千砂都「それはまるで満月の葉−よう−に」
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
千砂都「ねえ、恋ちゃんってさー」
恋「はい」
月が綺麗ですね。という言葉がある
主に想いを寄せている相手へ告白するときに使われる口説き文句で
かの有名な夏目漱石が I love you を日本語として訳す際に
上記の言葉を生徒に教えたとされた逸話がその由来と云われている。
千砂都「恋ちゃんってさあ、月が綺麗ですねって言葉知ってる?」
恋「ええ、知っていますよ。夏目漱石の話のでしょう?」
千砂都「そうそれ」
恋「尤も、本当かどうかは不明なんですけどね。昔はよく漱石のいちエピソードとして信じられていたのですが」
千砂都「へえ、初耳」
恋「それがどうかしましたか?」
しかし、漱石が言ったとされる正式な出典元が見当たらないため、その真偽は定かではなく逸話自体の信憑性も低い。
ただ、それでも「日本人の恋愛観」として語り継がれるこの一文を慕う者は未だ絶たれておらず
千砂都「んー、いやまあ」
千砂都「ちょっと、ね」
今日もまたどこかで、誰かの心の中に息づいている
恋「?」
千砂都「例えばだけどさ、恋ちゃんならこの台詞を言われた時」
千砂都「どんな月を思い浮かべる?」
恋「そうですね……やはり真っ先に浮かぶのは満月、でしょうか」
千砂都「だよね、そうだよね!」
恋「千砂都さん近いです」 千砂都「だから私としてはね、ロマン感じちゃうなあって」
恋「満月は綺麗な丸の形をしていますからね」
千砂都「おっ、恋ちゃんもなかなか分かってきたみたいだね、私のこと」
恋「おかげさまで」
千砂都「いいよねえ、神秘的だよねえ……」
恋「意外と乙女チックなんですね千砂都さん」
千砂都「え?」 恋「だって形が丸ければなんでもいいというわけでもないのでしょう?」
千砂都「…確かに、言われてみればそうかな」
千砂都「いつの間にそんな理解者になっちゃったの恋ちゃん」
恋「それなりには、というだけです」
千砂都「謙遜しなくてもいいのに」
恋「してません」 千砂都「でも、それじゃあ私は丸だけじゃなくて、月自体にも魅力を感じてるってこと?」
恋「それは千砂都さんにしか分かりませんよ」
千砂都「いやそうなんだけどね、改めて言われるとってやつだよ」
恋「普段はそこまで気にしなさそうですからね」
千砂都「そうそう。ただ……」 恋「ただ?」
千砂都「夜中、一人で歩いているときにたまに空を見上げることがあって。それで」
千砂都「見上げた先に曇りのない綺麗な月があると、立ち止まっちゃうことはあるよ」
千砂都「それが少し欠けたものでも、半月でも、三日月でも、なんでも」
千砂都「つい見つめちゃうんだよね。きっと、それだけしかないから」 恋「……」
千砂都「…ってやっぱりちょっとロマン入りすぎてるかな……」
恋「いえ、そんなことありませんよ。それに」
恋「曇りのないというところが実に千砂都さんらしいなと」
千砂都「え? そこ?」
恋「はい、だから惹かれるんだろうなと腑にも落ちましたし」
千砂都「いやいや一人で納得しないでよ、私全く分からないよ」
恋「教えません、秘密です」
千砂都「えぇー、意地悪いなあ……」
恋「ふふっ、そうですね」 恋「しかしこう言うのもなんですが」
千砂都「まだ何かあるの」
恋「なんだか千砂都さん、兎みたいですね」
千砂都「うさぎ? 私が」
恋「ほら、月には兎が住んでいるっていうでしょう?」
恋「髪の色も、目の色も、そっくりじゃないですか」
千砂都(ああ、白うさぎのことか) 恋「あとは……」
千砂都「寂しいと死んじゃうって?」
恋「そこまでは言ってませんけど」
千砂都「ふーん。ま、そういうことにしておこうかな」
千砂都「繋がりもあって良いと思うしね、うさぎ」 恋「……聞いていて少し思ったのですが、千砂都さんは」
千砂都「うん、なに?」
恋「先程の言葉を誰かに伝えられたらと、そう思っているのでしょうか?」
恋「今宵の月は綺麗ですね。と」
千砂都「うーん、多分……違う気がする」
千砂都「私が言われたいとか、告白したいとか、そういうのじゃなくて」
千砂都「もっと純粋に、本当にそのままの意味でつい口から出ちゃうような」
千砂都「そんな、自分にとって一番美しく見える瞬間っていうのを……探したいんだと思う」 恋「随分と理想が高いのですね」
千砂都「私らしいでしょ?」
恋「ええ、とても」
恋「一応確認しますけど、普通の満月ではいけないのですか?」
千砂都「形が丸ければなんでもいいというわけではない。そう言ったのは恋ちゃんだよね」
恋「もちろん、忘れていませんよ」
千砂都「まあ確かに、とりとめのない話かもしれないけどさ」
千砂都「でも、だからこそ見つけてみたいって気持ちもあって……」
恋「…………」フム
恋「わかりました」
恋「私もお付き合いしますよ」 千砂都「え?」
恋「千砂都さんがそれほど拘るもの、私も気になるじゃないですか」
恋「出来ることならその景色、私も一緒に見てみたいですし」
千砂都「いいの?」
恋「と言いつつ、本当は少し期待していたのでは?」
千砂都「あ、バレてた?」
恋「うさぎですからね、千砂都さん」
千砂都「ちょっと」
