ルビィ「片割れのジュエル」 イタリア編
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──
─
『えぇーっ!? ダイヤ、スクールアイドルやるって本気!?』
『もちろん、冗談で言ってるつもりはありませんわ』
『でも、アイドルなんて興味なかったじゃん! それにこの学校にそんな部活は……』
『申請すればいいでしょう』
『申請って、部を立ち上げるってこと?』
『ええまあ、きちんと活動できるということを証明すれば問題ないでしょうし』
『無茶言うなあもう……』
入学式も終わって
いよいよ辺境での新しい学校生活がスタートしようとしていたその矢先に
ふと、私の耳に偶然入ってきたのがそんな会話だった
スクールアイドル、聞いたことがある
確かここ日本ではかなりポピュラーなアイドル活動で、希望者も年々増加しているほどの流行りぶり
特に女子高生の間では話題に事欠かない、と言っても大袈裟ではないくらいの一大ジャンル
私もあまりその手のものに詳しくはないけど、それくらいは分かる
でも……
『無茶などではありませんわ、とにかくやると言ったらやりますから』
『一人で?』
『いけませんか?』
『それは流石に無理があるでしょ、ただでさえ素人なのに』
『私も手伝うよ』
『いや、それは……』
『遠慮しないの』
さっきも言ったようにこんな辺境でド田舎の、しかも廃校することが既に決まっているこの学校でスクールアイドルなんて
何なのあの子、賢そうで実はバカだったりするの?
けどその場のノリで言ってるようにも見えないし、寧ろ気軽に入る部活にしては真剣すぎるくらい
うーん、よく分からないわねあの堅物ちゃん
……少し興味が出てきた
『でもどうするの? 活動の証明っていったらライブは絶対やらなくちゃだし』
『そのためには曲を作らないといけないわけじゃん、ダイヤ作曲出来るの?』
『えっと、それは……』
『ふーん、まあいっか。それは追々い考えれば』
真面目なくせに準備不足で気合い空回りの堅物ちゃんに
のほほんとしてるお気楽で能天気そうな、発育上等ポニーテールちゃん
フフッ……中々いいじゃない。 『ちょっと失礼』ムニッ
『……はい?』
『え……ちょっ、はあ!?』
『うーん、思った通り素晴らしい感触』フニフニ
『な、ななないきなり何やってんの!?』
『大きいのは見て分かったから、次は弾力を確かめたくて』モミモミ
『しっかも、なんで続けてるの!! ちょっと……ぁん……っ……いい加減に、離れて!!』
『あらら、ざーんねん』 『こ、こんなもの少しどころではないでしょう! 失礼が過ぎますわ!』
『しかもほぼ初対面の方にこの対応!! あり得ません!!』
『通報! 今すぐ通報してこれ!! 犯罪だよ犯罪!!』
『大袈裟ねえ、ただのスキンシップじゃない』
『『どこが!!!』』
『まあまあ落ち着いて、それよりさっきの話聞いてたんだけど』
『あなた達、スクールアイドルやるんですって?』
『! は、はい一応……』
『サラッと流さないでよ……私これでも被害者なんだけど』
『ねえその話、私も混ぜてくれない?』 『なっ……!?』
『はあ!?』
『二人より三人のほうが申請も通りやすいと思うわよ』
『そ、それは……』
『だ、ダメ! 駄目駄目ダメダメだよダイヤ!! そんな口車に乗っちゃ駄目だってば!』
『こ、こんな挨拶代わりに人の胸を揉みしだくような変態を入れるなんて!! 私は断固反対!』
『この子絶対アレだよ! あの……ローアングルからスカートの中身撮影するのが目的だったりするやつだよ!!』
『酷い言われようね、流石にそこまで下衆い考え持ってないわよ』
『どの口が!!』 『あ、そうそう。ちなみに私、音楽には少し自信があってね……作曲だったかしら?』
『『!!』』
『もしそのことでお困りのようなら、私のスキルで助けてあげることも出来ますけども?』
『作曲……』
『うぁーっ…痛いところを……』
『お返事いただける?』 『……分かりましたわ。歓迎します』
『イッエーイ♪ 話が分かるー♪』
『ダイヤ!! 本当にいいわけ!?』
『仕方がないでしょう、背に腹は代えられません』
『よろしくね~大と……微、いや中くらい?』
『ダイヤと果南! 胸のサイズで呼ぶのやめてくれる!?』
『Sorry sorry 私は小原鞠莉。あなたのマリーって感じで親しみを込めて呼んでね』
『嫌です』
『無理』
『つれないわねえ、まあいいわ』 『とにかく善は急げ! 早速申請しに行くわよー!』
『あの、その前に』
『ん?』
『何故鞠莉さんは、私たちと一緒にスクールアイドルをやろうと思ったんですか?』
『なにその面接みたいな質問』
『そうね、面白そうだから』
『はい?』
『私、退屈な生活って嫌いなのよ』
『だから、あなた達といると退屈しなさそうだなーって。ね♪』
そう、私には分かる
これは絶対面白いやつだ
少なくとも、この雄大な自然の景色を眺めるだけの日々とはサヨナラ出来るしね
ふふっ、それにしても
まさかこんな変な考えを持っている子が同学年にいるなんて、私はツイてる
卒業までに何かスケールの大きいことをやりたいとは思っていたけど
これなら、楽しめそうだ
『あっ、そういえば名前はあるの?』
『名前?』
『ほら、スクールアイドルグループの名前』
『ああ、あれね……どうなのダイヤ』
『ええ勿論決めていますわ。グループの名前は───』
『Aqoursです』
『!』
『へえ~……』
いいじゃない。
「鞠莉さん……鞠莉さん……っ」
鞠莉「……うぅん……?」
ルビィ「あっ起きた、大丈夫?」
鞠莉「ん、平気……寝ちゃってたのね私」フワァ
ルビィ「今日はあったかいからねぇ」
鞠莉「練習は?」
ルビィ「もう終わったよ」
鞠莉「そう、ごめんなさい。明日はちゃんと出るから」
ルビィ「たまには休んでもいいと思うけど」
鞠莉「なら今日のがそれってことで」 ルビィ「分かった。あまり無茶しないでね」
鞠莉「オッケーオッケー」
ルビィ「それじゃ私ももう帰るから、また明日ね」
鞠莉「ばーいルビィ」
バタンッ
鞠莉「……ふぅ」
鞠莉「卒業まで、ね」
鞠莉「分からないもんだわ、ホント」
── ルビィ「片割れのジュエル」 イタリア編 ──
─
浦の星女学院、体育館
鞠莉「はい! それじゃあ今日はここまで!」パンッ
鞠莉「練習終わり! ルビィ締めお願い」
ルビィ「ありがとうございました!!」
「「「ありがとうございました!!」」」
「よーし、各自ストレッチ入ってー」 グッグッ
善子「……しっかし新年度に入ってから増えたわよねー」ノビー
善子「他校とのっ合同練習」
花丸「そうだねえ」グイ
花丸「やっぱり知名度があるのとないのとじゃ全然違うんだなあって」
善子「去年はそのツテを探すのにも必死だったからね」 鞠莉「確かにそれもあると思うけど、一番は学校でしょうね」
善子「学校? なんで」
ルビィ「今年は私たち三年生だけになって、人も減ったし、部活もかなりなくなったでしょ?」
善子「ああ、運動部は見事に全滅したわよね。人数不足で」
善子「今残っているのなんて文芸部と、私たちスクールアイドル部くらいだし」
鞠莉「イエース、つまり人がいない分よりたくさんのスペースを使えるってこと」
鞠莉「ほら普通の学校だと部活ごとに体育館とかグラウンドの使用時間が決められてるでしょ?」
花丸「うん、あと場所を半分に分けたりとか」
鞠莉「でもここはその心配がない、だから都合さえ合えばいつでもどこでも練習可能ってわけ」 善子「成程、うちは他の学校よりも楽に選べるってことね。まさか新入生が入ってこないことにこんなメリットがあるとは」
ルビィ「うん、見方によってはそんな悪いことばかりじゃないよ」
鞠莉「そうそう、善子と花丸も毎日ピアノや図書館ひとり占め出来ていいでしょ?」
善子・花丸「そこは元から人来ないから」
鞠莉「あー、そう」 ……
善子「そういえば、そろそろGWに入るけど今年はどうするの?」
ルビィ「今年は内浦と沼津でライブをやるつもり、休みでいっぱい人が来るだろうから街をアピールするチャンスだし」
鞠莉「東京とかと違って、ここはスクールアイドル人口少ないからねえ。そういう地道な活動もしっかりしていかないと」
花丸「内浦のことを知らない人ってまだたくさんいるもんね」
鞠莉「それに今そんなにがっつかなくても、時が来れば派手なのは勝手に向こうからやってくるわよ」
善子「フェスライブのこと?」
鞠莉「あー、まあ。うん、そんな感じね」
ルビィ・花丸「?」
善子(やけに歯切れ悪いわね、珍しい) 鞠莉「とにかく! 今は私たちに出来ることをやっていきましょ」
鞠莉「継続は力なりって言うしね」
鞠莉「さ、今日はこのあたりでお開きにしましょ。続きはまた明日ね」
三人「はーい」
鞠莉「お疲れー」 ルビィ「うーん、帰る前にランニングでもしていこうかな」
花丸「だったらマルも付き合うよ、善子ちゃんは?」
善子「私は梨子の家でピアノ練習してく、今日早いみたいだし」
ルビィ「分かった、またね」
善子「ええ」
鞠莉「……」 ─
梨子の家
梨子母「あら善子ちゃんいらっしゃい」
善子「こんにちわ、梨子さんいますか?」
梨子母「ええ帰ってきてるわよ、今お友達と一緒に部屋にいるわ」
梨子母「上がっていって」
善子「はい。お邪魔します」
善子(お友達って曜かしら? それとも千歌?)
善子(でも梨子のお母さんって二人のこと名前で呼んでたような)
梨子の部屋
善子「……」
「へー上手ー! しかも美人さんだから凄い絵になるねー!」
梨子「そ、そうかな」
「もう1曲! もう1曲頼むよ!」
曜「ていうか、さっきから近くない?」
「そんなことないと思うけどなー、曜ちゃん気にしすぎじゃない?」 「ねえ梨子ちゃん早く!」
曜「むっ、梨子ちゃん無理にやらなくていいからね」
「曜ちゃん意地悪だねー、嫉妬かなー?」
「独占欲はほどほどにしといた方がいいよ」
曜「独占欲う!?」
梨子「え、えーっと……」 善子「……寝取られですか?」
曜「ちっが……そんなわけないでしょ!! 勝手に破局させないでよ!!」バッ
曜「……ってあれ善子ちゃん、来てたんだ」
善子「ピアノ教えてもらおうと思って、そしたらなんか、あの」
善子「アレな現場を見てしまったっていうか」
曜「違うから! これ本当に違うから! ねえ梨子ちゃん!」
梨子「うん、この人はその……そういうのじゃなくて」
「そうそう。僕が梨子ちゃんの部屋が気になるって言ったから、連れてきてもらっただけだよ」
「なにせ遂に出来た曜ちゃんのガールフレンドだし」 善子「はあ、そういうこと」
善子(僕っ子……)
「君は確か善子ちゃんでしょ? Aqoursの。君の話も二人から聞いてるよちゃんと」
「あ、千歌ちゃんも入れたら三人か」
善子「どうも、で? どちら様なのあなたは。多分私とは初対面だと思うんだけど」 曜「ああごめん、紹介が遅れたね」
曜「こちら、私の従姉妹の月ちゃん」
梨子「大学先で知り合ったの」
善子「従姉妹?」
月「初めまして、渡辺月です。よーろしくー♪」ケイレイ
善子「ああ従姉妹。なるほど」
曜「どこで納得してるの善子ちゃん」 善子「──統廃合?」
月「そう、その浦の星女学院の合併先が僕のいた静真高等学校ってわけ」
月「まあ浦の星はまだ君たちがいるから潰れていないけども、新入生自体は去年から取ってないでしょ?」
月「その子たちの受け入れ先って言ったら分かりやすいかな」
曜「善子ちゃんは聞いたことあるんじゃない? 静真高校」
善子「まあね、中学のときに進学先の候補で見たことあるから名前は知ってるわよ」 曜「月ちゃん。善子ちゃんはね、私と同じで沼津出身なの」
月「へえ! じゃあ何でこっちに来なかったの?」
月「曜ちゃんは千歌ちゃんと一緒の高校がいいって理由だったけど、君の場合はどんな?」
曜「ちょっと月ちゃん!」
梨子「曜ちゃんらしいね」フフッ
善子「私? 部活が強いから」
曜・月「え?」 善子「静真って全国行き決めてる部活がいくつもあるくらいの強豪校でしょ」
善子「そんなところに入ったら、気楽な高校生活なんて送れないじゃない」
善子「どの部活も上を目指してるだろうからすごい意識高そうだし」
月「ああ、それは私も生徒会長やってたからよく分かるよ」
月「確かに学校全体がそんな感じで、中途半端はお断りって雰囲気だったね」
善子「でしょう? だから進学先は浦の星にしたのよ」
善子「あそこはそっちと違って、のほほんとしてるからね」
曜「そんな理由だったんだ……」
月「成程ねえ……」 月「しかし、それにしてもだよ。まさか全国レベルのスクールアイドルからそんな言葉が出てくるとは」
月「結構予想外だよ、僕の友達や先輩後輩に君のファンだって言う子がかなりいるんだけどさ」
月「その子たちが今の発言聞いたら、目を見開くくらいビックリするだろうね」
善子「流石にそこまではないでしょ、オーバーすぎよ」
善子「それに中学のときはそうだったってだけの話だし」
善子「当時は本当に、スクールアイドルになるつもりなんてこれっぽっちも無かったのよ」
月「ふーん」
善子「そこの二人もそう」クイッ
月「え!? そうなの!?」 曜「あ、あはは……確かに」
梨子「私たちもやりたいからって理由で入ったわけじゃなかったね……」
善子「しかも入った理由も全員バラバラだしね」
善子(というか、純粋にスクールアイドルやりたいって動機があったの……よくよく考えたら千歌とルビィくらいしかいないんじゃないの?)
月「はあー、数奇な巡り合わせもあったもんだ」
月「ねえ、君たちってもしかしてスクールアイドルの中でもかなり変わってるグループなんじゃない?」
善子「かもしれないわね」 月「いいねえそういうの、僕ももっと早くに知っていたら」
月「そっちに流れていたかもしれないなあ」
善子「それはやめておいたほうがいいわ」スッ
月「どうして?」
善子「超ギスギスしてたから、雰囲気悪いなんてもんじゃなかったわよ」
月「……仲、良さそうに見えるけど?」
善子「今は、ね」ポロン♪ 月「今は……?」チラッ
曜「黙秘権行使しまーす」
梨子「そこは……うん。あまり深入りしないでもらえると助かるかな」
月「……君たちって本当に変わってるんだねー」
善子「否定はしないわ」
梨子「色々あったからね」
曜「全部終わって落ち着いたらそのうち話すよ」 月「っていうか、善子ちゃんもピアノ上手いね!?」
善子「梨子に習ってから半年は経ってるしね」
月「へえ! 梨子ちゃんピアノ教えてるんだ!」
梨子「うん、作曲のことでちょっとね」
善子(どこがちょっとなのよ)
曜「鞠莉ちゃんから引き継ぐようにって頼まれてたからそれで教えることになったの」
月「ああ、継承的な」 善子「あっそうだ鞠莉といえば……ねえ梨子」
梨子「なに?」
善子「最近鞠莉から何か聞いたりしてない?」
梨子「何かって?」
善子「その、スクールアイドルのイベントのこととか」
梨子「特になかったと思うけど、どうかしたの?」
善子「いや、今日ね……GWの活動についてちょっと話してたんだけどさ」
善子「その中で気になることがあって」 善子「時間が来れば勝手に派手なのは来るーだの」
曜「それフェスライブのことじゃないの?」
善子「私も言った。けどその返事が歯切れ悪くて、濁されたっていうか」
曜「あの鞠莉ちゃんが? 珍しいね」
善子「だから何か聞いてないかなってさ、思ったんだけど」
梨子「ごめんね、やっぱり心当たりないかな」
善子「そう」
曜「でも本人がそのうちって言ってるんだから気長に待てばいいんじゃない?」
善子「それもそうね」
─理事長室
鞠莉「…………」
鞠莉「……フゥー」トントン
鞠莉「まあ私に関しては近いうちに来るだろうなとは思ってたけど」
鞠莉「まさかこちらもご検討中とはね」ヒラヒラ
鞠莉「…………海外、か」
それから二週間後……
会場
ルビィ・花丸・善子「はじめてを数えたら その先にあるのはなんだろう?」
ルビィ・花丸・善子「キミと見たいな!」
ルビィ・花丸・善子「はじめてを数えたら その先にあるのは さらなる」
ルビィ・花丸・善子「夢かもね ・・・わかんないけどっ」 ルビィ・花丸・善子「ありがとうございました!!」
ワーーーー!!
パチパチパチパチ!!
月「おーっ!! いいねー元気だねー!」パチパチ
千歌「いいぞー! ルビィちゃーん!」
曜「3人ともちょっと見ない間にまた上手くなってるね」
梨子「うん、息も相変わらずピッタリ」 鞠莉「congratulation! みんなお疲れさまー!」
鞠莉「今回のライブも大盛況だったわよ!」
花丸「えへへっありがとう」
善子「宣伝のおかげか、意外と人も集まってたしね」
ルビィ「うん、上手くいってよかった」 月「だよねー、内浦ってこんなに人がいたんだって思っちゃったくらいだし」スタスタ
花丸「あっ月ちゃんずらー」
月「こんにちー」
千歌「ちわーっす!」シュバッ
鞠莉「千歌っちは相変わらず元気ねえ」 月「でも本当見に来てよかったよ! 今日でGWは終わりだけどさ、次もまたやるんでしょ? ライブ」
ルビィ「そうだね、他にも色々イベントとかで呼ばれたりするから」
月「そっかそっか! じゃあ次も楽しみにしてるよ!」
月「いやー今まであんまり知らなかったのが勿体ないのなんのって!」
ルビィ「あ、ありがとうございます」 梨子「すっかりハマったみたいだね、月ちゃんも」
曜「だねー」
花丸「コミュニケーション能力の高さに曜ちゃんの親戚味を感じるずら」ズズッ
千歌「せやねー」センベイウマシ
花丸「ねー」ウマウマ
善子「あんたが一番コミュお化けでしょ千歌」 曜「それにしてもイベントかあ……Aqoursって地元では結構な有名人になったから引っ張りだこなんじゃない?」
曜「スケジュールとか大丈夫なの?」
鞠莉「ええ、その辺りはちゃーんと管理してるわよ」
曜「おぉ、流石」
ルビィ「それに私たちのは理亞ちゃんたちに比べたら、余裕があるほうだと思うしね」
善子「確かに」 月「理亞ちゃんってあれだっけ……あの、今年優勝したグループの子だっけ?」
曜「そうそうSaint Snowのリーダーやってる」
千歌「ラブライブ連続優勝だもんねー、注目されないほうがおかしいよ」
花丸「練習やライブに加えて取材とかで大忙しだって、理亞ちゃん言ってたもんね」
善子「ええ、少しは落ち着いたのかしら」
鞠莉「いや、まだまだかかるでしょ」
曜「今や最も知名度の高いスクールアイドルだからね」 月「そんなに凄いんだ!」
ルビィ「凄いよ。でも私たちも負けてられない」
ルビィ「言ったから、次は勝つって」タンッ
梨子「どこ行くの?」
善子「練習でしょ、私たちも付き合うわ」
花丸「じゃあマルたちはこれで。みんなバイバイ、今日は来てくれて本当にありがとうずら」
タッタッタ……
月「行っちゃった……」 千歌「遊びじゃないからねーラブライブは」
月「おぉ格言!」
梨子「それ受け売り」
曜「地味にアレンジしてるけどね」
月「あ、そうなの」
千歌「あー! ばらさないでよ!」
鞠莉「懐かしいわね、言われた時は結構ショッキングだったわ」
千歌「あははっホントホント! でもさ」 「「「???」」」
千歌「私たちの中で一人だけ、それを言われる前から分かっていたのがルビィちゃんなんだよね」
千歌「で、理亞ちゃんもそのことに気付いていた。だからかもしれないけど」
千歌「あの二人の関係ってちょっと変わってるなーって、最近思うようになったの」
鞠莉「……そうね。友達といえば友達なんでしょうけど」
鞠莉「それだけじゃ言い表せない何かがある。っていうのは分かるわ」
鞠莉「それもある意味、魅力の一つかもしれないわね」 鞠莉(彼女たち二人の……だから私も根拠なく漠然と思うことがある)
鞠莉(いつの間にか、期待してしまう)
鞠莉(また何かやってくれるんじゃないんだろうかって……ね)
鞠莉(……いや、そうなってほしいだけなのかしら)
千歌「鞠莉ちゃん?」
鞠莉「あーごめん、何でもないのよ」
梨子「……?」
─更に1ヶ月後……
6月中旬
函館聖泉女子高等学院
体育館
タン タタンッ
コーチ「ワンツースリーフォー、ワンツースリーフォー! こらそこサボるなー!」
「すみません!」
タンッ キュキュッ
コーチ「はいラストもう1セット!」
理亞「ふう……っ……」 コーチ「──よし一旦休憩! 次10分後ー!」
コーチ「水分きちんと取っておけよー」
「「「はーーーーーいっっっす!!」」」
黒髪「あはは……すっごい嫌そうな顔で返事するね皆」
理亞「返事が良くなっただけでも成長したと思うけど」
茶髪「確かに、練習きつくて辞めた子もいたからね~」
黒髪「まあ残った子たちだけにしても、本当に」
黒髪「よくこんな大所帯になったもんだよ……30、だっけ今の部員」
理亞「34人」 茶髪「去年の今頃なんて、私たち3人しかいなかったのにねー」
黒髪「前年度との比較がえげつない」
茶髪「ほんとそれ」
コーチ「……ん? ああはい、今休憩中ですけど……はい……ええ!?」
黒髪・茶髪「?」
コーチ「え、それ……本当ですか!? 今こっちに来て……マジすか!?」
コーチ「……あーすみませんつい。待ってください今呼んできますので」
黒髪「コーチが狼狽えてるとか、珍しいね」
茶髪「うん、なんだろ。超有名な芸能人が来てるとか?」
黒髪「いやいやまさか」 コーチ「そのまさかだよ」
黒髪・茶髪「コーチぃ!!?」バッ
コーチ「お前たち今日はもう練習上がっていいぞ」
黒髪「え?」
茶髪「どうしてですか?」
コーチ「Saint Snowにお話ししたい人がいるんだと」
理亞「また取材ですか?」
コーチ「いや」
コーチ「もっとやべーのが来てる」タラッ
理亞・黒髪・茶髪(やべーの……?)
カツン カツン
ザワザワザワッ!!
「へえー結構広いのね、この学校の体育館!」
「綺麗だし、床の質もいい。練習にはかなりうってつけの場所ね」
「凄く整ってる、外の空気もおいしいし、いいわねえ北海道」
理亞「な、ぁ……っ!」
ツバサ「……あっ、いたいた理亞ちゃん久しぶり! 元気にしてた?」
理亞「ツバッ、ツバサさん!!?」
黒髪・茶髪(ホントにやべーの来てるうううううぅぅぅぅ!!!?) ─
ツバサ「ごめんなさいね、急に押しかけるようなことして」
理亞「いえ、その、大丈夫です。驚きましたけど」
ツバサ「そう?」
理亞「はい。学校側としてもツバサさんのご来訪はとても喜ばしいことかと」
黒髪・茶髪(外のギャラリー凄いことになってるしね……)
ツバサ「なら良かった」ニコ
((((ちょーーー美人…………)))) ツバサ「理亞ちゃんは最近どう? 部活動のこととか」
ツバサ「新入部員たくさん来たんじゃない?」
理亞「ええまあ、はい。でも指導者の方がいるので特に問題はないです」
ツバサ「ああ、さっき見たあのコーチの人ね」
理亞「はい、去年の夏にお世話になって……それから続けてもらっています」
ツバサ「ふーん、なるほど」 理亞「あの、ツバサさん」
ツバサ「ん?」
理亞「どうして函館の方までわざわざ?」
ツバサ「出演している番組のロケーションでこっちに来ることになってね、北海道の特集って言えばいいのかしら」
ツバサ「それで一週間ほど滞在しているのよ」
ツバサ「あっ、ちなみに内容はまだオンエアされてないからこのことは内緒にしてね」
理亞「はい、約束します」 ツバサ「ありがとう、さて話を戻すけど」
ツバサ「今日はその仕事のオフで自由だし、場所的にもそんなに時間はかからないかなってことで、こちらの学校に立ち寄らせてもらったの」
ツバサ「本当は電話で伝える予定だったんだけど、直接会って話したほうが印象もだいぶ変わるだろうし」
ツバサ「丁度いい機会かもって」
理亞「成程、それでその話って一体」 ツバサ「理亞ちゃんは去年の夏に行った合宿のこと、覚えてるわよね」
理亞「スクールアイドル選抜強化合宿ですよね、もちろん覚えています」
理亞「大変お世話になりましたから」
ツバサ「あらお上手ね、今から話すのはその合宿のことについてなんだけど」
ツバサ「まず結論から言うわね」
ツバサ「Saint Snowの皆さん、私はあなた達3人にその合宿の指導をお願いしたいのよ」
理亞・黒髪・茶髪「!!?」 理亞「すみませんツバサさん、指導……ですか? 私たちが?」
ツバサ「ええ。でもこのままじゃ意味が分からないと思うから」
ツバサ「順を追って説明していきましょうか」
ツバサ「元々合宿の件についてはラブライブ決勝の少し前くらいから、委員会で話をしてはいたの」
ツバサ「去年行ったものは好評だったし、結果も出せてたからまたやってみてもいいんじゃないかなってね」
ツバサ「それで今度は少しハードルを低くして、参加人数も増やす方針として事を進めていたんだけど」
ツバサ「ちょっと問題があって」 理亞「問題ですか?」
ツバサ「去年は初日から最後まで私が総責任者としてずっとみんなの監督を務めていたでしょ?」
理亞「はい」
ツバサ「でもスクールアイドル育成のためとはいえ、流石に毎年この忙しい時期にそんな長期間休まれたら困る!」
ツバサ「……って色んなところから釘を刺されちゃってね」
黒髪「えーっと、つまり……」
茶髪「指導側が不足していると?」
ツバサ「いいえ、人数自体は足りているわ。代理の人もね」
ツバサ「私も、全日参加ではないとはいえ一応講師陣にはいるしね」 ツバサ「だからその問題も既に解決済み。といったところで本題」
ツバサ「じゃあどうしてあなた達をわざわざ勧誘したのかってことだけど」
ツバサ「別の視点から教えるのも必要かもしれないって思ったの」
理亞「視点とは?」
ツバサ「簡単に言うと私たちみたいなOGだけじゃなくて現役で活動しているスクールアイドルも来てくれたほうが」
ツバサ「生徒にとってはいい刺激になるんじゃないかってこと」
ツバサ「同世代だからこそ、学べるものも色々とあるでしょうし」
ツバサ「名実ともに現スクールアイドルの頂点であるあなた達なら、誰も文句を言うことはないでしょう?」 黒髪・茶髪「……」
理亞「……ツバサさんは」
ツバサ「うん?」
理亞「常に"次"のことを考えているんですね」
ツバサ「そうねー、フフッ……誰の影響なのかしらね」
ツバサ「まあそれも何かの縁あってのものだし、だからこそ」
ツバサ「こういった機会は大事にしたいと思ってる」
ツバサ「というわけで、どうかしら?」 理亞「やります、やらせてください」
ツバサ「あなた達二人は?」
黒髪「私たちも同じ意見です」
茶髪「是非お願いします」
ツバサ「決まりね、そうそうさっきは指導なんて固い言い方しちゃったけど」
ツバサ「そこまで多くを求めるつもりはないから安心して」
ツバサ「立ち位置的に言うとそうね……私たちが教員とするとあなた達は教育実習生みたいなものだから」
理亞「わかりました」 ツバサ「ああ、それとね。合宿まであと1ヶ月もあるからまだ確定ってわけじゃないんだけど」
ツバサ「今年は今年で、また面白い子たちが来るの」
黒髪「面白い子……」
茶髪「たち?」
ツバサ「ええ。彼女たちに関しては、理亞ちゃんも知ってるはずよ」
理亞「? あの、それはどういう」
ツバサ「フフッ、まあその日になれば分かるわ」
ツバサ「当日までのお楽しみってことで」
理亞(この人、こういうの多いわよね) ツバサ「さてと、話も終わったしそろそろ行かなくちゃ。あまり待たせすぎるとまた英玲奈とあんじゅに怒られるし」
ツバサ「今日はありがとうね。わざわざ話に付き合ってくれて」
理亞「いえ、こちらこそ」
ツバサ「それじゃお邪魔しました、練習頑張ってね」
ツバサ「あと、周りにいるみんなもね」ヒラヒラ
「「「!! はいっ!! ありがとうございます!!!」」」
ツバサ「それと、私がここに来たことは内緒にね」シーッ
全員「~~~~っ!!!」
ツバサ「では、さようなら」 スタスタ……
英玲奈「用事は済んだのか?」
ツバサ「ええ、上手いこと進んでくれて助かったわ」
あんじゅ「それならいいんだけど……」
ツバサ「どうかした?」
キャーーーーーー!! ヤバイヤバイヤバイ!!!
あんじゅ「あの狂喜乱舞の様は一体なにかと思って」
英玲奈「ここからでも聞こえてくるな」
ツバサ「さあ……?」
そして、順調にそれぞれの時間が経過していき……7月下旬
~夏休み開始~
ワイワイガヤガヤ
善子「これはまた……」
花丸「大勢集まったずらねえ……」
鞠莉「ふっふっふ、それもそのはず……なぜなら今年は」
鞠莉「合!同!合!宿! ですもの!!」ババン
ルビィ「あはは、賑やかだねぇ」 さゆり「ルビィちゃんおはおはーっ!」
蘭花「ニーハオ! 元気にしてたアルかー!? クゥクゥと寝てる場合じゃないアル!」
さゆり「そうだよ! 今この瞬間こそギャラクシー!!」
あきる「開始早々そんなテンション上げて大丈夫なの、疲れない?」
姫乃「天気がいいと気分が上がることってありますから……」 パンパンッ
鞠莉「はいはい、一回落ち着いて。内容のほう説明するわよー」
鞠莉「いい? 今回の合宿は全員で練習するのもそうだけど、個人のレベルアップにも力を入れていくわよ」
ルビィ「歌とダンスレッスンは勿論、他にも衣装作りとか曲作りとかあと作詞もだね」
ルビィ「それらの伸ばしたい項目を選んで、集まった人同士でスキルアップを目指す感じ」
鞠莉「具体的な例を挙げるなら、去年ルビィとあきるとさゆりがやってた指導ローテーションのようなものね」
鞠莉「とはいえ今ここで初めて教わるものとかは所詮付け焼刃だから、大会あたりでは役に立たないかもしれないけど」
鞠莉「これまでとは違ったインスピレーションを貰うっていうのは、大事よね」 鞠莉「あと! 近くにこーんな綺麗な海があるっていうのはかなりのメリットよ!」
花丸「どうして?」
鞠莉「遊べる……じゃなかった、開放的な気分になるからね!」
鞠莉「インドアって別に悪いことじゃないけど、中に引きこもりすぎると悪い影響を及ぼしちゃうもの」
鞠莉「室内で作業に没頭するときとか特に」
善子「それは分からなくはないわね」
鞠莉「流石インドア代表! 説得力がダンチね!」フーッ!
善子「喧嘩売ってるなら買うけど?」ピクピク
ルビィ・花丸「どうどう……」 鞠莉「とにかく! 貴重な合同合宿! このチャンスを無駄にしないためにも」
鞠莉「やりたいことを積極的に取り組んでいきましょう!」
鞠莉「そしてそれらを通して、ルビィ!」
ルビィ「うん。技術を学ぶのではなく」
ルビィ「活かすことを、学ぶ!」
鞠莉「Exactly! その通りでございます!」
あきる(ふーん成程ね、だから)
さゆり(個人のレベルアップってことか。面白いね)
鞠莉「さあー! それでは張り切っていきましょー!!」
「「「おーーーーーっ!!!」」」
一方その頃
東京
ピロン
果南「おー、やってるねー元気そうでなにより」
ダイヤ「……なんか、ごちゃっとしていますわね」
果南「合同合宿だからね、人数増えたらこんなもんじゃない?」
ダイヤ「そうかもしれませんけど」
果南「まあまあいいじゃん、さてお昼お昼」 果南「いやー聖良のご飯くらいだよ毎日楽しみに出来るものって」フフーン♪
ダイヤ(完全に餌付けされてますわね果南さん)
果南「今日のメニューは何かなーっと……あれ? ない」
果南「ない」
果南「……」
果南「ダイヤ、私の分食べたでしょ」
ダイヤ「人を勝手に大食い認定するのやめてもらっていいですか」 果南「えー、ならどうして無いのさ」
ダイヤ「はあ……昼食なら今日は作れないって聖良さんが言っていたでしょう」
果南「あ……しまったすっかり忘れてた、仕方ないなあ……そしたら久々にカップ麺でも食べようかなーんっと」
ダイヤ「不摂生」
果南「分かってないなあダイヤは、だから美味しく感じるのさ」
ダイヤ「…………」ジッ
果南「ん、んんっ……まあその考えは置いとくとして、私買い物行ってくるけどダイヤも行く?」
ダイヤ「いいえ、私は留守番しています」
果南「了解。じゃあちょっと行ってくるよ」ガチャ
バタン
ダイヤ「……」スッスッ
聖良:すみませんちょっと
聖良:どうしましょう
聖良:来てしまいました
聖良:ああもうすぐ近くに!
聖良:今から会います
聖良:本当に会います
聖良:あ
ダイヤ「……はあ」
ダイヤ「全く、どこもかしこも……」 ─
聖良「…………」
「えーでは続きましてー……」
聖良(私はっ私は今、とんでもない光景を目にしている……っ!!)
「はい、それでは特別講師枠の紹介です」
「まずはA-RISEの皆さんから。ツバサさん、英玲奈さん、そしてあんじゅさんの三人です」
英玲奈・あんじゅ「」ペコリ
ツバサ「よろしくね」ヒラヒラ
聖良(私の、私のすぐ隣にあの……A-RISEがいるなんてーーーーっ!!) ザワザワ キャッキャ
「はい静かに、抑えて抑えて」
「彼女たちには初日を含め計二日、参加していただくこととなりました」
「滅多にない貴重な機会です、無駄にしないように」
「続いて鹿角聖良さん」
聖良(夢じゃない夢じゃないこれは夢じゃない、ああ近くで見ると本当に……オーラといえばいいのかあとなんか良い匂いする)
「聖良さん?」
理亞「姉様、あいさつ」ヒソ
聖良「え、ええはい!!」
聖良「か、鹿角聖良でしゅ! 今回委員会様からのご厚意により参加することになった次第であります!!」 聖良(噛んだ!!)
英玲奈(でしゅ……?)
あんじゅ(あります……?)
理亞「姉様……」
聖良(しまった緊張でつい……一番肝心なあいさつでこんなみっともないところを見せてしまうなんて……)チラッ
ツバサ「ぷっ、あはは! 聖良ちゃんって真面目な子だと思っていたけど、案外可愛いところあるのね!」ニコ
聖良「」
聖良(ありがとう、私の舌)
「あ、あのーそろそろ……」
理亞「そうですね、もう放っておきましょう」 「は、はは……最後に、現役スクールアイドルからSaint Snowの皆さんです」
理亞・黒髪・茶髪「よろしくお願いします」
「以上が今回の合宿の特別講師陣になります、拍手」
パチパチパチパチ!
「次に全生徒の軽い紹介を、まず初めに……」
……
…
「──はいそれじゃあ最後、手短に」
「はい!」
「待ってましたー!」
スクッ
ツバサ「きたわね」
聖良「! 彼女たちってまさか」
理亞「……そういうこと」ボソッ
理亞(ツバサさんが言ってたのはコレね) こころ「皆さん初めまして、音ノ木坂学院から来ました矢澤こころと」
ここあ「矢澤ここあです! よろしくお願いしまーす!」
黒髪(各学校一人に対して、この合宿で唯一の二人参加)
茶髪(あの矢澤にこの妹とその確かなアイドル性で、今年から話題を集めている)
黒髪・茶髪(音ノ木坂学院期待の一年生コンビ、人呼んで──)
聖良・理亞(新星ツインズ、矢澤姉妹)
ツバサ「うーん、いいわねえ次世代」
英玲奈・あんじゅ「ツバサ、声漏れてるぞ(わよ)」 こころあ「」ジッ
黒髪(? こっちを、いや……)
茶髪(理亞ちゃんの方を見てる……?)
こころあ「」ニコッ
理亞「?」
「では紹介も終わったことですし、これから練習の方に移りたいと思います」
「最初は全体で。グループの組み合わせ等の人数分けは明日から行う予定です」
「まずはダンスレッスンから、はい距離とって!」
「「「よろしくお願いします!!!」」」
タンタン タタンッ
英玲奈「ほぉ、初めて見るがみんななかなかいいな」
あんじゅ「ええ、まあ私たちも前から気になってはいたんだけど」
あんじゅ「去年は二週間以上も休んだ誰かさんのフォローでそれどころじゃなかったものね」
ツバサ「うっ」グサ
英玲奈「だな」
ツバサ「そ、それよりほら! 気になってるなら指導の方に入りましょうよ!」
ツバサ「私たちはここにいられる時間も少ないわけだし!」 英玲奈「ふむ、確かに」
あんじゅ「それもそうね」
ツバサ「ね、いいですよね?」
「え? ええ、そうですねそろそろ」
ツバサ「はい決まり、いきましょう二人とも」 ツバサ「ちょっと貴女、いいかしら」
「ひゃ、ひゃい!」
イイナー コッチコナイカナー
理亞「……あんなツバサさん初めて見た」
黒髪「というかツバサさんに対してあんなこと言える人がまずそんなにいないもんね」
茶髪「指導もだけどこういうのもレア感あっていいわー」
聖良(激しく同意したい)
理亞(また変なこと考えてるわね姉様……まあいいか) 理亞「私たちも行こう」
黒髪「うん、そうだね」
こころあ「」ジーッ
理亞(さっきからすごいこっち見てくるし)
理亞(一応初対面のはずなんだけど)
理亞「……じゃあ、私あの二人見てくるから」
茶髪「了解、私たちは向こういってるね」
理亞「お願い」 こころあ「よろしくお願いします」
理亞「うん、よろしく」
こころ「理亞さんに指導してもらえるなんて光栄です」
ここあ「ここに参加するって聞いてからずっと楽しみにしてたんですよ」
理亞「それは、ありがとう」 理亞「…………」
理亞「あの、ちょっといい?」
こころあ「? はい」
理亞「一応聞いておきたいんだけど、どうして私? 普通はA-RISEとかだと思うけど」
ここあ「あははっそんなの簡単ですよ! 私たちがSaint Snowのファンだからです!」
こころ「特に、理亞さんのね」
理亞「はあ……!?」
こころあ「♪」フフン ─それから数日後
内浦
善子「だからここをこうして……」
さゆり「いやいや、これならこうした方が良いと……」
姫乃「ああ成程そういうアプローチもあるんですね」
花丸「うん、たまには空想そのものをテーマにするのもいいかなと思って」 トントンッ
千歌・蘭花「行きます!(行くアル!)」バッ
タタンッ トンッ
グルン
蘭花「バク転バク宙交差!!」ヒュンッ!
千歌「海外のMVとか全然商品の紹介になってないCMでよくあるやつ!」シュタンッ!
千歌・蘭花「はい!」
月「おー! 本当だ! 本当にどこかのCMで見たことあるよこんな感じのやつ!」パチパチ
梨子「なんで合宿に混ざってこんなことやってるんだろう……」
曜「しかもこれ練習じゃないよね」
鞠莉「まあいいじゃない盛り上がって!」
ワイワイ
あきる「だんだんいい雰囲気になってきたわね、元から悪かったわけでもないけど」
あきる「みんな打ち解けてきたって感じ」
ルビィ「そうだね、私もそう思う」
あきる「合宿も残り半分か。ねえ、ルビィは合宿が終わった後フェスライブに参加するのよね?」
ルビィ「え? うん、そのつもりだけど」
あきる「今年はどれでやるつもりなの? やっぱりトリオ?」
ルビィ「えーっと、どうだろう……最初はそうしようかなって思っていたんだけど」 あきる「違うの?」
ルビィ「うん。ちょっと迷ってて、これはただの私のワガママなんだけど」
ルビィ「今、トリオで理亞ちゃんたちと当たりたくないんだ。だから」
あきる「ああ、そういうこと」
あきる「ならさ、今回は私たちと組んでみる?」
ルビィ「いいの?」
あきる「もちろんよ、詳しいことはみんなで話すとしてまずは……」
さゆり「おっ、なになにフェスの話? それは丁度いいねーグッドタイミング」ヒョコッ ルビィ「あ、さゆりちゃん」
あきる「丁度いいって何が?」
さゆり「んー、さっき瑞希から連絡あったんだけどね」
さゆり「ちょっと相談したいことがあるんだよ、そのフェスについて」
ルビィ「何かあったの?」
さゆり「うん、前々からそれとなく言われてたことなんだけどさ」
さゆり「今年はいつもより深刻みたいでね……余りもの問題」
ルビィ「! みんなを集めたほうがいいね」
あきる「ええ、多分私たちにとってもこれは他人事じゃないと思うから」 鞠莉「──ふむふむ、つまり」
鞠莉「組み合わせの自由度が高いために、個人の要望次第では組み合わせで余ってしまう人もいるわけと」
さゆり「はい、大まかに言うと」
あきる「例えばグループが5人だったとして、普通はそのままグループ部門で参加するか、デュオとトリオ1組ずつで分けると思うけど」
あきる「どうしてもこの人とデュオでやりたいって子が数人いた場合、デュオ2組で1人余ってしまう……そんな構図が出来上がるわけね」
千歌「はいはい! 私それなったことあります去年!!」
千歌「経験者いますよーここに!」
梨子「千歌ちゃん……」
曜「ここぞとばかりに…」 姫乃「今まであったパターンとしては来年のない3年生が最後だからと、特別仲のいいメンバーとの組み合わせを希望することが多かったんですけど」
さゆり「今年はどうもそれ以外の要素も強くてね、おそらくきっかけは去年のデュオ部門」
さゆり「あれで自分も新しいことに挑戦したい! って感化された人が増えたみたいで」
蘭花「あーそれ私もよく聞くネ」
月「いやでも、そうなること自体は別に悪いっていうわけじゃ……ないよね?」 鞠莉「確かにね、寧ろ良いことだと言っていいわ。だけど」
ルビィ「その結果、誰かを優先して遠慮することで1人になっちゃう人も増えるのが問題なんだよね」
花丸「……」ウーン
花丸「ねえルビィちゃん」
花丸「マル、ずっと気になってたことがあるんだけど」
ルビィ「なに? 花丸ちゃん」
花丸「どうしてフェスライブにはソロ部門がないのかなって」
花丸「ソロライブを開くスクールアイドルって特別珍しくもないだろうし、ちょっと変だなって」 ルビィ「人数的に無理があるからだよ、ほらフェスライブって会場でライブをやってポイントを集めるでしょ?」
花丸「うん」
ルビィ「もしソロ部門を導入してしまうと、1人ずつライブを行うことになるから他の子のライブ時間が足りなくなるんだよ」
あきる「単純な枠数よね、仮に6人グループでチームを分けた場合」
あきる「デュオなら3枠、トリオなら2枠、もしくは分けずにそのままグループで参加なら1枠で済むけど」
あきる「これが全員ソロで参加ということになってしまうとそれだけで6枠も取ってしまう」
あきる「で、それが積み重なっていくと膨大な数になって対応しきれなくなるのよ」
ルビィ「ただでさえスクールアイドル人口は増えているしね」
花丸「納得ずら、難しいんだねえ……」 善子「ていうか2人用と3人用がある時点でだいぶ良心的でしょ」
善子「どこかのフェスと違って、確実に4人揃えない限り2人以上でもチームとして参加することは出来ませんなんてふざけた仕様でもないしね」
千歌「確かに! あれと比べると全然マシだよね」
善子「全くよ。フレンド一覧で満員ですとかなってるの見ると、煽ってるのかって思うし本当腹立つ」
千歌「分かる分かる、見せつけられてる感じっていうの? すごいするよねー」
千歌「たまに皆と時間合わなくて1人になったときとかさあー……」
梨子「2人ともやめなさい! 話脱線してるから!」
曜「あとその仕様もう改善したから! これ以上責めるのはやめてあげて!」
花丸(善子ちゃん闇深いずら……) あきる「あ、あー……今の話はよく分からないけど」
さゆり「まあつまり、1人だけ参加出来ないとこんな感想を抱く子もいるかもしれないってわけで」
曜・梨子(流石にここまではいかないと思う)
さゆり「どうしたものかなと。それに実は私の学校にもそんな子がいるし」
千歌「そうだなあー、何か代わりになるものがあればいいんだけど」
千歌「去年私がやった特訓みたいに」
月「え? でもそのフェスって一年に一回しかやらないんだよね?」
月「それに代わるものとなると、相当大きななにかが必要なんじゃないかな」 曜「何かって?」
月「例えばだけど、フェスじゃなくてこっちを選んで良かったって思えるようなもの……とか?」
善子「それこそ千歌が代表例よね、参加しないで特訓したからこそラブライブ最終予選でロンバクの成果が出たわけだし」
千歌「そうそう! 私が言いたいのはそれ!」
梨子「でも例に出すにはちょっと特殊よね千歌ちゃんのは、もっとスクールアイドルみんなに当て嵌まるような」
千歌「うーん、だったらやっぱりライブじゃない?」
鞠莉「この期間でやるフェスよりも充実感のあるライブって想像つかないけど」
姫乃「それも人によるでしょうし」
ルビィ「…………」 ルビィ(余って、バラバラで、でもみんなが満足出来るようなもの……)
善子「ねえ一回色々と絞ってみない? こんなの条件多すぎて無理ゲーに見えてくるんだけど」
ルビィ「…………あるかも」
善子「ほらルビィもあるって言ってるし取り敢えず……って」
善子「あるの!!?」
花丸「本当!? ルビィちゃん!」
ルビィ「うん、一つだけ思いついたの」
ルビィ「あのね…………」
その頃
選抜強化合宿、体育館
ワンツースリーフォー! ワンツースリーフォー!
「はいリズム崩さないで、疲れてきても姿勢保って!」パンパンッ
「そこ足バタつかせない! そっちは腕のしなり落ちてる!」
「きちんと先の先まで意識して!」
「「「はい!!」」」
「よしラストもう一周いくよ!」 「アーーーー…………♪……うーん上手くいかない…」
英玲奈「少しいいか?」トンッ
「え、英玲奈さん!?」ピン
英玲奈「そのままの状態を維持しろ、もう少し胸を張って」
英玲奈「顎を引いて、肩を下げて……よし、ちょっと歌ってみてくれ」
「あ、アー♪アーー♪……あれ、少し楽になった?」
英玲奈「姿勢が低くなっていたから直した」
英玲奈「発声において姿勢はとても重要だ、常に心掛けておくように」
「はい! ありがとうございます!」 あんじゅ「あなた重心ズレてるわね、手はここ、足はこう」
「おぉ……」
あんじゅ「ね、さっきより良く見えるようになったでしょ?」
「は、はい」
あんじゅ「あなたスタイルいいんだから、ポーズ適当にしちゃうと勿体ないわよ」
「気をつけます!」 ツバサ「二人ともやってるわねー」
黒髪「少し力が入りすぎてるね、もうちょっとリラックスして……」
茶髪「うん、いいね。あとはそれを最後まで安定させて……」
ツバサ「それに、理亞ちゃんたちの方もだんだん指導が慣れてきたんじゃない?」
理亞「はい、なんとかですけど」
ツバサ「で、彼女たちはどう? 理亞ちゃんから見て」
こころあ「…………」キュッキュ 理亞「そうですね、歌やダンスは高水準とはいえまだ発展途上の段階だと思います」
ツバサ「うん」
理亞「ですが」
こころ「はい!」ビシッ
ここあ「はい!」キメッ
理亞「映像映えするようなあのポージングの数々は、非常に洗練されていますね」
ツバサ「ええ、常日頃から"撮られる"ことを意識していない限り、ああはならないでしょうね」
聖良「スクールアイドルというよりかは本来のアイドル意識のほうが強い、といった感じでしょうか?」
ツバサ「かもしれないわね」
理亞「姉様、いつの間に……」 ─
「では今日の練習はここまで! 各自ストレッチの後、解散!」
「「「ありがとうございました!!」」」
ツバサ「そういえば理亞ちゃん、あと3日後にはフェスライブが始まるけど」
ツバサ「今年はどの部門で参加する予定なのかしら」
理亞「グループです」
ツバサ「へえ、理由を聞いてもいい?」
理亞「今年入部した新入生の実力を確かめるためというのもありますけど」
理亞「私個人としてもトリオは避けたいと思っていました」 理亞「全員で楽しむためのイベントとはいえ真剣勝負に変わりはない」
理亞「だから、ここで決着をつけるようなことはしたくなかったんです」
聖良「決勝で会おうぜ! というやつね」
聖良(漫画喫茶で果南さんと一緒に読んだ少年漫画にあったやつ……!)
