璃奈「かすみちゃんに、もっと笑ってもらいたい」
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彼方「んー……? 改まって相談っていうから身構えちゃったけど……」
エマ「璃奈ちゃんの悩みって、それだけ……?」
璃奈「うん。大したことないって思われるかもしれないけど、私は真剣」
エマ「そっかあ。でも璃奈ちゃん。かすみちゃんって、今でも感情表現豊かでよく笑う子じゃないかなあ?」
璃奈「それはそうだけど、もっと笑ってほしいなって思う」
彼方「どうして?」
璃奈「今日、一緒にお昼を食べたんだけど、そのときにね――」
・
・
・ かすみ「あっりな子ー! こっちこっち!」ブンブンブンブン
璃奈「……か、かすみちゃん。そんな大声で呼ばれたら、恥ずかしい」
かすみ「あ、そっかごめん。食券待ちしてたらりな子の背中が見えたから、つい声かけちゃった。にひひひ」
璃奈「……別に駄目じゃない。トレイ持って移動するのがちょっと重かっただけ」
かすみ「ふんふん。りな子はAランチにしたんだね。私もそうしよっかなー」
璃奈「一緒の?」
かすみ「そ、一緒の。今から買ってくるからさ、席とって待っててよ。一緒に食べよ?」
璃奈「うん。待ってるね」
・
・
・ りなかすには魔力がある
よしルビを好きになった人間の気持ちが今ならわかる かすみ「おーい、りな子お待たせー。良い席空いてたじゃん」
璃奈「うん。たまたま窓際の二人席が空いてた」
かすみ「そっかそっか。それじゃさっそく、いっただきまーす」
璃奈「じー……」
かすみ「なに、どうかした? あっ、さてはかすみんが可愛すぎて見とれてるな〜?」
璃奈「……そんなわけない。ただ最近のかすみちゃんは、いつも楽しそうだなって思って」
かすみ「そう? 普通にしてるつもりなんだけど」
璃奈「だっていつ会ってもテンション高いし、よく私に声をかけてくれる」
かすみ「友達なんだから当たり前じゃん」
璃奈「それにさっきも、手をぶんぶん振って私を呼んでた」 かすみ「あ、あれは……もしかして嫌だった?」
璃奈「そんなことない。ちょっとくすぐったかっただけ」
かすみ「じゃいいじゃん。りな子のこと見つけたら思わずそうしちゃってたんだから」ニコニコ
璃奈「……まあ、いいけど///」
かすみ「そうそう。それより聞いてよりな子。昨日の夜動画見てたらさあ――」
・
・
・ 璃奈「っていうことがあって」
エマ「うんうん」
彼方「それで?」
璃奈「それで……かすみちゃんが笑ってくれると、胸がきゅうってなるのに気づいた。嫌なきゅうっもあるけど、かすみちゃんがくれるのは、すごくあったかくなるきゅうっだから」
彼方「ん〜〜?」
エマ「だから璃奈ちゃんはかすみちゃんを笑わせたいの?」
璃奈「うん。かすみちゃんにたくさん笑ってほしい」
彼方「んん〜〜〜????」 璃奈「だけど私は、自分で笑うのも苦手だし、人を笑わせるのも得意じゃないから。だから、どうしたらいいかわからなくて……」
彼方「なるほどー。それで彼方ちゃんたちに相談しにきたってことかあ」
エマ「うーん、でもそれってわたしたちが言っちゃっていいのかな?」
彼方「うん……迷うよね?」
璃奈「どういうこと……?」
ガラガラッ
かすみ「みっなさーんこんにちはー。かわいいかわいいかすみんが来ましたよー?」 璃奈「あ、かすみちゃん」
かすみ「おっす、りな子ー! 相変わらず冷静だなー?」
璃奈「そういうかすみちゃんは、楽しそう」
かすみ「あったりまえでしょー。今日もトップスクールアイドル目指して! 張り切って練習練習!」
彼方「おお、ご機嫌だねえかすみちゃん」
かすみ「彼方先輩まで!? かすみんはいつも元気なんですけどー?」
彼方「それはそうなんだけど、今は特にって言うか。なるほどこれのことかって言うか〜」
かすみ「? おかしな先輩ですね」
璃奈「あ、あのねかすみちゃん……」モジモジ
エマ(かわいいなあ……)
彼方(がんばれ璃奈ちゃん……) 璃奈「えっと、そのね……」テレテレ
かすみ「いいよりな子、そんなに慌てなくて。どうしたの」ニコニコ
エマ(いや璃奈ちゃんが笑わせる前から、もうかすみちゃんにっこにこなんだけど……)
彼方(んんん〜〜〜〜???)
