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まったりうっちゃー
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0003名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/01(日) 21:28:05.26
ツイッターってそういうものであふれていてもおかしくないのに、私が思うほどにはみんなそういうことを書かない。なぜ書かないで済むんだろう、と考えていて、恐ろしいことに気がついた。
 もしかしたらみんな、夫や妻や恋人や友達や家族や、生身の人間にこういうことを言っているからネットには書かないんじゃないだろうか。
0004名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/01(日) 21:32:59.17
私は以前から、「夫にこんなに愛されています!」という直截的な話ではなく、何気ない日常語りのなかにきわめて自然な形でパートナーへの信頼とか思慕の情とかが勝手に漏れ出てきてしまっているものがいちばんのノロケだと思っていました。
 自分がドジをして夫にこんなことを言われちゃいましたとか、夫がこんなマヌケなことをしましたとか、「○○ってとてもおいしいですよね。私の夫もすごく口に合ったみたいで......」と、食べ物の話題からいつの間にか主語が移行したりとか。
 ノロケのつもりもなく為されているそういう場面に出くわすと、その人が世界を全面的に肯定しているように感じて圧倒され、いつも断絶を感じていました。
0005名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/01(日) 21:34:38.15
なんてこった。これが生活なのだ。いままで私は生活なんてちっともしてこなかった。これこそがまさにやりたかったことだけど、予想を上回る充実度です。ひとつひとつが新鮮で、毎日驚いてしまいます。おはようと言う相手の人がいたり、おやすみと言う相手の人がいたり。
0006名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/01(日) 21:36:08.01
 こんな生活を知人に報告すると、やはりというか意外にもというか、「恋愛(というかセックス)に発展するんじゃないの?」などと言われることが時々ありました。
 もちろん、そんなことが起こるわけもない。半同棲生活となってからは、私はアキラを話題にするときにあえて面白がって「夫(仮)」という呼び方をするようになったものの、夫(仮)であろうと老けデブ専のゲイである。彼も私も、お互いを全く性的対象と見ていない。
 私の究極の理想は、「恋愛のない、幸せな結婚生活」を築いた上で、あわよくば別の人とも薄くて先のない恋愛っぽい関係を持ち、私の少女漫画止まりの心を満たす、ということです。だから、実態はともかく、形としては「不倫」が最終目標。
0007名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/01(日) 21:37:33.26
最初に加寿子荘に住んだときは風呂ナシの部屋で家賃が4万円だったけれど、じわじわと仕事が増え、収入も上がりました。
仕事場兼自宅として借りているこの神楽坂のマンションの家賃は18万円もします。
私の感覚では、この規模は十分に大金持ちです。持て余すほどの巨万の富です。あの頃からは想像もつきません。
0008名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/01(日) 21:39:35.43
しかし、「夫のちんぽが入らない」は、視野の狭い主人公が、自らの主観的な不幸にどっぷりと浸かってその感覚を疑いもしていないように見えました。
彼女の感情は極端に平凡か、感情描写が極端に省略されており、何らかの珍奇な感覚や性指向によって悩む様子は見られません。彼女が深いコンプレックスを
持っているのは確かでしょうが、男が女である主人公を愛してくるという「常識的恋愛」に対しては違和感のかけらもなく、セックスという行為それ自体に
ついても何らかの疑問を抱く様子もなく、私には世間を支配する圧倒的多数の「常識側」に完全に与した状態で物語が展開しているように見えました。
夫とのセックスは確かに物理的な理由でうまくいかないようだけれど、ほかの男性とのセックスについてはすんなりと遂行しており、その背景にある心理の説明も私にとっては不十分でした。
0009名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 16:52:17.01
 タバコを吸うときの気持ちは中学生。身体は全然求めていないのに、わざわざむりやり吸ってみています。吸ってもおいしくないし、何とも思いません。
吸うことにしたんだから吸わなきゃ、といちいち思い出して吸うけれど、どうしたところでまったく自暴自棄にならないのです。子供の頃から身体が弱いから、
無茶しないよう、ストッパーがものすごく強く効いています。
 火葬から4日経っても、仕事の打ち合わせで話すことが何も思いつきません。やる気も起きません。あまりに自分が元気がないのをどこかで俯瞰していて、
絵に描いたように落ち込んでいるな! と思って、おならみたいな笑いが出ます。
 帰り、寄ったこともない神楽坂駅そばの不動産屋兼たばこ屋に寄って(そんなものがあるのです)、ネットで調べて興味を持ったちょっと変わり種のタバコを
3種類買ってみました。ガラム・ヌサンタラ、ダビドフ、アークロイヤル・パラダイス・ティー。こんなものを吸ったところでクスリみたいに飛ぶわけでもないし、
何にもならないのだから意味がない。分かっています。
 そして自宅までの道の途中、旧・加寿子荘、現・加寿子マンションの前を通りがかりました。
 私が22歳から33歳までを過ごした加寿子荘は、私が退去を決めたタイミングで建て替えることになり、完全に取り壊されて、そこには新しいマンションが建っています。
そして、その一階には大家さんだった加寿子さんが今も変わらず住んでいるはず。家が近いこともあり、引っ越したあとも私はちょくちょく事前の連絡もなく思い立っては
訪ねていって顔を見せ、旅のおみやげなぞを渡していましたが、それもなんとなくとぎれとぎれになっていました。記憶をたどって思い出してみると、なんと2年ほど加寿子さんに会っていませんでした。
0010名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 16:54:21.83