理亞「うん、まあ……そんなところ」
理亞(また変な知識身に付けてる……)
ツバサ「そっか、頑張ってね」クスクス
ツバサ(となると、ルビィちゃんの出方も気になるわね)
ツバサ(向こうはどう動くのかしら)
それから3日後……
8月1日
コーチ「よーし、前々から話していた通りだが参加グループはこの組み合わせでいく」
コーチ「あと! 折角東京のほうに招かれたんだからな! 時間の無駄遣いすんなよー!」
コーチ「それと迷惑行為もなー!」
「「「はーい!!」」」
コーチ「ったく本当に分かってんだか……」
コーチ「お前たち、先導頼むぞ……私はちょっと挨拶回ってくる」
理亞・黒髪・茶髪「はい」 茶髪「う~……リーダーとか初めてだから緊張……」
黒髪「ま、これも今後のためと思って割り切るしかないわね」
理亞「…………」スッスッ
茶髪「は~い……って理亞ちゃんさっきから何してるの?」
理亞「いや、参加者の名前一覧を見てるんだけど」
理亞「ルビィ…どころかAqours全員の名前がどこにも載ってないのよ」
黒髪「本当に?」
理亞「ええ」 理亞(しかも、それだけじゃない)
理亞(姫乃、蘭花の二人の名前も見当たらない)
理亞(……そういえば合同合宿がどうって、なら偶然じゃない……?)
理亞(けど、だとしてもわざわざ参加しない理由って一体……)
黒髪「理亞ちゃん、考えごとしている中悪いけど私たちもそろそろ移動しないと」
理亞「ああうん、ごめん」
理亞「行こうか」
~~♪ ~~♪
『はい、もしもし』
ツバサ「もしもし雪穂ちゃん? ちょっといいかしら」
『ええまあ構いませんけど』
ツバサ「さっき理亞ちゃんに聞いて確認してみたんだけど、フェスの参加者一覧の……うん、そこにね」
ツバサ「ルビィちゃんたちの名前が載ってないんだけど、雪穂ちゃん何か知らないかなって」
『ああそのことですか、知ってますよ』
『今ちょうどそれでバタバタしているところでして』 ツバサ「もしかして、何かあったの?」
ツバサ「電話越しからも聞こえてくるのを考えると、随分その……賑やかなところにいる気がするんだけど」
『どうあがいても賑わってしまう人がいますからね』
ツバサ「ん? ねえ雪穂ちゃん、それってまさか」
『ええはい、大体察しはついてると思いますけど……』
ザワザワ ザワザワザワッ……
雪穂「……私いま、そのお守をしている最中なんですよね」
カツンカツン
穂乃果「おー! 集まってるねー!!」
穂乃果「だよねだよね! 面白そうだもんね!」
穂乃果「よーしそれじゃあ景気づけにまず私から一発!」
穂乃果「折角の一大イベント、出られないなんて悔しいよー!」
穂乃果「そんなことを思っている後輩スクールアイドルみんなのために」
穂乃果「はっ!!」ブンッ
クルクルクル パシッ!
穂乃果「高坂穂乃果、動きます!!」
──遡ること3日前……
善子「スクールアイドルを一ヶ所に集めてライブをやるぅ!?」
ルビィ「うん、フェス最終日に全部のライブが終わった後出来ないかなって」ピッ
善子「いや、いやいやちょっと待ちなさい……なんかサラッと言ってるけどねルビィ」
善子「それは無理があるんじゃないの? 大体どうやって集めるっていうのよ」
ルビィ「私たちがみんなに事情を説明して、そのあと当日に来てもらえば問題ないよ」
善子「移動費用とかどうするのよそれ」
ルビィ「…………」ジッ
鞠莉「オッケー出します、出しますとも」
善子「鞠莉! 金づるみたいな扱いになってるけどいいの!?」 鞠莉「適材適所というやつよ、実際まず初めにそこを抑えておかないと話にならないしね」
ルビィ「ありがとう鞠莉さん」
鞠莉「で、問題は場所よね。今の時点でも結構な人数が集まりそうだし」
花丸「会場……はフェスで使うもんね」
善子「何よりステージにそこまで収まりきらないでしょ」
ルビィ「うん、私もそう思う。だから会場を使うつもりはないよ」
千歌「じゃあどこでやるの?」
ルビィ「外。つまり路上ライブだよ」 善子「それって、秋葉原全部使ってライブやるってこと?」
ルビィ「うん」
千歌「! あールビィちゃんのやりたいこと何となく分かってきたかも私」
梨子「でも、だとしたら余計に使用許可とか取るの難しいんじゃ……」
ルビィ「そうだね、だからこそ」
ルビィ「協力が必要なんです。お願いします雪穂さん」
『…………』 曜「雪穂さんって……え!?」
善子「ちょ……いつの間に!?」
『……まあいきなり電話がかかってきて、その上こんな話を黙って聞かされるんだから少し驚いたけどね』
『ルビィちゃん随分強かになったんじゃないの?』
ルビィ「えへへ、ごめんなさい」
『ふふっ、いいけどね別に。事情は大体察しがつくし』
『要は、場所の確保のためにも上の人たちを説得できるくらいの人材が欲しいんでしょ? 平たく言えばコネかな』
ルビィ「はい」 『あははっ素直だね、でも今回に関していえば私を頼ったのは大正解だよ』
『だって私は知らないからね』
『ラブライブの運営や委員会と繋がりがあって、スクールアイドルにも理解があって、それなりに暇で、フットワークも軽く』
『その上リーダーシップとカリスマ性に溢れみんなを引っ張ることの出来る……そんな、これ以上ない助っ人を』
『私は他に知らないもん』
『いやーそこまで言われると照れちゃうなー!』
「「「!!!?」」」
『んなあ!!?』 ルビィ「穂乃果さん!」
『おっこんにちはー! ルビィちゃん久しぶりー! 元気だったー?』
『話は聞いたよー、そういうことなら私に任せて!!』
『……追加で面白そうなことにすぐ食いつく単細胞お馬鹿っていうのも入れといて』
『酷い! 酷いよ雪穂! あんまりすぎるよ!』
『人の会話勝手に聞いて割り込んでおきながら何言ってるの! お姉ちゃんこれで2回目だよ!!』
『偶然だし別にいいじゃんそれくらい!』
『よくない!』 『大丈夫誰にも言わないから!』
『お姉ちゃんに知られてる時点で私の中ではもう終わってるんだって!』
ルビィ「えーっと、雪穂さん? 穂乃果さん?」
『ごめんルビィちゃん今からちょっと家族会議やるから! 詳しいことはまた後で!』
『あ、そうだルビィちゃんたちがいるところって内浦だったよね? 近いうちにそっちに行くからそのときはよろしくねー!』
ルビィ「! はい!」
『いやー楽しみだなー!』
『いいからお姉ちゃんちょっとこっち来て! じゃあまたねルビィちゃん!』
プツン
「「「…………」」」シーン
ルビィ「……というわけで」
ルビィ「穂乃果さんが協力してくれることになりました」
千歌「え……?」
全員「「「ええええええええええええぇぇぇぇ!!!??」」」
──
─ 曜「いやー、最初に聞いたときは耳を疑ったけど」
梨子「うん、まさか本当に」
千歌「穂乃果さんが……あのμ'sの穂乃果さんが……!」
千歌「浦の星に来てるなんてーーーーーー!!!」
千歌「凄いよ! 奇跡だよ!!」
キャーキャー! ホノカサーン!
穂乃果「どうもどうもー!」ブンブン
鞠莉「壇上ひとり占め……」 雪穂「うわぁ、分かりやすく調子乗ってるなあ」
ルビィ「あの、雪穂さん」
雪穂「ん?」
ルビィ「この度は本当にありがとうございます」ペコリ
雪穂「あははっそこまで畏まらなくてもいいよ。私としてもこれは丁度いい機会だと思ってたから」
善子「そうなんですか?」
雪穂「うん。前々からソロ部門が無いことで起きる問題については指摘されていたから」
花丸「そういえばさゆりちゃんたちも同じことを言っていたような……」
雪穂「でもこの時期は運営委員会もスクールアイドルも両方忙しいからね、なかなか腰を上げる気にはなれなかったんだよ」
雪穂「けど」 穂乃果「よーしそれじゃあ本題に入ろうか!」
穂乃果「鞠莉ちゃん先生説明よろしく!」ビシッ
雪穂「そんな中みんなが声をあげて、どうすればいいのか考えて、そして行動に移した」
雪穂「だから私もお姉ちゃんも、今ここにいる」
雪穂(これまでに培ってきた自主性と、それに伴う行動力)
雪穂「傍から見れば唐突なことかもしれないけどさ、ちゃーんと繋がっているんだよね」
ルビィ・花丸・善子「???」
雪穂「ううんこっちの話。とにかく」
雪穂「ルビィちゃんたちが気にする必要はないよ、大丈夫」
雪穂「きっと何とかなるよ、今回もね」ニコッ
それからしばらく経って……
中国地方
善子「すみません、○○学校の方々でお間違いないですか?」
曜「路上ライブの件についてやってきましたー!」ヨーソロー!
「キャーー!! Aqoursの善子ちゃんと曜ちゃん! 本物だー!」
「も、もしよろしければサインの方を……」
善子「勿論、でも話しながらね」
鞠莉『はーい説明始めるわよ、皆よく聞いてね』
鞠莉『まずはざっとおさらいから』
鞠莉『私たちの目的はフェス最終日、その最後の時間にフェス参加者以外のスクールアイドルを集めて路上ライブを行うこと』
鞠莉『つまり今日を含めた6日間のうちに、それを達成しなければいけないわけね』
四国地方
梨子「……以上が大まかな流れです」
「成程ー、分かりました! こちらからも是非参加させてください!」
花丸「あ、ありがとうございます!」
梨子「よろしくお願いします!」
梨子『問題は日数ですよね。フェスは去年と違って7日間の開催に戻ったから、悠長にしている暇はないですし』
曜『それにプラスで全国各地を回らなくちゃだから凄く大変じゃない?』
鞠莉『そう、2人の言った通りとにかく時間が惜しい』
穂乃果『だからその辺もちゃんと考えてきたよ! 雪穂ー!』
雪穂『はいはい分かってますってば』ツカツカ
雪穂『じゃあここからは私のほうから話させてもらうね』
雪穂『みんな聞いたとおりだと思うけど、この条件はとても困難なもの』
雪穂『だからこそ、より効率的に行動する必要があるので……っと、はい』カタカタ タンッ
ピロン
全員『?』チラッ
雪穂『今送ったものは参加していない子の学校をリストアップしたものだよ』
雪穂『ここにくるまでの3日間にあらかじめ作っておいたの』
雪穂『そういうのあればちょっとは楽になるでしょ?』
さゆり『おぉ~……』
あきる『流石雪穂さん』
東北地方
さゆり「うん……うん。□□高校もオッケーね、了解~」
さゆり「じゃあまたねー、はーい」
瑞希「これで50校目と……」チェック
さゆり「いいペースだねー。さてと、ルビィちゃんたちのほうはどうかな?」
雪穂『みんなにはそれを頼りに動いてほしい、各地向かう人数は少数で出来るだけスムーズに』
雪穂『善子ちゃんと曜ちゃんは中国地方、梨子ちゃんと花丸ちゃんには四国』
雪穂『さゆりちゃん瑞希ちゃんは東北、あきるちゃん姫乃ちゃん蘭花ちゃんるうちゃんは北海道』
雪穂『後のみんなは九州と、ここに残ってルビィちゃんと一緒に衣装製作に取り掛かって』
雪穂『状況の確認はこまめに取ること、こっちへの報告も忘れずにね』
ルビィ「雪穂さん、衣装の方ちょうど半分終わりました」
雪穂「うんお疲れ、いい感じに進んでるね。向こうも順調みたいだし」
雪穂「となると後はお姉ちゃんが許可を貰ってくれば、大体大丈夫かなー」カタカタ
ルビィ「それは?」
雪穂「事務処理。鞠莉ちゃんが手配してくれた交通機関への誘導とか、各関係者へ提出するための書類整理とかその他諸々」カタカタ タン
雪穂「あとは協力申請とかかな~もっと人手が欲しいし、ルビィちゃんたちも大変でしょ?」カキカキ
雪穂「あーでもそれならお礼も用意しなくちゃか、今のうちに人数分の在庫確保したほうがいいのかな」ウーン
ルビィ「……あの、本当にありがとうございます。何から何まで」
雪穂「いいよ。やりたくてやってることだし」
雪穂「それにお姉ちゃんが私に事務業務を一任してくれてるからこれだけ出来てるわけで、私自身はそんなに大したことしてないって」 ルビィ「そんなことないです」
ルビィ「私たちのところにも鞠莉さんがいるから分かるけど」
ルビィ「何かをするためには準備が必要で、それを自分たちの代わりにやってくれる人がいるから」
ルビィ「支えてくれる人がいるから、前だけ向いて頑張ることが出来るんだってこと」
ルビィ「私は、雪穂さんのこと尊敬しています」
ルビィ「穂乃果さんの妹とかスクールアイドルの先輩だからとか、そういうのじゃなくて」 雪穂「……そっか」
雪穂「ねえルビィちゃん」
ルビィ「はい」
雪穂「人にはそれぞれ役割っていうのがあってさ、主役だけじゃ成り立たないっていうのは多分みんな知ってることだと思うんだよね」
雪穂「それでもどうしても輝いてるほうに目がいっちゃってさ、カッコいいから仕方ないんだけど」
雪穂「私もそうだし、でも……今みたいに好きな子から面と向かって褒められるなら」
雪穂「脇役っていうのも悪くないね」ニッ
片や、場面は変わって東京
穂乃果「─では次に、こちらが今集まるであろうスクールアイドルの目安です」
「ふむ、これで確定とみなしていいんですね?」
穂乃果「はい。多少人数が上下する可能性もありますが、そこまで数値が大幅に揺れることはないでしょうし問題ないと思います」
「分かりました。では次に時間帯の指定ですが」
穂乃果「あっ、そのことなんですけど一つ提案があってですね」
「なんでしょうか」
穂乃果「フェスで使用する会場がありますよね? あそこと連携して……」 千歌「……うわぁ、なんだか凄く意外な一面」
果南「穂乃果さんってあんなにちゃんと話せたんだね」
ダイヤ「二人とも失礼ですわよ」
千歌「いやー穂乃果さんが真面目に話してるところ見たことなかったからつい」
果南「ていうかなんで私たち呼ばれたんだろうね、言われるがままついてきちゃったけど」
千歌「さあ……」 「成程、ではすぐに取り掛かりましょうか。時間も限られていますから」
穂乃果「よろしくお願いします!」
穂乃果「」グッ
果南「おお、上手くいったみたい」
ダイヤ「…………ん?」
穂乃果「」チョイチョイ
ダイヤ「何やら呼ばれていませんか?」
千歌「なんだろ、はーい」スタスタ 千歌「どうしたんですか? 一体」
穂乃果「最後にちゃんと紹介しておかないとね、いやー危うく忘れるところだったよー」
千歌・ダイヤ・果南「???」
「成程、ではそちらの方々が」
穂乃果「はい」
ポンッ
穂乃果「ラストを締めくくる主役の皆さんです」フフン
千歌「…………へ?」
────
理亞「…………」
ここあ「どーしたんですか、そんな顔して」ヒョコッ
理亞「別に、最後までよく分からないままだったなって」
こころ「ルビィさん達のことですか?」
理亞「うん」
こころ「そうですね、何かやってる雰囲気みたいなものは感じ取れるんですけど皆秘密にしているせいか、それ以上のことはさっぱり」
ここあ「おかげでもう6日目終了、私たちの出番終わっちゃったもんねー」
理亞「惜しかったわね、11位でしょ?」
ここあ「そうなんですよ! ギリギリ最終ステージに残れなくて!」
理亞(1年生同士のデュオでそこまでいけるだけでも大したものだと思うけど) こころ「理亞さんたちの方も残念でしたよね」
理亞「グループ部門15位だったこと? まあそこまで甘くないことは覚悟していたけど、確かに悔しいわね」
理亞「でも私にも後輩たちにもいい経験になったと思うから、それはそれで構わない」
ここあ(割り切ってるなー)
こころ「では明日は一緒に観戦ですね」
理亞「どうして一緒に行動すること前提なの」
ここあ「まあまあいいじゃないですか! 合宿で教えてもらった縁もありますし!」
理亞「はあ、いや別に構わないけど」
こころ「フフッ、約束ですよ?」 ここあ「………あっそうだ!」
理亞「どうしたの」
ここあ「理亞さん理亞さん! 折角なんでこのまま私たちの家のほうにも立ち寄っていってくださいよ!」
理亞「えっ、なんで」
こころ「それは良い考えねここあ! ちょうどお世話になったお礼もしたいと思っていたし!」
理亞「いやちょっと待って、それに言うほどお世話してない」
ここあ「さあそうと決まれば!」
こころ「行きましょう理亞さん! こっちです!」
こころあ「さあさあさあ!」グイグイ
理亞「聞いてって」 こころあ「フンフンフーン♪」スタスタ
理亞(会話が一方的すぎる……半ば強制的に連れられたし)ズルズル
理亞(…………でも、矢澤にこの自宅は確かに少し気になる)ズルズル
理亞(もしかしたら本人に会える可能性だって、あるかもしれないし)ズルズル
理亞「…………」
理亞「ねえ」
こころあ「はい?」
理亞「行くから流石に自分のペースで歩かせて」
……
こころ「こっちです」ツカツカ
理亞「マンションに住んでたのね」
ここあ「はい、あーそれと、ここからはパパラッチに気をつけてくださいね。どこにカメラが潜んでいるか分かったもんじゃありませんから」
理亞「何言ってるの?」
こころ「理亞さんもプライベートを勝手に撮られるのは困るでしょ?」
理亞「だから何の話をしてるの」
こころ「アイドルの心構えの話ですよ」
ここあ「まあ私たちは小さい頃から鍛えられていますから、これくらい全然余裕ですけどね!」
理亞(……もうやめておこう、どんな返答でも私と彼女たちの間にズレが生じる気がする) こころ「着きましたよ。ここが私たちの自宅です」
理亞「ここが……」
ここあ「姉ちゃんただいまー」ガチャ
「おかえり、こころはどうしたの?」
ここあ「お客さんと一緒にいるー」
「ふーん、お客さんねえ……友達じゃなくて?」
ここあ「凄い人、合宿でお世話になったんだー」
「はあ? でもそういうことなら一応挨拶はしておかないとね」
ガチャ
理亞「!!」
こころ「あ、お姉様」
にこ「どうもうちの妹たちがお世話になっております。姉の矢澤にこです…………って」
にこ「げっ…嘘でしょ、よりにもよって……」
理亞「?」
にこ「…………」
にこ「こころ、先に上がって料理並べておいて。もう出来てるから」
こころ「分かりました」トテテッ にこ「その前にちゃんと手洗いなさいよー……さてと」
理亞「あ、あの……初めまして、鹿角──」
にこ「鹿角理亞でしょ、知ってるわよ嫌でも」
理亞「え?」
にこ「はあ…………まあ上がっていけば? ここまで来ておいて帰すのもなんだし」
理亞「あ、はい。お邪魔します」
にこ「どうぞごゆっくり」
理亞(なんか……あまり歓迎されてない?)チラッ
にこ「…………」ハァ
─
にこ「いただきます」
こころあ「いただきまーす!」
理亞「い、いただきます」
パクッ
理亞「! 美味しいですね。とても」
理亞「特にご飯とお味噌汁。味噌汁はダシがよく効いていますね、それでいて主張しすぎていない具も多すぎず少なすぎずの絶妙なバランスですし」
理亞「お米は……これどこ産の使っているんですか? ハリとツヤが素晴らしいですね、粘りは控えめですけどその分歯ごたえがあって噛むほどしっかりとした甘みを感じられる、かなり良質なものとみました」
ここあ「おぉ~」パチパチ
こころ「理亞さんお詳しいんですね」
にこ「……味噌汁はそんなに大したものじゃないわよ、いつも作ってるから慣れてるだけで」
にこ「お米のほうは、あれね……知り合いがよく送ってくるのよ。毎回わざわざ品種変えてさ、食べてみてくださいって」
にこ「だから別に取り寄せてるわけじゃないわよ、今月のお米がたまたまそれだったの」 にこ「そんなことより……何あんた、うちに食レポでもしにきたの?」
理亞「あ、いえそういうわけでは……すみませんつい」
にこ「冗談よ、職業柄言わずにはいられなかったって感じでしょ」
にこ「流石は甘味処の娘ってところかしら」ズズッ
理亞「どうして知ってるんですか?」
にこ「スクールアイドルマガジン2019の10月号で特集組んでたときに情報載ってたからね」
にこ「受け答えしていたのはもっぱら姉の聖良のほうだったけど、もしかして覚えてないの?」
理亞「いえ、記憶は確かにあるんですけどそこまで詳しくは」
にこ「ふーん、あっそ」 ここあ「なんなら持ってきましょうか? 私たちのバイブル!」
理亞「は? バイブル?」
にこ「私が後で見せるからいいわ、その前に二人ともお風呂入っちゃって」
ここあ「はーい」
こころ「ちょっと! 私が先でしょ!」
ここあ「早い者勝ちだし!」
ドタバタドタバタ
理亞「あの……」
にこ「ああ悪いわね、先に入らせちゃって」スクッ
理亞「構いませんというか、そこまでお世話になるつもりは─」
にこ「でもあの子たちは泊める気満々よ」カチャカチャ
ジャー…
理亞「…………」
にこ「嫌なら私が説得するけど」ゴシゴシ 理亞「違います、ただ……」
にこ「ただ?」
理亞「にこさんはどうなのかなと」
にこ「ああそういうことね、いいわよいいわよ話さえ聞いてくれれば」キュッキュッ
理亞「いいですよ、私としても是非お聞きしたいところですから」
理亞「にこさんのお話し、俄然興味が出てきましたので。ええ本当に」
にこ「あー生意気、あんたのその態度見てると昔を思い出すわ」
理亞「対応が対応なので」
にこ「へえ~? その度胸"だけ"は買ってあげるわ」ピク
理亞「張るだけの胸はありますので"一応"は」ピクピク
にこ「なに?」
理亞「いいえ? なにも?」
理亞・にこ「…………」
理亞・にこ(思ってた以上に印象悪いわね)
にこ「……ふん、取り敢えず触れないでおいてあげるわ今は」
にこ「ちょっとそこで待ってなさい、そのバイブルとやらを持ってくるから」
理亞「ありがとうございます」
スタスタ
にこ「全く、なんでこんな子に懐いてるんだか」ボソッ
バタン
理亞「……はあー、やっと行ってくれた。なんか解放された気分、空気が張り付いて仕方がなかったし」
理亞「何がそんなに気に入らないんだろう、特になにかした覚えないんだけど」
理亞(……それにしても)チラッ
理亞「凄い量のアイドル雑誌。メジャーなものからマイナーまで」
理亞「よくこんなに揃えられるというか……こっちはダビングしたDVD? 10年前って……」
理亞「A-RISE結成インタビュー!!? そんなものあったの!? 嘘!?」
理亞(み、見たい……)
「人様の私物を勝手に漁るとは、どこぞの勇者並みに胆が据わってるじゃない」
「目の付け所は悪くないと思うけど」
理亞「! ごっごめんなさい!!」 にこ「ほら、持ってきたわよ例のバイブル」
理亞「ボロボロですね」
にこ「これでも大切に保管しているのよ」
理亞「あの、にこさん。けどこれ少し可笑しいと思うんですが」
にこ「なにが?」
理亞「だってこの時期…10月号って私たちまだラブライブ優勝していないですし」
にこ「私の妹たちはその前からあんたたちを注目してたってだけの話でしょ」
理亞「え?」
にこ「この記事はね、フェスライブデュオ部門優勝と東京ライブ大会1位について書かれているものなの」
理亞「!」 にこ「当時はかなり衝撃的だったらしいわよ、こころもここあも」ペラッ
にこ「丁度自分たちのスタイルについて悩んでいた頃だったから特にね」
理亞「スタイル?」
にこ「スクールアイドルとして2人組でやっていくのか、それともグループで活動するのか」
にこ「あの子たちは超絶私リスペクトだからμ'sのような多人数グループにも憧れがあったわけ」
理亞「そういうの自分で言いますか」
にこ「うるさいわね。だからどう進んでいこうか迷っていたのよ、どっちをやるべきなのかって」
にこ「で、そんなところへ現れたのがSaint Snowだったの」
にこ「二人組で、しかも姉妹でのスクールアイドル。それが頂点を取ったのよ、気にならないわけないじゃない」
理亞「…………」
にこ「おかげであの子たちの道筋は決定的なものになった、私たちも姉妹でやっていこうってね」
にこ「こころとここあに明確な目標を示してくれたこと、それについては私も感謝してるわ、どうもありがとう」 理亞「いえ、私はそんな……」
理亞「……物のついでに、一つ聞いてもいいですか」
にこ「ん?」
理亞「どうして私なんですか? あの二人はどうして姉様じゃなくて私に」
にこ「……あんたそれ本気で言ってるの?」
理亞「はい」
にこ「嘘でしょもう……自分の立場を理解出来てないのか、ただのシスコンなのか分からないわね」
理亞「シスッ……!」 にこ「あのねえ、実力がどうとか個人でのリスペクトについてどうこう言うつもりはないけど、自分の功績を客観的に分析するくらいのことはしなさいよ」
にこ「フェスライブデュオ部門2年連続優勝、ラブライブも同様2年連続優勝。歴代でも個人でこんな記録を打ち立てたスクールアイドルなんていないから」
にこ「こんなの怪物でしょ、控えめに言っても」
にこ「それに、同じ妹としても鹿角理亞って人間に対して思うところはあるんじゃない?」
理亞「そういう、ものなんでしょうか」
にこ「理亞。あなたって意外に謙虚よね、もっと自意識過剰かと思ってたけど」
理亞「なんで毎回余計な一言付け加えるんですか、わざとですか」
にこ「あんたに言われたくないんだけど」 にこ「とにかく、あの子たちがあんたを気にいってるのはつまりそういうことなの」
にこ「Saint Snowは姉の鹿角聖良あってこそ。そういった評価を実力で覆したあんただから惚れこんだってわけ」
理亞「……そっか、だからあの子たち私のファンだって」
にこ「言われたの?」
理亞「初めの挨拶で」
にこ「ふうん……」
理亞「何か言いたそうですね」
にこ「別に。ただ私が昔A-RISEを追っていたのと同じように、妹たちにもそういう意味で憧れるものが出来たんだって、改めて思っただけよ」
にこ「新しい時代の流れっていうのかしら、それを肌で実感させられた感じ」
理亞「新しい時代、ですか……でも」 にこ「なによ?」
理亞「にこさんはもっと早く気付いていそうなものかと思っていましたが、アイドルの事情に詳しいですし」
にこ「もちろん勘付いてはいたわよ当然でしょ。けど、直接会うまで認めたくないじゃない」
にこ「あんたがその"中心"だって」
理亞「……またそれですか」
にこ「そうよ、悪い?」
理亞「少なくとも理由も分からずに敵意を向けられるというのは、あまり気分のいいものではありませんね」
にこ「私あんたのことはまだよく知らないけど、その発言がブーメランになってることくらいは分かるわよ」
理亞「うっ……い、今はにこさんについて言ってるんです!」
理亞「大体なんなんですかさっきから! 大人げがない! 他のあなたと同じ世代の方々はみんな、にこさんと違って友好的だったっていうのに!」
にこ「……」ムッ
理亞「私の何がそんなに気に入らないっていうんですか!」 にこ「……い、言ってくれるじゃない」
にこ「じゃあ私も言わせてもらうけどねえ! こっちからすればまず納得しろってのが無理な話なのよ!」
理亞「だから何が!」
にこ「あんたが私の知ってる色んな人たちから目をかけられてるってところがよ!」
にこ「こころやここあどころか、あのツバサまで!」
理亞「はあ!? 意味が分かりません! にこさんさっき私の功績がどうとか言ってたでしょう!」
にこ「実績以外が気に食わないって言ってんの! わっからないの!?」
にこ「あんたはとにかく可愛げが無さすぎる!!」
理亞「なん……っですかそのくだらない理由は! あなた本当に大人ですか!?」
にこ「くだらないですって!? くだらないどころか一番大事なところでしょうが!」
にこ「いい!? そもそもアイドルっていうのは──「ただいまー」
にこ・理亞「!」
虎太郎「えーっと……取り込み中?」 にこ「虎太郎、今日は遅かったのね」
虎太郎「部活長引いた」
にこ「そう、お疲れ」
理亞「ご家族ですか?」
にこ「一番下の弟」
虎太郎「どうも」
理亞「ど、どうも」
にこ「虎太郎。こっちにいるのは理亞、こころとここあが合宿でお世話になった人」
にこ「今日うちで泊まることになってるから」
虎太郎「理亞? …………ああ、成程。なんか大体分かった」
理亞「?」
ガラッ
ここあ「時間かかっちゃってすいませーん!」
こころ「今あがりましたー!」
にこ「二人とも服はちゃんと着なさい」
ここあ「やばっ急いでたからつい……あれ、こた帰ってきてたの?」
虎太郎「ついさっき」
こころ「あっ理亞さん! お待たせしましたお風呂どうぞ!」
理亞「いや私は」
虎太郎「入ってきたらどうですか、疲れたでしょう色々」
虎太郎「にこに……姉はこちらで宥めておくので」
こころあ「?」
にこ「ちょっとそれどういう意味」 理亞「……じゃあ、お言葉に甘えて」
ガラッ
ここあ「うーん、よく分かんないけど取りあえず部屋に戻って待ってよーか」
こころ「そうね、見せたいものもいっぱいあるし」
にこ「だからってあまり遅くまで起きるんじゃないわよー」
こころあ「はーい」スタスタ
ガチャッ バタン
にこ「お腹空いたでしょ、もう冷めてるから温めなおすわ」
虎太郎「いいよ、自分でやる。それより……にこにーさあ」 にこ「な、なによ」
虎太郎「理亞さんにきついこと言ってたんじゃないの」
にこ「そっそんなことないわよ、あれはそう! アイドル談議に花を咲かせてたの」
虎太郎「その割にはちっとも楽しそうに見えなかったけど」
虎太郎「だから分かった。あぁにこにーやっちゃったんだなーって、違う?」
にこ「ぐぬぬ……」
虎太郎「当たりっぽい」
にこ「…………はあ、分かったわよ。私が悪かったわよ」
虎太郎「それ本人に言えば?」
にこ「……しっかし、まさかよりによって虎太郎に見抜かれるなんてね」
虎太郎「理亞さんに限って言えば、姉ちゃんたちより僕のほうがそこら辺詳しいし」イタダキマス
にこ「こころ達の前で悪く言うのは流石に出来ないもの。だって理亞に憧れてるのよ?」 虎太郎「だからって、いないときに悪く言うのも違うと思うけど」パクッ
にこ「う、それは」
虎太郎「言うにしても程々にしておけばいいのに、アイドルのことになると熱くなりすぎるんだから」モグモグ
にこ「……あんたはその年で達観しすぎね」
虎太郎「アイドルに限っていえば、僕以外誰もしっかりしてくれる人いないし」ズズッ
にこ「……」メソラシ
虎太郎「で、何言ったの」コトン
にこ「……可愛げがなさすぎて気に食わないって」
虎太郎「うわぁ」 にこ「し、仕方ないでしょ! 本当のことなんだから!」
虎太郎「だからってさあ」
にこ「ほーら! あんただって認めてるじゃない!」
にこ「第一あの子はアイドルだって自覚がなさすぎるのよ!」
にこ「雑誌記事や動画のインタビューでいっつも「あ、はい」だとか!「はあ」だとか適当な返事ばかりして! 何あれやる気あんの!!?」
にこ「仮にクールキャラでいくとしても! 限度ってものがあるでしょ!」
にこ「英玲奈を見習いなさいよ英玲奈を! 何がA-RISEに憧れてるよ! まっったく参考に出来ていないし!」
にこ「ツバサに指導してもらっておきながらアレって……ほんっともう……なんなの!!」
虎太郎(また始まった) にこ「私だったら断然対抗馬であるAqoursのルビィちゃんを推すけどね!」
にこ「なのにあの二人ときたらここ最近は毎日のように理亞さん理亞さん理亞さんって……」
にこ「あんな奴のどこがいいわけ!? あんな……無愛想にも程がある子のどこが!!」
にこ「私なんて初対面にも関わらず失礼な態度をとられたのよ! ていうかここに来てからずっとそう!」
にこ「目上の人に対する敬意ってものがないわけ!?」
虎太郎「それはにこにーが悪いんじゃないの」
にこ「ぬわんですってぇ~!!?」
========
理亞「……………………」
にこ「没収! 虎太郎あんた今日アイス抜きだから!」
虎太郎「ちょっと待った! それはない!」
こころ「にっこにっこにー! にっこにっこにー!」
ここあ「あー理亞さん! 理亞さんもやりますか? 日課なんです私たちの!」
こころ「あなたのハートににこにこにー! 笑顔届ける矢澤にこにこ~!」
にこ「あむっ……あら意外とイケるわねこれ」
虎太郎「あーーーーーっっ!! にこにぃーーーーー!!!」
こころあ「にこにーって覚えてラブにこっ!!」
理亞(なにこの騒がしい家庭)
ここあ「さあさあ理亞さん!」
理亞「に、にっこにっこにー……」
にこ・虎太郎・こころあ「「「「全っっっ然ちがう!!!!!」」」」
理亞「」
虎太郎「振り付けが雑、動きも中途半端、初めから既にアピール不足」
こころ「手はこう! 指の先までしっかりと!」
ここあ「ぴょんって跳ねるんですよぴょんって! 腕もちゃんと伸ばして!」
にこ「もう駄目、全部だめ。まるでお話しにならないわね」
こころ「さあ理亞さんもう一回!」
理亞(ああ、なんだろう……私は)
理亞(今まで会った中で一番面倒な人たちと関わってしまったのかもしれない)
理亞「に……にっこにっこにー!」
「「「「違う!! やり直し!!!」」」」
……
…
─翌日
フェスライブ最終会場
虎太郎「ふわぁ~……」
にこ「ほら虎太郎、しゃんとしなさい」
虎太郎「ちょっと無理、眠たい。結局昨日は一晩中やってたし」
にこ「体力ないわねー、隣を見てみなさいよ」
ここあ「おぉ~! 流石上位勢、レベルたっか!」
こころ「参考になるわね、ちゃんとメモしておかないと」カキカキ
理亞「ああ、うん。そうね」 にこ「同じ条件でもあっちは元気いっぱいよ」
虎太郎「いや、一人当て嵌まってないよね」
にこ「あれは別にいいの」フン
虎太郎「……大人げな」
にこ「あ、あんたまで言うわけ!?」
ワアアアアアアアアアア!!!
虎太郎「ん? 次で最後?」
にこ「みたいね。まあ悪くはなかったけどやっぱり去年と比べるとどうしても物足りないところあるわね」
にこ「去年の理亞とルビィちゃんのデュオ並みのものがそんなに早く出てくるわけないって分かってるんだけどね」
にこ「アレは良すぎたもの。ライブパフォーマンスだけじゃない、そこに至るまでのドラマも完璧だった」
にこ「鹿角理亞と黒澤ルビィ。あのコンビはデュオの中でも歴代最高といっても過言ではないわ」
虎太郎(だからそれ本人に言えばいいのに) 「ありがとうございました!」
パチパチパチパチ!!
虎太郎「でも、良かったよね今年も」
にこ「…まあね」
ツバサ「──以上を持ちましてラブライブ!サマーフェスティバル2021を終了させていただきます。と、言いたいところですがその前に……」
理亞「ん?」
ツバサ「こちらの画面をご覧ください」
パッ
理亞「……ルビィ?」
ツバサ「さて、今画面には大勢のスクールアイドルたちが映っていますが、一体彼女たちは何をしているのでしょうか? 現場の方に話を聞いてみましょう」
ツバサ「中継の高坂穂乃果さーん!」
穂乃果『はーい高坂穂乃果でーす! 皆さんフェスは楽しんでいただけましたかー!?』ブンブン
にこ「え、何やってるのあの子」 穂乃果『現在私たちはですねー、そんな皆さんにもっと盛り上がってほしくてここに集まっているわけです!』
ツバサ「というと?」ニヤリ
穂乃果『はい! 今からここにいる全員でスペシャルライブを行います!』
にこ「!」
ザワザワ
穂乃果『そしてその中心となるスクールアイドルは……じゃん! Aqoursの皆さんでーす!!』
理亞「…9人揃ってる」
穂乃果『さあ! 前置きはこれくらいにしてそろそろ始めましょう!』
穂乃果『それでは皆さん聞いてください! 私たちの……スクールアイドルみんなの歌を!!』 ーーーーーーーー
♪
ダイヤ・ルビィ・果南「楽しいね こんな夢」
ダイヤ・ルビィ・果南「えがおで 喜び歌おうよ それが始まりの合図」
花丸・梨子・鞠莉「一歩ずつ 君から一歩ずつ」
花丸・梨子・鞠莉「僕から どこかへ行きたい心のステップ」
千歌・曜・善子「受け止めてあげるここで 最初は少しためらっても」
千歌・曜・善子「受け止める場所があるって」
千歌・曜・善子「もっともっと知ってほしくなるよ…なるよ!」
「SUNNY DAY SONG SUNNY DAY SONG」
「高く跳びあがれ」
ここあ「わっはー! 懐かしい!」
こころ「いいなあ、私たちも混ざりたい」
虎太郎「……」トントントントン
にこ「虎太郎はもっとリアクション大きくてもいいんじゃない?」
虎太郎「……べつに、そんなんじゃないし」
にこ「まったく…誰に似たんだか」クスッ
虎太郎「にこにー」
にこ「後で覚えておきなさいよ」 にこ(それにしても)
「自分から手を伸ばしたら」
にこ(本当にあんたは変わらないわね、穂乃果)
「もっともっと面白くなるよ…なるよ!」 にこ(流石に提案までしたかどうかは、分からないけど)
理亞「……」
理亞「なんていうか」
こころあ「?」
理亞「流石ね、ルビィ」
こころ「ああ、そうですね」
ここあ「ダンスとか今じゃ一番上手いですもんね」
理亞「ううん、そうじゃなくて」
こころ「え?」
理亞「変わらないのに同じじゃないっていうのは、他の人が思っている以上に凄いことよね」
ここあ(どういう意味だろ?)ヒソヒソ
こころ(さあ……?) ──
─
千歌『ええ!? 私たちが代表でやるんですか!?』
穂乃果『うん、他の皆もいいって言ってたよ?』
千歌『おぉ~~~……!!』
果南『いやいやでも』
穂乃果『うん?』
ダイヤ『その、折角穂乃果さんがいるというのに……それは差し出がましいといいますか』
果南『ね』 穂乃果『……ふ~ん』
千歌『えー! 二人とも何それ! こんなチャンス滅多にないのに!!』
千歌『大体! この曲ってμ'sのものとかそういうのじゃないし!! 本人や皆がいいって言ってくれてるんだからいいじゃん!』
穂乃果『おぉ~、ガンガンいくねー千歌ちゃん』
千歌『もちろんですよ! 寧ろなんで二人が乗り気じゃないのか分からないですもん!』
穂乃果『まあまあ、二人とも大人なんだよー。やりたくないんじゃなくて私に遠慮してるだけで』
穂乃果『でもやりたいんだったら、やってみていいと私は思うけどなあ……それに』
ポンッ
穂乃果『譲りすぎるのってあんまりよくないと思うよ、自分にも』
果南・ダイヤ『──!』 千歌『穂乃果さんの言う通りだよ! ね!? やろう!』
千歌『私この9人で一緒にやりたい!!』
ダイヤ『……千歌さん』
果南『そうだね』
千歌『当然穂乃果さんとも!』
穂乃果『ふふっ、いいよ』
穂乃果『みんなで伝えよう、スクールアイドルの素晴らしさを!』
『はいっ!!』 千歌「SUNNY DAY LIFE」
穂乃果「SUNNY DAY LIFE」
千歌・穂乃果「輝きになろう」
梨子・果南「なんて言える今の気分を分け合えば」
千歌(ああ 楽しい)
千歌(すっっごく楽しい)
穂乃果「SUNNY DAY LIFE SUNNY DAY LIFE」
千歌「君も踊り出す…Ah!」
ルビィ(…………凄いなぁ)
「SUNNY DAY SONG」
「SUNNY DAY SONG 高く跳びあがれ」
「どんなことも乗り越えられる気がするよ」
花丸(こんなにたくさんの人がいるのに、ただ楽しく踊ってるだけなのに)
「SUNNY DAY SONG」
「SUNNY DAY SONG 口ずさむ時は」
「明日への期待がふくらんでいい気持ち」
善子(みんなの息がピッタリと合わさっているのが 分かるなんて 伝わってくるなんて)
SUNNY DAY Wow! Sun power!
───♪
穂乃果「……以上! 現場から高坂穂乃果でした!!」
「「「ありがとうございました!!」」」
ワッ!!
キャーーーー!! オオオーーーー!!
ツバサ「穂乃果さんありがとう! おかげで今年もまた一段と素晴らしいフェスになりました!」
ツバサ「会場の皆さん今一度彼女たちに盛大な拍手をお願い致します!」
パチパチパチパチ!!!
ツバサ「それでは以上を持ちまして、今回のラブライブ!サマーフェスティバル2021を終了とさせて頂きます」
ツバサ「ご来場の皆様、参加者のスクールアイドルの皆様、今日は本当にありがとうございました!」
ツバサ「また来年、この会場でお会いしましょう! さようなら!」
ワーーーーーッ!
にこ「…………」クルッ
虎太郎「にこにー?」
にこ「帰るわよ、また見返したくなったから」
虎太郎「はいはい」
にこ「こころー! ここあー! いつまでそっちにいるの! さっさと帰って研究するわよ!」
虎太郎「物は言いようだね」
にこ「あんただけ見せないわよ」
虎太郎「…さてと、先に帰って掃除でもしておこうっと」
ケンキュウスルワヨー!
理亞「……ふーん」
こころ「おお、流石お姉様……!」
ここあ「もうそんなことまで考えてるなんて!」
理亞「いや、多分二人が思っているのとは違うと思うけど」
ここあ「こうしちゃいられない! すぐに帰らないと!」
こころ「その後はライブね! もう体がうずいて仕方ないっていうか!」
ここあ「よしきた!」
理亞「ねえ私の話聞いてる?」
ここあ「じゃあそういうわけなんで理亞さん! 私たちそろそろ行きますね!」
こころ「今日は付き合っていただきありがとうございました! では!」 タタタタッ……
理亞「ちょっと! ……なんであんなに落ち着きがないんだか」
理亞「はあ……疲れた。昨日も今日も、本当に疲れた」
理亞「…………」
スッ
理亞「……もしもし、ごめん今日は一緒に見に行けなくて。今どこにいるの?」
理亞「うん、うん。分かった、私もそっちに行くから待ってて」
理亞「そう、二人ともやるでしょ? 練習」クス
─
穂乃果「大成功ー! やったねみんな!」ピース!
千歌「イエーイ! 路上ライブ最高ー!」
曜「千歌ちゃんとしては穂乃果さんと一緒に歌えたことのほうが大きそうだけどね」
梨子「フフッ、確かにそうかも」
さゆり「うわあー、なんかものすごい達成感」
あきる「ここ数日大変だったものね、でもだからこそ充実してるっていうか、本当に気持ちいい」
姫乃「そうですね、理亞さん私たちのこと見ていてくれたかなあ」
蘭花「さっきメール送ったら良かったって返ってきたから大丈夫ネ!」
姫乃「早いですね!?」 鞠莉「…………」
果南「ん、どうしたの鞠莉。こんなときに黙っちゃって」
ダイヤ「らしくありませんわね」
鞠莉「そっちこそ何でスッキリした顔してるのよ、千歌っちから聞いたわよ~? あなた達あまり乗り気じゃなかったらしいじゃない」
果南「い、いやそれは」
ダイヤ「何といいますか」
鞠莉「ま、あまり深くは聞かないけど。楽しむことができたならそれに越したことはないし」
鞠莉「私もベリーベリーエキサイティングだったもの! ……ただ」
果南・ダイヤ「?」
鞠莉「あの子はいつも私たちに新しい体験をさせてくれるのねって、考えてただけ」
ワイワイ キャッキャ
ルビィ(みんな凄く喜んでる)
ルビィ「よかったぁ……」ホッ
善子「緊張してたんでしょ、ライブじゃなくてこのイベント自体に」
ルビィ「えへへっ、まあね」
善子「無理もないわね、発案者はルビィだしそれにこんな大規模なものになると」
花丸「でも上手くいって良かったね」
善子「ええ」
花丸「……あのね、マル最近よく思うんだ。スクールアイドルってこんなに楽しいものなんだって」 善子「いまさら?」
花丸「いまさら」
ルビィ「でも花丸ちゃんの気持ち、私もちょっと分かるかも」
花丸「ルビィちゃんならそう言ってくれると思ったずら!」
花丸「今日のこともね、すごくドキドキしたんだあ」
花丸「ああ、まだマルの知らないことがたくさんあるんだなって」
花丸「本とは違う、文字だけじゃ表現しきれない興奮とか、面白さとか」
花丸「今のライブで伝わってきて……だから、本当に今更だけど」
花丸「アイドルって素敵だよね!」
ルビィ「うん!」 善子「へえ意外、あんたの口からそんな言葉が出てくるなんて」
花丸「そんなに変かなあ」
善子「いや変っていうほどのものじゃないけど」
善子(花丸はアイドルじゃなくてスクールアイドルが好きなんだと思っていたから)
善子(そういう人って結構いるでしょ、でも)
善子「アイドルねえ……」 花丸「えへへっ」
善子(彼女のことといい……もしかしたら花丸は)
善子(自分とは全く縁のない、未知のものに強く惹かれるのかもしれないわね)
宝石に加工される前の、光る原石のような
右も左も分からない世界の中、ひときわ輝く何かに────
善子「……なんて、いくらなんでも詩的すぎよね、花丸じゃないんだから」
ルビィ「善子ちゃん、どうかしたの?」
花丸「マルのこと呼んだ?」
善子「ううん、なんでもないのよ」 月「わー凄い凄い凄い! 凄いよみんな感動だよー!」
聖良「月さん語彙力が……」
雪穂「あははっ、いいんじゃない? それだけ喜んでもらえたってわけだし」
聖良「確かにそういう見方も出来ますが」
雪穂「実際聖良ちゃんはどうだった?」
聖良「素晴らしかったと思います」
雪穂「ね」
聖良「それにしても、よく出来ましたよねこのライブ。話を伺ったときは実現させるのは難しいと思っていましたが」 雪穂「そうだね。今回は上手くいったけど来年以降もこれが続けられるとは思えないし」
聖良「ですよね……」
雪穂「でも、前例は出来た」
聖良「前例ですか?」
雪穂「うん、誰もやったことがないこととか、そういうのって皆あまり手が出せないんじゃないかなと思うけど」
雪穂「過去にこんなことがあったんだって事実があるとさ、それだけで出来るかもしれないって気になってくるでしょ?」
雪穂「少なくとも私はそういうタイプだから」
聖良「そうですね、事実ルビィさんもμ'sの皆さんが先にやっていたからこれを思いついたわけですし」
雪穂「うん、だからきっと大丈夫。まだ全部の問題が解決したわけじゃないけど」
雪穂「これを機にフェスライブはまた変わっていくはず、いや、お姉ちゃんたちと一緒に変えていってみせるよ」 聖良「そのときは私も協力します」
雪穂「ありがとう。そういえば聖良ちゃんはさ、一緒に踊らなくて良かったの?」
聖良「いいんです。今回は私が入らないほうが締まると思いましたから」
聖良「メインを引っ張るのはAqoursの皆さんですし」
雪穂「ふうん……ねえ聖良ちゃん」
聖良「はい」
雪穂「あなたも、譲ってる人?」
聖良「え?」
雪穂「ううん何でもない、ちょっと聞いてみただけ。それじゃあね」
聖良「あの、雪穂さん! ……どういう意味かしら?」 千歌「ねえねえ鞠莉ちゃん! この後お祝いしようよお祝い! SDS記念!」
鞠莉「いいわねー! パーッといきましょうパーッと!」
善子「すぐ祝いたがるわよね貴女たち」
鞠莉「いいじゃない! 今日が終わったらまた忙しい日々が待ってるんだから!」
鞠莉「今くらいは全力で楽しまないと!」
果南「鞠莉が言うと説得力すごいね」
梨子「私たちとは一日の密度が違いますからね」
梨子(でも)チラッ
鞠莉「スイーツバイキングいきましょスイーツバイキング!」
曜「いいねー!」
梨子(本当にそれだけなのかな?)