璃奈「り、璃奈ちゃん素顔『変顔』!」
かすみ「ぷっ、あははははは。もうりな子ってば、何してるの急に。ふふっ」
璃奈「お、おもしろかった?」
かすみ「おもしろいっていうかギャップがすごくて。りな子って元の顔が整ってるから、急に変顔なんてされたら笑っちゃうでしょ」
璃奈「と、整ってるって、あわわわ……///」
かすみ「ふふ〜ん♪」ニコニコ
彼方(んんんん〜〜〜〜?????) かすみ「あ、でもここ。りな子のほっぺた手の跡でちょっと赤くなってるよ」
璃奈「え? どこ?」
かすみ「ほらこのへん」サワサワ
璃奈「へっ、う、うわあ」ペシッ
かすみ「あ、えっと、ごめん。え、痛くはなかったよね? え?」
璃奈「あ、ご、ごめんねかすみちゃん。その、急に触られてびっくりして、それで……///」モジモジ
かすみ「う、うん。その、こっちこそごめん。急に触るとか、普通ダメだよね……」シュン
璃奈「その、ダメってわけじゃなくて、その……///」
エマ(なんだろうこれ、さっきから……)
彼方(彼方ちゃんたちはいったい何を見せられてるんだ〜?) 璃奈「あ、あのっ。わたしそういえば、焼き菓子同好会のみんなに呼ばれてて――」
エマ「あ、うん。いってらっしゃい璃奈ちゃん」
璃奈「そんなに時間はかからないと思うけど、ちょっと行ってくるね……?」
彼方「了解だよ〜。いってらっしゃい」フリフリ
璃奈「うん。それじゃまた後で……」
かすみ「あ、りな子……って行っちゃった……」シュン…
エマ「えっと……」
彼方「かすみちゃん、大丈夫?」
かすみ「べ、別になにも問題なんてないですけど!」
エマ「そっかあ。それならよかったよー」
かすみ「ただその……お二人に相談したいことはちょっとだけある気がします……」
彼方「そうくるか〜」 エマ「えっと、力になれるかどうかはわからないけど、一応聞かせてもらっていいかな?」
かすみ「ありがとうございます。それでその、相談っていうのは……」
彼方「璃奈ちゃんのことかな〜?」
かすみ「な、なんでっ?」
エマ「なんとなく、さっきの様子を見てて思っただけだよー」
かすみ「そっか、やっぱり先輩たちにもわかっちゃうんですね」
彼方「ってことは、やっぱり――」
かすみ「そうなんです。私、りな子に嫌われないようにしたくて……」
彼方「んんんんん〜〜〜〜〜??????」 エマ「別に璃奈ちゃんは、かすみちゃんのこと嫌ったりしてないと思うよ」
かすみ「い、今はまだそうかもしれないですけど、これから先っていうか。最近わたし、知らないうちにちょっとやり過ぎちゃうところがあって、心配なんです」
彼方「ああ、さっきみたいな〜?」
かすみ「そうなんです……なんか無意識に触っちゃってたり、距離が近かったりして……そのたびにりな子がああやってどっかに行っちゃって……」
エマ「うんうん」
かすみ「りな子は何も言わないですけど、心の中じゃ嫌がられるんだろうなってわかるから……」
エマ「うーん、自分でもやり過ぎかなって思うようなことは、やめておくっていうのは?」
かすみ「それはそうなんですけど、かすみんだって知らないうちに身体が動いてるんだから、やめようがないじゃないですか」
彼方「んんんんんん〜〜〜〜〜〜〜?????」 彼方「あのさかすみちゃん。ひとつだけ確認しておきたいんだけど」
かすみ「なんですか?」
彼方「裏で示し合わせて、わたしたちを騙そうとしてるわけじゃないんだよね?」
かすみ「何の話ですか。私は真剣に話してるんですけど」
彼方「なるほどねえ……お互いシンプルに自覚が無い、と」
かすみ「だから何の話ですか」
エマ「ごめんね、こっちの話。でもそうだねえ……そういうことなら、気持ちが落ち着くまで璃奈ちゃんと距離を取ってみるっていうのはどうかな」
かすみ「えっ……りな子と仲良くするのをやめるってことですか……?」
彼方「そんなこの世の終わりみたいな顔されると困っちゃうけど……」
エマ「っていうか、今のなし! よく考えたらそもそも璃奈ちゃんもそういうのは望んでない気がするよ〜」
