〜部室〜
曜「……」
曜(ち、千歌ちゃん……?)
梨子「千歌ちゃん、どうしたの急に?」
千歌「だってさだってさ!!芸能人とか見てるとさ、カッコイイ名字の人って多くない?いいなぁ〜!私も普通の名字じゃなくて、珍しい名字だったらも〜っと注目してもらえたかもしれないのに!!」
梨子「う、う〜ん、そうなのかなぁ……?」
千歌「善子ちゃん!!善子ちゃんならチカの意見わかってくれるよね!!?」
善子「わ、私!!?そ、そうね……」
花丸「確かに善子ちゃんの名字が『小林』とかになっちゃってたなら、どこにでもいる普通の人みたいになっちゃってたずらね」
善子「そうね。小林善子なんて、いかにもモブキャラでありそうな名前……って善子いうなぁ!!!ヨハネだってばぁ!!!」
曜「ううっ、さむ……」ガクガク
海未「ほら、曜?ちゃんとタオルで全身拭いておかないと、本当に風邪をひいてしまいますよ?」フキフキ
曜「ううっ、わかってるってばぁ……」ポフポフ
曜「……海未ちゃん、毎日こんなことしてるの?」
海未「はい、もちろんです」
曜「冬も……?」
海未「ええ。基本的には毎日です」
曜「そ、そうなんだ……」
曜(やっぱり、家元への道って、険しいんだなぁ……)
———
海未「さて、朝食が済んだので次は稽古場の掃除をします」
曜「掃除って、私も?」
海未「当たり前です。環境の汚れは心の汚れ。生活環境を見直すことが心身の成長へと繋がるのですよ、曜」
曜「な、なるほど……」
海未「さて、では私はこちらの方を担当しますので、曜は……そうですね、廊下の方を主に綺麗にして頂きましょうか」
曜「廊下ね、わかった!」
海未「用具はあそこの物置に閉まってありますので遠慮なく使ってください。何かわからないことがあれば私に聞くように、いいですね?」
曜「了解であります!!」ビシッ!
曜「〜♪」
曜(廊下のお掃除か〜、まずは……)
曜「……あれ?」
曜「……」
曜「……ねえ、海未ちゃん」
海未「はい。どうかしたのですか?」
曜「もしかして海未ちゃん……私に雑巾がけさせようとしてる?」
海未「はい、もちろんです」
曜「……本当に言ってる?」
海未「私が冗談を言う人間に見えるのですか?」
曜「……」
海未「……?」
曜「……私、朝も水浴びしたんだけど」
海未「それとこれとは別問題です」
曜「え〜、でも〜……」
海未「いいですか、曜。今日何のためにここに来たのかをもう一度思い出して下さい」
曜「え?何のためって……」
曜(それはもちろん、千歌ちゃんのため
海未「スクールアイドルとして一つ成長するためでしょう?これはそのための訓練なのです」
曜「くん、れん……?」
海未「ええ。先程も少し言いましたが、掃除とは自分の心を磨き上げること。掃除を通じて内なる自分自身と向き合い、己の内面を磨いていくことに掃除の意義があるのですよ、曜。そのための雑巾がけです」
曜「……」
海未「さぁ、私も手伝いますので、一緒に板の間をぴかぴかに磨き上げていきましょう!」
曜「う、うん……」
0031名無しで叶える物語(らっかせい)2020/11/09(月) 19:42:40.50ID:klTBYT+J
星空家に来いにゃ
曜「……」
曜(ううっ、雑巾がけなんてするの、小学校以来だよ……)
曜「……ひゃっ!」
曜(ち、ちめたい……)
海未「曜、集中してください!己の神髄と向き合うことで冷たさなど微塵も感じられなくなるのですよ!!」
曜「う、うん……」
曜「……」フキフキ
曜(自分と、向き合う……)
曜「……」
曜(……そう言えば前に千歌ちゃんも、旅館の雑巾がけしてるって言ってたっけ)
曜(そっか、旅館だもんね。千歌ちゃんも大変だなぁ……)
曜「……!!」ピタッ!
