ルビィ「片割れのジュエル」 イタリア編
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鞠莉「はい」
鞠莉父「日本行きの便は、明日で構わないか?」
「!!!」
鞠莉父「今すぐ出ていきたいなら、そうなるよう手配するが」
鞠莉「……ううん、パパに任せるわ」
鞠莉父「そうか。なら」
鞠莉父「私は話をつけに行ってくる、この場は頼んだぞ」
鞠莉母「あ、ちょっと…!」
鞠莉父「お前も言いたいことがあるなら今のうちに言っておけ、まさかここにきて足りなくなったということはないだろう?」
鞠莉母「それはつまり、あなたの代わりに私が言えと?」
鞠莉父「フッ……さあな」 鞠莉母「貴方! ……全く、どうして私がこんな役回りを……」
鞠莉「ママ」
鞠莉母「~~っ……ああもう、本当に……」
鞠莉母「言っておくけど、私はまだ全てを認めたわけではありませんからね。でも」
鞠莉母「約束は約束です、あなたの好きにしなさい……それと」
鞠莉母「お疲れ様、よくやったわね」
鞠莉「──!!」
鞠莉母「今日は家に泊まっていきなさい、あなた達もね。部屋は用意しておくから」
鞠莉母「以上デス。何か言うことは?」
鞠莉「……いいえ」
鞠莉「ありがとう。ママ」
鞠莉母「……私ももう行きます。これ以上ここにいると、調子を狂わされる」クルッ
スタスタ……
千歌「行っちゃった……」
善子「なんか、正直こっちも調子狂わされた感じ」
曜「だよね。私もビックリしちゃったよ」
果南「そりゃ、きっちりした人なら特別おかしくない行動かもしれないけど、それにしたって……ねえ?」
梨子「あれも昔からそうなんですか? 鞠莉さん」
鞠莉「……まあね」
鞠莉(でも、私と同じくらいの子に頭を下げるところを見たのは、初めて……)
「Buon pomeriggio!」
鞠莉「あら?」
「piacere!」
千歌「かわいいー! この辺に住んでる子かな?」
花丸「見て千歌ちゃん、この子色紙持ってる。ということは」
梨子「もしかして、あなたが私たちにサインを貰いに来た子?」
「…………」ウーン
(sign……)
「Si!」コクリ
鞠莉「そうみたい」
果南「嬉しいねー、わざわざ自分のほうから来てくれるなんて」
千歌「はいはーい! 私いちばーん!」
「per favore!!」バッ
千歌「ってあれ?」
鞠莉「え、私?」
「!!」コクコク
鞠莉「…ふふっ、お安い御用よ。ペン貸してもらえる?」
(pen……)スッ
鞠莉「ありがと♪」
千歌「おー、じゃあ私にばーん!」
善子「切り替えはやっ」
「Arrivederci!」ペコ
タタタッ
鞠莉「チャオー!」
千歌「ばいばーい! またねー!」
曜「それにしてもさっきの子、よっぽど鞠莉ちゃんのことが好きだったんだね」
曜「私たちには目もくれず真っ先に色紙渡してたし」
千歌「ね!」
鞠莉「でも変な話よね、自分で言うのもなんだけど私ってスクールアイドルのイメージあんまり持たれてないと思ってたのに」
鞠莉「依頼の件だって、まず顧問として認識されてたのよ?」
絵里「それはあの女の子が、鞠莉の良いところを事前にたくさん聞いていたからかしらね」
絵里「で、実際聞いていた以上に素敵だったから、居ても立っても居られなくなっちゃったのよ。きっと」
ルビィ「あ、絵里さん!」
絵里「遅くなってごめんなさい。月にさっきのライブの映像データを貰っててね」
月「ふふん、渡辺月、Aqoursの勇姿をバッチリ撮らせていただきました!」ビシッ 鞠莉「あの、それより絵里さんさっきの話はどういう……」
絵里「知りたい? もう全部片付いたし、話すのに何も問題はないけど」
絵里「実はね……」コソッ
鞠莉「!」