会うならこのタイミングだろう、と不意に思い、以前のように、また何の連絡もせずチャイムを押してしまいました。
加寿子荘のときのようなブザーではなく、今はもうインターフォンになっています。
「はい」という加寿子さんのか細い声がスピーカーから出てきました。まだこのお家にいらっしゃることにまずは一安心。
しかし、こちらが名乗っても、どうも反応が微妙です。名前に心当たりがない......という感じ。
 しばらくして玄関先に顔を出した加寿子さんに対し、私は改めて名前を名乗りました。昔住んでいた者です、とも言いました。
しかし、加寿子さんは顔を見てすら思い出せない様子です。そんな方いらしたかしら......ごめんなさいね、うーん......。
そう言われて私も必死になる。お風呂のある部屋に住んでまして。あの、奥の。10年ほどいたんですけどね。よくあの、前はおみやげとか持ってきてて。
 加寿子さんももう90歳で、老人性のナントカなのかもしれないけど......勘弁してほしい、忘れてしまわないでほしい。
0011名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 16:55:21.05
しつこくいろんなことを話していたら、「あー!」という感じもなく、じわじわ、と思い出してきた様子です。
「思い出せない」から「思い出した」への展開が劇的ではないところに奇妙な雰囲気がありましたが、ともかくも思い出してもらえたことにホッとする。
「ここを出て、あの、喫茶店のところに越して、それで、そこから柳町のところにいらしたのよね」
 そうですそうです。ああ、完全に思い出してくれました。
「それで、また引っ越しなさったの」
 そうなんです。今回ここに来たのは、名目上は、引っ越しましたという連絡のためです。私は加寿子荘を出て以来、どこに住んでも部屋に不満を感じてしまい、
2年間の賃貸契約の更新を待たずに近場で3回も引っ越していたのです。
「喫茶店のところにいらしたときはね、よく来てくださったんですよ。おみやげなんか持ってきてくださってね」
 ん、どこかおかしい。私に対して「あのへんにいらしたのよね」と言うと同時に「以前はよく来てくださったんですよ」と言う。ときどき、私のことを別の人と
して私に伝えている感じで、境界がモヤモヤしています。加寿子さんのなかで、かつての私と今の目の前の私が、ほんの少しだけ一致していません。完全に一致していないわけでもないところがなおさら不思議です。
0012名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 16:57:47.01
 雨宮さんが急に亡くなったとき、私は「結婚」計画のさなかでした。アキラと「結婚」を前提とした疑似カップルとなり、
週一くらいで家に遊びにいきはじめたちょうどその頃でした。
 しかし、友人が亡くなるという非常事態に際して、アキラの顔は全く思い浮かびませんでした。
 すがりたいとか、しゃべりたいとか、思いつきもしませんでした。
 おそらくアキラもこのニュースは知っているはずでしたが、アキラからも私を思いやるような連絡は一切入りませんでした。
 これは私にとってとても理想的なことです。
 あからさまに依存したり慰め合ったりするような関係にはなりたくないと思っていたところに、見事なタイミングでいちばんの
精神的危機が訪れたため、実践的に確かめた形となってしまいました。
 火葬から数日経ってやっとLINEを送り、ショックだしちょっとパニックになっているということはふんわりと伝えておきました。
もちろん心配してほしいわけではなく、会ったときに暗かったり様子がおかしかったりする可能性がある、と念のため言っておきたかっただけです。
0013名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 16:58:24.41
私はだいたい毎週木曜日にアキラの家に行くようになりました。
 神楽坂界隈の喫茶店などで書きものの仕事をして、ほどほどのところで切り上げ、地下鉄に乗って、22時前くらいにアキラの家に到着。
23時半までやっている銭湯に二人ででかけ、さっぱりして帰り、ちょっとしたごはんを作ってもらう。キッチンが1階、リビングが2階にあるおかしな構造の家なので、
何か作るたびに狭い螺旋階段をのぼって2階に届けてもらわないといけません。時折私が下まで取りにいったり、逆に効率悪いからとアキラにそれを断られたり。
 アキラは料理がヘタだと言い張っていましたが、私という作る相手ができたせいか、どんどんいろいろなものに挑戦していきます。
 フライパンで作る鉄鍋風餃子は焼き加減もちょうどよく、パリパリ具合が実においしい。ある日は「専用鍋付きで具も調味料もついてるセットがあって、すごい安かったのよ」と言って、
パエリアセットを買ってきて初めてパエリアを作り、せっかく鍋があるからとその後も何度か作って、すっかり得意料理となりました。どちらも、めんどくさがりの私は絶対に作らないものです。
0014名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 16:59:14.99
料理をしないぶん、私は気まぐれでたまに高級食材を持ち帰ります。あるときは旅行のおみやげとして、ツナ缶程度の大きさで一つ4千円もする礼文島のウニの缶詰を買って帰りました。
アキラに食べてほしいというよりも、ほぼ自分が食べたいがために買ったもの。
 しかし、値が張って一人なら購入をためらうものも、誰か自分以外にも食べる人がいるという言い訳をすれば買うためのハードルがものすごく下がります。
ウニ缶は猛烈においしいけれどとても濃厚で、2人で1缶食べきるのがたいへんなほどでした。存分に堪能。
 私たちの「結婚」は、まさにこういう「効率」のためのものです。
 誰かのために、一人じゃ作らない料理を作る、誰かのために一人じゃ買わない物を買う。
 晩ごはんが終わると、私は2階のこたつか3階のテーブルでうなりながら週刊連載のネタをひねり出し、文章を書き進めます。「今週は何のネタにするの?」なんて声をかけられるのも、
一人の仕事場では起こりえないこと。
 そして、アキラが2階、私は3階に別れて寝る。
0015名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 16:59:49.98
翌朝は、「朝食はパン派」のアキラにしたがって、焼いてもらったパンや目玉焼きをいただきます。
 その後、私は午前のどうでもよいテレビを眺めてダラダラしてから自宅に戻るなり、仕事の現場に行くなりします。
アキラも、洗濯をしたり、最近急に集めはじめた大量のバラの鉢に水をやりに屋上に行ったりと、忙しい。

 12月3日はアキラの誕生日なので、バースデーケーキを買ってアキラ邸に向かいました。小さめのホールケーキサイズの、
サダハルアオキで買った四角い黄色いチーズケーキ。プレートには、シャイニーゲイに抗うアキラに当てつけて「アキラ・シャイニー」と書いてもらう。
アキラは特に決まったパジャマを持っておらず、Tシャツや甚平などで寝ているので、誕生日プレゼントとしては暖かい部屋着をあげようと思いました。
ちょっと前にフライングタイガーで見かけた虎柄のつなぎのパジャマが話の種としてもおもしろそう。夫婦(仮)のお揃いのものとして2着買いました。
 直方体のケーキのキレイなカットを眺めながら、ずいぶん前、バレンタインの日に相磯さんに手作りチョコレートを贈ったことを思い出す。ケーキ屋さんのケーキのほうがおいしいに決まってるんだよね。心からそう思います。
0016名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 17:00:23.29
アキラの家の2階のこたつできちんとケーキにろうそくを立て、電気を消して。つなぎのパジャマを着てもらって。二人でのしっかりした誕生日パーティです。
 これはそもそも「擬似」である。「結婚」はもちろんのこと、おつきあいや半同棲、神田川よろしくカップルみたいに銭湯に行くこと、すべて「擬似」のはずだ。
しかし、毎週同じ部屋でダラダラとスマホを見ながら過ごしていること、そして誕生日プレゼント、誕生日パーティ、もうここまで経験すると、「擬似」の意味が分からなくなってくる。
アキラも一連の誕生日行事に腰が引けることもなく、それなりに楽しそうに受け入れている。
 こんな生活を知人に報告すると、やはりというか意外にもというか、「恋愛(というかセックス)に発展するんじゃないの?」などと言われることが時々ありました。
 もちろん、そんなことが起こるわけもない。半同棲生活となってからは、私はアキラを話題にするときにあえて面白がって「夫(仮)」という呼び方をするようになったものの、
夫(仮)であろうと老けデブ専のゲイである。彼も私も、お互いを全く性的対象と見ていない。
0017名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 17:00:47.63
 私の究極の理想は、「恋愛のない、幸せな結婚生活」を築いた上で、あわよくば別の人とも薄くて先のない恋愛っぽい関係を持ち、私の少女漫画止まりの心を満たす、
ということです。だから、実態はともかく、形としては「不倫」が最終目標。
 夫(仮)はちょくちょくハッテン場に行っているようなので、ある面ではその目標を果たしている。うらやましい限りです。
0018名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 17:01:18.66
週に約一回の訪問日以外は、もちろん今までどおり、一人暮らしの部屋にいます。
 最初に加寿子荘に住んだときは風呂ナシの部屋で家賃が4万円だったけれど、じわじわと仕事が増え、収入も上がりました。
仕事場兼自宅として借りているこの神楽坂のマンションの家賃は18万円もします。私の感覚では、この規模は十分に大金持ちです。
持て余すほどの巨万の富です。あの頃からは想像もつきません。
 それなのに、暖房がエアコンしかないこの部屋は、いくら設定温度を高めにしても寒い。冬のあいだ、ずっと酷寒です。
 思えば私は一人暮らし開始以来、冬あたたかい部屋に一度も住んだことがありません。
 きっと暖かくする手段はいくらでもあるんです。別の暖房を買い足すなり、部屋着を工夫するなり、温かいものを飲むなり。
0019名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 17:01:46.42
しかし、私は一人暮らしの自分にそんなことをしてやるつもりがまるでない。料理を全くしないから冷蔵庫にはほとんど食材もないし、お茶一杯すら入れる気にならない。
 そうして体の芯から冷え切った状態で、しんとした自宅で夜中に仕事をしていると、まだあの日から間もないし、すぐ雨宮さんのことも頭に浮かび、具体性のないふつふつと
した怒りや消化できないビニールのような虚しさが胃の底でうごめき出す。頭の働きが暗い方へ暗い方へ進み、ギアが膠着しかける。
 このあいだ私は、タイトルの奇抜さもあってヒットしている小説「夫のちんぽが入らない」を手に取りました。
 私たちと内情がまるで違うとしても、大枠としては「さまざまな問題をかかえる夫婦の話」ということで、もしかしたら何か近い部分があるのかもしれない、と興味が湧いたのです。
ところが、これもよくなかった。
0020名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 17:03:12.62
読んだ・観たことで心の根深い部分が悪い方向に刺戟され、人生観を揺るがされるショックを受け、この世から消え失せたいという気持ちを
倍加させるような作品を、私は「逆ツボにハマる作品」と呼んでいます。これはまさに逆ツボの類でした。
 高校生くらいの頃から、生に執着しない気持ちがうっすらと心の底に澱んでいます。積極的・具体的に死のうとしたことがあるわけではなく、
正確に言えばいつでも「明日事故に遭って死んでも未練はない」というくらいの感覚です。たとえば3日後に楽しみなことがあるからそこまでは
生きよう、なんて思うこともなく、どんなに楽しみなことが控えていても、明日うっかり死んじゃったらそれはそれでいいや。という、茫洋とした諦めです。
 この思いはどんなときも揺らぎませんでした。こうして大した希望を持たずに生きていることは、世間との折り合いについて悲観的に考え、
すぐ絶望してしまう私を守る一つの方法でした。
0021名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 17:05:06.57
ずっと消えないこの感覚について、私はそれをコンプレックスとも、克服すべき問題とも思っていませんでした。むしろ、積極的に死のうとしたことがないだけ私は十分に幸せな部類ではないかと思っていました。
特に最近は半同棲生活のせいか、自分の不幸さをわざわざ多めに数えて絶望に浸る回数は明らかに減り、「いつ死んでもいいや」という感覚さえ忘れそうなくらいで、自分はかなり幸せなほうではないかとすら思えていました。
 しかし、「夫のちんぽが入らない」は、視野の狭い主人公が、自らの主観的な不幸にどっぷりと浸かってその感覚を疑いもしていないように見えました。
彼女の感情は極端に平凡か、感情描写が極端に省略されており、何らかの珍奇な感覚や性指向によって悩む様子は見られません。彼女が深いコンプレックスを持っているのは確かでしょうが、
男が女である主人公を愛してくるという「常識的恋愛」に対しては違和感のかけらもなく、セックスという行為それ自体についても何らかの疑問を抱く様子もなく、私には世間を支配する圧倒的多数の「常識側」に
完全に与した状態で物語が展開しているように見えました。夫とのセックスは確かに物理的な理由でうまくいかないようだけれど、ほかの男性とのセックスについてはすんなりと遂行しており、その背景にある心理の説明も私にとっては不十分でした。
0022名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 17:06:14.09
つまり、彼女は世間の「当然」や「常識」と折り合いをつけるための「擬似」を知りもしないように見えました。
 やはり私のやっていることは擬似なのだ、と改めて鮮烈に自覚する。
 私は寝ても起きてもずっと擬似をやっている気がする。本物の「当然」や「常識」に、私はどうやっても一生手が届くことはない。
 こういった逆ツボの作品は、明るく楽しい顔ではなく、精一杯悲しそうな顔をしてやってきます。そして、私の前で、らくらくと
常識的な生き方をしてきたうえでの悩みをたくさん開示し「私はこんなに不幸なんですよ」と主張してくるのですが、私にはそれが、
もっと手前の部分でさんざん躓いている私をせせら笑っているように聞こえてしまうのです。
私は本を読み終え、そのまま空中に一瞬の血の霧として消えたくなりました。
 誰かと暮らしていれば、こんなことを考えてしまう夜中の隙間を物理的に埋めることができる。
 有益なる「無駄な会話」や、眼前を横切る他人の物理的動きによって、消えてしまいたい気持ちに浸かってぬかるむ時間が強制的に
平らかにされ、ぺっとりとした日常生活が展開される。
 そのための「結婚」なのです。
 アキラも一人の夜に「みね子がいたら目の前のサンマ焼く気になるのに」などとツイートしていて、無益にダラダラしている様子がネット越しに分かります。
求めるものがおおむね一致している。これですよ、このための同居。
0023名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 18:22:09.76
 夫(仮)のことをちょくちょくツイッターなどに書くためか、この頃、中途半端に情報を知った人による「能町さん彼氏できたんですね。どうりで最近綺麗に云々」などという手垢のついた文言を時折見かけるようになりました。
 複雑な気分です。
 確かに、男と楽しく旅行に行ってるさまがSNS上に流れてきたら、前後の文脈を知らない人はノロケ的な行為だと感じるだろう。いちいち「『結婚』と言い張ってはいるけれど、
相手がフケ・デブ専のゲイライターであるため性的関係と恋愛感情が一切ない」と説明するのは面倒です。
 私は以前から、「夫にこんなに愛されています!」という直截的な話ではなく、何気ない日常語りのなかにきわめて自然な形でパートナーへの信頼とか思慕の情とかが勝手に
漏れ出てきてしまっているものがいちばんのノロケだと思っていました。
 自分がドジをして夫にこんなことを言われちゃいましたとか、夫がこんなマヌケなことをしましたとか、「○○ってとてもおいしいですよね。私の夫もすごく口に合ったみたいで......」と、
食べ物の話題からいつの間にか主語が移行したりとか。
0024名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 18:23:10.78
ノロケのつもりもなく為されているそういう場面に出くわすと、その人が世界を全面的に肯定しているように感じて圧倒され、いつも断絶を感じていました。
 しかし、私は今や夫(仮)がいる状態です。私が夫(仮)の何気ない話をするさまを、過去の鬱屈した私が他人事として聞いたなら、おそらくしっかりノロケに聞こえるでしょう。
ごく一般的な意味での夫婦間の愛情が存在しないところにも、ノロケは成り立つのかもしれない。
 しかし、私たちには性愛や嫉妬が存在しないので、次のようなことも起こりうる。
 ――私は夫(仮)と過ごすことが多くなったので、彼の好みが少しずつ分かってきて、太ったおじさんを見るたびに「夫(仮)が好きそうだな」「夫(仮)のイケメンだな」と思う癖がついてしまいました。
私までそういう太ったおじさんに対するセンサーが鋭くなり、夫(仮)が好みそうなおじさんを見かけると、画像を送ってあげるようになっちゃいました。
 この事実は私と夫(仮)の親密さを十分に示すエピソードとなりますが、同時に夫の恋愛を応援している形になる。さて、これも過去の私にとってはノロケとなりうるんでしょうか。
 大いなるねじれが生じている。私は、かつての私に挑戦しているのかもしれない。
0025名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 18:26:04.30
さて、さすがにこの歳になれば、年賀状に「結婚しました」の報告だけでなく、毎年の子供の成長を写真で添付したものが増えてくる。
 そういったものが届いたときに、「こんな子が生まれたんだな、かわいいな、似てるなあ」なんて一般的な楽しみ方は、私もちゃんとできる。
しかし、それでいて、その裏面の感情がまだ私のなかからふつふつと煮立ってくるのも感じる。
 すなわち、この人は「正常な」結婚をしてるなあ、と思い、この形態を正常なものと定める「常識」に対する憎しみがはっきり浮き上がってくるのである。
この「常識」は世間一般的なものでもあり、自分自身にこびりついたものでもある。私はまだまったく迎合できていないと悟り、そう簡単に世のなかを受け入れてたまるかと、
どこかにホッとする部分もある。
 学生時代に、子供は欲しいけど絶対に結婚はしたくない、一人暮らしが快適すぎて人といっしょに住むなんて考えられない、なんて言っていた友人は、
その後結婚を済ませたどころか夫の実家で義母といっしょに暮らしているらしい。いろんな人を好きになっちゃうから結婚だけは絶対しない、
と言って奔放に何股もかけていた別の友人は、いまツイッターのプロフィール欄にわざわざ「新婚です」なんて嬉しそうに書いている。
0026名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/05(木) 18:26:48.08
人の言ってる恋愛観や結婚観なんて、まともに信じてはいけないのだ。それがちょっと「常識」から外れていたからといってぬか喜びしてはいけない。
聞くだけ無駄なので酒の席での埋め草として消化し、全部忘れたほうがよい。どんどんみんな「常識」に吸い込まれていく。世間の「常識」の強さをなめたらいかん。
 私は昔、絵本の『100万回生きたねこ』の意味がまったく分からなかったのだ。
 いや、本当はいまでも分かっていない。解釈を聞いて、人はこれを読んでこのように感動するという一般的なプロセスは知識として得たけれど、まったく納得できていない。
私は、『100万回生きたねこ』が分からないというところが自分の最大の急所にして命綱でもあると思っている。あれが分かるようになったら私は私ではない。
0027名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:09:48.39
暮らしはじめて一週間も経てば、自然とリズムが生まれてくる。
 私が起きたとき、だいたい夫(仮)はまだ寝ている。よくまーそんなに長く寝れるよね、と感心するくらい長く寝ている。逆に私は老人みたいに早く起きてしまう。
 じっとり、ずっと雨の日。朝はパン、目玉焼き、紅茶。ぜんぶ夫(仮)が用意してくれる。完全にそういう役割分担。
 午前中から新しい仕事場に行き、そこにはデザイナーの友達であるわっさんがいるから、会社に勤めてるみたいな感覚で仕事もたいへんはかどる。お昼は一緒に出てランチをする。
これはもう、会社員ですね。人と同じ場所で仕事をしているだけで充実だ。会社員風生活は私に合っていたのだ。
 最近は夜あんまり量を食べたくないし、この日もさほどお腹が空いてなかったので「夜はいいわ」とLINEしたら「シチュー作ったのにー」と返ってきた。「やっぱ食べる!」と返して、
遅く帰ってから食べた。
 なんだろ、これ。新婚みたい。
0028名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:10:28.32
電車で「会社」に通って、お昼は同僚とランチして、帰ると夫(仮)がご飯を作ってくれている。こんな定型の幸せ、自分が味わえるとはね。
朝な夕な幸福感に満たされているわけではないけれど、死ぬ間際にでも人生をふりかえったら、この瞬間の私はきっとかなり幸せな部類に入るのでしょう。
 部屋の段ボールはあいかわらずの状態でほとんど片づいておらず、どこかにあるはずのマフラーが見つからない。朝晩、首筋がつらい。
でも、マフラーを求めて段ボール漁りする私を夫(仮)は特に手伝わない。寝っ転がってスマホを見ている。それでいい、はず。
0029名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:11:10.70
二週間経った。
 私は、珪藻土のバスマットが欲しくなった。
 少し暮らすと家の癖みたいなものが分かってくる。川が近い低地で湿気も多いので、布のバスマットがすぐに乾かなくていつもしっとりしてるのが嫌だ、
と気づいてしまった。思い返せば前の家にいるときからずっとうっすら欲しい気持ちがあったけど、外で買って持ち帰るにはかさばって重いし、なんとなく買わないできてしまったのだ。
 引っ越しをしたうえに私の誕生日が近いこともあって、テレビの仕事のときに会うメイクさんとスタイリストさんが何かプレゼントをくれるという。
すぐにそれを思いついて、ねだってみた。
 しかし、うきうきしながらそのことを夫(仮)に言うと、それって洗えないんじゃないの? とか、汚れるんじゃないの? とか、乗り気でない様子。
それでも私は現状のしっとりしたバスマットはどうしても嫌なので、独断でいただくことに決めてしまった。
0030名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:11:45.09
数日後、出張先から「明日珪藻土が届くけど、私はまだ帰れないから受け取ってもらっていい?」というLINEをしたら、やっぱりどこか納得していないようで
「臭くなった暁には叩き割るわ」とか言ってくる。冗談にしても笑えないし、腹が立って「そんなに嫌なら使わせないからいいよ」とぶっきらぼうな返事をしてしまう。
 しかし、これは私が勝手に決めたことだから、たかだかバスマットで二人の意見が割れることだって当然あるのだ。人と生活するとこういうことが起こるのだ。
 珍しく私が怒った感じのLINEをしたので、数分後にフォローのつもりなのか、汚れたらやすりで削れば復活するみたいよ、と返してくる。
0031名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:12:49.25
人のことは言えないけれど、元から夫(仮)の家はキレイとは言いがたかったし、賞味期限切れのものも彼はためらわずに食べる。
そのわりに匂いなんかは私より気にする。私が顔を洗うときに使うヘアバンドが部屋干しでは乾ききらず少し匂っているのを、すぐに文字通り嗅ぎつけて洗ってくれる。
ありがたいけど、私が気にならない程度の匂いなので、敏感だなとも思う。
 こんなふうに、衛生観念だの、趣味嗜好だの、わりきっているつもりでもすり合わせ作業や妥協は確実にあり、人と暮らすのは我慢の連続となるわけだ。知ってたはずなんだけどね。
 壁塗りを全く進める気配がないことに対しても鬱憤がずっと薄く積もりつづけている。
 壁塗りが終わらない→納戸が壁塗りのための道具で埋まっている→大量の段ボールが納戸に置けない→居間が段ボールで埋まっている→居間の壁塗りができない、という、
図示したくなるほどキレイな悪循環が描かれている。夫(仮)は、居間の段ボールの隙間にむりやりふとんをはめ込んで寝ている。
「子供の頃押入れの中で寝てたような感じで、案外落ち着く」なんて言って、とっちらかった部屋の様子を意に介してもいない様子になおさらイラついてしまう。
0032名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:13:40.30
こんな愚痴を何気なく友達の西村に言ったら、「優しいじゃん!」と言われ、ハッとした。
 そーか、これは優しいのか。
 確かに、改装しようと言い出したのは私自身だし、そのくせ壁塗りにはまるで協力できないわけだから、この状況を作っている責任の半分は私にあるとも言える。
なのに夫(仮)は私に何も求めないし、責めない。
 お互いに相手に何かを求めない、期待をしない、などと気取っていたつもりだったのに、私のほうがよほど相手に行動を求めてしまっている。これはよくないな。
 仕事で知り合った二十代の齋藤さんは、彼氏はいるんだけど、その前からのかなり長いつきあいとなる仲のいい男友達がいるらしい。その彼とは一切恋愛関係に
ならなかったにもかかわらず、今の彼氏ができる前にはあまりに気が合うのでいっしょに住もうかという話が出たほどで、お互いの実家はかなり遠いのに今でも家族ぐるみで仲がいいとのこと。
 すごい。若い世代は先を行っている。いろいろなところに、オリジナルな関係性が生まれている。別に私のやってることなんて斬新でもなんでもない。
 齋藤さんは、今の彼氏とは「一応お互いに好きだけど、好きだから逆に厄介です」などと言っている。まだ同居してはいないので、いっしょに住んだらどう思うか分からないと、
彼氏についてはわりとありがちなことを言っていた。
0033名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:14:49.16
桜の開花が早い。
 桜並木のある荒川の河川敷までは、うちから歩いてふらっと行ける距離です。
 たまたま仕事に余裕のある日、二人でぶらぶら歩いて行ったのだ。休日で人は多かった。
 桜の咲いている土手もいいのだけれど、このあたりの複雑な川筋をまたぎながらたどりつく新岩淵水門の異形もいい。
我が家の屋上から遠くに見えるときのかわいらしい姿とまた違い、間近で下から見ると滅びた古代文明の用途不明な遺跡のようで、これまた気に入った。
 しばらく歩いた先の土手道から少し脇に入って眺めると、河川敷はグラウンドになっていて、少年たちが野球をしている。そこからだいぶ離れた、
やや陰になった部分に上半身裸の男たちがいて、別に抱きあったりしているわけではないけれど、ところどころで連れ添って談笑している感じは明らかにゲイカップルであろうと思う。
夫(仮)はシャイニー=リア充への軽い憎まれ口を義務のように叩きながら、向き直って土手の道を進む。
 人通りの途切れない川べりをぐるりと散策して帰りぎわ、河川関係の資料館のあたりで夫(仮)は持ってきた一眼を構えて桜の写真を撮ったり、私はその写真を撮っている後ろ姿をスマホで
撮ってみたり。私が撮った写真を見た夫(仮)、自分の姿に「おじいちゃんじゃん!」と、ショックを受ける。五十歳とはいえ白髪混じりの短髪で、カメラ構えてお花を撮ってたらおじいちゃんだわなあ。
 土手から下りて、なんとなく散歩をつづける。
0034名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:15:54.12
細かい路地に入り込んだら、まだよく残ってるねという風情の食料品店というかコンビニに近い形態の個人経営店を見つけて、
アイスケースの中に長く置かれて氷がつきまくったアイスなんか買って、食べながら帰った。まったく、老夫婦だ。
 ぶらぶらしてだらだらして帰っても、昼の一時半くらいだった。一人でいたらこの時間まで家で無為に過ごしているだろうから、
やはり二人の方がいいのだ、という結論になる。
 しかし、こんな穏やかで平和で老成した生活のなかで、夫(仮)とは手をつなぐこともないしつなぎたくもないわけで、
このせいで逆に私のなかにほんの少しだけ埋み火のように残っている性的欲望というか、そこまで名づけられない程度の、
人との文字通りの「触れ合い」に対する渇望めいたものが今になって垣間見えてきたのがなんとも薄気味悪い。
「なんかあったらいいのに」の思いは形骸化せず、むしろ少し息を吹き返してきている。
 こんなものをどこで埋め合わせしていくべきか、という一件は、今後考えていかねばならない課題となるかもしれない。
「結婚」のプロジェクトを遂行しているときは最終目標が「不倫」だなんてうそぶいていたけれど、今まで一般的な恋愛
すらロクに楽しめていないんだから、具体的に今後何がどこまでできるかなんて、まったく見えてこない。
 私はこの期に及んでも、たくさんセックスできる人がうらやましい、という気持ちが消えていない。
0035名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:16:52.14
本能的な意味でセックスがそんなにしたいのかというと、そんな欲望はちっともない。単に、私がそれほど楽しいとは思っていないことをものすごく楽しんでいる人がいる、
それがやけにうらやましい、という、恋愛についての思いと同じ気持ち。食べ物について「〇〇が嫌いだなんて人生半分損してる」なんて言い回しを使う人がいるけれど、
あの手の得意げな目線をわざわざ自分に投げかけて、恨めしくなっている。みんな得しやがって、ズルい、という幼稚な感情にほかならない。セックスをしないまでも、
何かそれに類することが生活のどこかにないといけないという焦燥感はむしろ高まっている。
 考えあぐねて、家で寝っ転がりながらスマホでレズビアン風俗などを調べる。さすがに根がレズビアンではないから、お金に見合う満足を得るには厳しいのかな。
いやそんなことよりも、相手をしてくれる人の気持ちを過剰に推し量って、ただむなしくなって死にたくなって終わりそうな気もする。そのへんの心のややこしさを無にして
身体だけの快楽を楽しむなんてことが世の中に存在するんだろうか。
 ホストなんてのもそうで、多めの内省と勝手な推察を抛ってあの空間に乗っていける気がしない。似たようなサービスは結局全部そうなってしまう、金払ってるとはいえ、
こんなんを相手にさせて本当にすみませんという気持ちになって、楽しんでるはずの最中に涙が止まらなくなる予感がするんだ。
0036名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:17:36.06
気づけば同居から一か月がとっくに過ぎている。
 不意に私は気づいてしまった。一度気づいてしまうと、今までこれを自覚すらしていなかったことに愕然とする。
 私は寝る前に、わりと好意的に思っている男性を想像しながら寝る癖があったのだ!
 ずばり「好きな人」と呼べない、奥歯に物の挟まった感じがあるのは、これがいかにも「恋に恋する」、幼稚園児や小学生程度の感情のように思えるからだ。
もしかして恋なんじゃないかしらなんて状況にわくわくしているという、そこから踏み出していない程度。
 こんなこと、いつからやっていたのか分からないし、ずーっと欠かさずやっていたのかどうかもはっきりしない。
 こういうことをしはじめた理由だけは覚えていて、恋愛なんてハナから無理だし、現実ではどうせ何も起こりっこないんだから夢にでも見ようと思って考えるようになったのだ。
だからなんというか、非常に健気な、まだ恋愛らしきことを一切経験していないときに思いついたことなのだと思う。そうすると寝つきがいいというわけでもなく、
単に寝る前のルーチンワークとして定着してしまったというか、当たり前すぎて意識しないほどに習い性となってしまっていた。つまり、相当長い期間にわたっておこなってきたことだけは確かだった。
0037名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:18:12.94
なぜこの行為に気づいたかというと、夫(仮)と同居後のある夜、さて寝ようというときに頭の中でうっすら何かを探そうとしている状況にモヤモヤとした違和感があって、あれ? 