それから数日後……
とある建物
「はい、はい……分かりました、すぐそちらの方へ伺います」
「はい、ではまた後程……失礼します」
「お仕事?」
「ええ。面白そうだけど、ちょっと厄介でもありそうなやつね」
「あと長くなりそう。まあ行ってみれば分かるわよ」
「行ってみればって、私も行くの?」
絵里「そうよ、出発の準備して亜里沙」
絵里「せっかくのご招待、お相手を長く待たせるわけにはいかないものね」フフッ
──同時間帯、東京…羽田空港国際線ターミナル
果南「……あのー、私たちちょっと前に別れたばかりのはずだったんだけど」
鞠莉「ええ」
果南「なんでまた集まってるの?」
鞠莉「ちゃんと伝えたじゃない、海外行くからって」
果南「情報それだけしかないじゃん!」
ダイヤ「何故私たちまでついていく必要があるのですか、旅行ならお一人で行けばいいでしょう」
鞠莉「そうね、私も本当はそうしたかったんだけど」
梨子「やっぱり何かあったんですか」
鞠莉「詳しいことは現地で話すわ、だからお願い」
鞠莉「私のためにちょっと一緒に巻き込まれて」 果南「……仕方ないなあ、一肌脱ぎますか」
ダイヤ「休みはまだありますしね」
鞠莉「二人ならそう言ってくれると思ったわ! ベリーベリーThanks!!」
ダイヤ「ですが私たちはともかくルビィたちは」
鞠莉「理事長権限でどうにでもなるわよそれくらい」
果南「ねえ、それ本当に程々にしといたほうがいいと思うよ」
鞠莉「これで最後だから! ね!」
果南「全く……で、千歌たちは」 千歌「海外! イタリア! おーーー!!」
曜「イタリアといったらやっぱりカラビニエリの軍服だよね!」
果南「あれなら心配いらないね」
月「いやー逆に心配になるかな僕は、普段はともかくとしてこの時期のイタリアはちょっと……」
果南「ん? どういうこと?」
月「まあ着いてみれば分かりますよ、ところで本当に僕も一緒に来てよかったんですか? 旅費まで支払ってもらっちゃって」
鞠莉「詳しい人が一人でも多くいてくれたほうがこっちも心強いからね、期待してるわよ♪」
月「成程、契約金というわけですな」
鞠莉「いいわねそれ、採用で」
ダイヤ・梨子「生々しいからやめてください」 鞠莉「さてと、それじゃあそろそろ行くわよ!」
鞠莉「レッツゴー イタリーアー!」
千歌・曜「いっえーーい!!」
善子「はい、私ヴェネツィア行きたい」
ルビィ「花丸ちゃんは?」
花丸「ヴェローナかなあ、あのロミオとジュリエットの舞台となっている場所……一度でいいから見てみたかったんだあ……」ウットリ
果南「私はアクアパッツァ、本場の味ともなるとすっごい美味しいんだろうなあ」
ダイヤ「ちょっと果南さん」
梨子「じゃ、じゃあ私はフィレンツェ……」
ダイヤ「梨子さんまで……はあ、先行きが不安ですわ」
ダイヤ「来て早々、痛い目に遭わなければいいのですが」
そして……
イタリア、ミラノ
千歌「着いたー! 着いたよイタリアのー! どこ?」
月「ミラノ」
千歌「ミラノー!」
梨子「わあ、凄く綺麗……まるで中世にタイムスリップしたみたい」
鞠莉「さあ着いて早速で悪いけどまずは」
千歌「まずは腹ごしらえだよね! 私もうお腹ペコペコだよー!」
曜「よーしどっちが早くお店見つけられるか競争だー!」
果南「いいね、乗った」グッグッ
「いくよー! よーい……ドン!!」
ダダダダッ
鞠莉「ちょっとあなた達!」
月「あちゃー……」
ダイヤ「追うしかなさそうですわね」
鞠莉「全くもう……少しくらいは落ち着いてほしいものね」
ダイヤ「焚きつけたのは鞠莉さんでしょう」
鞠莉「そうでした」テヘペロ ルビィ「……うーん」
善子「どうしたのルビィ」
ルビィ「えっとね、何か人が少ないなあと思って」
善子「ん、そうね。言われてみれば確かに」
月「……あーっと、実はそのことなんだけど」
ルビィ・善子「?」 千歌「あっ見つけた! 多分あれだよね!?」
千歌「やったー! 私一番乗り! って」
千歌「…………あれ?」
曜「どうしたの千歌ちゃん」
千歌「なんか張り紙貼ってある」
果南「本当だ、読めないけど」
月「長期休暇を取ったので、しばらくの間当店は閉店とさせていただきます」ヒョコッ
千歌「えー閉店!?」
果南「まあ仕方ないね、ここは諦めて次の店に」
月「無理ですよ」 果南「無理? 何が?」
月「外食自体が。恐らく閉店してるのはここだけじゃないですし」
千歌「うっそだー! 流石にいくつか探せば開いてるお店くらい見つかるよ」
鞠莉「って思うでしょ? ところがどっこい本当のことなのよ」スタスタ
曜「そんなことあるの?」
鞠莉「なら、観光がてら試しに色々回ってみましょうか、百聞は一見に如かずってね」
鞠莉「あと勝手に飛び出すの禁止」
千歌・曜・果南「ごめんなさい」
……
曜「ない」
……
果南「ない」
……
千歌「ほんっっとうに何にもない!!」
千歌「人も車も全然いないし! なんで!? あと暑すぎ!」
善子「ちょっと言わないでよ、気にしないようにしてたのに……」 月「でもまさしくその通りなんだよ、この猛暑が続くせいで地元の住民たちはみんな8月になると長期休暇を取って海や山にバカンスをしに行っちゃうんだ」
月「で、その結果がこちら。いやあこうして見るのは久々だなあ~」ハハハ…
千歌「そんなあ~、月ちゃんなんで最初に言ってくれなかったの」
月「せっかくの楽しい雰囲気に水を差したら悪いかなって。ごめんね」
千歌「う……」
梨子「千歌ちゃん、これに懲りたらあまり浮かれすぎないように」
千歌「……はい」
梨子「曜ちゃんもね」ジトッ
曜「」ビクッ
曜「い、イエッサー!」
月(これは曜ちゃん、尻に敷かれるだろうな) 鞠莉「……うん、ようやく落ち着いたみたいね」
鞠莉「それじゃあ早く目的地へ急ぎましょう、そろそろ暑さでバテそうなのが何人かいるし」
ダイヤ「こちらを、凝視しながら、言わないで、もらえますか」
花丸「運動以外で、こんなに汗が出たの、初めてかも、しれないずら」
果南「二人ともしっかり、ほら私につかまって」ガシッ
ルビィ「もう少し我慢してね、それで鞠莉さん、私たちどこに行けばいいの?」
鞠莉「私の別荘。安心してそんなに遠くはないから」
鞠莉「それで、そこでご飯でも食べながらゆっくりお話しでもしましょうか」
鞠莉「今回のことについて色々と……ね」
─
鞠莉「では、いただきます」
「「「いただきまーす!!」」」
カチャカチャ
千歌「んぐっ……ん、、おいしいーっ!!」
ダイヤ「本当、絶品ですわね」
果南「専属の料理人とか、あむっ……普通いないからねえ」
曜「冷房も効いてて快適だし!」
善子「上級の生活ここに見たりって感じね」
花丸「う~ん、生き返るずら~……」
ルビィ「デザート……!」ワァ
鞠莉「気にいってもらえたようで何よりだわ」 梨子「それで鞠莉さん、今回イタリアに来た経緯のことですけど」
鞠莉「そうね。とは言ってもどこから話せばいいのやら……」
鞠莉「うーん……じゃあまずはあなた達を連れてきた理由から」
鞠莉「初めにざっくり言うと、海外の方から直々にご指名があったのよね」
善子「私たちに?」
鞠莉「私のDaddy…パパの親友の娘さんがね、近頃スクールアイドルに興味を示してるらしくて」
鞠莉「それで相談を持ちかけられたみたいなの、何か当てはないかって」
月「ああ、それでAqoursに話が来たってわけか」 鞠莉「そうそう、娘である私がスクールアイドル部の顧問をやっているって話をしたらどんどん事が進んじゃってね」
鞠莉「パパの方も相手が親友かつ仕事のお得意様でもあったから無下にも出来ないってことで」
鞠莉「それでこっちに白羽の矢が立ってしまったというわけよ」
ダイヤ(良い意味と悪い意味、どちらで言っているのやら)ヒソヒソ
果南(両方に一票)
鞠莉「でも急に来た話ってわけじゃないのよ? これでも結構引き伸ばしてもらったんだから」
梨子「保留にしていたってことですか?」
鞠莉「ええ。パパがね、どうしても9人じゃないと駄目だって言うから」
善子(……なんか可笑しくない? それ)
鞠莉「時間の都合とか色々あるでしょ」
千歌「ふーん、けどなんで鞠莉ちゃんのお父さんはそんなに9人にこだわるんだろう」
鞠莉「さあ。私にも分からないわ」 果南「で、他には?」
鞠莉「他って?」
ダイヤ「たったそれだけの理由ならそこまで鞠莉さんが渋ることはないでしょう」
果南「実際その手の話が舞い込んできたら、鞠莉なら即全員連れていきそうじゃん」
花丸「確かに」
善子「普通にあり得るわね」
鞠莉「その信頼のされ方なんか嫌なんですけど」
鞠莉「しかも当たってるのが余計にね……はあ」
果南「…何があったのさ、鞠莉」
鞠莉「……ただのスクールアイドルとしてのお誘いじゃないの」
鞠莉「私の家庭の事情も入ってるのよ、所謂個人の問題ってやつ」 ダイヤ「家庭の事情? 鞠莉さん、それは一体どういう」
「そこから先は私たちが説明しよう」
全員「!!」
鞠莉「……随分早かったのね、パパ、ママ」
鞠莉父「久しぶりだな、鞠莉」
千歌「え!? あの人が鞠莉ちゃんのお父さんなの!? 若っ!!」
曜「もしかして鞠莉ちゃんのご両親ってお父さんのほうが年下なの!?」
梨子「ちょっと二人とも! 初対面の人に向かって失礼でしょ!」
鞠莉父「いいや私は40後半だが」
千歌・曜「ええっ!?」
月「すご!! マクシミリアン・ジーナスみたい!!」
鞠莉父「今どきの女学生にしては古い喩えだな、私としては嬉しい喩え方だが」
月「いやあ、つい」ハハハ…
鞠莉「貴女たち、一応シリアスな場面なんだけどここ」 鞠莉母「貴方ももう少し気を引き締めてください」
鞠莉父「ああ、分かっているさ」
鞠莉父「今回鞠莉にここへ来てもらったのは他でもない、鞠莉自身の将来のことについてだ」
ダイヤ「将来?」
鞠莉父「ああ、前から小原家を継ぐための準備として縁談の話を持ちかけているのだが、これが中々煮え切らなくてね」
鞠莉父「そろそろ決めるべきだと思っていたところなんだよ」
果南「! 縁談って……」
千歌「───結婚!? 鞠莉ちゃん結婚するの!?」
鞠莉「Wait パパが言ったじゃない、そういう話が来てるってだけよ。私はまだそんなつもり……」
鞠莉母「Shut Up! いい加減にしなさい鞠莉」
鞠莉「……ママ」 鞠莉母「あなたはいつもそう! こっちの高校を蹴ったときも! 卒業したときも! 我が儘ばかり言って!」
鞠莉父「特に浦の星に戻った時だな、海外で取れる資格だけ取ったらはいサヨナラとは……いやはやあれは傑作だったな、実に合理的だ」クックッ
鞠莉母「貴方!!」
鞠莉父「大丈夫、分かっているとも」
鞠莉母「~~っ……とにかく! これまでパパに言われてグッとこらえてきましたが私はもう我慢の限界デス!」
鞠莉母「さっさとこちらに戻ってきて受け入れなさい! 鞠莉!」
鞠莉「い、嫌よ! 私にはまだやることが残ってる!」
鞠莉父「ああ、そうだろうな」
鞠莉母「だから!! どっちの味方をするんデスか!!?」
鞠莉父「それを決めるためにここに来ているんだろうが、違うか?」
鞠莉母「くっ……!」
鞠莉父「鞠莉、お前も分かっているよな」
鞠莉「……はい」 鞠莉父「さて、長くなってしまったが本題に入ろうか。つまり我々の言っている家庭の事情が絡んでいるというのはだね」
鞠莉父「その縁談の有無を、君たちに委ねるという意味だ」
ダイヤ「私たちに、ですか」
鞠莉父「そうだ、私たちが君たちに出す条件……それをクリアすれば縁談の話は見送ろう、とは言っても早いか遅いかの違いでしかないが」
鞠莉父「少なくとも鞠莉の意思を尊重することは約束しよう、今後強制的にこういった話は持ちかけないとね」
果南「……それで、その条件は?」
鞠莉父「鞠莉から聞いたとは思うから事情は割愛するとして、彼には今から10日後ここでライブを行うという旨をすでに伝えている」
鞠莉父「観客も大勢集めて賑やかなものにするとね、ただ──」
鞠莉父「私自身は人を集める気など微塵もないし、君たちを手伝うつもりも更々ないが」
「!!?」 鞠莉父「つまりこうだ、その10日後に行われるライブまでに君たちが自分の力だけで観客を集め、尚且つそのライブも成功を収めること」
鞠莉父「それが私の出す条件だ、出来ないなら今後鞠莉は私たちの言うことに従ってもらう」
「…………」
鞠莉父「お前もそれでいいよな?」
鞠莉母「……いいでしょう」
月「……あのー、ちょっと」
鞠莉父「ん?」
月「話が決まりつつあるところ聞くのもなんですけど、少し気になったので。いいですか?」
鞠莉父「構わないが」
月「僕はまあ、部外者って立ち位置なのでよく分からないんですが……そもそも、どうしてAqoursのみんなにそんな大事なことを任せるんですか?」 鞠莉父「……私は昔から何かあるたびに鞠莉と約束をしていてね」
鞠莉父「好きなこと、やりたいもの、習い事、学校、進路……まあ色々だ」
月「はあ」
鞠莉父「そして常にこう言ってきた、ちゃんとやるなら好きにすればいい。と」
鞠莉父「中途半端で終わらせずに、きちんとやり遂げれば私は何も言わない……事実私の言いつけを守って鞠莉はこれまでちゃんとやってきた」
鞠莉父「だから文句も特にはなかった。ママとは度々、衝突していたがね」
鞠莉・母「…………」 鞠莉父「高校生になってからもそうだ、スクールアイドルをやりたいからと海外の卒業を突っぱねた」
鞠莉父「そのときにした約束はこうだ、絶対優勝してみせるからお願い。私は容認した」
果南・ダイヤ「……」
鞠莉父「卒業後にした約束は、今度こそ優勝して浦の星に名を残す、だからもう少し待って欲しい」
鞠莉父「この時点でどうかと思ったが社会経験を積ませるのも大事なことではあったからな、それも良しとした」
千歌・曜・梨子「……」
鞠莉父「そうやって鞠莉は浦の星に留まり続けた、優勝という甘美な言葉を使ってね。もちろん気軽に言っているわけではないというのはこちらも理解している」
ルビィ・善子・花丸「……」
鞠莉父「だが実際はどうだ、そこまで豪語しても尚、何も成し遂げられていないじゃないか」
鞠莉父「浦の星に戻ってから一度ならず二度までも、これはちゃんとしていると言えるのか?」 鞠莉父「なあ鞠莉、どうなんだ?」
鞠莉「…………」
千歌「ま、待ってください! 前の大会で優勝出来なかったのは私が失敗したからで! その……鞠莉ちゃんのせいなんかじゃ」
鞠莉父「成程、では君は自分以外の子がそうなったとき、今と同じようなことが言えるというんだな?」
鞠莉父「優勝を逃したのはこの子が失敗したからで私のせいじゃない、私は悪くないのだと」
鞠莉父「その立場に自分自身がなったとき、君は仲間を庇うことなく赤の他人に事実としてそれを公言出来ると?」
千歌「それはっ……」
鞠莉父「どうなのかな?」
千歌「……出来ません」
鞠莉父「ならば、先程の君の言葉に説得力はないな」
鞠莉父「個人の話で済むならそれも構わん、だが鞠莉がAqoursで優勝すると言っている以上、君たちは決して無関係ではない」
鞠莉父「これはいわばツケだ、鞠莉が今まで破ってきた約束のな」 鞠莉父「鞠莉は出来ることなら君たちを巻き込みたくなかったと言っているが、私から言わせれば浦の星に戻る約束をしたときから既に巻き込んでいるのに」
鞠莉父「なにを今更といった感じだ、それが嫌なら初めからそんなことを言うな」
鞠莉父「自分一人ではなく、全員一丸となって取り組まなければ成し遂げられない目標を」
鞠莉父「将来の駆け引き材料に使うからこうなるんだ。教えたはずだ、重要な物事ほどきちんと考えたうえで判断しろと」
鞠莉「はい……」
鞠莉父「自己責任と連帯責任の区別くらいつけなさい、それがこの事態を招いたお前の失態だ」
鞠莉「ごめん、なさい……みんな」
果南「鞠莉……」
ダイヤ「鞠莉さん……」 鞠莉母「だから私はずっと言ってきたのデス、こんなくだらないことはさっさとやめてこちらに戻ってくるべきだと」
ルビィ「─!」
鞠莉「……くだらないって、スクールアイドルのことを言ってるの?」
鞠莉母「だったら?」
鞠莉「スクールアイドルはくだらなくなんてないわ!」
鞠莉母「この有り様を見てまだそんなことが言えるのデスか! あなたがスクールアイドルをやり始めてから、何一ついい事などなかったではありませんか!」
鞠莉「それを決めるのはママじゃない!!」
鞠莉父「お前でもないよ鞠莉、ただどうしても主張したいのであれば」
ルビィ「結果を出せばいい」 「!!」
ルビィ「ちゃんとした成果を上げて証明すればいい、スクールアイドルは素晴らしいものだって」
鞠莉父「その通り。君はなかなか物分かりがいいな」
ルビィ「前にも似たようなことを言われた経験があるので」
鞠莉父「そうか。ふむ……いい目だ、胆力がある」
鞠莉父「さて、周りにいる君たちの意見も聞こうか」
ダイヤ「その条件、受け入れますわ」
果南「やるよ鞠莉、私たちだってここまで言われて黙って引き下がるなんて出来ないよ」
鞠莉「ダイヤ、果南……みんな」
鞠莉父「どうやらお前の友達は全員覚悟が出来たようだな」
鞠莉「私も決めたわパパ、絶対にパパたちを認めさせてみせるって」
鞠莉父「それは私との約束と捉えていいんだな」ギロ
「──!!」ゾクッ
鞠莉「っ……いいわよ」 鞠莉父「…………」
鞠莉「…………」
鞠莉父「……もう反故にしてくれるなよ。行くぞ」
鞠莉母「ちょっと貴方! ……もう!」
ガチャッ
月「どうぞ」スッ
鞠莉父「すまないね」
月「いえいえ」
バタンッ
……シーーン
千歌「…………はぁーっ」
千歌「最後、めちゃくちゃ怖かったぁ~……」ヘタリ
ダイヤ「同感ですわね」ヒヤリ
果南「ちょっと待ってなんか気が抜けたら腰が……立て、立てない」
鞠莉「……ぷっ、アハハ! 何よそれ果南~っ! 恰好悪いわねー!」
果南「はあ!?」
鞠莉「あははははっ!! ……ふぅー」
鞠莉「ありがとうね、みんな」 曜「それで、大見栄きったのはいいけど……これからどうしよっか?」
梨子「まず前提としてお客さんを集めないといけないわけだけど、こんな状況だしね」
果南「これといった手掛かりもないしなあ」
千歌「……そうだ! 鞠莉ちゃんや月ちゃんはイタリアに住んでたことがあるんでしょ!?」
鞠莉「え、ええ」
月「あるけど」
千歌「じゃあこんなとき街の人たちがどこに行ってるのかとか知ってるんじゃない!?」
花丸「なるほど~、千歌ちゃん頭いいずらー!」
千歌「ふふん、まあね!」ドヤ 千歌「ね、ね、どうなの!?」
鞠莉「どうなのって聞かれても……えーっと、海とか?」
月「山……とか?」
千歌「それさっきも聞いたよ! そうじゃなくて、具体的な場所とか!」
月「ごめん流石にそこまでは……バカンスっていっても行く場所とかみんな結構疎らだと思うし」
鞠莉「その年によって変わることもあるのよね、全員が全員毎年同じところへ行くわけでもないでしょ?」
千歌「そっか……いい考えだと思ったんだけどなあ~」 善子「結局しらみつぶしに探すしかないってことね」
ルビィ「うん、だけど……」
花丸「それだと時間がいくらあっても足りないずら……」
ハァーッ……
ダイヤ「……あの、ちょっと」スッ
鞠莉「なに? ダイヤ」
ダイヤ「このまま悩んでいても埒が明きませんし、一度ライブを行う場所へ行ってみるというのはどうでしょうか」
果南「私それ賛成。一回目を通しておくのも悪くないし、気晴らしにも丁度いいんじゃないかな」
鞠莉「確かにそうね、現状行き詰ってるだけだし……うん。そうしましょうか」
鞠莉「みんな付いてきて、案内するわ」
─
スペイン広場
鞠莉「着いたわ、ここがパパが指定したステージよ」
千歌「うわぁー、すっごー! 大きいー!」
果南「しかし広いねー、ここなら確かに大勢集まっても全く問題なさそう」
曜「でもここローマだよね? なんでスペイン広場って名前なんだろう」
月「ああ、なんでもスペイン大使館が近くにあるからって理由でそうなったらしいよ。そこのスペイン階段もね」
梨子「そんな単純な理由なの!?」
月「はははっ、名前の由来もたまには深い理由がなくたっていいんじゃない?」
梨子「そうかなあ」
月「そうそう!」
曜「……」ジーッ 月「ん、どうしたの曜ちゃん? ……ははーん、さてはまた僕に嫉妬かな?」ニコニコ
曜「ううん別にそうじゃないけど、ただ」
月「ただ?」
曜「……いや、何でもないや。私の思い違いかもしれないし」
月「えー、そんなこと言われたらますます気になっちゃうよ」
曜「本当になんでもないから大丈夫だよ」チラ
梨子「?」
月「ふーん。ならいっか」 花丸「……」ウーン
ダイヤ「花丸さん、どうしたのですか? ここに着くなりずっと考え込んでいるみたいですが」
花丸「あ、ダイヤさん。えっとね、この場所沼津の海岸にある石階段に少し似てるかもって」
ダイヤ「そ、そうでしょうか?」
花丸「なんとなくそんな感じがするだけずら」クスッ
ダイヤ「ま、まあ私たちには馴染み深い場所ですからねあそこは。接点を見つけるというのも悪くはないのかもしれませんわ」
花丸「うん、そうだね」
花丸「……」
ダイヤ「……考え事はそれだけですか?」 花丸「ううん。ダイヤさんは鋭いなあ」
花丸「懐かしいなって思ったから、だからちょっとだけ思い出してたんだ」
花丸「もうすぐお盆だしね」
ダイヤ「!」
花丸「初めてだよ、お参りを放ってまで何か自分に出来ることをしたいって思ったのは」
ダイヤ「でも今年のは鞠莉さんが……」
花丸「それだけじゃないよ」
花丸「やってみたいの、マル自身も」
ダイヤ「花丸さん……」 花丸「ルビィちゃんも善子ちゃんもそれはきっと同じだと思う」ヨイショ
花丸「あとは、どうやって乗り越えるかだけずら」
花丸「アオちゃんにも、土産話たくさん用意しないといけないもんね」フフッ
花丸「さーて、頑張るずらー」
スタスタ
ダイヤ「…………」
ダイヤ(……知らなかった、花丸さんがそんな風に考えていたなんて)
ダイヤ(私はてっきり、あの子に会いに行けないことを悔やんでいるのかとばかり……去年の今ですら、彼女はそれを欠かすことはなかったもの)
ダイヤ(だけど)
初めてだよ、お参りを放ってまで何か自分に出来ることをしたいって思ったのは
やってみたいの、マル自身も
ダイヤ(違った。彼女は私が想像しているものなんかよりもずっと先を見ていた)
ダイヤ(先へ進もうとしている、そしてそれは……)
ダイヤ(花丸さんだけじゃ、ない)
一度サファイアちゃんに挨拶しておきたくて。それと……
どうしても貴女に会いたかったんです、ダイヤさん
ダイヤ(梨子さんも)
私、次のラブライブ決勝で新しいパフォーマンスを決めたいの
だから果南ちゃん、お願い。私にバク宙を教えてください
ダイヤ(千歌さんも)
私は、あなたと戦ってみたい……同じ舞台で
ダイヤ(善子さんも…………それが自分にとって大きな壁でも向き合って)
ダイヤ(ルビィなんて、あの子が一番困難を乗り越えて成長していて、今でも)
ダイヤ(じゃあ───)
私は?
私は一体、何をしたというの?
ダイヤ「……っ……」ギュゥ
果南「…………ダイヤ?」
ザッ
「あらあらどうしたのこんな場所でそんな深刻な顔して、可愛い顔が台無しよ?」
ダイヤ「えっ?」
「フフッ、こんにちは大和撫子さん」
ダイヤ「こ、こんにちは」
ダイヤ(言葉が通じる……えらく流暢な喋りだけど、日本人かしら?)
果南(あの人、なんかどっかで見たことあるような……せめてサングラス取ってくれればまだ分かりそうなもんだけど)ウーン 「ねえ聞きたいのだけど、小原鞠莉さん御一行ってあなた達のことで合ってる?」
ダイヤ「え、ええ。そうですけど」
「やっぱり! よかったあ、やっと見つかったわ」
「亜里沙ー! こっち来てー!」
ダイヤ「あの、失礼ですがあなたは一体……「あああぁーーーーーーーっ!!!」
ダイヤ「」ビクッ
「ん?」フリムキ ルビィ「あ、あ、あなたは……ま、まさか……」
千歌「もももももしかして、もしかしてですけど」
ルビィ・千歌「み……μ'sのっ……!!」
ダイヤ「!?」バッ
「あら、この見た目でも気付いてくれる人がいるなんて」
スッ
絵里「私もまだまだ捨てたものじゃないわね」
「え、エリーチカーーーーーーー!!?」
ダイヤ(こ、この人が……!?)
絵里「あらためてよろしくね、大和撫子さん」ニコ なんで新規出ないんだよ?
ずっと既存ばかりで育成飽きるわ。
あ、ゴル神CEOだ。 ダイヤ「──スクールアイドル委員会、国際支部……」
「「「支部長ーーー!!?」」」
絵里「ええ、それが私の今の肩書き。ちょっと堅苦しいけどね」フフッ
梨子「あの、因みに活動内容とかは伺っても……」
絵里「いいわよ。私たちの仕事は主に海外に対するスクールアイドルの広報活動」
絵里「そうね、スクールアイドルの宣伝担当くらいに思ってくれたらいいわ」
千歌「えっと、じゃあ亜里沙さんも?」
亜里沙「うん、私はそのお姉ちゃんのサポートってところかな」 曜「絵里さんのサポートっていうことは……実質副長的な立ち位置ってことですか?」
千歌「つまり組織のツートップ!?」ズイッ
亜里沙「待って待って、私はそんなに偉くないよ」
月「そうなんですか?」
絵里「私のほうからお願いしてるのよ、亜里沙がいてくれたほうが私も色々とやりやすいから」
千歌「ほえー……」
絵里「納得してくれた?」
千歌「は、はい! それはもちろん!」ピシッ
梨子「もう、恥ずかしい……」 絵里「なら話の続きに戻らせてもらうけど、そうそう活動内容のことだったわね」
絵里「他にあるとすれば……あとは生徒への勧誘、とかかしら」
絵里「Y.G国際学園って知ってる? あそこの入学希望者選考を受け持ったりしているわ」
ルビィ「蘭花ちゃんがいる学校……!」
絵里「あら、知り合いがいるの?」
ルビィ「は、はい! 2年生のときに選抜強化合宿で知り合って」
絵里「ああツバサの! なるほど、そっちでも上手い具合に溶け込めてるということね」
絵里「交流が順調に進んでそうで何よりだわ、これからもうちの学校と懇意にしてあげてね」ニコッ
ルビィ「い、いえこちらの方こそ! これからもよろしくお願いします!」
絵里「ええ、よろしくね」 絵里「さてと、自己紹介はこれくらいで十分かしら?」
ダイヤ「大丈夫です。ありがとうございました」
絵里「そっちのあなたも?」
月「はい。いやーすみません、なにせ僕はまだ歴がちょっと浅いものでして……」タハハ
絵里「いいのよ、新規の人が増えるのもこちらとしては嬉しい限りだから」
月「助かります……だけど、そんな凄い人がどうしてまた」
鞠莉「私のところに?」
絵里「仕事よ、貴女たちの手伝いをしてほしいって直接頼まれたの」
鞠莉「頼まれた? 一体誰にですか?」
絵里「それは企業秘密」
鞠莉「…………」 絵里「心配しなくても怪しい人物じゃないわ、個人的にその人とはちょっと縁があってね」
絵里「仕事の関係で日頃お世話になってる人なの、だから断る理由も特になかったし」
絵里「それに私としても、今回の件はスクールアイドルの良さをより広めるために重要なことだと思ったから」
絵里「その協力の申し出を受けて、ここまで来たというわけ」
鞠莉(…………)フム
梨子「鞠莉さん?」
鞠莉「なんでもないわ、続けましょう」 ダイヤ「私たちの手伝いということは、つまりライブのことも」
絵里「ええ、聞いているわよ。かなり厄介な条件をつけられたみたいね」
亜里沙「この殆ど人がいなくなってる閑古状態のイタリアで、お客さんを集めないといけない」
亜里沙「内容を聞いたときはビックリしちゃった、すごく難しいと思うもん」
絵里「うん。私たちが来た時の状況を考えるに、今まさに四苦八苦している感じ」
ダイヤ「……仰る通りです、あてもないので何から手をつければいいのか全員で考えていたところでして」
絵里「それでこのスペイン広場に来たと、成程ね」
絵里「そういうことなら、早速お役に立てそうじゃない? ねえ亜里沙」
亜里沙「うふふっ。だね、お姉ちゃん」
「???」 絵里「亜里沙、あれお願い」
亜里沙「うん、みんなちょっと見てほしいものがあるの」ガサッ
善子「これって、周辺の地図ですか?」
花丸「色んなところにマルが付いてるけど……」
絵里「そのチェックされている場所は、今年のバカンスの影響で盛況している宿泊施設をピックアップしたものよ」
絵里「あなた達に会う前に二人でちょっと調べてきたの」
ルビィ「!! じゃあ」
曜「ここに行けば、たくさんの人に会えるってことだよね!」
千歌「おぉーっ! 凄い! 凄いです絵里さん亜里沙さん!」
花丸「これなら何とかなりそうな気がしてきたずら!」
果南「だね、いやあこの情報だけでもかなりありがたいよ」 梨子「問題があるとすれば、場所ごとに結構な距離があるってところですね」
ダイヤ「ですわね。これを全員で回るとなると、それだけで時間を食ってしまう」
鞠莉「確かにね……」
絵里「なら、どうするのかしら?」
ダイヤ「…………」
ダイヤ「絵里さんに一つ聞きたいことがあるのですが」
絵里「なに?」
ダイヤ「今回のライブ、絵里さんなら観客数の目安はどの程度あれば十分だと思われますか?」
絵里「そうね、広場の面積や所詮個人で楽しむものとして考えると」
絵里「300……あたりが妥当な数字じゃないかしら」 ダイヤ「ありがとうございます、参考にさせて頂きますわ」
絵里「いいの? 私一人の意見だけ鵜呑みにしちゃっても」
ダイヤ「貴女はスクールアイドルの経験だけではなく、仕事上ライブの手配等にも携わっているのではないかと先程の話を聞いて思いました」
ダイヤ「ならば、この場において誰よりも信頼に値するのは絵里さんの発言ではないかとそう考えた次第です」
絵里「へえ」
ダイヤ「ですが私たちの方からも一応。鞠莉さんはこれについてどう見ます?」
鞠莉「私も絵里さんと同意見ね、観客の数はそれくらいで事足りると思うわ」
鞠莉「増やし過ぎてもギュウギュウで窮屈だろうし」
ダイヤ「そうですか、分かりましたわ」
ダイヤ「……では以上のことを踏まえたうえで私から提案があるのですが」 ダイヤ・鞠莉「人数を分けましょう」
ダイヤ「! 鞠莉さん」
鞠莉「まあ、自然とそうなるわよね」
梨子「人数を分けるというのはつまり、各手に別れてそれぞれの目的地で人を集めてくると?」
ダイヤ「そうなりますわね」
果南「確かに現状それが一番効率的ではあるね、割り振りはどうするの?」
ダイヤ「担当する人数的にも3組が望ましいと思います」
善子「各グループ100人ずつってことね、了解」
曜「あとはどういう分け方にするかだけど」 亜里沙「それなら、ライブをやりやすい組み合わせのほうが私はいいと思うな」
絵里「そうね、前提としてライブを見てもらうために集まって欲しいわけだから」
絵里「まずはあなた達の実力がどの程度のものなのか、知ってもらう必要があるわ」
絵里「ここは日本と違って、あなた達もそこまで有名ではないでしょうし」
果南「ただ触れ込むだけじゃ集客は見込めないってことですね……」
善子「そうなってくると現実的に可能になってくるのは」
花丸「学年毎で分ける、とかかなあ」ウーン
千歌・ルビィ「……ユニット」
「え?」
千歌「! だよね!? やっぱりルビィちゃんもそう思うよね!」
ルビィ「うん、曲の数的にも相性でも、それが一番いいんじゃないかな」
ルビィ「どう? お姉ちゃん」 ダイヤ「私は異論ありませんわ、皆さんは?」
「…………」
絵里「答えはまとまったみたいね」
ダイヤ「はい、おかげさまで」
絵里「なら私たちの方も、ちゃんとそっちに合わせて決めておかないとね」
ダイヤ「と言いますと?」
絵里「ガイド役、必要でしょ? それに現地の人と話せる通訳者もね」
月「あっ! そういうことなら僕もお手伝いしますよ!」
絵里「あら助かるわね、じゃあ私たち3人で話し合いましょうか」 ダイヤ「では一旦話はここまでにして」
絵里「ええ、続きはまた明日。今日はお疲れさま、えーっと」
ダイヤ「黒澤ダイヤですわ。以後お見知りおきを」
絵里「ダイヤね、しっかり覚えておくわ」
絵里「今度はお互いにもっと色々と打ち明けられたらいいわね」クスッ
ダイヤ「? はい」
絵里「さ、行きましょうか」
亜里沙「うん」
月「はい! みんなーまた明日ね!」フリフリ ダイヤ「…………ひとまず終わりましたわね」ハァ
果南「お疲れさま、流石こういうときのダイヤは頼りになるよ」
鞠莉「ええ、おかげで話も順調に進んだしね」
ダイヤ「だといいのですけど」
果南「……」
鞠莉「またまたそんなこと言っちゃって!」
ダイヤ「くっつかないでください鞠莉さん! 暑苦しい!」 曜「よーし、そうと決まれば私たちも一回振り付けのほう確認しないとだね!」
千歌「うん、いやーワクワクしてきたねー!」
ルビィ「私も。千歌ちゃんたちと3人でやるの久しぶりだもん」
善子「私たちも一通り見直しておかないとね、音合わせないとだし」
梨子「そういうことならちょっと待ってて、今鞠莉さん引き連れてくるから」
善子「言い方もう少し穏やかにならないの」
花丸「……」
花丸(ダイヤさんと果南さん、何かあったのかな?)
─その夜
月「じゃあ僕はこの辺で、二人ともおやすみなさい」
亜里沙「はーい」
絵里「おやすみなさい」
ガチャッ バタン
絵里「ふう、それにしても意外とすんなり決まったわね」
亜里沙「二人とも違うユニットを指名したからね、私はどこでもよかったから特に言うことはないんだけど」
絵里「そうなの? 亜里沙は気になってる子とかいなかった?」スッスッ
亜里沙「あんまりかなあ、皆いい子だと思うし」
亜里沙「ところでお姉ちゃん何してるの? お電話?」
絵里「ええ、ちょっと。久し振りに話したい相手がいて」 雪穂「……ふわぁ~……あー、今日もあっついなぁ……」モゾモゾ
雪穂「これじゃ寝ようにも寝られないよ、よくお姉ちゃんこんな状態で快眠出来るよね」
雪穂「はあ~ぁ、顔洗ってこよー「あーーーーーーっっ!!!」
雪穂「」ビクッ
雪穂「もうちょっと何なのお姉ちゃん! 朝っぱらから!」ガチャッ
穂乃果「ぅ絵里ちゃん! 亜里沙ちゃんも!」
雪穂「亜里沙!?」
穂乃果「あ、雪穂おはよー」 絵里「穂乃果! 久しぶりね……ってあははっ! 穂乃果寝ぐせ凄いことになってるわよ!」
『今起きたばっかりだもん!』
『亜里沙!』
亜里沙「雪穂ー、久しぶりだねー」フリフリ
『本当だよもう、今どこにいるの? そっちは夜みたいだけど』
亜里沙「今はね、イタリアにいるの。お姉ちゃんの仕事のお手伝いでね』
『へー! 絵里ちゃんそっちで何やってるの?』
絵里「いつもと同じよ、海外でスクールアイドルを広めるお仕事」
『そうなんだ! じゃあさ! ライブとかやったりするの!?』
絵里「うん、やるわよ」
『ねえ誰がやるの!? 私も見たい!』
『無茶言わないでよお姉ちゃん……』 絵里「Aqours。穂乃果たちは日本にいるから聞いたことあるんじゃないかしら」
『えー! ルビィちゃんたちがライブやるの!? 本当に!』
『っていうか、いつの間にイタリアの方に』
絵里「向こうにもいくつかの事情があってね、それより穂乃果に雪穂ちゃんも、あの子たちのこと知ってるの?」
『知ってるも何も、私たち一緒にライブやった仲だもんね!』
『私は合宿の指導等でたまたま縁がありまして』
亜里沙「ハラショー……」
絵里「本当に? ねえ、その話気になるからもうちょっと詳しく聞かせてくれないかしら」
『もちろんだよ! あのね……』 絵里「──ふ~ん。私の知らない間にそんなことがあったなんてね」
絵里「ラブライブのほうも、今になってまた面白くなってきているみたいだし、穂乃果が羨ましいわ」
『うん、毎年見ていて飽きないよ!』
亜里沙「雪穂もここ最近は凄く忙しかったんだねー、お疲れさま」
『私は別に、ツバサさんやルビィちゃんたちと比べたら大したことしてないってば』
亜里沙「そうかなあ?」 『絵里ちゃんたちの話もビックリしたよ! ねえ雪穂』
『うん、人集めは明日からって言いましたよね? その、大丈夫なんですか?』
絵里「それは分からないわ。私たちも出来るだけサポートするつもりだけど、結局は彼女たち次第だもの」
絵里「でもね雪穂ちゃん、明日からのことも含めて私は結構楽しみにしてるのよ?」
『え?』
絵里「彼女たちのライブを見るの、私は初めてだから」
『あ! そっかー。えへへっそれは楽しみだねー』
『でも今の話を聞いてるとなんか思い出すね、私たちも海外でライブをやったこと』
絵里「……ええ、懐かしいわ」フフッ 『お姉ちゃん、そろそろ店番に行かないと。今日はお姉ちゃんが当番でしょ?』
『えーもうそんな時間!? もっと絵里ちゃんとお話ししたかったのにー!』
『文句言わないの! ……すみません、そういうわけなので』
絵里「分かったわ。穂乃果、お仕事頑張ってね」
『嫌だよー、雪穂代わってよー……』
『お姉ちゃん!』
『うぅ……分かったよもう……』
『全くもう……あ、そうだ亜里沙』
亜里沙「ん?」
『後でまた亜里沙にかけ直してもいいかな?』
亜里沙「いいけど?」
『ありがとう、それじゃあ絵里さん失礼します』 絵里「ええ、また」
プツン
亜里沙「じゃあ私ちょっと出てくるね」
絵里「いいけど、あまり遅くならないようにね?」
亜里沙「うん、分かった」
バタン
絵里「…………ふふっ、本当に変わらないわね」
絵里「久しぶりに顔も見られて安心したし…………あ"」
絵里「通話時間がこんなに…………しまったわね、亜里沙を送ったそばからすぐ連れ帰るのも気が引けるし」
絵里「明日の行動に支障が出なければいいけど……本当、楽しい時間はあっという間ってよく言ったものよね」ハァーッ
─翌日
亜里沙「ふわぁ~……」
ルビィ「亜里沙さん眠たそうですね」
亜里沙「うん、昨日雪穂と長く話すぎちゃって……」ゴシゴシ
ルビィ「雪穂さんと?」
絵里(……やっぱり止めておくべきだったかしら)
ダイヤ「絵里さん? どうかしましたか?」
絵里「いいのよ気にしないで。それより皆も集まったことだしそろそろ始めましょうか」
ダイヤ「はい」 絵里「じゃあ今回の手筈だけど、昨日ダイヤが話した通りAqoursには3つのユニットに分かれて観客を集めてもらうことになるわ」
絵里「ノルマは各グループ100人、そして私たちが指定する場所だけど」
亜里沙「シャロンはランペドゥーザ島、アゼリアはカプリ島、ギルキスはサルデーニャ島に行ってもらいます」
絵里「どれも世界的に有名な観光スポットよ。だからというのもなんだけど少しくらいなら満喫したっていいんじゃないかしら」
絵里「勿論やるべきこともやりつつね、でも遊ぶことだって大事だもの。でしょ?」
千歌「わぁー! すっごい楽しみ……!」
梨子「こんな機会滅多にないもんね、私もちょっとドキドキしてる、かも」
曜「あははっやっぱり梨子ちゃんもそうだよね! 私も!」
花丸「多分みんな期待してたずら。ね、善子ちゃん」
善子「なんで私に向かって言うのよ」
花丸「さあ~?」 絵里「さてと、それじゃあ最後にあなた達に付くガイド役を発表するわね」
絵里「まず、シャロンには亜里沙が」
亜里沙「よろしくね」ニコ
千歌・曜「よろしくお願いしまーす!」
亜里沙「ふふっ♪」ジーッ
ルビィ「?」 絵里「ギルキスには月が」
月「やるからには精一杯務めさせていただきます、梨子お嬢様」ペコリ
梨子「何それ、変な月ちゃん」クスクス
月「やってみると意外とハマるよ、英雄騎士の真似事っていうのも」
絵里「そして、アゼリアには私が付くことになったわ」
ダイヤ「絵里さんが私たちのところへ、ですか」
果南「これは心強いね」
花丸「それに大人のお姉さんって感じがするずら~……格好いいなあ」
絵里「そ、それは褒めすぎよ……」
ダイヤ(照れてる……こういった称賛にはあまり慣れていないのかしら?) 絵里「というわけで、以上で説明の方を終わらせてもらうわ」
絵里「ここからはいよいよ別行動、みんなしっかりね」
「はい!」
鞠莉「さあ行くわよ! 目指せ300人! 目指せライブ大成功!」
スッ
鞠莉「頼むわよリーダー!」
ルビィ「うんっ頑張ろうみんな!」
ルビィ「Aqoursーーーー!!」
「サーーンシャイーーーーン!!」
亜里沙・月「おぉ~……」
絵里「……ふふっ! 成程、穂乃果が気にかけるわけね。そっくりだもの」
ダイヤ「」
絵里「あの子も、ね」
── ユニットミッション スタート! ──
√ Guilty Kiss
サルデーニャ島 アルゲーロ空港
梨子「へえ、ここがサルデーニャ島かあ……」
善子「意外と早く着いたわね」
月「離島とはいっても一応国内だからね、飛行機使えばこんなものだよ」
鞠莉「ほら3人とも、いつまでもそこで立ち話してないで早く外に出ましょ!」ウズウズ
月「ですねー、僕もここに来るのは初めてですし」
善子(なんだかんだで鞠莉も結構楽しみにしてるのね)ヒソヒソ
梨子(みたいだね) 梨子「わぁ~~……外はこんな風になってるんだ」
善子「この街並みも映画とかでよく見るわね! ここがそうだったの!」
月「港町アルゲーロはイタリアで最も美しい街として知られているからね! ロケとかでもよく使われるんだよ」
善子「へえ~……」
鞠莉「私たちが今歩いてる旧市街地とかは特にそうよね」
梨子「当たり前かもしれないけど、こうして見ると私たちの街とは全然違いますね」
梨子「街並みの景色もそうだけど並んでいる建物とか」
善子「ミラノやローマとはまたちょっと違うわよね」
月「この街はスペインの影響を強く受けているからね、ゴシック建築とかその辺りの」 梨子「そうなの? イタリアだからルネサンス様式だと勝手に思っていたんだけど」
月「お、梨子ちゃん詳しいね! そういうのに興味あるの?」
梨子「ピアノやってたからかな、芸術関連は結構好きなの」
月「そうなんだ! じゃあさ、こんな話はどうかな?」
月「アルゲーロは別名サンゴの街とも呼ばれていてね、ほら丁度あそこに……」
スタスタ
善子「…………」
鞠莉「どうしたのよ善子」
善子「え、鞠莉は逆にあれ見て何とも思わないわけ?」
鞠莉「あれとは?」
善子「貴女がしらばっくれるのは無理があるわよ、出歯亀筆頭なんだから」
鞠莉「酷い言いぐさねー傷ついちゃうわ」 善子「ちょっと曜ほんとに寝取られるんじゃないのこれ」
鞠莉「気にしすぎよ、私は特にそんな危機感ないけど?」
善子「どうしてよ」
鞠莉「だって私のレーダーが反応しないもの」
善子「えらく高機能なレーダーね、そこまで判別できるの」
鞠莉「まあ結局のところは勘だから、合ってるかは知らないけどね」
善子「どっちなのよ」 鞠莉「……ただ」
善子「ただ?」
鞠莉「月が梨子目当てにギルキスを選んだのは間違いないと思うのよね」
鞠莉「というか、3人ともそれぞれ何か思惑があるような」
善子「それこそ考えすぎじゃないの」
鞠莉「……そうかも、じゃあ話を変えて次に私たちが行く場所についてちょっといいかしら」
善子「ええ」 鞠莉「この近くにビーチがあるの、ラペローザビーチっていうんだけど。そこで情報収集兼リラックスするわよ」
善子「ビーチね、確かにそこなら人も多そうだからいいとは思うけど。水着はどうするの? 私持ってきてないんだけど、まさか買うの?」
鞠莉「勿論、でも大丈夫よ必要経費としてパパたちに支払ってもらうから、好きなもの選んでも問題nothing!」
善子「…………」
鞠莉「あ、梨子たちにも水着のこと言っておかないと、早く行きましょう善子」
善子「……今対立しておきながら言うことじゃないけど、貴女のお父さんって割と苦労してそうよね」
その頃、店内
梨子「わあ、店中赤色でいっぱいだね。これ全部サンゴで出来てるの?」
月「みたいだね。いやーこんなにたくさんだと目移りしちゃうね」
梨子「ハンドメイドが多いのかな? 値段も結構お手頃なのが多いね」
梨子「何かお土産に買っていこうかな、このブレスレットとかルビィちゃんとダイヤさんに似合いそうだし」
梨子「……あっ! 月ちゃん見て、サンゴじゃないアクセサリーもあったよ。ほら」
月「ん、まあ装飾店だもんね、そりゃあサンゴ以外にもいくつかあったって可笑しくないか」
梨子「このネックレス綺麗だなあ、水色だし曜ちゃんにピッタリかも」
月「!」
梨子「さっき見たのとこれにしようかな……ねえ月ちゃんはどう思う?」 月「……」
梨子「月ちゃん?」
月「……あぁ、いやいや。梨子ちゃんが決めたものなら曜ちゃんはなんだって喜ぶんじゃないかな」
月「それに僕なんかより彼女である梨子ちゃんのほうが曜ちゃんの好みはよく分かってるでしょ?」ニコ
梨子「……そっか」
梨子「じゃあ買ってくるからちょっと待っててね」 月「了解ー。って梨子ちゃん言葉分からないでしょ、付いてくよ」
梨子「支払いくらいは流石に出来るわよ?」
月「いいからいいから、買うものはそれで全部?」
梨子「……ううん、折角だからもう一つだけ買っておこうかな」
月「ふーん、自分用? それとも誰かに贈るの?」
梨子「秘密です」
月「そっかー、それは残念だねー」アハハ
梨子「……なるほどね」ボソッ
梨子(曜ちゃんが気にしていたのってそういうこと)
月「なに?」
梨子「ううん、別に」 「梨子ー! 月ー!」
梨子「先に行きすぎちゃったみたいだね、戻ろっか」
月「え、うん」
梨子「どうしたんですか鞠莉さん、水着? そういえば確かに必要かも」スタスタ
梨子「ってちょっとなんてもの例に出してるんですか!? そ、そんな過激なもの着ませんからね!!」
月「……さてと、僕も行きますかね」
月「でないとこっちを選んだ意味がないからねー、さあレッツヨーソロー! ってね」スタスタ
─ ラペローザビーチ
ワイワイガヤガヤ
月「おーいるいるー、人がわんさか」
善子「ええ、ようやく夏っぽい光景を目にした気分だわ」
鞠莉「やっぱり夏といえば海だものねー!」
善子「で、月先生。ここはどういう場所なの?」
月「一言でいうならイタリアの超人気ビーチだね、島の中で最も美しいとされていて毎年世界中から観光客がここへやってくるんだ」
月「特に家族連れやセレブの人が多い印象かな、理由は色々あると思うんだけどやっぱり一番なのは」ザッザッ
月「安心できるってところかな、試しに君たちも入ってみなよ」ピチャ
梨子「わ、あったかい」チャプチャプ
善子「それにあんまり深くないわね、尖ったものとかもないし動きやすいっていうか」 鞠莉「ここは緩やかに水深が下がっていくのよね、加えて波も小さい。だから急に溺れるなんて心配もいらないし」
鞠莉「インフラ整備も充実してる、こんなに快適で気持ちのいい場所はそうそうないわよ」
善子「成程ね、人気なわけだわ」
「What! Mary! Isn't you!」
月・梨子・善子「?」
鞠莉「Oh! Long time no see! What have you been up to?」
「Yeah, You're getting more and more beautiful」
鞠莉「As always, you have a way with words!」 善子「え、誰? 鞠莉の知り合い?」
鞠莉「まあね、パーティーの交流とかでよく会ってるのよ。最近はご無沙汰だったけど」
梨子「ということは……」
善子「さっき話に出ていた……セレブ?」
鞠莉「セレブ」
善子・梨子(ですよねー)
「Who is that persons?」
鞠莉「My friends でも丁度いいわ、ライブの件で何か協力してもらえないか私のほうから話してみる」
鞠莉「あなた達はゆっくりしてていいわよ~ Let's go over there」 梨子「行っちゃった……」
月「う~ん、ありがたいけど僕たちだけのんびりするっていうのも何か気が引けちゃうね」
善子「そうならないためにも何かしら役割引っさげて戻ってくるわよ、あの人のことだから」
梨子「ふふっ、そうかもね」
善子「それに、今でも出来ることはあるわよ。例えばライブの選曲とかね」
梨子「何を歌うかによって印象も変わってくるもんね」
善子「そういうこと。というわけで月先生、引き続き情報提供よろしく」
月「あははっよしきた! その役目確かに承ったよ」
そして……
夜
ビーチホテルの一室
鞠莉「はぁ~~~っ、極楽かな極楽かな」ボフンッ
善子「だらしないわねえ、さっき夕食取ったばかりでしょ」
鞠莉「いいのよ誰も見てないんだし、今日はずっと歩きっぱなし喋りっぱなしで疲れたのよ」
善子「それはお疲れさま」
鞠莉「ノンノン、礼には及ばないわ。明日からはあなた達にもちゃーんと働いてもらうからね」
善子「ピアノの演奏でしょ、分かってるわよ」
善子「私が前座で梨子が本命、クラシックは私も簡単なものなら一通り弾けるし。まあなんとかやってみせるわ」 鞠莉「頼むわよ、上手くいけばいい感じのステージを用意してもらえるんだから」
善子「はいはい、本当たいした交渉人よ鞠莉は」
鞠莉「キャリアが違うもの」
善子「ごもっとも」
善子「…………つらくないの?」
鞠莉「What? なにが?」
善子「顧問……いや、理事長になって戻ってきてから、こういうこと数え切れないくらいあったんでしょ?」
善子「やめたくなったりとか、しなかったのかなって」
鞠莉「なったわよ~、なりすぎていっそ全部投げ出したくなったこともあったわね~」 善子「……じゃあ、なんで続けたの?」
鞠莉「出会ってから今まで、ずっとルビィの側に居続けた善子なら分かるんじゃないの?」
善子「……」
鞠莉「放っておけなかったからよ」
善子「……そう」
鞠莉「うん。そう」
鞠莉「善子はどうしてそんなこと聞いたの?」
善子「別に。今くらいしか聞く機会ないと思ったから、それだけ」
鞠莉「ふ~ん、満足した?」
善子「それなり」
鞠莉「十分じゃないのね、残念」 善子「満たされないわよそんなんじゃ……だから」
善子「鞠莉」
鞠莉「な~に?」
善子「明日のピアノ、貴女もちゃんと聴いていってね」
善子「私、頑張るから」
鞠莉「…………はいはい」クスッ
─翌日
ホテル バルコニー
カッカッ
善子「…………」ペコリ
ストン
善子「」スッ
~~♪ ~♪♪
オォー……
鞠莉「うーん、いい音色ね」
月「お洒落ですよね~、ビーチの夜景を眺めながらクラシック音楽に包まれるなんて」
月「余りにも普段の自分と浮世離れしていて、なんだか不思議な気分ですよ」 鞠莉「あら月先生、接待はもう終わったの?」
月「ええ大体は。それよりその呼び方は僕としてはちょっと……むず痒いといいますか」
鞠莉「なら月もさん付けと敬語禁止。梨子は言っても聞かんぼさんだから、せめて貴女くらいはね」
月「……わかったよ鞠莉ちゃん」
鞠莉「うん、それでよし」
月「で、その梨子ちゃんは今どこに?」
鞠莉「コーディネート中、でもそろそろ出てくると思うわよ。ほら噂をすれば」
スッ
梨子「…………」
月「…綺麗だなあ」
鞠莉「なに、見惚れちゃった?」
月「さてさて、どうでしょう」 善子「」……トン♪
善子「ありがとうございました」ペコリ
鞠莉「善子ー! ブラボー!」パチパチ!
