陰の総理と呼ばれ、5年にわたって自民党幹事長として暗躍した二階俊博が失脚した。それでも岸田内閣に山口壮環境大臣と小林鷹之経済安保大臣の2人を送り込んだ影響力には感服するばかりだが、派閥の地盤沈下を見てさすがに意気消沈したのか、来週の解散直前に政界を電撃引退するのではないかという噂まで出回っている。二階派にさえいれば選挙に有利になるのでは……そう考えていた47人の議員は、突然の失脚に慌てふためいている。

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 そしてこの中の3人がいま、裸のまま放り出された流浪の民となっている。

 一人目は中曽根康隆、39歳。祖父は中曽根康弘元総理、父は中曽根弘文元外務大臣。群馬では福田・小渕と並ぶ名家で、慶應法学部卒・米コロンビア大学修士と学歴も申し分ない。そんなサラブレッドも、二階派ゆえ流浪することになってしまった。前回選挙で康隆は群馬1区での出馬を模索したが、党の裁定により単独比例で出ることに。小選挙区と比例では重みがまったく違う。永田町でも霞が関でも、小選挙区当選者は「城持ち大名」として扱われる一方、比例当選者はほとんどが小選挙区落選を経ての復活であることから「ゾンビ」などと陰口を叩かれる。康隆も今度こそ群馬1区で出馬したい。しかし、群馬1区の現職城持ち大名は清和会所属の尾身朝子。つまり安倍の推しがある。二階が幹事長であったならば、どちらも公認せず、当選した方を自民党所属議員とするような離れ業をやってくれたかもしれないが、安倍に気を遣う岸田や甘利が康隆を厚遇する保証は無くなった。隣の選挙区で連続当選している福田家のプリンス・達夫は今や総務会長。将来の総理候補なのに、かたや康隆は選挙区も決まらない。さすらいながら気をもむ日々が続くだろう。

 二人目は、長島昭久、59歳。旧民主党ではタカ派議員だったが、希望の党を経て自民党に入党し、二階派に入会した。野党生活に見切りをつけて自民入りしたのと引き換えに、自分の小選挙区は奪われ、代わりにあてがわれたのは東京18区。吉祥寺を中心とする地域で、相手はなんと菅直人元総理。かつて自民党政権を倒すために手を携えた人物と激しく戦う羽目になるとは、想像もしていなかっただろう。そして敵は元総理。名声地に落ちたとはいえ、腐っても鯛だ。二階が幹事長なら陰に陽に手助けしてくれたかもしれないが、今の自民党の体制では、勝手にやれ」(他派閥自民党議員)と言われてしまう状況である。

 三人目は、細野豪志元環境大臣、50歳。前回の衆院選で女帝・小池百合子に騙され、希望の党の中心人物となってしまった。自らは静岡5区で当選したが、選挙の最中から希望の党はすでに瓦解状態。紆余曲折を経て、来るもの拒まずの二階に拾われた。ただし、民主党時代に自民党を批判し続けたため、未だに入党できず、無所属の二階派特別会員と言う位置付けだ。選挙にめっぽう強かったものの、民主党から希望の党、無所属を経て自民党入りを目指す姿に地元での評価は芳しくなく、頭を下げて回る日々だ。細野自身も「政策の軸は変えていない、ひたすら地元を回って説明する」と語っている。そんな細野は希望の党時代の前回選挙で、自民党候補だった吉川赴を比例復活できないまでに叩きのめした。ところが1年半後、別の議員が辞職したため、吉川が繰り上げ当選した。この吉川はまさかの岸田派。つまり細野は今回、入りたい自民党の総裁派閥候補とガチンコ勝負することになってしまったのだ。なお、吉川は選挙に弱く、過去3回の総選挙とも小選挙区では落選している。自民党のルールに従えば、比例との重複立候補はできない。しかし今回は総裁派閥と言うことで、吉川を自民お得意の「例外扱い」で重複立候補させる可能性もある。細野はあらゆる意味で人生最大の厳しい戦いを強いられる見込みだ。

 二階派は長く権勢を誇ってきただけに、凋落ぶりも激しい。元々は二階が無理をして派閥拡大に突っ走ってきたツケとも言える。選挙当選だけを信じて派閥のパーティー券を懸命に売ってきた議員たちはいま、何を思うのだろうか。一方で、こうした権力闘争をくぐりぬけていくことこそ自民党の力の源泉ともいえる。野党のぬるま湯につかって総理になる覚悟が見られない立憲民主党の枝野代表は、二階の爪の垢でも煎じて飲んだ方がいい。

武田一顕(たけだ・かずあき)
元TBS北京特派員。元TBSラジオ政治記者。国内政治の分析に定評があるほか、フェニックステレビでは中国人識者と中国語で論戦。中国の動向にも詳しい。

デイリー新潮取材班編集
10/7(木) 17:01
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