見たこのお揃いの服が、頭の中でどういうわけか繋がってしまったんだと思う。
それだけ私がわくわく気分で楽しみにしていたということなんだろうし、だからこそ実物を前にするまで、その後のことに思い至らなかったんだ…という分析はできる。
曜「そんなことわかったからって、ね…」
でも、悩みの種には効果なしみたいだった。
服を畳み直してから、私はベッドに寝転んで天井を見る。
曜「どうしようかな…」
横になると、心の中にある行き場のないモヤモヤが、まるで質量を持っているかのように感じられた。
0010名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:28:05.45ID:Sz9ZTITW
鞠莉ちゃんと出かける前日――つまり今日は、千歌ちゃんと梨子ちゃんが私の家に遊びに来ることになっていた。
最近は3人のうちの誰かの家に集まって、スクールアイドルのアイデアを出し合ったり、宿題をしたり、楽しくおしゃべりをして過ごす事が多い。そのままお泊まり会をしちゃうことだってあるんだ。
この時ばかりは服の悩みを一旦忘れて、3人で存分に楽しもうと思っていたんだけど。
千歌「あれ。曜ちゃん、これ新しい服?」
うん。どうしてこう、折悪く見つかっちゃうのかな。まあ、見えるようなところに掛けておいた私が悪いんだけど…
興味津々といった千歌ちゃんの顔。でも、鞠莉ちゃんとお揃いのものだって気付かれなければ大丈夫だよね。
0011名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:28:30.19ID:Sz9ZTITW
千歌「んー?なんだろう、新しい割には、どこかで見覚えがあるような…」
梨子「あっ。この服、前に鞠莉ちゃんが着てたのとそっくり」
うっ、早速バレてる。
千歌「おおっ、そう言えば!いやはや、鞠莉ちゃんとお揃いなんて、曜ちゃんもスミには置けませんなぁ。のぅ、梨子ちゃん」
梨子「千歌ちゃん、キャラがおかしい…いや、普段どおりかな。ん、曜ちゃん、どうかしたの?さっきから静かだし、難しい顔してるけど」
曜「な、なんでもないよ、梨子ちゃん、あははは」
乾いた笑いで取り繕う。これは良くない…二人が気付いたってことは、鞠莉ちゃんも気付くってことだよね、間違いなく。
奥底に閉じ込めていたはずの不安がじわじわと復活してきて、頭と心に纏わり付いていく。
0012名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:29:05.26ID:Sz9ZTITW
梨子「でもお揃いかぁ。千歌ちゃんじゃないけど、なかなかやるね、曜ちゃん。明日は鞠莉ちゃんと遊びに行くって言ってたもんね」
千歌「曜ちゃんお揃いとか意外と好きだからねー。衣装も私とお揃いのとかあったりするし。ね、曜ちゃん…曜ちゃん?」
二人の楽しげなやりとりも、霞がかった頭にはぜんぜん入っていかない。視線が下へと下がっていく。
梨子「曜ちゃん、どうかしたの?」
曜「やっぱり…変なのかな。おかしいのかな、こういうのって…」
不安の一部が言葉として漏れ出る。それは楽しげな会話を停止させるには充分なほど重く、沈んでいた。けど、私にはそのことに気付ける余裕は残っていなかった。
梨子「曜、ちゃん…?」
0013名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:29:15.45ID:Sz9ZTITW
梨子ちゃんの心配する声が耳に届き、ようやく事態を察する。同時に浮かび上がってくるのは「やってしまった」という後悔だ。
時すでに遅く、沈黙が部屋中に行き渡っていた。うつむく私には二人の様子はわからないけど、きっと困らせてしまっているに違いない。
曜「ごめん、ね…」
二人に対する申し訳無さが膨らんでいく。私が妙なことを考えなければ、一人で舞い上がって服を買ったりしなければ、こんな気まずさを感じさせずに済んだのに…
曜「ごめん…本当にごめ――」