彼方「そ、それはたしかにそうだね〜」
かすみ「ほっ、そうなんだ。でもでも先輩たちが言うならきっと本当なんですよねっ」ペカー
彼方(うれしそうにしちゃってまあ……) エマ「それじゃあ逆に、思いっきり距離をつめてそれを当たり前にしちゃうっていうのはどうかな。意識的に璃奈ちゃんにくっついてみる!」
かすみ「えっ……それじゃ余計に嫌われるのが加速しちゃうだけじゃないですか?」
彼方「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だよ」
エマ「ていうか、嫌われるっていうのもかすみちゃんの考えすぎだと思うなあ」
かすみ「そうですか、よかったあ……いや、でも……」
彼方「でも?」
かすみ「……やっぱり、少しりな子と距離を取るようにしようかなって……」
エマ「どうして?」
かすみ「だって、さっきも言ったけど最近のかすみんやっぱり変なんです。今日のお昼だって、学食でりな子を見つけたらうれしくなっちゃって、結構強引に一緒に食べよって誘って。ランチも同じのにするって……りな子ってマイペースな子だから、そういうの迷惑してるんじゃないかなって……」 彼方「いや〜、絶対考えすぎだよ〜。かすみちゃんは、わたしたちから一緒にご飯食べよって誘われたらどう思う?」
かすみ「そりゃあうれしいですけど……」
エマ「だよね、ありがと。でもだとしたら、それは璃奈ちゃんとかすみちゃんでも変わらないんじゃないかな?」
かすみ「でも私は、先輩たちにちょっと触られたくらいで逃げたりしませんよ」
彼方「そ、それはなんていうか、璃奈ちゃんにも事情はあるんじゃないかな〜、いろいろと」
かすみ「ってことはやっぱり、私がりな子を困らせてるってことになるじゃないですか」
エマ「う〜ん、鋭い。ていうかある意味それも間違いじゃないんだけど、やっぱり間違ってるっていうか……」
彼方「難しい問題だから、彼方ちゃんたちがあんまり口を挟めないところもあるけどねえ……」 エマ「わかった。もしかすみちゃんが一度距離を置くって決めたなら、わたしたちはもう止めない。だけどせっかくならその時間を使って、落ち着いて自分の心を整理してみるのが良いんじゃないかな?」
かすみ「よくわかりませんが、そういうものですか……?」
彼方「そういうものだよ〜。答えは案外近いところっていうか、自分の中にもう眠ってたりするものなのかもしれないよ〜」
エマ「うんうん。がんばってねかすみちゃん。かすみちゃんに暗い顔なんて似合わないよ。笑顔笑顔」
かすみ「……そうですね。お二人の言う通りです! 今日は早めに帰って、ゆっくり自分の時間を取ってみます!」
彼方「彼方ちゃんもそれがいいと思うな〜」
かすみ「はい。それじゃありがとうございました。今日はこれで」
彼方「お疲れさま。また明日ね、かすみちゃん」
・
・
・ 璃奈「……ただいま」
エマ「あ、おかえりなさい璃奈ちゃん」
璃奈「あれ……かすみちゃんは?」
彼方「今日はちょっと疲れてるから、早く帰ってゆっくりするって言ってたよ〜」
璃奈「そっか、帰っちゃったんだ……」
エマ「あ、特に変な意味はないはずだよ。ちょっと疲れてるだけって話で」
璃奈「うん。体調管理は、大切……」
彼方「ふふふ〜、そんな落ち込んだ顔しないで璃奈ちゃん。もし練習後に時間があるんだったら、わたしたちとどこか寄っていかない?」
璃奈「ほんと? 行きたい!」
・
・
・ 【夜 / 中須家】
かすみ「ふー、良いお湯だったー……そういえば昨日の動画の続きはっと――」ポチポチ
かすみ「あははは、やっぱ面白いなーこれ」
かすみ「ありゃでも今日の更新短いな。続きは明日かあ」
かすみ「……」
かすみ(そういえば、りな子は今何してるんだろ)
かすみ「あ……」 かすみ(りな子、今日はエマ先輩たちとお台場行ったんだ……)モヤ…
かすみ(ふぅん、三人で特大スイーツ食べて……)
かすみ(いや、先に帰った私が悪いのはわかってるんだけど! でも一言言ってくれたって……)
