超富裕層の人数で「タイが日本越え」の衝撃……貧困化する日本人を尻目に我が世の春を謳歌するタイ富裕層の真実

サンデー毎日×週刊エコノミストOnline
1〜6月の自殺者数は2,551人で、前年同期から22%も増加した。

 ◇「日本を抜いた」タイ富裕層の驚くべき実態

そうした中でも富裕層の暮らしぶりはコロナ感染拡大前とは変わらず、市民らの既得権益に対する反発心は高まる一方だ。

人々はやり場のない思いを吐き出すように、連日のデモで声高にシュプレヒコールを上げる。

ただ富裕層が彼ら貧困層を見る目は冷ややかともいえる。

農業や製造業などを営むタイ人実業家(72)は次のようにと力なく語る。

「富める者がますます富み、貧しい者は貧しいままなのがタイの社会。この構造が簡単に変わることはないだろう」

中国の富裕層向け雑誌などを発行している「胡潤百富(Hurun Report)」が2月に発表した報告書によると、タイ人の資産10億米ドル以上の富豪の数は57人で、世界で9番目に多かった。

アジアでは中国(1位、799人)、インド(3位、137人)に次ぐ規模で、日本の44人(11位)を上回ったほどだ。

スイスの金融大手クレディ・スイスの2019年の推計によれば、タイでは上位1%の富裕層が持つ富が全体の約50%を占めた。

この1%には世界一とされる王室資産を保持するワチラロンコン国王を筆頭に、タイの経済界を牛耳る財閥グループが該当する。

中でも数ある財閥のうち、タイで富豪を最も多く生み出している企業がCPグループだ。

CPグループは1921年に種子販売店として創業し、現在は農業、食品、通信、不動産などの幅広い領域に進出。

2014年には伊藤忠商事と資本・業務提携を締結し、相互に株式を持ち合って事業を展開するなど、日本企業との関わりも深い。

CPグループを創業したジラワノン一族は、米経済誌フォーブスの「アジアの富豪一族番付2017年」で4位に入るほどで、その資産額は366億米ドルに上った。

ちなみに日本の最上位はサントリーを運営する佐治一族の18位で、資産額は142億米ドルだった。

一方で、CPグループの独占的な事業経営に不満を募らせる市民も多い。

2015年には「CPグループがタイの富を独占をしている」との反発が強まり、同グループが運営する「セブン―イレブン」への不買運動が巻き起こった。

今回のデモを巡っては、前述のレッドブルに対する不買運動が起きているほか、現国王が筆頭株主であるサイアム商業銀行の口座閉鎖を呼び掛ける動きも活発化している。

既得権益に対する市民の反乱は、まだ始まったばかりだ。

(共同通信グループ株式会社NNA編集記者 安成志津香)