絵里「と、いうわけなの。もしかしたら貴女もちょっとは感づいていたかもしれないけどね」フフッ
鞠莉「…………」
ルビィ「二人とも、何の話してるんだろう」
亜里沙「んー、何の話だろうねー」ニコニコ
鞠莉「あの、みんなに打ち明けるタイミングは私に合わせてもらえると」
絵里「わかったわ、それまではあなたの自由に」
鞠莉「」コクリ 鞠莉「はいはーい! それじゃみんな別荘のほうに帰るわよー!」パンパンッ
鞠莉「もう自分の家だと思ってくつろいじゃっていいからね、本当にお疲れ様!」
千歌「やったー! じゃあ私お風呂入るー!」
善子「私はあの大画面のテレビでゲームとかやってみたい」
曜「わかるー! 夢あるよねあれ!」
果南「私はギリギリまで海行ってようかな、久しぶりに泳ぎたい」
ダイヤ「あら、いいですわね」
月「お、水泳なら僕も自信ありますよー! 競争します?」
梨子「みんな自由ね……花丸ちゃんはどう? 何かやりたいこととか」
花丸「マルはルビィちゃんに付いてく、色々聞きたいことがあるから」
ルビィ・梨子「?」
その夜……
千歌「あーくたびれたーっ!」バタリ
梨子「千歌ちゃん、お風呂のあとずっとはしゃいでたものね」
曜「旅館じゃいくら大きくても騒げないもんね」
千歌「いやーおかげですっごい息抜きできたよー、鞠莉ちゃんありがとー!」
千歌「ってあれ? 鞠莉ちゃんいなくない?」
果南「そういえば見てないね、どこ行ったんだろ」
絵里「鞠莉ならさっき外に出かけていったわよ」
ダイヤ「こんな時間にですか?」
絵里「ええ、きっと彼女の中じゃまだ全部終わっていないんでしょうね」
ダイヤ「?」
絵里「ねえみんな、ちょっと私の話聞いてもらえるかしら?」
絵里「今回私がここに来た理由、そろそろ言っておく必要があるから」 鞠莉母「……」ウロウロ
鞠莉父「そんなに気に入らなかったか、私の決断が」
鞠莉母「違います」
鞠莉父「ならなんだ、やっぱりもうちょっと何か言っておけば良かったって腹立ててるのか」
鞠莉母「あ、貴方ねえ! どうしてそうずけずけと!」
鞠莉父「なんだ図星か。だから最初に忠告しておいただろうが」ズズッ
鞠莉母「ええそうですね!! ……ですがそういう貴方だって少し、言わなさすぎでは?」
鞠莉母「鞠莉が気にしていましたよ、声をかけに来ないこと」
鞠莉父「その方が効果的だったろ、鞠莉が奮起するぶんには」コトン
鞠莉母「……ハァーッ、貴方のそういうところ、本当に昔から変わってないわね……」
鞠莉母「イイデスカ? たまには自分を歯車としてではなく、一人の親として……」
「パパ! ママ!」
鞠莉母「!? ……鞠莉?」
鞠莉父「なんだ、別荘の方にいるんじゃなかったのか」 鞠莉「……パパがやってくれたんでしょ?」
鞠莉父「何をだ」
鞠莉「絵里さんたちに私たちのこと、手伝わせるようにって」
鞠莉母「…ホワッツ!?」
鞠莉「お願い、してくれたんでしょ?」
鞠莉父「ああ、頼んだ」
鞠莉母「ちょ、何を平然と……!!」
鞠莉「それに……」 千歌「えぇ!? じゃあ絵里さんたちは鞠莉ちゃんのお父さんに呼ばれてここに来たんですか!?」
絵里「ええ、あの人には学園の資金援助で凄くお世話になっていて……丁度二年前、だったかしら?」
絵里「その辺りから私たちを支援したいって話が来て、今の協力関係に至ってるんだけど」
果南「二年前ってもしかして……鞠莉が浦の星に戻って来たとき……!?」
ダイヤ「そんなに早い段階から、既に絵里さんたちと関りがあったと…!?」
絵里「ええ、個人的にあなた達の動向も追ってたみたいよ」
善子「成程ね、だから……」
曜「善子ちゃん?」
善子「気にはなってたのよ、ほら私たちがイタリアに呼ばれた理由を鞠莉が話してたとき」
