だが、そんな中で新たに「データが捏造されている」と指摘されている「森林経営管理法」が、あっさり衆院を通過してしまったことはあまり知られていない。
森林経営管理法は、2024年度から導入される予定の「森林環境税」に関連する法案だ。手入れが行き届かず、森林所有者が管理していない森林を、市町村が中心となって担い手となる林業事業者に集約して林業をすることが目的に掲げられている。法案が成立すれば、森林管理や林業経営に行政が強力に介入できるようになることから「戦後林政の大転換」といわれている。
データ“捏造”は、林野庁がこの法案を説明するために作成した資料「林業の現状」で発覚した。資料には、法案提出の背景として「8割の森林所有者は森林の経営意欲が低い」と書かれていたが、データの引用元となっているアンケート「森林資源の循環利用に関する意識・意向調査」では、「経営への意欲」を聞いた質問は存在していなかったのだ。データの問題を衆院農林水産委員会で追及した田村貴昭衆院議員(共産党)は、こう話す。
「林野庁の担当者に質問すると、アンケートの回答である『林業経営規模の意向』をまとめた結果に『現状を維持したい』と答えた71.5%と『経営規模を縮小したい』と答えた7.3%を合算して『8割が経営意欲がない』と決めつけていたことがわかった。経営規模を拡大するかどうかはその時の事業者の裁量で、拡大しないことが『経営意欲がない』と読み替えることは行き過ぎです。『捏造された数字』と言わざるをえません」
データの不備が指摘されているのは『経営意欲』についてのデータだけではない。林野庁の説明資料では「意欲の低い森林所有者のうち7割の森林所有者は主伐の意向すらない」と断じられている。なお、「主伐」とは、伐期に達した成熟した木を切ることを意味する。
たしかにアンケート結果では、7割の人が「主伐を実施する予定はない」と回答している。ところが、その後の項目では、この回答をした人に、「主伐を実施しない理由」について複数回答可で再質問している。その結果は、「主伐を行わず、間伐を繰り返す予定であるため」との回答が58%で最も高かったのだ。林野庁の資料では、この回答がまったく無視されていた。
アンケートの結果を見たある林業者は、こう話す。
「品質の良い木材にするには50年では若い。あと20〜30年程度必要で、しかも最近は木材価格が安い。主伐を控えるのは当然の経営判断で、林野庁がなぜ『主伐の意向すらない』と言い切るのか、理解できない」
これには自民党の議員も「林野庁は良質な木材を育てようとしている人を『意欲がない』と決めつけている」と、不信感を募らせている。
こういった指摘が相次いだことで、林野庁は対応を余儀なくされた。データの引用が不適切であったことを認め、4月19日には新たな資料を作成した(写真参照)。そこでは「経営意欲が低い」が「経営規模を拡大する意欲が低い」に、「主伐の意向すらない」が「今後5年間の主伐の予定はない」に改められている。
林野庁の担当者は「さまざまな方から批判があり、林野庁がよからぬことを考えていると誤解を受けたため、資料の文言を正確な表現に修正した」と説明する。
それでは、なぜ林野庁はアンケートの回答結果を誤用してまで、このような資料を作成しなければならなかったのか。林業政策に詳しい泉英二愛媛大名誉教授は、こう分析する。
「この法案の根本には、森林所有者は、林業経営をする意欲がない人たちと規定していることがある。一方で、森林所有者には伐採と、その後の造林の実施に責任を持つよう定めている。できない場合は市町村に委託させる内容になっているが、委託に同意しない所有者に対しては、市町村が勧告や意見書提出などのプロセスを経れば『同意したもの』とみなし、木を伐採してもいいことになっている。非常に強権的な内容で、憲法が保障する財産権を侵害している可能性が高い」
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AERA.dot
2018.4.23 09:26
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