東京都は、酒類を提供する飲食店とカラオケ店に、8月3日から31日まで営業時間の短縮を要請した。具体的には午後10時から翌朝5時までは営業を控えろ、その代わり20万円の補償をする、というものである。東京都港区の焼き鳥店店長・前田裕太さん(仮名・40代)は、はらわたが煮えくりかえった様子。

「ナメてるね。もう自粛も短縮もしないってみんな言ってる」
夜がメインの飲食店にとって「受け入れられるはずもない」

「2月から半年も我慢して、休業補償金50万円と持続化給付金はもらえたけど、家賃の足しにもならず、借金しながらなんとかここまでやってきた。それをもっと休め、あと20万やるって言われてもね。あと2か月休めば、借金もこれ以上できないし、どちらにしろ死ぬんだよ。1か月後に元に戻るという保証もない。もうね、普通に営業やっちゃうよ」(前田さん)

 同じく、東京都渋谷区の飲食店経営・松尾静香(仮名・30代)さんも怒りを露わにする。

「4月と5月も結局、中途半端だったでしょう? 外には出るな、お金が出るのか出ないのか、仕事もやんなきゃいけないけど休めない……。政治も会社もみんなズルズルとやって、お休みしなきゃいけない期間がどんどん延びる。7月頭には少し戻りつつあった渋谷のオフィス街のお客さんも、結局また在宅勤務で出てこなくなっちゃった」(松尾さん、以下同)

 松尾さんの店は、いわゆるバータイプの飲食店でカラオケもできる。営業は普段19時頃からスタートし、営業終了は翌朝、というスタイルだから「時短要請など受け入れられるはずもない」。仕事をするな、と言われているのと同義なのだ。

「うちは2次会・3次会のお店だから、22時からが本番。19時から22時まで営業しても、客がゼロの日もある。政治家の人は、うちみたいな吹けば飛ぶような水商売の店なんか、邪魔くさいとしか思ってないんだろうけどね。税金を真面目に払ってきたのがアホらしい」

 どうしようもないから自粛も時短も休業もしない、というもはや「やけくそ」になるしかない状況に置かれた飲食店経営者たち……。

今回の要請で廃業を決めた「もう何もする気力がない」

 東京都の東端、千葉県と隣り合う東京都江戸川区の居酒屋店主・高坂由紀男さん(仮名・60代)は、今回の都の要請を受け入れると同時に、廃業を決めた。

「地元の客や常連さんまで、千葉なら飲みやすいと言って隣の市川や松戸に行ってしまう。あくまでも要請でしょう?

 なのに、それに従わずに飲んでいると東京では悪者にされてしまう。最初は怒りもあったけど、なんとか乗り越えて、やっと夏休みで……。多少は期待したんだけど、期待したから余計悪かった。もう何する気力がない」(高坂さん)

 実は東京だけではなく、大阪や愛知でもそれぞれ独自の「時短要請」を行なっており、やはり20万円ほどの補償が支払われるが、そんな額ではどうにもならないと悲鳴が上がっている。我々の生活から「夜の街」が、そこで楽しむという文化が、本当になくなってしまうかもしれない瀬戸際だ。<取材・文/森原ドンタコス>

日刊SPA
8/6(木) 8:54配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/47ef0b856976bc109213291c4281e0a6a84d3786