かすみ(あっ)
かすみ(ていうかこれ、この前一緒に食べにいこって話してたやつじゃん……)
かすみ(……)
かすみ(…………)
かすみ「あーもう! 自分のこと考えるって言ったのに、なんでこんな人のことばっか気にしてるの! もう!」
・
・
・ 【翌日 / 部室】
エマ「あ、かすみちゃんだー。待ってたよー」
かすみ「……どうも」
彼方「こんにちはかすみちゃん。昨日はよく眠れた〜?」
かすみ「……むしろ全然寝付けませんでしたけど」
エマ「えっと、かすみちゃん、大丈夫……?」
かすみ「……なんてことないですから、少しほっといてください」
璃奈「どうしたの……? かすみちゃん、体調良くない……?」
かすみ「もう、りな子まで! だから平気だってば。もういいから練習させてよ」
璃奈「う、うん。ごめんね……でもその前に、これ、よかったら受け取ってほしい」 かすみ「なにこれ……猫のぬいぐるみ?」
璃奈「うん。昨日帰りに、お台場で買ったんだ。女の子たちって、よく友達同士で一緒のぬいぐるみとかを、キーホルダーにしてスクールバッグにつけてるでしょ。あれ、私もやってみたくって……」
かすみ「それで私に? 先輩たちは?」
彼方「璃奈ちゃんが気に入るやつが二つしか残ってなくてね〜」
璃奈「次入荷したら一緒に買う約束はしたけど、一番はじめては、かすみちゃんがいいなって。だから――」
かすみ「もらう」
璃奈「え?」 かすみ「もらうって言ってんの! ていうかもらわないわけないじゃん!」
璃奈「え、うん。どうぞ……?」
かすみ「えへへー、ありがとねりな子! 絶対大事にするから!」ニコニコニコニコ
璃奈「あ……///」
かすみ「なに? どしたのりな子」
璃奈「かすみちゃん、やっと笑ってくれた。うれしい……」テレテレ
かすみ「そ、そりゃあプレゼントもらって喜ばないわけないでしょ」
璃奈「そうだけど、でも不安だったから……」
かすみ「なにそれ、気にしすぎだって。かすみんとりな子の仲でしょー?」
璃奈「うん。蓋を開けてみたらそうだった。ほんとによかった」
エマ「ふふっ、すっかり仲直りできたみたいだね」
彼方「うんうん、よかったねえ」 璃奈「あ、でも……」
ジャラッ
かすみ「?」
璃奈(そうだよね。わたしには初めてでも、かすみちゃんはお友達いっぱいいるもんね)シュン…
かすみ「よーし! それじゃりな子、そろそろ練習行こ? 一緒にストレッチやろうよ。早くしないと今日は雨が降るみたいだよ」
璃奈「あ、うん……わかった」
璃奈(でもいいんだ……それでもわたしにとって、かすみちゃんは大切なお友達)
璃奈(それにスクバに付けてくれるってことは、かすみちゃんも私のこと、少しは思ってくれてるってことだから……) かすみ「どうしたのりな子、ぼーっとして」
璃奈「ううん、なんでもない」
かすみ「そっか。じゃあ話変わるけど、今日の帰りどっか寄っていこうよ」
璃奈「ごめん、今日は焼き菓子同好会のみんなと、買い物に行く約束をしてるから……」
かすみ「じゃあ明日は?」
璃奈「明日は大丈夫。空けてある」
かすみ「にしし、じゃあ明日。決まりね!」
璃奈「うん、約束」
璃奈(そう、大丈夫。かすみちゃんの鞄に、ちゃんと私とお揃いのぬいぐるみもくっついてる)
璃奈(だから平気。そのこととかすみちゃんが笑ってくれるだけで、私には十分なんだ……) 【夜 /天王寺家】
璃奈「ふう、宿題終わった。思ったより時間かかっちゃったな」
璃奈「半端な時間……なにしよう。アプリ開発か、それとも……」
璃奈(そういえば昨日かすみちゃんが言ってた動画どれだっけ……)ポチポチ
璃奈(えっと……あ、かすみちゃん新しい写真アップしてる)
璃奈(かすみちゃん、今日はコッペパン同好会のみんなと帰ったんだ。ヴィーナスフォート、綺麗だな……)ポチポチ
璃奈「!?」
璃奈「え……うそ……」
璃奈「や……私があげたぬいぐるみ、いない。こっちの写真も……これも……」 璃奈(なんで……)
璃奈(他のはつけたままなのに、どうして私のだけ……?)
