「真実ではないこと、偽りのこと。極論でいえば、嘘というものは、それを発言した人にとどまることなく、第三者、他人をまきこんでいく」。愛媛県の中村時広知事は5月11日の記者会見でそう話した。元「週刊現代」編集長の元木昌彦氏は「嘘をつき続ける安倍首相の言動は異常だ。また公私をわけられない昭恵夫人の行動も理解できない。2人とも人間として大事な何かが欠落している」という――。

■安倍晋三という政治家をひと言で表す漢字は「嘘」だ

12月に京都・清水寺で発表される今年の漢字は「嘘」に決定した。

それ以外にないと、私は思っている。これに似た漢字「偽」が選ばれたのが、年金偽装問題が起きた2007年であった。これは第一次安倍内閣の時だ。安倍晋三という政治家をひと言で表す漢字に「嘘」ほど適切な言葉はない。

歴代総理で嘘をついた人間は数多いる。筆頭は佐藤栄作であろう。彼は沖縄返還を急ぐあまり、アメリカからは「核付き返還」といわれたにもかかわらず、「核抜き本土並み返還」だと国民を欺き、ノーベル平和賞まで授与されてしまうのである。

ここまでスケールの大きな嘘だと、沖縄返還という大義名分があるから仕方ないかと、騙されたほうもため息をつくしかないのかもしれない。

■「公約は嘘だった」といってのけた小泉元首相

もう一人あげるとすれば小泉純一郎である。竹中平蔵を経済財政政策担当大臣に据え、派遣法改悪を含む格差拡大政策を取り、非正規労働者を激増させ、貧しい者をより貧しくしてしまった"元凶"である。

私が小泉を許せないと思うのは、この発言である。

総裁選出馬の時に公約した「国債30兆円枠」を守れなくなると、衆院予算委員会で「大きな問題を処理するためには、この程度の約束を守れなかったというのは大したことではない」といい放ったのである。

時の総理があの公約は嘘だった、破ってもいいといってのけたのだ。麻生太郎・財務相も真っ青の、狂気ともいうべき大暴言であるはずだ。

だが不思議なことにメディアの追及は甘く、小泉はそれからも放言を重ねた。当時のブッシュ大統領がイラク進攻の名分にした「大量破壊兵器」に、根拠もなくいち早く賛成した。後にアメリカが嘘だったと認めたのに、私が知る限り、小泉自らが誤りを認めて謝罪したという話は聞いていない。

在任中には原発を容認しておいて、今になると反原発をいい続けていたかのように振る舞う。この男には政治家に最低限必要な節操というものがない。

この二人に比べると安倍の嘘はスケールが極めて小さい。だからといって罪が軽いというわけでは決してない。

■官房長官や大臣、秘書官、官僚までが嘘に嘘を重ねている

妻・昭恵が親しくしていた森友学園理事長の国有地購入に便宜を図ったこと。安倍の腹心の友である加計学園理事長の進めていた獣医学部新設に安倍自らが便宜を図ったことは、ほぼ間違いない事実なのに、安倍夫妻は嘘をつき続け、しらを切りとおしている。

最高権力者がついた嘘を、周りが寄ってたかって糊塗(こと)しようと、官房長官や大臣、秘書官、官僚たちまでが嘘に嘘を重ねてきているのである。異常というしかない。

集団思考の研究で有名なアーヴィング・ジャニスは、大統領とその側近がいかに優秀であっても、集団になるとばかげた意思決定をしてしまうことがあると、ベトナム戦争時のトンキン湾事件やウォーターゲート事件を例に出して分析している。

まして優秀ではない権力者が保身のために嘘をつけば、つじつまを合わせるために、官僚たちが文書改竄という犯罪的行為にまで手を染めてしまうのである。

愛媛県の中村時広知事は5月11日の記者会見でいみじくもこう指摘した。

「真実ではないこと、偽りのこと。極論でいえば、嘘というものは、それを発言した人にとどまることなく、第三者、他人をまきこんでいく」

困ったことに、嘘も百万遍いい続ければ嘘ではなくなるという空気、「安倍症候群」とでもいうべきものが日本中を覆い尽くしているのだ。

続く

PRESIDENT Online
2018.7.2
http://president.jp/articles/-/25553?display=b