パチパチパチパチ!!!
善子「…………ふぅー。あとお願いね」
梨子「ええ、お疲れさま」
梨子「」ペコリ
ストン
梨子「よろしくね」スッ
ポロン♪
♪ ~~♪# ♪****♪
月「!」
鞠莉「お疲れさま善子。とても良かったわよ」
善子「ありがとう。だけど、やっぱり梨子には敵わないわね」
善子「さっきと空気が変わった」
月「……」
鞠莉「みんなピアノの方じゃなくて梨子に夢中になってるものね、ねえ月?」
月「ええまあ、ちょっと約束したもので」
鞠莉「約束?」
月「うん、昨日の夜に」 鞠莉「な~に? 昨日いなくなったと思ってたらやっぱり逢引してたの」
月「誤解を招く言い方だなあ、別にそういうのじゃないよ」
善子「じゃあどういうのよ」
月「あれ、善子ちゃんも意外と食いついてくるんだね?」
善子「個人的に曜と梨子には結構お世話になってるから、仮に何かあったとしたら見過ごせないのよ」
月「そっか。でもね、善子ちゃんが心配しているようなことにはなってないから大丈夫だよ、本当に」
月「寧ろ、仲良くしなくていいって言われたからねー僕。あはははっ」 善子「仲良くしなくていいって……嘘でしょ?」
鞠莉「あの梨子が?」
月「って思うよね? 僕も聞いたときはビックリしたよ、だけど……なんでだろうね」
ポロン♪
梨子「…………」ペコリ
パチパチパチパチ!!!
月「少し、納得しちゃったんだよなあ」ジッ
梨子「!」
梨子「えへへっ」フリフリ
月「……ふふっ」テヲフリ
善子・鞠莉「???」
月(曜ちゃんが彼女に惹かれた、その理由に)
そして……
Guilty Kiss ライブ当日
ザワザワ キャッキャ
月「はーいライブ視聴枠はこちらでーす。」
ゾロゾロ……
月「いやぁ結構人が集まったねー。うん、案内はこれくらいでいいかな」
月「そろそろ時間だし……撮り遅れる前に僕もビデオカメラの用意しないと」ヨイショ
月「向こうはもういつでも準備OKみたいだしね」
──
─
3日前、夜
梨子「凄いねこのホテル、屋外プールまであるんだ」
月「いい開放感だよね。すごく気持ちいいや」スイー
梨子「泳ぐのもいいけど風邪引かないようにね、夏っていってももう夜なんだから」
月「心配性だね梨子ちゃんは、でもこれくらい大丈夫だよ」スイスイ
梨子「そう? 無理してない?」
月「してないよー」バシャバシャ
梨子「私と話してるときも?」
ピタッ
月「……んー? それどういう意味かな? 梨子ちゃん」ニコ 梨子「別に全部が全部そうだとまで言うつもりはないけど」
梨子「月ちゃん、無理して私と仲良くしようとしているんじゃないかなって思って」
梨子「こっちに来てからは特に」
月「……えーまさか、そんなつもり全然なかったんだけどなあー」ニコニコ
梨子「やっぱり従姉妹だけあって似てるわね、そうやって愛想笑いで誤魔化そうとするところとか」
月「!」
梨子「いつかの曜ちゃんを見ているみたい」 梨子「少し気になってたの、どうして私ばかりに構うんだろうって」
梨子「でも月ちゃんと一緒にいるうちにそれも段々分かってきたの、私が曜ちゃんの彼女だからでしょ?」
梨子「だから自分も上手く関係を築かなくちゃって、そう思って私に近付いた。違う?」
月「……勘違いじゃないかな」
梨子「このままだとそうかもしれないね」
月「…………」ハァーッ
ザパッ
月「なら、どうしてそんなに踏み込んでくるの。そっとしておいてよ」
月「それとも、僕のやっていることってそんなに間違ってる?」 梨子「私は、ただ月ちゃんの本音が聞きたいだけだよ」
梨子「私の前で取り繕っていない、本当の月ちゃんが知りたいだけ」
月「……」
梨子「ねえ月ちゃん」
梨子「……私ね、前に大嫌いだったって言われたことあるの。誰だと思う?」
月「……さあ、皆目見当もつかないね」
梨子「曜ちゃん」
月「!? えっ……?」
梨子「まあその後すぐ嘘だって言ってくれたんだけどね、ただの嫉妬だって」
梨子「でも本当は、嫌いの感情も少しは入っていたんじゃないかなって、今ではそう思ってる」 月「嫉妬……曜ちゃんが、梨子ちゃんに?」
梨子「今まで千歌ちゃんとずっと一緒にいたのは自分なのに私に取られたってね」
月「それって……」
梨子「同じじゃない? 今の私たちの立場と」
月「!」
梨子「だから分かるよ、月ちゃんが私に向けている笑顔が嘘かどうかくらい」
月「……そこまで気付いておきながら、その続きをわざわざ僕に言わせるの? 君を否定するかもしれない言葉を、僕に?」
梨子「うん」
月「怖いとか、思わないの?」 梨子「怖いよ。慣れようと思っても、そう上手くはいかないし」
梨子「自分が予想している以上に傷つくことだってあるから」
月「それならこのままで──「でも」
梨子「それでも私は貴女のことが知りたい、友達として」
梨子「貴女のこと、もっとちゃんと知りたいの」
梨子「それに、私は月ちゃんなら大丈夫だって信じてるから……だって」
梨子「曜ちゃんの従姉妹だもん……だから、ね。お願い」
梨子「月ちゃんも私のこと、信じて」
月「……はあ、全く……敵わないなあ」 月「そうだよ、全部梨子ちゃんの言った通り。僕がこのグループ分けでわざわざGuilty Kissを選んだのも」
月「イタリアに来てから梨子ちゃんにばかり絡んでいたのも、俗に言う"いい関係"になろうとしてたから」
月「あとは、曜ちゃんにも僕と同じ気持ちを少しでも味わってほしいっていう黒い部分もほんのちょっとだけね」
梨子「うん」
月「まあそりゃね、違う高校通ってたんだから僕の知らないことの一つや二つあって当然だとは思うよ」
月「それに僕は相手が千歌ちゃんなら納得してたんだ、曜ちゃんは昔から千歌ちゃんにべったりだったから」
梨子「そうだよね」 月「なのに相手は君だった。正直、気に入らなかった」
月「でもそれを表に出すわけにはいかないでしょ? だからさ、なるべく早く馴染もうとしたんだよ」
月「手ごたえも自分としては悪くなかったと思うしね、梨子ちゃんはどうだった?」
梨子「うん、私も月ちゃんは良い人だなってずっと思ってたよ」
月「でしょ? ところがだよ、今日になって僕のその努力を水の泡にするようなこと言ってくれちゃって」
月「そもそも取り繕うのも、その為に無理をするのも、僕はそれがベストだと思ってやっていたのにね?」
月「そこにずけずけと入り込んで本音を聞かせてっていうのはさあ、我が儘が過ぎるんじゃないかな?」
月「まさか君がそんなに嫌な人だったとはね、予想外だったよ」
梨子「…………」 月「でも」
月「おかげでこうして打ち明けることが出来た、腹の底で溜まっていたものを全部ね」ニコッ
月「吐きだしたら結構スッキリするもんだ、胸のつっかえが取れたような気分だよ」
梨子「そう、良かった」
月「梨子ちゃんも僕に言いたいことがあるなら言っていいんだよ」
梨子「私? そうだね、じゃあ月ちゃんこっち来て」
月「? いいけど」ペタペタ 梨子「はいこれ、私から」
月「! これって昨日のお土産の……僕にあげるものだったの?」
梨子「うん、言葉で伝えるのもいいと思うけど」
梨子「それだけじゃ足りないかなって、月ちゃんも私もまだまだお互いに知らないことがたくさんあるから」
梨子「だから、それを押し退けて無理に仲良くする必要なんてないと思うの私は」スタスタ
梨子「今日はその一歩目」
月「梨子ちゃん……」
梨子「だから月ちゃん」
クルッ
月「!」
梨子「ちゃんと見ていてね、私のこと」フフッ
──
─
……
ブーーーーーッ
「Everyone, welcome to guilty space」
「I knock knock your heart!!」
月「とくと見せてもらうよ梨子ちゃん、僕のまだ知らない」
月「君の姿ってものをさ」
ーーーーーーーー
♪
梨子「最近変わりはじめてるって」
(New Romantic Sailors!)
梨子「やっと気づいてきたよね君も」
善子「セカイはいくつもあるんだ」
善子「見えないセカイがあるんだ」 善子・梨子・鞠莉「どんな冒険がしたい? だんだん速く」
鞠莉「時を超えそうな Hyper drive」
善子・梨子・鞠莉「始まるんだなって高まって」
鞠莉「手を握っちゃおうかな」
月「おぉ、やっぱり凄いなー…」
鞠莉「 ヨハネ♪ 」
ヨハネ「 ギラン 」
ヨハネ「 マリー? 」
マリー「 Oh, yes 」
ヨハネ・マリー「 リリー 召喚! 」
梨子「 Yes! 」
リリー「喰らえ! 梨子ちゃんレーザービーーーーーーーーーム!!」
月「! あっはははははははははは!!!」
ヨハネ・リリー・マリー「もっと冒険がしたい! ぐんぐん遠ざかる」
リリー「見慣れた街の Laser beam」
ヨハネ・リリー・マリー「戻らないよって囁いて」
マリー「肩抱いちゃおうかな」
ヨハネ・リリー・マリー「冒険がしたい 前例ないから」
ヨハネ「燃え上がるよ好奇心」
ヨハネ・リリー・マリー「だから君と 君と行きたい」
ヨハネ・リリー・マリー「白い彗星 黒い雪舞う中で踊ろう」
New Romantic Sailors, Sailors!
New Romantic Sailors, Sailors!
ワーーーーーッ!
月「…………ああもう、本当にズルいなあ」
月「毎回僕の予想を裏切ってくれるなんてさ」
月「本当に……ズルくて、身勝手で」テヲアゲ
梨子「!」フリフリ
月「嫌な女だよ、君は」ニコッ
── Guilty Kiss ミッション達成! ──
本日はここまでです
そして随分と時間がかかりましたが、この次からが以前落ちたところからの続きとなります
今までのように毎日更新するのは難しいかもしれませんがよろしくお願いします。
√ CYaRon!
ランペドゥーザ島 空港
千歌「おぉー! 着いたー!」
曜「いやーそれにしても凄かったね! 飛行機からの景色!」
千歌「ね! もう島の周り全部海だし、その海もなんていうかこうすっごいキラキラしてたし!」
千歌「おかげで眠気が吹っ飛んじゃったよー!」
曜「分かる! 分かるよ千歌ちゃん!」グッ
曜「私もね、ここに行くって決まったときから気になってる場所があって!」
千歌「そうなの? それってどこ!?」
キャッキャ
ルビィ「でも、まさか島があんなに小さいだなんて思いませんでした」
ルビィ「地図で見たときからちょこんとあっただけだけど、実際に見てみると本当に……」
亜里沙「ランペドゥーザ島の面積は20k平米、みんなの知ってる内浦よりも小さいからね」フワァ~…
亜里沙「まさに、神秘の島って感じだね」
ルビィ「亜里沙さん、おはようございます」ニコ
亜里沙「うん。ごめんね移動中に寝ちゃって」
ルビィ「いえ、全然平気ですから。私も色々考えごとしていましたし」
亜里沙「ありがとう、そう言ってもらえると私としては助かるよ」 ルビィ「とりあえずこれからどうしましょうか?」
亜里沙「今日のところは自由にしていいんじゃないかな、向こうはもうそのつもりだろうし」
亜里沙「ルビィちゃんも色々見て回りたいでしょ?」
ルビィ「それは……そうですけど、でも」
亜里沙「ん?」
ルビィ「少しくらいは人数集めのこと、考えたほうがいいのかなあって」
亜里沙「うん、そっちも確かに大事だよね」
ルビィ「私、早くなんとかしたいんです」
亜里沙「どうして?」
ルビィ「鞠莉さんには、助けられてばかりだから」
ルビィ「こんなときくらいは力になってあげたいんです」 亜里沙「……ふふっ、そっか」
亜里沙「でも大丈夫、人集めのことなら私に任せて。その辺りはちゃんと考えてきてるから」
亜里沙「だからルビィちゃんたちはお客さんを喜ばせることだけに集中して」
亜里沙「どうすれば集まった人たちの期待に応えられるようなライブが出来るのかを3人で話し合って、ね?」
ルビィ「は、はい。わかりました」
亜里沙「うん、じゃあ千歌ちゃんと曜ちゃんにも今言ったこと伝えておいてね」
ルビィ「……」ボーッ
亜里沙「? どうしたの?」
ルビィ「えっと、ごめんなさい少し意外だなって」 ルビィ「私、最初に会ったとき亜里沙さんのこと、ふんわりとした優しそうな人だと思っていて」
ルビィ「雪穂さんも『亜里沙は天然でちょっとボケてるところがあるからね』って言ってましたし」
亜里沙「え~!? 雪穂そんなこと言ってたの!? それを言うなら雪穂だって口うるさい真面目ちゃんだよ!」
ルビィ「あはは……でも今の亜里沙さんはなんか鞠莉さんみたいだなぁって」
亜里沙「そうなの?」
ルビィ「はい」
亜里沙「そっかあ、もしそうだとしたら……ちょっと嬉しいかな」クスッ
ルビィ「え?」
亜里沙「私もしっかりしてきたんだなあって自信がつくから」
亜里沙「お姉ちゃんのこと手伝いたいって思っていても、そういうのはなかなか自分では分かりにくくて……」エヘヘ
ルビィ(…………) 亜里沙「あ、そろそろ私たちも行かないと。二人ともそんなに離れてないから大丈夫だと思うけど……出来るだけみんな一緒にいないとね」
亜里沙「行こうルビィちゃん」
ルビィ「……」
亜里沙「ルビィちゃん?」
ルビィ「! あ……はいっ今行きます」
亜里沙「……」
ギュッ
ルビィ「!? あ、あの」
亜里沙「手を繋げばボーっとしてても大丈夫でしょ?」
ルビィ「ご、ごめんなさい」
亜里沙「あのねルビィちゃん、何か話したいことがあるならまた後で聞くよ?」
亜里沙「だって私、そのためにここにいるんだから」
ルビィ「え?」
亜里沙「ふふっ」ニコニコ
一方その頃
千歌「おーーーっ!! 飛んでる! ほんとに飛んでる!! なにこれ凄い!」
曜「いやー! 一度でいいからこのフライングボート乗ってみたかったんだよねー!」
千歌「確か、水の透明度? それがとっても高いからこうなるんだっけ?」
曜「そうそう!」
千歌「でも本当……海にいるのに空にいるみたいに感じるって凄すぎるよ!」
曜「ね! パンフレットで見たときからここは絶対行くって決めてたんだー!」
曜「実はちょっと憧れてたんだよね、こんな綺麗な海でクルージングするの」
千歌「ふーん、だからツアーじゃなくてわざわざレンタルしたんだ? 私はどっちでもいいけど!」
曜「んー……それもあるんだけど、ツアーだとほら。すぐ戻れないからさ」
曜「あんまり離れるとルビィちゃんや亜里沙さんに心配かけちゃうし」
千歌「あーそれもそうだね、うっかり…」
ザザー
千歌「……なんだか懐かしいなあ、前はこうしてよく二人で一緒に海を見てたっけ」
曜「あったね、そんなことも」
千歌「小っちゃい頃なんてさ毎日のようにボートに乗って」
千歌「曜ちゃんは免許取りたいー!ってそればっかり言って」
曜「あはは、あの時の私うるさかったよね」 千歌「高1のときなんて資格の勉強で遊んでくれないときあったし」ムスーッ
曜「で、でもそのおかげで今また2人でのんびり出来てるわけだし」
千歌「そうだけどさあ……」
曜「それにしてもよく覚えてるね千歌ちゃん」
千歌「ん-そうだねー、きっと覚えやすかったんだと思う」
千歌「あのときの私、それしかなかったから」 曜「千歌ちゃん……」
千歌「特になりたいものもなくて、やりたいこともなくて」
千歌「曜ちゃんや果南ちゃん、学校の友達と一緒に楽しく遊んでればそれでいっかなーとか考えながら中学まで適当に過ごしてて」
千歌「高校入ったら何かやってやる! って思って色々やってみたけど……これだ! ってものが見つからなくてさー」
千歌「もしかしたら一生このままなのかも、とか何回もなっちゃうくらいそれまでの私ってなんにもなかったんだよねー」アハハ
曜「……」
千歌「私、ちょっとは変われたのかな」
曜「……変わったよ、変わった」 千歌「本当に?」
曜「うん、前よりずっと素敵な女性になった」
千歌「えー何それ、そんな口説き文句みたいなこと言わないでよ」
曜「大目に見てよ、それに本当のことだし」
千歌「全くもう、曜ちゃんは相変わらずっていうか」
千歌「ま、そんな曜ちゃんだから信じられるんだけどね……帰ったら試しにちょっと男の人誘ってみようかな」
曜「それは絶対にやめて」 千歌「かーほーごー」
曜「良い人見つけてほしいだけだってば」
千歌「見つけても文句言うくせに」
曜「う……」
千歌「もーほんと過保護だよねー」
曜「だ、だって千歌ちゃんの場合はそれが将来を決める大事なものになるかもしれないわけだし……!」
千歌「言ってることお父さんじゃん」 千歌「でも、将来かあ……確かにそうかも」
千歌「鞠莉ちゃんだって今そのことで揉めてるわけだし」
曜「そうだよ、簡単に決めていいことじゃないんだってば」
千歌「ふ~ん、だとしても私は鞠莉ちゃんほど深刻でもないと思うけど、それに……」
千歌(多分だけど鞠莉ちゃんはもう──)
曜「それに、なに?」
千歌「うーんやっぱいいや! そんなことよりさ、そろそろ戻ろうよ!」
千歌「ほら、ルビィちゃんから連絡きてるし!」
曜「あっ本当だ。なになに……ホテル前で集合ね、了解であります!」 曜「ではでは全速前進ヨーソロー!」
千歌「ヨーソロー!」
ザザーッ!
曜「そういえばさっきのでちょっと思ったんだけど」
千歌「んー?」
曜「ルビィちゃんって将来……どうするんだろうね?」
曜「なんだかんだで来年卒業だし、そうなったらスクールアイドルはもう──」
千歌「……」
曜「やっぱり悩んでるのかな、色々と」 千歌「……もしそうだとしてもさ、私たちのやることはきっと変わらないよ」
曜「え?」
千歌「ルビィちゃんがこの先どんな道を選んだとしても、全力で応援するだけだよ。何があったって私たちはルビィちゃんの……Aqoursの味方だから!」
曜「……やっぱり千歌ちゃんかっこよくなったよね」クスッ
千歌「あーまたそういうこと言うー! ていうか褒めるならせめてかっこいいじゃなくて可愛いって言ってほしいんですけど?」
曜「ごめんごめん……って千歌ちゃんそんな願望あったの!?」
千歌「し、失礼な! 私だって一応ごく普通の女の子なんですけど!!」
曜「そ、そうだよね……だけど男の人と付き合うのはやっぱりまだ早いというか……」
千歌「だから過保護!!」
ワイワイ……
ザザーッ
─それから……
ホテルの一室
ルビィ「船上ライブ、ですか?」
亜里沙「うん、千歌ちゃんと曜ちゃんは今日体験したから分かると思うんだけど」
亜里沙「ここってボートツアーが凄く人気な場所なんだよね」
曜「そういえば……」
千歌「向こう側にはたくさん人がいたよね」
亜里沙「それで、明日からは私たちもこのツアーに参加……というより協力するような形で曲を披露させてもらえるよう交渉してきたの」
千歌「亜里沙さんすご!!」
ルビィ「いつの間に……」
亜里沙「えへへっ二人を待ってた間にちょっとね、じゃあ次はツアーの内容を説明するね? みんな地図を見て」トントン 亜里沙「まず参加期間は4日間、ツアーで乗る船は毎日変わるから集合場所の間違いには気をつけてね」
亜里沙「最初のルートはこんな感じ、営業時間は細かい違いはあるけどだいたい朝から夕方まで」
亜里沙「休憩を挟むとはいえ基本フルで出てもらうから体力にも気をつけるように」
亜里沙「あと、ライブのセトリはこっちに任せるって言ってたからそこは三人で相談し合って決めてね」
千歌・曜・ルビィ「はい!」
亜里沙「さてと、私からの説明はこんなところかな。みんなは他になにか聞きたいことある?」
曜「えっとじゃあ……このツアーは私たちだけで参加するんですよね?」
亜里沙「うん」
曜「私たちがライブをやっている間、亜里沙さんは何をするんですか?」 亜里沙「えーとね、お客さんの呼び込みかな」
千歌「呼び込み?」
亜里沙「うん、入口のところに船内と繋がるスピーカーが置いてあるんだけど」
亜里沙「私がそれを使って周りの人達にみんなの歌を聴いてもらうようにするの、ライブ中継みたいなものだね」
亜里沙「それで少しでも興味を持ってもらったら、そこから私が改めてツアーの宣伝をして次に乗ってもらうように呼び掛ける」
亜里沙「要はそのときツアーに参加していない人にもライブの曲を届けるのが私のお仕事かな、もちろん集客も兼ねてね」
千歌「……」ホエー
亜里沙「出来れば口コミも期待したいけど、流石にそこまでは当日やってみないことには何とも言えなくて……」
亜里沙「あとはビーチを見て回ったりもしたいな、どの辺りがライブをするのに最適な場所なのか調べておきたいし……うーん」ムムム 「…………」
亜里沙「うーん……って、ああごめんね! なんか一人でたくさん喋ったうえに考えこんじゃって!」ワタワタ
曜「い、いえいえ! 質問したのはこっちですから気にしないでください! それに黙ってたのは正直面食らったからといいますか……ね?千歌ちゃん」
千歌「え!?私に振るの!?」
亜里沙「もしかして、私が思っていたよりしっかりしてたから驚いちゃったとか?」
千歌「そうそれです! やっぱり仕事が出来る人は違うなーみたいな!」
曜「千歌ちゃんその答えはちょっとズレてるよ……」
千歌「感じ方は人それぞれだもん!」
亜里沙「ふふっ、そっかあ……皆考えることは同じなんだね」
曜「と言いますと?」
亜里沙「実はさっきルビィちゃんにも似たようなこと言われてね、だから今の二人もそう思ってるんじゃないかな~って」
千歌・曜「なるほど……」 亜里沙「でも今の私がそんな風になれたのは、やっぱりこの仕事に携わったおかげかも」
亜里沙「最初は全然上手くいかなくて、何をするにも遅かったんだけど、私にはお姉ちゃんっていうお手本がいたから」
千歌「確かに絵里さんってバリバリ仕事出来そうですもんね! なんといっても支部長ですし!」
亜里沙「出来るよーバリバリだよー、支部長だもん」
亜里沙「それで私ね、そんなお姉ちゃんをすぐ傍でしっかり支えられるような存在になりたくて」
亜里沙「だから意外でもなんでも、そういう風に私を評価してくれるのはとっても嬉しいの。私のなりたいものに近付けた感じがするから」
ルビィ「……」
曜「素敵なお話しですね」
亜里沙「うふふっ、ありがとう」 ルビィ「……あの、亜里沙さんは」
亜里沙「うん」
ルビィ「絵里さんとは違う仕事に就こうと考えたことはなかったんですか?」
亜里沙「え? どうして?」
ルビィ「高校を卒業してすぐ海外のほうでお仕事をするのって凄く勇気がいると思うし、それに──」
ルビィ「亜里沙さんは雪穂さんととても仲が良かったと聞いていたので、一緒の大学に行くことも出来たんじゃないのかなって」
ルビィ「ちょうど今の千歌ちゃんたちみたいに」
亜里沙「かもしれないね」
ルビィ「そう思ったら、聞いてみたくなって……どうして亜里沙さんは今のお仕事をやろうと思ったのか。その理由を」 亜里沙「……私も意外」
千歌・曜「??」
亜里沙「ルビィちゃんって雪穂みたいなこと言うんだね、今のルビィちゃんってばあの頃の雪穂にそっくり」クスッ
亜里沙「私に言ってることも、多分……自分自身について悩んでいることも」
ルビィ「……あの頃っていうのは」
亜里沙「高校生のときの話。卒業後の進路について二人で話し合ってたときかな」
亜里沙「雪穂から一緒の大学に行かない? って誘われて」
ルビィ「断ったんですか?」
亜里沙「うん"私は行くつもりないよ。海外でお姉ちゃんの仕事を手伝うから"ってね、そう言ったの」 ルビィ「それで……雪穂さんはなんて言ったんですか?」
亜里沙「わかった」
千歌「そ、それだけ!?」
亜里沙「雪穂は頭も良くてしっかりしてるし私との付き合いも長いから、色々察してくれたんだと思う」
亜里沙「でも自分の中で踏ん切りをつけたかったのかな。私の口から直接聞きたかったみたいで」
亜里沙「その一言の後に"でも"って付け加えてそれから」
亜里沙「──これだけ教えてほしい、どうして亜里沙は絵里さんのところへ行こうと思ったの?」
亜里沙「そう言った雪穂の目はいつになく真剣だったから……今でもよく覚えてるの」スッ
亜里沙「強い決意があるのに、どこか不安や迷いも混ざっているような……そんな顔してた。今のあなたみたいな」ユビサシ
ルビィ「…………」 亜里沙「私がお姉ちゃんのところへ行こうと思ったのは、そこに私のやりたいことがあったから」
亜里沙「私ね、スクールアイドルが好き。μ'sが大好き──そしてそれは」
亜里沙「当たり前のようでいて、実は私にとって一番大事なことなんだってそう気付いたの」
ルビィ「!」
亜里沙「そこからは自分のやりたいことに繋がるまでそんなに時間はかからなかった、そのために自分はどうするべきなのかも」
亜里沙「だから答えたの、雪穂と一緒に行くその道に私のやりたいことはないって」 曜「それで、そのやりたいことっていうのが……」
亜里沙「うん、今の海外でスクールアイドルを広めるお仕事」
亜里沙「あのときの私がμ'sに憧れてスクールアイドルを目指したのと同じように」
亜里沙「今度は私がきっかけを作りたい、その子たちの力になってあげたい。そう思ったの」
亜里沙「たとえそれで大切な友達と別れることになったとしても構わない、その先に叶えたいものがあるなら」
亜里沙「私はそこに行きたい」
亜里沙「雪穂はそんな私の言葉を黙って最後まで聞いた後、ようやく口を開いて」
亜里沙「そっか、頑張ってね。って私のことを送り出してくれた」
亜里沙(…………)
────
『亜里沙、強くなったね』
『だけど絵里さんのお手伝いをするんだから、亜里沙自身もしっかりしなくちゃ駄目だよ』
『亜里沙はちょっと抜けてて放っておけないっていうか、私がいないと……全然ダメなんだから……』
『…………ねえ、亜里沙』
『正直に言うと、私はやりたいこととかぼんやりとしたままだし……亜里沙みたいにまだはっきりとは言えないけど、さ』
『私なりに頑張ってみるよ、そしていつか……いつかさ』
『私もそんな風になってみたいな、亜里沙の言ったような……誰かの力になれる、助けになれる……そんな自分に』
『それでね、もしっ、その誰かが…スクールアイドルなら……亜里沙に自慢してやるんだから……っ!』
────
亜里沙(そのときの雪穂、珍しく泣いていたっけ)
亜里沙(そんな雪穂を見た私も、我慢できなくなって……) 亜里沙「そして音ノ木坂を卒業した後、私たちは離れ離れになった」
「…………」
亜里沙「これで私の話はおしまい。どう? 納得してもらえた?」
ルビィ「はい。ありがとうございました」
ルビィ「……亜里沙さんの言った通り……私、迷っていました」
ルビィ「自分の将来のことについて。それまでは練習やライブで手一杯で、今後どうするのかなんて漠然としか考えていなかったけど」
ルビィ「鞠莉さんの一件を見て、ちゃんと考えなくちゃって思ったんです……私は、鞠莉さんとは違うから」
千歌「…………」
曜(鞠莉ちゃんとは違う?)
亜里沙「詳しく聞いてもいい?」 ルビィ「鞠莉さんは今までの積み重ねもあるんだろうけど、ご両親からスクールアイドルに関わることを強く反対されています」
ルビィ「それに将来も小原家を継いでいくものだと、半ば既に決められています」
ルビィ「つまり、鞠莉さんがこれから歩まれる人生のレールは、もうほとんど定まっているということです」
亜里沙「本人の希望はひとまず置いておくして、現状はそうだね」
ルビィ「対して私はこれから進む道を自由に選択することが出来ます……そして」
ルビィ「私が何を言っても、どれを選んでも、絶対にみんなは否定しないだろうということも……もう、分かっているんです」
曜「──!」
ルビィ「黒澤家を継ごうと、アイドルになろうと、大学に進学しようと、あるいは亜里沙さんのように遠い地で働くことになっても」
ルビィ「きっとみんなは"それがルビィの決めたことなら"と私を受け入れるでしょう……特に、私の家族は」
ルビィ「これは自惚れでもなんでもなく、客観的に見た事実です」
亜里沙「どうしてそこまで言い切れるの?」 ルビィ「みんな私に優しいし、両親は私に幸せになってほしいからと今まで私の気持ちを尊重してくれました」
ルビィ「だけど、それ以外にも一つ後ろめたい理由があることも……私は知っています。詳しくは言えませんけど」
曜(それって……)チラッ
『だって私たちはルビィに対してかなり気を遣ってるでしょ、大なり小なり差はあると思うけど』
『全員あの子に負い目があるからどうしたって本人に強い口調でああだこうだと言えないじゃない』
千歌(多分このことだよね)コクリ
亜里沙「うん、じゃあそのことについては深く聞かない」
ルビィ「最後にあと一つ、理由として大きなものがあります。それは……今の私なら大丈夫だろうと皆が信頼してくれていること」 ルビィ「だから私は中途半端な形で決めたくなかった、私がその信頼に応えることでようやく」
ルビィ「まだ微かに残っている過去の後ろめたさが、完全に無くなると思ったからです」
ルビィ「そして皆だけじゃなくて私自身もその選択に納得がいくようにと、これまでずっと考えていました」
ルビィ「だけど……考えれば考えるほど、一体なにが正解なのか分からなくなって」
ルビィ「どれを選ぶのが正しいのか、あるいはその全てが違うんじゃないかと……決められないまま」 曜「ルビィちゃん……」
千歌(……本当は大丈夫だよって言いたいところだけど、今この言葉は完全に逆効果だ)
千歌(それに私たちはさっきそのことについて決めたばかりなんだ……ルビィちゃんがどんな道を選ぼうと。って)
千歌(ルビィちゃんの言ってることは、正しい。私たちは絶対に否定しない、出来ないんだよ)
亜里沙「なるほど……なんとなく分かったよ」
亜里沙「プレッシャー……だろうね。自分の信頼を裏切りたくない想いから来る」 ルビィ「さっき亜里沙さんが私と雪穂さんが似てるって言った意味、分かる気がするんです」
ルビィ「私も、安心したかった。あの人が亜里沙さんを誘ったのはそういう理由もあるんじゃないでしょうか」
亜里沙「その考えは間違ってないと思うよ。本当に仲良しなんだね、二人は」
亜里沙「でも私はその誘いを断った。今振り返ってみればあの頃の雪穂にとって残酷な返しだったのかも」
ルビィ「…………いいえ」
ルビィ「私はそうは思いません」
亜里沙「えっ?」
ルビィ「亜里沙さんの話を聞いて気付いたからです、重要なのは正しい選択をすることじゃない」
ルビィ「ううん、元から自分の未来に正解を決めること自体がおかしかったのかも」 ルビィ「同じなんだ、今まで私がやってきたことと何も変わらない」
『スクールアイドルはくだらなくなんてないわ!』
ルビィ「スクールアイドルを続けてきたことは決して無駄なんかじゃなかったと、そう思ってもらえるようなライブをするように」
ルビィ「ただ、自分の歩んできた道が間違っていなかったと思えるような生き方をすればいいだけなんだって」
ルビィ「そのことに改めて気付かされました、教えられました」
ルビィ「亜里沙さん、ありがとうございました」ペコリ
亜里沙「ふふっ、どういたしまして」 ルビィ「……正直、それで私のやりたいことがまだはっきりと決まったわけじゃありません。だけど」
ルビィ「まずはもう一度自分の好きなもの、大切なものと向かい合ってみることから始めたいと思います」
ルビィ「その先に私の本当にやりたいことがあると思うから」
ルビィ「これからのことはその後に考えます、そしていつか私も──」
ルビィ「亜里沙さんのような自分の生き方に胸を張れるような……」
ルビィ「そんな自分に、いつかなってみせます!」ニコッ
亜里沙「──!!」 ルビィ「なので改めてありっ……」
ガバッ
ルビィ「が!?」
千歌「偉いっ! 偉いよルビィちゃん!!」ギュウゥ
曜「うん! 本当によく言ったよ! 私感動した!」ギュッ
ルビィ「千歌ちゃん、曜ちゃん……」
バッ
千歌「私も決めた! ルビィちゃんを全力で応援するって!」
千歌「今まで通りじゃない! もしルビィちゃんが間違ったことをしたら違うよってはっきり言えるようになる!」
曜「後ろめたさなんて自分でなんとかするよ! だからルビィちゃんはそんなの気にしないで前だけ見ていてよ!」
曜「それで本当にやりたいこと見つけてよ、私たち……今はまだ軽い気持ちで大学に通ってるような頼りない先輩だけど」
千歌「絶対ルビィちゃんの頼りになる人生の先輩になるから!」
ルビィ「二人とも……」 ルビィ「ありがとう、大好き……!!」
千歌・曜「私も!!」
亜里沙「……ふ、ふふっ。あはははは!」
「!!?」ビクッ
千歌「えっ……あ、亜里沙さん」
曜「泣いて……!?」
亜里沙「ごめんね、ちょっと……ぐすっ、私、やっぱりまだ全然駄目だなあ」
亜里沙「でも良かった、あなた達のユニットに付いていけて」
亜里沙「あとね、ルビィちゃん」
ルビィ「は、はい」
亜里沙「こちらの方こそ、ありがとう。それとね──」
亜里沙「私もみんなのこと、大好きだよ!!」ニコッ
そして数日後……
ライブステージ
ワイワイガヤガヤ
亜里沙「さあみんな準備はいい?」
ルビィ「はい!」
千歌「もちろん!」
曜「万端であります!」
亜里沙「時間的にこれがここでやる最後のライブになると思う」
亜里沙「精一杯楽しませよう! それじゃあいくよ? いつもの!」スッ
千歌・曜・ルビィ「……」スッ
亜里沙「せーのっ頑張るぞー!」
「「「おーーーっ!!」」」
亜里沙[みなさん大変長らくお待たせいたしました。間もなくライブの時間になります]
観光客A[よっ、待ってました!]
観光客B[早く! 早く!]
亜里沙[それでは登場していただきましょう、CYaRon!の皆さんです! どうぞ!]
タンッ
千歌・曜・ルビィ「「「みんなー! こーんにーちはーーーー!!」」」
「「「Yeahーーーーーー!!!」」」
「ヨーソロ! ヨーソロ!」
「ミカン! ミカン!」
「ルビー! ルビー!」
曜「あははっ、皆ももう準備OKみたいだね!」
千歌「それなら早速! 張り切っていきましょー!」
ルビィ「私たちのライブ……スタートです!」 ーーーーーーーー
♪
千歌「ひとりだけを 目が追いかけてる」
千歌「周りに人がたくさんいても ひとりだけ」
曜「そんな恋を 今しているんだね」
曜「隠さなくてもいいんだよ 応援しちゃうよ 全力で」
「きっと伝わりますように」
亜里沙「ふふっいいなあ。本当に楽しそう」
亜里沙「……」
──
『ねえ亜里沙、あのとき私が言ったこと……覚えてる?』
『私ね、見つけたよ。亜里沙に自慢できる子』
『私のことを頼ってくれて慕ってくれて、それがすっごく嬉しくてね』
『合宿の生徒だからとか、年下の後輩だからとか、そういう理屈抜きで初めて』
『初めて……心の底から力になってあげたいって、そう思わせてくれた子なんだ』 『だからちょっとお願いしたくて、こんなこと頼めるの亜里沙しかいないから』
『私の代わりに見ていてほしい、あの子のこと。出来る限りでいいの』
『ライブの手伝い以外にも、何か悩み事があるなら相談にのってあげてほしい』
『仲間や友達に言いづらいことも、きっとあると思うから』
『ルビィちゃんのこと、よろしくお願いね』
『……え? 気にかけすぎ? そうかなあ、普通のことだと思うけど』
『うん、普通。当たり前のことだよ。だって──』 亜里沙(ねえ雪穂、あなたにも見せてあげたいな。今のルビィちゃんの姿)
亜里沙(とても楽しそうでキラキラしていて……でも今更かな?)
亜里沙(向こうでそんなルビィちゃんをたくさん見てきたから、惹かれたんだもんね)
亜里沙(雪穂も……そして私も)
「…でもそれはおまけだし」
「とにかく大事なのは 君のその恋だよ」
ルビィ「ぜったい叶えて!」
亜里沙「ありがとうルビィちゃん。私ね、あなたのおかげでもう一つ胸を張って言えるものが増えたよ」
……ぷっ、あははは!
ちょ、いきなりなに笑ってるの!
ごめんごめん、でもあの雪穂が……そっか。
む、亜里沙いま失礼なこと思ってるでしょ
そんなことないってば、寧ろ──私、ここに来て良かった。
え? なに突然……
だってそうでしょ?
亜里沙「たとえどんなに遠く離れていたって」
亜里沙「私たちは繋がっているんだよ。ずっと」
── CYaRon! ミッション達成! ──
なあ、あんたは知ってるかい? カプリ島のウワサ。
カプリ島名物の青の洞窟ってあるだろ? そこに関するお話さ。
何、知らない? そいつはいい。 せっかくウチに寄って行ったんだ、聞いてくれよ。
さて、それじゃあ早速……噂によるとその洞窟ではな
なんと"声"が聴こえたらしい、女の声が。 それもある時期を境にずっとだ。
何者かも分からず、どこからともなく響き渡る"声" いや、正確には"歌"か。
そう、歌なんだよ。 声だけかと思ったそれは旋律を奏で、一つのメロディーになって迷い人を誘う。
まるで子羊たちを導くシスターのようにな。そして
洞窟の青全てを包み込むかのようなその歌は、訪れたもの全員の胸に深く刻まれたって話だ。
……いいや、今は聴くことは出来ない。 なんでもそれはたった数日の出来事だったらしくてな。
それ以降、洞窟で歌を聴いたものは一人もいないんだと。
そんなもんだから本当にあったのかどうか疑わしいもんさ、だが不思議なことに
この話を聞いて嘘だと言うやつはあんたも含めて誰一人としていなかったんだ。
どうやら御伽めいた噂話は人を惹きつけちまうらしい、今じゃ恒例の土産話になるくらいさ。
その名も「青に溶ける人魚姫の唄"マーメイド・ブルー"」 誰が何を思ってそんな名前を付けたのか
この噂……いや都市伝説は、いつしかそう呼ばれるようになった。
その歌声は語り継がれるにはあまりにも短く、儚い。 されどもそれは──
美しい。
√ AZALEA
カプリ島 マリーナグランデ
絵里「さ、着いたわよ」
果南「へえ~、ここがカプリ島かあ」
花丸「広くて大きいずら~!」
ダイヤ「随分と活気づいた場所ですわね。様々な施設があちらこちらに……」 絵里「みんな、目を奪われるのは分かるけどまずはホテルに向かいましょう」
絵里「観光はその後でね、プランもちゃんと練ってきてるから安心して」
果南・花丸「はーい」
ダイヤ「今日一日、ですか?」
絵里「ええそうよ、というより」
絵里「この島に滞在している二日間は、観光だけで終わらせるつもり」 ダイヤ「なっ……!?」
絵里「人集めはその後ナポリに戻ってから、ダイヤもここに来るまでの間に大勢の人で賑わっているところを見たでしょ?」
絵里「ざっと予想してみたのだけど、向こうの方が人が多いうえに早く獲得出来そうなのよね」
絵里「だから本番はそっちに回してまずは……」
ダイヤ「ま、待ってください! 今の話が本当なら、そんな悠長に構えている場合ではないでしょう!」
ダイヤ「たとえ絵里さんでも先程の発言は看過できませんわ!!」
絵里「どうして? 私最初に言ったわよ、遊ぶことも大事だって」
ダイヤ「だとしてもです! 約束の日までは残り九日、ただでさえ時間がないというのに!」
ダイヤ「そのうちの二日を観光のためだけに消費するなんて!」
絵里「……」 花丸「ダイヤさん……」
果南「ちょっとダイヤ、落ち着きなよ」
ダイヤ「っ……だいたい、観光ならばやるべきことをやって時間に余裕が出来てからでも遅くはないはずです」
ダイヤ「最初のうちからやることではありません、寧ろ……そのせいで時間が足りず何も成し遂げられなかったら」
ダイヤ「一体どうするおつもりなんですか」
ダイヤ「この一件は鞠莉さんの今後を左右する重要なもの、私たちもその一端を担っている以上失敗は許されない」
ダイヤ「貴女にとっては他人事かもしれないけれど……」 絵里「…………」
花丸「ダイヤさん待って」
果南「花丸ちゃんの言う通りだよ。ダイヤ、それ以上はいけない」
ダイヤ「…………あ」
ダイヤ「ご、ごめんなさい。私つい……軽率でした」 絵里「いいのよ二人とも、ダイヤの言ってることは正しいわ。確かに私は部外者だしね」
絵里「ただ一つ、誤解しているようだから認識を改めてほしいのだけど」
絵里「ダイヤ、別に私はダイヤが思っているほど軽い気持ちで提案しているわけじゃないわよ?」
絵里「時間がないから悠長に構えてられない、やりたいことなら後で余裕が出来た後にやればいい。それは確かにそう」
絵里「達成を第一に考えるなら、初めから目的の為に動くのは当然よね。何も間違っていないわ」
絵里「でもそれは、あなた達が普段通りに活動できていたらの話」 「──!!」
絵里「その点で言えば、今のあなた達はとても平常ではないわね。理由は色々あると思うけど」
絵里「それくらいは昨日出会ったばかりの私でも分かるわ。特にダイヤ」
絵里「私も迂闊だったけど、ここに来てから尚のこと心に余裕がなくなってきてるわね」
ダイヤ「……それはっ」 絵里「責めるつもりはないわ、大事な親友の今後に関わることなんだから」
絵里「彼女のために必死になるのは全然可笑しいことじゃないもの」
絵里「でもやっぱりね、無理をするのは良くないと思うのよ」
ダイヤ「無理……」
絵里「そう、心の乱れはパフォーマンスの低下にも繋がる。知ってるでしょ?」
絵里「それとも過去にそんな苦い経験をしたことはないのかしら?」
果南・花丸「……」
ダイヤ「……いいえ」 絵里「無理っていうのは本当によくないわ、たとえ自分は精一杯やってるつもりでも気持ちだけ先走って空回りして」
絵里「何も上手くいかない。そのことにまたヤキモキして思考は更に単調になっていく」
絵里「そうなったらもう負の連鎖が続くだけよ。心が擦り減るだけでそれに見合った成果はあまりにも……少ない」
絵里「それだけは、はっきりと言える」
ダイヤ「絵里さんにも、そういった経験があると?」
絵里「ええ、昔の話だけどね」 ダイヤ「……つまりまとめると」
絵里「仮にそうなってしまうくらいなら、いっそ初めのうちにそうした不安要素を取り除いちゃいましょうってこと」
絵里「まずは気持ちを落ち着かせて、心に余裕が出来れば周りの見方も変わってくるわ」
絵里「そして色んな場所に見て触れて、この国の良いところをたくさん知って、あなた達が好きになっていけば」
絵里「そんなあなた達の気持ちに、その想いに、きっと周囲も応えてくれるはずよ」
「…………」
絵里「それにね、私は信じてるのよ。みんなのこと」
ダイヤ「え?」 絵里「穂乃果と雪穂ちゃんから聞いたわ、日本でのあなた達の活躍」
絵里「確かに今回のノルマは達成するには少し厳しい条件かもしれないけど」
絵里「あなた達三人がいつも通りの力を出せれば、問題なく乗り越えられると私は思ってる」
絵里「だからダイヤももっと自分を信じなさい」トンッ
ダイヤ「っ」ドキ
絵里「あなた、強いんだから」
絵里「ね?」ニコッ
ダイヤ「…………分かりましたわ」
ダイヤ「絵里さんの案に、私も賛成します……先ほどは失礼いたしました」
絵里「ありがとう、ダイヤ」フフッ 絵里「さ、そろそろ足を進めましょう。今日はたくさんいいもの見せてあげるから」
クルッ
絵里「ちゃんと付いてきてね」フッ
果南・花丸「……か」
果南・花丸「かっこいい(ずら)~っ……!!」
ダイヤ(…………不思議な人)
ダイヤ(あの人の言う通り、私とは昨日会ったばかりのはずなのに)
ダイヤ(昔から私のことを知っているかのように語りかけてくる、自然と耳を傾けたくなってしまう)
ダイヤ「……絢瀬 絵里さん」ボソッ
あなた、強いんだから。
ダイヤ(その言葉、本当に信じてもよいのでしょうか……)
それからしばらくして……
夜 アナカプリ内ホテル
サーッ
ダイヤ「…………」
「眠れないの?」
ダイヤ「果南さん」
果南「やっほ。ベッドにいないと思ったらこんなところにいたんだ」
ダイヤ「少し夜風に当たりたくて」
果南「そっか、気持ちいいもんねここの潮風は」ヨット
ダイヤ「はい、心が落ち着きます」
果南「なるほどね、絵里さんに言われたことまだ実践してたわけだ」
ダイヤ「…………あのですね」 果南「分かってるって。冗談だよ冗談」
果南「もうすっかり元に戻ったし、楽しかったもんね」
ダイヤ「そうですわね、新しい発見がありましたし……なによりいい経験になりましたわ」
ダイヤ「当たり前のことですが、世界にはまだ私の知らないことが山のようにあるんですのね」
ダイヤ「危うく私はその機会を失うところでした」
ダイヤ「…………」ハァー
果南「ふ~ん?」ジッ ダイヤ「なんですか」
果南「気にすることないよって言いたいところだけどさ、本当どうしちゃったの」
果南「今日のダイヤ、らしくなかったよ。まあ、ある意味ではらしくもあるけど……真面目さが暴走したって感じだし」
果南「けど些細なことまで含めると、それ昨日からずっとだよね?」
果南「今度はなにで悩んでるの?」
ダイヤ「……本当に、お節介な人ですわね」 果南「いやいや、だからお節介じゃなくて世話焼きって「果南さん」
ダイヤ「私は今まで、何をやってきたのでしょうね」
果南「何って……」
ダイヤ「知ったような顔をして、悟った風なフリをして、口を開き動いてみせては」
ダイヤ「その実背を向けていただけ、私は……直面した問題に真正面から向き合ったことがない」
ダイヤ「ただ黙って待っていただけです、拭い去ってくれるその人を、いつか解決してくれるその時間を」
果南「……でもそのおかげで変わったことだってある、みんなの歯車が噛み合うきっかけだって作れたじゃん」
ダイヤ「たとえそうだとしても、私は……自分が情けない」
ダイヤ「皆が歩みを進める中、私だけが取り残されているようで」
ダイヤ「なのに、分かっていても未だに待ちぼうけているのです」
ダイヤ「あの頃の、情景を」 果南「……気のせいだよそんなの、それか逆に気にしすぎているだけ」
果南「少し神経質になってるだけだって、ね? 今日はそういう日なんだよ」
果南「もう休もう、きっと疲れが溜まってるんだよ。それで明日に備えよう」
果南「私、ダイヤのそういう悩みとかまだ全部分かったわけじゃないけどさ。また吐き出したいことがあるなら相談に乗るから」スッ
果南「ほら、戻ろうダイヤ」ニコ
ダイヤ「…………」 ダイヤ「そうでしょうか」トッ
ダキッ
果南「ちょっ……突然なに」
ダイヤ「分からないなんて嘘。果南さん、あなたなら理解できるはずです……だって」
ダイヤ「あなたと私は同じでしょう? あなたも私も来るはずのない誰かを、未だにずうっと待っている」
果南「─!!」 ダイヤ「いつか私はこう言いましたね、重い女は嫌ですかと」
ダイヤ「そしてあなたはこう返しました、沈むのには慣れていると」
ダイヤ「ならばあえて今一度問いましょう、果南さん」
ダイヤ「あなたは私と一緒に二人取り残されてくれますか? 深い底まで沈み行く私の、導になってくれますか?」
果南「ま、待ってよダイヤ……私はっ……」
ダイヤ「そう怯えることもないでしょう」ギュッ
ダイヤ「どうですか? 同じ弱さを持っている者同士、たまには溺れてみるのも……」
果南「っ……やめてっ!!」
ドンッ!
ダイヤ「っぅ……!」
果南「あ……ご、ごめん! 大丈「やめてください」
果南「え……?」
ダイヤ「今のでいいんです果南さん……これでいい」
ダイヤ「私に手を差し伸べるのは、もうやめてください」 果南「なん、で……そんなこと言うのさ」
ダイヤ「あなたは優しすぎます、思えばずっとそうでした」
ダイヤ「幼い日に初めて出会った頃から、ずっと傍にいてくれた」
ダイヤ「あの子を失ったときも、Aqoursを結成するときも、ルビィを巡る騒動に発展したときも、内浦から離れたときも」
ダイヤ「私の味方でいてくれた。私を守ってくれていた」
ダイヤ「今だって、私のことを気遣ってくれる」
ダイヤ「そんなあなたに私は甘えていたんです」 果南「…それの何が駄目なの」
ダイヤ「このままではいずれ私はその優しさに依存しきってしまう。果ては束縛し、一生手放さないかもしれない」
ダイヤ「この意味が分かりますか?」
果南「だから、分からないって」
ダイヤ「いい加減私から解放されるべきなんですよ。全てが手遅れになる前に」
果南「──!!」 ダイヤ「果南さん、あなたにだってあなたの望む未来があるはずです。それを私に構うことで……棒に振りたくはないでしょう?」
果南「……なに……それ」
果南「なにさそれ、さっきから黙って聞いてれば……まるで私がダイヤにそうさせられてたみたいな言い方してっ……!」
ダイヤ「…………」
果南「私はっ誰かに強制されたわけじゃない! ずっと自分の意志で! 私が好きでやってきたことだ!」
果南「今までだって! これからだって!」
ダイヤ「……ならばもう答えは決まっているはずです」 果南「はあ!?」
ダイヤ「だって」
ダイヤ「あなたはさっき私を拒絶したじゃありませんか」
果南「!!」
ダイヤ「依存しようと迫る私を、その手で押し返した。あなたが誰に操られてるわけでもないというのならば」
ダイヤ「それこそが、紛れもない今のあなたの意志なのでしょう」
ダイヤ「ならばその気持ちに従ってください、今の果南さんには待ってくれる人がいるんですから」
果南「まって、くれる人……」
──果南さん。
果南「!……ぁ……」
ダイヤ「」フッ
ダイヤ「これからはその方を、大切になさってください」
果南「…………」
ダイヤ「……さて、いつも以上に思いの丈をぶつけてしまったので少し、疲れましたわ」
果南(待ってよ)
ダイヤ「いえ、疲れていたのは元からなのかも。確かに今日の私はらしくありませんでした」
果南(違う、違うんだよ)
ダイヤ「少なくともこんな話をするつもりではなかったし、ましてやるべきでもなかったというのに……これでは平常でないと言われても仕方ありませんわね」
果南(待ってくれてる人がいる……それは、確かにそうかもしれない)
ダイヤ「でもね果南さん、今私が言ったこと……その全てに嘘偽りはありません」
果南(でもそれが、ダイヤを放っておいていい理由になんて、なるわけないじゃん)
ダイヤ「そんな今の、私の胸の内を……あなたなら分かってくれますわよね?」
果南(嫌だ、やめてよ。なんでそんなズルいこと言うの)
ダイヤ「これが最後の我儘です、どうかもう、そっとしておいてください」
ダイヤ「私なら大丈夫ですから。おやすみなさい」
果南(嘘つき。どうしていつもそうなの、自分より誰かを優先するの)
果南(言ってやりたいのに……声が、出てこない)
果南(……いいや、もう分かってるんだ自分でも。言っても意味がないことくらい)
私とダイヤは……同じだ。
自分で自分に言い聞かせたところで、ダイヤ≪私≫の心に……響くわけがないんだと。
果南「……く……うぅ……」
ピロン
果南(だから、こんなに)スッ
聖良:おはようございます。なんて、冗談です。そちらはもう夜ですか?
聖良:すみません、昨日の話でつい心配になって……何かあればいつでも連絡ください
聖良:待ってますから
果南「せい、ら……わたしは……っ」
果南(こんなに、胸が苦しい)
果南「いゃ、なんだ……こんな自分が……」ポロポロ
ずっと近くにいるのに、絶対に手が届かない。
ずっと近くにいたから、何の意味も為さない。
私とダイヤは同じだ。同じだから
果南「うぅ……ああぁぁ……」
変えられないんだ。
ここまでレスがつかないss初めて見たわ
誰も読んでないのに黙々と書き続けるのって虚しくならんのか
翌日、早朝
絵里「おはようみんな、昨日はよく眠れたかしら?」
ダイヤ「ええ、ぐっすりと。そちらは?」
花丸「マルはちょっと……絵里さんと一緒の部屋は緊張して」
絵里「あら、そうなの?」
花丸「あはは……果南さんは?」
果南「私は……まあまあかな。うん、それくらい」
花丸「ふうん? それより絵里さん、ちょっといいですか?」
絵里「なにかしら」
花丸「今マルたちが向かっているのって、昨日絵里さんが言っていた……」
絵里「そう、もっと良いところ。経由でバスも使うから疲れが取れてないならそこで休んでてもいいわよ」
絵里「でも乗るまでは、一応頑張りましょうか」クスッ
バス内
果南・花丸「……」スゥースゥー
絵里「寝ちゃったわね二人とも」
ダイヤ「そうですわね」
絵里「ねえダイヤ、この機会に聞いておきたいことがあるのだけど」
ダイヤ「なんでしょうか」
絵里「昨日、果南と何かあったの?」
ダイヤ「…なぜそんなことを聞くのですか?」
絵里「目の辺りがね、ちょっと気になったから」 ダイヤ「……すみません」
絵里「どうして謝るの?」
ダイヤ「先日心に余裕を持てと、そう言われたばかりなのに」
ダイヤ「彼女にそれを揺らがすようなことをしてしまいましたから」
絵里「ダイヤが? 果南に?」
ダイヤ「はい……」
絵里「何か理由でもあったの?」
ダイヤ「いいえ、危機感が足りていなかったから注意をしたとか、その手の類のものではありません」
ダイヤ「ただ私が現状に関係のないことを、勝手に……」 絵里「そうじゃないわ」
ダイヤ「え?」
絵里「今私たちが置かれている状況に、じゃなくて」
絵里「私はあなたの感情に聞いているの」
ダイヤ「……」
絵里「理由、あるんでしょ?」
ダイヤ「どうして」
絵里「だって何の気もなしに人の心を弄ぶような子には見えないもの」
ダイヤ「…………」
絵里「話してみなさい?」
ダイヤ「……私は」 絵里「うん」
ダイヤ「ただ報われてほしいと、そう思っているだけなんです」
ダイヤ「鞠莉さんは勿論ですが、何よりも彼女に……果南さんに」
ダイヤ「幸せになってほしいんです」
ダイヤ「私がいつまでも傍にいては、それはきっと出来そうにもないから」
絵里「私にはそんな風に見えなかったけど」
ダイヤ「そうですね。絵里さんだけではなく他の人もそう感じ取るでしょう」
ダイヤ「自惚れかもしれませんが、おそらくそのことに気が付けるのは私くらいしかいないでしょうし」 絵里「特別な間柄ってことかしら?」
ダイヤ「果南さんとは、幼い頃からの付き合いですから」
ダイヤ「故に分かってしまうんです、心境の変化というものが。たとえ当の本人が無意識だとしても、私には……」
絵里「ダイヤ……あなた」
ピンポーン
ダイヤ「そろそろ到着するみたいですわね、二人を起こさなければ」
絵里「……」
ダイヤ「申し訳ありませんがお話はまたの機会に」
絵里「そうね、私も手伝うわ」
ダイヤ「助かります」 果南「うーん、よく寝た」ノビー
絵里「スッキリした?」
果南「はい、おかげさまで」
絵里「花丸ちゃん、良かったらどうぞ。糖分補給」スッ
花丸「わあ……ありがとうございます!」
絵里「さてと、ここまで来たら目的地はすぐそこよ。ちゃんとついてきてね」
絵里「あっ、そうだわ。ねえ、この中で外国語を話せる人いるかしら?」
果南「……えーっと、すみません、私はその辺りまだ勉強中で……」
花丸「マルも……」モグモグ 絵里「ダイヤは?」
ダイヤ「流石に実践での会話形式となると、現地であるイタリア語で話すのは難しいですが……」
ダイヤ「英語なら、多少の覚えはあります。それで良ければ」
絵里「充分よ。なら会話の翻訳と解説はダイヤに任せてもいいかしら?」
ダイヤ「私がですか?」
絵里「そう、関係者に色々と話を通すのはもちろん私がやるわ。当然ね、でも」
絵里「その会話の意図を汲み取って二人へ伝えるのはあなたの役目」
絵里「出来る?」
ダイヤ「……」
ダイヤ「やります」
絵里「いい返事ね」ニコッ 絵里「さ、着いたわよ」
果南「ここってもしかして……」
絵里「そう、カプリ島名物青の洞窟。さて天気はいいけど入り口の様子はどうかしら?」
花丸「入口? どういうこと?」
果南「私が教えるよ花丸ちゃん。この場所については私も色々と調べたことあるから知ってるし」
花丸「そうなの?」
果南「うん。でね、この洞窟は他と違って入り口が狭いから、少しでも水位が上がると入れなくなっちゃうみたいでさ」
果南「だから、せっかく来たのに無駄骨に終わったって観光客も多いんだって」
花丸「へえ~」
絵里「そういうこと、ちょっと聞いてくるから待ってて」
絵里「Mi scusi」
「Si」 絵里「~~~~~~」
「~~~~~~」
果南「花丸ちゃん、何言ってるかわかる?」
花丸「ううん、なんにも……」
果南「だよねえ。私だけじゃなくて安心したよ……ダイヤはどう?」
ダイヤ「入場に関しては全く問題ないみたいです、水位にしても今日は長いこと維持しそうだと言ってますわね」
果南「へえ、ツイてるね私たち」
ダイヤ「どうやらそのようです。船頭さんも私たちは運がいいと仰っていますし」
ダイヤ「それに小舟に乗れるのは4人まで、日本人の観光客にしては用意が周到で手際もいいと感心されてます」
果南「それはまた、大絶賛じゃん」 果南「でも……凄いなあ」
花丸「絵里さんのこと?」
果南「うん、私もダイビングのガイドとかやってたから分かるんだけど」
果南「案内する側に好印象を抱かせるのって割と大事だったりするんだよね」
果南「やっぱりこっちとしても相手していて気分がいいし、ついついサービスしたくなるっていうかね。顔も積極的に覚えようってなるし」
花丸「じゃあこれも人集めを有利に進めるための?」
果南「いや、どうだろう……何か意図があってなのか、それとも常日頃やってるから今回もそうしただけなのか、分かりかねるところではあるけど」
果南「どっちにしても凄いと思うし、出来る人って絵里さんみたいな人のことを言うのかなあって考えてたらつい、ね」
花丸「そっか、果南さんでもそんな風に思うんだ」
果南「ん? どういうこと?」
花丸「だってマルから見たら果南さんも十分頼りになるお姉さんだから」
果南「あははっ、そうかなあー。まあそう言ってもらえるのは嬉しいんだけどさ」
果南「…でも、花丸ちゃんにそう言われるほど、出来た人間じゃないよ私は」
花丸「?」 絵里「お待たせ。すぐ乗せてもらえるって」
ダイヤ「どうやら陸路組は私たちが今日初のお客様みたいで」
花丸「陸路?」
果南「向こう側に船が見えるでしょ? あれは港からそのまま海を渡ってここにきた人たちで、そっちは海路組って言われてるの」
果南「メリットとしては私たちが利用したバス移動よりも断然早く到着出来るってところかな」
花丸「なのにマルたちのほうが先に入れるの?」
果南「こっちのほうが洞窟に近いからね、入口なんて横見たらすぐだし。それに向こうは人数の問題もあるから」
果南「飲食店で例えたらわかりやすいかな? お店が混んでるときに大人数で来るとテーブル席が空くまで待たされたりするけど」
果南「一人だけだと後から入店してもカウンター席で済むからって理由で先に案内されるのとか見たことない? あんな感じ」
花丸「あぁ~、成程ずら!」 絵里「ずいぶん詳しいのね」
果南「小さい頃から海が好きなんです、私」
果南「外からの景色も、海中の世界も、特にダイビングとか楽しくてオススメですよ?」
絵里「それはいいわね。いつか案内してもらいたいわ」
絵里「でも今はこっちを楽しみましょう? ほら、乗って乗って」
ダイヤ「そんなに気になるのですか?」
絵里「あら分かる? 実は私も実際にこの目で見るのは初めてなのよ」ニコ
絵里「ダイヤ、あなたも早くこっち来て」
ダイヤ「え、ええ」
絵里「Per favore!」
「Va bene!」
スイー
果南「うわっ、実際入ってみるとギリギリもいいとこだね」
花丸「本当に狭いんだ、この入口……」
ダイヤ「これは入れる確率が決して高くないというのも頷けますわ」
絵里「ええ、だけど見て三人とも」
ダイヤ・果南・花丸「!!」
絵里「凄く綺麗だわ……こんなに綺麗で青く染まった海は、見たことがない」
絵里「それくらい神秘的で、美しく感じるわね」 果南「……」
ダイヤ「果南さん?」
果南「いや、ごめん。私なんかじゃこの良さを言葉にすることは出来ないなあって」
果南「でも、うん。ちょっと泣きそうだ」
ダイヤ「ええ、そうですわね」
花丸(……ああ、まるで)
花丸「宝石みたいだなぁ……」ボソッ
絵里「え?」
ダイヤ「……」
果南「花丸ちゃん……」
花丸「そうだ果南さん、マル、ちょっと気になっていたんだけど」 果南「あ、ああうん、なに?」
「──♪ ──♪」
花丸「他の小舟から歌が聴こえてくるんだけど、あれは?」
果南「んー、そんなに深い意味はないんじゃないかなあ。ただ気分がいいから歌ってるってだけで」
果南「この光景も特別珍しいことじゃないしね、割とここではよくあることだよ」
花丸「そうなんだ」
果南「歌ってみる? 花丸ちゃん」
花丸「マルが?」
果南「そんな顔してたよ。ねえダイヤ、絵里さん」
ダイヤ「悪くない提案だと思いますわ」
絵里「問題ないと思うわよ。花丸ちゃんの歌、是非私にも聴かせてほしいわ」 花丸「…………」
ね! 歌ってよマルちゃん!
花丸(あの時は、月明かりの下で待っていたけれど)
花丸(今は太陽の光が、この海を青く照らしている)
花丸(どっちも暗い場所なのに……どうしてだろう)
花丸(とっても綺麗で、どうしても気持ちを伝えたくて)
花丸(だから)
だってもったいないもん!
花丸「……そうだね」クスッ
花丸「それじゃあ」 花丸「──♪ ────♪」
ダイヤ「! この声……」
「」ピタッ
果南(他の人たちの歌声が、止んだ)
絵里「素敵ね、歌声が洞窟全てに染まっていくみたい」
絵里「まるで、この青い海があの子を受け入れてくれるかのように」
ダイヤ・果南(…………)
絵里「あら? ちょ、ちょっと詩的すぎたかしら?」
ダイヤ「いえ、すみません。つい懐かしかったものですから」
絵里「懐かしい?」
ダイヤ「はい……」
ダイヤ(彼女のあの顔を見るのは、いつぶりでしょうか) 果南「……昔はよくああして歌っていたんですよ。花丸ちゃんは聖歌隊にいたことがあるので」
絵里「そうなのね、通りで声が綺麗だと思ったわ」
果南(もっとも、それを聴いていたのは私じゃなくて)
絵里「それに今の花丸ちゃんには、ライブのときに感じたものとはまた違った印象を受けるわね」
絵里「優しく包み込むだけじゃなくて、慈しみがあるって言えばいいのかしら?」
絵里「あとは……」
絵里(それでいて、どこか儚いような……心地良いのにキュッと胸をつまされるこの感覚)チラッ
絵里「繊細」
ダイヤ「それも、触れることに躊躇いが生まれてしまうほどの」
絵里「ダイヤ」
ダイヤ「周りの皆さんもそれを肌で感じ取ったのでしょう、和やかな空気が一変して神聖なものと化したのは」
ダイヤ「つまりそういうことでしょう」 絵里「うん、私もそう思うわ」
ダイヤ「ただ、少々評価が過剰になってしまったとも思いますが」
絵里「そうかしら? 今の彼女にはピッタリな表現だと私は思うけど」スッ
絵里「di nuovo」
「Con piacere」
絵里「フフッ、船頭さんも気に入ってくれたみたいね。このままもう一周するわよ」
絵里「花丸ちゃんも、あと少しだけ付き合ってくれる?」
花丸「────♪」
絵里「……無粋みたいね」 果南「花丸ちゃん、完全に入り込んでるね」
ダイヤ「はい。本当に、あの頃そっくり」
ダイヤ「……真っ直ぐですわね、花丸さんは。昔から何一つブレていない」
ダイヤ「いちばん大切なものも、伝えたい気持ちも」
ダイヤ「羨ましいわ」
果南「! ……ここが潮時なのかもしれないね」
ダイヤ「果南さん? 今何か」
果南「いいや、ただの独り言」
果南(ねえダイヤ、確かに昨日ダイヤが言った通りだよ)
果南(ここに来て問題に向き合うべきなのは、存外私たちの方かもしれない)
それから
「Splendida!!」
「Molto bella!!」
パチパチパチパチ!!!
花丸「え、えーっと……絵里さん、これは一体」
絵里「分からない? みんなすっかり花丸ちゃんの歌の虜になっちゃったのよ」
花丸「マルの……あの、出来れば応えてあげたいんですけど返事とかどうやったら」
絵里「そうねえ、普通にサンキューでも通じるとは思うけど……せっかくだし」
絵里「ちょっと耳貸して」
ヒソヒソ
絵里「~って言ってみて、自信をもって手を振りながら」
花丸「わ、わかりました」コク
花丸「ラ リングラチオー! スペロ ディー リベデルティー プレストー!」フリフリ
ワーーーーーーッ!!!
花丸(良かった、言葉の意味は分からなかったけどみんな喜んでくれたみたい)ホッ 果南「反響すごいね」
ダイヤ「はい。まさか初めての歌唱でここまで惹きつけるとは」
絵里「いい意味で予想外だったわね、それこそ今日以降の予定を変更したくなるくらいには」
ダイヤ・果南「?」
絵里「花丸ちゃんもちょっと来て、これからのことについて話しておきたいことがあるの」
絵里「あなた達の魅力をこの島のみんなに、より多く知ってもらうためにもね」
ダイヤ「急な計画の変更ですけど、問題はないのですか?」
絵里「完璧とは言い切れないわね。でもそれは最初に立てた計画も同じ」
絵里「だから、事が上手く進むように努力する。常に最善の一手を考える」
絵里「そこだけは、信じてほしいわね」
ダイヤ「…聞かせてください」
絵里「ありがとう。それじゃあ早速だけど……」 ダイヤ「──成程、午前はこちらで私たち……特に花丸さんの歌を聴かせ」
果南「午後からはナポリに移動してライブを行う、と」
花丸「内容は分かったんですけど、二つの場所を行き来するのはどうしてですか?」
絵里「主に相乗効果が狙いね、別々の場所で歌を披露することによって集客率を上げようって魂胆よ」
絵里「一ヶ所だけだとその場だけで完結しまう可能性もあるけど、それが二つなら話はまた変わってくる」
絵里「つまり求心力ね。ナポリにいる人はここカプリ島へ、逆にカプリ島の人はナポリへ足を運ばせるように仕向けたいの」
絵里「今しかやってないって触れ込みもすれば、食いつきもいいでしょうし」
ダイヤ「わざわざ海を渡ってまで私たちに会いに来る……ともなれば、そのためにはまず」
ダイヤ「ギャラリー自らそう動かざるを得ないほどの魅力が私たちのライブにあることが大前提となるわけですが」
絵里「そう。偶然立ち寄ってそこで見るのと、自分から関心を持って見に行くのとでは意味合いが全然違うでしょ?」
絵里「特に後者の方が自分にかかる労力が多い分、評価に信憑性と説得力が増すし」 花丸「えーと、つまり……」
ダイヤ「こちらが聴いてもらうために向かうのではなく、あちらから私たちのために来てもらう」
ダイヤ「そのうえで私たちが観客の皆様に満足させるものを提供し続ければ、評判が広まり」
ダイヤ「自然と客足も増え、名も知られていくようになる。そのための往復スケジュール」
ダイヤ「で、いいんですわよね?」
絵里「完璧よ、流石ね」
花丸「マルたちがどれだけ頑張れるかが重要ってことだね」
果南「でも確かに、私たちの最終目標はスペイン広場に観客を集めることだし……それくらい出来ないと話にならないかも」
ダイヤ「果南さんの言う通りですわ、いわばこれはその為の予行演習みたいなもの」
ダイヤ「今後のためにもやっておくべきです」 絵里「納得してくれたみたいね、なら明日以降はこのオーダーでいくわよ」
絵里「みんな、しっかりね」
ダイヤ・果南・花丸「はい!」
絵里「さてと、話もまとまったし時間もまだ余裕があるから……今からナポリの方に移動するわよ」
絵里「今日のうちに出来るだけ街の特徴や雰囲気を掴んでほしいし」
ダイヤ「下見ということですか」
絵里「ええ、そんなところね」
絵里「それが終わったら次に備えてホテルでゆっくり休みましょう」
絵里「後は各自好きなようにやってもらっても構わないから」 果南「あの、それなら」
果南「今夜の部屋割り、私が絵里さんのところにお邪魔してもいいですか?」
絵里「え? それは全然いいけど、どうしたの急に」
果南「少し話したいことがあるので」
絵里「……わかったわ。二人もそれでいいかしら?」
ダイヤ「私は大丈夫です」
花丸「ならマルは今日はダイヤさんと一緒の部屋だね」
ダイヤ「よろしくお願いしますわ、花丸さん」
花丸「こちらこそずら」
ダイヤ「…………」
花丸「ダイヤさん?」
ダイヤ「あ、いえ別に」 果南「行きましょう絵里さん」
ダイヤ「……あの、花丸さん」
花丸「なに?」
ダイヤ「私も少し話したいことがあるので、付き合ってもらえませんか?」
ダイヤ「ここにやって来てからずっと、どうにも落ち着けないのです」
花丸「マルでよければ」
ダイヤ「わけを聞こうとはしないのですね」
花丸「それは後ででいいから、別に今必要だとも思えないし」
ダイヤ「……」
花丸「違った?」
ダイヤ「……いいえ」
ダイヤ「助かります」
────その夜
絵里「で、私に話って何かしら?」
果南「率直にいうとダイヤのことです」
絵里「……ふーん、果南がダイヤのことで私にねえ」
絵里「ヤキモチとかかしら?」
果南「茶化さないでください、真面目な話なんです」
絵里「ごめんなさい、ちょっと確かめたくてね」
絵里「些細なことなのか、根深いものなのか。果南が言ってるのは後者のほうよね?」
果南「……」
絵里「まず結論から聞きましょうか」 果南「ダイヤを、あの子を助けてあげてください」
果南「私には、無理なんです」
絵里「助ける? なにから?」
果南「自分自身の過去のしがらみからです」
果南「あの子はずっと後悔を背負って生きている、今でも変わらずに忘れることなく」
果南「枷となって、あの子自身を苦しめている」
絵里「……」
果南「きっと今ダイヤを救える可能性があるのは、貴女しかいない」
果南「私も、花丸ちゃんも……手を差し伸べたところで、きっと」
果南「……っ……」
絵里「…よく分かったわ。それ以上先は言わなくていいから」 絵里「果南、私もダイヤのことは気になっていたわ。個人的に放っておけない気持ちもあるし」
絵里「あなたがそこまで切実なら尚更、見て見ぬふりをすることは出来ない」
果南「! じゃあ」
絵里「でもね、その前にまずはこれだけ聞かせてほしいの」
絵里「もし仮に、私がダイヤを救い出せたとして」
絵里「じゃあ残った貴女は一体誰に助けてもらうの?」
果南「え……?」
絵里「今日ダイヤが言ってたのよ、果南には幸せになってほしいって」
絵里「私がいると出来そうにもないからって」
果南「─!!」
絵里「似た者同士ね、あなた達。それでいて……」 絵里「……まあいいわ、とにかく果南」
絵里「その部分をはっきりさせないことには、先に進むことは出来ないわよ」
絵里「彼女さえよければ……なんて、もしそんな自己犠牲ありきの考えでお願いしようものなら」
絵里「私は首を縦には振らない。絶対にね」
果南「……」
絵里「それにね、誰かに助けを求めるのは別にかっこ悪いことじゃないわよ?」
絵里「寧ろ人によってはその言葉を待っているかもしれない」
果南「!」
絵里「あなたの本音を、ありのままの弱さを。打ち明けてくれるまで待っている人が」
絵里「果南がダイヤのことをそんな風に思っているようにね」
果南(なんだ、そんなのもう)
果南(一人しかいないじゃん)
……♪ …♪
聖良「……果南さん? はい、おはようございます」
『うん、おはよう。ごめん朝早くに』
聖良「それは大丈夫ですけど、どうしたんですか」
『いや、ちょっと愚痴? っていうか悩み? なのかな、とにかく吐き出したくてさ』
『聖良に聞いてほしいこと、たくさんあるんだ』
聖良「……たとえば?」
『ダイヤに振られたとかね』
聖良「!!」
『あれ、ちょっと待ってどうなんだろう……振ったの方が合ってるのかな?』
『自分から棒に振った、みたいな? うん、これがしっくりくるかも』
聖良「本当なんですか、今の」
『まあね』 『でも、正直に言うなら、やっぱり自分の手で助けたかったよ』
『ただ好きな女の子一人守ることが出来ればそれだけでいい』
『そんな漫画のヒーローみたいな存在に私もなりたかったけど』
『どうやら私はそんな器じゃなかったみたい。ははっ』
『ここぞってところで譲っちゃうんだから、そりゃそうだよね』
聖良「……」
あなたも、譲ってる人?
『昔の私はもっと勇気があったと思うんだけどなあ……』
聖良「果南さん」
『なに?』
聖良「その昔の話、もっと詳しく聞かせてもらえませんか」
『え、でも聖良はもう』
聖良「もっと深いところまで知りたいんです」
『……理由を聞いてもいい?』
聖良「……どうしても」
聖良「譲れないものが出来たんです」
『……わかった。信じるよ』
『ていうか信頼してなかったら、そもそもこんなこと打ち明けないしね』
聖良「ふふっ、それもそうですね」
『でも話すとしてもどこから切り出したものか……そうだなあ……』
『やっぱり、今よりずっとか弱いあの子に出会ったときから。かもね』
『そう、あれは確か────』
花丸「……」
「お待たせしました」
花丸「ダイヤさん」
ダイヤ「寒くはなかったですか?」
花丸「ううん、大丈夫」
ダイヤ「なら良かった」
ダイヤ「…………」
ダイヤ「今日、花丸さんが歌ったあの歌」
花丸「うん」
ダイヤ「あの子に向けたものだったのでは?」
花丸「やっぱりダイヤさんには気付かれちゃうか」
ダイヤ「私もよく耳にはしていましたから」
ダイヤ「サファイアほどではないにしても、ね」 花丸「……」
ダイヤ「だから少し懐かしくなってしまいまして」
花丸「そうだね。あの頃は三人でよく一緒に遊んでた」
花丸「マルと、ダイヤさんと、最後にアオちゃん」
花丸「何をするにしてもいっつもアオちゃんが真ん中で」
花丸「マルはそんなアオちゃんについていくばっかりで」
ダイヤ「私はあの子に振り回されてばかり」
花丸「でも、本当に楽しかった」
花丸「毎日があっという間で、どうしてこの子といるとこんなに」
花丸「時間の流れが変わっちゃうんだろうって不思議に思った時もあって」
ダイヤ「そうですわね」
花丸「ダイヤさんは」
ダイヤ「はい」
花丸「マルと昔の話をしにきたの?」
ダイヤ「……ええ、とは言っても」
ダイヤ「今の私の場合、彼女が中心の話になりそうですが」
花丸「それって……」
ダイヤ「花丸さんが思い浮かべてる通りですわ。今でもはっきりと覚えています」
ダイヤ「そう、あれは……」
ちょうど夜空に浮かんでいる青白い満月が
とても綺麗に映る日のこと
月明かりの下で目の前にひとり佇む彼女の姿、その瞳が
私にはまるで────宝石のように見えた。
──── 約15年前 ────
内浦、海岸
ザッザッ
「……ぐすっ……うぅ……」
「わたし……どうすれば」
「あーやっぱりそうだ、見間違いじゃなかったんだ」
「!?」
「ねえねえ、あなた大丈夫? どこか悪いの?」
「……っ」ゴシゴシ
「…どちら様ですか」
かなん「私? 私はかなん=A幼稚園年中、4さい」
「……」
かなん「あなたは?」
ダイヤ「……ダイヤ。黒澤ダイヤ、4歳です」 かなん「へー、同い年だ! あとそのダイヤって名前なんだ?」
ダイヤ「そうですけど」
かなん「ふ~ん……」ジーッ
ダイヤ「な、なんですか」
かなん「いやーダイヤの目、すっごくきれいだけど透明じゃないし変だなーって」
かなん「その目のいろってエメラルドとかじゃなかったっけ? あんまりおぼえてないけど」ジーッ
ダイヤ「し、知りませんっ」フイッ
かなん「なーんだ! あははっ、ダイヤもしらないんだー」
ダイヤ「……」ムッ
かなん「まあそんなに怒らないでよ、わたしたちまだ子どもなんだし、知らないことあるのなんて当たりまえじゃん?」
ダイヤ「何を分かった風なことを」
かなん「これね、まえにお父さんが私にゆってくれたんだー」
ダイヤ「あ、そうですか」 かなん「ちょっとは元気になった?」
ダイヤ「はい?」
かなん「だってさっきまで泣いてたからさ」
ダイヤ「な、泣いてなどいませんわ!」
かなん「でもほら口のところにゴミもついてるし……」ムニムニ
ダイヤ「失礼な! これは黒子です! ほ・く・ろ!!」
ダイヤ「ゴミ呼ばわりしないでいただけます!?」バッ
かなん「あれ、そうなの? ごめんね」
ダイヤ「全くもう……」 かなん「じゃあさ、ダイヤはどうしてここにいるの?」
ダイヤ「それは……」
かなん「それは?」
ダイヤ「……そういうあなたこそ、何故ここに一人でいるのですか。もう夜も遅いというのに」
かなん「さんぽ。お父さんといっしょに来てたんだけど、ダイヤがこっちにいるのが見えたからきになって」
かなん「お父さんならあっちでまってるよ、ダイヤは?」
ダイヤ「え?」
かなん「いっしょじゃないの?」
ダイヤ「……いません、家を出てきましたから」
かなん「なんで?」 ダイヤ「……つい、カッとなってしまって」
かなん「カット?」
ダイヤ「怒ったということです」
かなん「あー。なんでダイヤはおこったの?」
ダイヤ「私には妹がいるのですが」
かなん「なんて名前?」
ダイヤ「サファイアです」
かなん「へー、サファイアちゃんかあ」
ダイヤ「言っておきますけど目の色は関係ありませんからね?」
かなん「へーい。それで?」
ダイヤ「今日、あの子が熱を出してしまって」
かなん「うん」 ダイヤ「だから、お父様もお母様もつきっきりで……」
ダイヤ「今日だけじゃなくて妹が出来てから、ずっとサファイアのことばっかりで……」
ダイヤ「わたくしのこと、見てくれなくてっ……」
ダイヤ「私だって、習い事、頑張ってるのに……!」
かなん「……」
ダイヤ「……そう思ったらつい、飛び出してしまったんです」
かなん「…そっか」 かなん「ダイヤはさ」
ダイヤ「はい」
かなん「サファイアちゃんのことがきらいなの?」
ダイヤ「そんなことはっ!」
かなん「じゃあ、おうちにかえりたいってこと?」
ダイヤ「あ、当たり前です! でも」
ダイヤ「お父様とお母様がなんて言うか……」
かなん「だいじょうぶじゃない?」
ダイヤ「簡単に言わないでください!」
かなん「そうかなあ、たぶんダイヤのお父さんとお母さんもさ、ダイヤのこときらいになってないとおもうよ?」
ダイヤ「!!」
かなん「かえろうよダイヤ、ね?」
かなん「きっとしんぱいしてるよ」
ダイヤ「…………はい」 かなん「よーし、じゃあついてきて! お父さんのところにあんないするから!」スッ
ダイヤ「……」
かなん「ん、どしたの?」
ダイヤ「いえ、なんでもありません」ギュッ
かなん「いこっか」
ダイヤ「ええ」
トテトテ
ダイヤ「……先程」
かなん「なにー?」
ダイヤ「あな……かなんさんの目を見て思いましたの」
ダイヤ「宝石みたいだなと」
かなん「へー、なにいろ?」
ダイヤ「ウルトラマリンですかね」 かなん「マリン、ってたしか海のことだよね?」
ダイヤ「よく知ってますわね、しかし海そのものの名詞ではなく……」
かなん「ウルトラな海かー! いいね! わたしにぴったり!!」
ダイヤ「聞いていますか?」
かなん「ありがとうダイヤ!!」ニコッ
ダイヤ「……はあ、もういいです」クスッ
かなん「っ」ドキ
ダイヤ「かなんさん?」
かなん「ううん、はじめてダイヤのわらったかお見たからさー。かわいいなあーって」
ダイヤ「かわっ……!? からかわないでください!!」
かなん「なんだよーほめてるのにー……あ、みえてきた」
かなん「おーいお父さーん!! やっぱりいたよー、おんなのこー!」ブンブン
「おお、そうか。偉いぞー果南」ナデナデ
かなん「えへへっ……」
ダイヤ「……」 「この子がそうか?」
かなん「うん、ダイヤっていうんだって」
「ダイヤ……?」
ダイヤ「こ、こんばんは。ダイヤと申します」ペコ
「はいこんばんは、小さいのにしっかりしてるねえ」
「ところでダイヤちゃん、もしかしてダイヤちゃんの名字は黒澤だったりしないかな?」
ダイヤ「え、ええそうですけど」
「やっぱり黒澤さんのところのお嬢さんか」
かなん「お父さんしってるの?」
「ああ、黒澤って言ったらここじゃ有名だからな」
「送る準備するからちょっと待ってろ、あと黒澤さんの家にも電話入れてくる」
かなん「うん」 ダイヤ「あ、あの!」
「ん?」
ダイヤ「この度はありがとうございました。かなんさんにも助けていただいて……」
かなん「とーぜんっ」
「ははっ気にしなくていいさ、おじさんも果南もそういうやつなんだ」
ダイヤ「で、でも何かお礼をしなくては」
「ダイヤちゃんは、果南のことが好きかい?」
ダイヤ「え? あ、はい」
「なら、これからもこの子と仲良くしてやってくれ。それだけでいい」
ダイヤ「!」
「まあ海馬鹿すぎるのが玉に瑕だがな。はっはっは!」
かなん「いったなー! わたしより海バカのくせに!」
ダイヤ「…………ふふっ」クスクス
これが私たちの最初の出会いだった。
そして、それから一年ほどたったある日
偶然か、あるいは必然か
「ねえ、あなた何してるの?」
「え?」
はたまた運命なのか
「……だれ?」
「わたし? わたしはねー」
「サファイアっていうの!!」
まるでそうなることが決まっていたかのように
彼女たちはお互いを見つけ出した。
「あなたは? 名前なんていうの?」
空のように晴れやかで、海のように澄み渡った曇りなき色と
「マルは────」
大地の片隅にひっそりと咲き続ける、健気で可憐な一輪の花を。
…………
黒澤父「────ボランティア活動?」
ダイヤ「はい、本日幼稚園の先生から私たちに」
ダイヤ「困っている人を見かけたら助けてあげましょうねと」
黒澤母「まあ素敵、それでダイヤは何かお力になれたんですか?」
ダイヤ「それが……どうやら皆さんを遠慮させているようで……手伝おうにも」
黒澤母「あらあら」
黒澤父「成程、それでか」
黒澤母「貴方、どうにかなりませんか?」
黒澤父「そうだな……」フム
黒澤父「少し待ってなさい」 サファイア「なになにー? なんのおはなしー?」ヒョコッ
ダイヤ「ボランティアのお話です」
サファイア「ぼらん?」
黒澤母「お姉ちゃん、他のお家のお手伝いをするんですって」フフッ
サファイア「おてつだい!? はーい! 私もやりたーい!」バッ
ダイヤ「ああもう、またなのね……」
黒澤母「いいじゃないですか、お姉ちゃんがやるなら何でもやりたがるんですよ」
ダイヤ「そんなことを言われましても……」
サファイア「ねえねえ、お姉ちゃん」クイクイ
ダイヤ「なに?」
サファイア「今やってる習いごとぜーんぶつまらないから」
サファイア「私そろそろ楽しいのやりたい!」ニコ
ダイヤ「んまあーっ!! 自分からお揃いにしておきながらなんと勝手な!」 黒澤父「おーい戻ったぞー……って」
ダイヤ「あのねサファイア! 人様の家にお邪魔しに行くのですからもっとしゃんとしなさい!」
ダイヤ「決して遊びにいくわけではないのよ!」
サファイア「えー、そうなのー?」
ダイヤ「そう、分かったら……」
サファイア「でもいくー!」
ダイヤ「ああもう! 勝手になさいな!」
サファイア「やったー! お姉ちゃんだいすきー!」ダキッ
黒澤父「またやってるのか」
黒澤母「サファイア、ついていきたいんですって」クスクス
黒澤父「元よりあの子ひとりを置いていくわけにもいかんしな、興味があるのは寧ろ好都合だろう」
黒澤母「で、肝心のお手伝いのほうは」
黒澤父「ああ、決まったよ。国木田さんのところがそういうことなら是非人手を借りたいと快諾してくださった」 黒澤父「というわけで今からご挨拶に行くぞ」
黒澤父「ダイヤ、サファイア! 出かける準備をしなさい」
ダイヤ「分かりましたわ」
サファイア「わーいお出かけだー!」
サファイア「ねえねえお父さんどこいくのー?」
黒澤父「お寺だよ」
サファイア「おてら?」
ダイヤ「サファイアにはぜったい似合わない場所」
黒澤母「ふふふ、サファイアは私たちと違って賑やかですからね」
サファイア「なあにそれ?」
黒澤父「ふっ、行ってみれば分かるさ」
黒澤父「────さ、着いたぞ」
サファイア「わーおっきいー! ひろーい!」
ダイヤ「ほらもう静かに出来ない」
「あらあら随分元気なお嬢さんだこと」
サファイア「こんにちはー! くろさわサファイアです!」
「こんにちは、挨拶出来てえらいねえ」ニコニコ
黒澤父「本日は話を聞いてくださりありがとうございます」
「いえいえ、こちらとしても負担が減るのは助かりますから」
「やはり寄る年波には勝てませんので」
サファイア「ねえおばあちゃん、わたしあっちにいきたい! いってきてもいーい?」
ダイヤ「ちょっとサファイア!」
「ええ、いいわよ。転ばないように気を付けてね」 サファイア「わーい! ありがとー!」トテテテッ
ダイヤ「~~っ……あの子は本当に……!」
「あなたはさっきの子のお姉さん?」
ダイヤ「は、はい。黒澤ダイヤと申します」
「そう。じゃああなたがお手伝いをしにきてくれたのね、ありがとうねえ」ナデナデ
ダイヤ「い、いえ……そんな大したものでは」
ダイヤ「あの、それでお手伝いの内容というのは?」
「ダイヤちゃんにはお寺のお掃除を手伝ってほしいの」
ダイヤ「掃除……いつもはお二人でやっているんですか?」
「いいえ、孫にも手伝ってもらっているわ」 ダイヤ「お孫さん、ですか?」
「ええ、大人しいけど素直ないい子でねえ」
ダイヤ「その方は今どこに? 挨拶をしておきたいのですが」
「本当にしっかりしてるのねえ。そうねえ、マルちゃんなら」
「きっと自分のお部屋で本でも読んでるんじゃないかしら」
ダイヤ「そのマルちゃんという方は読書家なのですね」
「ええ、生まれつきね。逆にあまり目立つことは好きじゃないというか」
「自分を主張するのが苦手でねえ」
ダイヤ「どちらかと言えば大人しいと?」
「そういう子なの」
ダイヤ「素晴らしいですわ! 勤勉で慎ましい。是非お近づきになりたいものです」
「あらそう?」
ダイヤ「はい、誰かに見習わせたいくらいです」
ダイヤ(と、いっても……流石に正反対すぎて)
ダイヤ(相性が良いとも思えないけど)ハァ
サファイア「あははは! ひろーい! 茶色まみれでおもしろーい!」タタタッ
サファイア「みたことないのいっぱいだー」タタッ
サファイア「…………あれ?」キュッ
サファイア「あそこだけあいてる」
サファイア「……うーん」
サファイア「はいっちゃおーっと! えへへ」
「…………ん」
「くぁ……あれ……?」
「マル、ねちゃってたのかな?」
「じっちゃん? ……ばっちゃん?」
「どこ……?」
「…………」
「いいや、本のつづきみよう」
「えーっと……」ペラペラ
「ごめんくださーい!!」
「!!?!?!?」ビクゥッ
サファイア「だれかいますかー?」トテトテ
(え!?え!?え!?だれだれだれ!!?)
(声はちっちゃい女の子みたい、かわいい……でも)モゾッ
(おっきなこえ、主張のつよそうなしゃべりかた)
(こわい)
モゾモゾ……
サファイア「あ、なんかうごいてる!」
(ば、ばれちゃった!!)
サファイア「そこだー!」バッ
フワッ
サファイア「──!」
「……あ……」
サファイア「…………」
シーン
(あ、あれ……? 急にしずかに……)
(じーっとこっちをみて……も、もしかしてマルの顔がへんだったり!?)
サファイア「…………」
(……ううん、それよりも)
(さらりとした髪の毛、大きくてまあるい瞳、まっしろな肌、ととのった顔だち……)
(こんなに綺麗な子、みたことない……)
(まるで、まるで絵本のお話に出てくるおひめさまのような────)
「ねえ」
「ずらあっ!?」 サファイア「あなた、何してるの?」
「え?」
サファイア「」ニコッ
「え、えっと……ほ、本を、よんでて」
サファイア「ふーん、おもしろいの?」
「お、おもしろいよ」
サファイア「そっかー、でも文字がいっぱいだねー」
「……あの、マルもききたいことがあるの」
サファイア「なあに?」
「あなたは、だれ?」 サファイア「わたし? わたしはねー」
サファイア「サファイアっていうの!!」
「さふぁいあ……」
(さふぁいあ。宝石のなまえ……それが、この子のなまえ)
サファイア「あなたは? 名前なんていうの?」
はなまる「マルは……くにきだ、はなまる」
サファイア「はなまる……じゃあマルちゃんだ!!」
ギュッ
はなまる「えっ」
サファイア「ねえマルちゃんきいて! わたしね! いますっごいドキドキしてるの!」
サファイア「マルちゃんがとってもとっても可愛かったから!!」
はなまる「え、えぇ!?」
サファイア「いまでもずっとおとがするの! ドクン、ドクンって!」
サファイア「きっと一目ぼれっていうのだとおもう!」
サファイア「わたし、マルちゃんのことがダイスキになったみたい!」
はなまる「は、はじめて会ったのに?」
サファイア「うん!!」
はなまる(どうしてこのこは、こんなに真っ直ぐに……気持ちを伝えられるんだろう)
はなまる(すごいなあ……なまえよりもずっと)
はなまる(キラキラしてみえる)
サファイア「だからねマルちゃん! わたしとお友だちになろう! それでね」
サファイア「私のしょうらいのおヨメさんになって!!」ギュゥ
はなまる「……っ」ドキ
サファイア「おへんじは!?」
はなまる「…………は」
はなまる「はい……」
はなまる(え?)
サファイア「やっっったーーーーーー!!! やったやったーーー!!」
はなまる(ええ……?)
サファイア「これからよろしくね! マルちゃん!!」ニコッ!
はなまる(えええぇぇぇーーーーーーーー!!??)
はなまる(な、なんでーーーーーーーー!!?)
黒澤父「……では明日から、宜しくお願い致します」
「はい、お待ちしております」
黒澤母「ダイヤ、しっかりね」
ダイヤ「はいお母様……しかしサファイアは一体いつまでうろついているのでしょうか」
ダイヤ「もうそろそろ帰る時間だというのに」
黒澤母「そんなに心配することもありませんよ。ほら、噂をすれば」
サファイア「おーい! お姉ちゃーーん!!」
ダイヤ「サファイア! あなた今までどこをほっつき歩いて……?」
はなまる「…………」コソッ
ダイヤ「そちらの方は?」 「おやマルちゃん、来たのかい」
ダイヤ「マルちゃん? 彼女がその」
サファイア「うん、さっきお友達になったの!」
ダイヤ「へえ、仲良くなれたのね。私はてっきり……「でね!!」
サファイア「わたし、マルちゃんとけっこんするってきめたの!」
ダイヤ「あなたとは相性が良くないから懇意になれないものかと……」
ダイヤ「…………」
ダイヤ「は?」
「あらあらまあまあ」
黒澤母「結婚とは、また大胆な発言ですね」
黒澤父「ああ、今日はいつにもまして突拍子もないことを言うな。どうした」 ダイヤ「あ、あのーサファイア? お姉ちゃん、ちょっとよく聞こえなかったのだけど」
ダイヤ「もう一回言ってくれないかしら?」
サファイア「だーかーらー、マルちゃんをわたしのしょうらいのおヨメさんにするんだってば!」
ダイヤ「……またあなたは勝手なことばかり!」
サファイア「かってじゃないよ?」
ダイヤ「嘘おっしゃい!」
サファイア「ねー、マルちゃん! そうだよねー?」
はなまる「え、え~っと」
ダイヤ「そら見なさい、返事に困っているではありませんか」
ダイヤ「サファイアのこと、どうせ勢いのまま押し切って無理やりにでもはいと言わせたのでしょう?」
サファイア「ぎくっ……」
はなまる(すごいなあこの人、ぜんぶ当たってる) サファイア「で、でもでもマルちゃんいやだって言ってなかったもん!」
ダイヤ「申し出る暇もなかったということでしょう? あなたが急かすから」
サファイア「えうっ…」
ダイヤ「はあ……マルちゃん、でしたわよね? ごめんなさいね妹が迷惑をかけて」
はなまる「あ、いいえ。マルはべつに……」
ダイヤ「ほらサファイア、帰りますわよ」
サファイア「やだ! わたしきょうはマルちゃんのおうちにお泊りするってきめたんだから!」
はなまる「!」
ダイヤ「はあ!?」
サファイア「だからここにいる!」
はなまる「…………」
ダイヤ「~~っ! 次から次へとワガママを言って……いい加減に……!」
はなまる「あ、あの! まってください!」
ダイヤ「?」 はなまる「マルからサファイアちゃんに言ったんです。えっと、その」
はなまる「明日からじっちゃんばっちゃんのお手伝いをするってきいたから」
はなまる「それなら、マルのお寺に泊まっていってほしいって……」
ダイヤ「……本当なのですか? マルちゃんが今言ったことは」
サファイア「ほんとだよ! だからわたし、きょうはマルちゃんとずっといっしょにいるの!」
はなまる「……!」コクコクッ
「ほぉ、この子が自分からそんなことを……」
「珍しいわねえ」
ダイヤ「……」
はなまる「あの、だからその、サファイアちゃんを……」
ダイヤ「…全く、サファイアの周りにはなぜこんなに優しい人ばかり集まるのか」ハァーッ
ダイヤ「どうしましょうお父様」
黒澤父「そうだな……」 黒澤父「国木田さん、不躾なお願いで申し訳ありませんが今日一日娘の面倒を見てはもらえませんか」
「ええ、構いませんよ」
「他ならないマルちゃんの希望ですから」
黒澤母「ありがとうございます。サファイア、ちゃんといい子にするのよ?」
サファイア「はーい!」
黒澤父「ではよろしくお願いします。帰るぞ二人とも」
黒澤母「はい、貴方」
ダイヤ「マルちゃん、嫌なときは嫌だとはっきり言っていいですからね」
はなまる「え、はい」
サファイア「あー! なにそれーっ!」
ダイヤ「あなたは何を言い出すかわかったものじゃないもの」
サファイア「ちぇー、お姉ちゃんってばいっつもそうなんだから」ムス
黒澤父「ダイヤ、行くぞ」
ダイヤ「それじゃあまた明日ね、マルちゃん」ニコ はなまる「行っちゃったずら…」
サファイア「ずら?」
はなまる「あっ……!」バッ
サファイア「ずらってなーに?」
「方言っていってね、場所ごとで違うお喋りの仕方みたいなものだよ」
サファイア「へえー、そうなんだー」
はなまる「や、やっぱり変だよね……」
サファイア「ううん、かわいい!」
サファイア「マルちゃんかわいいずらー! なんちゃって、えへへっ!」
はなまる「!」
はなまる(マルと同じくらいの子でそんなこと言われたの、はじめて……ずら) サファイア「どうしたの?」
はなまる「ううん、ありがとうサファイアちゃん」ニコ
サファイア「??? あっそーだ! それよりマルちゃん!」
サファイア「えほんのつづき!!」
はなまる「あ、そうだったずら……あの、じっちゃん、ばっちゃん」
「いってきなさい」
「お夕飯の時間になったら呼ぶから」
はなまる「うん、じゃあ行ってくるずら」
はなまる「いこ、サファイアちゃん」
サファイア「んー、ちょっとまって!」 サファイア「マルちゃんのおじいちゃんおばあちゃん!」
「はあい」
「どうしたのかな?」
サファイア「えっと、きょうはおせわになります!」
サファイア「よろしくおねがいします!」ペコリ
「そうかそうか」
「よろしくねえ」
サファイア「うん! じゃあいってくるねー!」
タタタッ
「……自由な子かと思ったが、ちゃんと相手に対しての弁えもあるんだな」
「マルちゃんのことといい、サファイアちゃんって面白い子ねえ」 最近あまり更新できず申し訳ありません
明日にはなんとか続き上げます
サファイア「あーおもしろかったー! つぎはなににしよっかなー!」パタン
はなまる「えっと、これなんてどう?」
サファイア「かわいいー! お花がいっぱいだね」
はなまる「うん、マルこの絵本のお話がだいすきで」
はなまる「はなしに出てくるお姫さまも、サファイアちゃんに似てるから……」
サファイア「わたしに? どれ?」
はなまる「えーっと、この子……ずら」
サファイア「へー! お花にかこまれててたのしそう!」
サファイア「こんなおひめさまだったらなってみたいなあー! あっ、でも……」
サファイア「わたしのゆめはアイドルになることだし……うーん」
はなまる「あいどる?」 サファイア「そう! アイドル! マルちゃんはしらない?」
はなまる「うん。マルそういうのに詳しくないから」
サファイア「じゃあわたしが教えてあげる! あのね、アイドルっていうのは」
サファイア「かわいいお洋服をきて、みんなの前でうたって、くるくるおどって、それで見ているひとをえがおにしてくれるの!!」
サファイア「いつもキラキラしていてとってもすごいんだから!」
はなまる「きらきら…」
サファイア「ちょっとみてて!!」
タン タタンッ
サファイア「うたって~~♪ おどって~~♪」クルクル
サファイア「あかるくげんきに」ピョンッ
サファイア「きめポーズ! じゃんっ!」ビシッ!
はなまる「…………!!」ワァッ
サファイア「どう? どう!? これね、テレビのまねじゃないの! わたしがかんがえたんだよ!」
サファイア「すごいでしょ!」ニシシ はなまる「うん……すごいずら」
はなまる「あと、あとね! マル……」
サファイア「なになに? あっもしかしてわたしがかわいかったとか!?」ズイッ
はなまる「えっ? う、うん、かわいかったよ…?」
サファイア「えへへっ、そっかーわたしかわいいんだー……」テレテレ
サファイア「うん、やっぱりマルちゃんに言ってもらえるとぜんぜんちがう!」
サファイア「ありがとうマルちゃん!」ギュッ
はなまる「えーっと、どういたしまして?」
はなまる(ま、また勢いに押されちゃった……マルが言いたかったのはそれじゃなかったのに)
はなまる(サファイアちゃんのこと、かわいいって思ったのはほんとうだけど、でも)
はなまる(一番さいしょに出てきたのはそうじゃなくて……こんなに)
はなまる(こんなに自分にじしんがあって、堂々としていて)
はなまる(はずかしいとか、笑われたらどうしようとか、そんな不安がぜんぜん見えなくて)
はなまる(ひたすら一生懸命に、だけどすっごく楽しそうで)
はなまる(そんなキラキラした姿がとてもまぶしくて……かっこよかった)
サファイア「よーし、かえったらまた練習しないと!」
はなまる(サファイアちゃんはかわいいって言われたいみたいだから、べつに言わなくてもよかったのかな)
サファイア「でも今はこっちー! マールちゃん! つづきよもっ!」
はなまる(だけど、きっとあなたなら、そんなことを考えずにすぐに言っちゃうんだろうね)クスッ
はなまる「いいよ、じゃあここのページから……」
はなまる「そんなある日、お姫さまのもとへ一人のたびびとがやってきました────」
ごめんねサファイアちゃん、でも、マルにとってこれは絶対だから……言うね。
アイドルとかじゃない、あなたが何になりたいと思っているかなんてマルには関係ないの
いつもまっすぐでキラキラしている、そんなあなただから
すきになったんだよって。
今はこころのなかでしか言えないけど、いつか
あなたみたいに、ほんのちょっとでも、気持ちを声にだせるようになったなら
そのときは────
5月のssスレで自演してる暇あったら書き進めた方いいんじゃないですかね 自演の意味はよく分かりませんが他のスレに書き込んでる暇があったら自分のssを進めろという指摘はもっともだと思います
翌日までには続き更新します
翌日
ダイヤ「──本日はよろしくお願いします」ペコリ
「よろしくねえ、早速で悪いんだけどダイヤちゃん」
ダイヤ「はい」
「向こうの床から掃除をお願いできる?」
ダイヤ「承りましたわ、すぐやってまいります」
サファイア「あーっ! お姉ちゃんだおはよー!」
ダイヤ「サファイア……どうやら寝坊はしなかったみたいですわね」
サファイア「マルちゃんにおこしてもらったからね!」
ダイヤ「ああそう、そんなことだろうと思ってましたわ……」
はなまる「えと、サファイアちゃんと一緒がよかったから」
ダイヤ「……たった一日で随分と仲良くなったのね」
ダイヤ(まあ誰とでもすぐ打ち解けられるのがこの子の美徳ではあるのですが) サファイア「えへへっ、わたしもー!」ギューッ
はなまる「く、くるしいよサファイアちゃん……」
ダイヤ(この子の方からここまで懐くのは初めてよね、昨日はいろいろ驚きすぎて)
ダイヤ(そんなことを考える暇もなかったけど)
ダイヤ「ほら離れなさい、マルちゃんが困っているでしょう?」
サファイア「はーい」パッ
ダイヤ「それとお手伝い、自分からやりたいって言ったのだからね」
ダイヤ「ちゃんとおじい様おばあ様の言うことを聞くのよ?」
サファイア「うんうん、だいじょーぶだって!」
ダイヤ「だといいけど、それじゃあ私は向こうに行くから。あなたも頑張りなさい」
ダイヤ「マルちゃん、この子のこと、お願いね」
はなまる「は、はい」 ダイヤ「そんなに畏まらなくてもいいのよ? 年が上だからといって気を遣う必要はありません」
ダイヤ「マルちゃんの好きなように接してくださいな」ニコ
はなまる「! ……」
ダイヤ「……? なにか?」
はなまる「あ、ええと……ダイヤちゃんって凛としていて、きれいでかっこいい人だなあと思ってたけど」
はなまる「今はやさしいお姉さんみたいで素敵だなあって」
ダイヤ「!? わ、私が?」
はなまる「うん」
ダイヤ「そ、そうですか……それはその、ありがとうございます」
ダイヤ「……そろそろ行きます。またね、二人とも」
タタタッ…
サファイア「? なんかへんなの、どうしたんだろお姉ちゃん」
はなまる「う~ん、わかんないずら」 サファイア「まあいいや! おそうじやろーっと!」
サファイア「ここをピカピカにすればいいんだよね?」
はなまる「うん、隅から隅まできちんとみがくんだって」
サファイア「わたしのお家もおそうじやるときはそんなかんじだよ!」
はなまる「そうなんだ」
サファイア「みんなおなじなんだねー!」フキフキ
はなまる「サファイアちゃんはお掃除のとき、なにやってるの?」
サファイア「おかたづけ。つくえのうえとか、ベッドとか」
サファイア「ちらかってるからきれいにしなさい! ってお姉ちゃんがずーっといってくるの」
サファイア「わたしはすぐつかうから出したままにしてるのに……」
はなまる「それって昨日サファイアちゃんが言ってたアイドルのものもあったりするの?」フキフキ
サファイア「そうなの! じぶんでつくったりもしてるんだよ!」 はなまる「自分でって、サファイアちゃんひとりで!?」
サファイア「そだよー! マイクとか、おようふくとか」
サファイア「アイドルのほんがあるから、それを見てべんきょうしてるんだ!」
はなまる「す、すごいずら……」
サファイア「マルちゃんにもみてほしいなあー、ほんとにいっぱいあるから!」
サファイア「そうだ! ね、つぎはマルちゃんがわたしのお家にあそびにきてよ!」
はなまる「ええ!? いいのかな……?」
サファイア「ぜったいだいじょうぶだから! やくそく!」
はなまる「じゃ、じゃあやくそく」
サファイア「はい指きりげんまーん!! すぐきてよね!」ニコ
はなまる「……うん」クスッ サファイア「あとねあとね! ようち園でもいっしょにいたいから」
サファイア「なに組かおしえて! わたしね、ひまわり組! マルちゃんは?」
はなまる「マルは、あじさい組」
サファイア「あじさいね! うん、わかった!」
はなまる(ひまわり……ピッタリだなあ)
サファイア「つぎにようち園にいくときはすぐ会いにいくからね!」
はなまる(いつも元気で、活き活きとしていて)
はなまる(一緒にいると、こっちまで元気をもらえるような……そんな、お日さまがすごく似合う女の子だから)
はなまる「えへへ、嬉しいずら」
はなまる(こっちもいつの間にか会えたらいいなって思っちゃうんだ)
明日も、明後日も。
…………
ダイヤ「今日は大変お世話になりました」
「ふふっ、家が賑やかになってこちらもとても楽しかったわ」
「あなた達がよければ、また遊びにきてちょうだい」
「ああ、今度は君たちが好きなお菓子でも用意しておくよ」
サファイア「ほんと!? じゃあポッキーとー……」
ダイヤ「サファイア!! お気持ち、ありがたく頂戴しますわ。機会がありましたらまた是非」
ダイヤ「さようなら、お元気で」
サファイア「それじゃあマルちゃん! またねー!」ブンブン
はなまる「うん、ばいばいサファイアちゃん!」フリフリ サファイア「ふんふふーん♪」
ダイヤ「上機嫌ね」
サファイア「あのねー、マルちゃんと遊ぶやくそくしたんだー」
ダイヤ「へえ、どんな?」
サファイア「ないしょー」ニシシ
ダイヤ「場所も教えてくれないのかしら?」
サファイア「わたしのおへやだよ」
ダイヤ「はあ!?」
サファイア「え、ダメなの?」
ダイヤ「駄目に決まってるでしょう! あんなに散らかしておいて!」
ダイヤ「とても人様を招き入れられる部屋じゃないから! お誘いするならせめて片付けてからにしなさい!」
サファイア「あれはあの場所であってるんだからいいんだってば!」
ダイヤ「部屋が汚い人はみんなそう言ってるの!」 サファイア「いーってば、わたしもマルちゃんもそんなのきにしないもんね」
ダイヤ「あのねえ、そういう問題じゃなくて……」
ダイヤ「はぁーっ……全く、好きだというのにどうしてそこまでズボラでいられるのか、理解に苦しむわ……」
ダイヤ「私だったら隅々まで完璧に整えたうえで、上がってもらいますけどね」
ダイヤ「やはりそこで寛いでもらうわけだから、相手にとって居心地が良くないと……」
サファイア「? わたしのお部屋であそぶのに、なんでお姉ちゃんのはなしが出てくるの?」
ダイヤ「っ……!? いやそれは、コホン、たとえばの話ですからね」
サファイア「ふーん、わたしはマルちゃんにわたしの好きなものをみてほしいから」
サファイア「かたづけないでそのままでもいいと思うけどなあー」
ダイヤ「……なんだ、あなたなりに一応考えはあったのね。確かにそれも一理ある気はするけれど」
サファイア「えへへ、マルちゃんとのデートたのしみだなー」
ダイヤ(もう私の話聞いていないし……あとそれ、デートっていうのかしら……)
ダイヤ(サファイアのこういうところ、やっぱりよく分からないわ……)
はなまる「…………」ペラッ
はなまる「…………」ペラ
はなまる(……なんだろう)
パタン
はなまる「落ち着かない」
はなまる「いままで本を読んでいて、こんなことなかったのになあ」
はなまる「…………うーん」
はなまる「なにか面白いものないかな」ガサゴソ
はなまる「ふふっ、なんか今のマル、サファイアちゃんみたい……」クスクス
はなまる「つぎはいつ、会えるのかな」
はなまる「はやく会いたいなあ……」
これが私たちが初めて作った思い出
互いを知るきっかけとなった、一連の出来事
そのほとんどが気まぐれと思い付きと偶然の産物で出来たものだけど
不思議と異物感はなく、自分の中にすんなりと馴染んでいったのを今でもよく覚えている
そして、その日の出会いをきっかけに二人はどんどん仲を深めていった
彼女があの子のことを"アオちゃん"と呼ぶようになったのも、そこからさほど日は経っておらず
しかも何も知らないこちらからすると、また急に降ってきたような話で
考えすぎかもしれないけれど、あの時点で彼女たちは
既に他の人に対して持ち合わせていない、互いにしかない特別な関係性を築きあげていたように思う
意図的でないからこそ余計に、それは強く結ばれていって
いつしか二人は……会いに行くのが当たり前、ではなく
一緒にいるのが当たり前になっていた
一体いつからそうなっていたのかは、多分……誰も覚えていない
そんな日がしばらく続いていた、ある日のこと
宝石は初めて、愛でるべき花が輝く瞬間をその瞳に捉えた
そして本当の意味で、その口から紡がれる言の葉の旋律に
自身の心を奪われたのです。
…………
かなん「あれ、ダイヤじゃん。ひさしぶりー」
ダイヤ「こんにちは果南さん。一週間ほど会ってないだけで久しぶりですか?」
かなん「えー、だって毎日と比べたらそりゃあひさしぶりでしょ」
ダイヤ「比較対象がおかしいと思うのですが……まあそれほど仲が良いということなのでしょうね」
かなん「まあね、千歌と曜っていってさ、よく海にいって遊ぶんだけどかわいいんだーこれが」
かなん「で、ダイヤは何しにきたの? また習いごとでなんかあった?」ニヤ
ダイヤ「違いますっ! ただ家にいても退屈なので気晴らしに外でも回ってみようかと」
かなん「へーめずらしい、あのダイヤがそんなこと言うなんて」
ダイヤ「……二人とも寝てしまったので話し相手がいないんです、仕方ないでしょう」
かなん「ん、それって前にいってたサファイアちゃんとマルちゃんって子?」
ダイヤ「ええまあそうですけど、よく覚えてますわね」
かなん「ダイヤが言うことだもん、そりゃ覚えるって」
ダイヤ「はあ、それはどうも」
かなん「つれないなーもう」 かなん「まあいいや、そういうことなら私がダイヤの話し相手になるよ」
ダイヤ「もうなってますけどね」
かなん「細かいこと言わないの、ともだちとのおしゃべりってそんな真面目にやるものじゃないんだからさ」
ダイヤ「……一理ありますわね」
かなん「そうそう、気楽にいこうよ気楽に。でさ、ダイヤは習いごとたくさんやってるって言ってたじゃん?」
ダイヤ「ええ、人並み以上にはやってると思いますけど」
かなん「その中でもなんかお気に入りのものとかないの? よく言うじゃん、好きこそものの上手なれって」
ダイヤ「そうですわね……最近で言うとお琴かしら?」
かなん「おこと? なにそれ」
ダイヤ「和楽器の一種です、始めてからしばらく続けていた習いごとの一つですが……」
ダイヤ「つい最近私の弾いたものをマルちゃんが褒めてくれたんです。それが私、嬉しくて……」フフッ
かなん「……ふーん」 ダイヤ「どうかしましたか?」
かなん「いいや、そんなにいいものなら私も聞きたくなったなあって思ってさ」
ダイヤ「果南さんが聴いたところで眠たくなるだけかもしれませんわよ?」
かなん「そんなのまだ分からないじゃん、とにかく私も見たいから! 弾いてよねちゃんと!」
ダイヤ「そ、そこまで言うなら構いませんけれど……嫌とも言っていませんし」
かなん「はい、じゃあやくそく」
ダイヤ(いきなり詰め寄ってきたから驚いたけれど、そんなに興味があったのかしら…?)
「あっ! お姉ちゃんだー! おーーーい!!」
「おーねーえーちゃーんーーー!!」
かなん「ん?」
ダイヤ「あら、サファイアにマルちゃん。起きてきたのね」
サファイア「うん! あれ、かなんちゃんもいるー!」
かなん「え、私会うの初めてな気がするんだけど違ったっけ?」 ダイヤ「いえそれは……」
サファイア「うん、でもみたことあったしお姉ちゃんがかなんちゃんのことばかりはなすからわたし知ってるんだー!」
ダイヤ「なっ…!!」
かなん「へえー、それは初耳だね」
ダイヤ「ちょっとサファイア!! どうしてそう何でもかんでも口にするの!?」
かなん「なーんだ、ダイヤそんなに私のこと好きだったんだー」
ダイヤ「からかわないでください!! だから嫌でしたのに!」
サファイア「お姉ちゃんっておともだちいないからね、かなんちゃんがおともだちになってくれてすっごく嬉しかったんだとおもうよ!」
ダイヤ「サファイアっ!!」
はなまる「ま、まあまあダイヤちゃん、アオちゃんも悪気があって言ってるわけじゃ……」
ダイヤ「マルちゃんはサファイアに甘すぎます!」
かなん「ダイヤ、ちょっとは落ち着いたら? そんなカッカすることないのに」
サファイア「ねー」
ダイヤ「あのねえ、元はと言えば誰のせいだと……!」 かなん「ところで、あなたがマルちゃんだよね? 私まつうらかなん小学一年生、よろしくね」
はなまる「は、はじめまして、国木田花丸です。ようち園の年中、4さい」
かなん「はなまるちゃんね、私はこっちの呼び方でいっかなー」
サファイア「ちなみにわたしは5さい!! マルちゃんよりわたしのほうがお姉ちゃんなの!」
ダイヤ「中身でいったら間違いなく逆なのだけど、まあマルちゃんは私と同じで早生まれなので仕方ないわね」
かなん「そうなの? 私も早生まれだよ、誕生日2月!」
はなまる「かなんさんも?」
ダイヤ「あら、意外な共通点ですわね。なんだか嬉しいですわ」
キャッキャ
サファイア「む~……なんか仲間はずれなかんじ……」
ダイヤ「そういえばあなたたち、どうして海の方に? 遊びにでもきたの?」
はなまる「ううん、今日は遊びじゃなくて」
サファイア「うたのれんしゅうをしにきたの!」
ダイヤ「また急な話ね、どうせアイドルのことなんでしょうけど」
サファイア「ちがうもん! ようち園でおうたの発表会があるから、それのれんしゅう!」
サファイア「わたしはマルちゃんのつきそいで来たんだから! ねーマルちゃん!」
ダイヤ「そうなの?」
はなまる「うん、マルちょっと自信がなかったから、それでアオちゃんに相談して」
サファイア「海ならひろくておっきいから、大きな声をだしてもだいじょうぶかなーって!」
かなん「いいじゃん、私たちもよくやってるしそういうの」
サファイア「でしょー?」
ダイヤ(一応それなりに考えてはいるのよね、この子) サファイア「というわけで! ほらマルちゃん、うたってうたって!」
はなまる「ええ!? い、いま!?」
サファイア「見てるひとが多いほうがれんしゅうになるから! それに今いるのはみんな知ってるひとだし」
サファイア「発表会になったら知らないおとなのひとも見にくるんだよ? 今のうちになれておかないと!」
はなまる「うっ、確かにそうかもしれない……ずら」
かなん(サファイアちゃん、なんか急にアドバイスが的確になったね)ヒソヒソ
ダイヤ(曲がりなりにもアイドル、人前に立つ職業を目指しているわけですから、その辺りに関しては鋭いのでしょう)ヒソヒソ
ダイヤ(あの子も黒澤家の一人、普段は勝手気ままでも関心を抱いた物事に対しての姿勢は真剣そのものです。とはいえ他分野との差が極端すぎるきらいがありますがね)
かなん(案外お姉ちゃんの影響もあるかもしれないよ?)
ダイヤ(まさか、あれは元からそういう子なんです)
かなん(もうちょっと夢見ようよダイヤ……) サファイア「だいじょーぶ! マルちゃんならぜったいちゃんと歌えるようになるから!」
サファイア「わたしがほしょうする!!」
はなまる「アオちゃん……うん、ありがとう」ニコ
かなん「……妹ってさ、みんな元気で前向きなもんなのかな」
ダイヤ「何か言いました?」
かなん「いや、べつに」
はなまる「じゃ、じゃあ歌うね」
サファイア「うん! さいしょはマルちゃんのすきなものでいいから!」
はなまる(マルの好きな曲……)スゥーッ
はなまる「──♪────♪」
ダイヤ・かなん「!!?」
サファイア「……!」
はなまる「────♪ ど、どうかな? アオちゃん」
サファイア「……す」
はなまる「す?」
サファイア「すごいすごいっ!! マルちゃんとっても上手!!」パチパチパチパチ!
サファイア「どうやったらそんなにキレイな声がだせるの!?」
サファイア「マルちゃんってむずかしい本をよむだけじゃなくて、うたうこともとくいなんだね! わたしまたマルちゃんのいいところ見つけちゃった!」
はなまる「ほんとう?」
サファイア「ほんとほんと!! ね、お姉ちゃんたちもそうおもうよね!?」
ダイヤ「……え? ええ、とても素晴らしかったですわ。ねえ果南さん」
かなん「あ、ああうん、すっごく良かったけど……」
かなん「その、なんだろう……」
はなまる「?」
「かなんちゃーん!」
「いっしょにあそぼうよー! おーーーい!」
かなん「…あーっと、ごめん。友達に呼ばれたからそろそろいくね」ニコ
はなまる「あ、はい」
サファイア「かなんちゃん、またねー!」
かなん「うん、バイバイ」タッ
はなまる「かなんさん、マルの歌あまりよく思わなかったのかな……」
ダイヤ「……いいえ、寧ろその逆だと私は思いますわよ」 かなん「曜ー、千歌ー、おまたせ……って何してるの?」
よう「紙ひこーき作ってるんだ!」
ちか「どっちが遠くに飛ばせるかってきょうそうしてるの!!」
かなん「ちょっと、それで海を汚したらわたし怒るよ?」
ちか「う、海のほうには投げてないもん!」
かなん「なら別にいいけど……」
よう「ねえ、それよりかなんちゃんどうしたの?」
かなん「どうって何が?」
ちか「だって果南ちゃん顔がまっかだから」
かなん「ああ……うん、まあ。色々あってね」
かなん(だってそうじゃん……ずーっとテレビの中だけだと思ってたのに)
かなん(こんな近くに、あんなに歌が上手い子が、ほんとうにいるなんてさ……)
かなん(ビックリしすぎて何も言えないよ……) サファイア「うん、今のでわかった! やっぱりマルちゃんはアイドルにむいてる!」
はなまる「ま、またその話? マルには無理だよ……」
サファイア「そんなことないよ! マルちゃんならできる!」
ダイヤ「はあ……もういい加減にしなさいな、今日ので一体何回目だと思ってるの」
サファイア「何回って、まだいっしょにアイドルやるって決めてからちょっとしか時間たってないじゃん!」
ダイヤ「そのちょっとの間にどれだけ言ってきたのって話よ、全く……あのねサファイア、よく聞きなさい」
ダイヤ「人には得手不得手があるの。そうじゃなくても好き嫌い、興味の有る無しに関わってくれば」
ダイヤ「自分から取り組みたくないものだって出てくるでしょう? まして無理にやらせるものでもなしに」
サファイア「またむずかしいことばっかり言う!」
ダイヤ「……相手が嫌がってるのに無理やりやらせようとするのはやめなさいって言ってるの。これで分かる?」
サファイア「えっ」
はなまる「ダ、ダイヤちゃんそれは……」
ダイヤ「この際はっきり言うべきよマルちゃん」 サファイア「……マルちゃん、アイドルがいやなの? きらい?」
はなまる「ううん、そうじゃないの。そうじゃないけど……」
はなまる「マルには、似合わないから……ドジだし、鈍間だし、アオちゃんみたいにはなれないもん」ニコ
サファイア「……」
はなまる「だから、えっと……やりたくないの、アオちゃんの足を引っ張りたくもないから。ごめんね」
ダイヤ「……ほら、これに懲りたらしばらくは控えなさい? サファイアだってマルちゃんを困らせたくはないでしょう?」
サファイア「……わかった」
はなまる「あ、アオちゃん、あのね……」
サファイア「じゃあ今日はマルちゃんのおうちにとまる」
ダイヤ「……は?」 サファイア「いいよね? マルちゃん」
はなまる「ま、マルはいいけど」
サファイア「よーしきまりっ! お姉ちゃん、お父さんとお母さんにいっといてー」スタスタ
ダイヤ「ちょっ…待ちなさい! 先程の話からどうしてそうなったの!?」
サファイア「ねえねえマルちゃん、きょうのお夕はんはなんだろうね?」
はなまる「分からないけど、今はお魚が旬らしいずら。だからお魚さんかもね」
サファイア「へー! わたしのお家もさいきんのご飯お魚ばっかりなんだー!」
はなまる「なら別の献立になるといいね」
サファイア「うん、わたしお魚あきちゃった!」
ダイヤ「サファイア! ……もう! 少しはしおらしくなったと思ったのに、何なのあの変わり様は……」
───その夜
はなまる「ごちそうさまでした」パン
「はい、お粗末様でした」
はなまる「アオちゃん、どこに行ったんだろ……」キョロキョロ
「おーいマルちゃーん、こっちこっち」
はなまる「アオちゃーん見えないよー、どこにいったずらー?」
サファイア「ここだよー、ほら早く早く」チョイチョイ
はなまる「……外?」 サファイア「もう、おそいよマルちゃん」
はなまる「ご、ごめんねアオちゃん。でも」
はなまる「どうしてお外なの? 夜で暗いのに危ないよ」
サファイア「ちょっとだけだから、それにわたしはお外明るいと思うよ?」
サファイア「だってまあるいお月様が出てるんだもん!」
はなまる「あっ、本当だ……今日満月だったんだね」
サファイア「ね、いいでしょ?」
はなまる(あんまり理由になってない気がするけど……)
はなまる「じゃあ、ちょっとだけだよ」
サファイア「えへへっ、ありがとマルちゃん」 サファイア「マルちゃん、きょうはごめんね」
はなまる「え?」
サファイア「わたし、マルちゃんのきもち分かってなかったから」
サファイア「いやだったんだよね、ごめんなさい」
はなまる「そんなに謝ることっ」
サファイア「ううん、もううるさく言うのはやめる。だけど」
サファイア「わたしね、マルちゃんにもやめてほしいことがあるの」
はなまる「マルに?」
サファイア「マルにはむりとか、似合わないっていうの、やめてほしいなーって」
はなまる「!」
サファイア「だって絶対そんなことないもん、がんばればなれるし似合ってるもん」 はなまる「……」
サファイア「わたしね、マルちゃんのことだいすきだよ。バカにしたことなんてないし、ウソだって言ったことない」
はなまる「うん……知ってる」
サファイア「だからアイドルになれるって思ってるのはほんとう。マルちゃんはわたしのことすき?」
はなまる「だいすきだよ」
サファイア「じゃあわたしの言うことも信じてほしいな、マルちゃんにはいいところたっくさんあるんだから!」
サファイア「そうやって自分で言うのもったいないよ!」
はなまる「アオちゃん……」
サファイア「えっとね、それだけ! ……あ、そうだ! うたってよマルちゃん」
はなまる「え、今から?」
サファイア「うん、アイドルじゃなくったってわたしはマルちゃんのファンだから! また聞きたいの! アンコールだよ!」
はなまる「マルの、ファン……」
サファイア「マルちゃんはあっち、わたしはここで聞くから! とくとーせきってやつ!」
はなまる「……ふふっ、やっぱりアオちゃんはアオちゃんのまんまだね」
サファイア「? どういうこと?」
はなまる「なんでもないよ」スタスタ
はなまる「…………」ピタッ
いつもそう
自分のことばかりってダイヤちゃんによく言われるけど、本当はそんなことなくて
いっつもマルのこと、考えてくれてて
今日だって、そのためにわざわざ来てくれたんだよね? マルにはわかるよ
でも、だからこそ困ったこともあって……マルばかりがこんなに救われてもいいのかなって、思ったりもする
それでも、今目の前にいるあの子が自分の歌を望んでいるのなら
マルはそれに嘘をつきたくない、あの子をがっかりさせたくない
はなまる「……」スゥーッ
ああ、そうか。マルは今初めて……誰かの期待に応えようとしてるんだ。
そしてそれはきっとアオちゃんにとっても、特別な────
ダイヤ「…………」
かなん「あっ、まーた来てるじゃんラッキー」ザッザッ
ダイヤ「果南さん、あなた人のこと言えないでしょう」
かなん「私はほら、海に来るのは日課みたいなもんだから」
ダイヤ「そうですわね、あなたにとっては通常運転でしたか」
かなん「なんか馬鹿にされてるような気がしないでもないけど……」
ダイヤ「してませんわよ、果南さんらしいという話です」
かなん「そう? ならいいけど、ところでなんでまたここにいるわけ?」
ダイヤ「……ここに来ればまたあなたに会えるかと思いまして」 かなん「えっ、なに急に」
ダイヤ「話し相手がいないので」
かなん「あーそういうことね。っていうか、それだけの理由で私に会いに来るってひょっとしてダイヤって寂しがり?」
ダイヤ「なっ……! そんなわけないでしょう!?」
かなん「まーまー照れなくていいじゃん、どうせ私しか聞いてないんだし、こう見えても口は固いほうなんだよ」
ダイヤ「……あなたほど信用しておきながら調子を狂わされる方もなかなかいませんわね」
かなん「そうは言うけど、そもそも私以外そんなに友達いなかったんじゃ……」
ダイヤ「」ギロッ
かなん「いやいやなんでも」
かなん「……はえー、私がいなくなった後にそんなことがねえ」
ダイヤ「ええ、全くわけがわからないと言いますか……あの子に関しては分かることのほうが少ないのですけど」
かなん「その割には心配してなさそうだけど?」
ダイヤ「必要ありませんから。確かに意図を読むことは出来ませんが、それでも」
ダイヤ「相手の気持ちを知ったうえで自分の理想を押し付けるほど、愚かな子でもないので」
かなん「ふーん」
ダイヤ「……いやしかし、頻度を減らすというだけで誘うこと自体は続けるつもりかも……」
かなん「どっちなの」
ダイヤ「まあ、マルちゃんに納得させたうえでアイドルをやらせる。恐らくこれでしょうね」
かなん「さっきの話を聞いてる限りだと難しい気もするけど、本当にそんなこと出来るの?」
ダイヤ「さあ。ただ、一つだけ言えるのは」
ダイヤ「何かを理由にそれを諦めることは絶対にないということ。もしその何かが原因で進めないなら、あの子は別の手段をもって成し遂げようとするでしょう」
ダイヤ「非常にしつこく、何回も。ああ見えて聞き分けのない頑固者ですから」
かなん「なるほどねえ」 ダイヤ「なんですか」
かなん「だから、危なっかしくて放っておけないわけだ」
かなん「たとえそのことで口うるさいお姉ちゃんって思われても、心配せずにはいられない」
ダイヤ「……あなた先程のお話、もうお忘れになられたんですか?」
かなん「忘れてないって、そんな呆れた目で見ないでよ」
かなん「ただ、さっきの話と今ダイヤが言ったのは違うものでしょ?」
かなん「今は大丈夫でもいつかは……ってさ」
ダイヤ「……果南さんはときどき、妙なところで核心をついてきますわよね」
かなん「妙な、は余計だよ。でもまあ」
かなん「なんだかんだで姉妹なんだねー、二人は」
ダイヤ「はい?」
かなん「ほら、一途な頑固者ってあたりが似てるなあって。少し前までサファイアちゃんとダイヤは正反対だと思ってたけど」
かなん「そういうところ、そっくりだ」ニコ ダイヤ「……あまり一緒くたにはされたくないのですけど」ポリポリ
かなん「あのさ、ダイヤって嘘つくの下手でしょ」
ダイヤ「んなっ! いきなり失礼な! 初対面のときから感じていましたがあなたデリカシーというものがないのですか!」
かなん「ああいや、別に悪く言うつもりはなかったんだけど」
ダイヤ「悪意がないというのであれば他にどんな表現があると!?」
かなん「表現っていうか、私はそういう弱点もあったほうが好感持てていいなあって思っただけだよ」
ダイヤ「もしそうだとしたら、言葉足らずが過ぎるでしょう……」
かなん「一応あとで付け足そうとはしてたよ?」
ダイヤ「その前に話の腰を折ったら元も子もないでしょうに……」
かなん「まあね」
ダイヤ「あなたのことなんですが」
かなん「ごめんって」 ダイヤ「しかしそれにしても、好感……ですか」
かなん「ん?」
ダイヤ「いえ、果南さんは良くも悪くも言葉に淀みがないと思いましてね」
かなん「? なにそれ」
ダイヤ「言うことが耳にスッと入ってくる、つまり聞きやすいという意味です。きっとかなんさんは良い相談役になると思いますわ」
かなん「え、でもさっきまでデリカシーがどうのって」
ダイヤ「言いましたけども、それとは別に果南さんは気さくなうえ人もいいですからね」
ダイヤ「つい話を聞いてもらいたくなる、安心出来るのです」
かなん「なんか褒められたり文句言われたりでよく分からないなあ、今日のダイヤは」
ダイヤ「だからその、つまりはですね、果南さんと話をすると胸のつかえも取れますし落ち着くので」
ダイヤ「これからも、その……頼りにさせてもらえたらと」
かなん「……ふーん。そっ、か」
ダイヤ「……やはり、いけませんか?」 かなん「うーん、っていうかダイヤってさ」
ダイヤ「な、なんでしょうか」
かなん「思った以上にめんどくさいよね」
ダイヤ「先程の発言を撤回させてください今すぐに」
かなん「うそうそ!冗談! 違うからほんとに!」
かなん「えーっと、だから、なに? そんなの別に気にすることないよって、そう言いたかったの!」
ダイヤ「本当に?」
かなん「本当だってば! だいたい、お願いなんてされなくても、私はずっとダイヤの味方でいるつもりだし」
かなん「だから大きいことでも小さいことでも、何か困ったことがあれば私をすぐ頼っていいんだって、むしろダイヤはそういうの気にしすぎ!」
ダイヤ「えらくハッキリと申し上げますわね……それなりに自覚はしていましたがこうも真正面からぶつけられるとは」 かなん「まあね、でもそれを直せって言いたいわけじゃないの私は。たださ……」
かなん「一人くらいは、ダイヤにとってそういう人がいてもいいんじゃない?」ニコ
ダイヤ「!」
かなん「それが私なら全然お安い御用だよって、そういう話」
ダイヤ「果南さん、あなた」
かなん「うん」
ダイヤ「本当に小学一年生ですか?」
かなん「それ私が言いたいやつなんだけど」
ダイヤ「冗談です、ふふっ……しかし果南さんがそこまで仰るのなら」
ダイヤ「私もあなたを信じてこれからはもっと気楽に打ち明けてみようと思います、自分から進んで買った以上はしっかりと責任を果たしてくださいね?」ニコ
かなん「もちろん、大船に乗ったつもりでいてよ!」
それは偶然にも初めて会ったときと同じ、満月が浮かんでいた日のこと
あの日から彼女は私にとってただの友達の一人ではなく、唯一無二の大切な存在になった。
そして子供ながらに、いいえ子供だからこそ
これから先、そんな良いことが自分の周りでもっと続いていくのだろうと
根拠もなしに漠然と、そう心の中で決めつけていた。
……人生なんて、いつ何が起こるのか分からないというのに
それが良いことでも悪いことでも、私一人の力ではどうしようもない、どうにも出来ないようなことが
必ずどこかでやってきてしまう、あの子たちの出会いがそうであったようにね。
しかし心のどこかではそんなものを信じたくはなかったし、まして願ってもいなかったのでしょう
今思い返せばね、それほど……
あの頃の私は自分で思っていたよりもずっと、幸せに感じていたのですから
結局、どんなに利口ぶっていても私はまだまだ未熟でしかなくて
誰一人欠けることのない夢物語を本気で描いていた
…………あの子を失うまで、ずっとね
サファイア「ねーねーお姉ちゃん」
ダイヤ「なに?」
サファイア「小学校ってたのしい?」
ダイヤ「どうしたの急に」
サファイア「だってわたし、もう幼稚園とバイバイしちゃったし」
ダイヤ「卒園でしょもう。でもそうね……まあ、退屈ではないかしら」
サファイア「ふーん。そっかー」
ダイヤ「気になるの?」
サファイア「気になる! だって小学生になったらマルちゃんといっしょに学校に行けるんでしょ!?」
ダイヤ「ああ、そういうことね……納得したわ」
サファイア「それにお姉ちゃんともいっしょにいられるし!」
ダイヤ「え?」 サファイア「え? お姉ちゃん、わたしといっしょに学校行ってくれるんでしょ?」
ダイヤ「あなた、マルちゃんと二人がいいんじゃないの? 今までだってずっとマルちゃんマルちゃんって言ってきたのに」
サファイア「そーだけど違うもん!」
ダイヤ「どっちなのよ……」
サファイア「だって幼稚園のときはお姉ちゃんいなかったけど、次からは同じところだからいっしょがいいの!」
ダイヤ「……朝早いわよ?」
サファイア「おこして!」
ダイヤ「起きなかったら?」
サファイア「おきるまでおこして!」
ダイヤ「あなたねえ……少しは自分で努力しようとは思わないの?」
サファイア「じゃあがんばって自分でおきる! だからちゃんと待っててね!」
サファイア「置いてっちゃヤダからね!!」
ダイヤ「はいはい、わかったわよ。約束するから」 サファイア「やったー! お姉ちゃんだいすきー!」ギューッ
ダイヤ「全く、調子がいいんだから。ほら、もう夜も遅いんだから早く部屋に戻って寝なさい?」
サファイア「えーやだー、きょうはお姉ちゃんとがいい!」
ダイヤ「ああもう好きにしなさいな」
サファイア「えへへっ、おじゃましまーす!」モゾモゾ
ダイヤ「ただ、ベッドを使うのはいいけれど枕を占領するのだけは……って」
サファイア「すぅーすぅー」
ダイヤ「どうしてもう眠ってるのよ……枕も取られているし」
ダイヤ「はぁ、これだからサファイアと一緒に寝るのは嫌……」モゾモゾ
サファイア「ん~……ぇへへ、おねぇちゃぁん……」ギュゥ
ダイヤ「……ふふっ」ナデナデ
置いてっちゃヤダからね!!
ダイヤ(何を言っているんだか、放っておいてもついてくるくせに)
ダイヤ(習いごとでもなんでも私の真似ばっかりで)
ダイヤ(上手く出来ないもどかしさとか、比べられる不満とか、すぐ思ったこと全部口に出すくせに)
ダイヤ(それでもやめなくて、ずーっと私の後ろにいたのはサファイアでしょう?)
ダイヤ「置いてくものですか、あなたは、私がいないと全然ダメなんだから」
たとえ夢が理解できないものでも、好きな人が出来ても、将来歩む道が違っていたとしても
私の、たった一人の妹なんだから。
はなまる「ふんふふーん♪」カキカキ
「ご機嫌ねマルちゃん」
はなまる「うん、幼稚園が終わって、つぎは小学校でしょ?」
はなまる「これからはアオちゃんと一緒に登校できるんだなあって」
「いま描いているものは?」
はなまる「アオちゃん! この前マルの誕生日にすっごくお祝いしてくれたから」
はなまる「マルもお返しに何かできたらなあって思って描いているんだ、それとお花!」
「そう、それなら近いうちに花屋に行って買っておかないとねえ」
はなまる「ばっちゃん、マルも連れていってほしいずら、自分で選びたいから」
「……マルちゃん、本当に変わったわねえ」
はなまる「え?」 「いいえ、なんでもないわ。もちろん一緒に連れていってあげる」
「サファイアちゃん、喜ぶといいねえ」
はなまる「アオちゃんはマルがあげるものなら何でも喜ぶよ。でも……」
「?」
はなまる「だから、贈るときは精一杯気持ちを伝えたいの」
はなまる(どんな花がいいかな、やっぱり分かりやすいもの……チューリップなんかがいいかな)
はなまる(色はかわいいピンク色、にしたいけど確かピンクのチューリップの花言葉は……)ペラッ
はなまる(ちょっと恥ずかしいからやめよう、黄色はどうだろう? 光とか太陽とかアオちゃんにピッタリだと思うし)
はなまる(花言葉も正直と名声、マルの気持ちとアオちゃんの夢に合ってるから……うん)
はなまる(決めた、アオちゃんに贈る花は黄色のチューリップにしよう!)
