新たな事実が、また明らかになった。

 加計学園の獣医学部新設問題で、学園の事務局長が愛媛県今治市の課長らとともに15年4月に首相官邸を訪れ、国家戦略特区を担当する柳瀬唯夫・首相秘書官(当時)に面会していた。朝日新聞の取材に関係者が認めた。県と市が特区に手をあげる2カ月も前のことだ。

 秘書官は各省庁から選ばれた官僚で、一番近いところで首相を支える。その人物が、構想が正式に提案される以前に、市の職員らにわざわざ時間を割く。この特別扱いは何ゆえか。
 柳瀬氏は先月の参院予算委員会で、面会について「記憶にない」をくり返した。納得する人がどれだけいるだろう。
 あわせて浮上するのは、安倍首相の答弁に対する疑念だ。

 首相は、加計学園が戦略特区にかかわっているのを知ったのは、事業主体に決まった17年1月だという。柳瀬氏は面会した時点で「今治と加計は一体」と認識したと見るのが自然だが、それから1年9カ月もの間、情報は首相と共有されなかったのか。改めて説明を求める。
 新事実はこれだけではない。今治市が名乗りをあげた15年6月、別の学園幹部が特区ワーキンググループ(WG)による同市へのヒアリングに出席し、発言していたことがわかった。

 しかし、公表された議事要旨にその記載はない。より詳しい議事録が後日公表されると言われていたが、両者はほぼ同じものだという。
 「議論はすべてオープン」で「一点の曇りもない」――。首相とWGがしてきた説明に、いくつもの疑問符がついた。

 信じられないのは、15年4月の官邸の入館記録も、6月のWGの議事要旨の元になった速記録も、いずれも「廃棄した」と政府が説明し、平然としていることだ。真相を解明するカギになりそうな物証は、官邸にも内閣府にも一切残っていない。何ともおかしな話である。

 他にも、競合相手を押しのけ「今治―加計」に決着するまでの関係大臣の協議内容なども判然とせず、行政の意思決定の道筋をたどることは、極めて難しくなっている。透明さを欠き、国民の知る権利を踏みにじる行いと言わなければならない。

 支持率が急落し、東京都議選で大敗して以降、首相はしきりに「反省」を口にし、辞を低くする。だが、加計学園が選ばれるまでに実際に何があったのかを、包み隠さず明らかにしなければ、国民の信頼を取り戻すことなど望むべくもない。

http://www.asahi.com/sp/articles/DA3S13082078.html?ref=editorial_backnumber