恋「冗談です」 恋「さて……となればまずは何か思い当たるものから手を付けてみるのがいいかもしれませんね」
千砂都「関連ワードとか人気スポットみたいな?」
恋「そんなところですね、あとは誰かから話を聞くというのもアリかと」
千砂都「要は情報収集ってことだね。うん、それでいこう!」
千砂都「とは言っても今からだと急すぎるし、私も色々まとめたいことあるから始めるのは明日でもいいかな?」
恋「私は構いませんよ」
千砂都「良かった、じゃあそれで」
恋「はい、ではまた明日に」 千砂都「あーちょっと待って恋ちゃん」
恋「はい?」
千砂都「ありがとね。話聞いてくれたうえに付き合ってくれて」
恋「どうしたんですか急に」
千砂都「だってまだお礼言ってなかったからさ」
恋「別にそこまで気にしなくても、言われなかったところで私は平気ですし」
千砂都「私が気にするの。それに、もし逆の立場だったら恋ちゃんも同じこと言ってたと思うけどなあー」
恋「言ってましたね。まあそれは千砂都さんも同じことですが」
千砂都「私は全然気にしないのにーって? あははっ、言いそうー!」 千砂都「ふふっ……でもそういうわけだからさ、遠慮は無用ってことでひとつ。ね」
恋「分かりました」
千砂都「けど、恋ちゃんもなかなか物好きだよね」
恋「人を変わり者みたいに言わないでください。私だって色々と考えてるんです」
恋「もちろん、今回のことも」
千砂都「へえ、例えば?」 恋「例えばですか? そうですね……」
恋「理想家と夢想家は違うものでしょう? それと同じことです」
千砂都「え? なにそれ」
恋「いずれ分かりますよ、ではそろそろ帰らせていただきますね」
千砂都「いやちょっと待った」
恋「さようなら」
千砂都(さっきの絶対にわざとだよね、わざと分かりづらくてそれっぽい言い回しにしたよね)
千砂都「……ほんと、そういうところ意地悪いなあ恋ちゃんは」クスッ
翌日
千砂都「……で」
恋「はい」
千砂都「なんで待ち合わせ時間より一時間も早く来てるの!?」
千砂都(こっちはちょっと驚かせようと思って早めに家を出たっていうのに!)
恋「すみません、落ち着かなかったものですから」 千砂都「そわそわする要素なんて無かった気がするんだけど」
恋「千砂都さんと一緒にお出かけするのが初めてだと言っても?」
千砂都「え? ……いやいやいやおかしいよそれは」
千砂都「だって普通に二人で買い食いしてるときとかあるじゃん」
恋「それはあくまで学校帰りの話でしょう?」
恋「お休みの日に二人で会うとなったらまた話は別です」 千砂都「…あーっと、つまり」
千砂都「恋ちゃんにとっては今日が凄い楽しみだったってことね?」
恋「はい」
千砂都「えらい素直だね」
恋「なかなかない体験ですから」
千砂都「誰かと外に出ることが?」
恋「いえ、デートすることがです」
千砂都「……なんて?」 恋「? こういうのを世間一般ではデートというのではないのですか?」
千砂都「いや言わんとしてることは分からなくもないけど!」
千砂都「え、恋ちゃん今日何やるか忘れたわけじゃないよね!?」
恋「勿論、ちゃんと覚えていますよ」
千砂都「じゃあ、私のことからかってるとか」
恋「何故そうなるんですか?」 千砂都「何故って言われても……だってその、なんていうかこう」
千砂都「思っていたのと違った、から?」
恋「疑問形で返されましても」
千砂都「私だって分かってるよもう……とにかく」
千砂都「今回の件、私はデートのつもりで誘ったわけじゃないってところだけ、頭に入れてもらえたらなあと」
恋「? 分かりました」
千砂都「大分あっけらかんとしているね」
恋「そうでしょうか」 恋「逆に私は、千砂都さんがそこまで色々と気にするのが意外に思えましたが」
千砂都「あー……まあ、最近はそうかもね」
恋「ええ、もっと快活な人という印象がありましたから。余計になんでしょうけど」
千砂都「ねえ、もしかして私面倒くさい女とか思われてない?」
恋「存外デリケートだったというだけでしょう」
恋「それに、そういった普段と違う一面を持っている方はギャップがあって好かれるみたいですし」
千砂都「…一応誉め言葉として受け取っておくよ、後半は多分ネットで得た知識なんだろうけど」
恋「……どうして見抜かれるのでしょうか」
千砂都「ノーコメントで」 千砂都「というか、ずっとここで立ち話してるのもなんだし、どこか落ち着けるところにでも行こっか」
恋「そうですね、ではここのお団子屋とかはどうでしょうか?」
千砂都「あっいいねー! 最近お団子あんまり食べてなかったし、ここにしようよ」
恋「ふふっ、千砂都さんならそう言ってくれると思ってました。丸い形のものに目がありませんからね」
千砂都「あははっ、そう言われると敵わないなあ」
千砂都「でもちょっとビックリだよ、てっきり恋ちゃんはイチゴ系のスイーツとか勧めてきそうだなと思ってたのに」
恋「ああ、それはですね……少しでも月に関わりのあるものの方がモチベーション的には良いかもしれないなと」 千砂都「え、わざわざ調べてくれたの?」
恋「そうですけど」
千砂都「…………」
恋「千砂都さん?」
千砂都「あ、ごめん。本当にそのつもりで来てくれたんだなーって」
恋「先程から私はそう言っている筈なのですが……」
