以前拝読した『藤原妹紅は死が怖い』の作者さんではないかと思われるが
当該作者さんの作品の特徴は

「読みやすい」

の一点にまずもって尽きる。ほかにも賞賛すべきところは多いのだが
文章の長さだとか修飾の量だとか表現の的確さだとか、そういったものに秀で
スイスイ頭の中に入って来て、漫画みたいな感じで読み飛ばすことができる

こうした特性を支えているのが「セルフまとめ」というか、
例えば“おぜうが自分に賦与された怪談や神話によって本質まで変容する”
という重要コンセプトを何度も何度も何度も何度も定期的に説明してくれている点である

大事な点を少々くどいくらいに丁寧に説明してくれているから、
決して平易で安直なストーリーであるとは言えず、むしろ凝ったものであるにも関わらず
「読み返す」必要があまりないのである。これがほんさくの読みやすさを支えていると思われる

野田文七さんのようにグワーッと膨大な知識が入って来るけど
根底構造はシンプルで心地よいので細かい部分はともかく大筋は理解に易い

とは真逆に、凝ったストーリーを親鳥が雛にエサを運ぶがごとく
何度も何度も、かつ飽きさせないよう形を変えつつ説明することで咀嚼しやすくしている
作品スタイルだと思った

〇〇は〇〇が怖いというシリーズものなのか
恐らくやたら強気で自信満々であることに定評のある東方キャラが
ひょんなことからその根底をうしなってひでえめに遭う系の話を量産されているのだと思うが
もこたんのヘタレサバイバルっぷりが光った「死が怖い」とは対照的に、本作は救えない結末である
この点「どうせ『世はことも無し』だろ」などとタカをくくっていたぼくの度肝を抜くエンドだった
トゥビーコンティニューらしいのでおぜう復活いけるやん?とは思うが

おぜうの過去譚は巷に氾濫しているが
ツェペシュの末裔どころか吸血鬼であるという伝説さえも本質的には詐称である
しかもペストという病魔の権化であるという発想はやまだかつてないレベルで斬新だと思った
レミリアが実は吸血鬼ですらないという設定でさえ、ぼく的にはレミリア=ドンタコス以来の
7年ぶり通算2回目の衝撃的展開、カミングアウトだったと思う

しかしながらペストの流行地とおぜうの足跡を“世界史”に照らして全く順当に記しているなど、
作者さんの勤勉さにもまた好感の持てる作品だった

ほんさく読みながらペストのwiki記事読む作業楽しかった