来年1月の通常国会召集を前に岸田文雄首相が下した決断は、秋葉賢也復興相と杉田水脈(みお)総務政務官の更迭だった。窮地に陥った政権を浮上させようと、首相は一時、内閣改造など大胆な人事を模索したものの、理解が広がらず、反発を押し切ってまで断行するには至らなかった。約2カ月で4人目となる閣僚交代に、政府、与党内では「岸田離れ」が加速している。

 仕事納めを翌日に控えた27日の官邸。首相は記者団の前で「辞任したいとの申し出があり、認めることにした」と切り出した。10月24日の山際大志郎前経済再生担当相を皮切りに、葉梨康弘前法相、寺田稔前総務相と続いた「辞任ドミノ」の際にも口にし、もはやお決まりとなった文言だ。

 実態は異なる。前日には首相が与党幹部に「交代」を告げていたにもかかわらず、秋葉氏は27日、辞意を固めた時期を「直前。今朝も会議を開いた」と説明。図らずも、首相サイドに促されて辞表を提出したことを露呈する事態となった。

 そもそも首相は秋葉氏の更迭だけにとどまらず、早くから「誰も想定していない人事」(岸田派関係者)を温めていた節がある。

 10日に臨時国会が閉会した後、官邸内では来年の通常国会を見据え、秋葉氏の「辞任は不可避」との論調が強まった。ちょうど、パーティー収入を政治資金収支報告書に少なく記載した疑惑を巡り、自民党の薗浦健太郎氏に進退問題が浮上していた時期。「また『政治とカネ』を蒸し返されたら、国会審議が立ちゆかなくなる」。危機感を募らせた官邸幹部は、さらなる辞任ドミノを嫌がる首相に、「内閣改造なら更迭色を薄められますよ」と進言した。

 折しも、首相が表明した防衛費増額のための増税方針に、党内最大派閥の安倍派をはじめ、公然と火の手が上がったタイミングとも重なった。官邸中枢では、首相にたんかを切って閣内不一致を印象付けた閣僚の交代論まで持ち上がった。

 20日、自民党本部を訪れた首相は麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長と3人で向き合い、こう問いかけた。「内閣改造という声もありますね」。だが、麻生氏らの返事はつれなかったという。「内閣改造で政権が上向いた例は聞かない。むしろ、弱まるのが世の常だ」

 自民関係者によると、麻生、茂木両氏は以前から、国民民主党との連立構想を練ってきた経緯があり、「サプライズで内閣改造するなら、国民との連立もセットじゃなきゃ意味がない」との思いがあったという。

 大幅に入れ替えた新閣僚にひとたび不祥事が持ち上がれば元も子もない。安倍派や増税反対派を敵に回して、政権運営が一気に不安定化することへの懸念も強かった。結局、与党・公明党への根回しも手つかずだった首相は、内閣改造案を引っ込めるしかなかった。

 「ますます支持率は落ちる。決断がいつも遅い」。首相の対応には、自民党執行部からも不満が漏れる。萩生田光一政調会長は25日のテレビ番組で、首相の専権事項である「解散権」にまで踏み込み、増税をけん制する姿勢を見せた。

 年内に不安要素を一掃しようとした今回の更迭劇だが、首相に対する遠心力が弱まる気配がないまま、政権は年を越そうとしている。 (河合仁志、黒石規之)

西日本新聞
12/28(水) 14:15配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/cedd92cca55b81f9977a665a072d813dffd01340