千砂都「それはさあ、恋ちゃんがデートとか言うからじゃん」
恋「私のせいにするんですか」
千砂都「なに、違うっていうの?」
恋「違います。そもそも、それとこれとはまた別の話になるわけで……」
一時間後……
千砂都「いやぁー美味しかった」
恋「タレの甘じょっぱさが絶妙でしたね」
千砂都「ねー」
恋「次はどこに向かいます?」
千砂都「んー、そのことなんだけどさ、私ちょっと行ってみたいところあるんだよね」
千砂都「数少ない心当たりっていうか」
恋「成程、なんとなく予想がついてきました」 千砂都「察しがいいねえ恋ちゃんは、おかげで手っ取り早いのなんの」
恋「ツーカーくらいになればもっといいんですけどね」
千砂都「おぉー、これまた大きく出たね」
恋「まあ私は特にそこまで求めていないのですが」
千砂都「奇遇だね、私もなんだ。因みになんでか知りたい?」
恋「言ったところで教えませんよ、私は」
千砂都「残念、相子にしようと思ってたのに」
恋「手の内は明かさない主義なんです」
千砂都「ふーん。いいね、わかりやすくて」 すみれ「……で、私のところに来たってわけ?」
恋「はい、神社にはパワースポット的要素もありますし」
恋「星占いともご縁がありますよね」
千砂都「なのでここはひとつ、スピリチュアル系スクールアイドルのすみれちゃんにあやかってみようかなと思った次第で」
すみれ「スピリチュアルはまた別の人だから、私じゃないから」
千砂都「じゃあ銀河系スクールアイドルの」
すみれ「それも違うわよ」 すみれ「しっかしまた変わったことに精を出してるというか…話も抽象的すぎるし」
千砂都「やっぱりそう思う?」
すみれ「自覚あるならもう少し要点をね……」
すみれ「全く、こんなんじゃ相談に乗れるものも乗れなくなるわ」
恋「と言いつつ手を貸すこと前提なんですね」
千砂都「すみれちゃんは友達想いだなあ」
すみれ「冷やかしなら帰ってくれないかしら?」
千砂都「冗談だってば」
恋「つい出来心で」
すみれ「なーんか軽口増えたわよね、あんたたち」 すみれ「ま、いいわ。それで実際なにが知りたいわけ」
千砂都「うーん、強いて言えばすみれちゃんの見解を教えてもらいたいかな」
すみれ「それだけ?」
恋「捉え方が違う人の意見は貴重ですよ、アプローチが変わるわけですから」
すみれ「無駄にハードル上げないでくれる? やりにくいったらやりにくいわ」
すみれ「でもまあ、その程度のことでいいんなら……そうね」
すみれ「結局さ映ったものがどう見えるかなんて、見る側の都合でしかないんじゃないの?」
すみれ「だからつまりアレよ、誰かが言ってたとか、何処かにそう書いてあったからとかじゃなくて」
すみれ「自分自身が見極めて、良いか悪いかを判断する。それに尽きるんじゃない?」
すみれ「自分にとって大事なもの、重要なことなら尚更ね。私はそう思うけど」 千砂都・恋「…………」
千砂都「じゃあ、この話はなかったってことで」
恋「そうですね」
すみれ「待て待て待て待て! 待ちなさいっての! そういう意味で言ったんじゃないわよ! 分かっててやってるでしょあんたら!!」
千砂都「だってそんな身も蓋もない」
すみれ「考え聞かせろって言われたから答えただけなんだけど!?」
千砂都「確かに言ったね、だからありがたいと思ってるようん」
すみれ「あーはいはい分かったわよ! 悪かったわね気の利いた返しが出来なくて、どうせ私はロマンのない女よ」
千砂都「ごめんって、私が悪かったから機嫌直してよ」 恋「まあまあ、すみれさんの言うことは私ももっともだと思いますよ」
恋「与えられた情報というのは、どう見繕っても判断材料の一つでしかありませんし」
すみれ「ちょっと恋、なんか中立気取って私からの矛先逸らしてない?」
恋「え? い、いえそんなことは」
すみれ「私は分かってますよみたいな顔してぬけぬけとまあ、風見鶏かあんた」
恋「…思わぬところで牙を剥かれましたね」
千砂都「そうだよすみれちゃん、せめて八方美人って言ってあげないと」
恋「フォローになってませんよ千砂都さん」
千砂都「あ、そう? これは失礼しました」
恋「いえいえ、些細なことですから」
すみれ「ほんと何しに来たのよあんた達……」 千砂都「あれ、そういえば情報を集めるために来てたんだった」
恋「うっかりしていましたね」
すみれ「嘘くさっ……ていうかどっちもそんなキャラじゃないでしょうに」
千砂都「楽しかったのは本当だけどね、ねえ恋ちゃん」
恋「はい、とても」
すみれ「……はぁーっ、人をおちょくるのがそんなに楽しいって。全く罰当たりな子もいたものだわ」
すみれ「そんな嫌味ったらしい子はお祈りでもして清めてもらった方がよさそうね」
千砂都・恋「…………」
すみれ「ま、願ったところで気休め程度にしかならなそうだけど」 千砂都「じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらおうかな」
千砂都「せっかく神社に来たことだし、ね」
恋「巫女さんのお墨付きなら、きっとご利益もありますよ」
すみれ「どこまでも現金だこと」
恋「つまりは貪欲だと?」
千砂都「えー、その呼び方されるくらいなら欲求に正直だと言ってほしいなあ」
