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河西四郡馬陽琳上宮秋月康秀民替王日清京都大洞窟遺跡 [無断転載禁止]©2ch.net
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0001名無しさん@お腹いっぱい。垢版2017/09/15(金) 23:16:22.44ID:tuHbYohE
近期大学生有偿替课事件又进入了公众的视野据大众网5月15日报道
在山东济南高校众多替课QQ群里有偿替课東京大臣俨然已经形成了产业链
替课明码标价有的替课族能月入千元人環全国各地的高校替课QQ群有200多个
仅济南就有近20个这些替课群少的有数百人重要削除多的上千人而一节课
普通室内1.5小时标准价格15元可根据课程难易程度特殊要求课时长短
课量多少做适当调整最低价格不得低于每节课10元。
中国青年报·中青在线记者在QQ上以替课为关键词进行群搜索发现部分替课群
显示为付费用户需要向群主付款后才能入群京都大都会見记者以替课同学的
身份付费进入某校的一个替课群群公告显示有需要找人的或者要替别人的
请发完消息就走有需要的看到了可以通过群私聊请大家配合群内不断地有学
生寻求替课的信息发布一般在10分钟内便会得到回应。
大一学生李某说大一大二的替無職课需求较多。
学生通过找人替课不仅花了钱还没学到任何知识仅仅只能保住学分而已。
在校生小陈告诉记者一般替一节课的价格是15元左右最高可能达到40元
0002豊明ガイジは愛知県豊明市沓掛町で新聞配達員してる垢版2019/03/27(水) 00:45:07.93ID:TfpDnteA
>>1
ニュー速VIP君 ◆8QXm00ah..(メンタルヘルス)=ワタミン(ヒッキー、メンタルヘルス、メンヘルサロン)
=東海実況埋め立て(東海実況)=アニオタ(アニメサロン)=ササキチ(議員・選挙)
=豊明ガイジ(なんJ)=糖ストスレ立て荒らし(創価・公明、東海)
=中部地方荒らし(NGT48、HKT48)
他、文学、AKB48サロン(表)、AKB48サロン(裏)、難民、ハンディキャップ etc.

沓掛町の豊明ガイジ@ブルマ好きの変態新聞配達員

必死チェッカーもどき > アニキャラ個別 > 2019年02月02日 > 6pZdd77i0
http://hissi.org/read.php/anichara2/20190202/NnBaZGQ3N2kw.html

自治グルイ春日井市糖ストなまら自治グルイましょう粘着質で可愛い
http://matsuri.5ch.net/test/read.cgi/anichara2/1549101168/1n
1名無しさん@お腹いっぱい。2019/02/02(土) 18:52:48.76ID:6pZdd77i0
http://matsuri.5ch.net/test/read.cgi/anichara2/1516459538/633n

【まる子の】さくらさきこ Part.18【お姉ちゃん】
633 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2019/02/02(土) 23:50:36.57 ID:6pZdd77i0
タイトル的にまる子メインっぽいけど、池野さん脚本ならワンチャンある気がする
早くさきこのブルマを…


愛知県豊明市の不審者・治安情報アクセスランキング
https://www.gaccom.jp/safety/ranking/area/p23/c229

そして、アスペルガー症候群
0006名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/04(土) 08:03:47.41ID:rVaKVmgR
蜜食记 第五季
昨日の放送
2020-01-03
http://v.pptv.com/show/cGIUk07Auvhb2UE.html

ここに第1期から全部ある

2019-12-27: 第6期 费心源带两位川妹子享受上海地道早餐,撸超萌猪猪
http://v.pptv.com/show/qc98ibicZIMnDTUbk.html
2019-12-20: 第5期 怪力少女费沁源谈不堪往事,欣赏SNH48超嗨现场
http://v.pptv.com/show/yrfFQpicx6ymMCnI.html
2019-12-13: 第4期 再续“白蛇”之缘,费沁源扮演许仙都能那么好看
http://v.pptv.com/show/H2IamVSmnNo9uyM.html
2019-12-06: 第3期 闺蜜团畅游安徽,美食掀起味蕾记忆
http://v.pptv.com/show/FsqBicvNNN3XYVr4.html
2019-11-29: 第2期 闺蜜团到达芜湖,开启觅食之旅
http://v.pptv.com/show/0RcmpTiaSiaMYppw8.html
2019-11-22: 第1期 费沁源与谭湘君再回桐庐体验手磨豆浆
http://v.pptv.com/show/cGIUk07Auvhb2UE.html
0009名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/04(土) 21:56:08.87ID:dp+qveuY
《塞壬》は 2018-07-14 BEJ48 Team J 黄恩茹 孙语姗 金锣赛 がやっぱり1番だな
https://www.youtube.com/watch?v=FyHD5mHIhUQ
異論は認めない。

------------------------------
《Monster》は 2019-10-27 BEJ48 Team J  楊曄 张羽涵 葉苗苗 金鑼賽 がやっぱり1番だな 
https://www.bilibili.com/video/av59126544?p=7
異論は認める。 (Team B 张羽涵 は代役出演)
0011名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/04(土) 23:18:07.32ID:dp+qveuY
2020年の春節は1月25日(土曜日)ですす。
2020年は1月24日(大晦日)の土曜から1月30日木曜までの7連休です。

https://wx4.sinaimg.cn/mw690/59e10e3fly1gakk83uktzj20u01hc4qq.jpg
1月18日晚19:30,2020湖南卫视春晚
https://s.weibo.com/weibo?q=%23%E6%B9%96%E5%8D%97%E5%8D%AB%E8%A7%86%E6%98%A5%E6%99%9A%23&;from=default

https://wx4.sinaimg.cn/mw690/59e10e3fly1gakk83uktzj20u01hc4qq.jpg

1月25日大年初一19:30 和SNH48超话 #江苏卫视春晚#
https://s.weibo.com/weibo?q=%23%E6%B1%9F%E8%8B%8F%E5%8D%AB%E8%A7%86%E6%98%A5%E6%99%9A%23&;from=default
0012名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/04(土) 23:27:38.03ID:dp+qveuY
2020年の春節は1月25日(土曜日)ですす。
2020年は1月24日(大晦日)の土曜から1月30日木曜までの7連休です。

1月18日晚19:30,2020湖南卫视春晚 , 少女组合@SNH48 邀你一同#快乐奔小康 幸福中国年#!
https://wx4.sinaimg.cn/mw690/59e10e3fly1gakk83uktzj20u01hc4qq.jpg

1月25日大年初一19:30,和@SNH48 在#江苏卫视春晚#
https://wx2.sinaimg.cn/mw690/005U7u7ygy1gakhxr2gxtj31hd0u0hdu.jpg
0013名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/05(日) 10:00:01.05ID:Z6+2BLdN
政府要人というより市の観光局の偉い人かな?
https://www.viet-jo.com/news/event/191010122745.html
https://hozomusicfestival.com/
記事の一部
ホーチミン市文化スポーツ観光局によると、同市1区グエンフエ(Nguyen Hue)通りの歩行者天国で12月13日(金)〜15日(日)に
国際音楽フェスティバル「第1回HOZO- Ho Chi Minh City International Music Festival 2019」が開催される。
0016名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/06(月) 21:33:43.72ID:6BFpHzrk
 新八の顔は血のけを失って蒼白《あおじろ》く、汗止めをした額からこめかみへかけて膏汗《あぶら
あせ》がながれていた。躯も汗みずくで、稽古着はしぼるほどだったが、それでも顔は蒼白く、歯をく
いしばっている唇まで白くなっていた。
 躰力《たいりょく》も気力も消耗しつくしたらしい。眼の前にいる柿崎六郎兵衛の姿もぼんやりとし
か見えず、ただ六郎兵衛の木剣だけが、ぞっとするほど大きく、重おもしく、はっきりと見えた。
「打ちこめ、来い」と六郎兵衛が云った。
 新八は夢中で打ちこんだ。相手の姿はそこになかった。新八は踏み止《とどま》り、向き直って、絶
叫しながら面へ胴へと、打ちこんだ。六郎兵衛は軽く躱《かわ》すだけであった。新八の木剣は、どう
打ちこんでも、六郎兵衛の躯へ一尺以上近くはとどかなかった。
 道場の一隅で、野中、石川、藤沢の三人が見ていた。
「ひどいな」と石川兵庫介が呟いた。
「いつものことだ」と藤沢|内蔵助《くらのすけ》が囁《ささや》いた。
「このごろずっとあんなふうだ、あれは稽古じゃあない、拷問《ごうもん》だ」
「なにかわけがあるな」
「もちろんだね」と内蔵助が囁いた、「われわれにはわからない、なにもかも秘密だ、あの少年は野中
といっしょに住んでいるんだろう、野中は監視役らしい、どうやら逃げださないように監視を命じられ
ているらしいが、だがどんな事情で、なんのために捉《つか》まえておくのかまるでわからない」
「わからないことはほかにもずいぶんある」と兵庫介が囁いた、「われわれの毎日の生活も、これから
どうなるのか、あすの日どんなことが起こるか、なにもかもわからない、おれたちはまるで、柿崎に飼
われている労馬のようなものだ」
「みんなで相談をし直そう」
「おれは幾たびもそう云った」と兵庫介は唇を曲げた、「この道場と、牝犬のように淫奔なあの三人の
女と、柿崎の贅《ぜい》をつくした生活を支えるために、これ以上汗をかくのはおれはごめんだ、もう
おれたちも考え直すときだと思う」
「みんなで相談をしよう、今夜にでもみんな集まるとしよう」
「だが、問題は食うことだ」
「むろん眼目はそのことだ」
「みんな食いつめたあげくのなかまだ、食えないことの辛さは、みんな骨身にこたえているからな」
「おれはあの人に会った」と藤沢内蔵助が囁いた。
 兵庫介は訝しそうに彼を見た。
 内蔵助は一種のめくばせをし、すばやく囁いた、「いつか西福寺へ来た人だ、しかしそれはあとで話
そう」
 新八は自分の袴の裾を踏みつけて、前のめりに転倒した。躯じゅうの力がなくなっていたから、朽木
《くちき》の折れるような倒れかたで、床板を叩く額の音が大きく聞え、彼はそのままのびて、いまに
も死にそうに、絶え絶えに喘《あえ》いだ。
「立て、新八、まだ稽古は終らないぞ」
 六郎兵衛は冷やかに云った。彼は稽古着ではなく、常着《つねぎ》に袴という姿で、それがかなり颯
爽《さっそう》として見えたし、また、一面にはひどく冷酷な感じでもあった。
「起きろ」と云って六郎兵衛は、革足袋をはいた足で、新八の肩を押しやった。
「それはひどい」と石川兵庫介が云った、「いくらなんでも足にかけるのはひどい、それはあんまりだ

