海未 「Today」
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眠って、鳥の鳴き声が聞こえてきて、すきまから陽ざしが入ってきて、つい昔の癖で夢で浮かんだ歌詩を書きかけたけれど、それはもう過去のことと気付いて微睡みから覚めて、私はカーテンを大きく開いた。 「今日はたしか大学の授業はなかったですよね……どうしましょうか」
私の家は由緒正しき日舞の家元で、いずれは私が継ぐことになる。しかし、大学はしっかり行って世のことわりを学んできなさいと、母の教えで現在は大学に通って一人暮らしをしている。
起きてからしばらく経って、朝のランニングから帰ってきた頃には意識がはっきりしていた。
「予定を考えておくべきでしたね……実家に帰りましょうか。それとも、たまには一日、本を読んで過ごすのも良いですね」
そんなふうに頭の中で思考を巡らせていたけれど、そこからものの数秒で、その思考は無駄になることになる。 ピンポーン
誰かが来たようだ。
「はい、今出ます」
扉を開けると……。
「海未ちゃん! 久しぶりっ!」
そこには相変わらずうるさい幼馴染みがいたのでした。
…
…
… 「それにしても穂乃果! 来るなら来ると事前に連絡をしてください!!」
「うぅ……久しぶりに会ったのに怒らないでよぉ〜」
「私だって怒りたくないです!! 今日はたまたま授業が休みだったからよかったものの」
「大丈夫だよ、もし授業があっても今日は休んでもらうつもりだったから」
「はい?」
「今日は穂乃果と絶対一緒にいて欲しかったからね♪」 「……何かあったのですか?」
「あっ、いや別に何かつらいことがあったから一緒にいて欲しいとかじゃないよ!? ただ……」
「ただ?」
「ううん、なんでもない」
「なんでもないってなんですか!」
「えへへ」
変な調子の穂乃果に少し心配になりましたが、よくよく考えるといつも穂乃果は少し変なので別に気にしなくなりました。 よかったぁ
このまま海未誕ゼロのまま1日終わるかとおもたで 「そういえば今どこに向かってるのです?」
「えっ、別に決めてないよ」
「決めてないで歩いてるのですか!?」
「うん! あっ、とりあえずあそこの服屋にでも入ってみる?」
「服屋ですか? ……私は服には少し疎いのであまり乗り気ではないのですが」
「いいからレッツゴーー!!」
「ちょ、引っ張らないでください!!」
…
…
… 「このスカートとかどう?」
「ダメです!! 短すぎます! 破廉恥です!!///」
「じゃあマフラーは?」
「もう春ですよ?」
「うーん……クレイマーだなぁ……」
「なっ! クレイマーって! 急に連れて来られたこっちの身にもなってください!!」 「じゃあこの帽子はどうかな?」
「ベレー帽ですか?」
「うん! オシャレでしょ? ことりちゃんほどじゃないけど、穂乃果だって海未ちゃんに似合う服くらい分かるよ! ずっと幼馴染みなんだから!」
少し変わった帽子でしたが、たしかにとても可愛らしくて欲しくなりました。なにより穂乃果が私のために一生懸命選んでくれたことが嬉しかったのかもしれません。
「良いと思います……これ買いましょうか」
「ってことはこの帽子欲しいってこと?」 「えっ、そうですけど」
「うーん……じゃあダメっ!!」
「ええっ!?」
「だって時計見てよ?」
「あっ、もういつの間に昼時に……」
「もう穂乃果お腹ぺこぺこだよ〜。だから最近出来たレストランに行こうよ!」
「でもこの帽子を買ってからでも……」
「ダメっ!! お腹空いちゃっていち早く食べたいだもん!」 そうやって頬を膨らませる穂乃果は、もう何度も見た顔で、でもいつも飽きずに和む顔で、その顔で言われてしまえば、ことりのお願いと同じくらいの威力があるのです。
まあ帽子は今度買えば良いですよね?
「分かりました、レストランに行きましょう」
「やったぁぁーーー!!」
穂乃果が嬉しそうで良かったです。
…
…
… 「今日もパンが美味いっ!!」
「穂乃果……そのパンはメインメニューではありませんよ?」
「分かってるって!!」
「それにしても穂乃果は相変わらず落ち着きがないですね。大学生になれば少しは変わると思いましたが……やれやれ」
「まさかの説教!?」
「レストランで説教もなんですから、このくらいで収めてるのです」 「うぅ……穂乃果だって少しくらい成長したもん!!」
「例えばどこがです?」
なんて言ってますが、分かってますよ、穂乃果は成長してます。だって昔も今も、私はあなたを追いかけてばかりですから……。
でもそれを認めたくないのか、つい、意地悪をしてしまうのです。
「例えばね……分からないことは分からないままにしなくなったよ!!」
「それは良いことですね、勉強では質問をよくする子が伸びますから」
「あっ、勉強以外でね」
「穂乃果?」
「ひっ! なんでもないです!」 「まあ穂乃果らしくて良いですけど」
「なっ! バカにしてるでしょ!?」
「バカになどしてません。なんというか、変わってないと安心するんですよ、大切な人が。もちろん成長するのは大切ですけど、心の根本はそのままでいて欲しいのです。穂乃果はとても優しい子ですから、それが変わってないと分かるとすごく安心するんです」
「……」
「どうしたのです、穂乃果?」
「……///」
なぜか分かりませんが、穂乃果の顔が少し赤くなってました。そのあと熱を心配しておでこに手を当てようとしたのに、嫌がられたのはかなりショックでした。
…
…
… 「ふーふー♪ 次はどこに行こうかな〜♪」
「冬も終わったのでまだ明るいですが、もうそろそろ五時ですよ? まだ遊ぶつもりですか?」
「えっ、逆に海未ちゃん、もう帰るつもりなの!?」
「もちろんです。日が沈む前には家にいたいですね」
「海未ちゃん、大学生だよね?」
「大学生ですよ!!」 「うーん、一人暮らしなのに門限みたいな時間に帰るの?」
「早く帰るに越したことはありません」
「そうかもしれないけど……ってなんかあっちの方が騒がしいね」
「本当ですね。ストリートパフォーマンスでしょうか?」
そこには音楽に合わせて踊る男女がいました。あの動きはおそらくプロの方ですね。
「ダンスだ!!」
「あれはチークダンスというジャンルですね……やはりプロの方はステップが違います」 「じゃあ穂乃果は海未ちゃんと踊る〜♪」
「なっ!! 急にベタベタ触ってこないでください!! 破廉恥です!!///」
「海未ちゃん! ステップちゃんとしてよ!」
「ほ……穂乃果……!」
「ほら? 踊ろう?」
「……やれやれ、分かりましたよ」
あまり詳しくないダンスだったので、動きはおぼつかなかったですが、それでも穂乃果と心から楽しんだその瞬間。とても幸せでした。
…
…
… 「いやぁ……久しぶりに踊るとやっぱり楽しいね!」
「足元が安定しなくてフラフラでしたけどね」
「でもたまにはこういうのも良いよね!」
「……ですね」
その会話の後は、しばらく無言の時間が続きました。でもそれは決して気まずい空気などではなく、まるで余韻を楽しむような心地いい時間でした。
少しずつ暗くなっていく。
一日の終わりが近づいてますね。
「ねぇ、穂乃果……って穂乃果?」
隣を見ると穂乃果がいなくなってました。 「まさかこの人混みではぐれてしまったのですか!?」
慌てて穂乃果を探して。
ふと穂乃果の背中を見つけて急いで駆け寄りました。
「穂乃果! こんなに人がたくさんいるのですから、はぐれたら迷ってしまうかもしれないのですよ……ってあれ?」
「……これまた懐かしいね」
その人は穂乃果に似た、でも穂乃果よりも大人びた女性でした。
…
…
… 「あっ、ごめんなさい……人違いでした……!」
「あはは、もしかして穂乃果ちゃんを探してる?」
「えっ……知ってるのですか?」