はなまる「ふふっ、アオちゃんどんな顔して受け取ってくれるかなあ……」
今までアオちゃんにはたくさんの勇気をもらってきた
アオちゃんが背中を押してくれたから、マルは一歩前に踏み出せた。
あなたが傍にいてくれたから、誰かと会うのが恋しくなった。
あなたが目の前で聴いてくれたから、自信をもって歌えるようになった
あなたと一緒の世界はこんなにもドキドキで溢れていて
毎日が、とっても楽しくて、楽しくて、しょうがなくて
だからありがとうの気持ちを込めて、ほんのちょっぴりでも
マルからあなたに感謝の気持ちを届けたくて
いつもありがとう。これからもよろしくね。ずっと一緒だよ。
そんな言葉と一緒に、心を込めて、大好きなあなたへ。
そう、伝えたかったのに
…………
「ねえマルちゃん、学校ってどんなところなんだろうね?」
幼稚園よりもずっと大きいらしいずら
「今度はいっしょのとこになれるといいね!」
そうだね。結局マルたち最後まで違う組だったから
「アイドルのこととか教えてもらえるのかなあ?」
ふふっ、あったらいいね
「マルちゃんが好きな本もあるかも!」
図書室のこと? 確かに、それもあったらいいなあ……
「あー早く小学生にならないかなー!」
「楽しみだね、マルちゃん!!」
うん! あ、そうだ。ねえアオちゃん
「なあに?」
あのね、マルね、アオちゃんに渡したいものが……
「……」
渡したかった、ものが
「…………」
あるの。あったんだよ……だから
「 」
受け取ってよ、お願いだから
サファイア「」
笑ってよ、アオちゃん。
それは3月の中旬が過ぎて、各地で桜が咲き始めた頃。
風で舞い散る桜の花びらに、春の訪れを感じ始めた頃。
そして一人の少女が、少し先の二人の姿に思いを馳せていた頃。
マルは想い人のために花を携えて、渡すことが出来ないまま
アオちゃんは亡くなった。
「不整脈だったんだって」
なにそれ
「難しい話だったから全部分かったわけじゃないけど」
「心臓の病気で、いつも元気な人でも死んじゃう可能性があるって」
「アオちゃん、それが原因で倒れて」
なんで
「運動がきっかけ……って、言ってたから、多分、アイドルの練習……とか」
どうして
「学校に行けるの、楽しみにしてたもんね」
そんなの、何も関係ない
「あるよ。だって」
「アオちゃん。新しい自分を見てもらいたかったんでしょ?」
「だから、一生懸命だったんだよ」
……みんなに?
「ううん」
はなまる「マルに、見せたかったんだよ。きっと」
どうしてそう思うの?
はなまる「…………」
はなまる「アオちゃんはマルのこと、だいすきだからねえ」
はなまる「それくらい、マルにもすぐわかるずら」
うそ。
はなまる「嘘じゃないよ」
うそに決まってる、だって
好きな人が死んだのに平気な顔をしている人でなしを
アオちゃんが好きになるわけない
はなまる「…………」
なんで泣かないの?
はなまる「わからないよ。涙が出ないんだもん」
はなまる「でも、うん、わからないけど」
はなまる「きっと、悲しくないから出ないんじゃないかな。涙」
はなまる「今のマルには何もないから。なにも。だから多分、わらうことも出来ないし」
はなまる「あなただって、怒ってるわけじゃないよね?」
本当は怒りたいよ
はなまる「そうだね。そうだよね」
はなまる「ごめんね、それでも、あともうちょっとだけ待ってて」
はなまる「今だけは、ちゃんとしたいの。今だけは」
はなまる「マルがちゃんと、見送ってあげなきゃ。じゃないと、アオちゃんが笑えないから」
……嫌われないといいね
はなまる「……笑顔に好きも嫌いもないよ」
コンコン
はなまる「?」
「ダイヤです。マルちゃん、いるのでしょう?」
はなまる「……」
そっか、もうそんな時間なんだ
「返事をしてください、お願いします!」
「せめて顔だけでも……どうか」
ギィ……
はなまる「……」
ダイヤ「! あ、マルちゃ「ダイヤさん」
ダイヤ「──!!」
はなまる「マルに何か用ですか?」
ダイヤ「……いいえ、用があるわけではないんです」
ダイヤ「ただ、花丸さんのお体が心配だっただけ。それだけですわ」
はなまる「ありがとう。マルなら、大丈夫だから」ニコッ
はなまる「じゃあまたね、ダイヤさん」
ダイヤ「はい。また……」
バタン
はなまる「……ふう」
笑えないんじゃなかったの?
はなまる「作るくらいは出来るよ」
ひどいね、心配して来てくれたのに
はなまる「ダイヤさんには心配かけさせたくないから」
…………
はなまる「そろそろ用意しないといけないから、もうやめるね?」
はなまる(やめないと、永遠に終わらないと思うから)
─
葬儀は驚くほどあっという間だった
黒澤父「本日は我が娘のためにお集まりいただき、遺族を代表して心よりお礼申し上げます」
黒澤父「いつも健康的で明るく、賑やかな場所を好む子でしたから、こうして大勢の方が来てくださったことに亡き娘も喜んでいることと存じます」
アオちゃんのお父さんの言ってることは正しいと思った
棺の中で眠っているアオちゃんの顔はとても穏やかで、周りに置かれた花があの子を優しく包み込んでくれているような気がしたから
ねえアオちゃん、たくさんお花があるってことはね、それだけアオちゃんがみんなに愛されてたってことなんだよ?
もちろんマルもその一人だけどね。だからお花もちゃんと自分で選んだよ
この日のためにってわけじゃないけど、前から渡したいと思っていたもの
黒澤父「また、ささやかではございますが粗餐をご用意させていただきました」
黒澤父「どうか気を張りすぎることなく、ごゆっくりとおくつろぎ、またお召し上がり頂ければと存じます」
黒澤父「本日はお越しいただき誠にありがとうございました」
黄色のチューリップ、その花の一本に込められた意味は
「あなたが運命の人」
ちゃんと伝わってるよね、あなたに。
「…………」ガヤガヤ
今回の葬式は告別式と火葬の日にちを分けているみたいで、出棺は明日に執り行うって聞いた
はなまる「…………」スッ ジジッ…
つまり、今日はお通夜でもあるということで
ダイヤ「花丸さん」
はなまる「ダイヤさん」
ダイヤ「疲れてはいませんか? その、随分長いこと番をしているので……」
はなまる「ううん、平気」
ダイヤ「そう、ですか」 はなまる「ごめんなさい、マルも泊めてくれるようにってダイヤさんたちに無理を言って」
ダイヤ「いいえ、それは構わないのです。あの子も喜ぶでしょうから……ただ」
はなまる「ただ?」
ダイヤ「あまりご無理はなさらないでください、それだけは本当に、留めておいてくださいまし」
はなまる「……うん」
はなまる(ダイヤさんの言いたいことは痛いほどわかる。でも、出来ることなら)
はなまる(このままずっと見守っていたい、今この手で灯された火が消えてしまわないように)
はなまる(マルが、見届けなくちゃ) ダイヤ「花丸さん……」
かなん「…ダイヤ、気にするのは分かるけどさ」
かなん「ダイヤも今のうちに何か食べておかないと、さっきから全然口にしてないじゃん」
ダイヤ「……すみません」
かなん「ちょっとずつでもいいから一緒に食べようよ、明日のためにもさ」
ダイヤ「そう、ですわね。果南さんの言う通りです」
ダイヤ「いただきます」パク
かなん「どう?」
ダイヤ「……美味しいです」
かなん「それはよかった」ニコ 「えーっ!! 本当にこれ全部もらっていいの!?」
ダイヤ「? なんでしょうか」
かなん「……ごめんダイヤ、ちょっとここで待ってて」
ダイヤ「果南さん?」
ちか「わーっ見てみて曜ちゃん! わたしこんなにお菓子もらっちゃった!」
よう「わたしもー! 凄いよねー、いつものお葬式だとこんなにないのに!」
ちか「ねー!」
志満「千歌ちゃん、もうちょっと静かに」
「曜も、少しはしゃぎすぎだぞ」
ちか「えー、どうしてー?」
よう「パパだって周りのおじさんたちと喋ってるじゃん」
「そういう問題じゃなくてな……」
かなん「曜、千歌、そこでなにしてるの?」 ちか「あっ果南ちゃんだ、もー今までどこ行ってたのー?」タタタッ
よう「そうだよ、全然話しかけてもくれないし」テクテク
ちか「果南ちゃんがいなくて、わたしたちずーっとつまんなかったんだから!」
美渡「おい千歌……」
かなん「……そう言ってるわりには楽しそうだよね」
ちか「うん! だって見てよほら! お菓子はたくさんあるし、ご飯も美味しいし!」
ちか「こんなの初めてだもん! あーあ、明日もやればいいのになー」
かなん「──!!」 美渡「ちょっと千歌、あんたいい加減に……」
ドンッ
よう「!!」
ちか「いっ……か、果南ちゃん……?」
かなん「」ギロッ
ちか「ひっ……」
かなん「」スッ
ちか「や、やだ……やだぁ……」
かなん「……」
パシッ
よう「待ってよ、なにその手、ねえ」
よう「果南ちゃん、千歌ちゃんに何しようとしてるの」
かなん「……」
よう「っていうかさ」
よう「なにしてるの」 かなん「は? 何のこと」
よう「突き飛ばしたじゃん、いま! さっき!」
かなん「だから?」
よう「ケガするかもしれなかったじゃん!! 果南ちゃんのせいで!」
よう「それにいま! 殴ろうとしたよね!? 千歌ちゃんのこと!! ねえ!」
よう「謝りなよ! 千歌ちゃんに!」
かなん「なんで? 嫌だけど」
よう「はあ!?」
かなん「うるっさいなあ、千歌もだけどさ、今のあんたたちは見てて本当にイライラするわ」
かなん「ご飯食べ終わったんでしょ? もう邪魔なだけだし出ていきなよここから、特に千歌」
ちか「えっ」
かなん「最低、大っ嫌い、もう顔も見たくない。早く私の前からいなくなって」
よう「!!」
ちか「な、なんで……どぉして、そんな……こというの?」 ちか「かなっ……う、ひぐっ……ぐすっ……」
よう「っ!!」グイッ
かなん「離しなよ」
よう「最低なのは果南ちゃんでしょ、謝りなよ千歌ちゃんに」
かなん「……」
よう「謝れっ!!」
かなん「……謝るのはそっちでしょ!! 不謹慎なんだよさっきから!!」グググッ
かなん「他の人の気も知らないで!! ちょっとは空気読みなよ!!」
ドサッ
かなん「泣きたい人がいる前でっ、いつまでもヘラヘラするな!!」
よう「千歌ちゃん泣かせておきながら偉そうなこと言わないで!!」 美渡「こっちだって! 早く! ほんとにヤバいんだって!!」
かなん「そっちこそ勝手なことばかり言うな!!」
美渡「果南! ちょっと落ち着けって!」ガシッ
「曜! 何やってるんだやめなさい!」グイッ
かなん「離してよ美渡姉! このっ……!!」
よう「フーッ…フーッ……!!」
ダイヤ「果南、さん……?」
かなん「……知らない、くせにっ」
かなん「なにも知らないくせにっ!!」
…………
かなん「……」
「曜ちゃんと千歌ちゃん、帰ったぞ。良かったんだな? これで」
かなん「なんで私に聞くのさ」
「お前が千歌ちゃん達に出てけって言ったんだろ」
かなん「……」
「しかも結局曜ちゃん殴って? そんなボロボロになるまで喧嘩してよ」
「本当にどうしようもない奴だな、全く」
かなん「っ!!」
「お前じゃない、俺がだよ。すまなかったな、気付いてやれなくて」
「俺は知ってたっていうのに、肝心なときに何も出来やしなかった」
「二人に迷惑かけたのも俺の責任だ、本当に悪かった」
かなん「お父さん……」
「けどな果南、それでもこれだけは言わなくちゃいけない」
「守るっていうのはな……そういうことじゃないんだよ」ポン
「今のお前みたいに、ただ気に入らないやつを黙らせるだけじゃ、絶対に心の傷は癒えないんだ」 かなん「心の、傷……」
「そうだ。果南、きっとお前はダイヤちゃんのことを想って怒ったんだろう、だが」
「お前のその行動は、本当にダイヤちゃんが望んだものなのか?」
かなん「!!」
「もしあそこで、彼女がお前に頼っていたとして」
「それで果南がダイヤちゃんのために出来たことってなんだ? 誰かを殴ることなのか? 本当に?」
かなん「……ちがう」
「じゃあなんだと思う?」
ダイヤ(これからも、その……頼りにさせてもらえたらと)
かなん「ダイヤのはなしを、きくこと」
「……そうか」 「なら傍にいてやれ、誰かを傷つける前にまず……目の前の友達を笑顔にしてやれ」
「いつでも誰かを支えられる、そんな人間になれたら……それが一番良いんだからよ」
かなん「うん」
「つっても、これからも間違えまくるんだろうけどな! 果南は俺に似て不器用だからなあー! はっはっは」
かなん「そんなこと」ムッ
「けど、本当に大事なものは何か……大切な人は誰か」
「それさえ忘れなきゃ、お前はきっと大丈夫だよ」
かなん「……ん」
「じゃあほれ、行ってこい。ダイヤちゃん待ってるぞ」
「それと二人にも後でちゃんと謝ること、いいな」
かなん「うん、ありがとうお父さん」
かなん「いってきます」タッ
「…………はぁーっ……難しいな、教育っていうのは」
ダイヤ「……」
「ダイヤ」
ダイヤ「! ……あ」
かなん「あーっと、その……えっと」
かなん「さっきは、ごめん。なんか、私だけ勝手に突っ走っちゃってさ」
かなん「ダイヤのこと、ほったらかしにして、見てなくて……ごめん」
ダイヤ「……」
かなん「あのとき、私のこと信じてくれるって言ってたのに、頼ってくれって言ったのに」
かなん「わたし、まだ打ち明けられてなくて……」
ダイヤ「……なら、一つだけ」
ギュゥ
かなん「ダ、ダイヤ……?」
ダイヤ「……ばか」
かなん「え」
ダイヤ「馬鹿ですかあなたは! そんな姿になるまで暴れて! 親しい人まで傷つけて!」
ダイヤ「それに! ……それにっ……!」
ダイヤ「自分をいちばん傷つけてまで、私のために……」
かなん「ダイヤ……」
ダイヤ「ばか、本当にばか……あなたが、果南さんが笑ってくれなかったら」
ダイヤ「私は、いったい何を、支えにすればいいんですか……」
かなん「─!!」
ダイヤ「もう誰かの辛い顔は見たくないのに、あなたまでそんな顔をしてしまったら」
ダイヤ「わたくしはもうっ……がまんできません……」ポロポロ
かなん「……ごめん、だいや」ギュッ
かなん「ごめんね……ほんとうに、ごめんなさいっ」ポロポロ
今回はここまでです
なかなか更新できず申し訳ございません
はなまる「…………」
はなまる(話し声、聞こえなくなったな)
スッ
はなまる(今って何時なんだろう)
はなまる「…………」コクリ コクリ
「花丸さん」
はなまる「伯父さん」
黒澤父「夜に強いんだな花丸さんは。他の方は、きっともう帰って寝てしまわれたというのに」
黒澤父「先程ダイヤもお友達と眠りについたところだ」
はなまる「ダイヤさんが……大変でしたからね」
黒澤父「ああ……花丸さんは、まだ大丈夫なのかな? 体調の方は」
はなまる「問題ないです」 黒澤父「……そうか。しかしな、花丸さん」
黒澤父「そろそろ私たちにも番を譲ってはくれないだろうか」
はなまる「え? ……あっ」
黒澤父「花丸さんほどではなくとも、あの子に言いたいことはたくさんあるのでね」
はなまる「ご、ごめんなさい。マル……ずっと夢中で、気が付かなくて」
黒澤父「構わないさ、それほどサファイアを想ってくれていたんだろう? ありがとう、父親としてお礼を言わせてもらうよ」
はなまる「い、いえ……お礼を言うのは、こちらの方です」
黒澤父「ここからは私たちの時間だ、君はもう行きなさい」
はなまる「はい…………おやすみなさい」 黒澤父「……ふう」
黒澤母「ようやく口に出しましたね、花丸さん」
黒澤父「ああ、あの様子なら心配はないだろう」
黒澤母「だけど……本人はきっと気付いていないのでしょうね、その場からあまりにも動かないものだから」
黒澤母「彼女と関わりのない人ですら、その身を案じていたということに」
黒澤父「意識的にやったかどうかは分からないが、花丸さんは目の前の情報以外を極力遮断しているような節があったからな」
黒澤父「本当にただそれだけのことに集中していたんだろうさ」
黒澤母「しかし番を譲れとはよく言ったものですね、あれなら確かに花丸さんも食い下がることなくご就寝につけますし」
黒澤父「そろそろ限界だったからな、それに」
黒澤父「嘘を言ったわけでもない、自分たちの時間が欲しいというのは……本当のことだからな」
黒澤母「……ええ」
はなまる「…………」モゾモゾ
はなまる(さっき見たダイヤさんと果南さん、目のところ赤かったな)
はなまる(小母さんも……)
はなまる(やっぱりマルは人でなしなのかな)
はなまる(……どうしてアオちゃんは、マルのこと好きになったんだろう)
はなまる(ああ、なんかすごく……ねむたいや…………)
はなまる「……アオ、ちゃ……ん……」
会いたいよ、そこにいるんでしょ? アオちゃん
…………
その翌日、彼女の体は火葬場へ出棺され
あの頃よく見た愛くるしい笑顔の面影はもうどこにもなく
文字通り骨だけの、他とは区別のつかないものになってしまった
当然、と言っていいものなのかは分からないけれど
やっぱりその時のマルも、特になんとも思ってはいなかった
極めて平常に務め、無心にその亡骸を拾い集めていた自分が
そういった念を抱くのも、おかしな話だし
一番初めに決めたちゃんと見送ってあげたいという自分なりの答えを
ほっぽりだすことになるんじゃないかという懸念もあったから
だから結局最後まで、その感情が動くことはなかった
ただ、一つだけ気掛かりがあって
それは今のマルを見て、アオちゃん自身はどう思っているんだろうと
そんな、今更聞いたところで誰も分からないようなことが
全てが終わった後で突然、ふと、頭の中によぎって
何故だろう、それが一番
自分の胸を締め付けているように思えた
─それから少しの時間が経って
4月某日、小学校入学式
ザッザッ
花丸「ただいま、今帰ってきたよアオちゃん」
── 黒澤家之墓 ──
花丸「あ、このお花さっき見つけて買ってきたの。綺麗でしょ?」
花丸「えーっと長さを合わせて、お水も変えるね?」
花丸「はい、どうずら? やっぱり見た目も気にしないとね」
花丸「……学校、行ってきたよ」
花丸「アオちゃん気になってたもんね? 大きかったよ~、幼稚園よりもずっと」
花丸「生徒もたくさん、途中でダイヤさんにも会ったずら」
花丸「それでね、ちょっとだけ案内してもらったんだけど」
花丸「図書室があってね、そこには当たり前かもしれないけど色んな種類の、たくさんの本があって……」
花丸「早く読みたいなあって思ってるんだ、マルが詳しくない分野のものとかもあるし」
花丸「あとはね、音楽室にも行ったよ」
花丸「目立つところにピアノが置いてあって……うーん、でもピアノが置いてあるから目立ってるのかなあ?」
花丸「ちょっと分からないかも……あ、それでねダイヤさんが許可さえ貰ったら生徒も弾いていいって言ってて」
花丸「だからもしかするとアイドルの曲も弾けたりするのかなあって。マルは楽器とか、全然出来ないけど」
花丸「もし詳しい人がアイドルの曲を演奏してくれたら、素敵だよね」 花丸「あと、あとね、すごかったんだあ、今日の入学式」
花丸「学校に入ったばかりだっていうのにね、もう他の子と仲良くなった人がいて」
花丸「それで一緒に歩いて帰るところも見たんだけど、本当に楽しそうでね」
花丸「だから、だからね、えっと」
花丸「……」
花丸「ちょっと、羨ましいなって思ったの」
花丸「あそこに、あの中に、マルとアオちゃんもいたのかなあって思うと」
花丸「なんか、ちょっと苦しくなって、ここに来たの。どうしても言いたいことがあったから」
花丸「……アオちゃん」
花丸「会いたいよ」 花丸「二人で学校に行きたい、一緒に授業も受けたいし、休み時間にお話とかたくさん」
花丸「アイドルのこととか、マルの好きな本の話とか、なんでもいいの」
花丸「クラスのことでも誰かのことでも行きたいところでも、本当になんでもいいから」
花丸「アオちゃんと話がしたいっ……アオちゃん……」
花丸「なんでいなくなっちゃったのっ、言ったよね? ずっと一緒だよって」
花丸「だからマルも信じてたのに、あのときっ花をあげようとしたときも」
花丸「ずっと一緒にいようねって、マルは、言おうと思ってたのに、なのに」
花丸「なんで、聞いてくれなかったの どうして、マルを置いて行ったの!?」
花丸「会いたいよアオちゃん! アオちゃんに会いたい!」
花丸「お願いだから、もう一生ぶんのお願いでいいから!」
花丸「マルを、ひとりにしないで……!!」
アオちゃんが亡くなってから10日ほど経ったその日
マルは初めて、アオちゃんの前で涙を流した
その瞬間、今まで不思議に感じていたことが、モヤモヤしていたものがスッとなくなっていくのが分かって
それで今更になって気が付いた
アオちゃんがいなくなって……マルはずっと、寂しかったんだ
ずっと悲しかった、でもその事実が受け入れられなくて
なんてことのないように振舞ってた
本当は辛かったのに、あのときのマルはアオちゃんのことしか考えてなくて
自分の気持ちをずっと無視していて……だから
それを見たアオちゃんが、どう思うんだろうって考えたときに
あんなにも、胸が苦しくなったんだ
花丸「いやだ、嫌だよアオちゃん! 離れたくないよっ!」
ごめんね、あのとき、そう言えばよかったんだよね
ちゃんと自分の気持ちと向き合って、素直に言えば、それでよかったんだよね
花丸「マル、まだアオちゃんに言いたいことたくさんあるのに!!」
花丸「アオちゃんだって、マルに話したいことたくさんあるじゃん!!」
花に込めてまで、そんな風にいようって決めてたのに
肝心なところで何も伝えられなくて、ほんとうにごめんね
花丸「嫌だよ、一人はいやだ……! あなたが隣にいなくちゃ、マルはなんにも楽しくない……!!」
アオちゃん、ずっとずっと、大好きだったよ
きっと、初めて出会った時からずっと
でも、その想いは叶わなかった
黄色いチューリップの花言葉は「望みのない恋」
報われることなく終わりを迎えるのは、その花からすれば分かりきってたことかもしれない
ただ、それでもいい
あのとき選んだ自分に嘘はなかったと、自信をもって言い切れるのだから
そしてなにより、たとえこの恋が叶わなくても
マルの想いが揺らぐことは絶対にないから、だから大丈夫
大丈夫だよ、アオちゃん
でも今日だけは、思いっきり泣いてもいいよね?
明日からは、笑ってあなたに話しかけるから
今だけは
ダイヤ「……」
果南「行かないの?」
ダイヤ「いえ、今はやめておきます」
果南「そっか」
果南「……あのさ」
ダイヤ「はい」
果南「私は絶対にダイヤの傍から離れないからね」
ダイヤ「……」
果南「何があっても、私は」
果南「ダイヤの前からいなくなったりしないから」
果南「ずっと一緒にいる。約束する」
ダイヤ「はい」 果南「いやいや、はいって。普段なら重いですわとか言うところじゃないのそこは」
ダイヤ「自分から切り出しておいて何を言ってるんですか」
果南「そうだけどさあ」
ダイヤ「……思いませんわよ、そんなことは」
ダイヤ「寧ろ、嬉しいのです」
ダイヤ「私にとって果南さんはただの一友人ではない、大切なお方ですから」
果南「……あ、そう」
ダイヤ「ひょっとして照れてます?」
果南「たぶん」
ダイヤ「珍しいですわね」フフッ
果南「ダイヤがからかってくるのもね、最近はずーっと暗かったし」 ダイヤ「暗いとはなんですか暗いとは!」
果南「あはは、でも今はそれくらい元気なんだから問題ないよね! いやー良かった良かった」
ダイヤ「人が怒っている姿を見て元気と言いますか」
果南「うーん、っていうか悲しい顔はあんまり見たくないけど」
果南「私は怒ったダイヤも笑ったダイヤも好きだからなあ、それに色々表情があるって良いことじゃん。それじゃ駄目?」
ダイヤ「……仰りたいことは分かりました、ですがその軟派めいた言い回しはどうにかならないのですか?」
果南「なに、軟派めいてるって」
ダイヤ「自覚がないのならいいです、あなたの毒牙にかけられないよう私が目を光らせるだけですから」
果南「ちょっとダイヤ、どういう意味それ?」 ダイヤ「聞くばかりではなく少しは自分で考えなさいな」
ダイヤ「全く、果南さんは本当に……」ブツブツ
果南「なんで機嫌悪くなってるの? ダイヤー、ねえってばーー」
ダイヤ「知りません!」
果南「知りませんって……なんだかなあ」
果南「たまーに分からなくなるんだよな、ダイヤって。今とか何考えてるのかさっぱり」
果南「でも」
本当に大事なものは何か……大切な人は誰か
それさえ忘れなきゃ、お前はきっと大丈夫だよ
果南「ま、いっか」クスッ
──
曜「わーっ! 今日は豪華だね! 船に音楽の人たちが来てる!」
「ああ、今回の演奏会はピアニストもいるみたいだな」
曜「私船の上でピアノを見るの初めて! うわー、いいなあ……」
「お、曜は将来ピアニストになるのか?」
曜「違うよ! 私はパパと同じで船長になりたいの!! もう、分かってるくせに!」
「ははっ、悪かった。そうだな、曜は昔からそうだ」
曜「でもいいなあピアノ、私が船長になったらいつか……」
「夢がひとつ増えたってわけだな」
曜「そうそう! 絶対に私の船にピッタリの人を見つけるんだから!」
曜「それでお客さんもたくさん呼んでー……!」
「へえ、それは楽しみだな」
──
梨子「~♪ ~~♪」ポロン
梨子母「だいぶ上手くなったわね、ピアノ」
梨子「ありがとうお母さん」
梨子母「やっぱり部屋に余計なものがないと、それだけ集中出来るのかしらね」
梨子「そうなのかな、確かに広くて弾きやすいけど……それだけじゃないような」
梨子母「? たとえばどういうの?」
梨子「えっとね、上手くは言えないんだけど」
梨子「ここにいると、凄く落ち着くの。一人なんだけど一人じゃないっていうか」
梨子「ずっと誰かが私の隣で聴いてくれているような気がして」
梨子母「…………」
梨子「へ、変だよね、私しかいないのに」
梨子母「いいえ、ちっとも変じゃないわ。それはね、梨子の感性がそれだけ良いってことなんだから。もっと自信を持って」
梨子「感性……」
梨子母「ええ……あ、そうだわ。さっきコンクールの応募を見つけたんだけど、梨子出てみない?」
梨子「コンクール……うん、やってみようかな」
──
茜「お父さん、いる?」
…………
茜「またお出かけ、じゃあ……」ピッ
「えーそれでは本日お越しいただきました○○のみなさんに話をお聞きしたいと思います!」
「この後披露される新曲はなんと、テレビでは本番組が初とのことですが」
「そのことについてご自身で、特に注目してほしい見所、といったものはありますか?」
「そうですね……今回は底抜けの明るさがテーマなので」
「私たちの歌や踊りを見て、少しでも前向きでいようとか、ポジティブになろうとか、そんな一歩を踏み出せるような勇気を持ってもらえたら嬉しいですね」
茜「…………」
「ありがとうございました、それではスタンバイのほうお願いします!」
「お待たせいたしました! ○○さんで新曲……」
~♪ ~~♪
茜「……いいなあ」
茜「私もあんな風に楽しく歌えたら、私も誰かを笑わせることが」
茜「笑顔にすることが出来るのかな……」
それは、まだ幼かった少女たちの話
互いのことを知らないまま、ただ過ぎ行く日々を見送っていた時代
もしかしたら、このまま誰とも関わることなく終わる人生もあっただろうに
何の因果か、ほどなくして私たちは道の途中で交ざりあうことになる
望んでいたから見つかったのか、望まれたからそこにいたのか
答えは誰にも分からないまま、けれど確かに目の前には存在していて
本当は知らないはずなのに、よく知っている"誰か"
そんな彼女との邂逅は私たちの運命を大きく左右することになるのだけれど
それはまた、別のお話
今回はここまでです、スレが落ちないよう毎回保守してくださり本当にありがとうございます
話自体が長くなってしまったのと更新が遅いこともあって二ヶ月以上の時間がかかりましたが、今日の更新を持ちましてAZALEAの過去回想は終了になります
次回からは現在の話に戻りますが、またしばらく更新できない日が続くかと思います、申し訳ありません
花丸「────懐かしいね」
ダイヤ「ええ、あれからもう十年以上の時が経っていますけれど」
ダイヤ「私からすればついこの間のことのように感じてしまう時があるの、不思議ですわよね」
花丸「ううん、マルにもその感覚はなんとなくだけど分かるよ」
花丸「ルビィちゃんたちと出会ってから過ごした時間も凄く充実してるはずなのにね」
花丸「一緒にしたり、比べること自体が間違っているのかもしれないけど」
ダイヤ「…………確かに、あまり優劣をつけることは出来ないかもしれませんわね」
ダイヤ「昔と今では感じ方も考え方も違いますから。ただ」
ダイヤ「そんな中変わらないものが私にも一つだけあったのです」
ダイヤ「花丸さん、あなたがサファイアに向ける気持ちと同じように」
花丸「……」
ダイヤ「それが──」 聖良「果南さんとダイヤさんの関係なんですね」
『うん、それだけは出会った頃からずっと変わらなかった』
『私とダイヤはいつも一緒で離れたことなんて一回もなかったし、それこそお互いにとって誰よりも長い付き合いになってるんじゃないかな』
『まあ、半分は私が原因なところもあるかもだけど』
聖良「わざわざスクールアイドルの活動に付き合ったり、東京にまで一緒にくるくらいですからね」
『割と刺さるね、こうやってストレートに指摘されると』
聖良「今だってそうでしょう?」
『いやこれはユニットで分かれたから自然な流れだし……』
聖良「自分からお節介を焼いておいてその言い分もおかしな話だとは思いますけど?」
『し、仕方ないじゃん、放っておけなかったんだから』
聖良「開き直らないでください」 『けど、余計だったのかな。当人からすれば』
聖良「本気で言ってます?」
『何割かは、ね』
聖良「……呆れた、ちょっと距離を置かれた程度でその体たらくとは」
聖良「あの人がそんなこと、思うはずがないでしょう」
『…………』
聖良「ダイヤさんがいたから今の果南さんがあるように」
聖良「今のダイヤさんがあるのもまた、果南さんが隣にいたおかげなのだから」
『でもそのせいで、今こうして迷ってる』
『私も、ダイヤも』
聖良「ならそれはきっと、いつか乗り越えなければいけない障害がやってきたということなのでしょう」
聖良「果南さんだって分かっている筈」
『……分かってるよ、だからダイヤは』
『必死に過去の面影を振り払おうとしてるんだ』 ダイヤ「……知ってますか、花丸さん」
花丸「何を?」
ダイヤ「私ね、好きだった人がいたんです」
花丸「……」
ダイヤ「昔の話ですけどね、私はその子の屈託のない笑顔が好きでした」
ダイヤ「気を遣えるところも、純粋に慕ってくれるところも」
ダイヤ「妹といると、本当に楽しそうなところも」
ダイヤ「私は、大好きだったのです……マルちゃん」
花丸「……」
ダイヤ「ご存じだったのでしょう?」 花丸「ううん」
花丸「驚いてないのは、それを聞いたのがきっと今、このときだからだと思う」
ダイヤ「そうですか」
ダイヤ「私も今このときでなければ、伝えることはなかったかもしれませんね」
花丸「それに……ダイヤちゃんは、多分マルにもう未練なんてないよね?」
ダイヤ「……ええ、貴女にはもう一度、そう呼んでもらえただけで十分ですから」
ダイヤ「心残りがあるとすればそれは────」
ダイヤ「気が付いたときには既に、引き返せないところまで来てしまったということです」
ダイヤ「だから揺らぐことのない花丸さんが羨ましかった、もし私にもそうすることが出来ていたのなら」
ダイヤ「きっとこうして迷い続けることもなかっただろうから」
花丸「……ダイヤさんは、本当に好きなんだね」
花丸「果南さんのことが」
ダイヤ「…………」ニコ 聖良「何か勘違いしていますね果南さん」
『え?』
聖良「今あなたの言っている過去というのはサファイアちゃんや花丸さんのことですよね」
『だったら?』
聖良「間違いですよ、それは」
聖良「もし彼女のいう障害を乗り越える方法が決別なのだとしたら」
聖良「その二人を上げるのは少し今更過ぎる気がしませんか?」
『そんなことはっ……』
聖良「ありますよ、だってそれよりももっと有力な候補がまだ残っているんですから」
聖良「過去は過去でも、今なお切らさず続いているものが……ね」
『!!』
聖良「だから彼女はあなたを遠ざけた」
聖良「いい加減気付いたらどうですか?」
『……待ってよ、その言い方じゃ、まるで……』
聖良「……関係は変わらずとも、過ぎ行くなかで心は移り変わっていく」
聖良「そんな可能性がないわけじゃない、あり得ないことはない」
聖良「つまりはそういうことです」 『…………』
聖良「どうしますか?」
聖良「今ならまだ、間に合うと思いますよ」
『……そうだね、そうかもしれない。でも』
『はっきり言おうか?』
聖良「ええ」
『分からないんだ、本当にそれが正しいのかどうか』
『確かに前までの私なら、答えなんて決まりきっていたんだろうけど』
『即座に駆け付けに行ったんだろうけど』
聖良「…………」
『でも、今の私がそれをやったところで私は多分幸せにはなれない』
『今までの関係の延長線上で成立した、妥協でしかないから』
『それに既に託したものを、今更返せなんて言えないよ。ははっ』
聖良「……」
『……ほんと、何やってるんだろうね、私』
『遅すぎるんだよね、全部』
『気付いたときにはもう、とっくに』
『ねえ聖良、私は』
聖良「好きです」
『え』
聖良「あなたと二人、あの場所で出会った時からずっと」
聖良「あなたのことをお慕いしていました」
『ちょ、ちょっと聖良?』
聖良「たとえ今、らしくない弱さを見せても、変な意地を張っていても、自分で自分を、嫌いになっていたとしても」
『──!』
聖良「私はあなたのことが好きです」
聖良「世界中の、誰よりも」
『…………』
聖良「だからもう迷わないで」
聖良「私から言えるのはそれだけです」
『……そっか』
聖良「はい」
『……そういえばさ』
聖良「はい」
『私、こっちに来るときイタリア料理がどんなものか興味があったんだけど』
『なんかそろそろ日本の味が恋しくなってきたっていうか』
聖良「ふふっ、そうですか」
『ちゃんときっちり片を付けてくるよ、だから』
『私の好物、用意して待っててくれる?』
聖良「私の得意なものでよければ、いつでも」
『ありがと』 『じゃああとは帰ってきたときにまた』
聖良「ええ、お待ちしています」
『……私も』
聖良「え?」
『私もあの時に会ったのが聖良でよかった』
聖良「……」
『おやすみ、聖良』
プツン
聖良「……」
聖良「ズルいひと」
ダイヤ「本当、ズルい女です。私は」
ダイヤ「あっちへ行ったり、こっちへ行ったり、立ち往生をしてみたり」
ダイヤ「それで見落としたものも少なくないのに」
花丸「それはダイヤさんが背負いすぎてるからだよ、色んな人に応えようとするからだよ」
花丸「だから一ヶ所に定まらないの、自然と足がばらつくの」
ダイヤ「なのに安心しきって今の今までなあなあにしていたのです」
花丸「それは自分自身に目を向ける暇がなかっただけ」
ダイヤ「いつだってそこに彼女がいたから」
ダイヤ「だからきっと大丈夫なのだろうと」
花丸「だったら果南さんにそう言えば……」
ダイヤ「いいえ、話しません」
ダイヤ「これ以上果南さんの時間を、心を、奪うわけにはいかないのです」
ダイヤ「この先の彼女の為にも、それに……果南さんは元から私のものではないのだから」
花丸「……」 花丸「硬すぎるよ、ダイヤさんは」
ダイヤ「そうかもしれませんわね」
花丸「自分が思ってる以上に、だよ」
ダイヤ「……」
花丸「もう休むずら、これ以上何を言ったらいいのか分からないし」
花丸「何を言っても弾かれる気がするから」
ダイヤ「ええ、夜更かしは体の毒ですからね」
花丸「眠って毒が抜けていくなら、苦労はしないずら」
ダイヤ「花丸さん? 今なにか」
花丸「…おやすみ、ダイヤさん」
花丸(心残り、か……)
翌日
花丸・ダイヤ・果南「ありがとうございました!!」
パチパチパチ……
ダイヤ「……」
絵里「お疲れ様、どうだった? 手応えの方は」
果南「正直、あまり良いとは……午前で盛況だった花丸ちゃんのと比べると」
絵里「そうね、いまいち反応が薄いところがあるわ」
果南「はい」
絵里「となると今回のライブは失敗ということになるのだけど、その原因はなんだと思う?」
果南「それは」
花丸「ダイヤさんが集中してなかったからだと思います」
ダイヤ「!!」 果南「えっ……」
絵里「……」
花丸「少なくともマルと果南さんは問題なかったと考えてます」
果南「ちょ、ちょっと花丸ちゃん何言って」
絵里「間違いないわね、私から見てもそう感じたもの」
果南「絵里さんまで!」
絵里「ダイヤ、後で私のところに来なさい。大事な話があるから」
果南「!」
絵里「あなた一人で、ね」
ダイヤ「……分かり、ました」
絵里「じゃあ今日はこのままホテルに戻りましょう、みんなお疲れ様」 果南「花丸ちゃん、さっきの」
花丸「マルは果南さんと二人にさせたくてやったんだけど、どういうことずら?」
果南「ああいやそれは、私が昨日絵里さんにちょっと、ね」
花丸「そっか、考えることは一緒だね。マルのはだいぶ意地悪だったけど」
果南「下手に庇うと進展しないっていう花丸ちゃんの気持ちも分かるけどね」
花丸「……本当に良かったのかな、これで」
花丸「絵里さんのことは信じてるけど、やっぱり自分たちでどうにかしたほうが良かったじゃ」
花丸「だってダイヤさんは」
果南「分かってるよ花丸ちゃん、多分……みんな分かってる」
果南「だから最後は私で終わらせなくちゃいけないんだ」 果南「あの人は整えてくれるってだけ、どんなに助けを求めてそれに応えてくれたとしても、これは私たちの問題だから」
果南「だから自分のやるべきことも分かってるつもり」
花丸「果南さん」
果南「今更だけどね。だから花丸ちゃん、最後にこれだけ言っておくよ」
果南「私は、あなたのことをずっと羨ましいと思っていた」
果南「それと、ちょっとだけ憧れてた」
花丸「……一緒だね」
果南「え?」
花丸「マルも同じこと言おうと思ってたから」クスッ
果南「……そっか、良かった」フフッ
花丸「頑張ってね、果南ちゃん」
果南「任せなさいって」 遅くなって申し訳ありません
今週中にはなんとか更新します
─
絵里「さてと、ダイヤ」
ダイヤ「はい」
絵里「どうしてあなただけ呼び出されたか分かる?」
ダイヤ「そ、それは私が皆さんの足を引っ張ってしまったから……」
絵里「うーん、まあ確かにそれもあるにはあるんだけど……正しく言うなら」
絵里「何故そうなってしまったか、その根本的な原因をダイヤに教えるためよ」
ダイヤ「……迷い、もしくは雑念ですか」
絵里「なら、仮にそうしておきましょうか。でもねダイヤ、だとしたら」
絵里「どうして迷うの? あなた言ってたわよね、鞠莉を助けたいんだって」
絵里「そしてそのためにどうするべきかは最初から目的として明示されてるでしょ?」
絵里「そこまで分かってて、どうして捨てきれないの? 賢いはずのあなたが」
ダイヤ「……何が言いたいんですか」
絵里「ダイヤ、あなたまだ」
絵里「他人から見て優秀な人間であろうとしてるんじゃないの」
ダイヤ「─!?」 絵里「誰かに離れられたくないから、見限られたくないから、いつだって最適解を探そうとして」
絵里「そしてずっと実行し続けてきた、相手のために。何より自分を納得させるためにね」
絵里「だってそうでしょ? 相手に決められるよりも自分で出した答えのほうがいくらか言い訳がきくもの」
絵里「これは私の決断なんだ、だから自分自身に不満なんて、あるわけがないんだって」
ダイヤ「!」
絵里「あなたが優先してるのは他人じゃない、他人に求められてる自分」
ダイヤ「…………」
絵里「別に常日頃から嘘をついてるって言ってるわけじゃないの、寧ろその逆」
絵里「あなたは本音と建前を上手く使いすぎてる、たとえ心の奥底で表面に出したものと反対の想いがあったとしても」
絵里「本当のあなたと周りが思い描いている黒澤ダイヤを天秤にかけて、あなたはダイヤを選ぶ。選んでしまう」
ダイヤ「……何を」 絵里「そしてあなたは今まさにそれをやろうとしている」
絵里「なのにこれまでみたいに上手くいってないのは、自分を誤魔化しきれてないからよ」
絵里「たった一人、特別な相手が、唯一心の底から寄り添える人が目の前からいなくなってしまうかもしれない」
ダイヤ「あなたは……何を……!」
絵里「既に自分の中で答えは出ているのにそれでも揺れるのは、そのあまりにも大きすぎる痛みを前にして、本当のあなたがまだ拒絶し続けているから」
絵里「だから今ダイヤは"こうであるべきだ"って決めた自分らしさに雁字搦めになってるんじゃないの?」
絵里「今日の一件もそうよ、未だにどちらにも傾かない、傾けられないからどうにか先延ばしにしようとして……」
ダイヤ「知った風なことを……っ……言わないでください!!」 ダイヤ「あなたに何が分かるんですかっ! 花丸さんでも果南さんでもないあなたに! ……私の、なにがっ!!」
絵里「似てるからかもしれないわね、私とダイヤが」
ダイヤ「似ていませんわよ! どこも!!」
絵里「一人で何でもやろうとして、追い詰められても強がって、見栄を張って」
絵里「弱いところを見せたくなくて、最後の最後まで本当の気持ちを隠したまま、自分に嘘をついて……」
絵里「本当、昔の私にそっくり……」クス…
ダイヤ「! じゃあ……じゃあどうすればよかったんですか私は!!」
絵里「簡単なことよ、逃げるのをやめなさい」
ダイヤ「……私が、何から逃げていると」
絵里「ダイヤ自身が傷つくことから。もう、自分でも分かってるんでしょう?」
ダイヤ「……っ」 絵里「ダイヤ、別れは必ずやってくるわ」
ダイヤ「…知っています」
絵里「それでもよ。今のあなたには言わなくちゃいけない」
絵里「別れは来るわ。時間が流れている限り、私たちが生きている限り、絶対に」
ダイヤ「……」
絵里「それこそ、私たちの力だけではどうしようも出来ないことだっていくらでも……でもね」
絵里「どうしようもないことだからこそ本気でぶつかってほしいの、向き合ってほしいの」
絵里「本心を押し殺したまま、優等生の自分に答えを預けてほしくないのよ」
絵里「それが今、あの二人がダイヤに求めてることなんじゃないかしら?」
ダイヤ「……あ」
絵里「酷いことを言ってるのは分かってる、それでダイヤがどれほど傷つくのかも……私には想像がつかないことだって」
絵里「でも、あなたなら出来る。私に対して真正面からぶつかってきたダイヤになら出来るわ」
絵里「大丈夫、譲れない感情はちゃんとここに残ってる」
絵里「だからもっと相手を信じて。弱さを受け入れる自分を信じて」
ダイヤ「……本当に」
絵里「?」
ダイヤ「本当に、私と絵里さんは似ているのですか」
絵里「ええ」
ダイヤ「私は、あなたのようになれますか?」
絵里「…………」
ダイヤ「こんな臆病な私でも、あなたのように……強く」
絵里「ダイヤ、あなたは私のようにならなくていいわ」
絵里「あなたの心は他の誰でもない、貴女だけのもの」
絵里「だから人一倍、怖いと感じるかもしれない。それでも」
ギュッ
ダイヤ「──!」
絵里「負けないで。どんなに辛くても、苦しくても……私はここにいる」
絵里「痛みを乗り越えて強くなりなさい。黒澤ダイヤ」
サァーッ サァーッ……
果南「…………」
ザッザッ
果南「…待ってたよ」
ダイヤ「ええ、本当に長いことお待たせしてしまいました」
果南「ほんとだよ、二年も待たせて」
果南「うん、ダイヤとこうやって話すのは……二年ぶりだ」
ダイヤ「二年、ですか……色々ありましたわよね」
果南「うん、ありすぎた」
ダイヤ「それこそ果南さん、あなたと初めて出会ったあの日からは比べ物にならないくらい」
果南「……かもね。あの頃の私たちの世界は、とてもちっぽけだった」
果南「でも、だからこそ……目に映るもの全てが、眩しく見えたんだ」
果南「私にとってダイヤは、その中でも一際輝いて見えたよ」
ダイヤ「そうですか」 果南「ダイヤは?」
ダイヤ「そうですわね……おかしな人、でしょうか」
果南「あははっ、なにそれ」
ダイヤ「言葉足らずでデリカシーがなくて、失礼極まりなくて」
果南「ちょっとちょっと」
ダイヤ「それでいて、私の気持ちをいつでも汲み取ってくれて傍にいてくれた、とんでもない世話焼きさんで」
ダイヤ「なのにどこか危なっかしくて……だからでしょうか」
ダイヤ「自然と会いたくなってしまう一方で、目を離してはいけないような」
ダイヤ「そんな唯一とも言えるような相反した気持ちを抱えるくらいの、不思議な魅力を持った人でしたわ」
果南「…………ほんと、重いなあ。ダイヤは」
ダイヤ「お互い様でしょう?」 果南「ダイヤ、私ね、やっと分かったんだ」
ダイヤ「何をですか?」
果南「どうしてこんなに近くにいたのに、ダイヤのこと…こんなに遠くに感じていたんだろうって」
ダイヤ「…奇遇ですね、私もです」
果南「そっか。でも、多分そうなんじゃないかなって思ってた」
ダイヤ「ええ」
ダイヤ「私たちが見ていたのは、鏡に映っていた……お互いの姿だったのですね」
果南「通りで、振り向いてくれないわけだ」
果南「だってもうとっくに……目の前にいたんだから」 ダイヤ「どうして、気付かなかったのでしょうね」
ダイヤ「私に話しかけてくるあなたは、いつでも私の目を見てくれていたというのに」
果南「ダイヤはそんな私の目を見つめ返してくれたっていうのに。本当、なんでだろうね」
ダイヤ「……諦めなければよかった」
果南「!」
ダイヤ「今の私たちを一言で表すなら、きっとそうなるのでしょうね」
果南「ダイヤ……」
ダイヤ「好きなら好きと、最初からそう言えばよかった」
ダイヤ「あなたのことが好きだった。と」 ダイヤ「だけど、あなたの気持ちが変わることはないのでしょうね」
ダイヤ「もちろん、今の私の気持ちも……だから」
ダイヤ「この言葉を言うのはこれが最初で最後です」
ダイヤ「果南さん」
果南「うん」
ダイヤ「ずっと前から好きでした」
果南「……私もだよ、初めて会ったあのときからずっとダイヤが好きだった」
果南「本当に、大好きだったんだよ」
ダイヤ「知っています」
ダイヤ「ちゃんと、分かっていますわ……みなまで言わなくとも、ちゃんと」
果南「……よかったよ、ダイヤの口からそれが聞けて」
果南「これで私ももう思い残すことはなくなった」
果南「まだ吐き出したいことがあるなら聞くけど?」
ダイヤ「ここにきてまで、まだ私が隠し事をするとでも?」
果南「あははっ、だよね。ちょっと聞いてみただけ」 果南「じゃあ、最後に私から一つだけ」
果南「ダイヤ」
ダイヤ「はい」
果南「後悔しないでよ、私と別れたこと」
ダイヤ「……」
ダイヤ「何を言い出すかと思えば、最後まであなたは本当に……仕方のない人」
ダイヤ「後悔なんて、とっくにしています」
ダイヤ「今更言ったところでもう遅いですわよ」ニコ
果南「……そっか、じゃあ、もういいよね?」
ダイヤ「ええ」
果南・ダイヤ「さよなら、今までありがとう」
「私の────」
初恋【最愛】の人
花丸「……」
スタスタ
果南「……」
花丸「おかえり、果南ちゃん」
果南「っ」
ダキッ
花丸「わわっ」
果南「……ぅ……ひぐっ……」
花丸「…………」サスサス
花丸(そのとき、マルは初めて果南ちゃんが泣いてる姿を見たような気がした)
花丸(いつもマルたちを気遣ってくれていて、大らかで頼りになって、気丈に振る舞うあの果南ちゃんが……今、声を上げて泣いている)
上げた声に言葉としての意味はなくても、それだけで何があったのか、分かってしまって
だから、口に出すのはやめた。慰めも、共感も、なぞったところで文字のままでしかないから
ただそのまま受け止めよう、受け入れよう。大丈夫だよ、泣いてもいいんだよって
こんなとき、そう抱きしめてくれる人がいるだけでどれだけ救われるのかは
自分が一番、よく知ってるから
ダイヤ「…………」
絵里「お疲れさま」
ダイヤ「絵里さん」
絵里「頑張ったわね」
ダイヤ「っ……いえ、なにも……」
絵里「もういいじゃない、たとえダイヤにとってどんな結果になってたとしても」
絵里「やるだけやったあなたを、目をそらさずに懸命に戦い抜いたあなたを、笑う人なんて誰もいないわ」
絵里「私はダイヤを笑わない。だから、もういいのよ?」
ダイヤ「……く……うぅ……」
ダイヤ「あああぁぁ……!! あああああああああっ!!!」ボロボロ
絵里「……だから、最初に言ったのよ」
絵里「あなた、強いんだからって」
…………
数日後
AZALEA ライブ当日
絵里「さあ、みんな準備は出来た?」
ダイヤ「勿論ですわ」
果南「なんなら体調万全までありますよ」
花丸「声の通りもいつもよりいい気がします」
絵里「そう、それは期待しちゃうわね」
絵里「さっきも話したけど、Guilty KissとCYaRon!の二組はもうノルマを達成してミラノの方に戻ってるらしいわ」
絵里「つまり私たちが最後、気持ちよく終わらせましょう?」
「はい!」
絵里「よし、行ってきなさい!」 ーーーーーーーー
♪
花丸「信じてるコトバの魔法 キミよいつかトリコになって」
花丸「わたしをいつでも見つめてPLEASE!!」
ダイヤ「準備しようどんなコトバで 好きが伝わるのかわからない」
ダイヤ「吐息なら熱く伝わるのに」
果南「一度だけきっとチャンスがあるの」
果南「いつがその時だろ…つかまえなきゃ絶対っ」
「AH! 誰も恋への……」
絵里「AZALEA……か」
絵里「いい名前よね、純情で、可憐で……ひたむきで」
絵里「見守らずにはいられない、なにより今の彼女たちが」
絵里「そうありたいと願っている、美しく咲き誇る大輪の花のように」
絵里「確かにいつかは散り行く運命、それでも」
絵里「私たちは彼女たち三人から目を離すことが出来ないのよね」 ダイヤ(不思議な感覚────)
ダイヤ(心が軽いわけでも、重いわけでもないのに)
ダイヤ(自然と声が透き通っていくような、淀みのない)
ダイヤ(鮮明な色が見える……音が、景色を彩っていくのが分かる)
ダイヤ(これを今、私たちが作り上げているの?)
