取締役の経営判断の適否は、それが経営上妥当であったかという当不当の問題と、
それが法に反しないかという違法適法の問題の二面性を持つ。
経営判断としては間違っていた、しかしそれは法的には全く問題ないという場合もあるし、
反対に経営判断としては正しいかも知れないが法的には許されないという場合もある。
倒産に際しての緊急措置的な行為には後者にあたるものが多いだろう。
取締役の経営判断に過失はつきものである。割り引いた手形が不渡りになったり、
取得した工場用地に法的瑕疵があったり。そのような場合には、世間では取締役の
判断に過失があったという。しかしそれは法的な意味の過失ではない。

本調査報告書でも、
「しかし、法的な過失があるどうかはともかく、本件では、取締役、執行役、財務部、
総務、法務のいずれについても程度の差こそあれ、財源規制に気づく機会が
あった。それにもかかわらず、それらの者全てが財源規制を看過してしまったことが
本件の発生原因である。」としている。
経営判断に過失はあったのである。
そりゃそうだろう。配当可能利益を超えて株式の買い取りをしてしまうなんて。
知っててやったらそれこそ背任罪だ。判断の過ちは認められて当然である。
だが、ちゃんと配当可能利益の額を調べなかったからといって、それがただちに
善管注意義務違反となり、取締役の責任が発生するかというとそうはならない。
信頼の原則を適用すればまがりなりにも善管注意義務は尽くされている。
だから注意義務違反はなく、法的な意味での過失は認定できない、
ということだ。