すみれ「いいから早くやりなさいよ。舌の根乾かないわね」
カランカラン
恋「……」チャリンッ
千砂都「……」ペコリ
パンパンッ
千砂都・恋「…………」ペコリ
すみれ「……そういえば、月の話で一つ思い出したけど」
すみれ「神社の参拝には月参りっていうのがあってね、新月の一日、満月の十五日にお参りすると願いが叶いやすくなるそうよ」
すみれ「なんでも太陽と地球と月が一直線に並んで共鳴することで宇宙のエネルギーが強くなるんだとか」
すみれ「今日はたまたまその十五日だったみたいだけど。関係ないか、これ旧暦の話だし」 恋「月の日付がずれてるから数字にそれほど拘る必要はない、ということですか?」
すみれ「どう捉えても構わないわよ、どっちも本当のことだから」
すみれ「月の暦が変わったのも、そういう習慣がまだ残ってるのもね」
千砂都「私はいいと思うよ。だってそっちの方がロマンあるし」
すみれ「単純ねえ……」
すみれ「でも実際、祈りの場なんだからそれくらいシンプルでいたほうがいいのかもしれないわね」クスッ
千砂都「あ、そうだ。最後におみくじやってきていい?」
恋「どうぞ、私はここで待ってますから」
すみれ「人の話聞きなさいよ」 千砂都「じゃあちょっと行ってくるねー」
すみれ「全く…奔放というかなんというか」
恋「可愛いじゃありませんか」
すみれ「愛でるのは結構だけどね、甘やかすのも程々にしておきなさいよ」
恋「そんなつもりはないのですが」
すみれ「自覚がないってだけであるの、それも今日に限った話じゃなくて」
恋「どういう意味ですか?」
すみれ「何かと千砂都に対して世話を焼きたがるでしょ、あんたは」
すみれ「そのことについて言ってるの」 恋「確かにそれはあるかもしれませんね」
すみれ「いや、あるかもじゃなくて」
恋「多分、放っておけないのだと思います」
恋「目を離したら、すぐにどこかへ行ってしまいそうで」
すみれ「保護者みたいなこと言うのね」
恋「向こうにとっては余計なお世話かもしれませんが」クスッ
恋「でも、彼女は理想家ですから」
すみれ「なにそれ、どういうこと?」 恋「彼女は願望を願望のままで終わらせようとはしませんので」
恋「それこそ自分の求めるものの為に自ら率直に動き、出来ることは惜しまない」
恋「ただひたすらに、やれることを精一杯やろうとする。加えて」
恋「一度やると決めたら絶対に躊躇うことのない、その意志の強さ」
恋「真っ直ぐなんですよ千砂都さんは。何に対してもね、だからこそ」
恋「みんな彼女のことを嫌いにはなれない。そしてそんな彼女が、私は好きです」
恋「だから少しでも力になってあげたい。ただそれだけなんですよ」 すみれ「…急に熱く語ったかと思えば、なにその惚気」
恋「違いますよ?」
すみれ「だったら告白か何かね」
恋「でもありませんが」
すみれ「いや、別にそこまで否定するものでもないでしょ?」
すみれ「そんなムキにならなくても……「すみれさん」
恋「実は私にもひとつだけ拘りがあるんですよ。それもとても大事なね」ニコッ
すみれ「は?」キョトン 恋「たとえ周りがどう言おうと、誰に何を言われようとも」
恋「私がこの感情を名付ける瞬間は、もう決まってるんです」
恋「そのときまで私は、ただの千砂都さんの理解者で在りたい」
すみれ「……変わってるわ、あんた」
恋「自覚はあります」
千砂都「お待たせー、二人で何話してたの?」
恋「私の話をしてました」
千砂都「恋ちゃんの?」
恋「ええ、自分語りを少々」 千砂都「あの恋ちゃんが自分から? うわあ、それすごい気になるんだけど」
恋「内緒ですよ」
千砂都「言うと思った。じゃあそろそろ出る?」
恋「はい、やることは一通り済みましたしね」
すみれ「ようやく行ってくれるのね、次はかのんのところにでも厄介になるつもり?」
千砂都「多分ね、その後は」
すみれ「一応親切心で教えてあげるけど、お目当てのものが見たいなら明日のほうがいいわよ」
すみれ「もっとも、それであんたたち二人が連日デートをしようがしまいが私の知ったことじゃないけどね」 千砂都「だからデートじゃないってば」
すみれ「私一回しか言ってないんだけど」
千砂都「それは恋ちゃんが……ってあれ? 恋ちゃん?」
すみれ「あそこ」
千砂都「有言実行が過ぎない?」
すみれ「あれはあれで極端だものね、でも」
千砂都「?」 すみれ「話してると結構好きになるわよね。恋って」
すみれ「真面目そうに見えて変わり者だったりとか、実は結構砕けていたりとか」
千砂都「そうだね。でもさ、すみれちゃん」
千砂都「それ最初に気付いたの私だから」ニコッ
すみれ「あ、そう」
千砂都「じゃあまたね、今日は本当にありがと」
千砂都「待ってよ恋ちゃん」タッ
すみれ「…………面倒な人たち」
驚くくらい誰もレスしないな
コテハンが気に入らないのか? 深夜とはいえ「土日」だからね…
あとはリエラSSにおける需要の問題だと思う スレタイのセンスが無いから開かれない
開いたとことでヤバめなコテハンで逃げていく
頑張って目を瞑って読む内容は時間の無駄
だからレスがない 深夜に区切りのところまで読んだけど今日虹ちゃんライブあるからそのまま寝てしまった……
あなたのちぃれんいつも見てます大好きですお待ちしております お、今回は中編なのかな?