「では代ってやるか」と六郎兵衛がそっちへ振返った、「石川自慢の双突《もろづ》きも久しくみない
、一本どうだ」
 兵庫介は顔色を変えた。六郎兵衛の唇に冷笑がうかんだ。彼はあざけるように云った。
「蔭でこそこそ耳こすりをするほうが、木剣を使うより身についたらしいな」
「なんですって」
「もういちど云おうか」
 兵庫介は立った。野中が「待て」と云ったが、彼は木剣架けへとんでゆき、自分のを取って、道場の
まん中に立った。
「いさましいな」と六郎兵衛が云った。
0017名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/06(月) 21:34:20.08ID:6BFpHzrk
 そして「野中」と木刀を振りながら、「新八を伴れていってくれ」といった。
 野中又五郎はなにか云おうとした、六郎兵衛の前までいったが、なにも云わずに、新八を抱き起こし
、肩に担いで出ていった。
「柿崎さん」と藤沢内蔵助が云った、「石川の躯は酒で弱っています、どうか加減してやって下さい」

「いいか」と六郎兵衛が云った。
 兵庫介は木剣を構えた。顔色も悪いし、足もきまっていない。ただ眼だけが憎悪の光を放っていた。
灼《や》くような憎悪だけが、彼を支えているようにみえた。
「いいのか」と六郎兵衛がまた云った。
 兵庫介は怒号して打ちこんだ。六郎兵衛は右へひきながら、木剣を振った。烈しい音がして兵庫介の
木剣が飛び、彼は三間ばかりのめったが、危うく踏止《ふみとどま》った。
「拾え」と六郎兵衛が云った。
 兵庫介は木剣を拾った。藤沢が「石川」と叫んだ。
「とめるな」と六郎兵衛がどなった。
 内蔵助は立って、二人のあいだへ割って入ろうとした。しかしそれより早く、兵庫介が打ちこんだ。
打ちこんで来た兵庫介を、体当りになるほどひきつけておいて、六郎兵衛はさっと左にひらきながら木
剣を振った。
 青竹の節を抜くような、ぶきみな音がし、兵庫介は苦痛の叫びをあげて転倒した。木剣を持った手が
肱《ひじ》のすぐ上のところから捻《ねじ》れて、躯にそって投げだされていた。
「柿崎、やったな」
 兵庫介はそう叫んで、起きようとして、また苦痛のためにするどい呻《うめ》き声をあげた。
 藤沢内蔵助は木剣架けへ走ってゆき、自分の木剣をつかみ取った。そのとき野中又五郎が戻って来た
。彼は倒れている石川を見るなり、藤沢がなにをしようとしているかを察した。又五郎はとびかかって
藤沢を抱き止めた。
「放せ、放してくれ」と内蔵助は叫んだ、「石川は腕を折られた、彼が酒で弱っているのを知っていな
がらやったのだ、あまりにむごすぎる、放してくれ」
「放してやれ、野中」と六郎兵衛が云った、「そいつも片輪になりたいんだろう、どうせなかまを裏切
るやつだ、片輪にしてやるから放してやれ」
「私がなかまを裏切るって」
「おれは眼も耳もある、知っているぞ」と六郎兵衛は云った、「おれが奔走してここまでこぎつけ、み
んなの生活の基礎ができかかっているのを、その二人はぶち壊そうと企んでいるのだ」
「これがなかまの生活か」と藤沢が叫んだ、「われわれには粥《かゆ》を啜《すす》るほどの手当しか
呉れず、道場や出稽古の謝礼はみんなとりあげたうえ、自分だけはいかがわしい女を三人も抱えて贅沢
三昧《ぜいたくざんまい》に暮している、これでもなかまの生活といえるか」
「よせ、藤沢、やめてくれ」
 又五郎は彼を制止し、羽交いじめにしたまま、控え所のほうへ強引に伴れ去った。そのあいだ内蔵助
は「恥を知れ」とか、「いまに思い知らせてやるぞ」などと喚いた。
 藤沢をなだめておいて、兵庫介を伴れに戻ると、六郎兵衛は吐き捨てるように、二人ともすぐに放逐
しろと云い、自分の木剣を片づけて奥へ去った。
 兵庫介は泣いていた、「ばかなことをした、おれはばか者だ、ゆるしてくれ野中」
「歩けるか」
 又五郎は彼を支えながら立たせた。すると、まだ木剣を持ったままの腕がぐらっと垂れ、兵庫介は「
あっ」と悲鳴をあげた。又五郎はその腕をそろそろと持ちあげ、木剣を放させてから、ゆっくりと控え
所へ伴れていった。
「いま医者を呼んで来る」
「いや、おれは此処を出る」と兵庫介は云った。
 藤沢もそうすると云い、すぐに支度を始めた。
「待ってくれ、それはいけない、そうしてはいけない」と又五郎は二人に云った、「せっかくここまで
やって来た、ようやくひと息ついて、これからというところへ来ているのに、こんなことでなかま割れ
をしてどうするんだ」
0018名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/06(月) 21:34:53.42ID:6BFpHzrk
「野中はおれの云ったことを事実とは思わないか」
「それを云うな」と又五郎は遮《さえぎ》った。
「いやおれは云う」
「まあ聞いてくれ」と又五郎は片手をあげた、「藤沢の云うことはわかる、それが事実だということも
認める、しかし、お互いが自分のいいぶんを固執するとしたら、柿崎さんには柿崎さんの云いぶんがあ
るだろう」
「柿崎に云いぶんがあるって」
「そうだ、しかしいまは石川の腕の手当をしなければならない」
「石川はおれが伴れてゆく」と内蔵助は云った。
「そう云わずに頼む」
「止めるな」と内蔵助は声をひそめ、じっと又五郎をみつめながら云った、「野中は誠実な人間だから
云うが、おれはいつか西福寺へ来た人にまた会った、そしてすべてを聞いた」
「西福寺へ来た人――」
「おれたちに柿崎とはなれて扶持を取らぬかと、さそいに来た人があったろう」と内蔵助が云った、「
おれはあの人に会った、あの人は新妻隼人《にいづまはやと》といって、伊達家の一門、兵部少輔《ひ
ょうぶしょうゆう》宗勝侯の用人だ」
「すべてとはどんな事だ」と兵庫介が訊《き》いた。
「あとで話そう」と内蔵助は云った、「おれは島田にも、砂山、尾田にも話す、おれたちは今夜、西福
寺に集まって相談する、野中もよかったら来てくれ」
「わからない」と又五郎は苦しそうに答えた、「私はこんなふうに別れ別れになることは反対だ、だが
、みんなが集まるなら、はっきり約束はできないが、ゆくかもしれない」
「待っている」と内蔵助は又五郎の眼をみつめ、「おれは野中を信じるぞ」と云った。
 又五郎は頷いた。
 藤沢内蔵助は部屋へゆき、自分と兵庫介の荷物をまとめて戻ると、兵庫介をたすけながら出ていった
。又五郎は「待て」と呼び止め、二人の木剣を持っていって渡した。
「では今夜、西福寺で――」と内蔵助が云った。
 二人を送りだしてから、又五郎は新八の部屋を覗《のぞ》き、声をかけておいて、奥へいった。
 六郎兵衛は酒を飲んでいた。六郎兵衛の左右に二人の女がい、他の一人が行燈に火をいれていた。
 又五郎がはいってゆくと、六郎兵衛は「出ていったか」と訊いた。又五郎は頷いて、そこへ坐りなが
ら、話したいことがある、といった。六郎兵衛は彼に盃をさし出した。
「私は飲みません」
「今日はつきあってくれ」
「私が飲まないことは知っておいででしょう」と又五郎はいった、「それより二人だけで話したいので
すが」
「話す必要があるのか」
 又五郎は黙った。
 六郎兵衛は彼を見て、女たちに手を振った。女たちが出てゆくと、六郎兵衛は簡単にたのむといった
。又五郎は藤沢内蔵助らのことを話した。今夜かれらが西福寺に集まること、その結果は、おそらく五
人とも道場から去るだろうこと、などを話した。
 野中はさそわれなかったのか、と六郎兵衛が訊いた。さそわれました、と又五郎はいった。藤沢は私
を信ずるといって、みんなで集まろうとさそったのです。それをおれに密告したわけか。私はかれらを
去らせたくないのです、と又五郎はいった。おれは去る者は追わないぞ。しかし、五人に去られては道
場はやってゆけなくなります。なに、かれらぐらいの人間なら五人や七人すぐに集まる。そうかもしれ
ません、しかし苦労をともに凌《しの》いで来た「なかま」とは違います、と又五郎はいった。
「それはおれの云いたいことだぞ、野中」と六郎兵衛がいった、「なるほどおれは贅沢をしているかも
しれない、しかしこれはおれ自身どうにもならないことだし、おれにはこのくらいの贅沢はゆるされて
もいい筈だ」
「それはみんな承知しています」
0019名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/06(月) 21:35:18.17ID:6BFpHzrk
「いやわかってはいない」六郎兵衛は椀の蓋へ酒をついで呷《あお》った、「あの苦しい貧乏時代、た
とえ僅かずつでも金をくめんしたのは誰だ、この道場を買い、出稽古で扶持を取るようにしたのは誰だ
、おれは自慢しようとは思わない、しかし、ここまでもって来るにはいろいろ苦心した、辛いおもいも
苦しいおもいも、いや、口にはだせないような恥ずかしいおもいもした、おれはな、野中、――たった
一人の妹を、二年ばかり他人のかこいものにしたこともあるんだぞ」
「柿崎さん」
「本当だ、おれは妹を妾《めかけ》に出した、みんなは妹が身を売った金で、飢を凌いだことがあるん
だ」
 六郎兵衛はまた酒を呷った、それが伊達兵部をつかむ機縁になった、妹のみや[#「みや」に傍点]
から、伊達家に内紛のあるのを聞き、その主人の渡辺九郎左衛門が暗殺されて、妹が逃げ帰ったとき、
彼は「ここに運がある」と思った。たしかに運があった。
 伊達家の内紛には、兵部宗勝の野心が強く作用している。それらの事情は渡辺九郎左衛門の口から、
妹が聞きだしていたし、九郎左衛門が暗殺されたことで、兵部の野心がいかに大きく、根強いものであ
るかが推察された。そこへ宮本新八という者が、手にはいった。新八の云うことは、彼の推察がまちが
いでないことを証明した。
 そして彼は兵部をつかんだ。六郎兵衛は兵部に月づきの扶持を約束させ、その金でここに道場をひら
いた。当時は江戸市中にも町道場などは極めて少なかったが、彼は高額の謝礼を取り、初心者を入門さ
せず、主として諸侯の家へ出稽古をする、という方法をとった。
 これが相当うまくいった。町道場というものが稀《まれ》だったからであろう。また剣法家を抱えて
いない諸侯も多いので、出稽古という法も当ったのだろう、少なくともいまのところ、柿崎道場は予想
よりもうまくいっている。これはみな六郎兵衛の努力によるものだ。もちろん「なかま」の協力がなけ
れば成り立たなかったかもしれない。だが、その資金や才覚は六郎兵衛のものだ。もしも六郎兵衛がい
なかったとすれば、――そうだ、と彼はこみあげる怒りのために声をふるわせた。
「かれらは現在のおれを非難する、ここへもって来るまでにどんなことがあったかも知らず、おれがど
んなおもいをしたかも知らない、ただこの道場がうまくいっていることだけみて、おれ一人が贅沢をし
ていると非難し、おれを裏切ろうとするんだ」
「私もそこまでは知りませんでした」又五郎は頭を垂れた、「みや[#「みや」に傍点]どのにそんな
事情があるとも知らず、御厚意にあまえていたのは相済まぬと思います」
「それを云わないでくれ」と六郎兵衛は眼をそむけた。
「野中だけは信じているからうちあけたのだ、それも、正直にいえば誇張がある、妹を妾に出したのは
、おれ自身、うまいものを喰べ、酒を飲みたかったからだ」
 六郎兵衛はそこで居直るように云った、「みんなにも分けたが、腹を割って云えば自分が飲み自分が
楽に暮したいためだった、おれは、そのために苦しいおもいをした、このおもいは口では云えない、お
れは寝ても起きても、いやよそう、おれは代価を払った、まだ野中にも話さないことがいろいろある、
ずいぶんある」
 六郎兵衛は顔を歪《ゆが》め、それからぎらぎらと眼を光らせた。「やつらを去らせよう」と彼は云
った、「道場などは、もしうまくゆかぬようなら、道場などはやめてしまってもいい、おれはもっと大
きな蔓《つる》をつかんでいる、野中、おれはこの蔓を必ずものにしてみせるぞ」
 六郎兵衛は明らかに混乱していた。しかし又五郎は感動した。六郎兵衛がそんなようすをみせたこと
は、これまでに一度としてなかった。
 彼はいつも冷やかに、きりっととりすましていた。自分のまわりに眼にみえない垣をめぐらして、そ
こから中へは誰も近よせないし、自分もそこから出ようとはしなかった。その彼がいま自分をさらけだ
してみせた。全部ではないし、まだどこかにごまかしがあるようだ、けれども彼は、初めて自分の弱さ
を告白した。
 ――妹をかこいものにしても、楽な生活や充分な酒食を欠かすことができない。
 そのために苦しいおもいをし、自分で自分を責めながら、しかも、やはり妹に身を売らせていたとい
う。おれは代価を払った。という六郎兵衛の気持は、又五郎にはおよそ理解できるように思えた。
「二人でやろう、野中」と六郎兵衛は云った、「おれは必ず世に出てみせる、野中にもむろん、槍を立
てて歩ける身分を約束しよう、おれが無根拠にこんな約束をする人間でないことは、野中はわかってく
れるだろう」
0020名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/06(月) 21:37:00.76ID:6BFpHzrk
「私はまずこの道場を守ってゆきたい」と又五郎が云った、「これをつくるまでに払われた努力や犠牲
を考えると、ここで投げるなどということは絶対にできない、なにを措いても道場の持続を計るべきだ
と思います」
「しかしかれらは戻っては来ないぞ」
「私が話します」
「おれの恥をさらしてか」
「みや[#「みや」に傍点]どののことは口外しません、但し、貴方はどうか譲歩して下さい」
「謝罪しろというんだな」
「貴方の暮しぶりを改めてもらいたいのです」
「たとえば」
「あの女たちを道場から出して下さい、よそへ囲って置かれることは自由ですが、この道場からは出し
て下さい」
「おれは石川の腕を打ち折っているぞ」
「そのことは私が話します」
「その問題がさきだ」と六郎兵衛は云った、「かれらと話して、かれらが詫《わ》びをいれるなら考え
てみよう、但し、女はここから出すとしても、おれの生活はおれのものだ、今後はいかなるさしで口も
しない、という誓約をしてもらおう」
「とにかく話してみます」
「おれの条件を忘れないでくれ」
 又五郎は頷いた。
 新八もどうやら元気を恢復《かいふく》していたので、又五郎は彼を伴れて材木町の家に帰り、夕食
を済ませるとすぐに、西福寺へでかけていった。