「うん、まあね」
「実はその穂乃果と一緒に買い物をしていたのですが、先ほどはぐれてしまって……」
「あっ、デートだ!」
「ち、違いますっ!!///」
「ふふ、海未ちゃんは破廉恥だねえ」
「は、破廉恥なんかじゃありませんっ!!///」 「それにしてもなんか、デートにしては私服がシンプルすぎない?」
「なっ! 初対面のあなたになんでそんなこと言われなくちゃいけないのですか!! 今日のことは急な予定だったので準備に時間をかけられなかったのです!! それにそもそもデートではありませんっ!!///」
「頑固だねぇ……」
たしかにその人は初対面なのですが、どこか懐かしさがあって、実際私も普通に喋れてますし……不思議な気持ちでした。
「そういえばあなたはこの中だと何が欲しい?」
「えっ?」
その女性が指差したのは、お店のショーウインドーで。 「ペンダントですか?」
「そう。たくさんのペンダントがあるんだ……私もプレゼントしたい人がいて、その人が喜びそうなペンダントを考えてるんだけど、なかなか浮かばなくて。アイデアを聞いてみたいなって思ったの」
「うーん……この中だと……」
そして私は一つのペンダントを指差しました。
「これが良いと思います」
「えっ? あなたはこれを身につけたいの?」
「あ、いや……私がというより、私の今日の連れに一番似合いそうだなと思ったのがこの赤いペンダントだと思ったので」 「そこは普通自分が付ける場合を考えるでしょう……あなたらしいけど」
「はあ、私らしいですか?」
「うん」
初対面なのに不思議な人です。
「でもそれはダメだなぁ」
「えっ? なんでですか?」
「ほら」
そう言いながらその女性は服の中から首にかけてたものが見えるように取り出しました。 「私が付けてるんだよね、その赤いペンダント」
「あっ、被ってしまいますね……」
「ちなみにこのペンダントは私が今回プレゼントを渡したいその人から以前貰ったんだ」
「そうなんですか……」
「うーん。でも良いかもね、ペアルックみたいで! よし決めた!! これ買おう!」
そうやって嬉しそうに微笑む姿は、あまりにも穂乃果を想起させるものでした。
もしかして親戚なんですか、そんな質問をしようとしたときには……。
「あれ?」
その女性はいなくなっていて、どこからか。
「ありがとう、またね」
なんて声が聞こえた気がしたのです。
…
…
… 「あっ、穂乃果!」
「うぇぇーーん、海未ちゃんーーー!!」
合流した途端に抱きついてきました。
「あなたは本当に相変わらず子供ですね……」
「だって寂しかったんだもーーん!! このまま会えなかったらどうしようって……うぅ」
「安心してください。私は穂乃果から離れたりしませんよ」
そう言って穂乃果の頭を撫でます……結局甘いところ含め、私も相変わらずらしいです。 「じゃあ帰りましょうか」
「あっ! せっかくだから穂乃果の家に寄ろうよ!」
「穂むらにですか?」
「うん! ほむまん食べたいでしょ?」
「それはもちろんそうですが……」
「じゃあすぐ追いつくから先に行ってて! 穂乃果は少し寄るところがあるから!」
「ちょ、穂乃果!?」
完全に空は暗くなって、イルミネーションに包まれた街の中、せっかく合流した穂乃果はまた人混みに消えてしまいました。
「仕方ないですね……言われた通り穂むらに行ってましょうか……」
もし今度はまぶたを開けたら二人が消えそうな気がして……不安にもなるけれど、目をつぶったまま道を駆けて行く。そんな気持ちでした。
…
…
… 「まだ穂乃果が来ないまま、穂むらに着いてしまいました……」
ふと見ると、扉に一枚の紙が張り出されていて。
「あれ、今日はお店は空いてないのですか……? なにか祝日でしたっけ?」
「あっ、海未ちゃん」
「あっ、雪穂」
「お姉ちゃんから聞いてるよ、ちょっと待っててね」
「はい、分かりました……って、家の前でですか?」
「うん。こっちも準備が忙しくて」
準備? お店の準備でしょうか?