璃奈(ひょっとして、迷惑だったのかな……)
璃奈(私が無理やり渡しただけど、本当は気に入らなかったのかな……)
璃奈(私なんかと一緒のもの、付けたくなかったのかな……)
璃奈「……っ」
璃奈(あ、これだめなやつだ……)
璃奈(久しぶりに、胸がきゅうってなってる……最近かすみちゃんがくれるとは違う、悪い方のきゅうっ……)
璃奈「あ、ううっ……」
璃奈(泣きたい……だけど……私じゃろくに涙も流せない……)
璃奈(自己嫌悪、止まらない……)
璃奈「ダメだ……今日は寝よう……」 【翌日 / 部室】
エマ「あ、こんにちは璃奈ちゃん――って、どうしたの顔色が良くないよ!?」
璃奈「なんでもない」スンッ…
彼方(ええ〜、なにこれ。璃奈ちゃんがこんな風にしてるのすっごく珍しいけど、そのぶんすっごく気まずいよ〜)
エマ(絶対なんでもないことなんてないよね。というか最近の傾向からすると……)
彼方「ひょっとして……かすみちゃんと何かあった?」
璃奈「!」ビクッ
エマ「わかりやすいなあ」
璃奈「か、かすみちゃんとは、なにもない」
彼方「ほんとかなあ」
璃奈「本当。誓ってもいい」
璃奈(だってただ私が勝手に期待して、勝手にがっかりしてるだけ。かすみちゃんは何も悪くない……) ガラガラッ
かすみ「みっなさーんこんにちはー。今日もかわいいかわいいかすみんが来ましたよー?」
エマ「あ、かすみちゃんちょうどいいところに。ちょっとこっちに来て正座してもらえるかな?」
かすみ「え? なんです急に。顔怖いんですけど」
彼方「正座」ゴゴゴゴゴ…
かすみ「は、はいー! って、でもかすみんほんとになにも心当たりがないんですけど〜?」
エマ「じゃあわたしの目を見て……じー……」
かすみ「じー……」
彼方「う〜ん、これは……どうも今回は本当っぽいね〜」
かすみ「だからそう言ってるじゃないですか。ちょっと、りな子も何か言ってやってよ」
璃奈「私は別に……言うことなんてない」
かすみ「ええ〜、なにそれ」 ジャラッ
璃奈(あ、かすみちゃん、今はぬいぐるみ付けてるんだ……)
璃奈(なんだろ……気を使って、私が近くにいるときはつけるのかな……)
璃奈(よけい惨めだから、迷惑なら外していいよって言わなきゃ……)
璃奈「あの、かすみちゃん」
かすみ「なにりな子?」ニコニコ
璃奈「あ……///」
璃奈(言わないと)
璃奈「あ、あのね、その、ね……っ、ぬい…み……、は、はず……っ」
璃奈(言わないと……!)