千歌「――えっと、なにが?」
息がつまるような空気を破ったのは、あまりにも普段通りな千歌ちゃんの声だった。
0014名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:30:02.84ID:Sz9ZTITW
曜「え…」
思わず顔を上げて千歌ちゃんの顔を見る。声だけじゃなくて、表情も雰囲気も、全くいつも通りの千歌ちゃんだった。
千歌「曜ちゃん、変とかおかしいとか言ったけど…何が変なのかなって」
千歌ちゃんの言葉に梨子ちゃんも頷いている。状況の整理が追いつかない私は、そんな二人を前に先程とは違う種類の困惑を浮かべていた。
千歌「えっとね。確認なんだけど、この服は鞠莉ちゃんとお揃いのものが欲しかったから買った、でいいんだよね?」
そんな私に、千歌ちゃんはゆっくりと、何かを諭すように話し始めた。私はこくりと頷いた。
0015名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:30:23.01ID:Sz9ZTITW
千歌「で、お揃いが良かったのは、曜ちゃんが鞠莉ちゃんともっと近づきたい、仲良くなりたいって思ってるってことでしょ?」
曜「う、うん…」
千歌「だよね。なら、それって自然なことだよね。おかしくなんかないと思うよ」
曜「え…本当、に…?」
千歌ちゃんの言葉に心が揺れ動く。自然体で話す千歌ちゃんは、同情や気休めを言っているようには思えなかった。
私が次の言葉を待っていると、今度は梨子ちゃんが口を開いた。
梨子「うん、素敵なことだと思うよ。覚えてる?私が東京にピアノのコンクールに行かせてもらったとき、みんなにお揃いのシュシュを贈ったこと」
曜「もちろん、覚えてる。忘れないよ」
鞠莉ちゃんの言う「嫉妬ファイヤー事件」の時だ。
0016名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:30:52.12ID:Sz9ZTITW
千歌ちゃんと梨子ちゃんに――いや、自分自身に対してモヤモヤしていた私を、鞠莉ちゃんが見つけ出してくれて。
鞠莉『ぶっちゃけトーク!する場ですよ?ここは』
誰にも言えなかった悩みを聞いてくれて、優しく背中を押してくれて…
そのおかげで、千歌ちゃんと梨子ちゃんのことをもっと好きになれて、不器用な自分さえも受け止められるようになったんだ。
そして、迷っていた私を助けてくれたもう一つの大切なものが、梨子ちゃんがくれたお揃いのシュシュ。
今でも体と心が覚えている。同じ時間、違う場所でステージに立つ私たちを、お揃いのシュシュが通じ合わせてくれたような、あの不思議な感覚を。
曜「私たちは、Aqoursは、たとえ離れていてもみんな一緒なんだって、そう感じさせてくれたんだ」
0017名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:31:17.30ID:Sz9ZTITW
梨子「それと同じだよ。仲良くなりたいとか、大切に想う気持ちを、遠慮したり恥ずかしがることなんかないんだよ」
千歌「そうそう、思い切ってやっちゃえばいいんだよ!」
曜「二人とも…!」
視界が少し潤んでいく。それも同時に、胸の奥に置かれた不安の塊が、じんわりと溶け出していくのがわかった。
千歌「色々気にしちゃう気持ちはわかるよ。曜ちゃん、結構恥ずかしがり屋さんだし。でも、鞠莉ちゃんならきっと心配ないよ」
梨子「私もそう思うな」
優しく励ましてくれるけど、その点はどうしても自信が持てない。
曜「そう、かな…確かに、楽しいこと好きの鞠莉ちゃんなら、笑って許してくれるかもって、都合よく考えちゃったこともあるけど…」
この服を見て、鞠莉ちゃんはどう思うだろうか…
0018名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:31:37.90ID:Sz9ZTITW
千歌「あー。それもわかるけど、そういう性格面のことだけじゃないと思うんだよね」
