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ヴァンパイアハンターエマちゃん
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0001名無しで叶える物語(しまむら)
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2021/01/18(月) 21:17:25.64ID:9HpMrFx3
代行

注記事項
ssどころかスレ立ても初めてです

エマ主人公ですが暫く侑視点続きます
0004名無しで叶える物語(みかん)
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2021/01/18(月) 21:22:13.43ID:4V8TNjCS
ハンターよりセイヴァーがすき
0005名無しで叶える物語(やわらか銀行)
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2021/01/18(月) 21:23:35.36ID:eUn7j/sG
期待
0006名無しで叶える物語(たまごやき)
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2021/01/18(月) 21:23:49.59ID:PLk/UpF9
支援する
0007名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/18(月) 21:23:51.69ID:CAaDYH5l
>>1
スレ立て代行してくださってありがとうございました。
精一杯がんばります。

しばらく駄文が続きますが、よろしくお願いします
0014名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/18(月) 21:30:52.19ID:CAaDYH5l
この物語を話す前に二つの事件の話を少しばかりしたい。
 夏休み明けの初日、歩夢は3日ほど行方不明になった。
幼馴染の私ー高咲侑と同好会メンバーは当然、四方八方を探した。
事件性があるとのことで警察にも届け出を出し、本格的な捜査になりかけた頃、何故か歩夢はひょっこりと帰ってきた。 
その時のことは今でも記憶に残ってる。
深夜の2時過ぎ、インターフォンが鳴るので扉を開けると、そこには私の最愛の幼馴染、上原歩夢がいた。
私は心に湧き上がる嬉しさを噛み殺して、歩夢を叱った。
どこに行ってたのか、どうして誰にも連絡を取らなかったのか、3日間何をして過ごしていたのか。
怪我はしてないか、お腹は減っていないか、何か嫌なことでもあったのかと。
説教しているうちにだんだんといつも当たり前に一緒にいた幼馴染が殊更愛おしくなって、感情が爆発し、歩夢を抱きしめた。
ーーーーー冷たい。
本来彼女が持つ柔い暖かさとは再反対の不自然に冷たくなった身体を訝しんで、歩夢の表情を見上げた。
目は赤に染まり、牙が生えている。
長年求めていた獲物を捕らえた狩人のような表情で、歩夢は私を見つめていた。
「___侑ちゃん。私、吸血鬼になっちゃった」
0017名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/18(月) 21:34:37.42ID:CAaDYH5l
次に二つ目の事件の話をしよう。
歩夢が失踪してから2日目あたりを境に起こった。 
虹ヶ咲周辺で犬や猫の動物、若い子供や女性が何人も惨殺された。
遺体は全て損傷が激しく、何者かに食い散らかされたような有り様だったという。
 はじめはただの家出だろうと、捜査に乗り気でなかった警察が歩夢の失踪に本腰を入れようとしたのもこの経緯があったからである。 
だが歩夢は帰ってきてくれた。
その後も一週間程は警察の取り調べや、病院の検査で忙しかったようだが、歩夢は既に同好会にも復帰し今までの日常と変わりなく過ごしている。
ーーーーある一点を除いては。 
0018名無しで叶える物語(もんじゃ)
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2021/01/18(月) 21:35:37.19ID:9/3wQ0bm
空行挟むか行頭下げしてくれ
読みにくい
0019名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/18(月) 21:37:16.71ID:CAaDYH5l
侑「やだ、歩夢。学校はやめて」
歩夢「だけど我慢出来ないの」
侑「昨日の夜も今日の朝も吸わせてあげたじゃん。
その上学校でなんて勘弁して」
 私たちは今同好会を抜け出し、保健室にいる。
0022名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/18(月) 21:42:39.65ID:CAaDYH5l
どうしてこんなことになってしまったのだろう。



 保健室のベッドの上で、歩夢が帰ってきて一週間目の晩のことを思い出す。
あれから、私は暇さえあれば歩夢を見張っていた。
吸血鬼になった、という告白を怪しんだから、という訳ではない。
 純粋に歩夢が心配だったからだ。
またどこかへ行ってしまうのではないか。
そうすれば今度はもう2度と戻ってこなくなってしまうのではないかと。
 歩夢は誰にも姿をくらませていた理由を話さなかった。
幼馴染である私にも…。
そのことが余計に私の不安を増長させた。  

 壁に聞き耳を立てたり、30分から1時間おきに歩夢が出かけていないか歩夢の母親に尋ねてみたり、
0時を過ぎた後は家の玄関先で2時間外の様子を探るなど、
それほど負担にならないことで私は歩夢を見守った。

ーーー無意味だった。
0024名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/18(月) 21:47:59.73ID:CAaDYH5l
ソファーベッドに寝転ぶと、ふと微かにベランダの戸が開く音がした。
私の家ではない。隣からだ。
嫌な予感が襲われる。
急いでベランダに向かうと、そこにはフェンスを飛び通えようとする歩夢がーーーー。

「ダメ‼︎」

私の制止も虚しく、一瞥もくれず歩夢が飛び降りる。
この時の私の目は空に浮かぶ月よりも丸かったに違いない。
視界からは歩夢はすぐに点になって消えた。 
0026名無しで叶える物語(あら)
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2021/01/18(月) 21:48:32.74ID:/AgJXemX
普通の小説と違って、文頭下げるたびに空行入れるくらい贅沢に使った方が読みやすいかも
0028名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/18(月) 21:50:55.08ID:CAaDYH5l
思ったより書き溜めた侑パートが多かったです。
今日中にエマパートに入れないかも。

>>18
ご指摘感謝します。
修正に時間がかかるかもしれませんが頑張ります。
0030名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/18(月) 21:54:29.49ID:CAaDYH5l
玄関を飛び出し、ノロマなマンションのエレベーターを見捨てて階段を駆け下がる。
上がる息もよそに歩夢が落下した地点に向かう。

(……死んだりしたら、絶対に許さない)

歩夢が落下した場所に躍り出た。
けれどそこにはすでに何もなかった。
おかしい。
 私は彼女が落ちていった先を確かに俯瞰したはずだ。
見間違えるはずがない。

いつも通り平静なベッドタウンに、私の動悸と息切れだけがやかましかった。
0032名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/18(月) 21:58:21.01ID:CAaDYH5l
疲れた身体に鞭を打って、辺りを捜索する。
しかし今回は十分もせずに見つかった近くの路地裏で歩夢の後ろ姿を見つける。 

侑「何やってんの⁉︎」

歩夢は答えない。

侑「何回心配させれば気が済むの⁉︎
あんなことしたら普通死んじゃうんだよ⁉︎
分かって---」 

歩夢「前にも言ったよ、侑ちゃん」 

私の怒りを、歩夢はあっさりとした口調で遮った。
それで私はちょっと冷静なってしまって、目が慣れてきたのか暗がりでよく見えなかった部分が見えてしまってた。

 4足歩行の生き物が肉塊になっている。
腹が裂かれ、内臓を散らかし、胴体と離れた頭部は不自然なところに転がっていた。  
0033名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/18(月) 22:02:41.23ID:CAaDYH5l
侑「何……やってるの……………?」

恐怖で震える声をどうにか抑え、歩夢に尋ねる。

歩夢「血がね欲しいんだよ」 

私の方へ振り返り、歩夢はじっと私を見つめた。
可愛らしい顔立ちに似合わない残忍な笑みにゾッとしながら私は尋ねた

侑「もしかして歩夢がこんなことを……」

第二の事件が頭によぎる。

侑「こんなことしちゃダメだよ!」

歩夢「私、吸血鬼なんだよ?血がないと生きていけないよ」

侑「今までも何匹も何人も殺してきたの!?
歩夢がいなくなったのはそのせいだったの!?」

歩夢「私は動物だけだよ」

侑「こんなこともうやめよ……?
警察にも捕まっちゃうよ」

歩夢「みんなには迷惑が掛からないようにするよ」

侑「それってまた勝手にどこかに行っちゃうってこと……?」

歩夢は何も答えなかった。
私はそっと、彼女を抱きしめた。
0034名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/18(月) 22:05:27.98ID:CAaDYH5l
歩夢は少し驚いたようで、同時に少し悲しげだった。

歩夢「私のこと怖くない?」

侑「私は歩夢が勝手にいなくなっちゃう方が怖いんだよ……」

私は、耐えきれなくなって泣き出した。
歩夢が失踪した理由も、人間離れした行動も頭から吹き飛んでいた。
また何も言わずに遠くへ消えてしまう彼女の姿を空想して、胸が苦しくなったから。

歩夢「……私も、侑ちゃんが悲しむことはしたくない。
でも血はどうしても必要なの」

だからね、侑ちゃん。


歩夢「侑ちゃんの身体(血)を私にちょうだい」
0035名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/18(月) 22:11:58.18ID:CAaDYH5l
歩夢がこんなことをやめてくれるなら……。
そうして私は吸血鬼となった幼馴染の提案に乗った。



 保険医も保健委員も既に帰ってしまっていたらしい。
誰もいない保健室のベッドの上、カーテンに遮られるとそこはもう2人だけの密室だった。

侑「やるならはやくしてよ同好会のみんなに怪しまれちゃう。
特にエマさんは最近しきりに何かあったか聞いてくるから」

歩夢「そんなに急がさないで。
私にとっては死活問題なんだから」

歩夢が微笑む。
最近の歩夢はどこか艶かしい。

歩夢「今日はどこを吸って欲しい?」

侑「傷が服で隠れるところならどこでも」

歩夢「首筋は?」

侑「いつも言ってるじゃん。
そこは見られちゃうよ
他のところにして」

歩夢「分かったよ」

歩夢は私をベッドの上に寝かせ、私の制服のボタンに手をかける。

歩夢「今日は胸元にするね」

背中もお腹も殆ど歩夢がつけた傷でいっぱいだった。

侑「好きにすれば」

上ボタンを外すと、胸元がはだける。
小柄な割に豊かな胸と鎖骨の間、そこに歩夢は牙を突き立てた。
0036名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/18(月) 22:17:23.39ID:CAaDYH5l
侑「んっ…はぁ…あんっ……」

そのあとは歩夢が血を吸う度に、快楽がわたしの中に流れ込んだ。
原理は分からない。
小説だかなんかによると吸血鬼に血を吸われる時は、苦しいどころか気持ちいいらしい。
歩夢もそうなのかも。

侑「歩夢、最初から飛ばし過ぎ……あんっ」

歩夢「侑ちゃんかわいいよ」

侑「歩夢のせいで……んっ…
私……っ
大変な目にあってばっかり……ああっ」

血を吸われる度に歩夢への狂おしい愛情が溢れてくる。
親愛、友情を超えた、全てを捧げてしまいたくなる衝動に駆られる。

こんなの私じゃない。
違和感を訴え悲鳴をあげる理性は快楽の前に押し出され、生き血を啜る幼馴染のことしか考えられなくなっていた。
0037名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/18(月) 22:23:18.98ID:CAaDYH5l
愛おしさが溢れてきて、私は胸元の歩夢の頭をそっと抱きしめた。

侑「ん…まだ?あっ……終わらない?」

歩夢「侑ちゃんだってまだ足りないって顔してるよ」

もはや私に主導権はなかった。
こうなるともはや歩夢が主人で私が奴隷の主従関係だ。
私が何を言っても終わらないのなら、私も楽しんでしまいたくなる。

数日前までは夜の行為だけで済んだのに、今は暇さえあれば私の血をもとめてきた。
短期間でエスカレートしすぎている。
いつか私の身体は歩夢に壊されてしまうかも……。
しかし提案に乗った手前、彼女を拒絶することは出来なかった。

結局その日は同好会のことも忘れて、歩夢に全てを委ね、1時間に渡り吸血行為を楽しんだ。
0038名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/18(月) 22:25:55.15ID:CAaDYH5l
すみません。
今日はここまでにします。
思ったより文が冗長になりすぎました。
以後気を付けます。
0039名無しで叶える物語(しまむら)
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2021/01/18(月) 22:27:05.71ID:MT2AH0Mm

期待してる
0042名無しで叶える物語(とうふ)
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2021/01/18(月) 22:31:24.93ID:LU+RrJQW
ラ板ではあまり見ないタイプの書式ね
応えんしてるわ
0043名無しで叶える物語(SIM)
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2021/01/18(月) 22:36:10.98ID:4JkEUIa1
新規作家が続々誕生しているみたいで嬉しい限りだ
0045名無しで叶える物語(カボス)
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2021/01/18(月) 22:43:38.49ID:W2uwoXxn
普通にサラサラと読めたわね
0049名無しで叶える物語(もんじゃ)
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2021/01/19(火) 01:00:49.48ID:bw4S04WY
縦書きだと空行なくても読めるけど、横書きで詰まってるとすごく読みづらいよな
0050名無しで叶える物語(えびふりゃー)
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2021/01/19(火) 01:02:38.13ID:kfY5Ifgy
エマちゃんが後ろを向きながら走ってきたり壁をすり抜けたり
低空空中急降下ジャンプキックを高速で繰り返しながら移動するタイプのヴァンパイアハンターだったらどうしよう
0051名無しで叶える物語(鮒寿司)
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2021/01/19(火) 01:06:04.82ID:Cvre+anY
傑作の予感
0054名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/19(火) 21:07:59.61ID:h7b21G3t
侑「歩夢……もういやぁ……
きもちいいのいやぁ」