かすみ「どしたのりな子? 喉でも痛いの?」
璃奈(ちゃんと言わないと……っ!) かすみ「ん〜。やっぱ変だぞりな子。ほんとに大丈夫?」
璃奈(かすみちゃんが私を見てくるせいで、どんどん言葉がちゃんと出てこなくなる)
璃奈(だけど表情だけじゃなく、言葉すら出せなかったら、私はもう何も伝えられない――)
璃奈(だから、言わないと……っ!)
璃奈「っ――あのっ! かすみちゃん!」
エマ「は〜い、そこまで〜」
彼方「時間切れで〜す」
璃奈「え、エマさん? 彼方さん……?」
彼方「もういいよ〜。璃奈ちゃんもかすみちゃんも、ここ最近二人がどれだけ私たちを振り回してるかわかってないな〜?」
かすみ「え、そんなつもりはないんですけど」 エマ「いやいや、ふたりともちょっとしたことで不機嫌になったり、上機嫌になったり」
彼方「言葉足らずですれ違ったかと思ったら、急に仲直りしてべたべたしたり〜?」
璃奈「そんなことない、と思う」
エマ「あるの」
彼方「で、それは今もなんだよねえ」
かすみ「そうなんですか?」
エマ「そうなんです」キッパリ
彼方「だからもう、彼方ちゃんたち怒っちゃったからね――エマちゃんや」
エマ「任せて」ガシッ
かすみ「え、ちょ、なんですかエマ先輩。持ち上げないでくださいー!」ジタバタ
エマ「スイスじゃよく悪いことした弟たちを、こうやって真っ暗な物置の中に放り込んだものだよ〜」 かすみ「そ、そんなお仕置き、サザエさんくらいでしかみたことないんですけど!」
エマ「大丈夫大丈夫。ハイジもそうやって大きくなったんだから」
かすみ「絶対嘘ですよねそれ!」
彼方「うるさいよ〜かすみちゃん。ほら、璃奈ちゃんもだよ。じたばたしないの」
璃奈「怖い……どこに連れてかれるの……?」
彼方「写真同好会の部室だよ〜」
璃奈「どうして……?」
彼方「今はもう使ってない暗室があるんだ〜。一ミリの光も漏れない真っ暗闇だよ〜」
かすみ「ぎゃああああ嫌ですー! なんで! かすみんなんにもしてないのに!」
エマ「はーい到着。二名様ごあんないー」
ポイポイッ
かすみ「ふぎゃっ」
璃奈「いたっ」 彼方「しばらくしたらまた迎えに来るから。それまで頭を冷やすと良いよ〜」
エマ「そうそう。わたしたちにしてきた相談の内容をお互い話し合うとかねー」
かすみ「ちょ、先輩、冗談ですよね?」
バタン、ガチャリ
璃奈「えと……彼方さん、エマさん……?」
シーン……
璃奈「返事も物音もしない……私たち、本当に閉じ込められちゃったんだ……」 彼方(なんちゃって。本当はこのままこっそり廊下で見張らせてもらうんだけどね〜)
エマ(ねえ彼方ちゃん。この前ネットで見たんだけど、真っ暗闇だと人間って素直になれるらしいよ?)
彼方(知ってる〜。あの二人にはこれくらいやった方がいいんじゃないかなって前から思ってたんだよねえ……ところでエマちゃん。一個だけ確認なんだけど)
エマ(なに?)
彼方(そ、その……もし校則違反な展開になっちゃったら、止めるべき……? ふ、ふ、ふ不純同性交遊的な?)