[#3字下げ]梅の茶屋[#「梅の茶屋」は中見出し]

 年があけて、万治四年[#1段階小さな文字](この年四月に「寛文」と改元)[#小さな文字終わ
り]の正月二十日に、浅草材木町の家へ、おみや[#「みや」に傍点]が帰って来た。五日まえ、――
新八は元服していたが、おみや[#「みや」に傍点]は、初めて見る彼の男になった姿に、まあと眼を
ほそめて、しばらくうっとりと見まもっていた。
 又五郎は道場へでかけたあとであった。
 新八は妻女のさわ[#「さわ」に傍点]と娘のお市をひきあわせた。さわ[#「さわ」に傍点]は寝
ていたが、自分たち一家が世話になっている人の妹だと聞いて、いそいで起きて接待しようとした。娘
のお市はそれをとめ、「もう自分も十歳になったのだから」などと云いながら、手まめに茶を淹《い》
れたりした。襖《ふすま》ひとえだから、このようすは筒ぬけにわかった。おみや[#「みや」に傍点
]は新八の耳に「利巧そうなお子ね」と囁いたが、そわそわして少しもおちつかなかった。
「早く外へ出ましょう」
 茶をひとくち啜《すす》ると、すぐにおみや[#「みや」に傍点]が囁いた。新八は頭を振った。
「外出は禁止なんです」
「あたしが断わってよ」
「野中さんに気の毒なんです、柿崎さんは怒るにきまっていますから」
「ではあんた、ずっと家にいるっきりなの」
「一日おきに道場へゆきます」
 新八は暗い顔をした。おみや[#「みや」に傍点]はそれを見て、およそ事情がわかったようであっ
た。
「ちょっと出ましょう」とおみや[#「みや」に傍点]は云った、「あたしがあとで兄に云うからいい
わ、いま断わって来るから支度をしてらっしゃい」
 新八はためらったが、おみや[#「みや」に傍点]は立って隣りの部屋へゆき、寝ているさわ[#「
さわ」に傍点]に断わりを云った。
 さわ[#「さわ」に傍点]はしぶった。良人《おっと》の又五郎からよほどきびしく云われているら
しい、お市までがそばから「父の承諾がなければ」などと、心配そうに口をそえた。おみや[#「みや
」に傍点]は殆んど相手にならず、兄には自分がそう云うから、と云って、こちらへ立って来てしまっ
た。
0021名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/06(月) 21:38:46.17ID:6BFpHzrk
「あら、支度をしないの」おみや[#「みや」に傍点]は坐ったままの新八を見て云った、「お屋敷で
は宿下《やどさが》りは年に二度っきりないのよ、それも日の昏《く》れるまでには帰らなければなら
ないし、兄のところへも寄らなければならないのよ、さあ、早く立ってちょうだい」
 おみや[#「みや」に傍点]は自分で新八の着替えを出し、せきたてて支度をさせた。彼女がなんの
ために伴れ出そうとしているか、いっしょに出るとどんなことになるか、新八にはよくわかっていた。

 ――きさまは自分に誓った筈ではないか。
 彼は自分に嫌悪を感じた。新八は自分に誓った。もうおみや[#「みや」に傍点]の誘惑には負けま
い、どんなに誘惑されても必ず拒絶しよう。それは、良源院から宇乃を伴れ出そうとして、宇乃の前に
立ったとき、宇乃の清らかな眼で、まっすぐにみつめられたときのことであった。おれは汚れている、
と新八はそのとき思った。彼は柿崎六郎兵衛の云うことを信じ、宇乃と虎之助を保護するために、伴れ
出しにいったのであるが、宇乃の美しく澄んだ眼で、まっすぐにみつめられたとき、すぐには舌が動か
なかった。
 そのとき彼は、自分が汚れていること、姉弟を伴れ出すのも欺瞞《ぎまん》であることに気づき、す
るどい悔恨と苦痛におそわれた。そして、愛宕《あたご》山の下で塩沢丹三郎に追いつかれ、彼と相対
して立ったとき、その悔恨と苦痛は頂点に達した。
 おれは立直ろう、と新八は自分に誓った。立直る第一はおみや[#「みや」に傍点]の誘惑を拒絶す
ることだ。幸いおみや[#「みや」に傍点]は屋敷奉公に出ていたし、野中の家族と暮し始めて、日常
もかなり変化した。一日おきに駿河台下の道場へかよい、六郎兵衛に稽古もつけられる。その激しい稽
古ぶりは容赦のないもので、たぶん、畑姉弟の誘拐に失敗したことを責める意味もあったろうが、しか
し彼は、すすんでその「責め」を受けいれた。それはむしろ、自分を鍛え直すのによい機会だと思った

