>>179
総長のムタマ率いる暴走族・暴団子(あばだんご)は新宿十二社を蛇行していた。
都内最強無情殺人集団を標榜する総勢100名、単車50台の大集団は新宿の夜に爆音を響かせた。
仲間達の奏でる排気音は先頭を走るムタマの背中を押した。自分の前には仲間はいない。だが後ろには自分を慕う者が確かにいることを感じられた。ムタマは先頭に立つことが好きだった。
背後の音が小さくなったのに気づいたのは走り出して一時間後だった。少しずつ、音が消えていく。
振り返る度に仲間のバイクが少なくなっていた。ムタマは恐ろしくて止まることができず、走り続けた。
やがて自分の単車以外の音が全て消えた。ムタマは前だけ見据えてアクセルを全開にした。
背後からねっちょりと湿った気配が近づいてくる。
聞いたことがある。ここらは夜中に走る肛門が現れると。
臭気がムタマの鼻をついた。次の瞬間、ムタマは頭から肛門に飲み込まれた。
あとには新宿の路上に、ドライバーを失い横転したバイクが転々と並んでいた。さながらヘンゼルとグレーテルのようであった。だかその先頭にはもはやムタマはいない。