高級ナポリタンの描くちされんのやりとりと雰囲気大好きだから続きも楽しみ この方のおかげでちぃれんに目覚めた
今回も楽しみにしてます すみません、切りのいいところまで投下したいのでもう少しだけ待ってもらえると助かります
明日までには続きを上げる予定です
ガチャッ
かのん「いらっしゃいませ……って、ちぃちゃん!」
かのん「それに恋ちゃんも」
千砂都「かのんちゃんうぃっすー!」
恋「お邪魔します」
かのん「何か食べにきたの?」
千砂都「そうなの、もうお腹ペコペコでさー」
かのん「ダンスの練習?」
千砂都「ううん、お出かけ」
恋「ここに来るまで色々と回ってきましたから」 可可「それならナポリタンがオススメデスヨ」
千砂都「可可ちゃん来てたんだ」
可可「どうもデス」
恋「じゃあ、ナポリタンを二人分お願いします」
かのん「はーい、ちょっと待っててね」
可可「で、チサトとレンレンは一体何をしていたんデスか?」
千砂都「うん、話すと長くなるかもなんだけどね……」 かのん「────へえー、ちぃちゃんがそんなことをね」
可可「成程、つまりチサトは心のときめきを探しているのデスね」
可可「それこそククにとってのサニパみたいな!!」
千砂都「うーん、合ってるような合ってないような」
恋「かのんさんはどう思います?」
かのん「私? 私は、えっと……なんとなくだけど」チラッ
恋「?」 かのん「恋ちゃんちょっと」
恋「? はい」
かのん「お母さん、私一旦外すね」
かのん母「はいはい、どうぞご自由に」
可可「どうしたんでしょうね、かのん」
千砂都「さあ…」 かのん「ごめんね、今あんまり片付いてなくて」
恋「お気になさらないでください。それよりも」
かのん「なんで呼び出したのかって?」
恋「はい」
かのん「直接聞いておきたくってさ、恋ちゃんの意見」
恋「私の?」 かのん「そう。私の考えを言う前にまず、恋ちゃんがどう思ってるのかを聞かせてほしいな」
恋「別に構いませんが、なぜ聞きたいんですか?」
かのん「ちぃちゃんが本当に求めてるものはなんなのか」
かのん「恋ちゃんならきっと、分かるんじゃないかなって」
恋「買い被りすぎですよ」
かのん「そんなことないよ。だって初めてだもん」
かのん「ちぃちゃんが私よりも先に、誰かにそんなこと相談したの」 恋「……たまたま居合わせただけですよ」
かのん「でも選んだ、見なかったふりをすることも出来たのに」
恋「……」
かのん「違う?」
恋「……敵いませんね、あなたには」
かのん「またまた」
恋「…千砂都さんは、ただ好きになりたいだけなんだと思います」
恋「だからもっと深く知りたいと願ってる、自分が気付いていないだけで」
恋「そこにまだ見たことのない光が眠っているのだと信じている」
恋「何故なら千砂都さんにとって月というのは────」 可可「なかなか戻ってきまセンね、かのんとレンレン」
千砂都「そうだねぇ…」
千砂都「…………」トントントン
可可「チサトが落ち着きないの、珍しいデスね」
千砂都「あっごめん、つい」
可可「レンレンのこと、気になりマス?」 千砂都「なんで恋ちゃん? かのんちゃんじゃなくて?」
可可「ただの勘デス」
千砂都「…気になってるよ、少しは」
可可「素直じゃないチサトも珍しいデス」
千砂都「あはは、素直じゃないってそれどういうこと?」
可可「だってチサト、さっきからレンレンが座ってたところしか見てマセンから」 千砂都「それは、今日一日ずっと一緒にいたわけだから」
可可「だからあんまり離れるのは嫌だと?」
千砂都「言ってないってば」
可可「ほとんど言ってるようなものデス」
千砂都「……」
可可「はっきり言ってククはどうしてチサトがそこまで隠したがるのか分かりマセんが」
可可「それでも、言いたいことはちゃんと言った方がいいと思いマスよ」
可可「気持ちに嘘つくの、良くないデスから」 千砂都「可可ちゃんが言うと説得力あるなあ……うん、なら考えておく」
千砂都「忠告どうも」ニコッ
可可「どういたしマシテ」
「お待たせー」
可可「お、ようやく戻ってきたみたいデスね」
千砂都「だね」 可可「かのんー、待ちくたびれマシたよー!」
かのん「ごめんね、思ったよりも長くなっちゃって」
恋「千砂都さんも待たせてしまいましたか?」
千砂都「うーん……結構、ね」
恋「それはすみません」クスッ
千砂都「全然申し訳なさそうに見えないんだけど、なーんでニヤついてるのかな」ムニー
恋「いひゃいです、ちはとさん……」
かのん「……」 千砂都「恋ちゃんが悪いんだよ?」パッ
恋「人のせいにしないでください」
千砂都「へえ〜、そういうこと言っちゃうんだ。へえ〜」スッ
恋「分かりました、私が悪かったです」
千砂都「分かれば宜しい」
恋「もう、なんなんですか一体……」
千砂都「別にー?」 可可「チサト、嬉しそうですね」
かのん「うん、そうだね……」
可可「かのん?」
かのん「ねえ、二人はこれからどうするの?」
恋「そうですね、そろそろいい時間ですし今日はもう帰ろうかと」
かのん「ちぃちゃんは?」
千砂都「恋ちゃんが帰るなら私も帰るつもり」
千砂都「一人で行っても意味ないし」
かのん「そっか。そう、なんだ」 千砂都「……あれ? 私なにか不味いこと言った?」
かのん「え?」
千砂都「かのんちゃんの様子、ちょっと変だから」
かのん「う、ううん! そんなことないよお疲れ様!」
千砂都「ふーん……ならいいけど」
千砂都「じゃあ私たち帰るね、ご馳走さまでした」
恋「お邪魔しました」ペコリ 可可「行ってしまいマシたね」
かのん「うん……」
可可「で、結局どうなんデスか?」
かのん「え、なにが?」