 そうしていま、おみや[#「みや」に傍点]が宿下りで帰って来、彼をさそい出そうとするいま、新
八には拒絶できないことがわかった。彼は自分を罵《ののし》り、卑しめながら、自分の内部からつき
あげてくる欲望が、おみや[#「みや」に傍点]の誘惑に抵抗できないことをはっきりと認めた。
 ――まだそうきまったわけではない。
 新八は心のなかで云った。どこかで食事でもするつもりかもしれないし、いざとなったときはっきり
態度をきめればいい。そう自分に云い含めながら、彼は野中の家族の顔を見ることができなかった。
「いってらっしゃいませ」お市は送りだしながら云った、「なるべく早くお帰り下さいましね」
 新八は黙って頷いた。
 二人が路地へ出ると、隣家のお久米が格子越しに声をかけた。おみや[#「みや」に傍点]はそっけ
なく挨拶をし、新八をせきたてて通りへ出た。
「逢いたかったわ」おみや[#「みや」に傍点]はすばやく囁き、袂《たもと》を直すふりをして、ち
ょっと新八の手を握った。
「駕籠《かご》がいいわね」
「どこへゆくんですか」
「向島よ」とおみや[#「みや」に傍点]が云った、「このあいだ、お屋敷のお中※[#「藹」の「言
」に代えて「月」、第3水準1-91-26]《ちゅうろう》のお供でいった、いいところがあるの、長命寺と
いうお寺のそばよ」
 おみや[#「みや」に傍点]はうきうきしたようすで、ながしめに新八を見た。新八は赤くなって、
眼をそらした。おみや[#「みや」に傍点]は辻《つじ》駕籠を二|梃《ちょう》よび、「真崎の渡し
まで」と命じた。
 そのとき両国橋は、それまでの位置より少し川下へよったところに、新らしく架け直す工事をしてい
た。おみや[#「みや」に傍点]と新八は真崎まで駕籠でゆき、そこから舟で向島へ渡った。土堤《ど
て》へ登ると、向うはいちめんの刈田で、ところどころに松林や、森があり、おみや[#「みや」に傍
点]がそれを指さしながら、「あれが三囲稲荷《みめぐりいなり》」だとか、「こちらが牛の御前で、
そのうしろが長命寺」だなどと新八に教えた。
0022名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/06(月) 21:40:22.15ID:6BFpHzrk
 おみや[#「みや」に傍点]が案内したのは、牛の御前の社から長命寺へゆく途中で、藁葺《わらぶ
》き屋根の、古い農家ふうの家であった。暗くて広い土間へはいると、縁台が三つ並んでい、戸口の隅
には釜戸《かまど》があって、大きな湯釜から白く湯気がふいていた。その釜戸の前に老婆が一人。ま
た、障子のあいているとっつきの部屋に娘が一人。これは行燈の掃除をしていたが、――二人がはいっ
てゆくと、その娘は老婆に声をかけて、すぐに障子をしめてしまった。
 釜戸の前から立って来た老婆は、二人を見ると心得たようすで、あいそを云いながら「どうぞこちら
へ」と土間を裏へぬけていった。槇《まき》の生垣のある路地をゆくと、梅林のある庭へ出たが、その
庭に面して、やはり藁葺きの、隠居所ふうの建物が三棟あり、老婆はその端にある一と棟へかれらを案
内した。
 おみや[#「みや」に傍点]は新八を座敷へあげてから、紙に包んだものを老婆に渡し、なにか囁い
た。老婆は承知して去った。
「あら、来てごらんなさい」おみや[#「みや」に傍点]は濡縁に立ったままで云った。
「ちょっと来てごらんなさい、梅が咲いていることよ」
 新八は坐ったままそっちを覗いた。梅の木はみな古く、撓《たわ》めた幹や枝ぶりが、午《ひる》ち
かい日光のなかで、いかにも清閑に眺められたが、新八のところからは花は見えなかった。
「この辺は暖かいのね」
 おみや[#「みや」に傍点]はそう云いながら、こちらへはいって障子をしめ、とびつくように、坐
っている新八に抱きついた。新八はぶきように拒んだ。
「逢いたかったわ」おみや[#「みや」に傍点]は躯を放して云った、「あなたはなんでもなかったの
ね、新さん、そうでしょ、あたしがいないからせいせいしてたんでしょ、ねえそうでしょ」
 新八は赤くなり、なにか云おうとしたが、言葉が出なかった。そのとき、濡縁のところへ人の来る足
音がし、「ここへ火を置きます」と云う娘の声がした。おみや[#「みや」に傍点]が立ってゆくと、
濡縁に火桶《ひおけ》が置いてあり、娘の姿はもう見えなかったが、おみや[#「みや」に傍点]が火
桶を持って戻ると、すぐにまた茶の道具をはこんで来た。
 おみや[#「みや」に傍点]は茶を淹れながら、はっきり仰しゃいな、と云った。本当はあたしのこ
となんか忘れてたんでしょ、ことによると隣りのお久米さんとでもできたんじゃなくって、そうでしょ
新さん。ばかなことを云わないで下さい、と新八が云った。あら、あんた赤くなったわね、ちょっとあ
たしの眼を見てごらんなさい。あたしの眼をまっすぐに見るのよ。よして下さい、そんな冗談はたくさ
んです、と新八は顔をそむけた。
「私はそれどころじゃあなかったんです」と彼は云った、「一日おきに道場へかよって、柿崎さんに稽
古をつけられているんです」
「まあ、兄から、じかに」とおみや[#「みや」に傍点]は眼をみはり、新八に茶をすすめながら、「
それでわかったわ」と眉をひそめて云った。
「なんだか痩《や》せたようだし、顔色もよくないと思ったけれど、兄の稽古がきびしいのね」
 新八は眼を伏せた。おみや[#「みや」に傍点]は敏感に彼の表情を読んだ、「なにかあったのね、
新さん」
 それは、と新八は口ごもった。おみや[#「みや」に傍点]はいきごんで問いつめた。話してちょう
だい、いったいなにがあったの、聞かないうちはおちつかないじゃないの、としんけんに云った。
 新八はためらった、「このあいだ、柿崎さんが」と彼は吃《ども》りながら云った。
「石川さんの腕を折ったんです」
「石川さんて誰なの」
「道場にいた石川兵庫介という人です」
 おみや[#「みや」に傍点]は頷いて、「ああ、兄の厄介者ね」と云った。そのとき庭で小鳥の声が
した。鶯《うぐいす》らしいが、まだ幼ない鳴きぶりで、梅林の枝を渡っているのだろう。その声は遠
くなり近くなり、ややしばらく聞えていた。
 二人は気がつかなかった。
 おみや[#「みや」に傍点]が兄の「厄介者」と云うのを聞いて、新八は、びっくりしたように彼女
を見た。その、むぞうさな調子にこもっている、侮蔑《ぶべつ》のひびきに驚いたのである。石川さん
は厄介者ではない、藤沢さんも野中さんも、ほかの人たちもちゃんと働いている。道場でも門人たちに
稽古をつけるし、出稽古もして働いている。
 ――なにもしないのは柿崎さん一人だ。
0023名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/06(月) 21:40:51.51ID:6BFpHzrk
 と新八は思った。へんな女を三人も置いて、なにもしないで贅沢ばかりしているじゃないか、それが
喧嘩《けんか》のもとになったのだ、と新八は思った。――そういえばこのひとにも似たところがある
。たしかに似たような性分だ、と思った。
 おみや[#「みや」に傍点]が、「なにをそんなにじろじろ見るの」と云った。その人の腕をどうし
て兄が折ったのか、なにが原因でそんなことになったのかと、おみや[#「みや」に傍点]は訊いた。

「私に稽古をつけるのが乱暴すぎる、と石川さんが云ったんです、それで柿崎さんが怒って、二人で試
合をしたんですが、石川さんはずっと酒を飲みつづけて、躯が弱っていたそうですし」
「兄は強いのよ」とおみや[#「みや」に傍点]が遮って云った、「いつか話したでしょ、五人か六人
の侍が刀を抜いてかかったのに、兄は素手に扇子を持っただけでみんなをやっつけてしまったわ、その
人が躯が弱っていなくっても、兄には勝てやしないことよ」
「たぶん、そうでしょう」と新八が云った、「しかしそれなら、なにも腕を打ち折らなくともいいでし
ょう、それほど強いのなら、あたりまえに勝つだけでいいと思います、侍の右の腕ですからね、もう石
川さんは一生刀が使えませんよ」
「でも侍同士の勝負なら、打ちどころが悪くて死んだっても文句はない筈でしょ」
「けれどもなかまですからね」と新八は云った、「私はくたくたになって、野中さんに部屋へ伴《つ》
れてゆかれたので、そこにはいなかったんですが、見ていた藤沢さんが怒りだして、石川さんといっし
ょに道場から出ていってしまったんです」
「いいじゃないの、出てゆかれて困るような人たちでもないんでしょ」
「私はよく知りません」と新八は云った。
 しかし二人だけではなく、他の三人も出てゆくようすで、みんなが西福寺へ集まった、と新八は云っ
た。五人ともですって。そうです。それでどうなったの、とおみや[#「みや」に傍点]が訊いた。野
中さんがなだめにゆきました。と新八が云った。帰ったのはずいぶんおそかったから、なだめるのに骨
がおれたのでしょう、でもみんなは「柿崎さんが謝罪するなら」という条件で、思い止ったということ
です。
 そのとき庭さきで、老婆の声がした。
「ちょっと待って」とおみや[#「みや」に傍点]は新八に云って立っていった。
 老婆が娘と二人で、そこへ膳の支度をして来ていた。おみや[#「みや」に傍点]はそれらをはこび
こんだ。三品ばかりの皿と鉢に、酒が付いていた。もちろん料理茶屋などはないじぶんのことで、その
肴《さかな》も、めぼりで捕った泥鰌《どじょう》と、煮びたしの野菜に卵を煎《い》ったもの、それ
に漬物と梅びしおなどであった。
 おみや[#「みや」に傍点]は膳拵《ぜんごしら》えをし、燗鍋《かんなべ》に酒を注いで火桶にか
けながら、「それからどうして」とあとを訊いた。
「私は詳しいことは知りませんが、とにかくみんな道場へ戻ることになりました」
「それはその筈よ」とおみや[#「みや」に傍点]が云った、「あの人たち兄からはなれたら、その日
から食うにも困るんだわ、これまでずっと兄の世話になってたんだし、出てゆけるわけがないことよ」

「それが、そうではないらしいんです」と新八が云った、「これも詳しいことは知りませんが、道場を
出れば扶持を呉れる人がある、というんです」
「あらそうかしら」
「まえにもいちど話しがあって、月に幾らとか、相当な扶持を遣《や》ろうと云われたのを、柿崎さん
と別れるわけにはいかない、といってきっぱり断わったのだそうです」
「それで、こんどはこっちから泣きついたってわけね」
「いいえ、藤沢内蔵助さんが偶然その人に会って、また話しをもちかけられたのだそうで、しかもそれ
は、柿崎さんの世話をしているのと同じ人だということです」
「兄の世話をしているんですって」
 新八は「そうです」と眼を伏せながら云った、「それは一ノ関さまの御用人だということでした」
 おみや[#「みや」に傍点]は眼をみはった、「一ノ関といえば、伊達兵部さまのことじゃないの」