「あっ、あっち見て」
「えっ?」
雪穂が指差す方を見ると。 「海未ちゃーーーーーん」
「あそこに見えるのは……穂乃果?」
「お誕生日ーーーー!」
「穂乃果! そんなに走ったら危なっ――」
「おめでとーーーー!!! どーんっ!」
「きゃあっ!? いたた……はっ! 穂乃果、怪我はありませんか!?」
「あはははっ、急ブレーキ効かなかった! 海未ちゃんこそ平気?」
「ええ、大丈夫です。ですが、勢いのまま飛びつくのは危ないと……って誕生日?」 「呆れた、本当に忘れてたの?」
「って絵里!? みんな!?」
穂むらから出てきたのはμ'sのメンバーでした。
「海未ちゃん、自分の誕生日を忘れるなんてドジだにゃー」
「やれやれ、海未ったら。自分の誕生日くらい覚えておきなさいよ」
「あはは……海未ちゃんらしいと言えばらしいよね」
「凛、真姫、花陽……」
「仮にでも元アイドルだったら自分のプロフィールは把握しときなさい!」
「でもおかげでサプライズ成功したし良いんやない?」
「穂乃果が一日海未を連れ回してくれたから準備は完璧よ!」
「にこ、希、絵里まで……」 そうでした……今日、三月十五日は私の誕生日……で、でも!
「いつもは忘れることなんて……そうです! いつもはお母様が朝にお祝いしてくれたから……」
「海未ちゃんへのお祝い電話は、サプライズに協力したいって、我慢してくれたの」
「ことり!」
「どうだった? 穂乃果ちゃんとのデート!」
「で、デートって!/// デートではありませんっ!!///」
「え〜。穂乃果はデートでも良いけどなぁ」
「穂乃果までっ!!///」 「ってことでプレゼント♪ はい! 海未ちゃん!!」
「えっ?」
穂乃果が私の前に袋を出す。
「あっ! 穂乃果ちゃん抜け駆けにゃ!」
「まぁまぁ……穂乃果はサプライズのために頑張ってくれたから多少はね?」
「穂乃果、これは……?」
「開けてみて」
「分かりました……ってこれは……!?」
「うん! 海未ちゃんにぴったりのベレー帽だよ♪」
「穂乃果、いつの間にこれを!?」
「えへへ、海未ちゃんが穂むらに行っている間にね、急いで買ってきちゃった」
「穂乃果……」 「海未ちゃん、レストランで言ったでしょ?」
「えっ?」
『例えばね……分からないことは分からないままにしなくなったよ!!』
「みんなはもう誕生日プレゼントを昨日には決められてたんだ……でも穂乃果は決められなかった。海未ちゃんが欲しいものが分からなくて。だけど分からないことは分からないままにしたくなかったから」
「なるほど……だから今日一日私と一緒に買い物をしたんですね」
「うん! 海未ちゃんの欲しいものが分かるかなって!」 「ありがとうございます穂乃果……そして、みなさん、こんなに嬉しいことはありません」
「ううん、海未ちゃん。ありがとうはこっちだよ! 穂乃果はいつも海未ちゃんに助けられてるからっ!」
「もちろん、μ'sのみんなもね。だから改めて」
「「お誕生日おめでとう!!」」
みんなの笑顔を見たとき、朝ぼんやりと見た夢を思い出しました。 眠って、鳥の鳴き声が聞こえてきて、すきまから陽ざしが入ってきて、つい昔の癖で夢で浮かんだ歌詩を書きかけたけれど、それはもう過去のことと気付いて微睡みから覚めて、私はカーテンを大きく開いた……でも。
その夢で浮かんだ風景はみんなで過ごしたあのひととき。
もう夢のように幻になってしまったと思ってましたが……どうやら時なんてもので、このμ'sの原風景は変わらないようです。
だからその歌詩もなかったことにするなんてことはなくて。
「みなさん本当にありがとうございます……私はこのμ'sが、みんなが大好きですっ!!」
なんて幸せな一日、今日なんでしょう。
Today。
そんな題名はどうでしょう、私は好きですよ。
おわり 今年一番好きなSSだ 色んな要素が上手く構成されているからすごく感心した ありがとうございました。
連投規制が厳しく、時間がかかってしまいすいませんでした。なんとかギリギリ日付は間に合いました。
改めて、海未ちゃんお誕生日おめでとうございます!!
前作
真姫「考え事」2
前々作
希 「誰もがー♪ うぉうおうぉうお〜♪」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています