■北大の研究辞退、その経緯

国家基本問題研究所に投稿された「学術会議こそ学問の自由を守れ」という記事の中で言及されていた出来事とは、どんなものだったのか。

北海道大は2018年3月、2016年から防衛省の研究推進制度によって2300万円以上の資金的支援を受けていた工学研究院の教授のチームによる研究に関し、2018年度の資金を辞退した。

NHKは当時、北大が「日本学術会議の声明も踏まえて大学の姿勢を検討した結果、軍事研究に関わるべきではないと判断した」と説明したと報じている。

日本学術会議が示した声明とは、2017年3月24日に発表した「軍事的安全保障研究に関する声明」だ。

日本学術会議が1949年に創設され、1950年に「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明を、また1967年には同じ文言を含む「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を発した背景には、科学者コミュニティの戦争協力への反省と、再び同様の事態が生じることへの懸念があった。

近年、再び学術と軍事が接近しつつある中、われわれは、大学等の研究機関における軍事的安全保障研究、すなわち、軍事的な手段による国家の安全保障にかかわる研究が、学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にあることをここに確認し、上記2つの声明を継承する。

(「軍事的安全保障研究に関する声明」、2017年3月24日)

の声明では、「戦争(攻撃)を目的とする研究は絶対に行わない」とする過去の声明を引き継いでいる。しかし、軍事的安全保障(防衛)研究については、全面的にやめるよう各大学に求めているわけではない。

日本学術会議は軍事的安全保障研究を行うことのリスクを示し、政府による介入が強まりかねないとした上で、「その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきである」とし、「学協会等において、それぞれの学術分野の性格に応じて、ガイドライン等を設定することも求められる」とまとめている。

声明は、大学や学会・協会側に、その妥当性などを審査する制度やガイドラインを設定することを求めている。

■北大「学術会議関係者が総長に面談した記録はない」

決断の背景に、この声明の存在があることは間違いなさそうだ。では、決断に学術会議の「圧力」はあったのか。

国家基本問題研究所の記事では当初、「学術会議幹部が北大総長室に押しかけた」として、学術会議が直接、北大に圧力を掛けたとしていた。

北大広報課の担当者はBuzzFeed Newsの取材に、「押しかけたという報道を受けて、当時の総長の面談記録を確認したが、日本学術会議関係者の方が総長に面談されている記録はなかった」と、こうした情報を改めて否定した。

そのうえで、「学術会議関係者となると、さすがにアポイントなしに、記録を残さず総長と面談されることはないのでは」と担当者は語った。

国基研が自ら訂正した通り、日本学術会議の幹部が北大に「押しかけた」という事実は、やはり存在しない。

一方でこの部分を訂正した記事では「学術会議からの事実上の圧力」があったとされている。これについてはどうか。

北大の広報担当者は、防衛省からの資金辞退の経緯について、「北大としては2017年3月24日に出された声明を受け、2018年3月の更新のタイミングで声明を尊重し、研究の更新を行わなかった」と説明した。あくまで学内の自主的な判断ということだ。

「軍事的安全保障研究に関する声明」を出した当時、日本学術会議の会長だった大西隆・東京大名誉教授はBuzzFeed Newsの取材に「圧力をかけるというのはあり得ない。そのような権限もない。声明、報告を出し大学に判断していただくというのが学術会議の立場です」と語る。

北大が防衛省からの資金を更新しないと決めた経緯について、「学術会議の声明なり報告を、北大が何らかの参考にされたということはあり得る」とした上で、「あくまで北大の判断」とした。