年末の安倍晋三のツイートを見て飲みかけのみそ汁を噴き出した。巷で話題のトンデモ本、百田尚樹の「日本国紀」を紹介していたからだ。初版25万部の事故本を売りさばく作戦か?

 昨年11月の刊行なのに、帯に「平成最後の年に送り出す」とあるのは愛嬌だが、「私たちは何者なのか――。」というあおり文句には「バカなんじゃないですか」としか言いようがない。

 発売日前から百田の鼻息は荒かった。
《「日本国紀」が発売されたら、歴史学者から批判が殺到するはず、と期待するアンチが多いが、彼らの期待は裏切られる。なぜなら「日本国紀」に書かれていることはすべて事実だからだ》

 百田の予想通り、発売後、歴史学者から批判が殺到することはなかった。事実誤認だらけで、歴史学者が相手にするようなものではなかったからだ。皇室の「男系」の説明もデタラメだし、内容も支離滅裂。織田信長は「一向一揆鎮圧の際も女性や子供を含む2万人を皆殺しにしている。これは日本の歴史上かつてない大虐殺である」と述べる一方で、「日本の歴史には、大虐殺もなければ宗教による悲惨な争いもない」。矛盾をツイッターで指摘されると、百田は「そういう文学的修辞が読み取れないバカがいるとは思わなかった」と返答。フランシスコ・ザビエルとルイス・フロイスを間違えていた件に関しては「どっちにしても外人や」。本を購入し、具体的に間違いを指摘してくれた人たちを罵倒するのは人間としてどうなのか。

 さらにはウィキペディア、新聞記事や関連書籍、ネット上のまとめ記事からの膨大な無断引用が発覚。今どき、大学生のリポートでもコピペすればすぐにバレるのに。

 百田は「全体の1%にも満たない」と開き直ったが、そもそも量の問題ではない。指輪3個を盗んだ泥棒が取り調べで「1個だけだ!」とドヤ顔で言うようなものだ。なお、その後の検証でコピペとされる部分は3%に達している。

 今回、百田を追い込んだのは「アンチ」ではなく、歴史を正しく扱う「知」を尊重する人々だ。作家タブーにより大手メディアが百田を批判できない中、特に「論壇net」というサイトを運営する「ろだん氏」の追及は素晴らしかった。知性はバカに屈しないという希望が見えた一件でもあった。

日刊ゲンダイ
2019/01/12
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/245261/