2018年2月12日 08:58 沖縄タイムス
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/208222

「情報ロンダリング」という言葉がある。不正な資金を「洗浄」するマネーロンダリングと同じように、怪しげな情報も報道機関を通過すると本当らしく見える

▼産経新聞の報道が典型だった。米兵が日本人を救助した後にはねられた、というネット上の物語を十分取材しないまま記事化。根拠がないから報じない沖縄2紙に「報道機関を名乗る資格はない」と批判を浴びせた

▼「日本人として恥だ」という一節もあった。先鋭化した言葉はネット上で目を引く。案の定、「2紙は反基地だから黙殺した」というデマが拡散した

▼会社に抗議の電話があった。私も取材した若者に直接、「なぜ米軍がいいことをした時は報じないんですか」と聞かれた。説明したい。でも、救助を否定すれば一時重体だった米兵や家族を傷つけるのではないか、と二の足を踏んだ

▼デマは単なるうそではない。卑劣な攻撃である。多数から少数へ、本土から沖縄へ。デマを浴びせかけ、圧倒すれば誰も少数の訴えに耳を貸さなくなる。表現の自由すら奪える

▼デマを考えるのは一瞬。これに対し、事実を積み重ねて反論するには多大な労力と時間がいる。事実の重みは、報道に関わる者なら知っている。産経と沖縄2紙とで、論調が違う分野もある。それでも、デマから社会の基盤を守る責任は共通している。(阿部岳)