瞳はあらぬ方向を向き、口からはだらしなく涎が垂れている。
二つに結った髪はほどけ、頬を薄紅に染め、恍惚とした表情を浮かべながら高咲侑は訴えた。

侑「これいじょうは……あたまこわれちゃうよぉ……」

脚を外側にだらしなく開き、制服のシャツは汗で張り付いている。
唯一肌けた胸元からは歩夢が突き立てた場所から、か細い血の雫が脇の方へと滴り落ちていた。

歩夢「でも侑ちゃん離してくれないよ?」

私の上に覆い被さりながら歩夢は微笑む。
実際私は、私の頭のすぐ横に両手を置き、彼女と指を絡ませていた。
-----私何してるんだろう。
0055名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/19(火) 21:09:36.86ID:h7b21G3t
歩夢「好きだよ、侑ちゃん」

私の脚と脚の間に片足をねじ込み、片手で顎をクイと持ち上げてそう告白した。

歩夢「食べちゃいたいくらい」

色白な肌に赤い瞳を爛々と輝かせ、ニタリと笑う口元は獣のよう。
落ち着いた息遣いは死人のように冷たかった。
私の身体は凍りついたように歩夢に魅了されて動けない。
上に乗る彼女に、私の温もりの全てを吸い尽くされるような錯覚さえ覚えた。
0056名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/19(火) 21:11:16.45ID:h7b21G3t
歩夢「侑ちゃんはどう思う?」

 侑「どうって?」

歩夢「私に全てを捧げてみない?」

ただ一時血を吸わせただけ。
それだけで目の前の幼馴染の冷ややかな魅力に心も身体も支配されている。
ああ、それなら私の全てをこの娘に捧げてしまおうか。
とっくに魅入られているのだ。

首筋か、秘所か。
今更乙女の証の一つや二つ、くれてやった所で何も変わらないだろう。

侑「歩夢、あ-----」

隷属を誓おうとしたその瞬間、保健室の扉が勢いよく開かれた。

かすみ「歩夢せんぱーいかわいいかわいいかすみんが見舞いにきましたよーっ」

しずく「ちょっとかすみさん!保健室では静かにしないと」
0057名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/19(火) 21:15:32.38ID:h7b21G3t
脳が非現実から現実へ高速で切り替わる。
この状況、血を吸わせただけでやましいことは何もしていないが、人に見られたら非常にまずい------!

歩夢「かすみちゃん、しずくちゃん、見舞いに来てくれてありがとう!」

侑(ちょっと歩夢⁉︎)

かすみ「あ、そこにいるんですね」

足音でかすみちゃん達がドンドン近づいて来るのを感じる。
こんなのを見られたら私達誤解されちゃう-----!?

かすみ「カーテン開けちゃって良いですか?」

かすみちゃんと話ている間も、歩夢の視線は私だけに注がれていた。
どうやら彼女はパニックになっている私の表情をたのしんでいるようだった。
0059名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/19(火) 21:18:28.53ID:h7b21G3t
歩夢「ごめんねーかすみちゃん今私着替えてるんだー」

ニタニタ笑ったまま歩夢が答える。
カーテンの前でかすみちゃん達が立ち止まった。

かすみ「そうですか具合はどうですか?」

歩夢「もう大丈夫だよ。
練習終わっちゃった?」

かすみ「はい。
エマ先輩も用事があるからって練習を抜けてしまったので、今日はもう練習を切り上げました」

歩夢「そっかー残念。皆んなに悪いことしちゃったかな」

侑(ごめん!かすみちゃん、はやく帰って!)

私は身勝手に心の中で必死に祈る。
0060名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/19(火) 21:22:15.72ID:h7b21G3t
かすみ「気にしないで下さいよ!
かすみんも元気な歩夢先輩が一番大好きですから!」

健気な後輩を邪険に思っている自分が情けなくなる。
だけどこれで歩夢が話をまとめてくれれば切り抜けられる。
そう思った矢先のこと。

侑(歩夢、何して⁉︎)

歩夢がシャツの隙間に手を忍ばせ、胸を弄び始めた。
身体が急速に火照っていくのを感じる。

吸血行為は歩夢への医療なのだと今まで心に言い聞かせてきた。
けれどこれは違う。
淫らで、いやらしい、紛れもない性行為。
もし見られてもこの格好ではスキンシップという言い訳は通用しないだろう。

侑(お願いかすみちゃん!はやく帰って!)

そんなわたしの心を見透かし嘲笑うかのように、歩夢は反対側の肩に牙を突き刺した。
0061名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/19(火) 21:25:56.33ID:h7b21G3t
胸への刺激、吸血の快楽、場の背徳感で脳みそがぐしゃぐしゃきなる。
歩夢は器用にかすみちゃんとの他愛の会話を続けていたが、私は声をあげないようにするので精一杯だった。

かすみ「そういえば、侑先輩はここにいませんか?」

侑(!?)

歩夢「侑ちゃはねー」

嫌だ、歩夢。
こんなの誰にも見られたくない。
お願いだから余計なことはしないで。

歩夢「先に帰っちゃったよ」

緊張が解ける。
私の心の訴えが通じたのだろうか。

歩夢「ここにいるの、バレないようにしないとね♡」
侑「」ゾクッ

歩夢は私の耳元で囁いた。
0062名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/19(火) 21:28:40.61ID:h7b21G3t
かすみ「なんかいいましたー?」

歩夢「ううんなんでも」

かすみ「しかし困りましたねぇ。
エマ先輩に、侑先輩と歩夢先輩へ伝言を預かってたんですけど」

歩夢「じゃあ伝えておくよなんて言ってたの?」

かすみ「今日はエマ先輩の学生寮で宿泊するようにって……」

歩夢「何それ」

私を弄ぶ歩夢の指が止まる。

歩夢「いきなり泊まりに来いだなんておかしいと思う」

かすみ「まぁそれはかすみんもちょっと思いましたけど、すごく真剣だったので……」
0063名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/19(火) 21:30:18.49ID:h7b21G3t
歩夢が私に向き直る。

歩夢「もちろん行かないよね」

侑「それは……」

歩夢「今夜は血を吸わせてくれないの?
断って」

侑「……分かったよ」
0064名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/19(火) 21:34:29.78ID:h7b21G3t
かすみ「じゃあかすみん用事は済んだので帰りますねー」

歩夢「うん
来てくれてありがとう。
すごく元気付けられたよ!」

かすみ「きっと身体良くしてくださいね!
明日また会いましょう。
さよなら!」

かすみちゃんは部屋を出て行った。
部屋には私と歩夢と、カーテンの前のしずくちゃんだけが残された。
しずくちゃんはこちらの様子を伺っていたようだけど、かすみちゃんに呼ばれて後を追うことに決めたようだ。

しずく「歩夢さん、きっともっと良くなりますよ」

しずくちゃんは最後にそう言い残した。
何か含みがあるような言い方で不思議に思ったが、疑い過ぎも良くないだろう。
そのままなにも口を挟まず、しずくちゃんが退出するまで私は息を殺していた。
0065名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/19(火) 21:38:21.93ID:h7b21G3t
_____廊下

かすみ「意外だなぁ。
侑先輩、ずっと歩夢先輩に付き添ってると思ってたけど。
先帰っちゃったんだ」

しずく「……そういうこともあると思うよ」

かすみ「そうだけど、最近侑先輩も顔色悪いからしんぱいで……」

しずく「もしかしたら具合悪いから先帰ったもかもよ?」

しずくが窘めたが、かすみはあまり納得していないようだった。

かすみ「……例の噂どう思う?」

しずく「歩夢さんが変死事件を起こしてるっていう質の悪い噂?」

かすみ「そう。
普通に考えたら絶対にないよ。
でも最近歩夢先輩様子がおかしいし……。
今日だってまだ9月なのにマフラー巻いて、冬用の厚手のコート羽織ってるんだよ?
髪型だって可愛かったお団子やめて、ストレートにおろしてるし。
なんか雰囲気変わったって言うか、おかしいよ……」

しずく「かすみさんは疑ってるの?」

かすみ「そうなんじゃないよ。
ただ変なことに巻き込まれてるんじゃないかっておもって。
行方不明になった時のこと何も話してくれないし……」
0066名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/19(火) 21:41:53.23ID:h7b21G3t
しずく「気にしすぎなんじゃないかな?
人の噂も七十五日。
もうすこしすればいつも通りの同好会に戻れるよ」

かすみ「そんなものなのかなぁ。
最近エマ先輩も欠席が多いし、かすみんなんか寂しいよ」

しずく「そうだね……。
……また10人揃うようになったら同好会をあげて何かやってみようか?」

かすみ「何かって何を?」

しずく「……演劇とか?」

かすみ「それしず子がやりたいだけじゃん!
でぇもぉ〜アイドルだってドラマやったりするし結構ありかも!
かすみんの可愛さと演技で、しず子の役を食っちゃうよ〜」

しずく「かすみさんはハムか大根って感じだと思うよ」

かすみ「それほどでも〜。
ってそれ褒めてるの?」

しずく「……まぁかすみさんは何の役をやっても可愛いと思うよ」

かすみ「そう?
やっぱり世界一キュートなかすみんの可愛さで観客もメ・ロ・メ」

しずく「カット」

かすみ「なんで遮るのしず子〜」
0067名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/19(火) 21:43:59.46ID:h7b21G3t
とりあえず今日はここまでにします。
エマさんまだ出せなくてすみません。
今後もよろしくお願いします。
0068名無しで叶える物語(カボス)
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2021/01/19(火) 21:48:02.52ID:ZFN0Wvch
私待つわ
0069名無しで叶える物語(あら)
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2021/01/19(火) 22:39:19.17ID:fovX2Lg5
行方不明になって戻ってきたら人が変わってたら色んな意味で変な噂出ちゃいそう
0070名無しで叶える物語(しまむら)
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2021/01/19(火) 23:41:06.42ID:nKaauQgs
期待
0071名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/20(水) 02:27:41.86ID:NOS9RjHq
予想外の伝言でいつのまにか歩夢は行為をやめていた。

侑「私もそろそろ帰るよ」

歩夢「……続きどうする?」

侑「どうせ家帰ったらまたやるんでしょ」

歩夢「じゃあ今したってかわらないんじゃない?」

侑「少しやすみたいんだよ」

乱れた服と髪をまとめる。

歩夢「一緒に帰ろう?」

侑「いや。途中で血を吸いたいって我儘言うじゃん」

フィジカルで抑え込まれないうちに荷物をまとめ、保健室の外へ出る。

「絶対帰ってきてね?」

不安げな歩夢の声がか細く後ろで聞えた。

(だったら、なんで何も説明してくれないの……)

自分の中で歩夢への不信がつのっていくのが感じられた。
0072名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/01/20(水) 02:30:43.65ID:NOS9RjHq
___帰り道

侑(気が重い)

歩夢が血を吸うときはいつもこうだ。行為中は私の身体に快楽を叩き込んで気分をハイにさせるが、終わった後は体が暗くどんよりと重くなる。今日はいつもより激しかったから、立ち眩みと眩暈が酷かった。もしかしたら貧血かもしれない。常備薬を飲んだがあまり効き目はなかった。正直バス停に向かうのさえ億劫だ。

(仕方ない。公園で休んでいこう)

私は近くの適当な公園のベンチに座った。

(なんだか眠くなってきちゃった。こんなところで眠るなんて彼方さんみたい)

吸血鬼になる時の歩夢は別人のようだった。
上原歩夢はもともと支配関係をたのしむような娘ではなかった。
血を吸うときは高圧的なのに、終わった後はいつもの彼女に戻ってくれる。
歩夢がいつもの性格に戻ってくれなかったら、先程も体よく抜け出すことはできなかっただろう

(歩夢、なんで何もいってくれないんだろう。そしたら私も納得できるのに。
吸血鬼の歩夢は歩夢なの?)
それを最後に、私は思考を手放した。
0073名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/20(水) 02:33:27.55ID:NOS9RjHq
すみません修正します

___帰り道

侑(気が重い)

歩夢が血を吸うときはいつもこうだ。
行為中は私の身体に快楽を叩き込んで気分をハイにさせるが、終わった後は体が暗くどんよりと重くなる。
今日はいつもより激しかったから、立ち眩みと眩暈が酷かった。
もしかしたら貧血かもしれない。
常備薬を飲んだがあまり効き目はなかった。
正直バス停に向かうのさえ億劫だ。

(仕方ない。公園で休んでいこう)

私は近くの適当な公園のベンチに座った。

(なんだか眠くなってきちゃった。こんなところで眠るなんて彼方さんみたい)

吸血鬼になる時の歩夢は別人のようだった。
上原歩夢はもともと支配関係をたのしむような娘ではなかった。
血を吸うときは高圧的なのに、終わった後はいつもの彼女に戻ってくれる。
歩夢がいつもの性格に戻ってきてくれなかったら、先程も体よく抜け出すことはできなかっただろう

(歩夢、なんで何もいってくれないんだろう。そしたら私も納得できるのに
吸血鬼の歩夢は歩夢なの?)

