被爆地の広島市で19日開幕した主要7カ国首脳会議(G7サミット)を巡っては、出席する米国のバイデン大統領がもう一つの被爆地・長崎を訪れる案が一時検討されるも見送られた。原爆投下国の米国を含め核兵器を保有する3カ国の首脳が集まりながら長崎訪問の機会はなく、長崎の被爆者団体のリーダーたちからは落胆の声が上がった。

 被爆者団体「長崎原爆被災者協議会」の田中重光会長(82)は、長崎市の自宅のテレビで、G7首脳たちが広島市の原爆慰霊碑に献花する様子を見て「G7首脳がそろって献花したのは意義がある」と話した。首脳たちは原爆資料館も視察。田中さんは「具体的に核軍縮につながる内容を共同宣言に盛り込んでほしい」と語った。

 一方で、無念さも。長崎市では、14日にG7保健相会合に出席した各国の閣僚らが平和祈念像前で献花。閣僚級の国際会議自体が市内初の開催となったが、公式に長崎で被爆者から証言を聞く機会などはなく、田中さんは「広島と差があり、『長崎を忘れているんじゃないか』とすら感じる」と話す。

国の援護区域外で長崎原爆に遭ったとして被爆者と認められない「被爆体験者」でつくる「全国被爆体験者協議会」の岩永千代子代表(87)も「保健相会合は被爆者援護を担当する日本の厚生労働相が議長を務めたのに、原爆被害者の救済が話し合われた形跡がないのは残念。体内に取り込んだ放射性物質による内部被ばくや原爆放射線の遺伝的影響なども含めて被害の実相を直視し、首脳たちは核廃絶に向けて話し合ってほしい」と注文。また、バイデン大統領宛てに「長崎の被爆体験者が(被爆者や被爆者と認められた広島原爆の『黒い雨』体験者と)分断され、差別されている」と訴える手紙を19日に在日米大使館に送ったことも明かした。

 被爆者団体「長崎県被爆者手帳友の会」会長の医師、朝長万左男さん(79)はG7サミットに対し「日本は議長国だが、米国の核の下に入り核兵器禁止条約に参加せず、核軍縮を提案しても説得力がない。昨夏に核拡散防止条約(NPT)再検討会議が決裂し、G7が果たす役割には注目している」と語った。【高橋広之、樋口岳大】

毎日新聞
2023/5/19 18:39
https://mainichi.jp/articles/20230519/k00/00m/040/260000c