曜(待って、ということは私も将来千歌ちゃんと結婚するわけだし、掃除のスキル身に着けた方がいいってことだよね?)
曜(だって、もし結婚した後に実は雑巾がけもまともに出来ませんでした、ってことがバレちゃったら……)
ポワポワポワーン
………
…
志満『曜ちゃん?』
フーッ!
志満『ここまだホコリ残ってるわよ?』
曜『ふえっ!?す、すみません!!』
志満『曜ちゃん、お掃除もちゃんとできないの?そんなんじゃ千歌ちゃんはあげられないわよ?』
曜『そ、そんなぁ……』
千歌『え〜、曜ちゃんってお掃除も出来ないの〜?じゃあ私、梨子ちゃんと結婚することにするね!!』
曜『ううっ、あまりにもつらすぎるでよーそろー……』シクシク
曜「……」
曜(……そんなんじゃ志満姉に『千歌ちゃんを下さい』って言っても断られちゃうよね、きっと)
曜「……」フキフキ
曜(よし、決めた!!)
曜「………海未ちゃん!!!」
海未「わああっ!!?曜!!?急に大声を出さないでください!!!」
曜「私、頑張る!!もっと本気で向き合うよ、自分と!!」
曜「だから海未ちゃん、もっと私に色々教えて!!お掃除とかお料理とか!!私、立派なお嫁さんになれるように頑張るよ!!」
海未「そ、そうですか……それは誠に殊勝な心掛けだとは思いますが……」
曜「よ〜し!!じゃあまずはこの廊下を一面ぴかぴかにしちゃうよ〜!そ〜れっ!!」てててっ!
海未「え、ええ。頑張りましょうね、曜……」
曜「〜♪」
海未「……?」
———
曜「はい、拭き掃除も終わり!!次は何やるの?」
海未「……」
曜「早く早く!!今の私にならなんだってできる気がするよっ!!」
海未「……そうですね。私も少し曜のことを甘く見ていた節もありましたし」
海未「曜、本当はここで心を折って諦めさせるという算段だったのですが……いいでしょう。特別に稽古をつけて差し上げます」
曜「ほんとに?わ〜い!!ありがと海未ちゃん!!」
海未「まずは着物での立ち方からです」
曜「立ち方?ただ立つだけじゃダメなの?」
海未「ええ。和服を着ている以上常に見られているということを意識する必要があるのですよ、曜」
曜「なるほど……じゃあ旅館の仲居さんとかもおんなじってこと?」
海未「はい、もちろんです」
曜「だったら俄然燃えてきちゃったよ!よ〜し!頑張るぞっ!!」
0038名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/11/09(月) 19:46:07.61ID:90TPj1fW
今賀斎 曜ってのはどうだ?
海未「まずは胸を張る」
曜「こ、こう……?」
海未「そして肩を後ろに落としてください」
曜「こ、こうかな……?」
海未「あごは引く、顔はあげる」
曜「は、はい……」
海未「いい感じです。ではまずはそれで少しキープしてみましょうか?」
曜「う、ううっ……」プルプル
曜(思ってたより、キツイ……これ、私結婚したらずっと気を付けてなくちゃいけないのかな……?)
