「あってはならないことです。絶対に」。公示翌日の11日夜、沖縄3区の自民前職、比嘉奈津美氏は那覇市の自民県連で、沖縄の他の3小選挙区の自民候補とともに防衛省沖縄防衛局と外務省沖縄事務所の責任者に悲壮な表情で迫った。その日の夕方、沖縄県東村高江の民有地で米軍の大型輸送ヘリコプターCH53Eが大破して炎上。選挙日程を急きょ切り上げての抗議だった。
悲壮な表情の裏には、沖縄の選挙事情がある。3極の戦いが注目される全国と違い、沖縄の4小選挙区は2014年の前回に続き、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への県内移設に反対する翁長雄志知事を支える「オール沖縄」勢力と、移設容認の自民候補が対決する構図だ。
前回は「オール沖縄」勢が全勝。自民公認の選挙区全敗は沖縄と、保守分裂の選挙区があった山梨だけで、移設反対の民意の強さを突き付けた。政権幹部が「今回は小選挙区で勝つ」と反転攻勢を狙う選挙戦の矢先の今回の事故。県民の怒りは強く、自民県連幹部は「県民から不満や批判を受けるのは(移設容認の)我々だ」と頭を抱える。特に事故現場の東村がある沖縄3区への影響は不可避で、比嘉氏は16日の沖縄市の集会では「米側にきちんと申し入れるよう国に強く言っている」と強調した。
しかし事故を巡る米軍の動きが状況を複雑にする。政府は安全確認ができるまでCH53Eの同型機の飛行停止を求めたが、米軍は事故からわずか7日後の18日に同型機の飛行を再開。政府は再開に納得しない姿勢を示すが、米軍と、米軍を止められない政府に対し、「オール沖縄」勢は批判のボルテージを上げる。
17日に沖縄市であった3区の無所属前職、玉城デニー氏の集会には翁長氏も参加。翁長氏は「政府に当事者能力がない。こういう国の姿勢が沖縄にとっての国難だ」と指摘。玉城氏も「飛行再開を許さない思いを選挙で示そう」と訴えた。
自民と「オール沖縄」双方は衆院選でぶつかる一方で、互いの視線は先を向く。辺野古を抱える3区の戦いは、来年2月の名護市長選の「前哨戦」だからだ。現職の稲嶺進市長は翁長氏とともに移設に反対し、3選を目指す。17日のうるま市での集会で稲嶺氏は「3区での圧勝が辺野古を止める力になり、市長選につながる」と呼び掛けた。
自民は6日、市長選で市議会自民系会派会長を務める渡具知武豊氏の推薦を決定。自民県連の照屋守之会長は「衆院選が市長選につながる。自公で連携し、名護市では小選挙区で1万3500票、比例で公明6000票を取る」と強調した。
前回市長選では、自民系候補が移設容認を掲げたが、県レベルでは「移設反対」の公明の推薦を得られないこともあって敗北。巻き返しには公明との協力が不可欠だ。公明県本部関係者は「衆院選の比例の数字で協力が可能かどうかが見えてくる」と語る。
来年秋には知事選も控える。沖縄の戦いは激しさを増している。【佐藤敬一】
◇沖縄3区=名護、沖縄市など
玉城デニー58自由党幹事長(3)無 前
金城 竜郎53幸福区支部長 諸 新
比嘉奈津美59[元]環境政務官(2)[自]額賀派前=[公]