毎月勤労統計偽装の実態が明らかになるに連れて、偽装された目的が「GDPを嵩上げして、アベノミクスの成果を捏造しようとしたから」ではないかという疑惑が濃厚になってきている。  

 『月刊日本3月号』では、この問題は与野党が挙って糺すべき重大問題だとし、このまま与党が権力に阿り、安倍政権の追及を躊躇するならば、政党としての存在価値はないと断じている。そして、偽装統計を根絶できないならば、我が国は亡国の道を歩まざるを得ないとして、第一特集、第二特集ともに統計不正、GDP嵩上げの実態を追及する特集を組んでいる。
 
 今回は、『「GDP600兆円」の大嘘を暴く』と題された第一特集かあ、今国会の統計不正追及でも活躍する弁護士の明石順平氏の論考を転載、紹介しよう。

■かさ上げされたGDP

―― 国会では統計不正問題が追及されていますが、毎月勤労統計と同じく偽装された可能性が高いのがGDPの数字です。明石さんは以前よりGDPのかさ上げ疑惑を追及してきました。新著『データが語る日本財政の未来』(インターナショナル新書)でも、この問題を詳しく論じています。

明石順平氏(以下、明石): 私が最初にGDPのかさ上げ疑惑を指摘したときは、「官僚がそんな偽装をやるわけないだろう」といった反応が大半でした。しかし、統計不正問題が出てきたことで、ようやくGDPのかさ上げ疑惑にも注目が集まるようになりました。  

 事の発端は、2016年12月8日に内閣府がGDPの算出方法を変更したことです。それに伴い、内閣府は1994年以降のGDPをすべて改定して公表しました。  

 この新しい算出方法では、実質GDPの基準年が平成17年(2005)から平成23年(2011)に変更されました。また、これまでGDPの算出は「1933SNA」という国際基準に準拠していましたが、これが「2008SNA」に変更されました。「2008SNA」では研究開発費などが加えられたため、GDPが大きくかさ上げされることになりました。  

 しかし、これよりも重大な問題があります。内閣府はGDPが増額した要因を発表していますが、そこには「2008SNA」とは別に「その他」という項目があります。この「その他」のかさ上げ額が非常に不自然なのです。  

 たとえば、アベノミクス以降のかさ上げ額を見ますと、13年度は4兆円、14年度は5.3兆円、15年度は7.5兆円となっており、平均するとプラス約5.6兆円になります。これに対して、1990年代はすべてマイナスで、平均するとマイナス約3.8兆円です。

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GDPの嵩上げ額を比較すると……

 つまり、アベノミクス以降を大幅にかさ上げし、1990年代を大幅に押し下げているということです。  

 狙いはおそらく、アベノミクス以降の名目GDPを押し上げ、その他の年度の名目GDPを押し下げることで、アベノミクスが成功しているように見せかけることです。  

 算出方法を改定する前の名目GDPの推移を見ると、史上最高額を記録した1997年度と、2015年度との差額は20・7兆円もありました。また、2007年度も高くなっています。これに対して、2015年度の数値は過去22年度の中で13番目の数字です。

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算出方法を改定する前の名目GDPの推移

 ところが、「その他」の額を計算に入れると、1997年度と2007年度は押し下げられ、2015年度は大幅にかさ上げされます。その結果、1997年度と2015年度の差額はわずか0.9兆円になり、しかも2015年度は過去22年度の中で二番目の数字に急上昇するのです。

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「その他」の額を計算に入れると……

 もし2015年度の数字が一番高くなっていれば、多くの人が疑念を持ったはずです。それを避けるために、あえて二番目の数字になるように調整したのだと思います。

2につづく

ハーバービジネスオンライン
2019.02.23
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