海未「それが出来たら次は座る時の作法を勉強しましょうか」
海未「いいですか、まずは私に習ってやってみてください」
曜「よ、よーそろー……」プルプル
海未「まずは左足を引き、左足のつま先を立てます」スーッ
海未「そこから左ひざを床につけ、上体を真っ直ぐのまま下ろしましょう」
曜「こ、こうですか……?」
海未「右足も同じように下ろしていき、最後に親指同士が重なるように正座をすれば、着座の完成です」
曜「は、はひ……」
海未「曜!上体が前かがみになっていますよ!それでは着物が着崩れてしまいます!!」
曜「わああっ!!?ご、ごめんなさい!!」
海未「あごは引く!視線は真っ直ぐ!!」
海未「両ひざの間は軽く開けます、そしてもっと胸を張って下さい」
曜「よ、よーそろー……こんな感じ?」
海未「ええ、ではこの姿勢を10分ほどキープしてみましょうか」
曜「えっ!?10分も!?足しびれちゃうよ!!」
海未「それくらいできて当たり前です。ほら、姿勢を崩さない!!」
曜「う、ううっ……」プルプル
海未「着物は女性の魅力を最大限に引き出してくれます。それを着るにふさわしい作法を勉強するのはもはや義務だと言えるでしょう?」
曜「そ、それは、そうかも、だけど……」プルプル
曜(やっぱり、素敵な千歌ちゃんのお嫁さんへの道は、険しいよぉ……)
———
海未「では、ここまでにしましょうか?」
曜「あ、ありがとうございました!!」
曜「ふぅ、つ、疲れたぁ……」
海未「お疲れ様でした。よくついて来られましたね」
曜「こ、これくらい、園田家の名字をもらうためだったら、なんのその、だよ……」
海未「……名字?いったいなんの話ですか?」
曜「だって私が海未ちゃんのお家の跡取りになれたら、園田曜になれるなぁ、なんて……」
海未「いえ、もし仮に跡取りになれても名字は変えることはできませんよ」
曜「ええええっ!!?そ、そうなのぉ!!!?」
海未「いったい何時代の話をしているのですか?時代は令和なのですよ」
海未「婚姻や養子縁組などでしか名字を変えられないことは、法律にもそうかいてあるじゃないですか」
曜「そ、そんなぁ……私、園田の名前を襲名しようって、今日はずっと、そのために……」
海未「……」
曜「じゃ、じゃあ私は、いったいなんのために、今日……」
海未「……曜?もしかしてスクールアイドルとしての技術向上という話は嘘だったのですか?」
曜「ぎくっ!!?」
海未「はぁ、やっぱり。ところどころおかしいとは思ってましたよ」
曜「う、海未ちゃん……えっとね、実はこれには海よりも深いわけが……海未ちゃんだけに……」
海未「……」ジトッ
曜「ひっ!ご、ごめんなさい……」
海未「……はぁ、怒るつもりはありませんよ、曜」
海未「ですから話してみてはくれませんか?あなたが今抱えているものを、私に」
曜「……」
海未「曜?」
曜「…………笑わない?」
海未「はい?」
曜「ちゃ、ちゃんと話すから、笑わないでよね……えっと……」
海未「なるほど、千歌がそんなことを……」
曜「う、うん……」
曜「やっぱり私、渡辺ってありきたりな名字だから、千歌ちゃんも結婚するの嫌がるんだろうなって……ほ、ほら!千歌ちゃんって昔から、ずっと普通なのはイヤ〜って言ってるし……」
海未「……曜は千歌が普通の名前じゃないから好きになったのですか?」
曜「そんなわけ!!そんなわけないじゃん!!!」
海未「だったらそれが答えなのですよ、曜」
曜「……海未ちゃん?」
海未「人が誰かを好きになる時に名前とか名字なんてものを気にするはずがないでしょう?結婚だってきっと同じです。渡辺という名字が嫌だという理由で曜とは結婚したくありません、なんてことは起こりませんよ、きっと」
曜「うーん、そうなのかなぁ……?」
海未「ええ、きっとそうです。大切なのは今まで積み重ねた自分の内面である、今日だってそう勉強したではないですか」
海未「日舞の目的の一つは己と向き合い自己を磨き上げること。曜はもう気づいているのでしょう?」
曜「……」
海未「きっとその頑張りを千歌は誰よりも評価してくれるはずですよ。だってあななたち幼馴染なのでしょう?」
曜「おさな、なじみ……」
海未「はい。誰よりも長く寄り添ってきた関係ならきっと誰よりも強く繋がれるはずです。だってそれが絆の強さなのですから。そう学校で習わなかったのですか?」
海未「幼馴染を大切にすることが人生を最も豊かにする。古事記にもそう書いてありますよ、曜」
曜「……」
海未「ですからきっと大丈夫です。あなたの気持ち、絶対に千歌に伝わります」
曜「海未ちゃん……」
曜「……ふんっ!!」
ペチペチ!!