エマ(……それを止めるなんてとんでもないよ) かすみ「ちょ、ほんとに真っ暗なんだけど。りな子スマホは?」
璃奈「部室に置いてきた。ていうか、捕まったときに奪われたのかも」
かすみ「りな子もか……あーもう、明かりがあれば内側から鍵開けられるかもしれないのにー!」
璃奈「もういいよ、かすみちゃん。待ってたら迎えに来てくれるって言ってたし、待とう?」
かすみ「……まあ。たしかに、何かにぶつかって怪我とかする方がよくないか……」
璃奈「うん、そう思う」
かすみ「で、それはいいとして、結局なんでこんなことになったか全然わかんないんだけど?」
璃奈「それは……たぶん私のせい。私が今日ずっと落ち込んでたから、彼方さんたちが勘違いしちゃったんだと思う」
かすみ「なんて?」
璃奈「かすみちゃんと私が喧嘩したって」
かすみ「え、そうなの?」 璃奈「違うよ。ただ私が勝手に落ち込んでるだけで……あのね、かすみちゃん」
かすみ「なに」
璃奈(ここなら、かすみちゃんの顔が見えない。見られることもない……今なら、言える気がする)
璃奈「っ……あのね。昨日渡した猫のぬいぐるみ、迷惑だったら、つけなくてもいい……」
かすみ「はあ? なに言ってんのりな子」
璃奈「だって、昨日ネットにあげてた写真……かすみちゃん猫さんつけてくれてなかった。他の子のはつけてたのに……」
かすみ「……」
璃奈「何も言ってくれない……やっぱりそうだったんだ」
かすみ「違うよ」
璃奈「違わない」
かすみ「だから違うのはそのことじゃなくって! 私はりな子のバカさ加減に呆れてるだけ!」
エマ(あれ、なんだか修羅場っぽいよ彼方ちゃん)
彼方(まずいまずい。なんか思ってたのと違うぞ〜) 璃奈「……かすみちゃんの言う通りだと思う。強引に押しつけて喜んでた私がバカなだけ。だから……」
かすみ「あのさりな子」
璃奈「うん……」
かすみ「まずりな子のプレゼントは確かに外してたよ」
璃奈「知ってる……」
かすみ「だって雨だったから。濡れないようにタオルに包んで鞄に入れてた」
璃奈「え……?」
かすみ「当たり前でしょ。大事にするって言ったじゃん」
璃奈「言ってたけど、そうなの……?」
かすみ「そうなの! 大切なものだから! 絶対汚したくなんてなかったから! それから! りな子の猫以外につけてるやつは、私が個人的に気に入って買ったやつだから。全部」
璃奈「それって……」
かすみ「誰かとお揃いのなんて……りな子のしかない」
璃奈「!」
エマ(おおおお、かすみちゃん格好良い!)
彼方(いいよいいよ〜。彼方ちゃんたちが求めてたのはこれだよ〜」 かすみ「だからその……勝手に落ち込む前に、一言私に聞いてよね。まあ私もそういうことするし、あんまり人のこと言えないけど……」
璃奈「そうなの……?」
かすみ「まあ、ね……りな子に近づきすぎたり触ったりして嫌われたらどうしようって、こないだ先輩たちに相談したばっかりだし」
璃奈「そんなの……私が、そんなことでかすみちゃんを嫌うわけない」
かすみ「……ほんとに?」
璃奈「ほんとに決まってる」
かすみ「でもそのわりに逃げるじゃん」
璃奈「それは……恥ずかしいのと……心の準備ができてなかったせい。今は……できてるよ……」
かすみ「そうなんだ……じゃあそれって、どこまでOKなの?」
璃奈「え?」
かすみ「こういうのも、していいの……?」
璃奈「あ……っ、ん……」
エマ(あああああ〜〜〜ダメだよかすみちゃんここは神聖な学び舎だよー!)
彼方(しまったああ! ここからじゃ何も見えない!!! ていうかまさかほんとにやっちゃうとは!) 璃奈「ん……、これ好き……気持ちいい……///」
エマ(だけどそれ以上はほんとにダメだよ! 認められないよ! 彼方ちゃん!)
