「大都市は感染の火だるまだ」。そう警鐘を鳴らす、東京都医師会の尾崎治夫会長。先月末には会見で、「良識のある国会議員のみなさん、コロナに夏休みはない。国会をひらき、国がすべきことを国民に示してほしい」と早急な対応を訴えた。AERA 2020年8月24日号では、その尾崎会長が本誌の単独インタビューに応じた。都民や国民の命を守るために、国会議員に強く呼びかけたこととは――。

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──新型コロナウイルスの感染拡大が7月以降、止まりません。東京は連日200人を超え、大阪、愛知、沖縄などでも爆発的な感染拡大が見られます。この現状をどのように見ていますか。

 東京都では6月19日、キャバレーなど接待を伴う飲食店などへの休業要請も全面解除されました。するとその後、新宿でPCR検査の陽性率が40%近くに跳ね上がった。新宿の歌舞伎町を中心としたいわゆる「夜の街」で感染のエピセンター(震源地)化が始まり、そこから中野区、杉並区、世田谷区……と、同心円状に都内全体に感染が広がったと考えている。

■感染拡大は東京から

――7月30日の東京都医師会の記者会見で、「このままでは、日本全体が感染の火だるまに陥っていくと考えている」と警鐘を鳴らしました。

 日本全体というのは、大都市に限ってのこと。感染者が出た市町村を調べると、例えば千葉県は、千葉市や市川市といった東京に近い都市で多く、東京から離れた市町村では感染者はほとんど出ていない。明らかに東京への通勤圏で増えている。

 また大阪や愛知、福岡、沖縄など、大きな歓楽街を抱える都市でも同じ傾向がある。つまり、大都市で感染の火だるま、エピセンター化が起きていると言っていいでしょう。

――第2波とも言われる、今回の感染拡大の原因はどこにあったと考えますか。

 全国への感染拡大は、東京から広がったのは間違いない。そうした中、「東京は何もしていない」と言われるが、都の職員、保健所、われわれ医療者も毎日必死で頑張っている。しかし、休業要請は「お願い」だけで法的強制力がなく、協力金といっても50万円程度ではひと月の家賃すら払えないのでなかなか協力してもらえない。やはり、今のやり方では限界がある。

――いま家庭内感染の増加も問題になっています。

 新型コロナウイルスは、発症する2日前から発症後の2日程度が感染力のピークだとわかっています。この感染力が最も高い4日間に家族と接触しうつしているといっていいでしょう。

――しかし「感染経路不明」が5割を超え、どこで感染しているかわからない状況です。

 本当に感染経路が不明な人はそんなに多くない。家庭内で最初に感染した人は、ほぼ間違いなく飲食店かキャバクラのような場所で感染している。本人はわかっているが「恥ずかしい」とかいう理由で言わないだけ。

■特措法改正で休業要請

――では、感染の火種を消し、拡大を収束に向かわせるにはどうすればいいと考えますか。

 三つあります。まず、新型コロナ対策の特別措置法を改正して、強制力のある休業要請を全国のエピセンター化している地域限定で徹底的に行う。具体的には14日間休業してもらう。14日間自粛すれば、そこでの感染は理論的には収まる。その間にその地域のPCR検査を一斉に行い、そこでの感染者がどのくらいかを把握し対策を練る。休業要請を守っていただけないところは、罰則を伴うようにする。休業補償は、きちんとつける。

――しかしそのためのPCR検査は、今の検査能力では追いつきません。

 そこで二つ目の対策は、感染症法を改正してPCR検査を拡充すること。現在、感染症法によって行政が実施する行政検査はすべて保健所の判断で行われるが、保健所の電話回線はパンク状態。また都内には専門外来の他、4月に東京都医師会主導でつくったPCRセンターが約40カ所あるが、7月に入って一部で1日に検査を受けられる人数の上限を超えた所も出ている。しかも、予約が必要だ。

 そこで私が考えているのは、都内全域に1400カ所、人口1万人当たり1カ所の割合で内科系のクリニックを中心にPCR検査を可能にすること。もちろん、原則無料です。すでにいくつかの区で手を挙げてくれている医師たちがいますから、遠からず実現できると思います。


2に続く

AERA 2020年8月24日号
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