度重なるスキャンダルで安倍政権は窮地に陥り、側近たちは「政権の果実」の収穫に忙しい。それはカジノ誘致や高等教育無償化、整備新幹線などに現れる。そうした党幹部や側近議員の“政治活動”は「森友や加計などの問題で停滞した分を取り戻そう」という安倍政権の求心力の回復をうかがわせる動きにも見えるが、内実はバラバラの私利私欲でしかない。

 それをはっきり物語るのが、安倍晋三首相が最も力を入れてきた政策の実現に誰も熱を上げていないことだ。

「憲法に我が国の独立と平和を守る自衛隊をしっかりと明記し、違憲論争に終止符を打たなければならない」

 憲法記念日(5月3日)の改憲派市民団体の集会に安倍首相はそうビデオメッセージを寄せ、なおも改憲に意欲をにじませた。

 しかし、盟友や取り巻き、側近たちはカジノ法案や新幹線建設、大学無償化といった政治利権につながる政策には熱心なのに対して、首相の最優先の政治テーマの憲法改正を少しでも前進させようという動きが与党内に全く見られない。

 権力者の側近として政権のうま味を味わってきた政治家たちにとって、政権の先行きが見えたいま、自らの政治的影響力の強化や利権につながる政策であれば刈り取ろうとするが、利権を生まない憲法改正にはさしたる関心がないのだ。

 取り巻きたちは安倍晋三という政治家の理念に共鳴した“お友達”ではなく、自らの政策、政治的利益を達成するために権力に近づいてきた人々だったことが見て取れよう。

 長期政権の末期に壮絶な利権争奪戦が起きるのは自民党の“お家芸”でもある。巨大な政治利権だった三公社(旧電電公社、旧日本専売公社、旧国鉄)の民営化を打ち出した中曽根内閣の末期には、NTTと日本たばこ産業が民営化された後、最後に残った旧国鉄のJRへの分割・民営化をめぐって存続派の議員と民営化派議員が争い、民営化派が勝利してJRへの影響力を奪い取った。

 5年の長期政権を誇った小泉内閣も、郵政選挙で大勝利した後、小泉純一郎首相が総裁3選を目指さないことを表明すると政権は末期化した。小泉政権が最後に取り組んだのが沖縄の普天間米軍基地の辺野古移設と在日米軍(海兵隊)のグアム移転という巨大事業だ。

 米国との交渉は小泉内閣から後継者の第1次安倍政権に引き継がれ、日本側は3500億円とされる辺野古の埋め立て事業費とは別に、グアムでの米軍施設建設に61億ドル(約7000億円)を拠出することで合意。巨大利権が自民党防衛族の有力議員や同省の有力幹部の暗躍の舞台となった。

 安倍政権で起きている現象もまた然り。権力の終わりが見えたから、周囲はこの政権で得た“持てるだけの財宝”(政治的果実)を抱えて逃げ仕度を始めている。

 それを時の総理が「オレにはまだ政策を支持し、支えてくれる同志や盟友がこんなにいる」と勘違いしているとすれば、「裸の王様」というほかない。

※週刊ポスト2018年5月25日号
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180517-00000006-pseven-soci