彼方(わかってるよ〜)
彼方「んっ、げふんげふん! さーて、か、彼方ちゃんたち戻ってきたよ〜!」
かすみ「えっ? はやっ」
ガチャリ
彼方「そっ、そろそろ反省したかな〜二人とも〜」
璃奈「あ、うん……した、と思う」
エマ「それじゃあと三秒でドア開けるよー。はいさーん、にーい、いーち……」 ガラガラ…
かすみ「うっ、まぶし……」
璃奈「うん……」
エマ「え、ええっと、それでその〜」
エマ(何してたのなんて聞けないし、思ったより気まずいよー……)
彼方「な、仲直りは出来たかな〜?」
彼方(が、がんばれ彼方ちゃん。ここは演技。しずくちゃんばりの演技でなにも聞いて振りをするんだよ〜。大丈夫、彼方ちゃんならできる!) 璃奈「そ、その……えへへ……///」
かすみ「い、いやあなんと言いますか。にひひひ……///」
エマ「そ、その様子だとできたみたいだねー?」
璃奈「うん。でもそれだけじゃなくて、ね……かすみちゃん」
かすみ「その、先輩たちのおかげで私、りな子と――」
彼方「ちょ、待って待って! わたしたちまだその際を聞く心の準備が――」
かすみ「手、繋いじゃいました……///」
彼方「ピュアか!」
璃奈「? 手をつなぐと、とっても幸せな気持ちになる……///」
エマ「うんうん、そうだね。何事も先走ったら良くないよねー……はぁ、もう驚かせないでよー……」
かすみ「?」 彼方「って、よく見たら璃奈ちゃん泣いてるじゃん! え、どうして?」
璃奈「嘘……泣いてなんか……あ……私……泣けてるんだ……」
エマ「ご、ごめんね、暗いところで怖がらせちゃったせいかな、本当にごめんなさい!」
かすみ「いや……違うんじゃないですか?」
璃奈「うん……暗いのは平気だった。だからこれはきっと……うれしいとよかったの涙。かすみちゃんと仲直りできて、本当にそう思ったから」
彼方「おっふ……惚気るねえ。でも、そこまで言うならもっといろいろ気付いてもいいと思うんだけどな〜」
かすみ「なにがですか?」
エマ「なんでもないよ。かすみちゃんと璃奈ちゃんは、そうやってゆっくり、気持ちを育んでいけばいいと思うよ〜」
璃奈「うん。よくわからないけど……ずっとずっと、みんなと仲良くできたらいいなって思う。かすみちゃんとももちろん」
彼方「まあそうだね〜。彼方ちゃんたちも応援してるからね」
かすみ「はあ。よくわかりませんが、ありがとうございます……?」 エマ「さてそれじゃみんな、話が落ち着いたところで練習に戻ろっか」
彼方「そうだね。ていうかわたしたち、今日まだ何にもやってないからね〜」
璃奈「うん。早くみんなのところに戻らなきゃ」
彼方「はい、それじゃみんな外に出て〜。この部屋、鍵閉めちゃうよ〜」
エマ「はーい」
璃奈「ていうか彼方さんは、どうしてこんな部屋の鍵を持ってたの……?」
彼方「そりゃあ悪い子たちにお灸を据えるために、あっちの部長さんに前もって借りておいたんだよ〜」
かすみ「怖っ。普段からそんなこと考えてたんですか」
エマ「普段からわたしたちを困らせる悪い子たちがいなければ、彼方ちゃんもそんなこと考えなくてすむんだけどなあ?」
璃奈「うぐ」
彼方「まあまあ。これを機に仲良くやってくれればそれで十分だから。それより早く戻ろうよ〜」
エマ「そうだね〜、二人とも先行くよー。ゆっくりしてると置いていっちゃうよ〜」
璃奈「うん、すぐ行く」
かすみ「あ、あのさ……ちょっと待ってりな子」 璃奈「? どうしたの?」
かすみ「その……」
璃奈「うん」
かすみ「えっとね……さっきのやつ、またしたい……///」
璃奈「ぇっ……///」
かすみ「だ、だって……っ、りな子の手が、暇してるって言ってきてるんだもん! りな子のせいだからね!」
璃奈「わ、私の手はそんなこと言ってない。むしろかすみちゃんの手の方が、ぶらぶらしてて暇そうに見える。こんな気持ちになるの……全部かすみちゃんが悪い……///」
かすみ「いいよ、私が悪いでいいから、だからしようよ……先輩たちがこっちを振り向くぎりぎりまで。りな子は、したくないの……?」
璃奈「……そんなことない。これからも沢山。何百回でも何千回でも、したい……」
かすみ「よかった、私もだから……触って……?」
璃奈「ん……かすみちゃんの手、あったかい……落ち着く……好き」
かすみ「えへへ……私もだよ、りな子」
おしまい 終わりです二人にどこまでやらせるかちょっと悩みました
ありがとうございましたー ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています