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 10日公示の衆院選では、経済分野で安倍政権の「アベノミクス」の評価や原発再稼働などが争点になる。各党の主張には「消費増税凍結」など聞こえの良い内容が多いが、財政再建への道筋などは示されていない。選挙戦では、各党に政策の具体化に向けた政策論争や説明責任が求められそうだ。

 「経済を成長させてデフレから脱却し、賃金を上げていくと約束して、一つ一つ成果を上げてきた」。安倍晋三首相は10日の街頭演説で5年近くのアベノミクスの成果を訴えた。アベノミクスの「三本の矢」の第一の矢である大規模な金融緩和で円安・ドル高が進み、輸出企業を中心に業績は改善。名目国内総生産(GDP)は、第2次安倍内閣発足前の2012年10〜12月の493兆円から17年4〜6月は543兆円に拡大した。景気拡大は今年9月で58カ月となり、戦後2位のいざなぎ景気を超えたとみられている。

 しかし、賃金の伸びは鈍い。16年の実質賃金は前年比0.7%増にとどまり、景気回復の実感が乏しいのが実情だ。自民、公明両党は子育て世代の負担軽減を図って消費を促すため、消費税増税分の一部を幼児教育・保育の無償化などに充てる方針を訴えている。

 一方、野党はアベノミクスへの批判を強めている。希望の党の小池百合子代表(東京都知事)は10日の街頭演説で、「『いざなぎ景気超え』と言われているが好景気の実感はあるでしょうか?」と訴えた。希望は大企業の内部留保への課税などを公約に掲げており、「(企業に)ためられてきたお金が設備投資や株の配当に回る、お金が流動的に動くきっかけになる」(小池氏)と主張。内部留保課税で消費税の代替財源を確保するとともに、企業にお金を使うよう促して経済成長を図ると訴えている。

 立憲民主党と共産党も、アベノミクスは「強い者をより強くしたが、中間層が崩れていった」(枝野幸男・立憲民主代表)と批判し、消費増税凍結などによる実質賃金の引き上げを訴えている。

 一方、財政再建については、各党とも明確な道筋を示していない。消費税増税分の使途変更で、安倍首相は20年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を黒字化する財政健全化目標の先送りを表明。新たな黒字化の時期も明示していない。希望も公約で、20年度のPB黒字化は「非現実的」で「現実的な目標に訂正する」としているが、具体策には言及していない。消費税増税が争点になっている一方、財政再建に向けた論戦は低調なままだ。【工藤昭久】

 ◇基礎的財政収支(プライマリーバランス)

 財政の健全度を示す指標で、公共事業や社会保障などの政策に必要な経費を、借金に頼らず税収などの基本的な収入で賄えているかを表す。プライマリーバランス(PB)とも呼ばれる。巨額の赤字財政を立て直すため、政府は国と地方の基礎的財政収支を2020年度に黒字化する目標を掲げており、18年度に進捗(しんちょく)状況を検証する予定。現行の試算では、高い経済成長率が続いた場合でも20年度に8.2兆円の赤字が残る見込みとなっている。そのため19年10月の消費増税が凍結されたり、増税に伴う増収分の使い道の変更が行われたりすると達成は一層困難となる。新たな黒字化達成の目標時期などについては、選挙後に具体的な検討が進む見通し。