善子「どうしても9人じゃないといけないってくだりがあったじゃない?」
花丸「うん、あったけど」 善子「そこが変だなと思って、だって鞠莉を入れて9人でライブをしていたことなんて数えるほどしかないのよ?」
善子「時系列だっておかしい、鞠莉が浦の星に戻るって言った当時のAqoursは三人体制、翌年度に至っては鞠莉はもう卒業してるわけだし」
曜「言われてみれば、確かに……」
善子「なのにわざわざ9人を主張するってことは、多分公式の記録以外でも私たちのことちゃんと知ってたんじゃないかな……って」
千歌「……それが鞠莉ちゃんにとってのAqoursだって分かってたから?」
善子「聞いてる限りだと、ね。それこそ鞠莉が参加した直近のもので言うなら……」
ルビィ「…クリスマスライブ」
絵里「あの人が言ってたわ、Aqoursが9人揃わない、それを失敗の言い訳にされてもらっては困るからって」
絵里「その発言が本心かどうかはさておき、彼がずっと前から鞠莉の活動を見守ってたのは確か」
絵里「主に海外を主戦場としている人がわざわざ日本の、それも大会ではなく一イベントに顔を出してまでね」
絵里「なのに本人は照れ臭いどころか、やって当然と思ってるから一々言わないときたものだから……ふふっ、なんていうか」
絵里「ほんと、面倒くさい家族なのよ」クスクス 鞠莉「だから、ありがとう。パパ」
鞠莉父「……」
鞠莉母「ちょっと貴方」
鞠莉父「それで」
鞠莉母「?」
鞠莉父「お前は何をしにきたんだ?」
鞠莉「……私の歌を、聴いてもらいにきました」
鞠莉「みんなと一緒にいるときの、Aqoursとしての私じゃなくて」
鞠莉「二人の娘の、小原鞠莉としての私が歌う姿を……パパとママに見てほしいから、知ってほしいから」
鞠莉母「……鞠莉」
鞠莉父「そうか」 鞠莉「だから、忙しいかもしれないけど……「歌ってみなさい」
鞠莉「! ママ」
鞠莉母「あなたも、それでいいでしょう?」
鞠莉父「元から断るつもりはない」
鞠莉母「あのですね……」
鞠莉父「鞠莉」
鞠莉「はい」
鞠莉父「私たちに構うな、お前の好きなようにやりなさい」
鞠莉「……っ……うん」
鞠莉「……」スーッ
鞠莉「目を閉じたら ふと よぎる歌があって」
鞠莉「心はどんな時でも あの頃へ戻れると呟いていた」
鞠莉母「……いい歌じゃありませんか」
鞠莉父「……」ズズッ
鞠莉父「ああ、旨い」フッ
鞠莉「だから みんな 元気で また会えるようにきっと……」
……
…
ここまでです
なんとか1000レス以内に締めたいので次回早めに更新します
翌日、空港
鞠莉「絵里さん、亜里沙さん、この度は本当にありがとうございました」ペコリ
「「「ありがとうございました!!」」」
亜里沙「えへへっ、どういたしまして」
絵里「私たちもあなた達に会えて本当に良かったわ、おかげで新しいご縁も出来たしで」
絵里「個人的に大満足のお仕事だったもの。そっちでは確か…ラブライブの一次予選がこの後すぐ始まるのよね?」
ルビィ「はい、9月の初めにやるので開始まであと一週間くらい」
絵里「頑張ってね、離れているけど私たちも応援してるから」スッ
ルビィ「ありがとうございます!!」ギュッ
亜里沙「ルビィちゃん、雪穂によろしくね」
ルビィ「はい! 雪穂さんと一緒に亜里沙さんについて話すの、今から楽しみです!」 絵里「ダイヤも、たまには連絡してきてね」
絵里「じゃないと、私寂しくなっちゃうから」ウインク
ダイヤ「う……! さ、最初はあまり慣れないと思うので……お手柔らかに」フイッ
絵里「なんでもいいわよ、あなたがその気ならね」
ピンポン
鞠莉「あ、そろそろ時間」
絵里「さて、それじゃあ」
鞠莉「はい」
絵里「みんなお疲れ様! いつかまた会いましょう!」