曜「えっ?」
千歌「なんて言うか、その、距離を縮めたがってるのは曜ちゃんだけじゃないっていうか。ねぇ、梨子ちゃん?」
梨子「ふふっ、私に振らないでよ」
曜「ん、ん…?」
話が少し飛躍した気がする。なんのことを言っているんだろう。二人の様子を見る限り、悪いことではなさそうだけど。
曜「ええっと、もしかして、何か心当たりとか…」
0019名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:31:58.64ID:Sz9ZTITW
梨子「あっ、そうだ!」
そのことを尋ねようとした矢先、梨子ちゃんはぽんっと手を叩いてから――
梨子「曜ちゃん。せっかくだからこの服、着てみたらどうかな?」
曜「…えっ?」
予想外の方向に会話の舵を切った。
千歌「あっ、それ良い!」
梨子ちゃんの突然の提案に、千歌ちゃんは目をキラキラと輝かせている。これは話に乗っかる気満々だ。
千歌「着てみせてよ、曜ちゃんのおニュー服!」
曜「おニューって…えっと、実はまだ一度も着てなくて…」
0020名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:32:27.66ID:Sz9ZTITW
梨子「えっ、明日着るつもりだったんでしょ?」
曜「や、そこはまだどうしようかなって思ってるけど…」
千歌「なら、なおさら着てみなきゃだよ!実際に試してみないことには、似合うかどうかもわからないもん」
梨子「そうそう」
千歌「よーし、そうと決まれば試着会だー!」
曜「うええっ!?」
二人の、いや、主に千歌ちゃんの勢いに押されるがまま、あれよあれよという間に話が進んでいく。
0021名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:32:46.44ID:Sz9ZTITW
千歌「ほらほら、モデルさんは早く着替えて着替えて!」
曜「で、でも、明日着るって決めたわけじゃないし」
千歌「その判断をするためにも、まずは着てみなきゃだよ。ほらっ」
曜「それは、そうかもしれないけど…」
千歌「もうっ、何をそんなに迷ってるの。曜ちゃん、ここは素直に着替えた方がいいと思うよ?」
曜「えっ?」
私が態度を決められずにいると、千歌ちゃんの口調が突然悪戯っぽくなり、何かを企んでいるかのような表情に変わる。
0022名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:32:59.62ID:Sz9ZTITW
千歌「曜ちゃんがどうしても着替えないと言うのなら…」
曜「言うのなら…?」
千歌「…実力行使だよ!」
曜「じ、実力行使…!?いったい、何を…!」
不敵に笑う千歌ちゃんに、思わず後ずさる。
千歌「ふっふっふっ…梨子ちゃん」
梨子「えっ」
千歌「続きはよろしく」
梨子「ちょっと!ここまで話を盛り上げておいて、どうしていきなり私に振るの!?」
キラーパスに戸惑うのは、今度は梨子ちゃんの番だった。
0023名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:34:55.77ID:Sz9ZTITW
千歌「だって、梨子ちゃん結構パワフルなところあるでしょ?宿題とか、作詞のこととかになると特に」
梨子「全然パワフルじゃないっ!私が注意するのは、千歌ちゃんがちゃんとやってこないからで」
千歌「えー、私にはいつも厳しいのに、曜ちゃんにはないの?そういう感じのやつ」
梨子「厳しくない!それに、今はそんな雰囲気じゃないでしょ、状況を考えてよ!」
千歌「考えてるよー。考えてるからこそ、先生っ、お願いします」
梨子「お願いしない!あと先生じゃないから!」
曜「ふ、ふふふっ…あははははっ!」
目の前で繰り広げられる絶妙な掛け合いがおかしくて、私は堪えられずに吹き出してしまった。