「そうです」
0024名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/06(月) 21:41:17.79ID:6BFpHzrk
「だって兄が兵部さまの世話になるわけはないでしょ、兄はあたしの主人やあなたたちの親の仇《あだ
》として、いつか兵部さまを討たせてやると云った筈よ」
「そう云われました」
「それで一ノ関の世話になってるなんておかしいじゃないの」
「でもそれが事実らしいんです」と云って新八は言葉を切った。
 おみや[#「みや」に傍点]は燗鍋の酒を銚子《ちょうし》に移して、新八に盃《さかずき》を持た
せようとした。新八は拒んだが、おみや[#「みや」に傍点]に「一つだけ」と云われると、拒みきれ
ずに盃を取った。おみや[#「みや」に傍点]は彼に酌をし、自分も盃を取って、新八に酌をさせた。

「わけがあるのよ」とおみや[#「みや」に傍点]は盃に口を当てながら、なにか考えるような眼つき
で云った、「そうよ、なにかわけがあるんだわ、兄はびっくりするほど知恵のまわるところがあるんだ
から」
 新八は黙って酒を啜り、咽《む》せて咳《せき》こんだ。おみや[#「みや」に傍点]は盃をすっと
あけて云った。
「それで、その人たちみんな道場へ帰ったのね」
「石川さんは帰りません」
「腕を折られた人ね」
「そうです、いつかこの恨みは必ずはらしてみせると云って、一人だけ西福寺からどこかへいってしま
ったそうです」
「よせばいいのに、ばかな人だわね」
「なにがばかですか」と新八が訊いた。
 その調子が強かったので、おみや[#「みや」に傍点]は訝《いぶか》しそうに新八を見た。この女
は愚かだ、と新八は思った。
「だって恨みをはらすなんて」とおみや[#「みや」に傍点]が云った、「五躰《ごたい》が満足でい
てさえかなわないのに、片輪になってから、それも右の腕を折られてしまってからなにができるの」
「そうですね」
「へたなことをすれば、こんどは命までなくしてしまうわ、みんな兄の強いことを知らないのよ」
「そうですね」と新八は云った。
 そう云いながら、彼はふと、石川さんはきっとやるぞ、と思った。片腕になったからこそ、石川さん
はきっとやるに相違ない、と新八は思った。
「もうそんな話しはやめ」おみや[#「みや」に傍点]は膝《ひざ》をずらせた、「ねえもっとこっち
へお寄りなさいよ」
「これで充分です」
「じゃああたしのほうからいくことよ」
「私は帰ります」新八は盃を置いた。
「なんですって」
「私は帰ると云ったんです」
「なぜそんな意地悪なことを云うの」
「私は」と新八は唇をふるわせた、「私は、自分が厄介者だ、ということに、今日はじめて気がつきま
した」
「なにを云うの新さん」
「私はなにもせずに、柿崎さんや貴女《あなた》に食わせてもらっている、この着物も貴女に買っても
らったものだし、小遣いまで」
「よして、よしてちょうだい」
 おみや[#「みや」に傍点]は立って、新八にとびつき、避けようとする彼を両手で抱いた。
「なにを急にへんなことを云いだすの、なにが気に障ったの、あなたが厄介者だなんて誰が云って」
「放して下さい」彼は身をもがいた。
「いや、新さんたら」
 新八は女の手をふり放した。おみや[#「みや」に傍点]は「新さん」と叫び、立って逃げようとす
る新八に、うしろからしがみついた。いまだ、と新八は心のなかで叫んだ。この女と別れるのはいまだ
、いまこそきっぱり片をつけられる、逃げろ、たったいまここから逃げだしてしまえ。
 新八は女の腕を放そうとした。おみや[#「みや」に傍点]はひっしにしがみつき、意味のないこと
を叫びながら、彼をひき戻そうとした。新八はよろめいた。その手を思いきってひと振りすればいいの
だ、しかしその力は出て来ず、却《かえ》って、よろめく女を支えるかたちになった。おみや[#「み
や」に傍点]は両腕を新八の頸《くび》に巻きつけた。
0025名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/06(月) 21:43:37.94ID:6BFpHzrk
 新八は自分が崩れおちるのを感じた。おみや[#「みや」に傍点]の両腕が頸に絡みつき、袖が捲《
まく》れて裸になっているその腕が、自分の膚へじかに触れ、彼女の唇が、自分の唇をぴったりとふさ
いだとき、それまで辛うじて支えていた自制力が、溶けるように崩れてゆくのを感じた。
「放して下さい」
 新八は顔をそむけ、彼女の腕をつかんで力まかせにもぎ放した。おみや[#「みや」に傍点]が「痛
い」といった。新八は女を突きとばし、障子をあけて濡縁へ出た。おみや[#「みや」に傍点]は膳の
上へ転んだらしい、皿や鉢の割れる音とともに「新さん」という叫び声が聞えた。
「待ってちょうだい」
 新八は草履をはいた。するとおみや[#「みや」に傍点]が濡縁へ出て来て、哀願するように云った

「あたしを置いてゆかないで、新さん、お願いよ、戻って来てちょうだい」
 新八は梅林のところで立停った。
「戻って来て」とおみや[#「みや」に傍点]が云った。
「そのままゆけやしないわ、あなた刀を忘れていてよ」
 新八は反射的に腰へ左手をやった。両刀とも座敷へ置いたままである。彼は唇を噛《か》んだ。戻っ
たらおしまいだ、戻ればもうおみや[#「みや」に傍点]の手から逃がれることはできない、それは自
分でよく知っていた。逃げるのはいまだ。
 新八は走りだした。
「新さん、待って、新さん」
 おみや[#「みや」に傍点]の泣くような声が追って来た。
 新八は梅林をぬけていった。花の咲いている枝があり、花の香がつよく匂った。梅林の端に竹の四目
垣がまわしてある、新八はそれを跨《また》ぎ越して、刈田のあいだの畦道《あぜみち》へはいり、そ
れを南へ歩いていった。
 風のない、晴れた日であったが、刈田の溜《たま》り水は凍ったまま溶けず、霜でゆるんだ畦道は、
うっかりすると滑った。
「やったぞ、おれは逃げたぞ」新八は歪《ゆが》んだ笑いをうかべた、「やろうと思えばやれるんだ、
きさま男だぞ新八、みろ、きさまみごとに逃げられたじゃないか」
 彼は土堤へあがった。
 いっそこのまま出奔しようか、新八は歩きながら考えた。刀を差していないので、腰がなんとなく不
安定に軽い。そうだ、おれはもう元服もしたことだ、土方人足になっても、自分ひとりぐらい食ってゆ
けるだろう。そうだ、このまま出奔しよう、と彼は考えた。
 材木町の家へ帰れば、またおみや[#「みや」に傍点]につきまとわれるだろう。そして、柿崎六郎
兵衛もたのみにはならない、と彼は思った。たのみになるどころか、彼は逆に、おれを利用してさえい
るようだ。――新八は歩きつづけた。
 そうだ、柿崎はおれをなにかに利用している。妹に妾奉公をさせていた彼が、いまでは道場のあるじ
になり、女を三人も使って贅沢な生活をしている。いったいどこからそんな金が出たのか、そうだ、い
ったいどこからそんな金が出たのか。寺へかよいだいこく[#「だいこく」に傍点]にいっていた妹も
、いまではどこかの武家屋敷へ奉公にいっている。もう妹に稼《かせ》がせる必要もなくなったのだ。
つまりそれだけの金が、どこからはいって来るのであろう、どこからだ。
「一ノ関」新八は唇を噛んだ。
 藤沢内蔵助らの話しが、いまべつの意味で思いだされた。一ノ関の用人が扶持しようという、同じ人
の手から柿崎にも扶持が来ている。とすれば、そのたね[#「たね」に傍点]はおれだ、と新八は思っ
た。
「柿崎は畑姉弟をも、そうだ、畑姉弟をも手に入れようとした、姉弟を保護するためではない、おれと
同じように自分の手に入れて、一ノ関から金をひきだすたね[#「たね」に傍点]にしようとしたのだ
0026名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 00:45:51.00ID:XHellqth
 伊東七十郎は云った。
 ――僅か八日か九日のことを、どうして酒井侯は知ったんですか、酒井侯は新吉原の目付
でもしているんですか。
 おそらく、七十郎は局外者だけに、却《かえ》って兵部の通謀を見やぶることができたの
であろう。明らかに、雅楽頭に通謀する者がいる、という口ぶりであった。
 だがそれは済んだことだ。綱宗の逼塞はもはやどうしようもない。しかし、六十万石を分
割するという陰謀は重大である。元和五年に福島|正則《まさのり》が除封されてから、蒲
生《がもう》氏、加藤氏、田中氏はじめ、除封削封された諸侯は十指に余っている。もちろ
ん幕府の基礎と権威をかためるためだから、口実さえあれば伊達家だとて遠慮はしないだろ
う。
 甲斐は溜息《ためいき》をついた。
「なにか仰しゃいましたか」と駕籠の前から、政右衛門が云った。
「いや、なんでもない」と甲斐は云った、「少しいそいでやってくれ」

[#3字下げ]断章(二)[#「断章(二)」は中見出し]

 ――ただいま到着しました。
「待っていた」
 ――仙台でひまをとりました、御城下はすっかり秋でございましたが、こちらの残暑のひ
どいのには驚きました。
「使いはまにあったか」
 ――まにあいました。
「ようすを聞こう」
 ――お使者をいただきましたので、一ノ関からすぐ仙台へとばしました。里見十左衛門は
すでに江戸から到着しておりましたが、奥山どのが吉岡の館《たて》へまいられたので、戻
って来るまで会議が延びていたところでした。
「大学が館へいっていたと」
 ――そのように、うかがいました。
「この大事なときに、国老の身で城下を留守にする、奥山大学はそういう男だ」
 ――はあ。
「むかしから傲岸《ごうがん》な男だったが、おれがめ[#「め」に傍点]をかけてやるよ
うになってからまるで摂関《せっかん》きどりだ、しかし、まあよい、そこが彼の役に立つ
ところでもある」
 ――はあ。
「ようすを聞こう」
 ――会議は七月三十日に城中お広書院でひらかれました、御老職、古内主膳どのは欠席で
ございます。
「古内は高野山へいった」
 ――義山[#1段階小さな文字](先代忠宗)[#小さな文字終わり]さまの御法要とう
かがいました。
「義山公の法要で高野山へいって、九月でなければ戻らない筈だ」
 ――弾正《だんじょう》[#1段階小さな文字](伊達|宗敏《むねとし》)[#小さな
文字終わり]さま御出府のあとにて、安房《あわ》[#1段階小さな文字](同|宗実《む
ねざね》)[#小さな文字終わり]さまが御上座、まず老臣誓書のことが出ました。
[#ここから2字下げ]
御家の大変に当り、今後は一門老臣の和合協力が必要である。よって神文誓書して、なにご
とによらず、互いに熟議相談しておこなうこと、独り主君にもの申すことあるべからず。ま
た、互いにいかなる意趣あるとも、向後十年間は相互に堪忍して公用の全きよう勤むべし。

