初弁論を前に、赤木俊夫さんの妻雅子さんが本紙に心境を語った。

◆夫のため、前を向かないと

 「とっちゃん(俊夫さん)、今日、近畿財務局を追加提訴したよ。これからの裁判で、改ざんのこと全部出してもらうからね」

 今月6日、岡山県にある夫の墓を訪れ、手を合わせてそう祈った。

 夫の死から2年。かつては桜を見ても白黒にしか見えなかった風景が、今年の桜は初めて奇麗なピンク色に見えた。夫と行った美術館や落語にはまだ1人で行けないが、映画はようやく1人で行けるように。とっちゃんは花が大好きで「自分で花屋に入るのは、恥ずかしいから」と、私をよく近所の生花店のそばまで車で送って、わざわざ花を買わせるような人だった。

 夫が死ぬ前日に自殺しようと4時間もこもっていた六甲山にも、5月末に1人でロープウエーで登ってみた。真っ青な空に緑の木々が茂って奇麗だった。2年前、この風景を見ながら死を覚悟した夫は何を思い続けていたのか。夫の寂しさ、悔しさが体中に伝わってくるようで苦しくなった。

 夫のためにも、前を向かないといけないと、自分を鼓舞し続けてきたが、それでも、ふとした瞬間に大好きなとっちゃんのそばに行きたくなる。

◆22年、ずっと私の手料理を

 夫は私の手料理が大好きだったので、結婚してから22年、外食はほとんどしなかった。でも夫が亡くなって以降、自分のために食事を作る気力が全くなくなってしまった。

 1年前、自分1人でも作らなあかんなと思って、1年ぶりに冷蔵庫を開けたら、夫が苦手で食べられなかったカレーの辛口ルーが出てきた。私がいつか食べたいと、買って冷蔵庫の奥に入れていた。その辛口ルーを見つけた時、「自分が食べたいからと辛口買って、何で私は、もっと夫のことを大切にしてあげられなかったのか」と、涙が止まらくなった。

 3月に民事提訴し、「夫のために頑張らな」と思ってやってきたが、夫が亡くなった直後、実家に押し寄せた取材陣への恐怖が抜けず、メディアや世の中の反応が正直まだ怖い。自分が声を上げることで他の誰かを傷つけてしまうのではないかと不安に駆られ、心の葛藤は続いている。

◆35万人が私たちの後ろに

 昨年、夫の公務災害が認定されたが、情報開示を求めた文書はほとんどが黒塗り。今後の裁判で、塗りつぶされた部分は明らかになるのか。夫が改ざんの手口を詳細に記したファイルを裁判所は財務省に出すよう命令し、財務省はそれに従うのか。懸念は尽きない。

 安倍晋三首相に真相を調査する第三者機関の設置を求める私のオンライン署名の訴えには、35万人超が賛同してくれた。今は1人じゃない。私と夫の後ろには、正義と民主主義を求める市民がいる。

 「とっちゃんを応援する声がこれだけあるよ。死ぬ必要なんてなかったね」

 署名を仏前に置き、言葉を掛けた。真実が明らかにされるまで、たくさんの声援を胸に、天国の夫とともに裁判を闘い抜きたい。太陽のような笑顔を天国のとっちゃんが、浮かべ続けてくれるように。

東京新聞
2020年7月13日 18時23分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/42182/