長崎の被爆者5団体の代表らが9日、長崎市内で安倍晋三首相らと面会した。この日の平和祈念式典のあいさつで安倍首相は「被爆者の方々と手を取り合って」「被爆者の方々に寄り添い」と述べたが、昨年の面会で求めた長崎原爆資料館訪問は実現せず、被爆者が参加を求める核兵器禁止条約からも距離を置く。被爆者からは「政府の真剣さが感じられない」という声が漏れる。

 式典後に面会し、5団体が政府への要望書を手渡した。政府側は、条約に参加する代わりに核兵器廃絶に向けて「立場の異なる国々の橋渡しに努め、国際的な議論を積極的にリードしていく」。国が長崎で定める被爆地域外にいたため被爆者と認められない「被爆体験者」についての救済について、最近の研究を踏まえた判断を求める被爆者側に対し、「(被爆地域外で)健康に問題のある量の放射線被曝(ひばく)があったという科学的知見は今のところない」などと、従来の見解を繰り返した。

 長崎原爆被災者協議会の田中重光会長(79)は昨年、首相に原爆資料館訪問を求め、「被爆者からの宿題です」と訴えた。今年の要望書では「資料館を自身の目で見て、感じて、考えてください」との一文が盛り込まれたが、首相から具体的な回答はなかった。面会を終え、「寄り添うというなら、被爆者の言うことを聞いてほしい。何のために長崎に来るのか、その意味を考えてほしい」と憤った。

朝日新聞
2020年8月9日20時45分
https://www.asahi.com/articles/ASN896HQ6N89TIPE00D.html