本拠地、STU48号で迎えた船上公演
大谷満理奈が卒業発表、客席も入場制限でガラガラだった
船内に響くヲタのため息、どこからか聞こえる「今年で解散だな」の声
無言で帰り始めるメンバー達の中、沖は独り楽屋で泣いていた。
STUで手にした喜び、感動、そして何より尊敬できるメンバー・・・
それを今のSTUで得ることは殆ど不可能と言ってよかった
「どうすればいいの・・・」沖は涙を流し続けた
どれくらい経ったろうか、沖ははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たいベンチの感覚が現実に引き戻した
「やれやれ、帰って振り付け確認しなくちゃ」沖は苦笑しながら呟いた
立ち上がって伸びをした時、沖はふと気付いた

「あれ・・・?お客さんがいる・・・?」
楽屋から飛び出した沖が目にしたのは、船内を埋めつくさんばかりの観客だった
千切れそうなほどに団扇が振られ、地鳴りのようにコールが響いていた
どういうことか分からずに呆然とする沖の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた
「沖ちゃん、リハーサルだよ、早く行くよ」声の方に振り返った沖は目を疑った
「と・・・土路生さん?」 「なんだ居眠りでもしてたのか?」
「こ・・・こっこさん?」 「なんだ沖、勝手にこっこを引退させやがって」
「あーちゃんさん・・・」  沖は半分パニックになりながらステージを見上げた
市岡愛弓、磯貝花音、新谷野々花、森香穂、三島遥香、菅原早記、佐野遥、門田桃奈…
暫時、唖然としていた沖だったが、全てを理解した時、もはや彼女の心には雲ひとつ無かった
「あの頃の・・・あの頃のSTUなんだ!」
尾崎からマイクを受け取り、ステージへ全力疾走する沖、その目に光る涙は寂しさとは無縁のものだった・・・

翌日、船内で冷たくなっている沖が発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った