「新型コロナウイルスという国難にあって政治の空白は許されない。安倍総理の取り組みを継承し、進めていかねばならない。私にはその使命がある」

 14日午後、菅義偉よしひで官房長官(71)が、自民党の両院議員総会で全体の7割の377票を獲得し、新しい党総裁に選出された。両手を高く掲げ、会場の祝福にこたえる菅氏の姿に、モヤモヤ感が消えなかった。

 菅氏は16日に召集される臨時国会で第99代首相に指名され、新内閣を発足させる。私は2017年6月から官房長官会見の取材を続けているが、菅内閣では官僚がモノを言えなくなる空気が強まり、安倍政権よりもさらに情報開示が後退するのではと懸念している。

◆逆らえば「左遷」

 第2次安倍政権で官房長官となった菅氏は、内閣人事局を最大限に利用し、官僚の人事を徹底的にコントロールしてきた。

 一例を挙げると、菅氏が力を入れてきた「ふるさと納税」だ。総務省の平嶋彰英自治税務局長は、自治体に寄付する上限額の倍増を指示した菅氏に競争が過熱すると懸念を伝え、総務省の通知と法律で一定の歯止めをかけるよう提案すると、8カ月後に自治大学校長に「左遷」された。

 平嶋氏は、「自分だけでなく、菅氏の意向に逆らう官僚はあらゆるレベルで飛ばされた。ふるさと納税が引き起こす問題点を指摘しても、考慮して対処するどころか『逃げ切りは許さんぞ』との言葉が返ってきた。官僚の忠告や提案に耳を傾けられないということは、国民にとってもマイナスだ」と指摘する。

◆メディアにも「圧力」

 一方で、森友学園への国有地売却問題で改ざんの首謀者となった佐川宣寿のぶひさ理財局長を国税庁長官に栄転させ「適材適所だ」と言い張り続けた。

 「菅氏ににらまれたら出世できない」「おかしいこともおかしいと指摘できなくなった」 

 霞が関の官僚の間では、こんな言葉が不文律のように広まる。萎縮と忖度そんたくでまっとうな官僚の進言が聞き入れられるとはとても言えない状況だ。

 官僚だけではない。メディアのコントロールも強めている。

 私は2018年12月、沖縄・辺野古の埋め立てについて官房長官会見で「赤土の可能性が指摘されているにもかかわらず、国が事実確認をしない」などと菅氏に質問した。

 すると、2日後に長谷川栄一内閣広報官名で東京新聞の編集局長宛てに質問内容についての抗議文が来た。それだけでなく、政治部の内閣記者会にも、官邸の報道室長名で抗議文を張り出した。

 その後、東京新聞1面で質問の背景を説明する、赤土の土砂の違法性を指摘する記事を書くと、官邸からの抗議はやんだ。

 質問への抗議文を会社に出し、記者クラブにも張り出すという菅氏側が行ってきた圧力は、他のクラブ記者も萎縮させ、厳しい追及をさせないことを狙ったのだろう。メディア全体を「管理」しようとする菅氏の動きは、より強まる恐れがある。

 1年半以上にわたり、私の質問に「質問を簡潔に」と妨害行為を繰り返した上村秀紀報道室長は、8月、内閣府沖縄総合事務局総務部長に栄転した。

◆総裁選でも質問にはぐらかし

 菅氏は、今回の自民党総裁選でも、記者の質問をはぐらかしたり、自民党青年局・女性局主催の討論会でも手元の紙を棒読みする場面が目立ち、「自助・共助・公助」のフレーズ以外に、菅氏自身の中で、どんな国家観や国家像を描いているかが見えなかった。

 2日の出馬表明の記者会見で、私は「(官房長官会見では)都合の悪い真実への追及が続くと記者に対する質問妨害が長時間続いた。(中略)首相会見では官僚が作った答弁書を読み上げるだけでなく、自身の言葉でしっかり答えていただけるのか」などと質問した。

 すると、菅氏は横目でちらっと司会役の議員を見た。官房長官会見でも、菅氏は上村前報道室長に「質問を何とかしろ」というような合図を送っていたが、案の定、司会者は出馬会見でも「簡潔に」と質問を遮ってきた。

 8日、自民党本部で行われた記者会見では、別の記者が「総理になったら記者会見はどう行うのか。週1回の定例化やぶら下がりなど、説明責任をどう果たすのか」と尋ねた。

 だがここでも菅氏は「官房長官が朝夕2回会見し、内閣の方針を責任を持って説明している」と会見の充実には消極的で、「できるだけ多くのメディアの質問に答えたい」とした石破茂元幹事長、岸田文雄政調会長との違いが浮き彫りになった。首相として、メディアや国会での説明責任を果たそうという意識が乏しいことが気掛かりだ。 

2に続く

東京新聞
2020年09月14日 17時14分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/55442