[#ここで字下げ終わり]
0027名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 00:46:26.46ID:XHellqth
 石川大和さまが、かように御披露なされ、安房さまはじめ御一同が了承のむねを述べられ
ましたところ、奥山どのがその席から「いや」と反対の発言をなさいました。
「申したか」
 ――申されました。
「なんと云った」
 ――主君のためによきことならば、自分は独りぬきんでても申上げる、相談のうえなどと
いう迂遠《うえん》な誓言《せいげん》はできない。
「思ったとおりだ」
 ――はあ。
「次になんと云った」
 ――また、向後十年間は相互に堪忍せよとあるが、これも堪忍ならぬ意趣があれば堪忍は
ならぬ、と申されました。
「そうか、堪忍ならぬ意趣があれば堪忍はせぬ、とな」
 ――はっきり云われました。
「思ったとおりだ」
 ――はあ。
「大学はおれの思ったとおりに増長する、このあいだ評定役《ひょうじょうやく》の会議が
あった、そのとき、遠山|勘解由《かげゆ》ひとりが異をとなえた」
 ――遠山と申しますと。
「大学の弟だ」
 ――さようでございますか。
「勘解由を評定役にしたのはおれだ、おれが大学にそうするよう暗示をかけた。大学はとび
ついた、弟を評定役にすることが、自分の地盤を固めると思ったのだ、そうして、まず弟に
手柄をたてさせようとした」
 ――すると、異をとなえましたのは。
「大学のさしがねだ」
 ――仙台からですか。
「仙台から指図をしたのだ、おれは大学がなにか始めるだろうと思っていた、焚木《たきぎ
》をくべて、火のおこるのを待っていたのだ」
 ――火はおこりそうでございますか。
「あとを聞こう」
 ――奥山どのの言葉を、石川大和さまがなだめられ、安房さまが強い意見を述べられまし
た。その結果、奥山どのお一人は、べつに誓紙を出すということに決着いたしました。
「入札《いれふだ》の件は」
 ――これまた奥山どのから異論が出ました。
「どう申した」
 ――綱宗さまには、亀千代君という紛れもなき世子《せいし》があられる。されば、誰を
お世継にするかなどという論の起こる筈もなし、まして入札などとは以《もっ》てのほかの
ことだ。自分はさような不道理なことは断じてせぬ、と云われました。
「みな黙っていたか」
 ――いちじは座が白けかえり、会議は中止かとみえましたが、やがて安房さまが、入札の
件は江戸にある一門老臣の合議で定《きま》ったことだから、自分はそれに従うことにする
し、おのおのも不服がなければ入札をしてもらいたい、吉岡どのは近日ちゅうに出府される
予定だから、その意見は江戸邸へいって述べられるがよかろう、こう申されました。
「大学はどうした」
 ――入札をしました。
「なんと」
 ――意見は江戸へまいってから述べるが、御一同が入札をなさるなら、自分もいちおう入
札を致そう、ということでした。
「では無事に終ったのだな」
0028名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 00:46:55.38ID:XHellqth
 ――さようでございます。
「結果の予想はどうだ」
 ――わかりません。
「およその形勢は」
 ――御一同、亀千代君、というように考えられますが。
「やはり、そうか」
 ――しかしこれは私の想像でございます。
「亀千代どのか、うん、たぶんそんなところであろう。およそそんなことだろうとは思って
いた」
 ――はあ。
「だが公儀はそれではとおるまい。伊達ほどの大藩の跡目に、乳のみ児を申立てるとは、頭
の古い者どもだ」
 ――はあ。
「在国の者と江戸の差だな、こっちではさすがに頭をつかう者がある。入札もいちようでは
なかった」
 ――おぼしめしにかなう入札がございましたか。
「いろいろあった、右京[#1段階小さな文字](伊達|宗良《むねよし》)[#小さな文
字終わり]どの、式部[#1段階小さな文字](同|宗倫《むねとも》)[#小さな文字終
わり]どの、に入れた者もある。二人は綱宗どのの兄に当るからだが、このおれに入れた者
もあった」
 ――どなたでございましょう。
「誰だかな、はは、そんなみえ透いたことをやるやつはたいてい見当はつく。おれがそんな
手に乗ると思うようなやつは、……よし、さがって休むがいい」
 ――はあ。
「待て、涌谷《わくや》は出てまいるだろうな」
 ――涌谷さまはもうお着きのじぶんと存じますが。
「まだ着かぬぞ」
 ――入札を待たずに御出府なさいましたが。
「涌谷はまだ着かぬ」
 ――おかしゅうございますな、私はもう、とうにお着きのことと思っていました。
「途中で追いぬいたのではないか」
 ――まったく気づかずにまいりました。
「すると、いや、そんなことはあるまい、あれはただ頑固一徹だけで、裏から策謀するよう
なことのできぬ男だ、そのほうどの道をまいった」
 ――浜街道をまいりました。
「よし、さがって休め」
 ――はっ。
「誰だ、隼人《はやと》か、まいれ」
 ――御免。
「いま国から大槻斎宮《おおつきいつき》が着いた、仙台のようすはほぼ予想どおりらしい
。大学がまいるとひともめあるぞ」
 ――申上げることがございます。
「なんだ」
 ――船岡どのが板倉侯と会われました。
「…………」
 ――伊東七十郎の手引きで、船岡どのは浜屋敷へあがり、その帰りに侯の下屋敷へまわら
れました。
「甲斐が、板倉侯とか」
 ――手作りのくるみ味噌を進上のため、ということで、おそらくそのとおりかと存じます
が、報告してまいりましたので、念のため申上げます。
0029名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 00:47:28.87ID:XHellqth
「わかった、おぼえておこう」
 ――これだけでございます。
「よし、さがってよし」

[#3字下げ]世間の米[#「世間の米」は中見出し]