と思い、ハッと、青ざめた。
 男の顔を思い浮かべないまましばらくふつうに寝ていたことに驚き、それ以上に、憧れの男の人の顔を思い浮かべて寝るという、戯画化された少女のような行動をずっと無意識に
していたことに体の芯から恐ろしくなってしまった。しかも、こんなことをしたところで、その人が夢に出てきて幸せなバーチャル体験をしたことなんか記憶にある限り一度もない。
 もちろん、夫(仮)は寝る前に思い浮かべる対象ではない。しかし、それでもなぜか同居した頃からこのルーチンワークをしなくなっていた。
 どうやら、「現実での可能性がゼロだとしても、夢でもいいからなんかあったらいいなあ」と思う人がいつの間にか誰もいなくなってしまったようなのだ。
0038名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:18:57.06
驚きと恐怖の後に、さみしさとむなしさがベッドの下の畳から這い上がってきた。
 恋愛なんか結局向いてるかどうかだわ、やるだけやってみたけどくだらねえよ、と吐き捨てたくなる最近の気持ちとまるで正反対の、
極端に少女風の部分が異常な執念で私の奥に居座りつづけていて、それがついに消えてしまった、という気がした。
あえて意図的に男の顔を誰か思い浮かべながら寝てみようかと思っても、どうやっていたのかよく分からなくなっている。まるで誰も思い浮かべることができない。
 夜中、階下では夫(仮)がとっくに寝ついていて、重低音のいびきが鳴り響いている。 
 何も思い浮かばない頭でそれを聞きながら、この人がいきなり死んだら私はもうめちゃくちゃ悲しいという段階に入ったんじゃないか、
と考えはじめ、これはやや計画外だ、ヤバいな、と思う。
 夫(仮)はたぶん、そんなことはないはず。
 私は夫(仮)にとってそこそこどうでもよい人であってほしいので、私が死んでも、まあ友人の一人として悲しむくらいで終わらせて、
さっさと男連れ込んでヤッててほしいものです。
0039名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:19:31.14
遠方への出張の日、夜にやや大人数の飲み会になり、珍しいメンバーだったこともあって盛り上がって久しぶりにかなり飲んだ。同席していた調子のいい人のせいで、テキーラをショットで飲むようなノリになった。
ここ数年ガッツリと飲むことが極めて少なくなった私としては珍しい。
 そのうち、その会にいた既婚男性の梅田さんが、隣にいた私より若い未婚女性の坪井さんにセクハラ同然のボディタッチをしはじめた。みんなお互いに顔見知りの関係だけどさすがに今までこんなことはなかったので、
いやこれはまずいな、と思っていたのだが、坪井さんも最初だけは笑いながら嫌がるようなそぶりを多少見せていたものの、ハグまでされると、本気で嫌な表情をするでもなければ冗談にして場を取りなす風でもなく、
なんとも中途半端な顔でされるがままになっている。梅田さんもふざけて口説き文句を言っているのかと思ったら、だんだん半ば本気っぽいセリフになってきた。
 いや、本気も何も、この二人そもそも大っぴらにしてないだけで元々関係があるんじゃないか? 秘密にしているつもりが、酔ったせいでただ箍が外れてふつうにいちゃついているだけなんじゃないか?
0040名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:20:08.05
よくよく聞けば、坪井さんはそもそも仕事じゃないのに自費でわざわざこの遠方まで来ているらしい。確かに肝心の昼の仕事のときにはいなかったからちょっと不自然だと思っていたのだ。
しかも、梅田さんが常宿にしているホテルをこれまた自費で取っているらしい。ということは、坪井さんのほうがその気になっていて、今回の仕事と関係ないのに梅田さんに会うために乱入
してきたんじゃないか。なんだよ、セクハラだと思って心配して損した。前からそういう関係だったんですね。はー、しょうもない。二人ともしょうもないな。
 梅田さんは「その場のノリ」みたいな感じで、ふだんはいじられキャラを担わされがちな坪井さんについて、ねー俺、口説いてもいいでしょ? 坪井ちゃんめっちゃエロいやん、みたいなことを、
酔っているせいもあってしつこくみんなに問いかけている。
 すると、だいぶ前から仕事を共にしている石山さんは、「そしたら俺、能町さん口説きますよ! いいんすか? 能町さん口説きますよ!」と、急に私の名前を出した。石山さんは梅田さんよりも数段酔っている。
0041名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:20:57.66
石山さんとはずいぶん長いつきあいで、飲みの席でも冗談でもそんなことを言われたことがなかったので多少びっくりしたが、まあ「ノリ」ですよね、
こういうノリにうまいこと対処できないんスよね......という調子で、私は困り顔を浮かべて適当に受け流した。私自身もだいぶ酔っていたこともあって
さほど不快でもなく、ホンモノの愛人に対抗して私なんかの名前を出させるハメになっちゃってすみませんね、なんて思っていた。
 帰る段になると、同じホテルである梅田さんと坪井さんは当然同じタクシーで帰った。
 石山さんと私は仕事の発注元に取ってもらった、彼らとは別のホテルである。ベロベロの石山さんをタクシーに押し込み、同じ車で帰った。
 その途中、改めて思い切り口説かれた。
0042名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:21:31.51
実は最初から会ったときからそういう気持ちがあっただとか、容姿だけじゃなく生き方が好きだとか、ベロンベロンなのに、いやベロンベロンだからか、
真っ向勝負で「好きなんです」と言われてしまった。もうずいぶん仕事をしているけど、好きじゃなかったらこんなに仕事振りませんって、とまで言われた。
 最後の一言はむしろ不快だったものの、これは確実に「なんかあってもいいのに」の完成形が不意に訪れたものである。
 呆れ顔を装いながらも、不倫チャンスを逃すわけにはいかない。結婚(仮)している状態で体の関係を持つ、というのを私はとりいそぎ経験してみたいのだ。
彼が酔い覚ましと言いながらコンビニに寄って、なぜか酔いを増加させるストロングゼロを買うのにつきあい、とりあえず俺の部屋来ましょうよと言われたのを断らずにてくてくとついていった。
0043名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:22:10.93