それを最後に、私は思考を手放した。
0074名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/20(水) 02:36:13.09ID:NOS9RjHq
刺激臭と異音で侑は目をさます。
日が落ち、あたりはすっかり夜だった。

己の睡眠を妨げたものの正体を見て、私は絶叫した。
刺激臭は人のはらわたを臭いだった。
異音は人の骨がかみ砕かれたものだった。

そして私の視界に映るのは、四足歩行の人間が同じ人間を食い散らかす光景だ。


急いでその場を逃げ出した。
だけどそれがまずかったのかもしれない。
化け物は私に気付き、四足で追いかけた。
人の構造は四足で走るのに適してない。
だから化け物の関節は不自然に曲がっており、走るたびに骨の折れるような不気味な音が後ろから聞こえた。
そしてその音が私の背中にだんだん近づいている。

(追いつかれる⁉)

ついに怪物は私をとらえ、押し倒し、私の肩をかみ砕いた。
想像を絶する痛みで絶叫した。

(いやだいやだしにたくない誰か助け_______!!!!!!)

一番美味しいのははらわたなのだろう。
怪物は私のお腹かみちぎり、何か細長いものをぶちまけた。
次にあばら骨と肺がもってかれ、胃と肝臓をもってかれる。

もはや意識すら遠くなったところで、かすかに近くから足音と短い詠唱が聞こえた。

「____Amen(エイメン)」
0075名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/20(水) 02:39:31.98ID:NOS9RjHq
忙しくなりそうだったので、今日の分を今投稿しておきました。
次の投稿は21日になります。
よろしくお願いします。
0076名無しで叶える物語(あら)
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2021/01/20(水) 02:49:45.24ID:QrXZEGj1
続ききてた。ついにエマさん登場か。いつも吸われて貧血にならないのかと思ってたけどやっぱりなるよね。失血的な意味でもそろそろ危なそう
0078名無しで叶える物語(しまむら)
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2021/01/20(水) 03:29:18.49ID:ESc8bMzr
期待
0081名無しで叶える物語(しまむら)
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2021/01/20(水) 22:54:29.81ID:ESc8bMzr
エママ
0082名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/21(木) 02:04:34.07ID:oRr3Z5hL
「この世の道理に溶け込めぬ者よ、その娘から離れなさい」

朦朧と薄れていく意識の中、聞き覚えのある透き通った声がする。
瞳を向けると、都会の街には似合わぬ修道服を着た少女が一人。

「大罪を犯したるその異臭、その姿、到底看過できるものではありませんが、
大人しく引き下がるというのなら今宵ばかりは見逃しましょう」

四つ足人型の化け物は不思議そうに修道女を見つめていた。

「もう一度だけ警告します。
下がりなさい、外道。
私はこの国の救済者程寛容ではない。
二度の忠告を以ってなお聞き入れないのならその時は_____」

怪物が脂ぎった口元を歪めた。
不自然なことではない。
つまるところ彼にとって新鮮な美肉が、目の前にのこのこと現れたのだ。

「この舌端、神罰の地上代行として貴方の肉体の一切を打ち滅ぼすことになるでしょう」

そんなことはお構いなしに少女は毅然と言い放つ。
腐肉が襲い掛かるのはほぼ同時だった。
0083名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/21(木) 02:06:25.22ID:oRr3Z5hL
(あれ……エマさん……?)

透明感のある声、比較的短めの赤毛、美しい碧眼、柔らかい丸みのあるシルエット。
奇天烈な服装だが、外見的特徴は異邦からの友人と確かに一致している。

だがそれでも侑は目の前の光景が信じられない。
彼女が敬語で誰かに接しているところを初めて見た。

そもそも普段の彼女からは想像もつかない程冷たく、低い、敵意のある語勢。
記憶の中の聞くもの全ての心を癒すような可愛らしく、ゆったりとした声色とはどうしても結びつかなかった。

(なんで……?
逃げ……て……)

死にゆく体では、か細い吐息がこぼれるだけで言葉にならない。

醜い化け物がエマに襲い掛かる。
数秒後、肉塊に変わってしまう彼女を幻視して、侑は言葉にならない悲鳴を上げた。
0084名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/21(木) 02:08:05.07ID:oRr3Z5hL
「”天にまします我らの父よ”」

怪物が間抜けにこける。

「”ねがわくは御名をあがめさせたまえ。  
御国を来たらせたまえ”」

気が付くと、怪物の左足首が光の粒子となってほどけていた。

「”みこころの天になるごとく、地にもなさせたまえ”」

今更、化け物は悲鳴をあげる。

「”我らの日用の糧を、今日も与えたまえ”」

一切の容赦なく少女の聖唱は、咎人の肉体を光に変換していく。
それは悪魔を火あぶりにする処刑のようだった。
0085名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/01/21(木) 02:09:49.17ID:oRr3Z5hL
「”我らに罪を犯す者を、我らが赦す如く、
我らの罪も赦したまえ”」

夜の魔物は無様にのたうち回る。
身体が消滅していく惨めさに耐えきれずに、憐れな食人鬼は泣き叫んだ。
彼は最後の力を振り絞り、忌まわしい詠唱の源を絶とうと最後の力を振り絞る。

「”我らを試みに合わせず、悪より救い出したまえ”」

鋭いかぎ爪はすんでのところで、エマの身体を傷つけるには至らなかった。
今度は指先からほつれて崩れ去ったからだ。
エマはそうなることが初めから分かっていたかのように、少しも動くことはなかった。
0086名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/01/21(木) 02:11:40.79ID:oRr3Z5hL
「”世と力と栄とは、限りなく汝の物なればなり”」

既に身体の八割を失った化け物は、少女の足元で蹲るしかなかった。
それは己の罪を深く恥じ入る罪人のようで____。

エマは片膝をつき、彼の頭に手を置いた。
子供を寝かしつけるように髪をそっと撫で、最後の聖句を詠う。

「”かくあれかし”」

彷徨える魂はゆりかごの安寧をとり戻したかの如く、瞼を閉じ、
光の束となって天に還っていった。

拳を振るう必要さえない。
彼女はいつもと変わらぬ優しさと、威力のある威厳でこの災厄を祓い終えた。
しんと静まる暗闇に、落ち着いた声音が余韻となって粉雪のようにとけていった。
0087名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/21(木) 02:13:06.01ID:oRr3Z5hL
彼女が唱えたのは主祈文、基督教のあらゆる宗派に伝わる基本にして最奥の聖言。

力ある聖職者が唱えた時、それは傷ついたものを癒す薬となり、
恐怖の魔物を打ち倒す礫になるという。

エマ・ヴェルデは生まれつきこの言葉の効果を最大限に引き出せる天才だった。

十四歳の頃冬と春の変わり目に、彼女は吸血鬼達の根城に単身攻め入り、こう宣言したという。

「__気をつけて。
私の紡ぐ唱演は、死者にのみ厳しいの」

そうして彼女は一夜のうちに百を超える悪魔たちを皆殺しにした。
一切に流血なく、一つのカーテンも傷つけずに。
0088名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/01/21(木) 02:14:10.64ID:oRr3Z5hL
今日はここまでにします。
おやすみなさい。
0089名無しで叶える物語(鮒寿司)
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2021/01/21(木) 02:26:43.75ID:XPtAoV3E
急に厨二臭くなったな
0091名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/21(木) 02:30:43.44ID:oRr3Z5hL
>>89
すみません。
このssもともと中二バトルものにするつもりで書きました。
型月とかヘルシングとかに影響受けまくりです。

注記事項に載せておくべきでした。
申し訳ありません。
0093名無しで叶える物語(あら)
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2021/01/21(木) 02:32:19.19ID:no1MJ2go
吸血鬼ものという時点で既に厨二っぽくなるのは予想できるから別に気にしないでも
0095名無しで叶える物語(もんじゃ)
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2021/01/21(木) 08:25:06.44ID:COdHFp+L
このエマさんに嫌パンしてもらいたい
0097名無しで叶える物語(しまむら)
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2021/01/21(木) 22:42:52.68ID:1ApU5y0e
エママ保守
0098名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/22(金) 02:27:34.50ID:AdxlQMSE
___虹ヶ咲学生寮

侑(ここは……?)

気が付くと、見知らぬ天井がそこにあった。
見知らぬベッドの上、柔らかな匂いが侑を包む。

侑(私、公園で寝ちゃってそれで……)

侑は体を震わせた。
先程まで異形に襲われ、死にかけていたのだ。
無理もあるまい

侑(私生きてるの……?)

臓物を食い散らかされたというのに、侑の身体には何の傷跡もなかった。

「あ、起きちゃったんだ。
大丈夫?どこも痛くない?」

侑「エマさん……?」

パジャマ姿のエマが部屋に入ってきた。

「うん。今は何ともないよ。だけど……」

聞きたいことは山ほどある。
しかし生臭い恐怖に侵されていた頭ではうまく舌が回らなかった。

「慌てなくても良いんだよ。
ここは私の部屋だから落ち着いて話そ?」
0099名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/22(金) 02:28:47.12ID:AdxlQMSE
エマ「はい、これココア。
冷めないうちにどうぞ♪」

差し出されたココアをありがたく頂戴する。
甘くとろける深みと、温かさが侑の芯まで冷えた心に染みわたる。
エマ・ヴェルデという少女の牧歌的な優しさで、侑は思わず涙を流した。

エマ「うんうん。
怖かったね」

エマがそっと侑の背中をさする。

エマ「もう安心だよ。
大丈夫、大丈夫だからね」
0100名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/22(金) 02:29:51.97ID:AdxlQMSE
侑「ごめんね、エマさん。
これ、ホントは自分で飲むつもりで淹れてきたんでしょ?」

エマ「そんなこと気にしなくて良いんだよ。
侑ちゃんが元気になってくれる方が私には大事だよ」

エマ「あ、そうだ。
制服は汚れちゃってたから私のパジャマにしかえておいたよ。
ちょっと大きいかもだけどそこはゆるしてね」

侑(天使だ……)

まるで母親と一緒にいるかのような安心感を侑は感じた。
0101名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/22(金) 02:32:20.71ID:AdxlQMSE
侑「それであの化け物のことなんだけど……」

エマ「ああ、あれね。あれは吸血鬼。
……正確には成り損ないかな」

吸血鬼。
その非常識な単語で、かけがえのない幼馴染が脳裏に浮かんだ。

侑「……普通の吸血鬼とは違うの?」

エマ「あれはまだ成長段階なの。
吸血鬼になるにはね、まず他の吸血鬼に血を吸って殺される必要があるんだ。
で、その後もいきなり吸血鬼になれるわけじゃなくて、
まず土の中に三年くらい埋まってなくちゃいけないんだけど。
まぁそれはいいや」

エマ「色々あって死体を復活させるんだけど、土の中から蘇った死体はまず力の弱いゾンビになるんだ。
さっきの怪物はこのゾンビと呼ばれる状態だね」

エマ「で、そのゾンビがざっと10人位食べてようやく一人前の吸血鬼になれるってかんじ。
……どう?私の説明で分かったかな?」

侑「……だいたいは掴めたよ」
0102名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/22(金) 02:34:26.30ID:AdxlQMSE
侑(歩夢は人殺しなんかしてないよね……?)