ダイヤ(こんなの……初めて)
「近道なんて知らない」
ダイヤ(こんなものを見てしまったら、もう)
花丸(! ダイヤさん)
ダイヤ(ああ……私は本当に)
ダイヤ(後悔ばかり)
果南(ダイヤ────笑ってるの?)
絵里「人が花に愛おしさを感じるのはきっと」
絵里「いつしか枯れていく、その結末すら慈しむことが出来るから、なんでしょうね」
絵里「そして、どんなに萎れても」
絵里「花(あなた)が光を求める限り、何度だって輝けるの」
絵里「だからこんなにも、綺麗なのよ」
ダイヤ(好き、この時間が好き)
ダイヤ(たとえ何もかもを失っても、今……この瞬間だけは)
「だけど、ね? LOVE ME!!」
ダイヤ(私が私のことを、好きでいられる)
ダイヤ(誰かを想う気持ちと同じくらい、自分を────!)
絵里「ねえダイヤ、今のあなたの目には一体何が映っているのかしら」
絵里「全てが泡になって消えた後、それでもあなたに残っているものは何?」
絵里「多分あなたは何もないって言うんでしょう、でもね……私はそうは思わない」
「シアワセにしちゃうからね」
絵里(ただ一つ、たった一つだけだけど、確かにそこにあって)
絵里(そしてそれは私だけじゃない、みんなもはっきり感じている)
絵里(捨てるものでも消えていくものでもなくて、芽生えていくもの)
「もしかしたらこれが正解なの?」
絵里(ねえ分かる? 人はそれをね)
愛って言うのよ
── ユニットミッション コンプリート! ──
……………………
イベント当日
スペイン広場
ワイワイ ガヤガヤ
月「おー賑わってるねー、ちょっと前までの風景とはえらい違い」
月「これもひとえに皆の活躍あってこそだね! ね? 梨子ちゃん」
梨子「ふふっ、そうだね」
曜「……ねえ月ちゃん、なんか前より距離近くなってないかな?」
月「えー、そうかなあー? 梨子ちゃんどう思う?」
曜「ちょっといちいち梨子ちゃんに振らないで」
梨子「私は仲良くなったと思ってるけど……ひょっとして曜ちゃんヤキモチ?」
曜「う……とにかく今の二人はなんかやだ! 梨子ちゃんこっち!」グイッ
月「ありゃ」
梨子(やだ、曜ちゃんかわいい) 果南「なんか、またややこしくなってないあそこ? 大丈夫?」
鞠莉「大丈夫よ、多分本気で狙ってるわけじゃないから」
果南「ふーん、ならいいけど」
鞠莉「……何かあったの? やけに思うところありそうな感じしたけど」
果南「まあ色々、ね。一区切りついたけど落ち着くまではもう少し時間がかかりそうなもの……があってさ」
果南「それで気になった。でも別になんともないならいいや」
鞠莉「…………そう」
果南「あのさ、鞠莉」
鞠莉「気が向いたらでいいわよ。急いで話さなくていい」
果南「……ん、ありがと」
鞠莉「あと、ダイヤの方もそれでいいのよね?」
果南「全く、鞠莉には敵わないなあ」
鞠莉「その代わり、とことん付き合ってもらうから」
果南「うん、まあ、努力はする」 千歌「おーい! 善子ちゃーん! 花丸ちゃーん!」
千歌「久しぶりー! 元気だったー?」
花丸「そういう千歌ちゃんは……言わなくても分かるずらね」
善子「ていうかたった10日でどうしてそのワードが出てくるのよ……」
千歌「ね、二人とも島のほうはどうだった?」
花丸「えーっと……青の洞窟がすっごく綺麗だったよ! 毎日入れたのも奇跡的だったみたいで」
花丸「貴重な経験が出来たと思うずら! えへへっ」
千歌「へえー! 私も一回でいいからナマで見てみたいなー! 善子ちゃんは?」
善子「うーん、そうね……鞠莉の知り合いと関わることが多いのもあって、セレブの仲間入りを果たしたような気分になれたわね」
善子「初見は馴染みがなさすぎて違和感ばりばりだったけど」
千歌「あーアレ? 鞠莉ちゃんからの写真で見たよー! 善子ちゃんエッチだったよねー!」
千歌「特に胸の辺り!あれって水着と露出度は変わらないはずなのになんでだろうねーやっぱり普段から着てないぶん新鮮だったりするのかな?」
善子「……色々言いたいことはあるけど、とりあえずその写真消しなさい」
花丸(善子ちゃんって写真での災難結構多いよね……)
千歌「なんで? あ、そうそう私はねークルージングがとっても楽しかったよー!」
善子「スルーしないでくれる?」
千歌「お日様の光とか乗ってるときに浴びる潮風とかもうほんっと最高なんだから!」
善子「あ、うん、もういいわ。言っても無駄っぽいから」 善子「そういえば千歌、ルビィ見てない? 一緒だったんでしょ」
千歌「ああルビィちゃんならさっきダイヤさんとどこか行っちゃったよ」
善子「ダイヤが? 珍しいわね、もうそろそろ時間だっていうのにわざわざ抜けるなんて」
花丸「きっと大事な話があるんだよ」
善子「ふーん、あんたが言うならそうなんでしょうね」
千歌「あれ? 見てないといえば、絵里さんと亜里沙さんもどこ行っちゃったんだろう?」
千歌「μ'sのこととかたくさん聞きたかったのになー」
善子・花丸「……」メアワセ
善子「思ってたより真剣な話かもしれないわね」
花丸「うん」
千歌「なになに、ルビィちゃんの話?」
善子「まあね、気になるの?」
千歌「そだね、心配はしてないけど」
善子「え?」
千歌「なんてったって私なんかよりずっとしっかりしてるからね! ルビィちゃんは!」 絵里「……成程ね、あなたたちの考えは分かったわ」
絵里「本気なのね?」
ダイヤ「はい」
絵里「なら私からはもう何も言わない、こちらとしても不満どころか嬉しい報せだしね」
絵里「亜里沙はどう思う?」
亜里沙「私? そうだなあ……」
亜里沙「ルビィちゃんは、本当にその答えでいいんだね?」
ルビィ「はい、他の誰でもない、私自身のために決めたことですから」
亜里沙「うん、じゃあ私ももう何も言わない」ニコ
絵里「なら、決まりね」
ダイヤ「はい、向こうの件が片付いたらまた連絡させていただきます」
絵里「よろしく頼むわね」 ルビィ「……」ジーッ
ダイヤ「? どうしたの、私の顔に何か付いてます?」
ルビィ「ううん、そうじゃなくて」
ルビィ「ちょっと意外だったから。お姉ちゃんが今絵里さんに話したこと」
ダイヤ「あらそう? 私はルビィの話の方が意外だと思ったけど」
ルビィ「そんなに?」
ダイヤ「まあ理由を聞いたら納得はしたけど」
ルビィ「じゃあ私と同じだね」ニコッ
ダイヤ「ええ、一緒」ニコ
絵里「あの二人、いい姉妹じゃない」
亜里沙「うん、これなら何の心配もいらなそうだねお姉ちゃん」
絵里「ふふっ、そうね」 亜里沙「あ、お姉ちゃんそろそろ時間」
絵里「あら本当、ルビィちゃん! ダイヤ! 二人とも早く戻らないと遅れちゃうわよ!」
ルビィ「わわ、急がないと!」
ダイヤ「では私たちは先に、お話ありがとうございました」
絵里「いいのよ、行ってらっしゃい」
亜里沙「私たちも楽しみにしてるからね、ルビィちゃん達のライブ!」
ルビィ「はい! 頑張ります!」 ルビィ「鞠莉さん! みんな!」タッ
ダイヤ「すみません、遅くなりましたわ!」
鞠莉「ダイヤおっそーい! なんてね、待ってたわよ」
鞠莉「さてさて、全員揃ったところで……」
鞠莉母「……」
鞠莉「集めたわよ、大勢の観客きっちり」
鞠莉母「300人、でしょ? 多少は人数オーバーしてそうだけど、このスペースならまあ問題ないでしょう」
鞠莉「え? どうしてママが人数のこと」
鞠莉母「パパが言ってたのよ。ほら、あっち」
鞠莉「……そのパパは話しかけに来ないのね」
鞠莉母「Determine 全てはここに居る人が決めること。パパはそう言ってました」
鞠莉母「もちろんそれは、私も含めての話デス」
鞠莉「……やってみせるわ、その為にここまで来たんだから」
鞠莉母「ならやってみせなさい、スクールアイドルが本当にくだらなくないと言うのなら」
クルッ
鞠莉母「もっとも、パパに比べたら私のそれも甘いのデショウけどね」スタスタ 鞠莉「はあーっ……」
千歌「大丈夫? 鞠莉ちゃん」
鞠莉「平気、昔からああいう人だから」
果南「でも、あの人の言うこともちょっと分かる気がするなあ」
千歌「?」
果南「鞠莉のお父さんのこと。もう少し話しかけてくれれば、今よりかは何考えてるか分かりそうなもんなのに」
果南「実際はあんな感じでいまいち読めないというか……未だにちょっと怖いよ」
鞠莉「怖いねえ……ま、確かに」
鞠莉「パパは口下手なところあるから、そう思われるのも珍しいことじゃないけど」
鞠莉「でも、私は嫌いになれない……ううん、好きなのよね。パパのこと」 鞠莉「昔からずっと厳しい人でね、ママとはまた違ったタイプの。前に聞いたでしょ?」
鞠莉「基本的になんでもやらせてくれるけど半端だけは許してくれなくて、私がまだ小さい子供でもそれはお構いなしで」
鞠莉「泣いても全く意味ないし、たまーにママが私を庇ってくれても最終的にはそのママも折られちゃうし」
鞠莉「とにかく、重要な場面ほどパパは小原家の……いち家族の絶対的な人間として存在していた」
鞠莉「でもね」
鞠莉「私が何か上手に出来たとき、一番最初に褒めてくれたのはいつもパパだった」
鞠莉「よくやったな、頑張ったな。って……たとえそれがどんなに些細な事でも」
鞠莉「私にとって大きな成長になるなら、大切なことなら、ママが何言ったって気にせず私の頭を撫でてくれた」
鞠莉「その感触が、今でも忘れられないの」
「…………」
鞠莉「みんなにどう思われても、やっぱり」
鞠莉「私のDaddyはパパだけなのよ。もちろん、ママもね」ニコ 鞠莉「だから本当は縁談の話を取り消すとか、どうでもよくて」
鞠莉「ただ、前みたいに褒められたいだけかもしれない」
鞠莉「まあ、結局認めさせるってことに変わりはないんだけど」
千歌「なーんだ、だったら簡単じゃん」
鞠莉「え? 千歌っち…?」
曜「いやいや千歌ちゃん、流石にそれは……」
梨子「私たちここまで来るのに結構苦労したと思うんだけど」
千歌「えー、だってさあ何だかんだ理由付けてはいるけど」
千歌「結局鞠莉ちゃんのお父さんを納得させられればそれでオッケーなんでしょ?」
千歌「だったら、今の鞠莉ちゃんの姿をライブで見せれば何も問題ないじゃん」
鞠莉「!」
千歌「つまり私たちがいつも通りやればそれでいいんだよ? 最初に聞いた話よりずっと簡単じゃない?」
千歌「だから変に気負う必要なーし!」 鞠莉「……ふ……ふふっ……」
鞠莉「あははは! もうー、こういうときの千歌っち私本当に大好き!!」
鞠莉「そうよね! 全くその通り! なのに肝心の私が気持ち張ってちゃしょうがないわよね!」
千歌「ほら、鞠莉ちゃんもこう言ってるよ?」
果南「あはは……確かに鞠莉の言う通り」
ダイヤ「こういう時の千歌さんには敵いませんわね」
善子「ね、この人変に核心突いてくるんだから」
ルビィ「でも、それも含めて千歌ちゃんらしいよね」
花丸「ずら」
曜「駄目だ、やっぱり千歌ちゃんをその辺の男子にはやれない……あまりにも勿体なさすぎる……!」
梨子「き、急にどうしたの曜ちゃん……何の話?」 月(あれ、なんだろう……急にみんなの緊張の糸が切れたような)
鞠莉「よーしそうと決まれば思いっきりはっちゃけちゃいましょう!」
千歌「お、いいねー!」
果南「あんまり羽目を外しすぎないようにね」
鞠莉「心配しなくても大丈夫よ果南」
鞠莉「真面目と楽しい、両立できるのが私なんだから!」
梨子「ふふっ、そうでしたね」
ルビィ「知ってる!」
ダイヤ「間違いありませんわ」
鞠莉「さあみんな行くわよ!」
鞠莉「ミュージック START!!」 ーーーーーーーー
♪
Nonstop nonstop the music
Nonstop nonstop the hopping heart
月「みんなー! 頑張れーっ!」
鞠莉母「……」 ルビィ「なんてなんてちいさな 僕らなんだでもでも」
善子「なんかなんかいっぱい 解ってきたもっともっと」
花丸「夢が見たいよ」
yes!
ダイヤ「できなかったことができたり」
鞠莉「ひとりじゃ無理だったけど」
果南「いっしょなら弾けるパワー」
鞠莉・ダイヤ・果南「嬉しくなったね そう!」
曜「ミライはいまの先にある」
梨子「しっかり自分でつかまなきゃ」
千歌「それには自由なツバサで」
千歌・曜・梨子「Fly away!!」 「ワクワクしたくてさせたくて 踊れば」
亜里沙「……ふふっ」
絵里「亜里沙?」
亜里沙「ううん、ちょっと懐かしいなあって思って」
亜里沙「あの仲良しな感じ」
絵里「……そう。亜里沙にはあの頃の私たちがあんな風に見えていたのね」
亜里沙「嫌だった?」
絵里「まさか、ちょっと面食らっただけよ」
絵里「だって自分じゃそういうの、分からないじゃない?」 亜里沙「あはは、そういえば私もなったことあるんだった」
亜里沙「じゃあお姉ちゃんが気付かないのも仕方ないよね、つい私目線で聞いちゃった」
絵里「相変わらずうっかりしてるわね……」
亜里沙「でも凄いなあって思うのは、今のみんながそう見えるくらい自然体でいるってことかな」
「ひとつになるよ 世界中が」
「Come on! Come on! Come on!」
「熱くなあれ!!」
亜里沙「絶対に失敗できないはずなのに、誰も緊張してない…どころかお互いがお互いを楽しませようとしていて」
亜里沙「そこはお姉ちゃんたちとちょっと違う。そんな気がする」
絵里「…やっぱりさっきの発言は撤回。亜里沙はよく見てるわ、今も昔も」
「ワクワクしたくて させちゃうよ」
「踊れば ココロ」
鞠莉母「……そういえば」
鞠莉母(鞠莉がこっちに来てから……いいえ、しばらく見てなかったかもしれない)
「つながってくみんなと こんなステキなことやめられない」
「そうだね? そうだよ!」
鞠莉母(あの子の、心の底から笑った顔)
「みんながね ダイスキだ!」
「みんながね ダイスキだ!」
鞠莉父「…………」
鞠莉「コトバを歌にのせたときに」
鞠莉「伝わってくこの想い」
鞠莉「ずっと忘れない」
鞠莉父「……ふっ」
「ワクワクしたくてさせたくて 踊れば」
「ひとつになるよ 世界中が」
「Come on! Come on! Come on!」
「熱くなあれ!!」
「ワクワクしたくて させちゃうよ」
「踊れば ココロ つながってくみんなと」
「こんなステキなことやめられない そうだよ!」
Nonstop nonstop the music
Nonstop nonstop the hopping heart
「「「ありがとうございました!!」」」
ワーーーーーッ! ピューピュー!
パチパチパチパチ!!!
鞠莉「はぁっ……はぁっ……」
千歌「まーりちゃん!」ヒョコッ
鞠莉「千歌っち」
千歌「センターで歌いきった感想を一言!」
鞠莉「ふっ、ふふっ、そりゃあもう……超スッキリよ!」グッ
千歌「よ! それでこそスペイン広場の主人公!」
鞠莉「そしてハイターッチ!! はい一列並んでー!」 ルビィ「じゃあ私から!」バッ
果南「あっちゃールビィちゃんに先越されちゃったかー!」
パアン!
ダイヤ「ではその次は私が!」パンッ
梨子「なら次は私!」パンッ
千歌「あーっ! この二人お姉さんのくせに全然前譲ってくれない!」パンッ
曜「とか言いながらちゃっかり4番目確保してるし」パンッ
善子「ほんと抜け目ないんだから」パンッ
花丸「果南ちゃん、マルたち完全に出遅れちゃったね」パンッ
果南「次こそは一番取らないとね、花丸ちゃん」パンッ 鞠莉「はいオッケー! ちょっと手がヒリヒリするけど……うん」
鞠莉「それだけみんな上機嫌ってことよね!」
「私には、お前が一番そういう風に見えるがな。鞠莉」
鞠莉「あっ、パパに……ママ」
鞠莉父「結果を報告しに来た。だが、その前に一つ」スッ
鞠莉母「…本当にやるんですね」
鞠莉父「当たり前だろ」
ダイヤ「?」
鞠莉父「…………」ペコリ
果南「!?」
千歌「えっ、えっ、ちょ……どういうこと!?」 鞠莉父「先程のライブ、私の友人の娘さんがいたく気に入ったようでね」
鞠莉父「君たちにサインを書いてほしいらしい、急な願いだが頼めるだろうか」
果南「あ、いや……そのくらいなら私たちは全然……ねえ?」
ダイヤ「は、はい、断る理由もありませんし」
梨子「ファンが増えるのも嬉しいですし、だからその」
善子「頭を上げてもらえませんか? なにも、そこまでやらなくったって……」
鞠莉父「今の私は依頼する立場だ、敬意を払うのは当然だろう」
鞠莉父「しかしそうか、頼まれてもらえるか?」
花丸「ルビィちゃん」
ルビィ「あ、うん」
ルビィ「そのお話、Aqoursの代表として、喜んでお受けさせていただきます」
鞠莉父「感謝する、Aqoursの皆さん……それと鞠莉」 鞠莉「はい」
鞠莉父「日本行きの便は、明日で構わないか?」
「!!!」
鞠莉父「今すぐ出ていきたいなら、そうなるよう手配するが」
鞠莉「……ううん、パパに任せるわ」
鞠莉父「そうか。なら」
鞠莉父「私は話をつけに行ってくる、この場は頼んだぞ」
鞠莉母「あ、ちょっと…!」
鞠莉父「お前も言いたいことがあるなら今のうちに言っておけ、まさかここにきて足りなくなったということはないだろう?」
鞠莉母「それはつまり、あなたの代わりに私が言えと?」
鞠莉父「フッ……さあな」 鞠莉母「貴方! ……全く、どうして私がこんな役回りを……」
鞠莉「ママ」
鞠莉母「~~っ……ああもう、本当に……」
鞠莉母「言っておくけど、私はまだ全てを認めたわけではありませんからね。でも」
鞠莉母「約束は約束です、あなたの好きにしなさい……それと」
鞠莉母「お疲れ様、よくやったわね」
鞠莉「──!!」
鞠莉母「今日は家に泊まっていきなさい、あなた達もね。部屋は用意しておくから」
鞠莉母「以上デス。何か言うことは?」
鞠莉「……いいえ」
鞠莉「ありがとう。ママ」
鞠莉母「……私ももう行きます。これ以上ここにいると、調子を狂わされる」クルッ
スタスタ……
千歌「行っちゃった……」
善子「なんか、正直こっちも調子狂わされた感じ」
曜「だよね。私もビックリしちゃったよ」
果南「そりゃ、きっちりした人なら特別おかしくない行動かもしれないけど、それにしたって……ねえ?」
梨子「あれも昔からそうなんですか? 鞠莉さん」
鞠莉「……まあね」
鞠莉(でも、私と同じくらいの子に頭を下げるところを見たのは、初めて……)
「Buon pomeriggio!」
鞠莉「あら?」
「piacere!」
千歌「かわいいー! この辺に住んでる子かな?」
花丸「見て千歌ちゃん、この子色紙持ってる。ということは」
梨子「もしかして、あなたが私たちにサインを貰いに来た子?」
「…………」ウーン
(sign……)
「Si!」コクリ
鞠莉「そうみたい」
果南「嬉しいねー、わざわざ自分のほうから来てくれるなんて」
千歌「はいはーい! 私いちばーん!」
「per favore!!」バッ
千歌「ってあれ?」
鞠莉「え、私?」
「!!」コクコク
鞠莉「…ふふっ、お安い御用よ。ペン貸してもらえる?」
(pen……)スッ
鞠莉「ありがと♪」
千歌「おー、じゃあ私にばーん!」
善子「切り替えはやっ」
「Arrivederci!」ペコ
タタタッ
鞠莉「チャオー!」
千歌「ばいばーい! またねー!」
曜「それにしてもさっきの子、よっぽど鞠莉ちゃんのことが好きだったんだね」
曜「私たちには目もくれず真っ先に色紙渡してたし」
千歌「ね!」
鞠莉「でも変な話よね、自分で言うのもなんだけど私ってスクールアイドルのイメージあんまり持たれてないと思ってたのに」
鞠莉「依頼の件だって、まず顧問として認識されてたのよ?」
絵里「それはあの女の子が、鞠莉の良いところを事前にたくさん聞いていたからかしらね」
絵里「で、実際聞いていた以上に素敵だったから、居ても立っても居られなくなっちゃったのよ。きっと」
ルビィ「あ、絵里さん!」
絵里「遅くなってごめんなさい。月にさっきのライブの映像データを貰っててね」
月「ふふん、渡辺月、Aqoursの勇姿をバッチリ撮らせていただきました!」ビシッ 鞠莉「あの、それより絵里さんさっきの話はどういう……」
絵里「知りたい? もう全部片付いたし、話すのに何も問題はないけど」
絵里「実はね……」コソッ
鞠莉「!」
絵里「と、いうわけなの。もしかしたら貴女もちょっとは感づいていたかもしれないけどね」フフッ
鞠莉「…………」
ルビィ「二人とも、何の話してるんだろう」
亜里沙「んー、何の話だろうねー」ニコニコ
鞠莉「あの、みんなに打ち明けるタイミングは私に合わせてもらえると」
絵里「わかったわ、それまではあなたの自由に」
鞠莉「」コクリ 鞠莉「はいはーい! それじゃみんな別荘のほうに帰るわよー!」パンパンッ
鞠莉「もう自分の家だと思ってくつろいじゃっていいからね、本当にお疲れ様!」
千歌「やったー! じゃあ私お風呂入るー!」
善子「私はあの大画面のテレビでゲームとかやってみたい」
曜「わかるー! 夢あるよねあれ!」
果南「私はギリギリまで海行ってようかな、久しぶりに泳ぎたい」
ダイヤ「あら、いいですわね」
月「お、水泳なら僕も自信ありますよー! 競争します?」
梨子「みんな自由ね……花丸ちゃんはどう? 何かやりたいこととか」
花丸「マルはルビィちゃんに付いてく、色々聞きたいことがあるから」
ルビィ・梨子「?」
その夜……
千歌「あーくたびれたーっ!」バタリ
梨子「千歌ちゃん、お風呂のあとずっとはしゃいでたものね」
曜「旅館じゃいくら大きくても騒げないもんね」
千歌「いやーおかげですっごい息抜きできたよー、鞠莉ちゃんありがとー!」
千歌「ってあれ? 鞠莉ちゃんいなくない?」
果南「そういえば見てないね、どこ行ったんだろ」
絵里「鞠莉ならさっき外に出かけていったわよ」
ダイヤ「こんな時間にですか?」
絵里「ええ、きっと彼女の中じゃまだ全部終わっていないんでしょうね」
ダイヤ「?」
絵里「ねえみんな、ちょっと私の話聞いてもらえるかしら?」
絵里「今回私がここに来た理由、そろそろ言っておく必要があるから」 鞠莉母「……」ウロウロ
鞠莉父「そんなに気に入らなかったか、私の決断が」
鞠莉母「違います」
鞠莉父「ならなんだ、やっぱりもうちょっと何か言っておけば良かったって腹立ててるのか」
鞠莉母「あ、貴方ねえ! どうしてそうずけずけと!」
鞠莉父「なんだ図星か。だから最初に忠告しておいただろうが」ズズッ
鞠莉母「ええそうですね!! ……ですがそういう貴方だって少し、言わなさすぎでは?」
鞠莉母「鞠莉が気にしていましたよ、声をかけに来ないこと」
鞠莉父「その方が効果的だったろ、鞠莉が奮起するぶんには」コトン
鞠莉母「……ハァーッ、貴方のそういうところ、本当に昔から変わってないわね……」
鞠莉母「イイデスカ? たまには自分を歯車としてではなく、一人の親として……」
「パパ! ママ!」
鞠莉母「!? ……鞠莉?」
鞠莉父「なんだ、別荘の方にいるんじゃなかったのか」 鞠莉「……パパがやってくれたんでしょ?」
鞠莉父「何をだ」
鞠莉「絵里さんたちに私たちのこと、手伝わせるようにって」
鞠莉母「…ホワッツ!?」
鞠莉「お願い、してくれたんでしょ?」
鞠莉父「ああ、頼んだ」
鞠莉母「ちょ、何を平然と……!!」
鞠莉「それに……」 千歌「えぇ!? じゃあ絵里さんたちは鞠莉ちゃんのお父さんに呼ばれてここに来たんですか!?」
絵里「ええ、あの人には学園の資金援助で凄くお世話になっていて……丁度二年前、だったかしら?」
絵里「その辺りから私たちを支援したいって話が来て、今の協力関係に至ってるんだけど」
果南「二年前ってもしかして……鞠莉が浦の星に戻って来たとき……!?」
ダイヤ「そんなに早い段階から、既に絵里さんたちと関りがあったと…!?」
絵里「ええ、個人的にあなた達の動向も追ってたみたいよ」
善子「成程ね、だから……」
曜「善子ちゃん?」
善子「気にはなってたのよ、ほら私たちがイタリアに呼ばれた理由を鞠莉が話してたとき」
善子「どうしても9人じゃないといけないってくだりがあったじゃない?」
花丸「うん、あったけど」 善子「そこが変だなと思って、だって鞠莉を入れて9人でライブをしていたことなんて数えるほどしかないのよ?」
善子「時系列だっておかしい、鞠莉が浦の星に戻るって言った当時のAqoursは三人体制、翌年度に至っては鞠莉はもう卒業してるわけだし」
曜「言われてみれば、確かに……」
善子「なのにわざわざ9人を主張するってことは、多分公式の記録以外でも私たちのことちゃんと知ってたんじゃないかな……って」
千歌「……それが鞠莉ちゃんにとってのAqoursだって分かってたから?」
善子「聞いてる限りだと、ね。それこそ鞠莉が参加した直近のもので言うなら……」
ルビィ「…クリスマスライブ」
絵里「あの人が言ってたわ、Aqoursが9人揃わない、それを失敗の言い訳にされてもらっては困るからって」
絵里「その発言が本心かどうかはさておき、彼がずっと前から鞠莉の活動を見守ってたのは確か」
絵里「主に海外を主戦場としている人がわざわざ日本の、それも大会ではなく一イベントに顔を出してまでね」
絵里「なのに本人は照れ臭いどころか、やって当然と思ってるから一々言わないときたものだから……ふふっ、なんていうか」
絵里「ほんと、面倒くさい家族なのよ」クスクス 鞠莉「だから、ありがとう。パパ」
鞠莉父「……」
鞠莉母「ちょっと貴方」
鞠莉父「それで」
鞠莉母「?」
鞠莉父「お前は何をしにきたんだ?」
鞠莉「……私の歌を、聴いてもらいにきました」
鞠莉「みんなと一緒にいるときの、Aqoursとしての私じゃなくて」
鞠莉「二人の娘の、小原鞠莉としての私が歌う姿を……パパとママに見てほしいから、知ってほしいから」
鞠莉母「……鞠莉」
鞠莉父「そうか」 鞠莉「だから、忙しいかもしれないけど……「歌ってみなさい」
鞠莉「! ママ」
鞠莉母「あなたも、それでいいでしょう?」
鞠莉父「元から断るつもりはない」
鞠莉母「あのですね……」
鞠莉父「鞠莉」
鞠莉「はい」
鞠莉父「私たちに構うな、お前の好きなようにやりなさい」
鞠莉「……っ……うん」
鞠莉「……」スーッ
鞠莉「目を閉じたら ふと よぎる歌があって」
鞠莉「心はどんな時でも あの頃へ戻れると呟いていた」
鞠莉母「……いい歌じゃありませんか」
鞠莉父「……」ズズッ
鞠莉父「ああ、旨い」フッ
鞠莉「だから みんな 元気で また会えるようにきっと……」
……
…
ここまでです
なんとか1000レス以内に締めたいので次回早めに更新します
翌日、空港
鞠莉「絵里さん、亜里沙さん、この度は本当にありがとうございました」ペコリ
「「「ありがとうございました!!」」」
亜里沙「えへへっ、どういたしまして」
絵里「私たちもあなた達に会えて本当に良かったわ、おかげで新しいご縁も出来たしで」
絵里「個人的に大満足のお仕事だったもの。そっちでは確か…ラブライブの一次予選がこの後すぐ始まるのよね?」
ルビィ「はい、9月の初めにやるので開始まであと一週間くらい」
絵里「頑張ってね、離れているけど私たちも応援してるから」スッ
ルビィ「ありがとうございます!!」ギュッ
亜里沙「ルビィちゃん、雪穂によろしくね」
ルビィ「はい! 雪穂さんと一緒に亜里沙さんについて話すの、今から楽しみです!」 絵里「ダイヤも、たまには連絡してきてね」
絵里「じゃないと、私寂しくなっちゃうから」ウインク
ダイヤ「う……! さ、最初はあまり慣れないと思うので……お手柔らかに」フイッ
絵里「なんでもいいわよ、あなたがその気ならね」
ピンポン
鞠莉「あ、そろそろ時間」
絵里「さて、それじゃあ」
鞠莉「はい」
絵里「みんなお疲れ様! いつかまた会いましょう!」
ルビィ「絵里さんと亜里沙さんもお元気で!!」
亜里沙「またねー! ばいばーい!」 果南「いやーそれにしても約二週間ぶりの日本かあ」
果南「流石にこっちよりかは、いくらか涼しくなってたりするのかな」
千歌「なってるでしょー、だってイタリア暑すぎるもん」
曜「気温高いし日差しは凄いしで、まさに炎天下って感じだったもんね」
梨子「そうね、特に日差しは月ちゃんが日焼け止め用意してくれなかったらどうなってたことか」
月「まあ僕は店の状況とかあらかた予想ついてたしね、みんなの力になるためにもそれくらいはやっておかないと」
善子「ナイス判断、やっぱり月先生は頼りになるわね」
月「はは、善子ちゃんはその呼び方継続なんだね……」
善子「割と気に入ったから」
曜(善子ちゃんにしては珍しい懐き方だよね)ヒソヒソ
花丸(うん、意外なパターンずら) 月「あ、そういえばあの人たち見送りに来てなかったよね」
月「鞠莉ちゃんのお父さんとお母さん」
鞠莉「そうね、大方自分たちが来たら楽しい雰囲気が崩れるとか思ったんじゃない?」
ダイヤ「だからあえて行かなかったと?」
鞠莉「私はそう考えてるけどね、もちろん実際のところは分からないわ」
果南「最後まで淡泊というか、割り切ってるというか……鞠莉はこれで良かったの?」
鞠莉「いいのよ」
鞠莉「もう十分なくらい、伝わったから」
ゴオオオオオ…
鞠莉母「……飛行機、出ましたね」
鞠莉父「ああ」
鞠莉母「本当にこれで良かったのですか?」
鞠莉父「不服なら見送りに行ってもよかったんだぞ」
鞠莉母「……何故あなたは毎回私が素直じゃないかのような言い方をするんです!」
鞠莉父「気のせいだろ」
鞠莉母「その割には無視できない頻度でやってきますけどね!!」
鞠莉父「そうか、すまない悪気はなかった」
鞠莉母(本当にその気がないから尚のこと質悪いのよね、この人)ジトッ
鞠莉父「どうした」
鞠莉母「はあ……いいえもう結構です」
鞠莉父「なんだ結局何もないのか」スッ
鞠莉母「……」 鞠莉母「……初めから」
鞠莉父「ん?」シュボッ
鞠莉母「あの子を引き戻すつもりはなかったんですね」
鞠莉父「……」フーッ
鞠莉父「一つ勘違いしているようだから言っておくが、もし鞠莉が条件を達成できなかった場合」
鞠莉父「私は本気で連れ戻すつもりだった、一度決めたことを覆す気はないしな」
鞠莉父「それこそお前が情を移しても、お友達が泣きわめこうとも、聞く耳は持たなかっただろうし黙らせたはずだ」
鞠莉母「たとえ自身が悪役になっても?」
鞠莉父「それが覚悟を汲み取るということだろう、周囲の印象など知ったことか」 鞠莉母「……」
鞠莉父「ただ」
鞠莉父「娘のことを信じない親がどこにいるよ」
鞠莉母「!」
鞠莉父「だから彼女に依頼した、それだけの話だ」トントン
鞠莉母「…あなたって本当に」
鞠莉父「なんだ」
鞠莉母「昔っから回りくどいわよね」
鞠莉父「私が直接協力したらブレるだろうが」 鞠莉母「ええ、わかってマスとも」
鞠莉父「ああ、お前が理解してくれるならそれだけで十分だ」ジジッ…
鞠莉父「私にとっては、だがな」フーッ
鞠莉母「……」
鞠莉母「すみません」
鞠莉父「どうした」
鞠莉母「それ、一本貰えます?」
鞠莉父「フッ……ああ」
そして
────日本、東京羽田空港
千歌「……ん~~っ!! 着いたーーー!!」
千歌「遂に帰ってきたよジャパン!」
花丸「長旅だったねえ、イタリアに行ったあともあちこち飛び回ってたし」
善子「私は非日常感あって割と楽しかったけどね」
ルビィ「えへへ、実は私も」
曜「うんうん、巻き込まれた甲斐があるってものだよね」
鞠莉「あら曜、言ってくれるじゃない?」
曜「こ、言葉のあやだって!」
果南「…………」キョロキョロ
梨子「果南さん? どうしたの?」 果南「いや、聖良がいないなあって」
善子「そういえば来ていないわね、絶対いると思ったのに」
果南「うん、会いたかったんだけどな」
千歌「え?」
鞠莉「おやおや」
ダイヤ「ふふっ」
果南「え、なにその反応」
鞠莉「別に~、ねえ?」
千歌「そこまで顔に出すのが珍しいなーとか思ってないよ?」
曜「無意識で言うのは相変わらずだけどね」アハハッ
果南「いや、それは……なんだろう」
果南「とにかく私、もう帰るから。またね」 梨子「……意外。果南さんならもっと軽く流すと思ったのに」
ダイヤ「きっと心境の変化でもあったのでしょう」
鞠莉「今のダイヤみたいに?」
ダイヤ「まあ、そうなりますわね」
ダイヤ「さ、私たちもそろそろ帰りましょうか」
ルビィ「そうだね、まだやらなくちゃいけないことも残ってるけど」
ルビィ「それより早くみんなに会いたいもん」
花丸「話したいこともたくさんあるしね」
善子「ええ、帰りましょう。内浦に」
果南「…………」
ガチャ
果南「ただいま」
「おかえりなさい」
果南「! ……あ」
聖良「ご飯、もう出来ていますよ」
果南「ああ、うん。ありがとう」
果南「…………よかった」
聖良「え?」
果南「会えないんじゃないかって思ったから」 聖良「? 返事なら携帯でしましたよね」
果南「だって待ってるって言ったのに空港いないし」
聖良「料理に取り掛かろうと思ったので、きっとお腹も空かせてるでしょうし」
聖良「あなたが言ったんですよ? 私の手料理が食べたいって」
果南「いやっそうだけど、そうじゃないっていうか」
聖良「どうしたんですかさっきから、歯切れの悪い返事ばかりであなたらしくもない」
聖良「何か言いたいことがあるなら……」
果南「来てくれるって思ったんだよ。その、迎えに」
聖良「……はい?」
果南「それでまあ、家に着くまでに向こうであったこととか二人で色々話そうと思ってたからさ……だからその、ちょっとね」
聖良「ちょっと?」
果南「凹んで……ました」 聖良「……」
聖良「つまりあれですか。私が料理の仕込みも万全で、そのうえで果南さんに真っ先に会いに来てくれると勝手に勘違いして」
聖良「しかもそれが外れたから今こうして勝手に落ち込んでると?」
果南「そ、そうなるかも」
聖良「…………」ハァーッ
聖良「勝手な人」
果南「うっ」グサ
聖良「ああしてこうしてと人に頼んでおきながら、ちょっと自分の思い通りにならなかっただけで拗ねるとか子供ですか」
聖良「あと私なら別に言わなくても率先してやってくれるだろう、自分に尽くしてくれるだろうといったその考え方」
聖良「完全にヒモ男のそれですよね、私はそんなに都合のいい女に見えますか?」
聖良「いやはや最低ですね、相手が相手なら平手打ちものですよ」
果南「ううっ」グサグサッ 聖良「全く、貴女という人は……」
果南「ご、ごめん……本当にごめん」
聖良「…………」
聖良「でも、そういうところ……私は可愛いと思いますけど」
果南「……はい?」
聖良「なった理由としても? 私を想ったからこそだというのは正直悪い気はしませんし」
聖良「あなたにそういう子供じみたところがあるのも前々から分かっていましたし、そんな一面も私は好きだから別にいいんですけど」 果南「ちょ、ちょっと聖良」
聖良「大体ですね、それくらい先に言ってくれれば迎えくらいいつだって行きますよ。私だって早く会いたかったんですから」
聖良「寧ろ果南さんより私のほうが好いている分……むぐっ」
果南「ストップ、待ってほんとに恥ずかしいから待って」
聖良「珍しく、というか初めて動揺して赤くなりましたね。大丈夫、そういうところも可愛いですよ」
果南「やめてってば! もう~……一体いつからそんな言葉をぽんぽん言うようになったのさ……」
聖良「果南さんが原因ですね。まあ、今までの意趣返しみたいなものです」 果南「なんで私……」
聖良「流石にその無自覚なところは改善してほしいですね、アリといえばアリですが……それはともかくとして」
聖良「私も少し、正直に気持ちを伝えようかと思いまして。実践してみただけですよ」
果南「あれが少し?」
聖良「いけませんか? 私は結構スッキリしましたけど」
聖良「あなたを愛しているということに嘘はありませんから」
果南「いや、そうじゃない…んだけどさ」 聖良「けど?」ジッ
果南「…………」
果南「はあーっ、なんか私甘く見てたみたい。聖良のことも私自身のことも」
聖良「と言いますと?」
果南「ここまでいったらはぐらかすことも出来ないじゃん……愛なんて言葉まで出ちゃったら尚更」
果南「それに……告白されて初めて分かったんだ、簡単に流せるほど私の気持ちも軽いものじゃなかったんだって」
果南(でもなんでだろうね、不思議と変に思わないんだよ)
果南(私、いつから揺れ始めてたんだろう) 聖良「……いいんですか、そんな思わせぶりなことを言って」
聖良「私、期待してしまいますよ?」
果南(ただ分かるんだ、それがつい最近の話じゃないってことくらいは)
果南(だって)
果南「いいよ。その想いにはちゃんと応える」
果南「たとえヒモだって言われようが、私は聖良の気持ちを弄ぶようなことは絶対にしないし、したくもないから」
聖良「っ……本当に卑怯ですよね。あなた」
果南「だから聖良……ハグ、しよ?」 聖良「……いいえ」
聖良「それだと少し物足りないですね、他の方にやっていることと変わりませんし」
聖良「特別感が欲しいですね、私だけにしか得られないような」
果南「欲張るね」
聖良「どうも」
果南「…何がいいの?」
聖良「そうですね……キス、してくれたらいいですよ。どうでしょうか?」 果南「…………」
聖良「…………」
果南「……ごめん、聖良」
聖良「っ」
スッ
果南「せっかく作ってくれたのに、料理……冷めちゃうかも」
聖良「! ──本当に、仕方のない人ですね」
ギュゥ
聖良「でも、許してあげます。あなたのここ……温かいですから」
聖良「その代わり、絶対に離しません」
果南「……ん」グイッ
聖良「あっ……」
だって、そのずっと前から彼女は私の隣にいて、私もそれが心地よくて
一緒にいたいなあって思ってたから
気を紛らわすためでもなくて、誰かの代わりでもなくて
彼女じゃなくちゃ駄目なんだってそう思えるくらい、私の中で特別な存在になっていたから
気付いたら、だけどさ。だから皆に鈍いって言われるのかな
でも、もしそうだとしても
もう自分の想いだけは隠さないようにしようって決めた
多分、その伝えかたも不器用なんだろうけど
それでも愛していきたい、こんなどうしようもない私を
──愛してくれる人が、そこにいるから。
片や場面は変わって
内浦、海岸沿い
ザザーッ
ルビィ「……」
善子「ルビィが一人でいるのって珍しいわね、っていうか懐かしい光景」
ルビィ「善子ちゃん」
善子「考え事?」
ルビィ「うん、私の将来について」
善子「そう、来年は卒業だものね」
ルビィ「そうだね。本当の本当に最後」 ルビィ「ねぇ善子ちゃん」
善子「なに?」
ルビィ「私ね、善子ちゃんに聞いてほしいこととお願いしたいことがあるの」
善子「ふーん、それって我がまま入ってる?」
ルビィ「超わがままだよ」
善子「オッケー、言ってみなさい」
ルビィ「ん……善子ちゃん、私ね」
ルビィ「────になりたい」
ルビィ「それがようやく見つけた、私の夢なんだ」ニコ 善子「…………」
ルビィ「善子ちゃん?」
善子「ビックリしたあ……どんだけ強欲なのよあなた」
ルビィ「やっぱりそう思う?」
善子「そりゃあね、でもいいんじゃない? ルビィらしくて」
ルビィ「えへへっ、ありがと」
善子「だとしたら、お願いのほうもなんとなく察しがつくわね」
ルビィ「善子ちゃんは相変わらず鋭いねぇ」 善子「でも仮にさ、私がそれで文句言ってきたらルビィはどうするわけ?」
ルビィ「それでも押し通す」
善子「…………ぷっ」
ルビィ「……ふふっ」
善子「あーもう、ほんっと……我ながらとんでもない子を好きになったもんだわ、あんたいくらなんでも自己中すぎ」クックック
ルビィ「私をろくでもない女にしたのは善子ちゃんだよ?」
善子「なによ、私のせいにするっていうの?」
ルビィ「だってほんとのことだもん」
善子「なら言わせてもらうけど私だってルビィのせいで散々な目に遭ってるんだからね」
ルビィ「たとえば?」
善子「つい最近でいうとあれよ、放課後三人で帰ろうとしたときルビィが……」
ダイヤ「二人とも、楽しそうですわね」
花丸「久しぶりに取れた二人っきりの時間だからね」
花丸「色々溜まってたんだと思う」
ダイヤ「あとは、あの子なりに清算をしようとしているのかもしれませんわね。これからの為にも」
花丸「ダイヤさんも、それが理由で内浦のほうに?」
ダイヤ「はい、私もようやく」
ダイヤ「道筋というものが見えてきましたから、退路以外の、前に進むための道が」
花丸「……そっか」クスッ
ダイヤ「ルビィ! そろそろ帰りますわよ!」 ルビィ「あ、お姉ちゃん呼んでる」
ルビィ「じゃあ善子ちゃん、またね」
善子「ええ、また」
タッタッタ……
花丸「楽しかった?」
善子「もちろん、いつにも増して生意気だったけどね」
花丸「あはは、それは疲れるね」
善子「でさ、そのことで」
善子「花丸にも話しておきたいことがあるんだけど」
花丸「?」
──黒澤家
ルビィ「お母さん、お父さん、ただいま」
黒澤母「お帰りなさいルビィ……あら?」
ダイヤ「お久しぶりです」ペコリ
黒澤父「ダイヤ……珍しいな、お前がこちらに連絡もなしに来るとは。それに」
黒澤母「そんな顔をして、わざわざ家へ帰ってきたということは」
黒澤父「ああ、何かあったのか?」
「はい」
ダイヤ・ルビィ「お話しがあります」
花丸「善子ちゃんが、マルに?」
善子「そう。あなたには話しておこうと思ってね」
花丸「もしかして進路のこと、とか?」
善子「まあそれもあるけど、それよりもっと大事なことよ」
花丸「? あまり予想つかないけど……」
善子「花丸。私ね、高校を卒業したら……」
善子「ルビィと別れようと思ってる」
夏も終わり、卒業まであと6ヶ月
何かが実りを成すほどに、誰かが決意を示すほどに
私たちの最後の1年……その終わりの日は
静かに、けれど確実に、自覚するところまで迫ってきていた
もう時間はない、だけど答えははっきりしている。
あとは書き記すだけだ、絶対に消えないように。
それがこの場所の、ここの学校の生徒として、私が最後に出来ることだから。
────ありがとう
一体どこから聞こえたのか、振り返ったそこに人の姿はなく
ただ
夕日が沈んでいくなか、時折反射する水しぶきに
ふと、桜の面影を見た。
大変長くなりましたがこれで終わりです、毎日の保守支援ありがとうございました。
次の話で本当に最後になります、投稿はなるべく早く……出来れば今月内に立てる予定です
スレが立てられた際はどうかよろしくお願いいたします
ここまで読んでいただきありがとうございました おつです
いつも楽しませてもらってます
ゆっくり待ってます レス数が950を超えています。1000を超えると書き込みができなくなります。