彼はフーフー荒い息を立てながらストロングゼロを開け、何口か飲んでから服をやっとこさっとこ脱ぐけれども、この荒い息は別に性的興奮ではなく、単に泥酔によるものである。私も一応電気を消してもらってからもったいぶりつつ脱ぐ。
それからお互いに裸をくっつけあって、いろんなところをなめてみたり吸ってみたりとひととおりしてみるけれども、石山さんは酔いのせいもあってずっとタクシー内から引きつづきカセットテープのように同じことばかり言ってきて、飽きる。
酒臭いし。裸でいるうちに「なんでこんなことしてるんだっけ」「もう四十も近くなって経験のためだけにこんなことしなくても」そして極めつけの「やっぱりセックス別に好きじゃないなぁ」という気持ちがふくらんできて、どんどん酔いも醒め、
身体を動かすのがめんどくさくなってきた。
0044名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:22:49.72
それでも先方はどんどん乗り気になってきて、「一生好きだよ」という、どう考えてもその場の出まかせであろうことを平気で言ってくるし、腕枕するからここでいっしょに寝ようとまで言い出した。
一旦はおとなしくそれに従おうとしたものの、先方はしたたかに酔っているので早々にいびきをかきはじめ、腕枕ってまったく心地よいものではないし、これじゃ寝不足で明日つらいし、
やっぱり部屋に帰ろうと思って、向こうがゴウゴウ音を立てて寝ているうちに脱ぎ散らかした下着などを暗闇の中からどうにかこうにか探し当て、上着とズボンだけちゃっちゃと着てブラとパンツを握りしめ、
同じフロアの我が部屋に戻り、結局この感じか、クソ、渇望していたつもりだったものがこれか、はっはー、私は煌々とした部屋に寝転がってスマホでツイッターを長々と読んですぐに家のなかみたいな気分に戻って、それからぐっすり寝た。
0045名無しさん@お腹いっぱい。
2019/12/18(水) 23:23:49.27
早朝に「あれ? 帰った?」というLINEが石山さんから来ていて、私はそのLINEの二時間後くらいに起きた。
「寝れなかったから部屋に帰ったよ!」と爽やかな返事をすると、向こうも「OK!」というLINEスタンプを返してきた。
 別に石山さんを気持ち悪いとも思わなかったし、好きにも嫌いにもなっていないので、今後もきっと仕事はする。
ともあれ、これは一応「不倫」として数えてもいいんじゃないかな。自分のスタンプカードの「不倫」のところに初めてのスタンプを押してもよかろう。
ただ、先方はそもそもフリーだろうからスリルの要素もないし、石山さんに彼女でもいればいいのに、あーあ、徹底的に何もない。
 一応スタンプは押すけど、こんなもんじゃないな、まだまだほかにもなんかあったらいい。帰ったら夫(仮)に今日のことも報告しよう――などと私はホテルの明るい部屋で考えていた。
0046名無しさん@お腹いっぱい。
2020/01/04(土) 16:10:44.25
私はそこに登録し、ハンドルネーム「曇り」としてサイトのメンバーとなりました。
名前の由来は、登録したときに外が曇っていたから。そして気持ちも曇っていたから。
もちろんこんな安直なアンニュイさも、ネット上で人を引きつけるためという打算がある。
そこでも私は相変わらず、セクシャリティを開示し、若さや見た目の雰囲気などは匂わせつつも顔写真は一切見せず、
たいがいぐちぐちと悩みや後ろ向きなことを書き綴り、時には個人情報がバレない程度のささやかな日常をつぶやい
ていました。言葉遣いはいかにも当時の20代らしく、ある程度サバサバしつつも奥底にぶりっ子っぽい粘っこさや根暗
さを滲ませたもの。もう少しタイミングが遅かったらメンヘラなんて言われそうな態度ですが、こういうふうにやや病んだ
感じの文章で人を引きつける技術は、大学時代にBBSで経験的に学んだことをさらに応用したものです。
0047名無しさん@お腹いっぱい。
2020/01/04(土) 16:14:54.85
65 名無しさん@恐縮です@無断転載は禁止 sage 2016/11/19(土) 20:46:15.79 ID:nn4W2clS0
能町のブログ読んでゾッとした。「遺体の口から綿が出てた」なんてよく書くよな
故人や、遺体に化粧をしてあげたおさ旦那さんへの侮辱かよ
悲しんでる自分アピールの強さにうんざりした
0048名無しさん@お腹いっぱい。
2020/01/04(土) 16:23:41.05
「曇りちゃんはじめまして。俺は埼玉に住んでる大学生です。あそこでは修羅って名乗ってます。まだ曇りちゃんには
話しかけたことなかったけど、メールアドレスがあったので、勇気出してメールしてみました。俺、マジでモテるんだけ
ど、好きな女じゃないとやれないって思ってるので、童貞なんです。あっ、たぶんいま笑ったと思うけど、これはギャグ
じゃなくて本当にマジだから。チビだけど運動神経は悪くなくて、中学生の時からよく告白されてました。
中学でいちばんかわいいって言われてた女子からマジで好かれてたっぽい時もあります。芸能人で言うと伊藤英明
に似てるって言われたりする。曇りちゃんすごい優しくてかわいくてタイプだと思うので、ぶっちゃけ、会って話したいって思っ」

途中で読むのをやめたくなる長文メール。
サイトにアドレスを載せてから2日、「ルカ」からのメールは来ない。相変わらず彼はサイト上だけで丁寧な返信をしてくれる。
そう、それでいい。あの書き込みだけで鼻息荒くメールを送ってくるような人では困ります。2日で来た何通かのおかしなメール
は結局すべて無視し、2日後に今度はちょっと暗い日記を投下します。

 友達はいないわけじゃない。
 親友...も、たぶん、いると思う。
 私が悩みを相談すれば、きっとマジメに聞いてくれる人が何人かいる。
 でも、そういう人にも言えないことって、あるよね。
 そういうきぶん。
 今日は、それだけ。

まるっきり噓をつくわけじゃないのがポイントだ、と自分で思いながら撒き餌を書きつける。
書きながら、本当にもやもやした気持ちになってきます。こういうことを書くと、今までどおりにこのサイト上で会話して
くる人も心配していろいろ言ってくるので、その対処も若干面倒くさい。
「ルカ」は、まんまと釣れた。
 10通ほど来た、ここ2日のもの以上にどうしようもないメールにまぎれて、彼からのメールがありました。アドレスの
アットマークの前はrukaではなく、m-aiso。本名だろうか。
0053名無しさん@お腹いっぱい。
2020/04/16(木) 17:25:07.72
すれ
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