ルビィ「絵里さんと亜里沙さんもお元気で!!」
亜里沙「またねー! ばいばーい!」 果南「いやーそれにしても約二週間ぶりの日本かあ」
果南「流石にこっちよりかは、いくらか涼しくなってたりするのかな」
千歌「なってるでしょー、だってイタリア暑すぎるもん」
曜「気温高いし日差しは凄いしで、まさに炎天下って感じだったもんね」
梨子「そうね、特に日差しは月ちゃんが日焼け止め用意してくれなかったらどうなってたことか」
月「まあ僕は店の状況とかあらかた予想ついてたしね、みんなの力になるためにもそれくらいはやっておかないと」
善子「ナイス判断、やっぱり月先生は頼りになるわね」
月「はは、善子ちゃんはその呼び方継続なんだね……」
善子「割と気に入ったから」
曜(善子ちゃんにしては珍しい懐き方だよね)ヒソヒソ
花丸(うん、意外なパターンずら) 月「あ、そういえばあの人たち見送りに来てなかったよね」
月「鞠莉ちゃんのお父さんとお母さん」
鞠莉「そうね、大方自分たちが来たら楽しい雰囲気が崩れるとか思ったんじゃない?」
ダイヤ「だからあえて行かなかったと?」
鞠莉「私はそう考えてるけどね、もちろん実際のところは分からないわ」
果南「最後まで淡泊というか、割り切ってるというか……鞠莉はこれで良かったの?」
鞠莉「いいのよ」
鞠莉「もう十分なくらい、伝わったから」
ゴオオオオオ…
鞠莉母「……飛行機、出ましたね」
鞠莉父「ああ」
鞠莉母「本当にこれで良かったのですか?」
鞠莉父「不服なら見送りに行ってもよかったんだぞ」
鞠莉母「……何故あなたは毎回私が素直じゃないかのような言い方をするんです!」
鞠莉父「気のせいだろ」
鞠莉母「その割には無視できない頻度でやってきますけどね!!」
鞠莉父「そうか、すまない悪気はなかった」
鞠莉母(本当にその気がないから尚のこと質悪いのよね、この人)ジトッ
鞠莉父「どうした」
鞠莉母「はあ……いいえもう結構です」
鞠莉父「なんだ結局何もないのか」スッ
鞠莉母「……」 鞠莉母「……初めから」
鞠莉父「ん?」シュボッ
鞠莉母「あの子を引き戻すつもりはなかったんですね」
鞠莉父「……」フーッ
鞠莉父「一つ勘違いしているようだから言っておくが、もし鞠莉が条件を達成できなかった場合」
鞠莉父「私は本気で連れ戻すつもりだった、一度決めたことを覆す気はないしな」
鞠莉父「それこそお前が情を移しても、お友達が泣きわめこうとも、聞く耳は持たなかっただろうし黙らせたはずだ」
鞠莉母「たとえ自身が悪役になっても?」
鞠莉父「それが覚悟を汲み取るということだろう、周囲の印象など知ったことか」 鞠莉母「……」
鞠莉父「ただ」
鞠莉父「娘のことを信じない親がどこにいるよ」
鞠莉母「!」
鞠莉父「だから彼女に依頼した、それだけの話だ」トントン
鞠莉母「…あなたって本当に」
鞠莉父「なんだ」
鞠莉母「昔っから回りくどいわよね」
鞠莉父「私が直接協力したらブレるだろうが」 鞠莉母「ええ、わかってマスとも」
鞠莉父「ああ、お前が理解してくれるならそれだけで十分だ」ジジッ…
鞠莉父「私にとっては、だがな」フーッ
鞠莉母「……」
鞠莉母「すみません」
鞠莉父「どうした」
鞠莉母「それ、一本貰えます?」
鞠莉父「フッ……ああ」
そして
────日本、東京羽田空港
千歌「……ん~~っ!! 着いたーーー!!」
千歌「遂に帰ってきたよジャパン!」
花丸「長旅だったねえ、イタリアに行ったあともあちこち飛び回ってたし」
善子「私は非日常感あって割と楽しかったけどね」
ルビィ「えへへ、実は私も」
曜「うんうん、巻き込まれた甲斐があるってものだよね」
鞠莉「あら曜、言ってくれるじゃない?」
曜「こ、言葉のあやだって!」
果南「…………」キョロキョロ
梨子「果南さん? どうしたの?」 果南「いや、聖良がいないなあって」
善子「そういえば来ていないわね、絶対いると思ったのに」
果南「うん、会いたかったんだけどな」
千歌「え?」
鞠莉「おやおや」
ダイヤ「ふふっ」
果南「え、なにその反応」
鞠莉「別に~、ねえ?」
千歌「そこまで顔に出すのが珍しいなーとか思ってないよ?」
曜「無意識で言うのは相変わらずだけどね」アハハッ
果南「いや、それは……なんだろう」
果南「とにかく私、もう帰るから。またね」 梨子「……意外。果南さんならもっと軽く流すと思ったのに」
ダイヤ「きっと心境の変化でもあったのでしょう」
鞠莉「今のダイヤみたいに?」
ダイヤ「まあ、そうなりますわね」
ダイヤ「さ、私たちもそろそろ帰りましょうか」
ルビィ「そうだね、まだやらなくちゃいけないことも残ってるけど」
ルビィ「それより早くみんなに会いたいもん」
花丸「話したいこともたくさんあるしね」
善子「ええ、帰りましょう。内浦に」
果南「…………」
ガチャ
果南「ただいま」
「おかえりなさい」
果南「! ……あ」
聖良「ご飯、もう出来ていますよ」
果南「ああ、うん。ありがとう」
果南「…………よかった」
聖良「え?」
果南「会えないんじゃないかって思ったから」 聖良「? 返事なら携帯でしましたよね」
果南「だって待ってるって言ったのに空港いないし」
聖良「料理に取り掛かろうと思ったので、きっとお腹も空かせてるでしょうし」
聖良「あなたが言ったんですよ? 私の手料理が食べたいって」
果南「いやっそうだけど、そうじゃないっていうか」
聖良「どうしたんですかさっきから、歯切れの悪い返事ばかりであなたらしくもない」
聖良「何か言いたいことがあるなら……」
果南「来てくれるって思ったんだよ。その、迎えに」
聖良「……はい?」
果南「それでまあ、家に着くまでに向こうであったこととか二人で色々話そうと思ってたからさ……だからその、ちょっとね」
聖良「ちょっと?」
果南「凹んで……ました」 聖良「……」
聖良「つまりあれですか。私が料理の仕込みも万全で、そのうえで果南さんに真っ先に会いに来てくれると勝手に勘違いして」
聖良「しかもそれが外れたから今こうして勝手に落ち込んでると?」
果南「そ、そうなるかも」
聖良「…………」ハァーッ
聖良「勝手な人」
果南「うっ」グサ
聖良「ああしてこうしてと人に頼んでおきながら、ちょっと自分の思い通りにならなかっただけで拗ねるとか子供ですか」
聖良「あと私なら別に言わなくても率先してやってくれるだろう、自分に尽くしてくれるだろうといったその考え方」
聖良「完全にヒモ男のそれですよね、私はそんなに都合のいい女に見えますか?」
聖良「いやはや最低ですね、相手が相手なら平手打ちものですよ」
果南「ううっ」グサグサッ 聖良「全く、貴女という人は……」
果南「ご、ごめん……本当にごめん」
聖良「…………」
聖良「でも、そういうところ……私は可愛いと思いますけど」
果南「……はい?」
聖良「なった理由としても? 私を想ったからこそだというのは正直悪い気はしませんし」
聖良「あなたにそういう子供じみたところがあるのも前々から分かっていましたし、そんな一面も私は好きだから別にいいんですけど」 果南「ちょ、ちょっと聖良」
聖良「大体ですね、それくらい先に言ってくれれば迎えくらいいつだって行きますよ。私だって早く会いたかったんですから」
聖良「寧ろ果南さんより私のほうが好いている分……むぐっ」
果南「ストップ、待ってほんとに恥ずかしいから待って」
聖良「珍しく、というか初めて動揺して赤くなりましたね。大丈夫、そういうところも可愛いですよ」
果南「やめてってば! もう~……一体いつからそんな言葉をぽんぽん言うようになったのさ……」
聖良「果南さんが原因ですね。まあ、今までの意趣返しみたいなものです」 果南「なんで私……」
聖良「流石にその無自覚なところは改善してほしいですね、アリといえばアリですが……それはともかくとして」
聖良「私も少し、正直に気持ちを伝えようかと思いまして。実践してみただけですよ」
果南「あれが少し?」
聖良「いけませんか? 私は結構スッキリしましたけど」
聖良「あなたを愛しているということに嘘はありませんから」
果南「いや、そうじゃない…んだけどさ」 聖良「けど?」ジッ
果南「…………」
果南「はあーっ、なんか私甘く見てたみたい。聖良のことも私自身のことも」
聖良「と言いますと?」
果南「ここまでいったらはぐらかすことも出来ないじゃん……愛なんて言葉まで出ちゃったら尚更」
果南「それに……告白されて初めて分かったんだ、簡単に流せるほど私の気持ちも軽いものじゃなかったんだって」
果南(でもなんでだろうね、不思議と変に思わないんだよ)
果南(私、いつから揺れ始めてたんだろう) 聖良「……いいんですか、そんな思わせぶりなことを言って」
聖良「私、期待してしまいますよ?」
果南(ただ分かるんだ、それがつい最近の話じゃないってことくらいは)
果南(だって)
果南「いいよ。その想いにはちゃんと応える」
果南「たとえヒモだって言われようが、私は聖良の気持ちを弄ぶようなことは絶対にしないし、したくもないから」
聖良「っ……本当に卑怯ですよね。あなた」
果南「だから聖良……ハグ、しよ?」 聖良「……いいえ」
聖良「それだと少し物足りないですね、他の方にやっていることと変わりませんし」
聖良「特別感が欲しいですね、私だけにしか得られないような」
果南「欲張るね」
聖良「どうも」
果南「…何がいいの?」
聖良「そうですね……キス、してくれたらいいですよ。どうでしょうか?」 果南「…………」
聖良「…………」
果南「……ごめん、聖良」
聖良「っ」
スッ
果南「せっかく作ってくれたのに、料理……冷めちゃうかも」
聖良「! ──本当に、仕方のない人ですね」
ギュゥ
聖良「でも、許してあげます。あなたのここ……温かいですから」
聖良「その代わり、絶対に離しません」
果南「……ん」グイッ
聖良「あっ……」
だって、そのずっと前から彼女は私の隣にいて、私もそれが心地よくて
一緒にいたいなあって思ってたから
気を紛らわすためでもなくて、誰かの代わりでもなくて
彼女じゃなくちゃ駄目なんだってそう思えるくらい、私の中で特別な存在になっていたから
気付いたら、だけどさ。だから皆に鈍いって言われるのかな
でも、もしそうだとしても
もう自分の想いだけは隠さないようにしようって決めた
多分、その伝えかたも不器用なんだろうけど
それでも愛していきたい、こんなどうしようもない私を
──愛してくれる人が、そこにいるから。
片や場面は変わって
内浦、海岸沿い
ザザーッ
ルビィ「……」
善子「ルビィが一人でいるのって珍しいわね、っていうか懐かしい光景」
ルビィ「善子ちゃん」
善子「考え事?」
ルビィ「うん、私の将来について」
善子「そう、来年は卒業だものね」
ルビィ「そうだね。本当の本当に最後」 ルビィ「ねぇ善子ちゃん」
善子「なに?」
ルビィ「私ね、善子ちゃんに聞いてほしいこととお願いしたいことがあるの」
善子「ふーん、それって我がまま入ってる?」
ルビィ「超わがままだよ」
善子「オッケー、言ってみなさい」
ルビィ「ん……善子ちゃん、私ね」
ルビィ「────になりたい」
ルビィ「それがようやく見つけた、私の夢なんだ」ニコ 善子「…………」
