東京都の小池百合子知事が市場移転をめぐって示した「豊洲・築地両立」案が、豊洲敷地内に建設予定の商業・観光施設「千客万来」に波紋を広げている。同施設の運営会社は「大前提が覆された」として撤退も視野に入れて検討することを表明。豊洲市場のある江東区長も困惑を示す。一方の小池知事は14日の定例会見で「豊洲のにぎわいに必要な施設」と計画通りの事業展開を求めた。

運営会社「大前提が覆された」

 「千客万来」の整備は、場外市場と一体となって魅力を創出し、観光客らを集めている築地市場の例にならい、豊洲市場でも商業拠点となる施設をつくることで同様のにぎわいを生み出し、地域の活性化につなげる狙いで計画された。運営会社は、温泉施設などを展開する万葉倶楽部(神奈川県小田原市)。水産仲卸売場棟のある6街区に、江戸の街並みを再現して各種店舗を展開する「商業ゾーン」と、24時間営業の温泉・ホテルのある「温泉・ホテルゾーン」の設置を計画する。年間来場者数は、商業ゾーンで約138万人、温泉・ホテルゾーンで約55万人を想定している。
豊洲の千客万来施設「撤退も」「必要だ」 小池知事の築地両立案が波紋

[写真]6月20日の会見で豊洲移転と築地再整備の両立案を示した小池知事(ロイター/アフロ)

 小池知事が市場移転の基本方針を示した6月20日の会見では、中央卸売市場を豊洲に移転する一方、築地は「食のテーマパーク」として再開発すると表明。築地・豊洲の双方に市場機能を持たせる方針も示された。これに対し、同社はその2日後、この方針について詳細な説明をするよう都に申し入れた。

 同社新規開発事業部の担当者は「当社がコンペに参加した際は、築地市場が豊洲に移転し、豊洲に築地場外市場のようなにぎわいをつくり出すために施設をつくる、という大前提があった」と説明。2つの市場の両立、築地への食のテーマパーク建設、豊洲の物流センター化など、小池知事が示した方針はその大前提をくつがえすものだとして、「それが帰着点であれば、撤退を含めて検討せざるを得ない」と語った。

 江東区の山崎区長も11日の定例会見で「車で5分の距離に食のテーマパークが2つできれば、どちらかがおかしくなる」と困惑。「中央卸売市場の本体と千客万来施設が一緒になって初めて豊洲市場。片方がなくては新市場と言わない」との認識を示した。

 小池知事は14日、定例会見で「千客万来施設が、豊洲の活気やにぎわいに必要な施設との認識は変わっていない」と強調。「事業者には計画通り豊洲での事業を展開してほしい」と訴えた。同社に対しては「誠意をもって説明し、対応するよう市場当局に指示した」と述べたが、都の市場当局によると「説明する中身や時期も含めて検討中」という。

(取材・文:具志堅浩二)

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