職場で「在日は死ねよ」などのヘイトスピーチを含む文書を配布され精神的苦痛を受けたとして、東証1部上場の不動産大手「フジ住宅」(大阪府岸和田市)で働く在日韓国人3世の50代女性が、同社と会長を相手取った損害賠償請求訴訟の判決が7月2日、大阪地裁堺支部で言い渡される。職場で「差別をあおる言動にさらされない権利」が認められるかが注目される。

 「悪事を批判されるとすぐに『差別ニダ!』と大騒ぎする在日朝鮮族」「南京大虐殺は歴史のねつ造」

 訴状などによると、会長は遅くとも2013年以降、こうした記事やネット上の書き込みなどを印刷し、従業員に配布。多い月では1千枚ほどにのぼったという。

 大きな争点は、会社側による文書の配布が違法といえるかだ。

 文書が女性個人への差別的内容ならば名誉毀損は成立しやすいが、今回のように民族全体を差別する内容では女性への名誉毀損は一般的に認められにくい。そこで、原告側は女性には「人種差別・民族差別的な言動にさらされない権利」があると主張。会社側は職場でセクハラやパワハラを防止する義務があるのと同様に、従業員を差別的表現にさらすことを防ぐ義務があるのに、それに反してヘイトスピーチなどを含む文書を配り女性の人格権を侵害した、と訴えている。

 女性はさらに就業時間中に教科書展示会で教科書採択の参考となるアンケートに動員され、「新しい歴史教科書をつくる会」の元幹部らが編集した育鵬(いくほう)社の中学教科書に好意的な回答を書くよう強いられたとも主張。自らの意思に反する行為を求められ、人格権や憲法で保障された思想・信条の自由を侵害されたと訴える。

 一方、被告側は文書は史実に基づく「政治的な意見論評だ」としてヘイトスピーチの該当性を否定。文書を読むことも強制しておらず、会長らの表現の自由を制限してまで原告の法的権利を保護する必要はないなどと反論している。教科書展示会の動員にも参加を強制した事実はなく、展示会への参加を呼びかけること自体は違法にはあたらないとしている。

 原告側弁護団長の村田浩治弁護士は「職場にヌードポスターを掲示することが許されないのと同様、ヘイトスピーチにさらされない権利も認められるべきだ。差別解消に向け、裁判所が明確な判断を示してほしい」と話す。(遠藤隆史、山本逸生)

朝日新聞
2020年6月29日08時00分
https://www.asahi.com/articles/ASN6W64YGN6TPTIL00H.html