可可「誤魔化そうとしてもバレバレデスよ、かのん」
可可「さっきからずーっと顔を赤くしてるのに」
かのん「…ほんとに?」
可可「なんなら写真に撮って見せマショウか?」
かのん「いや、いい。やめとく……」 可可「だけど、かのんがそんなになるなんて…一体レンレンに何言われたんデスか?」
かのん「……あー。うん、まあ、実際には私じゃないんだけど」
かのん「なんていうか、私ああいうのに耐性なくって……」
かのん「ねえ可可ちゃん、頭で理解することは出来ても心が追いつかないときってあるじゃん?」
可可「ああ、特にスクールアイドル解散のニュースが出たときになるやつデスね」
かのん「私いまそれ」
可可「???」
かのん「はあ〜ぁ……ちぃちゃんと恋ちゃん、どっちもヤバいよもう……」
─
恋「すみません、家まで付いてきてもらって」
千砂都「いいよ別に、乗り掛かった船ってやつだよ」
恋「その理屈でいくと私が千砂都さんを家まで送るべきだと思うのですが」
千砂都「また細かいこと気にする」
恋「人のこと言えるんですか?」
千砂都「恋ちゃんには言える。絶対私より気にするタイプだし」
恋「言う言わないの基準そこなんですね…」
千砂都「ほらそういうところだってば」
恋「どういうところですか」 千砂都「だから、私が言った後に……」
恋「いえ、止めておきましょう。これ以上ゆっくり話すのは時間的に厳しいですから」
千砂都「え?」
恋「私もいい加減中に入らないと、サヤさんに心配されてしまいますしね」
千砂都「行くの?」
恋「はい……あ、もしかしてまだ何か用がありましたか?」
千砂都「用がある、わけじゃないけど」
恋「けど?」
千砂都「……そう、月! 残念だったなあーって」
恋「あぁ、今日は曇りがかっていてよく見えなかったですからね」
恋「少し欠けてもいますし」 千砂都「うん、だから明日は晴れてほしいなーって」
恋「そのことについては特に心配いらないと思いますよ、なんとなくですけどね」
千砂都「そう? じゃあそこまで言うならさ」
千砂都「明日も私に付き合ってよ」
恋「……」
千砂都「別にデートでもいいから」
恋「元から私はそのつもりですよ。初めにそう言ったでしょう?」
千砂都「…そっか。うん、そうだったね」 千砂都「じゃあ明日もよろしくね」
恋「ええ、こちらこそ」
恋「もう行ってもいいですか?」
千砂都「そんないちいち私に確認取らなくても」
恋「いえ裾がですね、なかなか払いにくくて」
千砂都「……どうぞ」パッ
恋「ふふっ、ありがとうございます」
恋「ではさようなら」
千砂都「…………ほっ」
千砂都「帰ろ」
スタスタ
千砂都「さーて、次こそは恋ちゃんよりも早く到着しないとね」
千砂都「帰ったらすぐに準備して、睡眠もしっかり……ってあれ?」
千砂都「空、晴れてる……それに」
千砂都(心なしか、いつもよりも明るく鮮明に見える気がする。だけど)
千砂都「やっぱり、これじゃない気がするんだよ」
千砂都(今見えている月と同じで、何か)
何かが欠けているような、足りないような
そんな気がして────
ねえ恋ちゃん、私は一体どうすれば
満たされるんだろうね。
翌日
千砂都「……」スッスッ
恋「千砂都さん」
千砂都「あー、おはよう恋ちゃん。早かったねー」
恋「…驚きました。これでも少々早く出すぎたと思っていたのですが」
千砂都「今回は私のほうが上だったってことだね」
恋「何故そこで張り合うんですか……」
千砂都「そうだ、クレープ食べる? さっき見つけてきたんだけど」
恋「いただきます」 千砂都「はむっ……ん〜、美味しいね〜」
恋「そういえば……んむっ、昨日どこへ行くか決めないまま集まりましたけど」
恋「どうします? これから」
千砂都「歩きながら決めたらいいじゃん」
千砂都「あれこれ悩みながら街を歩くのも結構楽しいかもよ?」
恋「割と適当なんですね」
千砂都「わかってないなあ恋ちゃんは」
千砂都「休みの日っていうのはね、唯一適当が許される時間なんだよ」
恋「即興で考えた持論をさも昔からあるかのように言うのはやめてください」
千砂都「あっちゃーバレたか」 恋「でも、歩きながらっていうのはいいと思います」
恋「たまには目的のない休日というのも、いいかもしれませんし」
千砂都「なら早速行こうか」
恋「ええ」
千砂都「見たいところあったら言ってね」
恋「はい」
千砂都「私も寄りたいところあったら教えるから」
恋「はいはい」
…………
千砂都「ねえねえ恋ちゃん、この服とかどう? 絶対似合うと思うけど」
恋「少し生地が薄くありませんか……?」
千砂都「えー、じゃあこっちの上着は?」
恋「わっ、これ可愛いです!」
千砂都「お、初ヒット」 恋「値段は……ええ!? こんなにするんですか!?」
千砂都「あははっ、あるあるだよねそれ。いいなあと思って手に取ってみたら予想以上に高かったってやつ」
恋「千砂都さんはご自分のを探さないんですか?」
千砂都「まあ気になるものがあるといえばあるけど」
千砂都「せっかくだし、恋ちゃんがちょっと見繕ってきてよ」
恋「いいですね、それ」
千砂都「さーて、恋ちゃんのファッションセンス見させてもらいましょうかね」
恋「もっと気軽に選ばせてくださいよ」
千砂都「ごめんごめん」
…………
千砂都「やったー! 新記録!」
恋「千砂都さん凄いです!」
千砂都「いやいや、恋ちゃんもなかなかいいスコア出してたよ」
恋「ダンスゲームがこんなに難しいものだとは思いませんでした」
千砂都「でも楽しいでしょ?」
恋「はい、楽しいです」
千砂都「ね、暇が出来たらまたやろうよ」
恋「そうですね」 恋「……あの、千砂都さん」
千砂都「ん、なに?」