エマの説明と、歩夢の状況や発言にはそれなりに相違点がある。
まず歩夢が土の中に三年も埋まっていたということはあり得ない。
それは幼なじみである侑自身が証明出来ることだ。

また歩夢自身が人は殺していないと言っている。
彼女は吸血鬼になれる条件を満たしていない。

だが一方で動物を殺して食らっていたこと、人間とは思えない身体能力をしていたのは紛れもない事実だ。
それに歩夢の身体の死人のように冷たいこと。
あれはどう説明をつけるのか?
心の中でさえ否定しきれない自分がいることに、侑は苛立ちを感じる。

そのことが侑の心に重くのしかかった。

____”私に全てを捧げてみない?”

記憶の中で保健室の出来事が再生される。

侑(あの時歩夢は私をどうするつもりだったの……?
私を殺すつもりだったのかな……)
0103名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/01/22(金) 02:35:54.92ID:AdxlQMSE
今日と明日は分量が少なめになります。
週末頑張るので、よろしくお願いします。
0105名無しで叶える物語(しまむら)
垢版 |
2021/01/22(金) 02:37:37.90ID:AMYujilO

頑張ってください
0106名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/01/22(金) 03:25:09.28ID:AdxlQMSE
もしよろしければ見辛いレス、文章がおかしいレスを指摘してくださると幸いです。
あと個人のお願いなのですが、力を入れた82から87までの感想をいただけないでしょうか。
エマさんのキャラが崩れていないか気になります。
0107名無しで叶える物語(あら)
垢版 |
2021/01/22(金) 07:54:20.10ID:mLynv+83
続ききてた。読んでて文章が明らかにおかしいという部分はないと思うし、行間を開けてすごく見やすくなってると思います。個人的には今日の更新部分くらいが見やすく感じました。開けすぎても見にくいし

バトルの部分は内容も表現も綺麗で良い意味ですごく厨二っぽいと思うので、このままの感じで突き抜けたらいいと思う
キャラに関しても慈愛に満ちてるけど底知れない感じがするというエマさんっぽさはすごく出てるかと
歩夢が平気で侑を傷付けたりするのも人外になってそこまでもう変わってしまったんだなと思えるし

拙い感想だけどこんな感じかなあ。最近SS荒らす人も増えてるから、もしそういうの来てもあまり気にせず自分の書きたいように書くのが一番だと思います
0108名無しで叶える物語(しまむら)
垢版 |
2021/01/22(金) 18:14:48.65ID:AMYujilO
特に文章に問題はないと思う
続きを楽しみにしてます
0109名無しで叶える物語(もんじゃ)
垢版 |
2021/01/23(土) 01:14:18.25ID:C2P3u5eG
地の文があるから情景とか感情とかわかりやすい!
聖唱もかっこよくて厨二心がくすぐられる!
エマちゃんって可愛い優しいママ〜ってイメージが強かったけどこのssはかっこいい一面もみれてとても良すぎる!
夜の都会に現れて悪しきものを倒す修道服姿の異国の少女ってだけでめっちゃいい!!
要領を得ない感想で申し訳ないけどこの先の展開もとっても楽しみです!
0110名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/23(土) 02:29:13.68ID:iTQtgFl0
感想ありがとうございます。
長丁場になりそうですが、完結できるように頑張ります。

何か大きな設定の矛盾や、文章の間違いがあったら指摘してくれると嬉しいです。
よろしくお願いします。
0111名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/23(土) 02:30:18.03ID:iTQtgFl0
侑「……私、内臓とか色んなところ食べられちゃってたよね?
エマさんが治してくれたの?」

エマ「まあね」

彼女はさらりと答えた。

侑「どうやって?」

エマ「私ね、うまれつきの体質みたいなんだけど聖書の一説を唱えたり、
賛美歌を歌ったりすると、傷ついた人を癒せるの」

侑「そんなそれこそ」

聖書に出てくる奇跡のようだと心で思った。
0112名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/23(土) 02:33:16.05ID:iTQtgFl0
侑「……日本には何をしに来たの?」

口にした言葉が思いがけず敵意をふくんでいたことに、彼女は驚いた。
彼女は自己嫌悪に陥りながら、それでも仕方ないことだと思った。

この人は冗談のような奇跡を簡単に起こせて、あんなに恐ろしい化け物を軽く追い払ってしまう。
もし歩夢が本当に初めから化け物だったのなら、エマはどこかでそれを掴んで、倒すためにやってきたのかもしれない。

たとえ人の道から外れていようと歩夢は幼いころから絆を紡いできた親友だ。
いくら命の恩人だろうと、大切な友人だろうと、
彼女を殺すかもしれない要因を見過ごすわけにはいかなかった。

エマ「日本には本当にスクールアイドルをしに来たんだよ」

彼女は朗らかにほほ笑んだ。

侑「……ちょっと以外かも。
てっきり化け物退治に来たのかと」

エマ「まぁそう思うのも無理はないよね。
でも、私本当に人の心をぽかぽかにするアイドルになりたいんだ」

エマ「ちょっと昔話をしようか」

懐かしむように、それでいて少し寂しげにエマは目を伏せた。
0113名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/23(土) 02:35:35.47ID:iTQtgFl0
エマ「私ね、こういう力を持ってるから小学校に上がる前に教会の人にスカウトされたの」

エマ「当時の私はすごく喜んだよ。
だってこの能力を使ってたくさんの人を癒して、幸せにできると思ったから。
だから二つ返事でそのスカウトを受けたよ」

でも、と彼女続ける。
声のトーンが一段落ちた気がした。

エマ「現実と理想にはちょっとギャップがあった。
神父さんは私の能力に癒す力よりも、化け物を倒す力を見出したみたい。
毎日毎日何かを殺す修行をさせられて、ある時から前線に送られるようになった」

エマ「皆を守るための仕事とはいえ、正直あんまりいい気はしなかったよ。
だって異形とは言え、そこにあるものを滅ぼすんだから。
私はこんなことをしたかったんじゃなかったのに、って何度も思った」

それはすごく辛かっただろうと、侑は胸が苦しくなった。
エマはそれほど深刻さを見せなかったが、この優しすぎる少女が歩む道のりとしてはあまりに険しすぎる。

人を慰める才能が、人殺しの道具に使われる現実に彼女は何度も傷ついた筈だ。

エマ「そんな時だよ」

彼女が目を輝かせる。

エマ「日本のスクールアイドルの動画を観たんだ♪
正直何言ってるのかも全然分からなかったけど、
一生懸命歌ってる彼女たちの姿が私のいつかの理想と重なって見えたの。
私もこんな風になりたいって思っちゃった」

エマ「14歳の頃だったかな、それなりの武勲を立ててね。
大司教猊下にお願したんだ。
『いつか一年だけ暇をください』ってね」

彼女の願いは四年後に聞き届けられることになる。
苦難に満ち溢れた道を乗り越え、エマはついに夢を掴んだのだ。
0114名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/23(土) 02:37:14.84ID:iTQtgFl0
侑「エマさんは強いね」

嘘偽りない本心だった。

エマ「そんなことないよ」

侑「ううん。それは違うよ。
今日だって私達を守ろうとして、宿泊を勧めてくれたんだよね?
それに私の命を化け物から救ってくれた」

侑「私なんか、誰かの力になりたいのに、
思うようにいかなくてなんか嫌になっちゃうよ」

侑は力なく自嘲した。
歩夢が失踪してから、彼女は自分が何をどうしたらいいのかを見失っていた。

幼馴染の言いなりになっているだけの自分が、
この異国の少女と比べてちっぽけに見えて、慚愧が心に影を落とす。

エマ「自分を卑下しないで。
侑ちゃんも初めから、出会った時からずっと強かったよ」

エマ「私が侑ちゃんの命の恩人なら、あなたは私の夢の恩人なんだよ。
同好会がなくなっちゃったとき、私どうしたらいいのかわからなかったけど、
あなたが皆を集めてまた立ち上げてくれた。
失いかけた私の夢を叶えてくれた」

エマは侑をそっと抱きしめた。

エマ「だから自分で自分を傷つけないで。
私は侑ちゃんのことを尊敬してるから」
0115名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/01/23(土) 02:38:37.19ID:iTQtgFl0
侑「……明日、歩夢とここにまた来てもいい?」

声を震わせながら、彼女は言った。

エマ「いいよ。
いつでも来て」

侑「……明日、歩夢と話し合うよ。
これまでのこと、これからのこと。
……迷惑かけちゃうかもだけど、エマさんなら信頼できるし、
導いてくれると思うから」

嗚呼、この人なら問答無用で歩夢を殺しにかかることはしない筈だ。
道を踏み外しかけている私達に、きっと人の道を授けてくれるだろう。

侑「だから、私たちを助けてくれる?」

エマ「期待に応えるね♪」

エマ「だから、今はもうおやすみ。
さっきまで眠ってたけど、まだ疲れが取れてないでしょ?
私が子守歌を歌ってあげる」

心地いい歌声が耳を慰める。
これは、確かモーツァルトの子守歌だろうか?
久方ぶりに身も心も休らいで、侑は深い眠りについた。
0116名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/23(土) 02:39:32.58ID:iTQtgFl0
短いですがきりがいいのでここまでにします。

また明日よろしくお願いします。
0117名無しで叶える物語(しまむら)
垢版 |
2021/01/23(土) 03:36:12.99ID:/j81RJhy

期待
0118名無しで叶える物語(らっかせい)
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2021/01/23(土) 04:37:50.40ID:ob5o5OqN
乙楽しみ
胸を強調するどーおポーズ取るエマちゃんに巨大チェーンソー持ったエマちゃんはないかさすがに
>>50
マグロのように跳ねながら前進していくさまはまごうことなき果南
0120名無しで叶える物語(もんじゃ)
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2021/01/23(土) 22:30:28.37ID:4BioJqpj
支援
0121名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/24(日) 02:41:53.89ID:Er8OuY7w
____歩夢宅

(……侑ちゃん……まだ?)


ベッドの上で身を捩り、悶える。
シーツを両手で握りしめ、口で噛み、歩夢は己の吸血衝動と戦っていた。

(お願い…早く…早く帰ってきて……!)

同好会の練習の時でさえかかない量の汗を流し、荒い息遣いで喉元までせりあがる恐ろしい欲望を必死に抑えつけていた。

歩夢の変化に一番戸惑っていたのは、他ならぬ歩夢自身だ。
彼女は決して失踪時に起こった出来事を誰にも口外しなかった。
いや、話せなかったのである。

____失踪三日目のこと、歩夢は暗闇の中で目を覚ました。
体中を包む圧迫感。
それから逃れるように手足を掻いてもがいていると、しばらくして光が射した。
目を細め、周りを見渡すとそこが通学路に通り過ぎる少し大きめの公園であることに気が付いた。

自分が土の中に埋められていたことに気付くのにはそう時間がかからなかった。

(なんで、なんでこんなことされてるの……?)

その疑問と恐怖は突如として襲うとてつもない飢餓感でかき消された。
土の中から出るのに体力を消耗しただろうか、それとも__おそらく何日か食事にありついていないから?
そんな風に、冷静に頭を回して分析することさえ困難だった。

とにかく何かにありつきたい。
そう思って辺りを捜索していると、歩夢は一匹の捨て犬に出会った。
中型くらいの大きさのそれを、彼女は初めて生まれて初めて”美味しそう”だと感じた。

感じた時には既に行動に移していた。
冗談めいたスピードで、逃げられる前に取り押さえ、腸を食い破り中身を貪りつくした。
その犬は甲高い声で悲鳴をあげていたが、すぐに絶命した。

一通り味わいつくしたところで、彼女の理性が再び息を吹き返した。

(いや……私、何…してたの……?)

幸い人通りは少なく、彼女の蛮行はだれにも見られていなかったが、当たり前に罪悪感を覚えた。
生肉をじかに食らった不快感で、吐き気を催す。

苦しくなって胸を抑えた所で、ようやく歩夢は自分の心臓が動いていないことに気が付いた。
0122名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/24(日) 02:42:59.72ID:Er8OuY7w
それからの一週間は悪夢だった。

一日一回は捨てられたペットの生き胆を食らわなければ、空腹感が収まらなかったからだ。
しかもそれが一日一回から、半日に一回へ。
半日に一回から、朝昼晩へとどんどん期間が短くなっていった。

そして食べるごとに、より大きく食べ応えのあるものを求めているのを理解し、いつか人襲ってしまうのではないかと恐怖した。

同時にもたらされた変化は異常空腹だけではなかった。

まず初めに瞳の色が変わった。
元々彼女は薄いトパーズ色をしていたが、それが緋色に変わった。
次に爪が、三番目に耳が細く尖り始め、最後に犬歯が鋭くなっていることに気が付いた。

鼓動がなくなっている時点で察していたが、どんどん人外じみた外見になっていく自分を歩夢は嫌悪した。
スクールアイドルだというのに、身体を服装で誤魔化し始めたのもこの時からだ。

彼女は何も言えなかった。
自分が既に生き物ではないこと、毎日毎日何かを殺して食べていることなど誰に相談出来よう?
家にいるときも、学校に居るときも彼女は孤独だった。

____あの日が来るまでは。
0123名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/24(日) 02:44:19.11ID:Er8OuY7w
失踪より戻ってから一週間めのこと、歩夢はお台場を離れてどこか遠くへ行くことを決意した。

いつか飢餓感を抑えられなくなり、両親や同好会の仲間たち、そして幼馴染を傷つけてしまうことを恐れたからだ。

その日の晩、歩夢はマンションから飛び降りた。

誰にも見つからないことを祈っていたが、偶然にも侑に現場を見つかってしまった。
その場は一瞥もくれなかったが、歩夢はすぐに彼女の顔が見たくなった。
親にも負けない程の時間を共有した仲だ。
最後の別れを告げるくらいはしてもいいだろう。

歩夢は全ての事情を話し、侑に納得してもらうことをきめた。

(証拠があったほうがいいよね……)

彼女は近くにいた野良猫を殺して、その場で食べた。
もう動物を食べることに罪悪感を抱かなくなっていた。
0124名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/24(日) 02:45:42.88ID:Er8OuY7w
(……結局、さよならなんて言えなかったよ)

