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拝読した。名探偵蓮子が自作自演野郎を投げ飛ばす小説。一般向け

あらすじ
オカルトマニアな一匹狼、文明懐疑論者の宇佐見蓮子は辟易していた
母方の田舎で偶然知り合ったオモシロサイコレズ外人のハーンさんが
蓮子の周辺をつけ回し、何かにつけてヌイヌイと迫ってくるのである
その日も、喫茶店で一人の時間を楽しんでいた所を見つかってしまい
あれよあれよと這い寄られ、まるで固有の権利かのように相席された

正直ハーンさんとは趣味が合うし、人間離れした美貌にも惹かれるが
幼少期から変人コミュ障だった蓮子的には、こういう所が苦手だった
また、幾度か行動を共にする内、ハーンさんの不可解な存在感の中に
得体の知れぬ怖さを感じるようになっていた。貞操的な意味じゃなく
ハーンさんこそ蓮子の追う「本物のオカルト」を思わせる存在なのだ
とまれ、先の冒険で見つけた「ノート」について議論を交わした後に
ハーンさんは蓮子に新たに一つ、あるオカルトの真偽を謎かけをする
曰く、この酉京都にて「神隠し」が多発しているが、こはいかに?と

完璧なシステムでで安全と不自由が保障された世界屈指の監視社会で
ある日突然人が消える事など、一体どうしたらあり得ると言うのか?
さらに、消えたのは酉京都で最も庇護されるエリートの若者達であり
しかも消えたのは鳥居の回廊、店舗、店舗内のトイレ、バス車内など
密室と呼んで憚りない場所。かえって、出来すぎた程の悪条件である

だが、蓮子はむしろ事件の外輪に思いを巡らせ一つの見当を立てると
即座に「偽物の神隠しの主犯」を割り当てて直行する。続きはwebで

講評
本作の真相をものすごく乱暴かつ端的に申し上げてしまうのであれば
「オカルトを崇拝し、新たなる創作を目論んだ男の自作自演」である
自ら神秘そのものになろうとしたか、神秘を呼び寄せようとしたのだ
…が、肝心の偽オカルト「神隠しもどき」自体、その虚構を作る為に
費やした歳月や労力が滑稽に見えるほどガバガバ低レベルだったため
違いの分かる女、宇佐見蓮子の逆鱗に触れ、投げ飛ばされるのだった

先述のように、蓮子はハーンさんによって「真のオカルト」の存在を
示唆せしめられているから、陳腐に見えてしまう、という部分もあり
要はオカルトを信じきった者と信じきれなかった者との軋轢にも映る
蓮子がメリーに惹かれる過程を間接的に著した「出会い譚」でもある

本作の最大の魅力であり、また同時に咀嚼するのに苦しめられるのが
作中で説明される、「酉京都に張り巡らされた都市システム」である
まずもって、秘封物語の中に都市政策に関する著述を盛り込んでおり
非常にタフで現実的な、ユートピア型ディストピアの香りが大変素敵
…と言いたいところなのだが、実際に本作で描かれている酉京都では
・通行人の挙動を監視する監視カメラが決定的に不足している
・公的機関でも住民記録情報が過去3年しか保存されず、遡れない
・熱センサーで人口移動が管理されているが、個人の特定はできない

これは正直、我が国の現代地方都市にも劣るであろう管理体制である
特に「個人の識別機能」が放棄されているという点がガバガバだろう
そこを正に、本作の悪役である「青年」さんに突かれてしまうのだが
正直「敵さん頭いい!」と思うよりも先に、都市設計者の正気を疑う
仮に都市政策としては成功していても、福祉政策や住民制作としては
脳みそお花畑レベルだろう。消えた年金記録問題ってレベルではない
当該疑念対し、当然作者さんの中には補完しうる都市構想があろうが
本作のスケールにまとめる際、それが十分表象しきらなかったことが
惜しいと感じられた。序盤の「ノート」の段、むしろ不要じゃない?