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 国民受けする「教育の無償化」を隠れみのに、平和憲法を改悪することは断じて許されない。

 自民党は来年1月召集の通常国会で、憲法9条への自衛隊の明記を柱とする改正案を各党に提示する方針である。安倍晋三首相の宿願である憲法改正に、自民党が本格的に動きだす。
 自民党は衆院選で改憲を公約の一つに掲げていた。野党分立などもあって自民党は大勝したものの、改憲公約が支持されたわけではないことは、世論調査の結果からも明らかである。
 共同通信社が第4次安倍内閣発足を受けて今月実施した全国緊急電話世論調査によると、9条に自衛隊を明記する安倍首相の提案に反対は52・6%で、賛成38・3%を上回った。
 安倍首相の下での憲法改正に対する国民の危機感、自衛隊の存在を9条に明記することへの根強い警戒感の表れである。
 9条1項は戦争放棄を、2項は戦力不保持と国の交戦権否定をそれぞれ定める。安倍首相は今年の憲法記念日のビデオメッセージで9条1、2項を堅持した上で、自衛隊を明記する案を提唱した。
 自民党憲法改正推進本部では安倍首相の案を受け継ぎ、9条1、2項を残したまま「9条の2」を新設し、自衛隊を「わが国を防衛するための必要最小限度の実力組織」として規定する案がある。
 9条1、2項を変えたり、削除したりすることがないにしても、自衛隊の存在を明記することは、重大な問題をはらんでいる。
 南野森九州大教授は「これまで憲法に明記されないことで自衛隊が『戦力』(9条2項)にならないようにさまざまな制約が課せられてきたが、自衛隊が明記されれば、そのような効果が期待できなくなる」と指摘。自衛隊明記が平和憲法の精神を破壊する危険性を的確についている。
 自衛隊の存在明記が9条1、2項と矛盾すれば「後法優先の原則」からして1、2項は死文化するとの憲法学者の指摘もある。
 自民党内には、自衛隊を「国防軍」と位置付け、戦力不保持を定めた9条2項の改正を求める意見もくすぶるなど、自民党が目指す改憲は極めて危険である。
 自民党の改憲公約は自衛隊の明記、教育の無償化・充実強化、緊急事態対応、参議院の合区解消など4項目の改正を目指すとしている。
 教育無償化は予算措置で事足れる。緊急事態対応での首相の権限強化は、議会制民主主義の崩壊を招く。合区解消は憲法を改正しなければ、実現できないのか。全ての改憲項目で疑問が多い。無用な自民党主導の憲法改正論議に終止符を打つべきだ。
 日本の平和が保たれてきたのは、9条があったからこそである。世界に誇る9条を変える必要はない。