恋「実は先程から向こうのぬいぐるみが気掛かりでして」
千砂都「取ってほしいの? よしきた!」
恋「ああでも無理なら……」
千砂都「いいから任せてってば」
…………
恋「映画館なんて何年ぶりでしょうか」
千砂都「恋ちゃんは映画よく見るの?」
恋「昔はテレビで放送されているものを見てましたね」
千砂都「わかる。私も似たような感じだし」
恋「ではお互いによく知らないということですか」
千砂都「一応最低限のことは知ってるけどね、はいチケット」 恋「ありがとうございます」
千砂都「並んだ席が空いててよかったね」
恋「ですね、ちなみにこの作品のジャンルは?」
千砂都「恋愛ものみたい。お互いに好き合ってるんだけど本人たちは気が付いてないってお話らしいよ」
恋「なんだかもどかしいですね」
千砂都「観た人が言うにはそういうところがいいんだって」
恋「成程、なんだか気になってきました」
千砂都「楽しんでるねえ恋ちゃん、あっポップコーン食べる?」
恋「もちろん、頂きますよ」
…………
千砂都「いやー、やっぱり二時間も集中して見続けるのは疲れるねー」
恋「まあまあ、面白かったから良かったじゃありませんか」
千砂都「それは言えてるね」
恋「ただ、もう次の場所には行けそうもありませんが」
千砂都「ほんとだ、もうこんなに暗くなってたんだ」
恋「楽しい時間はあっという間ってこういうことを言うんですね」
千砂都「うん、もっと長くてもいいのにね」 千砂都「でも……仕方ないか」
千砂都「よし、帰ろっか恋ちゃん」
恋「はい、でもその前に」
恋「一つだけ一緒に寄っていきたいところがあるんですけどいいですか?」
千砂都「? 私は全然大丈夫だけど…どこに行くの?」
恋「いつもの公園ですよ」
─
千砂都「夜中とはいえ、すごい静かだね」
恋「これくらいが丁度いいと思いますよ? ほら、見てください」
千砂都「あ……そっか、今日……満月か」
恋「忘れていたんですか?」
千砂都「ちょっと夢中になっていたから」
千砂都(それにしても)
千砂都「今夜はまた一段と、よく見えるなあ……」
恋「……」 恋「それで」
千砂都「え?」
恋「お目当てのものは見つかりましたか?」
千砂都「…少なくとも、これまで私が見てきた中では一番綺麗だよ」
恋「その様子だと、まだ納得はいってないみたいですね」
千砂都「……正直に言うと」
恋「そうですか」 千砂都「私、欲深いのかな」
恋「千砂都さんは真っ直ぐですからね、一度こうだと決めたら目を離さない」
恋「だから周りのものに視線を移さず、前だけを見据えている」
千砂都「恋ちゃん?」
恋「それがあなたの魅力のひとつで、先へ進むヒントがあるとしたら、月ではなく恐らくその部分なんですよ」
恋「天候でも形でも明るさでもなく、あなたの心が」
恋「その景色を変えられる、変えていける」
恋「私はそんな気がしますけどね」 千砂都「私の……」
恋「以前話したことを覚えていますか? 私が千砂都さんをうさぎに喩えたときのことです」
千砂都「覚えてるよ、月にはうさぎが住んでいるからってやつでしょ?」
恋「そのとき千砂都さん言いましたよね、寂しいと死んでしまうからと」
千砂都「あれはただの冗談で」
恋「千砂都さんは、何故うさぎに対してそのような噂が広まったのかご存知ですか?」
千砂都「……いや、知らないけど」 恋「本来、うさぎはとても逞しい生き物なんですよ」
恋「厳しい自然界で自分たちが生き残るために、たとえ病気を患っていたとしても」
恋「それを悟られることがないよう平静を装う。相手に隠してしまうんです」
恋「その染みついた修正がペットとして人に飼われても残っているから、危険な状態になってもそれをおくびにも出さず」
恋「結果、目を離している間に息を引き取ってしまう」
千砂都「……」
恋「私が伝えたかったのはそっちの意味ですよ、千砂都さん」 千砂都「じゃあ」
恋「そして、ここからは私の独り言ですが」
恋「それ故にこうも考えてしまうんですよ」
千砂都「……」
恋「そんな強くも儚い存在だからこそ、なにか一つ、秘めたものを打ち明けてくれたなら」
恋「どれほど愛らしいことでしょう、どんなに愛おしいことでしょう」
千砂都「!」
恋「私ね、思うんです。もしかしたら千砂都さんにとってお月様っていうのは鏡のようなものかもしれないと」
ああ、なんか分かる気がする……
恋「曇りのない月に目を奪われるのは、心模様が晴れだから」
それは輝きに憧れがあったからかもしれない
暗闇を照らしてくれる、一筋の透き通るほど強い光に
恋「満月へ想いを馳せるのは、そう在りたいと願うから」
自分もいつかそんな風になれたらと
だけど太陽はたまに眩しすぎるから、どんなときでも見つけてほしくて
恋「だからもし、夜空を見上げて一番美しいと感じる瞬間がやってくるとすればそれは」
それは多分……宙−そら−にはない
私の隣に寄り添う、もう一人の
恋「あなたが心の底から捧げたいと望む、もう一つのお月様に出会えたときなんですよ。きっと」
なーんだ。
答えなんて、最初からもうとっくに
でもね、恋ちゃん
もし、それが全部本当だとしたら
私はなんて言えばいいんだろう、どんな顔すればいいんだろう
今はまだ何も分からないけど、それでもたった一つだけ、約束したいことがある
たとえ、どんなに長い時間がかかったとしても
借り物じゃないその言葉を口に紡ぐことが出来たなら、そのときは────
恋「ねえ千砂都さん」
恋「あなたにとって、そのお月様は……」
「一体誰になるんでしょうね?」
真っ先にあなたへ伝えにいくよ。
これで終わりかぁ…どうなるんだこの二人の関係性…と思ったらまだ続いてくれるのか!