曜「よしっ!!なんか海未ちゃんに相談したら勇気出てきた気がするっ!!」
海未「はい、お役に立てたのなら何よりです」
曜「ありがと海未ちゃん!!私、頑張ってみるよ!!!」
海未「ええ!!その意気ですよ、曜!!吉報をお待ちしております!!」
〜次の日〜
曜「……」
ガラガラ
梨子「あっ、おはよ。曜ちゃん」
曜「お、おはよ……」
千歌「ね〜、やっぱり善子ちゃんもそう思うよね〜!!」
花丸「そうだね〜、善子ちゃんもなんだかんだ自分のお名前、気に入っているみたいだもんね〜。ね〜、善子ちゃん?」
善子「んなっ!!?ん、んなわけ……//っていうか善子じゃなくてヨハネだってばぁ!!」
花丸「はいはい、照れなくてもいいずらよ〜……」
善子「ちょっと!!!?て、照れてないってばぁ!!!///」プクーッ!!
曜「……何の話してたの?」
梨子「昨日の話の続きよ。なんかね、千歌ちゃんが昨日のこと志満さんに相談してたみたいで……」
千歌「うんうん!!そしたらね、千歌ちゃん、サインのお名前変わっちゃってもいいの?って聞かれてね……」
千歌「……それでね私、思ったの!!やっぱり私は今の私の名前が好きなんだなぁ〜って!!」
千歌「やっぱり私、高海千歌って名前が好きなんだ!!そりゃあ、ちょっとは地味だな〜って思わなくはないけど……でももう16年間使ってきたら、愛着もすっごい湧いちゃうんだよね〜、あはは〜」
梨子「ふふっ、なんか千歌ちゃんらしいわね」ナデナデ
千歌「えへへ〜、そうかなぁ……?」
曜「千歌ちゃん……」
曜(そうだよね、やっぱり使い慣れた名前、突然変わっちゃうのは誰だって嫌だもんね……)
曜「……」
曜(……そっか、海未ちゃんが言いたかったのは、きっとそういうことなんじゃないかな?)
曜(わかったよ海未ちゃん!!私が、幼馴染として!一歩踏み出さなきゃいけない場面があるってこと!!)
曜「千歌ちゃん!!」
ギュッ!!
曜「私、頑張るから!!高海曜って名前が好きになれるように努力して、必ず千歌ちゃんのお嫁さんにふさわしい私に成長してみせるからね!!」
千歌「え、やだよそんなの。なんかちょっと気持ち悪いし」
曜「がーん!!!」
0053名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/11/09(月) 19:57:48.40ID:d2fYGxki
終わりです。お粗末様でした
ここまでお読みいただきありがとうございました
千歌「え、やだよそんなの。なんかちょっと気持ち悪いし」
辛辣なチカちゃん好き…
乙よーそろー
>海未「幼馴染を大切にすることが人生を最も豊かにする。古事記にもそう書いてありますよ、曜
なにいってだこいつ
0061名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/11/09(月) 21:56:01.88ID:+imBfdwI
0062名無しで叶える物語(もんじゃ)2020/11/09(月) 21:56:49.20ID:rXAy1LEn
古事記にもそう書いてあるってのはニンジャスレイヤーネタかな
ようちかと思って読み始めたら海未ちゃんのキャラ理解が素晴らしかった
抽象名詞の組み合わせ名字の人が羨ましいと思ってた時期がありました