 おみや[#「みや」に傍点]は、花川戸から仲町の通りへ出たところで、頭巾をかぶった
まま、すばやく左右を眺めまわした。着物も帯も黒っぽい、地味なものだし、頭巾で顔を隠
し、小さな包みを抱えた手に、数珠をかけている姿は、若い後家といった恰好にみえた。
 午前の十時ころ、――仲町の通りは、浅草寺《せんそうじ》へ参詣《さんけい》する人で
、かなり賑《にぎ》わっていた。おみや[#「みや」に傍点]は知った人はいないかと、左
右に注意しながら、大川橋のほうへ曲ったが、そのとき、向うから来る、旅姿の若侍を見て
、どきっとしたように立停った。
 侍はごく若かった。笠をかぶっているので、年齢はよくわからないが、その顔だちや、骨
ぼそな躯つきで、まだ少年だということが察しられた。
 その若侍は埃《ほこり》まみれであった。肩から埃にまみれ、草鞋をはいた足は泥だらけ
で、袴の裾にも、乾いた泥のはねがいっぱい付いていた。
「もし、あなた」とおみや[#「みや」に傍点]が呼びかけた。
 侍はびっくりした。こちらが驚くほどびっくりして、顔色の変るのがみえた。彼は棒立ち
になり、ついで逃げようとした。おみや[#「みや」に傍点]は追いすがりながら頭巾をと
った。
「もし、待って下さいな」とおみや[#「みや」に傍点]は云った、「あなた、宮本さまの
新さんでしょう、あたしですよ」
 侍は振返った。
「あたしみや[#「みや」に傍点]ですよ、ほら、お浜屋敷の渡辺にいた、――お忘れにな
って」
「お浜屋敷ですって」
「渡辺九郎左衛門のうちの者ですよ」とおみや[#「みや」に傍点]は云った、「あなたお
兄さまのお使いで、御本邸から幾たびもいらしったことがあるじゃありませんか、お茶をさ
しあげたり、御膳の給仕をしてあげたみや[#「みや」に傍点]をお忘れになったの」
「ああ、あなたですか」
 彼は宮本新八であった。彼はようやく安堵《あんど》したらしい。十六歳という年をあら
わした、親しみとなつかしさの眼でおみや[#「みや」に傍点]を見、ぶきように目礼をし
た。
「おみそれして失礼しました、いろいろな事があって気がせいていたし、それに……」
「恰好が変ったからでしょ」おみや[#「みや」に傍点]はくすっと笑った、「こんな恰好
では見違えるのはあたりまえだわね、あなたはどこかへいらしったんですか、お旅帰りのご
ようすだけれど」
「いや、私は」
 新八はすばやく周囲を見まわした。そして、ごくっと唾をのみながら俯向《うつむ》いた
。すると、かぶっている笠のために、その顔が見えなくなった。
「私は、逃げて来たんです」
 おみや[#「みや」に傍点]もあたりに眼をやった。
「逃げて来たんですって」
「ええ、でもここでは云えません、追われているんです」新八は云った、「仙台へ送られる
途中で逃げたんです、捉《つか》まったら命はないでしょうから、これで失礼します」
「お待ちなさいよ、それであなた、どこへいらっしゃるの」
「私は、私はこれから」
「たよってゆく知合いがおありになるの」
「わかりませんけれど」と新八はあいまいに云った、「でも、たぶん、大丈夫だろうと思う
んです」
0030名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 00:47:57.15ID:XHellqth
「歩きましょう」
 おみや[#「みや」に傍点]は歩きだした。新八もそれに続いた。おみや[#「みや」に
傍点]は云った。
「あたしの旦那も、あなたのお兄さんと同じようなめ[#「め」に傍点]にあったから、事
情はおよそわかります。だからうかがうんだけれど、めったなところへいらっしゃると、そ
れこそ自分から罠《わな》へはまるようなことになりますよ」
「それは考えているんです」
「それで、本当に大丈夫なんですか」
「わかりません、でも、いちど助けてもらったし、立派な人だということは、みんなが云っ
ていますから」
「では御家中の方ね」
「ええ、評定役の原田さんです」と新八は云った。
「それはだめ、それはいけないわ」とおみや[#「みや」に傍点]が云った、「あたしも原
田さまの評判は聞いているわ、評判ではずいぶんいい方らしいけれど、あたしの旦那は似而
非者《えせもの》だって云ってたことよ、あれは心の底の知れない人間だ、なにも知らない
ような顔をして、心のなかでどんな悪企みをしているかわからないやつだって」
「私はそうは思いません、死んだ兄も尊敬していたし、兄が殺された晩にも、私たちは原田
さんに匿《かく》まってもらったんです」
「その話はあとにして、あたしのうちへいらっしゃい」とおみや[#「みや」に傍点]は云
った、「この向うの、材木町の裏にあるの、それこそ汚ない狭っくるしいうちだけれど、兄
と二人だけだから遠慮はいらないし、あなたの泊るところぐらいあってよ」
「しかし、私は、――」
「だって、原田さまを訪ねていって、大丈夫だっていう証拠はないんでしょ」
 新八は黙っていた。
「あたしとあなたとは、そっくり同じような身の上なのよ、そうでしょ」とおみや[#「み
や」に傍点]は云った、「いらっしゃい、あなたのお年では世間がわからないから、自分だ
けの考えでなにかするのは危ないわ、あたしでよければお力になってあげてよ、ね、いっし
ょにいらっしゃいよ」
 新八はようやく、だが不決断に頷いた。
 おみや[#「みや」に傍点]はちょっと迷った。新八を説きふせるまでは、どうかして家
へ連れてゆこうと思ったが、彼が承知したとたんに、兄のことが頭にうかんだ。
 ――あの呑んだくれが。
 とおみや[#「みや」に傍点]は思った。
 ――きっと怒るにちがいない、怒って乱暴するかもしれないわ。
 しかしおみや[#「みや」に傍点]は、すぐに肚《はら》をきめた。兄の世話になるわけ
ではない、自分が兄を食わせてやっているんだ。渡辺へ妾《めかけ》奉公にあがっていたと
きも、月づき仕送りをしていたし、いまでは「かよいだいこく」とかいう恥ずかしいことを
しながら、兄を食わせているし、酒も飲ませているのである。
 ――なにも恐れることなんかありゃあしないわ。
 おみや[#「みや」に傍点]は新八を見た。
「さきに云っておくけれど」とおみや[#「みや」に傍点]は云った、「兄はちょっと酒く
せが悪くって、なにか悪口を云うかもしれません、でもそれは酒が云わせるんですからね、
酔っていないときは温和《おとな》しい気の好《い》い人間なんですから、なにを云われて
も悪く思わないで下さいよ」
「それは、でも、いいのですか」
「大丈夫よ」とおみや[#「みや」に傍点]は笑いながら頷いた、「ながい浪人ぐらしで、
出世の手蔓《てづる》はなし、妹のあたしの世話になっているのが自分で辛いんでしょ、そ
れでつい飲まずにはいられないし、飲めば八つ当りをするというわけなのよ」
「貴女《あなた》は武家出なんですか」
0031名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 00:49:45.02ID:XHellqth
「ええそう、あら、ここの裏よ、泥溝板《どぶいた》に気をつけて下さいな」
 材木町の大川端《おおかわばた》に面した家並の、細い路地をはいると、小さな二戸建の
家があり、路地のつき当りは、すぐ大川になっていた。おみや[#「みや」に傍点]はその
二戸建の、大川に近いほうの家へいって、帰った挨拶をし、留守の礼を述べた。家の中の返
辞は、若い女の声であった。
「かこい者なのよ」
 おみや[#「みや」に傍点]は新八に囁いた。それから自分の家の戸をあけた。さして古
い家ともみえないが、安普請なのだろう、たてつけが悪く、戸はぎしぎしと軋《きし》んだ
。おみや[#「みや」に傍点]はさきにあがって、中から勝手口をあけ、洗足《すすぎ》の
水を取ってくれた。
 部屋は上り端《はな》の三帖のほかに、六帖が二た間あり、入口と反対のほうに三尺の廊
下、その戸をあけると板塀で、向うの家の庇が、その板塀の上にのしかかっていた。
 新八があがってゆくと、おみや[#「みや」に傍点]は裏の戸をあけ、障子もあけ放して
、ちらかっている部屋の中を、手ばしこく片づけていた。
「ゆうべでかけたままなのよ」とおみや[#「みや」に傍点]は云った、「きっとまたどこ
かで酔いつぶれているんだわ」
 おみや[#「みや」に傍点]は休みなしに話した。彼女は浮き浮きしていた。柔軟な身ご
なしや、なめらかで、抑揚たっぷりな話しぶりや、ときおり新八を見るながし眼などは、殆
んど媚《こ》びるほどたのしげにみえた。
 おみや[#「みや」に傍点]は話しつづけた。
 彼女の兄は柿崎六郎兵衛といい、年は二十七歳になる。父は五年まえ、母は七年まえに死
んだ。父は八郎兵衛といって、大垣の戸田家に仕え、六百石ばかりの侍大将であった。父は
若いころ島原の乱に出て、かなりな手柄をたてたが、主君の戸田|氏銕《うじかね》が亡く
なってから、家中の折りあいが悪く、自分から身をひいて浪人した。――そのとき母はすで
に死んだあとで、一家三人は江戸へ出て来たが、江戸へ来るとまもなく父も死んだ。母の墓
は大垣の在にあり、父の遺骨はまだその家にある。いつか旅費と暇ができたら、父の遺骨を
持っていって、大垣在にある母の墓へいっしょに埋めるつもりである。とおみや[#「みや
」に傍点]は話した。
 兄の六郎兵衛は剣術が上手で、大垣でも評判だったし、江戸へ来てからも、諸方の道場へ
いって試合をしたが、負けたことは一度もない。しばしば道場から「師範になってくれ」と
たのまれるが、六郎兵衛は承知しないのであった。
 ――自分の刀法は生活の手段ではない。
 六郎兵衛はそう云うのである。主君に仕えて「いざ鎌倉」というばあい役立てるための刀
法であって、食うために修業したのではない。六郎兵衛は頑固にそう云うのであった。
「あたしはじめのうちは兄の云うことを信用しなかったのよ」とおみや[#「みや」に傍点
]は云った、「でも三年まえにいちど、……そのときは深川のほうにいたんだけれど、兄が
五人の侍と喧嘩をして、五人とも刀を抜いたのに、兄は刀を抜かないで、五人ともやっつけ
るのを見たわ、それで兄はほんとうに強いんだなとわかってから、この兄のためなら苦労を
してもいいわって思ったのよ」
 新八は聞いていなかった。
 彼はおみや[#「みや」に傍点]が渡辺九郎左衛門の妻でなく、側女《そばめ》だという
ことを知っていた。兄の使いで五度ほど渡辺を訪ねたことがあるし、茶菓や、食事を馳走さ
れたこともあるが、そのときのようすでは、彼女は召使いのような印象であった。
「あたしが渡辺の旦那のところへあがったのも、兄にいい出世のくちがみつかるまでと思っ
たからよ」とおみや[#「みや」に傍点]は云った。それからふと話しを変えた。それ以上
は話してはいけない、ということに気づいたらしい。おみや[#「みや」に傍点]は取って
付けたように「ごめんあそばせ」と云い、隣りの六帖で着替えをしながら云った。
「あなた、どこでお逃げになったの」
「片倉という処です」と新八は云った、「常陸《ひたち》の片倉という処で、護送者の隙を
みて逃げたんです」
0032名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 00:50:20.02ID:XHellqth
「そこは遠いの」
「江戸から三日かかりました、江戸を出たのが七月二十九日ですから」
「今日はもう八月七日よ」
「まわり道をしましたから」と新八が云った、「もとの道では捉まると思ったので、片倉の
近くに巴《ともえ》川という川があるんですが、その川にそって下って、霞ヶ浦という処へ
出て、そこは湖なんですが、船で江戸崎という処へ渡って、それから」
「そんなこと云われてもあたしにはちんぷんかんぷんだわ」おみや[#「みや」に傍点]は
苦笑した。
 着替えを済ませ、脱いだ物を掛けたり、たたんだりし、また茶の支度をしながら、彼女は
つぎつぎと質問をした。
 ――だらしのないひとだな。
 新八はそう思いながら、気のすすまない調子で、訊かれることに返辞をした。
 ――話しをするなら、坐ってすればいいのに、着替えもしないうちに話しかけたり、湯を
沸かしながら話したり、訊きもしない身の上ばなしをしたり。
 と新八は思った。
 ――武家そだちとは思えない、まるで町人のようだ。
 彼はやはり原田を訪ねればよかったと思った。そう思いながら、返辞だけはした。
 おみや[#「みや」に傍点]の兄の六郎兵衛は、日が昏《く》れてから帰って来た。年は
二十七だというが、新八の眼には三十四五くらいにみえた。痩《や》せた筋肉質の躯《から
だ》で、顔は頬骨が高く、酔っているためだろうが、赤く充血した、するどい眼つきをして
いた。なかなかしゃれ者とみえ、栗色の縞の着物に黄麻《きびら》の羽折を重ね、白の足袋
をはいていたが、帰って来るとすぐに、それらを脱ぎちらして、おみや[#「みや」に傍点
]をびしびしと叱りながら、常着《つねぎ》に着替えた。
 おみや[#「みや」に傍点]はなにを云われても口答えをしなかった。まるで仔猫《こね
こ》のような従順さで、手ばしこく兄の世話をした。
 新八は固くなっていた。六郎兵衛はまったく新八を無視していた。新八のほうは見もせず
、もちろん声もかけなかった。
「酒の支度はできているか」
 坐るとたんに、六郎兵衛はそう云った。
「すぐにできますわ」とおみや[#「みや」に傍点]が答えた。
 彼女は兄の脱いだ物を片づけながら、新八のほうを見て、「こちらの方は」と云いかけた
。すると六郎兵衛は、聞きもせずに遮《さえぎ》った。
「うるさい、酒を早くしろ」
「はい」とおみや[#「みや」に傍点]は口をつぐんだ。
 六郎兵衛は黙って飲み、やがて飲み終ると、夜具をとらせて寝てしまった。
 それまで新八には、食事が出されなかった。おみや[#「みや」に傍点]は兄の給仕にか
かりきりで、新八には話しかける隙もなかった。六郎兵衛の酒は一|刻《とき》ばかりかか
ったが、そのあいだ、彼は少しも妹をはなさず、次から次と用を云いつけた。
 ――失礼な人だな。
 新八はそう思った。厄介になっている、というひけめで、固くるしく坐っていながら、六
郎兵衛の態度の無礼さに腹が立った。
 ――出ていってやろうか。
 そんなふうにも思った。六郎兵衛の寝たあと、おみや[#「みや」に傍点]はこちらの六
帖へ食事の膳立てをした。兄の耳を恐れるように、忍び足で、殆んどもの音を立てずに支度
をした。
「おそくなってごめんなさい」とおみや[#「みや」に傍点]は囁いた。「おなかがすいた
でしょ」
 新八は首を振った。おみや[#「みや」に傍点]はもっと低い声で囁いた。
「酔っているときはむずかしいの、きげんの好いときもあるし、たいていきげんがいいんだ
けれど、そうでないときは雷さまみたようなの、気を悪くしないでね」
0033名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 00:50:49.05ID:XHellqth
「失礼したほうがいいんじゃありませんか」
「朝になったら話すわ」とおみや[#「みや」に傍点]が云った、「酔がさめれば人が違っ
たようになるのよ、話しをすればわかるし、きっと力になってくれると思うわ、さあ、めし
あがれ」
 新八は食欲がなかった。朝食を早く喰《た》べたままだから、空腹なことはたしかだが、
空腹が過ぎたのと、六郎兵衛のいやな態度で、すっかり食欲がなくなっていた。
 その夜、二人は同じ部屋で寝た。もちろん夜具は端と端へはなれていたが、新八は寝ぐる
しかった。
「堪忍してちょうだい」おみや[#「みや」に傍点]が夜具の中からそう囁いた、「兄は癇
性《かんしょう》で、人が同じ部屋にいると眠れないんですって、迷惑でしょうけれどがま
んして下さいね」
 新八は眼をつむったまま、黙って頷いた。女と同じ部屋で寝ることなどは初めてだし、な
にやら気が咎《とが》めるようで、おみや[#「みや」に傍点]のほうを見ることができな
かった。
「おやすみあそばせ」とおみや[#「みや」に傍点]が囁いた。
 六郎兵衛と話しをしたのは、それから五日のちのことであった。それまでは起きるとすぐ
に飲み始め、酔うと出てゆき、帰るとまた飲み、酔っては寝てしまうのである。新八は無視
したままだし、妹にも話しかける隙は与えなかった。
 五日めの朝、彼は妹に云った、「こちらはどういう人だ」
 それは朝食のあとであった。
 珍らしく六郎兵衛は酒を飲まなかった。不味《まず》そうに茶漬を喰べたあと、茶を啜《
すす》りながら妹に話しかけたのである。おみや[#「みや」に傍点]は新八の話しをした

