自民党総裁選まっただ中である。首相の椅子を争う3氏の一人、菅義偉官房長官が力説したあるセリフが引っかかった。「アベノミクスが始まって、明らかに生活保護世帯は減った」。何せ次期宰相最有力とされる菅長官である。言葉の重みが違う。見逃せない。そこで統計を調べてみたところ、生活保護世帯は逆に増えており、不正確な発言だった。生活保護を受けている実人数は近年減っているが、高齢化の影響との見方もあり、アベノミクスの効果といえるかどうかは不明だ。【吉井理記/統合デジタル取材センター】

 その一言が飛び出したのは8日夜の報道番組「NEWS23」(TBS系)でのこと。菅氏のほか、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長の自民党総裁3候補を招いてのテレビ討論会の席上、菅氏はアベノミクスの成果を誇る文脈でこう強調したのだ。

 「格差ってよく言われるんですけども、生活保護所帯ちゅうのは、このアベノミクスが始まって、減り始めたんです。少なくなり始めていますから。ここは数字で明らかに生活保護所帯が減っていますので、そういう意味では、いろんなとこに効果があるのではないかなというふうに思っています」

 この直前に、安倍晋三政権の政策や政治手法に批判的な石破氏が「(アベノミクスで)株価や有効求人倍率が上がった。素晴らしいことだが、格差は広がっているのではないか」と指摘した。「安倍政権の継承」を掲げる菅氏は、この石破氏の指摘に反論する意図もあったのだろう。

 記者も人の子である。新聞や報道のすべてを熟知しているわけではない。でも「生活保護世帯がアベノミクスで減った」という報道に接した記憶はないから不思議だった。全国のお茶の間に届けられた菅氏の言葉は本当か?

 菅氏の言う通り、数字を見てみよう。生活保護を所管する厚生労働省社会・援護局保護課が…

毎日新聞
2020年9月12日 10時00分
https://mainichi.jp/articles/20200911/k00/00m/010/333000c