0024名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:35:22.00ID:Sz9ZTITW
梨子「曜ちゃん」
千歌「えへへっ、やっと笑ってくれたね、曜ちゃん!」
笑いと一緒に、心の中にあった悩みと迷いも、体の外に出て行ってくれたみたい。気持ちがふわっと軽くなる。
本当に、かなわないや、二人には。
曜「わかった、わかったよ、降参する。着るから実力行使は勘弁して」
千歌「うむうむ、わかってくれればそれでよいのだ」
曜「梨子ちゃんの手を煩わせるわけにはいかないもんね?」
千歌「そのとーり!」
梨子「曜ちゃんまで!もうっ、千歌ちゃーんっ!」
私と千歌ちゃんの笑い声が、部屋に響いた。
0025名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:35:47.88ID:Sz9ZTITW
――――――――――
曜「お待たせ。ど、どうかな?」
私が着替えている間、後ろを向いていてくれた二人に、少し緊張ぎみに声を掛ける。
千歌「わあっ、すごくいい感じ!」
梨子「うんっ。曜ちゃん、とっても似合ってるよ」
待ってましたとばかりの二人のリアクション。似合ってるって言ってもらえるのは素直に嬉しいけど、視線が集中するのは少し面映ゆい。
千歌ちゃんの言ったとおり、実際に着てみることで気付ける事は多い。イメージと実践とでは大きな差があるんだ。衣装係としては、基本中の基本のことなのにね。
曜「でも、なんて言うか…」
梨子「お揃いだって意識すると、ちょっと恥ずかしい?」
曜「う、うん…」
0026名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:36:06.89ID:Sz9ZTITW
そのわかったことの一つが、いま梨子ちゃんが指摘してくれた『気恥ずかしさ』だ。これは二人が注目しているから感じるものではなくて、やはり私自身の問題なんだと思う。
千歌「んー。ならさ、こういうのはどうかな」
千歌ちゃんはポールに掛かっていた私のキャップを取ってきて。
千歌「ほいっと」
曜「わっ」
私の頭にポスッと被せた。
曜「えっと、千歌ちゃん、これって…」
千歌「んふふー。曜ちゃん、鏡見て」
曜「え?う、うん…」
おろしたての赤い服に、普段使いの黄色いキャップ。色も系統も違いすぎるから、さすがに不釣り合いじゃないかなと思ったけど。
0027名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:36:34.41ID:Sz9ZTITW
曜「わぁ…!」
鏡を覗き込んで、私は感嘆の声を上げた。アンバランスに思えた組み合わせだけど、いざ目にすると驚くほど自然にマッチしていた。
千歌「どうかな。より曜ちゃんっぽくなったでしょ?」
梨子「うん!もとの可愛らしさを残しつつ、スポーティな曜ちゃんらしいアレンジに仕上がってる。流石のセンスね、千歌ちゃん」
梨子ちゃんが、自分のことのように喜んでくれている。
千歌「えへへ、そうでしょそうでしょ!」
千歌ちゃんは、にぱっと満足げな笑顔をたたえている。
曜「えへへっ…ありがとう、二人とも!」
そんな二人に囲まれて、私もやっと心から笑顔になることができたんだ。
0028名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:37:17.03ID:Sz9ZTITW
千歌「えへへっ、このくらいはお手伝いするよ。なんと言っても、明日はせっかくのデートなんだから」
曜「で、でーと!?」
今日の千歌ちゃんは絶好調みたい。放たれたキラーパスに過剰に反応する私に対し、千歌ちゃんと梨子ちゃんはちらりと目配せして。
千歌「二人でお出掛けするんだから、これはもうデートでしょ。ねー、梨子ちゃん」
梨子「ねー、千歌ちゃん」
千歌「梨子ちゃんまで!?いや、なにか期待してるみたいだけど違うよ?違うからね」
気付けばまたもや2対1。っていうか、今日はこのパターン多くない?