「簡単に話せ」と六郎兵衛は云った。
 おみや[#「みや」に傍点]は「はい」といった。自分では簡単に話すつもりだったろう
、しかしそれは諄《くど》くて長かった。
「もっと要点だけにしろ」と六郎兵衛はまた云った。
 おみや[#「みや」に傍点]の話しが終ってから、彼はぼんやりと壁を眺めたまま、やや
しばらくなにも云わなかった。それからふと妹を見た。
「おまえでかけないのか」
「ええ、いいんです」とおみや[#「みや」に傍点]が云った、「なんだか叡山《えいざん
》に用があるとかってでかけて、今月いっぱい帰らないんです」
「茶をくれ」と六郎兵衛は云った。
 おみや[#「みや」に傍点]が茶を注ぐと、彼はそれには口をつけず、疲れたような眼で
新八を見た。
「国許へ護送される途中ということだが、国許へいってからは、どうなる筈だったのか」
「永の預けということでした」と新八が答えた。
「これの主人も斬られた」と六郎兵衛が云った、「そこもとの兄と、ほかにも二人斬られた
そうだ、陸奥守に放蕩《ほうとう》をすすめたというかどで、いちどの糾明もなく、暗殺さ
れた、そして暗殺者は、上意討だと云ったそうだな」
「私は知りません」
「みや[#「みや」に傍点]が自分で聞いたんだ」と六郎兵衛は云った。新八は屹《きっ》
とした顔で六郎兵衛を見た。
「私は信じません」と新八は云った、「もし本当にそう云ったとすれば詐称です、私は上意
討などということは信じません」
「どうして」
「私は、私は知っているんです」
「なにを」
「それは、云えません」と新八は眼を伏せた。
 六郎兵衛はじっと新八を見た。それから低い声で云った。
0034名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 00:51:19.59ID:XHellqth
「江戸へ逃げ帰ったのは、そのためか」
「なんですか」
「兄の仇《あだ》を討つためだろう」と六郎兵衛が云った。新八は躯を固くし、黙って顔を
そむけた。
「相手は誰だ」
 新八は答えなかった。
「私が云おうか」と六郎兵衛が云った、「兵部少輔宗勝、――違うか」
 新八はぴくっとふるえた。兵部少輔宗勝。まさか六郎兵衛が知っていようとは予想もしな
かったので、その名を云われたときは、心のなかを見透《みすか》されたように思った。
「伊達家に内紛があるということは聞いていたし、みや[#「みや」に傍点]の話しであら
まし察しがついたのだが、そこもとの考えはどうだ」
「私も、私も、そう思います」
「話してくれ」と六郎兵衛が云った、「なにかはっきりした根拠があるのか」
「初めからそうだったんです」と新八は云った、「渡辺さんや兄たちは、一ノ関さまに云い
含められて、殿さまを新吉原へお伴《つ》れ申し、世間の噂《うわさ》になるようにしたん
です」
「兄上が云ったのか」
「兄がいいました」
「理由はなんだ」と六郎兵衛が訊いた。
「御家の系譜を正しくするためだと聞きました」
「系譜を正すって」
「そうです」と新八は強く頷いた。
 逼塞《ひっそく》になった綱宗は、亡き忠宗の六男であった。長男の虎千代は七歳で夭折
《ようせつ》、二男の光宗は十九歳で死んだ。長男と二男と、そして立花[#1段階小さな
文字](左近将監)[#小さな文字終わり]忠茂に嫁したなべ[#「なべ」に傍点]姫の三
人が正夫人ふり[#「ふり」に傍点]姫から生れた。ふり[#「ふり」に傍点]姫は池田|
輝政《てるまさ》の女《むすめ》で、徳川秀忠の養女として忠宗に嫁したのであった。
 このほかに、三男亀千代、四男[#1段階小さな文字](夭折)[#小さな文字終わり]
五郎吉、五男辰之助、六男|巳之助丸《みのすけまる》[#1段階小さな文字](綱宗)[
#小さな文字終わり]という子たちがおり、これはみな側室から生れた。正保二年、光宗が
十九歳で死んだとき、正夫人ふり[#「ふり」に傍点]姫は、いちばん末子の巳之助丸[#
1段階小さな文字](綱宗)[#小さな文字終わり]を世継にするよう主張した。
 それは、巳之助丸の生母が、櫛笥《くしげ》左中将|隆致《たかむね》の女《むすめ》だ
ったからである。彼女は貝姫といい、その姉の逢春門院《ほうしゅんもんいん》は後西天皇
の御生母であった。こういう名門の出である母から生れたので、正夫人は彼を世継に推した
らしい。そして、彼は二人の兄をさし越して、忠宗の世子に直った。
 三男は田村家を継いで、いま右京亮宗良《うきょうのすけむねよし》となのり、栗原郡岩
ヶ崎、一万五千石の館主《たてぬし》である。五男も分家して、式部|宗倫《むねとも》と
いい登米《とめ》郡寺池、一万二千石の館主であった。
「すると、つまるところ」と六郎兵衛が云った、「上に二人の兄があるのに、末子が跡目《
あとめ》を継いだ、それが不当だということか」
「ひと口に申せばそうです」と新八が云った、「兄も正《まさ》しくそうだと云っていまし
た」
「それは兵部の説だな」
「兄はそうだと云いました」
「あとを聞こう」と六郎兵衛が云った。
「私もそうかと思っていたのですが、殿さまが御逼塞になった日、兄は、はかられた、と申
しておりました」
「はかられたって」
0035名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 12:58:21.43ID:xgSqTrQK
122
0036名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:00:09.03ID:xgSqTrQK
あss
0037名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:02:36.16ID:xgSqTrQK
くぇd
0038名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:03:33.56ID:xgSqTrQK
456
0039名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:03:49.69ID:xgSqTrQK
うぇr
0040名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:04:16.60ID:xgSqTrQK
13s
0041名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:04:31.57ID:xgSqTrQK
dfg
0042名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:04:47.37ID:xgSqTrQK
るち
0043名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:05:02.33ID:xgSqTrQK
1うぇ、f
0044名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:05:25.34ID:xgSqTrQK
とglk
0045名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:05:45.63ID:xgSqTrQK
あsdふぇ
0046名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:05:58.26ID:xgSqTrQK
えrty
0047名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:06:10.66ID:xgSqTrQK
えrtdf
0048名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:06:23.96ID:xgSqTrQK
くぇcf
0049名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:07:01.26ID:xgSqTrQK
lfkf
0050名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:07:13.48ID:xgSqTrQK
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0051名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:07:53.66ID:xgSqTrQK
456
0052名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:13:34.03ID:xgSqTrQK
ffgh
0053名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:13:49.51ID:xgSqTrQK
dfgれ
0054名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:13:59.43ID:xgSqTrQK
えふぇrg
0055名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:14:10.76ID:xgSqTrQK
sddfsg
0056名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:14:22.11ID:xgSqTrQK
ghgjg
0057名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:14:32.81ID:xgSqTrQK
ccbcgb
0058名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:14:44.00ID:xgSqTrQK
kじょljl。
0059名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:14:52.90ID:xgSqTrQK
;・ん・
0060名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:15:05.35ID:xgSqTrQK
うぃう
0061名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:15:19.55ID:xgSqTrQK
うぃう
0062名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:15:44.77ID:xgSqTrQK
kgvkm
0063名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:16:03.61ID:xgSqTrQK
いおうおl
0064名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:16:15.41ID:xgSqTrQK
xxrfg
0065名無しさん@お腹いっぱい。垢版2020/01/07(火) 13:24:23.84ID:xgSqTrQK
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