半世紀以上も前の「黒い霧解散」が永田町でにわかに注目され始めた。安倍政権は学校法人「森友学園」「加計学園」を巡る疑惑で大揺れ。安倍晋三首相が秋の自民党総裁選で3選を狙うには、現状をリセットするしかないというわけだ。昨年10月の衆院選からまだ半年。また解散ではさすがに「ご都合主義」のそしりは免れない。与党内ではそんな常識派が今のところ大勢なのだが−−。【木下訓明】

話は1966年にさかのぼる。政界では閣僚の不祥事や自民党議員の逮捕などが相次ぎ、「黒い霧」と呼ばれた。時の佐藤栄作首相は同年12月、自民党総裁に再選されたものの政権は盤石ではなかった。求心力回復を狙った佐藤は年末、衆院解散に踏み切る。これが黒い霧解散だ。

 翌年1月の衆院選で、自民党は「過半数割れ」という大方の予想を覆し、議席を微減にとどめて安定多数を維持。佐藤が7年8カ月の長期政権を築く転機になった。

 昨年2月、森友学園に国有地を8億円値引いて売却した問題が浮上。5月には、加計学園による国家戦略特区(愛媛県今治市)を利用した獣医学部新設を「総理のご意向」と記した文部科学省の文書が明るみに出た。首相はいずれも関与を否定したが、内閣支持率は急落し、自民党は昨年7月の東京都議選で惨敗した。

 二つの問題は今も安倍政権を悩ませる。財務省は森友学園に関する決裁文書を改ざんし、加計学園を巡っては、首相秘書官(当時)が2015年4月、面会した学園幹部らに「首相案件」と語ったという備忘録を愛媛県職員が作っていた。野党は関係者の証人喚問を求めて勢いづく。

 疑惑が後を絶たない中、佐藤が首相の大叔父にあたることも早期解散説に信ぴょう性を加味している。希望の党の玉木雄一郎代表は「黒い霧解散をやりかねない。野党がばらばらではだめだと危機感を持っている」と認め、自民党内には「今なら負けない」という声も実際にある。タイミングは今国会の会期末(6月20日)近くか、総裁選直前に召集する臨時国会の冒頭だという。

 しかし、昨年9月の解散が「森友・加計隠し」と批判されたことを忘れてはならない。自民党が圧勝しても、「モリ・カケ」問題は政権に重くのしかかったままだ。真相をうやむやにしたまま、「選挙で信を問う」というやり方は一時しのぎに過ぎない。しかも「黒い霧解散」は、衆院議員の任期満了まで1年を切る中で行われた。現在の衆院は3年半の任期が残る。首相は昨年、消費増税分の使途変更と北朝鮮対応を解散の理由にしたが、次の解散は大義名分探しがもっと難しくなるだろう。

 昨年の衆院選後、自民党幹部は「首相はもう解散はしない。21年まで総裁任期を確保し、憲法改正や東京五輪に取り組むだろう」と語っていた。今はどうか。3月28日の参院予算委員会で、首相は山本太郎氏(自由党)にこう答弁している。

 「解散・総選挙は考えていない。しっかりと選挙で約束したことを実行していきたい」


毎日新聞
2018年4月16日 11時00分(最終更新 4月16日 11時33分)
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