モリ・カケ問題から1年超。呆(あき)れるほどのウソ、まやかしが飛び出しながら、それでも安倍政権は続き、首相は3選を視野に入れたかに見える。さらには米朝首脳会談を機に内閣の支持率に“異変”が起きた。その理由を知る手がかりは、映画「ゲッベルスと私」にある。

 米朝首脳会談を境に、報道各社の安倍内閣支持率は軒並み上昇し、一部は支持が不支持を上回った。モリ・カケ問題再燃で続いた「支持-不支持」傾向から再び回復基調に入った可能性がある。モリ・カケ問題への不信は約8割と依然高く、米朝会談の評価は割れていても上昇に転じた。会談直前の時事通信の調査では、支持率微減が続いていたので、変化の理由は、対北朝鮮外交は安倍晋三首相に任せるしかないという「期待感」の表れだろう。

 国会でモリ・カケ問題が取り上げられて1年4カ月。このまま終わらせてはならないにしても、この問題で安倍政権が倒れることはないという理不尽な現実もそろそろ受け入れなければならない時期にきているのかもしれない。首相や官僚や関係者たちの数々のウソ、野党の力不足など理由はいくつかあるが、政権が続く最大の拠(よ)り所は、支持率のしぶとい復元力にある。

 第1次安倍内閣以来、過去12年間の歴代内閣は、発足時の支持率が一番高く、右肩下がりのまま退陣する繰り返しだった。だが、再登板後の安倍内閣は、特定秘密保護法、集団的自衛権行使容認、安保法制国会審議といった大きな政策論争が起きる度に支持率が下がっても、混乱が過ぎると支持が持ち直す特異なパターンを繰り返している。

 支持率を回復させているのは誰か。ネトウヨ層は何があっても支持し続ける人たちだ。いったん支持を離れるが、また戻ってくる人たちは別にいる。多くの世論調査分析から、その人たちは秘密保護法や集団的自衛権や安保法制そのものには反対ではない。そうした政策を絶対許せない左派・リベラル層が「内容をよく理解していないからだ」と決めつけるのは傲慢というもので、知識があり、反対派の理屈も承知している分別豊かな人たちだということが分かっている。

 反対論も理解した上で、意識的に大きな政策転換を支持するからこそ、反対派を説得する政権の力不足には厳しく、強引で乱暴な国会審議にも批判的で、モリ・カケ問題のだらしなさに怒る。でも、タブーを克服して理性的に判断しようとするので、手続きや少々のモラル違反には目をつぶり、また安倍内閣支持へ復帰する。

 つまり彼・彼女らは、「アベ辞めろ」と叫ぶあなたと仲のいい友人、食卓を囲む家族、政治や社会に関心の高い善良な隣人である。いくら安倍首相を責めても、首相はそうした人たちからの支持を頼みに息を吹き返している。なぜ安倍政権は続くのか不可解な人たちは、国会や首相官邸前で同じ主張の人たちと意気上がるのも大事だが、帰路についてから、にもかかわらず安倍政権を淡々と支持する友人・家族・隣人たちの政治意識にこそ静かに向き合い、問いかけるべきなのだ。でも、どうやって?

つづく

サンデー毎日
2018年7月2日
https://mainichi.jp/sunday/articles/20180625/org/00m/070/011000d