0029名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:37:41.27ID:Sz9ZTITW
千歌「やっぱり曜ちゃんは可愛いなぁ」
曜「か、かわいくなんか」
千歌「照れてる照れてる」
曜「照れてないっ!」
梨子「そうだ、写真も撮ろうよ。今日という日と、照れてる曜ちゃんの記念に」
曜「ええっ!?」
千歌「さすが先生、名案です!じゃあ試着会改め、撮影会開始ーっ!」
曜「ちょ、やめてよ。だから照れてないし、デートとも違うから!違うって、違うんだってばー!」
二人は息の合った抜群のコンビネーションで私を翻弄しながら、明るく楽しく元気付けてくれた。
0030名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:38:03.42ID:Sz9ZTITW
……………………………………
そして訪れた、鞠莉ちゃんとのデート…もとい、遊びに行く当日。
憧れを込めた赤い服に身を包んだ私は、一足早く着いた待ち合わせ場所で、少しそわそわしながら鞠莉ちゃんが来るのを待っていた。
約束より30分も早く待ち合わせ場所に来てしまったのは、緊張していたからじゃない。心の底から楽しみで、はやる気持ちを抑えられなかったからだ。
もちろん、ドキドキが全く無いと言えば嘘になるけど、ワクワクした気持ちの方が強いことに変わりはない。
今朝は1時間も早く目が覚めてしまったんだけど、機能は安心して眠れたおかげで、気分も頭も最高にすっきりしている。
それもこれも、千歌ちゃんと梨子ちゃんが背中を押してくれたおかげだ。
0031名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:38:39.44ID:Sz9ZTITW
昨日二人と話をしていなかったら、心の迷いを聞いてもらわなかったら、一体どんな気持ちで今日この時を迎えていたんだろう。
私のことだから、きっと直前まで迷い倒した挙句、土壇場で普段の服を選んでこの場に立っていたはずだ。モヤモヤした気持ちを抱えたままで…
曜「ありがとう。千歌ちゃん、梨子ちゃん」
胸の奥がじんと暖かくなる。感謝の気持ちを言葉にするだけで、こんなにも心強くなれるんだね。
鞠莉「曜」
曜「!」
後ろから私を呼ぶ声に、くるっと振り返る。
0032名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:39:22.49ID:Sz9ZTITW
曜「鞠莉ちゃん!」
鞠莉「お待たせ。あら…」
鞠莉ちゃんは私を見て軽く驚いているみたい。きっと気付いてくれたんだと思う。
鞠莉「その服って、もしかして?」
曜「えへへっ、真似しちゃった!どうかな?」
元気いっぱいの、少しはにかんだ私の言葉に、鞠莉ちゃんは優しい笑顔で応えてくれた。
終わり
0033名無しで叶える物語(らっかせい)2019/08/07(水) 20:39:43.68ID:Sz9ZTITW
おつです
そういえばピンク無くなったから撃ち尽くすニキのタグも消えたのか
おつです
毎回素晴らしいようまりありがとうございます
おぉ‥尊さと甘酸っぱさが溢れてる!
ありがてぇありがてぇ
0038名無しで叶える物語(とばーがー)2019/08/07(水) 22:44:35.10ID:b/3pb4Er
ちかりこの後押しが今回の肝だなあ、って。
千歌ちゃんのにぱーって笑う描写がとても好き。
毎度乙乙
0040名無しで叶える物語(こんにゃく)2019/08/08(木) 05:33:43.55ID:5A4Ns04k
今までの撃ち尽くしたマガジンも教えてくれ、教えてください
おぉ〜話に出てくる服の元ネタあったのね、すごい
今回も良かった
乙です
全弾撃ち尽くす人か、今回も素晴らしかった
お揃い服気づくのもこれ書いてしまうのも凄い
ピンクなくなったからパッとわからんけどかなりの数書いてるよね
読んでいただきありがとうございます。
今回が45作目のようまりでした。
過去作については数が多いので、あとがきにある前作リンクを遡っていくか、タイトルを検索するとヒットすると思います。
お時間のある時にでもご覧いただけますと嬉しいです。
重ねてお礼申し上げます、読んでいただきありがとうございました。
45作……!すごい
貴方のSSをこれからも楽しみに待ってます
今回も良いようまりだった
鞠莉の登場シーン少ないのにちゃんとようまりしてる感じ凄い好き