9月下旬に予定される自民党総裁選を控え、安倍晋三首相が三選を目指し、「石破潰し」に向けてなりふり構わず動き始めた。月刊文藝春秋の名物連載で、毎月、政界の動きを取材し続けている「赤坂太郎」のインサイド・リポートを、8月10日発売の文藝春秋9月号から特別に転載する。

 連続三選を目指す安倍晋三首相と石破茂元幹事長による自民党総裁レースは、一騎打ちへと雪崩れ込んだ。

 もはや戦いの焦点は、安倍がどれぐらい石破を圧倒するのか、あるいは石破がどれだけ善戦できるかという「安倍の勝ち具合」に移っている。麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官、二階俊博幹事長ら政権の骨格が三選後にどう変わるか。すでに具体的な人事情報が口の端に登り始めている。

 両者激突の構図が固まったのは、岸田文雄政調会長が3年前の総裁選に続いて立候補見送りを決め、安倍支持を表明した7月24日の午後のこと。

「自分の思うことをきちんと申し述べてご審判を仰ぐという方針に何ら変わりはない」。石破は岸田の不出馬を受けて記者団にこう語り、安倍に挑戦する考えを鮮明にした。

 その直前の昼前、東京・紀尾井町のホテルニューオータニ宴会場「edo ROOM」。安倍は東京都議会有志の会で、「総裁選では憲法改正が争点となる。憲法改正のためには発議する国会でも、国民の皆さんにもご理解いただかなければならない」と述べ、事実上の出馬表明と受け止められた。

 安倍にしてみれば、やや“遅きに失した”感の否めない岸田不出馬だが、この流れは自らが引き寄せたものと自負している。ひと月余り前の6月18日夜、東京・赤坂の日本料理店「古母里」で岸田とサシで会食した安倍は、究極の一手を打っていたからだ。

「私が今こうしてあるのは官房副長官、幹事長、官房長官と小泉さんの政権中枢を経験させてもらったおかげです」。総理総裁を目指すのなら政権中枢、今の岸田にとっては幹事長を経験しておくべきだ――。言い方は婉曲的だが、ポストによる露骨な籠絡だ。

 御公家集団と呼ばれる宏池会の嫡流で、政治センスのなさでは定評のある岸田のこと。彼はこの時、安倍の言葉の含意が分からず、特段の反応を見せなかった。それどころか岸田が返した言葉はピント外れのものだった。

「私は派閥会長と言ってもまだ派内を掌握できておらず、皆の意見を無視できないんです。私が『総裁選に出て負けて宏池会が干されたら中堅や若手が困るだろう』と言っても『構わない』という声が多いんですよ」。あまつさえ「どうしたらいいでしょう」と泣きを入れ、安倍を呆れさせた。

 絵に描いたような岸田の優柔不断さゆえに密約成立とはならなかった。だが、この時「岸田に戦闘意志なし」と踏んだ安倍は一手を打つ。声をかけたのは若手時代からの「お友達」である岸田派の根本匠筆頭副会長や非戦論の急先鋒である望月義夫事務総長。彼らを使い、「総理の座は勝ち取るべし」と主戦論を唱える林芳正座長ら一部のベテラン、中堅、若手を抑えて、岸田を撤退に追い込んだのだ。

■竹下派切り崩しの秘技

 岸田と並ぶ安倍の次なる攻略対象は竹下派だった。今春、額賀福志郎に代わって派閥会長に就任した竹下亘は、「安倍さんが引き続き総理になるか。『はい、その通り』とは即答しかねる」と漏らしていたからだ。

 派閥創設者の竹下登の異母弟でNHK記者から政治家に転じた亘が、逆らえない人物がいる。兄の秘書を長く務めた後、地元島根選出の参院議員に転じ、かつて参院自民党の「ドン」と恐れられた青木幹雄だ。青木は自らの直系である今の参院自民党最大の実力者、吉田博美参院幹事長・竹下派会長代行を通じて派閥運営を左右する。

 そもそも亘が額賀の後の派閥会長になれたのも、青木が吉田ら参院側を使って額賀に引導を渡したからだ。亘は一定の数を持ちながら、あえて総裁選の支持を明確にしない、あいまい戦術をとった。それも、狐と狸の化かし合いのような旧い永田町の駆け引きにたけた青木の意向に沿ったものだった。


つづく

文春オンライン
8/10(金) 7:00配信
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180810-00008594-bunshun-pol