楽しみにしてる 恋「本来、うさぎはとても逞しい生き物なんですよ」
恋「厳しい自然界で自分たちが生き残るために、たとえ病気を患っていたとしても」
恋「それを悟られることがないよう平静を装う。相手に隠してしまうんです」
恋「その染みついた習性がペットとして人に飼われても残っているから、危険な状態になってもそれをおくびにも出さず」
恋「結果、目を離している間に息を引き取ってしまう」
千砂都「……」
恋「私が伝えたかったのはそっちの意味ですよ、千砂都さん」
────
千砂都「…………はあ」
あれから一週間が経った
だけどその間に何かあったかと言われれば、強いて話せることもなく
特別な出来事もないまま
ただ普通に、緩やかに日々は過ぎていって
そんな状況が、もどかしくてしょうがなかった
多分そう思うようになったのは、彼女にあんなことを言われたからなんだろうけど
千砂都「暇だなあ……」
千砂都「やっぱりちょっと早く着きすぎたかな」
別に、彼女の方から避けられていたわけじゃなかった
どちらかと言えば私と一緒で、話したいことがあったんじゃないかとも思う
ただ学校生活が始まると、やっぱり休日のように上手くはいかなくて
都合が悪い時もあれば、部活動に専念する日もある
だから、そういう"雰囲気"を含めた二人だけの時間っていうのがなかなか取れなくて
結果的に距離が空いてしまった
本当はすぐにでも、話したかったのに
恋「千砂都さん」
結局、あれから一週間もかかってしまった
千砂都「恋ちゃん、来てくれたんだ」
恋「当たり前じゃないですか、せっかく誘えてもらえたんですから」
千砂都「嘘うそ、冗談だよ」
恋「からかうのも程々にしてくださいね」
千砂都「はーい」
恋「あ、それと」
千砂都「なに?」
恋「お待たせしてしまいましたか?」
千砂都「ううん、そんなことないよ」
千砂都「私も今来たところだから」 恋「それで、今日はどちらまで?」
千砂都「人のいない静かなところ」
恋「またらしくないところを選びましたね」
千砂都「今日はそういう気分なの」
恋「なら仕方ありませんね」
千砂都「あとは空気が美味しければ最高なんだけどなあ」
恋「東京でそれは難しいのでは?」
千砂都「探してみればあるかもよ?」 千砂都「だって今日はほら、こんなに空が晴れているんだから」
恋「ふふっ、絶好の月見日和ですね」
千砂都「ならお団子も追加でほしいところだね」
恋「いつかのお団子屋で食べていきましょうか?」
千砂都「あ、それいいね。時間も潰せるし」
恋「潰した後はどうするんです?」
千砂都「そんなの、もうとっくに決まってるよ」
ただ、そんな日々のおかげで分かったことがある。
一つは気持ちに嘘をつくことをやめても、それですらすらと言葉が出てくるわけじゃないということ
寧ろ自覚する前よりも詰まることが多くなった。
もう一つは「おはよう、こんにちは、こんばんは。さようなら」そんな日常的に使う挨拶すらも、ちょっとした楽しみになったということ
向こうからわざわざ駆け寄ってくれたときは可愛いなとすら感じてしまう。
そして最後の一つは……きっと私しか持ってない特別なものなんだろうけど
でも、それでいて凄く単純なこと
千砂都「ねえ恋ちゃん、この辺りとかいいと思わない?」
恋「そうですね、人気もありませんし」
恋「ここならゆっくり出来るんじゃないですか?」
千砂都「到着するまで結構時間がかかったけどね」
千砂都「でも、かえって丁度よかったのかも」
恋「丁度いい?」
千砂都「ほら、見てよ恋ちゃん」
月が綺麗ですね。という言葉がある
主に想いを寄せている相手へ告白するときに使われる口説き文句で
かの有名な夏目漱石が I love you を日本語として訳す際に
上記の言葉を生徒に教えたとされた逸話がその由来と云われている。
しかし、漱石が言ったとされる正式な出典元が見当たらないため、その真偽は定かではなく逸話自体の信憑性も低い。
ただ、それでも「日本人の恋愛観」として語り継がれるこの一文を慕う者は未だ絶たれておらず
今日もまたどこかで、誰かの心の中に息づいている
恋「ああ、綺麗な三日月ですねえ」
千砂都「本当にね、私も初めてだよ」
千砂都「形が丸くないのにこんなに綺麗だって思ったのは」
恋「そうですか」
恋「……千砂都さんは」
千砂都「うん」
恋「どうして綺麗だって、思ったんですか?」
千砂都「今まで綺麗だってことを、知らなかったからだよ」
そして、そんな人々が行き交う街並みで愛を囁く中、きっと私だけが
千砂都「恋ちゃん────」
と
そう呼ぶのだろう
恋「どうかしましたか?」
千砂都「……ううん」
千砂都「なんでもないや」
恋「……そうですか」
「…………」
千砂都「外、寒くなってきたね」
恋「はい、少し」 千砂都「夜も遅くなってきたし、そろそろ帰らなきゃだけど」
千砂都「ねえ恋ちゃん」
恋「なんですか?」
千砂都「まだ一緒にいるよね?」
そう言って、振り返り際に笑って見せる
月がまた、隠れてしまわないように
恋「ええ、あなたがそう望むなら」
そして……照らされたまま微笑み返した満月は
いつもよりもほんの少しだけ、赤みがかっているような気がした
千砂都「じゃあ、もう少しこのままで」
恋「もう少しって、どれくらいですか?」
千砂都「私が納得できるまで」
恋「それは長くなりそうですね」
恋「なら私からもお願いをひとつ」
千砂都「なあに?」
恋「手を、取ってくれませんか?」
千砂都「──!」
千砂都「……仕方ないなあ」
その目に映ったものが本当かどうか、それを確かめたくて
一歩、また一歩と、足を軽くさせながら
ただ呼ばれた方へと向かっていく。そこにはきっと、言葉なんていらないけれど
それでも……ああ
なんて綺麗なんだろう
不意に手を伸ばしたら、触れてしまえるくらいの
まあるい、まあるい、瞳の奥で
最後まで直接言葉にしないこの奥ゆかしい感じホントにめっちゃ良い…好き…
一区切りついた感じあるけどまたちされん書いてくださるの待ってます! 素晴らしい…このちされんのやりとりの雰囲気大好き
是非またちされんを書いてくれ ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています