「やっぱりあのおっちゃんか。『臼井枠』っていうのが前からあるからな……」

 東京医科大学(以下、東医)の関係者は、東医が絡んだ文部科学省の汚職事件の報道に深くうなずいた。「おっちゃん」とは、7月6日付で辞任した臼井正彦前理事長(77)のこと。大学入試の点数を操作できるのは臼井氏しかいないと、同大学の「100人中100人」が感づいていたようだ。

 文科省の大学支援事業をめぐり、東医に便宜を図る見返りに息子を合格させてもらったとして4日、受託収賄の疑いで前科学技術・学術政策局長の佐野太容疑者が逮捕された。佐野容疑者に便宜を依頼したとされているのが臼井氏だ。つまり、佐野容疑者の息子は「臼井枠」として入試合格の印を押されていたようなのだ。ちなみに、佐野容疑者は、元文部相・小杉隆氏の娘婿とも報じられている。

 公明正大であるべき大学入試で、そんな不正が可能なのだろうか。

 同大に限らず私立大学医学部入試で、コネが通用するとすれば、2次の面接試験だという。一般に、1次の筆記試験は実力でパスすることがマストだという。

「2次で口利きをし、ゲタを履かせるという話は、ある程度聞く話ではある。ただその中でも、東医は……。私大医学部の中でも相当お金持ちのイメージですから」(元私大医学部付職員)

 2次の面接官は、ほとんどの大学で教授レベル。ただ、その年によって面接官も代わるし、受験者全員が同じ面接官かは大学にもよるのだが、「入試で2次試験の面接の受験生リストを臼井さんが眺めると聞いたことがある」と前出の東医の関係者が明かす。さらに、

「学生でも外部から来る研究者でも『臼井枠』で入ってくる人はちょっとできが悪かったりして受け入れる側が困ることがしばしば」と苦笑いを浮かべる。

 臼井氏は、大学病院の院長や名誉教授、大学学長を歴任し、理事長に就いた。人柄は、人情味のあるタイプだという。

「静岡出身で、昔からいる懐の深い親分肌のいい人。お酒も好きで、女も好きだしね。でも脇が甘いところがある」(大学関係者)

臼井氏が学長に就任して半年後、医学博士号授与をめぐり教授たちが医局員らから謝礼として現金を受け取ることが横行していた問題が発覚した。直後、臼井氏は「あしき慣例が続いていた。再発防止を図りたい」と謝罪したものの、その翌日には、当人も10年以上にわたり受け取っていたことがわかり、あっさり認めていた。さらに、2010年には、当時の教授と准教授が生体肝移植を受ける患者らから寄付を求めていたことでも問題になり、学長であった臼井氏は責任を追及される立場にあった。

 過去の対応を見る限り、確かに脇は甘いのだが……。

 臼井氏が今回の事件で、佐野容疑者に依頼したのは、文科省の私立大学支援事業「私立大学研究ブランディング事業」の選定だ。その狙いはどこにあるのか。

 私立大学運営に詳しい大学通信の安田賢治常務は、支援事業についてこう説明する。

「近年、各私大に割り当てられる助成金は年々減っている。大学からすると同事業で文科省から競争的資金を得たい。事業自体の競争率が高く、選ばれれば対外的に研究力の高さを打ち出せる。それと、いわゆる文科省『お墨付き』の研究を始めることができるわけですから、研究者もそれで論文を書けば箔がつく」

 16年度に東医は落選。17年度には選ばれ、特別補助として年3500万円を5年間受けることができるようになった。関係者によると昨年は経営状態が大幅に改善したというが、今回の事件で雲行きは怪しくなってきた。

 7月には学長選を控える東医。なぜ、このタイミングで臼井枠が問題となってしまったのか──。(本誌・岩下明日香)

※週刊朝日  2018年7月20日号
https://dot.asahi.com/wa/2018071000027.html?page=1