ルビィ「善子ちゃん?」
善子「ビックリしたあ……どんだけ強欲なのよあなた」
ルビィ「やっぱりそう思う?」
善子「そりゃあね、でもいいんじゃない? ルビィらしくて」
ルビィ「えへへっ、ありがと」
善子「だとしたら、お願いのほうもなんとなく察しがつくわね」
ルビィ「善子ちゃんは相変わらず鋭いねぇ」 善子「でも仮にさ、私がそれで文句言ってきたらルビィはどうするわけ?」
ルビィ「それでも押し通す」
善子「…………ぷっ」
ルビィ「……ふふっ」
善子「あーもう、ほんっと……我ながらとんでもない子を好きになったもんだわ、あんたいくらなんでも自己中すぎ」クックック
ルビィ「私をろくでもない女にしたのは善子ちゃんだよ?」
善子「なによ、私のせいにするっていうの?」
ルビィ「だってほんとのことだもん」
善子「なら言わせてもらうけど私だってルビィのせいで散々な目に遭ってるんだからね」
ルビィ「たとえば?」
善子「つい最近でいうとあれよ、放課後三人で帰ろうとしたときルビィが……」
ダイヤ「二人とも、楽しそうですわね」
花丸「久しぶりに取れた二人っきりの時間だからね」
花丸「色々溜まってたんだと思う」
ダイヤ「あとは、あの子なりに清算をしようとしているのかもしれませんわね。これからの為にも」
花丸「ダイヤさんも、それが理由で内浦のほうに?」
ダイヤ「はい、私もようやく」
ダイヤ「道筋というものが見えてきましたから、退路以外の、前に進むための道が」
花丸「……そっか」クスッ
ダイヤ「ルビィ! そろそろ帰りますわよ!」 ルビィ「あ、お姉ちゃん呼んでる」
ルビィ「じゃあ善子ちゃん、またね」
善子「ええ、また」
タッタッタ……
花丸「楽しかった?」
善子「もちろん、いつにも増して生意気だったけどね」
花丸「あはは、それは疲れるね」
善子「でさ、そのことで」
善子「花丸にも話しておきたいことがあるんだけど」
花丸「?」
──黒澤家
ルビィ「お母さん、お父さん、ただいま」
黒澤母「お帰りなさいルビィ……あら?」
ダイヤ「お久しぶりです」ペコリ
黒澤父「ダイヤ……珍しいな、お前がこちらに連絡もなしに来るとは。それに」
黒澤母「そんな顔をして、わざわざ家へ帰ってきたということは」
黒澤父「ああ、何かあったのか?」
「はい」
ダイヤ・ルビィ「お話しがあります」
花丸「善子ちゃんが、マルに?」
善子「そう。あなたには話しておこうと思ってね」
花丸「もしかして進路のこと、とか?」
善子「まあそれもあるけど、それよりもっと大事なことよ」
花丸「? あまり予想つかないけど……」
善子「花丸。私ね、高校を卒業したら……」
善子「ルビィと別れようと思ってる」
夏も終わり、卒業まであと6ヶ月
何かが実りを成すほどに、誰かが決意を示すほどに
私たちの最後の1年……その終わりの日は
静かに、けれど確実に、自覚するところまで迫ってきていた
もう時間はない、だけど答えははっきりしている。
あとは書き記すだけだ、絶対に消えないように。
それがこの場所の、ここの学校の生徒として、私が最後に出来ることだから。
────ありがとう
一体どこから聞こえたのか、振り返ったそこに人の姿はなく
ただ
夕日が沈んでいくなか、時折反射する水しぶきに
ふと、桜の面影を見た。
大変長くなりましたがこれで終わりです、毎日の保守支援ありがとうございました。
次の話で本当に最後になります、投稿はなるべく早く……出来れば今月内に立てる予定です
スレが立てられた際はどうかよろしくお願いいたします
ここまで読んでいただきありがとうございました おつです
いつも楽しませてもらってます
ゆっくり待ってます レス数が950を超えています。1000を超えると書き込みができなくなります。