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『シュニマジワリテ』読了した

風神異変が発生する第122期(2007年)よりやや前の妖怪の山を舞台とした、コメディ漫画

善良ではないが邪悪でもないにとり、そこはかとなく人々に慕われる善良な秋姉妹を中心に、
なぜか語尾に「カギ」を付ける下っ端風の鍵山、実直な正直者だが口はけっこう悪い椛、
もっふもふの影狼、お嬢様風のわかさぎ姫など、ふだんわりとスポットライトのあたらない
キャラ達が、ゆるーいかんじの個性を発揮しつつ、友情関係や日常をふくらませてゆく

守矢一味が幻想入りする前の出来事という体なので、早苗やケロちゃんの出番は当然無い
かたや幻想郷史上の時系列と販売時系列とは当然に異なるので、東方輝針城に登場した
「今は大人しい」面々はレギュラーばりに出てくる。この点が、ちょっと不思議な感じがすると
同時に、本作の個性でもあると感じた

出す出さないは別にして、人気キャラである守矢一味らが「まだ存在していない」時間帯に
わざわざ舞台設定する必要性があるのか、という疑問を感じながら読ませていただいたが
本作には、守矢一味や霊夢さん達が妖怪の山に進出したことで「変化してしまったもの」を
意図的に排除しようとするねらいがあるのではないか、と感じられた

すなわちにとりは原作ほど世間ズレしてないし、山の外に目が向いているわけでもない
秋姉妹や鍵山も人間に対して好意的であるにしても、それほど深く強くは意識していない
そこまで親しくないが故に、人間に対する好意も悪意も緩い、そもそも興味がうすい

その効果もあって、本作に登場する妖怪の山の面々の結束や友情は非常に固く、
また妖怪の山本来のやぼったくて世間知らずで、それなりに善良な保守の印象を
強く感じさせられるものであった。鎖国状態の日本のような魅力である
海外と付き合うのはご法度だが、例えば漂流者とかが困っていたら
個人レベルで援助をする、みたいな感じの素朴な善良っぽさを感じる静かな作品だった

本作の登場人物はみな魅力的である
にとりや雛は今でも当然に幻想郷で元気に生きてはいるが、おそらく本作の時間より
未来へ進んだ現代では、大なり小なり成長や変化を見せているに違いない
そんな意味で本作のにとりや雛は、もはや「在りし日」の姿にすぎないと言えなくもない
そんなところも感慨深かった

絵柄はかなり特徴的だと思う、絵のようでZUN絵とは似ても似つかない感じ
しいて言えば、感情豊かによく笑う整ったZUN絵、とでもいうべきもので、暖かな魅力があった