あの日を最後に二度と合わないようにするべきだったのに。
それがお互いにとって一番だったのに。

歩夢は、侑に別れを告げることは出来なかった。
彼女を見つめるだけで、一緒に居たいと思う欲求のほうが勝ってしまったから。

”私は歩夢が勝手にいなくなっちゃう方が怖いんだよ……”

そう言って涙を流しながら抱きしめてくれた侑を突き放せなかった。
寧ろ永遠にこうしていたいとさえ思った。

ああ、そう永遠にだ。
だから彼女は、口走ってしまった。

”侑ちゃんの身体を私にちょうだい”

その時の吸血衝動が、畜生の生き血をすする時のそれとは違うことを、少し遅れて理解した。
0125名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/24(日) 02:50:25.76ID:Er8OuY7w
侑への吸血は食欲と同時に、別のものを満たしてくれた。

____愛おしくてたまらない。
侑の血液を摂取する時の歩夢の感情を率直に表現するのに、これ以上最適な言葉はないだろう。

幼馴染の鮮血は今までみたどんな物よりも美しかった。
侑の血を吸われる度に快楽に呑まれ、嬌声を上げ、女らしくなる様を見て、歩夢は下腹部のあたりが熱くうずくのを感じた。

それは性感を連想させ、すぐにこの吸血行為が性行為の一種なのだと分かった。
恐らくこれは同族を増やすための行為で、全てを吸いつくした時対象は吸血鬼になる資格を得るのだと本能的に直感した。

また皮肉にも、強烈な欲情が生前この娘に抱いていた感情が淡い恋心だと気づかせた。

(こんなことで気付きたくなかったよ……)

やめなくてはと何度も心の中で、自分を戒めた。
しかし美肉に溺れた吸血鬼に、今更この乙女の身体を手放すことは出来なかった。

食欲と同じで、この劣情もすぐにエスカレートしていった。
自分の言いなりになっている幼馴染に支配欲が刺激され、彼女に対する欲求はどんどんサディスティックになっていった。

(ごめんね…侑ちゃん……。
本当にごめんね)

ベッドの上で蹲り、歯を食いしばりながら歩夢は懺悔した。
0126名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/24(日) 02:52:52.03ID:Er8OuY7w
歩夢父「歩夢ーどうかしたのか?」

歩夢母「何か辛いことでもあるの?」

吸血衝動と戦っているうちに、知らず知らずに壁に体を大きくぶつけてしまったのだろうか?

歩夢の両親が娘の様子を不審に思い、部屋の外で声をかけた。

歩夢母「はいってもいい?」

今夜は侑の血液を吸っておらず、動物も食べていない。
今両親に会ってしまってはきっと______

(ダメ___!)

その言葉は声にならなかった。
次の瞬間、扉が開かれ生き物の臭いが歩夢の鼻孔をくすぐる。

抑制されていた獣性が覚醒した。
0127名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/24(日) 02:56:57.36ID:Er8OuY7w
今日はここまでにします。

何故かパソコンから投稿出来なかったので、今夜はスマホから投稿しました。
見辛いところがあるかもなので指摘してくれると嬉しいです。

あとスレタイに反してエマさんがあんまり出てなくてすみません。
もっと構想を練っておくべきでした。
0130名無しで叶える物語(カボス)
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2021/01/24(日) 03:43:35.59ID:CRxwFm3o
気になるんだが
0132名無しで叶える物語(あら)
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2021/01/24(日) 17:20:17.67ID:v2RcWsP+
身内であってもさすがに人間をやっちゃったら退治せざるを得ないだろうから続きが気になるね
0134名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/25(月) 02:01:25.73ID:WNlGBDid
____翌朝・日曜日・学生寮

侑「……昨日は本当にありがとう」

エマ「どういたしまして。
……それより、一人で歩夢ちゃんと話し合える?
私もついていこうか?」

侑「ううん、きっと大丈夫。
エマさんから勇気貰ったから。
それにいきなりエマさんが介入すると歩夢も警戒するかも。
……歩夢、あんまり今の自分の状況を話したがらないから」

エマ「そっか。
まぁ、下手に場を拗らせるより親友の侑ちゃんに説得して連れ来て貰った方が、
私としても気持ちが楽だよ」

でも、とエマは続けた。

エマ「身の危険を感じたら、すぐに連絡して。
それと15時を過ぎても侑ちゃんが来なかったら、私がそっちに向かう。
それでいいよね?」

侑「うん、それで大丈夫」

エマ「私はそれまで調べものに出かけてるけど、
侑ちゃんから連絡あったら最優先でかけつけるから。
だから頑張ってね!」

エマと侑は笑顔で別れた。
0135名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/25(月) 02:03:49.65ID:WNlGBDid
___マンション

(歩夢、今どうしてるかな)

フロントを過ぎ、エレベータで上層階へ上って、廊下を少し遅めに歩いた。
それとは逆しまに、歩夢のマンションルームが近づくにつれて鼓動は速くなる。

紛れもなく侑は緊張していた。

(きっと今までみたいに皆と楽しく笑いあう、そんな日が戻ってくるよね?)

不安を抱きながらも、悲観はしなかった。
今の侑にはエマという強力な味方がいるからだ。

意外にも歩夢の身に何が起こっているのかは彼女も掴みかねているようで、
情報を欲しているようだった。
先のことがどうなるかは、侑にも彼女にも分からない。
それこそ神のみぞしるというところだろう。

しかし、それを何とかするために自分がいるのだと、侑は心に言い聞かせた。
私たちが行動するには、まず事をつまびらかにし、分析しなくてはならない。

手を誤らないためにも、冷静に、慎重にことを運ぶべきだ。
朝、学生寮を出る前にそのことをエマとも確認したはずだ。

やかましい動悸を抑えるように胸に手をあてる。
気付くと、もうとっくに自分の家の隣、すなわち歩夢の家の前に来ていた。

勇気と微かな希望を頼りに、深呼吸をしてインターホンを押す。
数分後、自分はあまりに遅かったのだと後悔することも知らずに。
0136名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/25(月) 02:05:57.01ID:WNlGBDid
中から返事はなかった。
しばらく待って、もう一度インターフォンを押しても結果は同じだった。

最近の歩夢は休日に出かけることはしなかったし、
比較的仕事で家を空けることの多いご両親も、日曜日は必ずほぼ家にいた筈だ。

悪寒が走る。

思わずドアノブに手をかけて回してみると、簡単に扉が開いた。
鍵はかかっていなかった。

玄関には家族全員分の靴があった。
家の中に誰もいない筈がない。

「……お邪魔します」

静寂だけが侑を出迎えた。
侑と歩夢は幼馴染で隣人という間柄、勝手にお互いの家を出入りすることがあったが、
それでもこうして挨拶をして返事がなかったことは一度もなかった。

引き返したほうがいい。

脳みそがそう警鐘をならしたが、侑はそれでもリビングへ進んだ。
愚かにも、未だ掴みかけた希望縋っていたからだ。

リビングに足を踏み入れる。
同時に目に映ったモノに、侑は絶句した。
0137名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/25(月) 02:08:00.59ID:WNlGBDid
それは二つあり、見知った顔していた。

リビングの奥にある歩夢の部屋の前で仲睦まじく転がっている。
歩夢の父と母だったものだ。

二人とも白目を剥き、凄まじい恐怖と絶望の形相をしていた。
口からは赤黒いものが固まっており、血のあぶくを吹き出しながら絶命したのは容易に想像できた。
首から下は皮膚が切り裂かれており、食い散らかされた臓物が血の華を咲かせていた。

人間であることを除けば、それはいつか歩夢が作った動物の死骸に似ていた。

「うっ…おぇ……」

たまらず侑は吐瀉物を吐き出した。
縋った願望が所詮夢物語でしかなかったことを侑は思い知らされた。

(歩夢はどこへ……?)

開かれた扉からは彼女の姿はうかがえなかった。

(歩夢、探さないと……)

来た道を引き返す。
とにかくここにはいたくなかった。
0138名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/25(月) 02:08:58.43ID:WNlGBDid
恐らく明日は日中に投稿できると思います。
しばらくお待ちください。
0142名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/26(火) 02:14:33.21ID:LJQDTY5p
来た道を引き返し、侑はマンションを出た。
目に浮かべ、全力で走りながら思いつく限りの場所を探し回る。

__分かってしまった。

歩夢の両親がああなったのは、歩夢が取り返しのつかない罪を犯してしまったのは自分のせいなのだと。

”絶対帰ってきてね?”

彼女は不安げに、か細いこえでそう言っていたではないか。
彼女は約束を守っていた。
幼馴染との約束通り、動物を殺すことはやめ、腸も食べなかった。

だから、先に約束を破ったのは侑のほう。
自分の血を与えるからと、自分から提案しておいて、保身で帰らなかった自分の責任だ。

(私、大馬鹿だ……)

悔やんでも悔やんでも悔やみきれない。
そもそもこんな感情、歩夢が受けている痛みに比べれば屁でもない。

彼女は苦しかったはずだ。
いつまでも帰らない幼馴染を待って、飽くなき吸血欲に悶えていたはずだ。

ああ、今になって失踪から戻ってから、一週間一人で思いつめる彼女の姿が思い出される。

彼女の力になりたいと、守ってあげたいと、望むのなら一緒にいてあげたいとそう願っていたはずなのに。
昨日の夜、自分は一人勝手に安心して呑気に眠っていた。
それは結局、彼女を孤独の闇に見捨てたのと同じで……。

侑は奥歯を噛みしめる。
噛みしめすぎて、奥歯が砕けた。
けれど不思議と痛みは気にならない。

侑は全力で走り、手当たり次第に歩夢を探した。
0143名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/26(火) 02:16:33.28ID:LJQDTY5p
ぽつり、ぽつりと雨が降ってきて、やがてざあざあという音に変わった。

そんなことは構わず探し続ける。
ある公園まで来て、呆と立ち尽くす落ち着いた赤い髪の女の子を見つけた。

「____歩夢」

「来ないで‼」

強い拒絶の意志。数メートル離れたところで侑は立ち止まる。
彼女が許すまでは近づけない。
無理に近づけば、きっと彼女の心は壊れてしまう。
そんな気がした。

「……なんで、ここにいるの?」

「歩夢を探しに来た」

まっすぐ歩夢を見つめる。
彼女は、震えながらうつ向いていた。

「こっちにおいで。そんな恰好じゃ風邪ひくよ」

彼女の服装はネグリジェで、裸足だった。
きっと両親をてにかけた後、我に返ってそのまま家を飛び出して来たのだろう。
そんな姿で秋雨に身を晒しては体が凍えてしまう。

「いいよ、気にしなくて。私、化け物だもん」

消え入りそうな声で、少し裏返りながら彼女は言った。

「歩夢」

「知ってるんでしょ⁉家のこと‼」

それでも声をかけようとする侑を遮って、歩夢は声を荒げた。
表をあげた彼女の顔には、雨粒とは別のしずくがながれ、目を赤くはらしていた。

「あんなことした私を探しにくるなんておかしいよ!
馬鹿じゃないの⁉
侑ちゃん、どうかしてるよ‼」

それ以上声をかけることは出来なかった。

「私のことはもう放っておいて」

再び歩夢はうつ向いた。
その姿は己を恥じる罪人のようで。
鋭い雨に打たれ、擦り剝けた足を晒している彼女がただただ憐れだった。
0144名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/26(火) 02:18:26.55ID:LJQDTY5p
「……もしかしたら、歩夢は人間に戻れるかもよ」

無神経にそう言って、

「……人間に戻ってどうするの?」

当たり前のように、最後の希望が打ち砕かれた。

「私、人殺しちゃったんだよ?
しかも親を。こんな私に、今更人に戻れって言うの?」

歩夢の言う通りだ。
もう死んでしまった魂はこの世にもどらない。
例えこの先歩夢が人に戻ったとしても、彼女の両親は戻らない。
人であるからには人食いの大罪には耐えられない。

彼女の心を守るのならば、彼女は化け物でいるしかない。
皮肉にも怪物であるという理由が、彼女の行動を正当化していた。

侑は彼女を見据える。

打ちひしがれる彼女を見るのはただただ哀しくて、胸が痛んで、

「__いつだって私は、歩夢の隣にいるよ」

どうしても守ってあげないといけないと、侑はそう思った。
己の罪に震え上がる歩夢を、そっとだきしめた。
0145名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/26(火) 02:20:13.70ID:LJQDTY5p
「あ」

突然の抱擁に、歩夢は目を丸くした。

「ダメだよ。こんなことしちゃ」
歩夢が押しのけようとする。
けれど侑は絶対に彼女を放そうとはしなかった。

「私、吸血鬼だよ?
人食いなんだよ。侑ちゃんのこと、傷つけちゃうよ?」

「そんなこと、気にしない。
歩夢は歩夢だから」

「私がきにするの!
もう侑ちゃんのこと傷付けたくないの!
侑ちゃんを殺しちゃうかもしれない自分が怖いの!」

泣きわめく彼女の頭に、片手を後ろに回す。
腰に回している方の腕にもう少しだけ力を込めた。

「もういいんだよ」

安心させるために、侑は耳元でそうささやいた。
こんなことダメなのに、と歩夢は涙を流す。

「……私、侑ちゃんのこと食べちゃうかもしれないんだよ」

「その時は、その時だよ」

「それだけじゃないよ。私、侑ちゃんのこと好きなの」

感極まって、歩夢の本心がただ溢れる。

「好きだから、血を吸って、
侑ちゃんを私と同じ化け物にしちゃうかもしれないんだよ?」

「私も、歩夢のことが大好きだよ」

その気持ちに応えるために、侑も嘘偽りのない本心を答えた。
0146名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/26(火) 02:22:12.46ID:LJQDTY5p
展開は決まっているのですが、なかなか文章が思いつかず遅れてしまいました。
すみません。
0148名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/26(火) 02:46:09.57ID:LJQDTY5p
__侑視点

「もういいのいいんだよ、歩夢」

子供をあやすように、同じ言葉を繰り返す。
この言葉で歩夢の心を少しでも安らぐよう、祈りながら。

このまま怪物でいても、人の道に戻っても彼女は孤独だ。
一人うつ向いたままでいる彼女を想像して、たまらなく悲しくなった。
こんな優しい子を独りぼっちにしたまま放っておくわけにはいかない。
自分に出来ることは、彼女に寄り添うこと。ただそれだけだ。

歩夢がいなくなってしまってからのことを思い出す。
彼女が不在の日常は色あせていて、戻ってくるまで一度も心が”ときめく”ことはなかった。
それからも歩夢のことばかり考えて、私がどうにかしてあげたくて……。

ああ、とっくに気が付いていた。
彼女は、私の心と身体の一部なんだと。
彼女の身体も、心も、守ってやりたいと。
彼女のことをこの世界のだれよりも好いていると。

嗚咽混じりに、彼女の息遣いが獣のように荒くなる。
両親の肉で満たされていた腹が、再び空いたのだろう。
それとも、私を同じ身体にしたいのか?

(ごめん、エマさん。約束守れなかったよ……)

私は首筋を歩夢に差し出した。
0149名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/01/26(火) 03:17:21.84ID:LJQDTY5p
_____歩夢視点

幼馴染の瞳は虚空を見上げ、色を失う。
温かった彼女の体はどんどん冷たくなり、私の腕の中で力なく横たえた。

こんな私を大好きと言ってくれた少女、高咲侑ははこの場で果てた。
同時に、ここから全てが始まる。
彼女は吸血鬼として新生するのだ。

「ずっと、一緒にいようね」

己の魂に永遠を誓う。
今の私にはこの娘が全てだ。

復活の手順は知っていた。
血を吸って殺した後、土に埋めて時が来るのを待てば良い。
だがその方法では、侑に吸血鬼の適正がなかった場合、永久に土の下だ。
そんな不確実な方法はとれない。

眷属を確実に増やす方法。
それは自分がより力をつけ、相手に分け与えることだ。

では力をつけるにはどうすればいいか?
それも私は本能で悟っている。
すなわち、人をより多く食らえばいい。

大切なものを3つも手にかけた私にとって、他の命など最早瑣末ごとに過ぎない。
3つも、4つも、100も変わらないのだ。

幼馴染の、恋人の愛に報いるため、彼女は餌場に向かった。
0150名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/26(火) 03:27:43.10ID:LJQDTY5p
すみません
今日はここが限界です。
0151名無しで叶える物語(あら)
垢版 |
2021/01/26(火) 06:53:02.48ID:X8E87Xgh
やっぱりやっちゃってたのか。もう心まで完全に怪物になる前に、エマさんに終わりにしてもらうしか
0152名無しで叶える物語(庭)
垢版 |
2021/01/26(火) 07:42:17.57ID:QcsHHAb9
歩夢埋めたの誰だ
0155名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/01/27(水) 01:34:06.35ID:FYDInHze
明日早いので、今日は保守代わりに1レスだけします。
それと木曜日は多分更新できないので、代わりに保守してくれると嬉しいです。
次回から本格的にエマさんのターンになります。
0156名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/01/27(水) 01:36:44.11ID:FYDInHze
___その日、現代に最新の魔王が二人誕生する。

一人は●●●●●●●の__すなわち運命の戯れによって、もう一人は哀憐によって人の道を踏み外した。

浮かんではまた消える幻を、彼女たちは思った。
袖の雫と月桂が手のひらから零れ落ちる。

それは何処かの夢。
彼女たちは普通の少女として笑いあい、励ましあい、仲間たちと触れ合う。
後悔することはあっても、胸を張って堂々と生きる。
尊厳と光溢れる道を共に歩むそんな姿。

決して実らぬ描いた未来。
夜風にうな垂れ、叶わないと俯く。

____これからもよろしくね。

二人だけに届くつぶやきが、夜の闇に包まれ彷徨い行く。
ここにあるのは変わらぬ思い、永遠に報われぬ血と愛の仇花。
遥かなる時の果てまで、彼女たちは悲しき運命共同体(共犯者)であり続けるだろう。

時計仕掛けの舞台装置は狂々と廻る。
哄笑する朱い月の下、惨劇の第一幕が上がった。
0160名無しで叶える物語(しまむら)
垢版 |
2021/01/27(水) 21:28:17.35ID:tFnw9SgT
保守
0161名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/28(木) 01:53:16.89ID:anhRAvqW
時はエマと侑が学生寮で別れたころまで遡る。
エマは手早く身支度を整え、修道服に着替えるとすぐに部屋を後にした。

(瘴気が濃い……)

港区の街並みを歩きながらエマは思った。
彼女が日本に来たばかりのころはこうではなかったのに。
変化が訪れたのは夏休みも中盤に差し掛かった八月からだ。

(さて、と……)

人込みを避け、狭い裏路地に入って行く。
ビルとビルの隙間はどんどん細くなっていき、
複数回曲がったところで裏路地の行き止まりに着いた。

「お待ちしておりました、ヴェルデ様」

そこには大きな紙袋とスーツケースを持ち、フードを目深に被った背の高い男がいた。
0162名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/28(木) 01:54:54.85ID:anhRAvqW
「お勤めご苦労様です。それで、頼んだモノは?」

「全て揃えております」

エマが品物に一瞥をくれると、男は確認するように中身を諳んじた。

「法儀礼済投擲十字剣”黒鍵”10本、聖水式気化燃料爆弾を3発。
対化物戦闘用13o拳銃『ジャッカル』一丁、対応するマケドニウム加工弾殻水銀弾頭炸裂徹甲弾を6発」

それと、と男は付け加えた。

「詠唱術式強化用補助聖書を一冊。
聖ヨハネ大聖堂に保管されている聖骸布、その模造品を大司教猊下により賜っております。ヴェルデ様はこちらが本命でしょう」

「perfetto(完璧です)」

「I grandi della gratitudine(感謝の極み)」
0163名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/28(木) 01:56:02.05ID:anhRAvqW
エマは中身を開け、懐に入れる。
すると魔法か何かか、嘘のように簡単にしまい込まれた。

「日本はセキュリティが厳しい。
これだけのものを揃えるのは大変だったでしょう。
感謝します」

「米軍経由で国内に運び込み、少し検閲を欺いて外に持ち出せば済むこと。
多少手間ですが、何のことはない」

「報酬は?」

「すでに頂いております」

Amenと短く祈りを捧げ、エマはその場を後にした。
0164名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/28(木) 01:59:09.70ID:anhRAvqW
(こんなもの使わなければそれに越したことはないんだけど……)

エマは武器というものが好きではなかった。
剣も拳銃も、人が扱うにはあまりに冷酷な代物だ。
人の心を温める理想とはどこまでも対極に位置する。

そもそもたとえ化け物であろうと、そこに存在するものを滅ぼすという行為そのものがためらわれた。
きっと彼らだって、大半はなりたくて怪物にその身を落としたわけではないと知っていたから。
本当は彼らのことも、消滅させずに人の道に戻せるならそれに越したことはないと思っていた。

しかし、現実はそう甘くない。
ノスフェラトゥを慈しむあまりに、無辜の人々の命をいたずらに顧みず、
被害を黙認するとあっては本末転倒だ。

エマはリスクを計算して、あらかじめ大嫌いな殺しの道具を調達したのだ。
0165名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/28(木) 02:01:24.07ID:anhRAvqW
___ある一軒家

武器を調達してからエマは白金台に向かった。

港区南麻布には高級邸宅が立ち並ぶ。
白金台には一億円以上の価値があるマンションも散見され、プラチナ通りと呼ばれる通りにはセレブご用達の高級レストランやカフェがいくつも建っていた。

エマも朝香果林に連れられて、彼方と一度料亭に訪れたことがある。
清教徒という訳ではなかったが、贅沢をそれ程好ましく思っていなかった彼女も、
この時ばかりは素直に感心させられたものだ。

だから警察のパトカーが何台も行列を作り、
邸宅に殺害現場特有の黄色の規制テープが張られているのを見るのはそれなりに違和感があった。

エマは規制テープを堂々とくぐり抜ける。

「あ、エマさん。お疲れ様です」

長いコートを着た刑事が一人、彼女を呼び止め、頭を下げた。

「さんと敬語はやめて下さい。私、年下ですから」

エマは苦笑した。

「いえいえ。我々では”あれ”には手も足も出ませんからね。
”ヴァンパイアハンター”と呼ばれる怪物殺しの専門家には頭があがりませんよぉ」

男はわざとらしく頭を下げた。
エマはこの刑事が苦手だった。
怪物殺しの専門家などと言われるのもあまり愉快ではない。

(妙なあだ名がつけられちゃったな……)

ヴァンパイアハンターというのは警察署内でのエマのあだ名らしい。
といっても、それはこの男が吹聴して回っているのが原因なのだが。

「くれぐれも署外での他言は無用でお願いしますね?」

「無論。そこは私どももわきまえておりますとも。
”スクールアイドル”のエマちゃん」

刑事が脂ぎった笑みを浮かべる。
つくづく苦手だと、エマはため息をついた。
0166名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/28(木) 02:03:51.91ID:anhRAvqW
「状況は?」

手早く済ませてしまおうとエマは思った。

「今日の10時頃。
こちらの邸宅の奥様から交番に一本の連絡がありました。
『子供が旦那に襲われてる、助けてほしい』と。
駐在員がすぐに駆け付けましたが、『奥さんが食われてる』と言い残して連絡が途絶。
我々は例の事件の関連と判断し、貴女に応援を要請したわけです」

近頃都内を騒がす連続懐死事件。
その犯人たちが普通ではないことは警察も突き止めていた。

最初は狂犬化した野犬や肉食動物の犯行を疑っていたようだが、
目撃証言と遺体に残った歯形からすぐに一つの結論にたどりついた。

どうやら人が人を喰らっているらしいと。

しかも事件は同時多発的に何件も起こっていて、
何人もの容疑者がおり一人の異常者が起こしている訳ではないことが分かっていた。
容疑者同士の接点もないので、同時にカルト集団の線も消えた。

謎の事件にほとほと困り果てていた警察に、教会勢力が接触した。
これは怪異の仕業であると。

この科学が支配する世の中、あまりに馬鹿げてると当初まともに取り合わなかった警察だが、
徐々にその認識を改めていく。
拳銃を装備した警官、果ては投入した機動隊までもが丸腰の容疑者に敗れ去ったからだ。
ただの身体能力で武装集団を蹴散らすなど到底考えられまい。

結果、教会と警察は共同戦線を張ることになる。
警察が情報収集と調査、教会が吸血鬼の調伏という形で。

多数の悪魔祓いを抱えるヴァチカンの中でも有数の実力を持ち、
日本に留学中のエマに白羽の矢が立つのはそう時間がかからなかった。
0167名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/28(木) 02:05:27.42ID:anhRAvqW
「だいたい状況は把握しました。それで吸血鬼は中に?」

「ええ。
玄関や裏口から出ていく姿も見られませんし、奴は確実に中にいます」

「……分かりました。
周囲の住人は絶対に近寄らせないでください。
あなた方もどうか私がことを終えて戻ってくるまでは、家の中に入らないように」

そう言って、エマは伏魔殿の中に入って行く。
”いつも通りの”化け物退治が始まった。
0168名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/28(木) 02:06:32.06ID:anhRAvqW
今日はここまでにします。
明日は更新できないと思うので、スレ保守お願いします。
0170名無しで叶える物語(あら)
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2021/01/28(木) 07:40:39.90ID:niBFyRj7
その銃人間が扱えるのかwエマさんすごいな。よく考えたら歩夢の家も事件になるだろうから、いろんな意味でもう取り返しはつかないな
0171名無しで叶える物語(しまむら)
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2021/01/28(木) 23:23:45.42ID:aiUH8Zgj
ヴァンパイアハンター←かっこいい、つよそう
エマちゃん←かわいい、やさしそう
0175名無しで叶える物語(茸)
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2021/01/29(金) 23:47:55.00ID:fi4fL0PV
つまんね
0176名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/30(土) 02:08:23.18ID:hKyEvqTI
家の中は綺麗に整頓されている。
入ってすぐ木の香りが匂うことから、恐らく新築に分類される物件だろう。

ふと玄関の下駄箱の上に目をやると、小さな写真立てが置いてあった。
夫婦と小学生の姉妹が二人、幼稚園くらいの男の子一人が楽しそうにピクニックをしていた。

家族の一人が吸血鬼化して、という話はエマにとってそう珍しいことではなかったが、
この手の光景はいつまでたっても慣れないものだ。
切なさとやるせなさが同時に胸を襲う。

(気配は、上からか……)

玄関を上がってすぐそこにある、螺旋状の階段を上っていく。
香ばしい木造の香りはすぐに血生臭さに変わった。

二階は主に家族の寝室のようだった。
扉にプレートがかかっており、女性が多い故だろう。
それぞれの家族の名前可愛らしく刻まれている。

気配と臭いは一番突き当りの部屋から最もきつく感じられた。
エマはその部屋の扉のドアノブに手をかける。
数秒部屋の様子を伺って、彼女は部屋に突入した。
0177名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/30(土) 02:10:41.58ID:hKyEvqTI
部屋の中には呑気にいびきをかいて眠っている、40くらいの男がいた。

酔っぱらいのようにスーツでベッドの上に横たわり、顔や四肢の太さの割には腹が大きく膨らんでいる。
肥満でそうなっているわけではないのは明かだった。
他の家族と警官は恐らくあの腹の中だろう。

日の光を嫌ってか、カーテンは閉め切られており、黒く変色したものが部屋中に散らばっている。
血や臓物、胴から離れた手足や首などは見慣れているので、
光景の凄惨さには特に感じ入るものはなかったが、恐らく良い亭主であったろうこの男が家族を手にかけたことは忍びなかった。

蘇生したばかりの吸血鬼はえてしてこういうものだ。
それが例え愛したものであろうと生きている人を口に入れ、夜を彷徨い、昼間に眠る。

だから日の上っている間に吸血鬼の縄張りを突き止め、
彼らが寝ている間に始末するのはエクソシスト達の鉄則だ。
怪物の活動時間、すなわち真夜中に彼らと真正面から戦うものもいるが、
それはあくまで例外。
エマのように祈りのみで調伏せしめるものは例外中の例外と言えるだろう。

「告げる____」

エマは詠唱を開始した。
0178名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/30(土) 02:11:31.06ID:hKyEvqTI
めでたし、聖寵充満てるマリア、
主 御身と共にまします。

御身は女のうちにて祝せられ、
御胎内の御子イエズスも祝せられ給う。

天主の御母聖マリア、  罪人なるわれらのために、
今も臨終の時も祈り給え。

  かくあれかし
0179名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/30(土) 02:12:59.94ID:hKyEvqTI
普段通りにエマは祈り捧げる。
動ける死者が黙するように、この苦界から解き放たれるように。

眠れる吸血鬼はカーテンの隙間に誘い込まれるように、光の粒子となって消えていった。

部屋に残されたのはエマ一人きり。
その閑寂のなかで彼女は一人静かに泣いた。

仕事を終えた後はいつもこう。
被害者の無念を思って、化け物になった者たちの在り方が痛ましくて、
独りぼっちで涙を流す。

__やがてそれは力に変わる。どんな理由かは知らないが、この事件を起こしている犯人はまた同じことを繰り返すだろう。
できるだけ速やかに、まだ見ぬ犯人は懲らしめてやらねばならない。
でなければ、この人達があまりに報われないから。

悲しみを決意に変えて、エマは部屋を出た。
0180名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/30(土) 02:18:57.47ID:hKyEvqTI
保守して下さってありがとうございます。
完結できるように頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

短いですがきりがいいので、今日はここまでとなります。
おやすみなさい。
0185名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/01/31(日) 01:20:41.11ID:2KHkCYf+
すみません
課題が立て込んでるので、更新遅れます
0189名無しで叶える物語(しまむら)
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2021/01/31(日) 14:11:15.38ID:JWRLLVLa
保守
0191名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/01(月) 00:30:44.67ID:/W6bBZtv
____パトカー内

「さすがはエマさんですねぇ。
仕事の手際が実にいい」

刑事がニヤリと笑う。

「ちょうどお昼ですからねぇ。
何か部下に持ってこさせましょうか?」

「いえ、結構です。
今日は少し立て込んでるので手短にお願いします」

「おやおや。
そう遠慮されると淋しいですねぇ。いつもはよくお食べになるのに」

こういうところが苦手なのだと、エマはため息をついた。
口には出さなかったが。

「では手早く済ませましょう。
結論から言うと、被害はいまだ拡大中です。
件数の観点からも、地域の観点からもね」

「……なるほど。具体的にはどのくらい?」

「ざっと三日で20件弱。
北端は大宮、南端は湘南藤沢あたりまでね。
犬、猫まで含めるともっと増えますよ」

エマは絶句した。
怪異が起こす事件でこれほどの規模の物はそう存在しない。
いや2000年に起きた英米同時バイオテロ『飛行船事件』があるが、
それにしても極東でこれだけの吸血鬼絡みの事件が起こるのは初めてではないだろうか。

「なにか手がかりや心当たりのようなものはありますか?」

「それはむしろこちらが聞きたいくらいですよ」

刑事は肩をすくめた。

「警官としては情けない限りですがね。
防犯カメラには映らない、、目撃者はいない、指紋も残らない。
こんな状況では犯人を捜そうにも手の打ちようがない」

「……それはそうでしょうね」

「強いて言うなら、特徴と言えばやはり図抜けて港区、それも虹ヶ咲周辺での被害が多いことでしょうか?
前回もお話しましたがね」

「……心当たりがないわけではないのですが」
0192名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/01(月) 00:35:03.04ID:/W6bBZtv
警察たちは以前から虹ヶ咲学園の生徒を、もっと言えば上原歩夢を疑っているようだった。

実際大宮から藤沢辺りまでは学生達の通学圏内にあたるし、
港区虹ヶ咲周辺と言われれば何かしらの関連は素人目にもわかることだ。
その上歩夢は失踪事件を起こしている。

無論エマもそのことは承知で学園内を何度も調査していた。
結果、認めたくはないが自分の友人がすこぶる怪しいことも分かっていた。

「……その後上原さんはどうです?
彼女が失踪してから事件が起こっている。
ご友人を悪く言うつもりはないが、警察としては彼女を一連の事件の犯人とみる向きも強くてですね?」

「前にも話しましたが上原歩夢のことは引き続きこちらで預からせて欲しい。
といってもこれ以上長引かせるつもりはありません。
今日の用事は、つまるところ彼女らと決着を着けることです」

「……では彼女を討伐すると?」

「そうは言ってません。
ただ手掛かりにはなると思います」
0193名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/01(月) 00:39:54.23ID:/W6bBZtv
実の所、この時点のエマは歩夢が吸血鬼だとは考えていなかった。

それにはいくつか理由がある。

まず歩夢が吸血鬼になったタイミングは失踪時の3日しかないことが挙げられる。
半端に蘇生したゾンビ紛いの吸血鬼ならともかく、
普通の人間と遜色ない知恵を持ち行動出来るとなると、3日程度土に埋めた程度では蘇生条件は満たせない。

「魔王」と呼ばれる強力な吸血鬼に力を与えられたならば話は変わってくるが、
現在それらの吸血鬼は全て討伐されている。
現代では大英帝国王立国教騎士団が子飼いにしている吸血鬼が最後の生き残りだったそうだが、
それも先の事件で消滅が確認された。

上原歩夢が生まれた時から吸血鬼だった、という線は高咲侑の証言から却下される以上、
彼女が短期間で高等な吸血鬼になるための条件を満たすのは極めて厳しい。

第二の理由は歩夢に吸血鬼特有の人肉の臭いがしなかったことだ。
これは教会の聖者のみが感じられる独特の嗅覚なのだが、
人喰いという大罪を犯した咎人は異常な臭いを放っている。
歩夢に血の臭いがしない訳ではないのだが、それでも吸血鬼共と比べれば非常に薄い。
よって彼女は恐らく人は殺していない。

最後の根拠は、様子はおかしいが学校生活を送れていることだ。
吸血鬼にとって、学校など活きのいい肉の集まる餌場に過ぎない。
特に蘇生したばかりの吸血鬼なら人肉が食べたくて食べたくて仕方がない筈だ。
余程強い精神力がなければ、数週間も生徒を食べずに学園生活を送ることは出来ないだろう。

以上の理由をもって歩夢は吸血鬼ではなく、
黒幕になんらかの洗脳を施されているか、弱みを握られている被害者ではないかと推測していた。

だからエマは歩夢に対して慎重に動いていた。
下手に探って、歩夢が人質に取られる可能性を考慮していたからだ。

本音を言えば昨日の夜には確保しておきたかったのだが、
何、一日くらいならなんとかなるだろう。

それに、万が一歩夢が吸血鬼だったとしてもエマには秘策があった。
0194名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/01(月) 00:42:13.95ID:/W6bBZtv
今朝受け取った聖骸布。
これはレプリカではあるが、一級の代物である。

救世主の死体を包み、その復活に携わったこの布はさまざまな奇跡を起こせる。
洗脳や呪いの解除、致命傷からの回復はもちろんのこと、
汚れなき魂ならこれに包み、適切な祈りを捧げることで対象を復活させられる。

すなわち人殺しをしていないという条件を満たしていれば吸血鬼を浄化し、人に戻すことが出来るのだ。
歩夢は恐らく今はまだ人を殺していないから、
これさえあれば例え彼女が吸血鬼だったとしても元の身体に戻してあげられる。

彼女を黒幕の鎖から解放するのにこれ程有用な道具はない。
手に入れるのは随分苦労させられて、エマは7年分の貯金を使った。
調達にも時間がかかり、注文から二週間弱待たされた。

エマはこれだけのために財と時間をかなり消費したが、
しかし友を助けられるならと、そこに微塵の後悔もなかった。
0195名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/01(月) 00:43:54.00ID:/W6bBZtv
昨晩までエマが、歩夢たちにそれ程アクションを起こさなかったのはこれらの事情があったが故である。
彼女は歩夢の安全を確保するための材料を揃えるまでは、積極的な接触は控えようと決めていたのだ。

だが、それももう終わる。

エマは時計を見た。
時刻は13時過ぎを示しているが、未だ侑から連絡はない。

(説得うまくいってないのかな)

連絡の期限は15時だが、ことがことだ。
少し早めに向かっても罰は当たるまい。
そう思ってエマは今から侑達のマンションに向かうことに決めた。

(今から向かえば14時くらいに着くよね)

エマはパトカーを降りた。

「それじゃあ刑事さん、今日はこの辺で失礼します。
何かあったら連絡しますね」

「ええ。出来れば吉報をお願いしますね」

簡単に社交辞令をすませ、彼女は警察の下を去った。
0196名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/01(月) 00:45:44.20ID:/W6bBZtv
一旦ここで区切ります。

申し訳ないのですが2/4まで文量が少なめになってしまいそうです。
今後もよろしくお願いします。
0197名無しで叶える物語(たこやき)
垢版 |
2021/02/01(月) 00:58:13.52ID:/GkLrF+T
歩夢はもしかしたら吸血鬼じゃない可能性も出てきたのか。家族を手にかけたのも黒幕だったらまだ救われるんだけどな
黒幕が本当にいるならだけど
0198名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/01(月) 01:05:49.93ID:/W6bBZtv
すみません
今回はエマさん視点に合わせてるので、地の文はエマさんの考察です

色々イレギュラーは重なってますが歩夢ちゃんは吸血鬼になってます
0202名無しで叶える物語(しまむら)
垢版 |
2021/02/01(月) 22:41:10.18ID:Z0kO1L00
エマちゃん保守
0203名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/02(火) 01:43:12.06ID:g+kF14AY
____歩夢宅

結論から言うと、エマの対策は遅きに失した。
エマの行動は決して間違いではなかったしむしろ定石通りだったが、今回の事件はあまりに特殊で展開が速かった。

彼女はいま、友人の両親であっただろう物を呆然としばらく呆然と見下ろしていた。
歩夢とも侑とも連絡が取れず、家の鍵もかかってなかったので部屋に勝手に上がっていたが、その先の有様はこんな様だった。

「私、どこで間違えたのかな……」

萎れた呟きが静寂のリビングに反芻する
0204名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/02(火) 01:44:52.30ID:g+kF14AY
何故、と考える。
歩夢は化け物になるタイミングはなかったはずだ。
____愚かな。彼女は”僅か三日”の間になり果てたのだ。

ありえない、と汗が吹き出す。
化物ならば数週間も人を食わずに過ごせるものか。
____間抜け。それは彼女が我慢強かっただけ。

馬鹿な、と心が叫ぶ。
彼女には人食い特有の臭いはしなかった。
____だから、そう。昨晩のうちに確保出来ていれば、全てが間に合ったのに。

同じ思考がぐるぐると数周する。
その果てに、彼女は歩夢が吸血鬼に身を堕としたことをようやく確信した。

「......spiacente.
Perdonami
Mi dispiace」

ふつふつと湧いてくるのは今更の後悔だった。
0205名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/02(火) 01:45:44.66ID:g+kF14AY
筋書きはこう。

歩夢は、三日の間に何者かによって吸血鬼にされた。
その後彼女は、己の吸血衝動と戦っていたが、
昨晩ついに耐えきれなくなって両親を殺害した。

あきれるほど簡単な脚本。
そしてそれに気づかなかったのは。

(誰でもない、私……)

エマはその場に静かに泣き崩れた。
0206名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/02(火) 01:47:03.10ID:g+kF14AY
(そうだ、侑ちゃん……。
侑ちゃんは……?)

ひとしきり泣いた後で、エマは自分より先にこの場に来たはずの娘のことを思い出す。
少し考えれば、彼女が今何をしているのかはすぐに分かった。

侑は歩夢を探しているに違いない。
連絡がつかないのも港区中を走り回っているからだろう。

無理もない。侑と歩夢は幼馴染だ。
ショックで連絡する約束すら彼女の頭からは抜け落ちている筈だ。
先程までこの場で泣き崩れていたエマのように。
0207名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/02(火) 01:47:38.30ID:g+kF14AY
(こんなことしてる場合じゃない……!)

今の歩夢は非常に危険な状況だ。
人肉の味を覚えた彼女が高咲侑と出会えばどうなるか……。
エマは立ち上がり、部屋を出ようと振り返る。

その時だった。
0208名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/02(火) 02:04:32.54ID:g+kF14AY
「あら。
丁度来てたんですね。探す手間が省けました」

見知った声がした。

「わざわざ日曜日に鎌倉からやってきた甲斐があるというもの。
……ええ。こんな面白い舞台はやはり生で観劇しなくては」

声がどんどん近づいてくる。

「どうです?
私の描いた脚本(シナリオ)は」

そう言って、可憐な少女が部屋の中に入ってきた。
大きなリボンで纏めた黒い髪を靡かせ、清楚な青いワンピ―スで身を包んでいる。

それはエマのよく見知った同好会の友人。
桜坂しずくだった。

「ああ、美しき聖女よ。
穢れを知らぬ身体を罪悪と快楽に浸し、底なき六情の渦に犯され吞まれたまえ___!」

酷く冒涜的な宣言の後、しずくは両手を広げる。

禍々しい赤黒い雷が迸った後、彼女は装いを変えた。
長くの伸びた爪、刃のように鋭くなった牙。
大胆に胸元をさらけ出す紫のエンパイアライン。
その上に黒い外套を羽織り、凡百の吸血鬼どもとの格の違いを主張するかの如く優雅にたなびかせている。
そして瞳には、誰よりも強く煌めかせる赤い真珠が二つ。

「さあ、まつろわぬ者どもの宴を始めましょう」

しずくの姿を借りて、”最古の魔王”の一人が復活の産声を上げる。
0209名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/02(火) 02:05:06.03ID:g+kF14AY
今日はここまでです。
おやすみなさい。
0212名無しで叶える物語(たこやき)
垢版 |
2021/02/02(火) 07:18:01.53ID:4/6r9YG8
しずくちゃんが歩夢を吸血鬼にした黒幕的な吸血鬼だったのか、それともしずくちゃんもそれの被害者なのか
0215名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/03(水) 01:08:04.26ID:y/fnK5CT
すみません。
今日は保守代わりに1レスだけ投稿します。
0216名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/03(水) 01:09:54.52ID:y/fnK5CT
_____それは古の魔王の再演。
滅びたる災厄の残滓。

数十年前、関東近郊の地方都市のこと。
”祖”と呼ばれる現象が敗れ去った。

しかし、それでも。
大本の吸血鬼の姿を喪失していながら、現象としての構成要素のほぼすべてを消失していながら。
人々の恐れを元に顕現する”タタリ”は完全には死滅していなかった。

意志も理想もなく、取るに足らない悪性情報の塊に凋落しながら、
噂の贄となる人間を求め何十年もかけてこの虹ヶ咲にやってきた。

桜坂しずくはこの呪いによって選ばれた憐れなる依り代。
彼女は魂を汚染され、反転させる。
そしてその悪性を自らの力に変えた。
不安や恐怖を具現化させる能力と、与えられた役を演じる才能が溶け合った。

そしてその力を以って彼女の”起源”は立ち返る。
かつて現象の核であった死徒さえも超え、都市を喰らい人理をも喰らう黙示録の獣。
全ての忌み憎まれる者たちの母、マザーハーロットに。
0220名無しで叶える物語(鮒寿司)
垢版 |
2021/02/03(水) 08:36:33.62ID:zTuAar9G
ヨハネ黙示録でローマを皮肉って書かれた大淫婦バビロンを、アトラスが売春婦の母で直訳したのがマザーハーロットやで
0222名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/04(木) 00:21:14.08ID:vgLXVXco
今日は一旦お休みします。
明後日から春休みなので頑張ります。
0223名無しで叶える物語(茸)
垢版 |
2021/02/04(木) 00:56:39.35ID:KAvXjh1a
>>222
おう、楽しみにしとるで
無理して身体を壊さんといてな
0225名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/04(木) 23:12:11.27ID:vgLXVXco
エマはもしこの事件の黒幕にあったなら、
自分は怒りで我を忘れてしまうだろうと思っていた。
ところがどうだ。

いざ主犯を目にしてみれば、彼女は身動きを取らず口を開けて呆然と立ち尽くしている。

闇しずく「ふふっ。そんな顔、まるで狸に化かされたかのよう」

しずくは口に手を当てクスリと笑った。

エマ「ありえない」

エマはやっとのことでそんな言葉を口にした。

闇しずく「ありえない、なんてことはあり得ません。
歩夢さんもその身を怪物へと堕とし、今は侑さんも道を踏み外そうとしている」
0226名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/04(木) 23:12:58.81ID:vgLXVXco
しずくはエマを指さした。

闇しずく「エマさんだってそう。
一般人では起こさない奇跡を起こし、あり得ざる力を振るっているではありませんか。それなのに、どうして私は普通でまともだと思い込んでいるのでしょう。
己の想像力の貧困さを、他人に押し付けるのは良くありませんよ?」。

最後にこう付け加えて、しずくは心底おかしそうにクスクス笑った。

闇しずく「あまり皮肉っぽなり過ぎてもいけませんね。
……力の本となった人物の影響でしょうか?」

エマ「質問は一つだよ、しずくちゃん」

エマはしずくの言葉を遮る。

エマ「あなたは一体誰なの?」
0227名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/04(木) 23:14:57.01ID:vgLXVXco
闇しずく「私、ですか?桜坂しずくですよ」

エマ「私が聞いてるのはそんなことじゃないよ」

しずくが身にまとう圧は尋常ではない。
妖気、とでもいえば良いのだろうか。
少女とは思えない程の重厚な威厳とほのかに混じる色香が、
脳髄を麻痺させるような感覚にさせる。
人外の魅了にエマは戸惑っていた。

闇しずく「まあ、なにを聞きたいかは本当は分かっていますけどね。
わたしがどうしてこの姿をとっているか知りたいのでしょう?
……ええ、この姿で出会うのは初めてですもの。
では今一度名乗らせて頂きましょう」

しずくは該当を翻し、ドレスの裾を摘まんで恭しく一礼した。

「お初にお目にかかります、エマ・ヴェルデ様。
我は死徒27祖第13位”タタリ”が後継、字を桜坂しずくと申すもの。
救世主を否定したる大情婦バビロン(マザーハーロット)の再演者にございます」
0228名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/04(木) 23:16:56.96ID:vgLXVXco
「死徒27祖……」

エマが呟いた。

死徒は吸血鬼の一種に属するもの。
二十七祖はその死徒の中でも”魔王”クラスに力を持った者達の総称だ。

エマ「それはおかしい。
二十七祖は白翼と月蝕姫の戦争によって大半が自滅した。
僅かな生き残りも真祖と魔眼の少年に滅ぼされている。
現在在籍しているのは”霊長の殺人者”、”極限の単独種”、”魔道元帥”の三人だけ。
前者二人は吸血行為を真似るだけで死徒ですらなく、後者はこの並行世界には数十年近く現れていない。
しずくちゃん、あなたが祖であるはずがない」

闇しずく「確かに現在二十七祖に生き残りはいない。
今を生きる死徒に強力なものはおらず、
教会ばかりか他の種族の吸血鬼からも狩られる餌でしかない。
事実、私も直接死徒に血を吸われたわけではありません」

ですが、としずくは付け加えた。

「何事も例外は存在する」
0229名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/04(木) 23:18:19.36ID:vgLXVXco
闇しずく「私を死徒にした祖は少々特殊でして。
形を持たぬ死徒”タタリ”は日本にて顕現し、そして敗れた。
彼の構成要素の大半はその場で消え失せましたが、
残留思念と呼ぶべきものが僅かにこの世界に踏みとどまった」

エマ「タタリ……。
人々の噂を元に一夜の惨劇を起こす現象だね。
……その死徒としずくちゃんに何の関係が?」

闇しずく「タタリの残滓はこの港区に時間をかけて移動し、
力の行先として一人の少女を選んだんです」

エマ「それがしずくちゃんなの……」

その通りです、と彼女は微笑んだ。

「そうか。あなたは直接血を吸われたんじゃない。
タタリの一欠けらによって魂を汚された、言わば感染者に近いわけだ」

そこで、エマは懐から黒鍵と『ジャッカル』を取り出す。
0230名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/04(木) 23:19:21.12ID:vgLXVXco
「でもその方法じゃ中身に比べて、
肉体は吸血鬼化に追いついていないでしょう?
あなたの身体能力は魔王のそれよりは劣るはず」

そう言ってエマは剣と弾丸を、しずくの四肢に向けて同時に放った。
強靭な威力をもって射出されるそれは、か細い少女の手足をたやすく粉砕する。

筈だった。

「ダメですよ、手加減しては。
狙うなら私の胸を、心の臓を狙わないと」
0231名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/04(木) 23:20:38.95ID:vgLXVXco
秒と掛からず到達するはずのそれは、
けれど徐々に速度を落とし、しずくの目の前で空中にぴたりと止まった。

「それに話はまだ終わってません。
そんなに速すぎる展開は舞台を台無しにするものです」

どうして?
いや、それは構わない。
通じないなら二の矢、三の矢を放ち、弱らせた所で経典による詠唱を叩き込むのみだ。
恐らく歩夢と違い、しずくの肉体はまだ人間のそれに近い。
うまくいけば魂だけを浄化し、彼女を救い出せる可能性もある。

そう思ってエマが拳銃を構えなおしたところで、彼女は己の身体の異変に気付く。

(身体が動かない……⁉)

しずくはゆっくりとエマに歩み寄った。
0232名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/04(木) 23:22:11.63ID:vgLXVXco
一旦区切ります。
0233名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/02/05(金) 00:04:19.49ID:s+hWNk7o
検索したらTYPE-MOONが元ネタなのかな。全然詳しくないから一通り読んでみたけどすごいたくさんあるんだね
0235名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/05(金) 00:21:44.56ID:9+Gw8Qhx
タタリの詳細な能力については以下のサイトを参照してくれると嬉しいです。
恥ずかしながら、ぶっちゃけ僕も文章では説明しきれません。

https://typemoon.wiki.cre.jp/wiki/タタリ%EF%BC%8Fワラキアの夜

このキャラが当ssに直接登場することはありませんが、しずくちゃんの演劇キャラと相性が良さそうなので能力とセリフを拝借させて頂きます。
0236名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/02/05(金) 00:29:38.73ID:s+hWNk7o
元は人類滅亡を防ごうとしてた善人?なんだね。というか男なんだな。中身はしずく君なのか
噂をする人がいれば滅びないというのは妖魔夜行の妖怪の設定にもあったな
0237名無しで叶える物語(茸)
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2021/02/05(金) 00:50:11.92ID:/Wwrbpf7
まあ型月ファンでも27祖の設定まで把握してるのは少数派だからへーきへーき
0239名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/05(金) 22:25:06.03ID:9+Gw8Qhx
「それにしても酷すぎます。
会話の最中にいきなり攻撃してくるなんて」

エマは身体を動かすことも、声を上げることも出来なかった。
ただ一つ出来ることは悠然と歩み寄るしずくを眺めるだけ。
回避も攻撃も出来ず、ありのままで無防備な姿を晒していた。

やがてしずくがエマの目の前に立つ。
彼女は拳銃を握っている右腕にそっと手を置き、ゆっくりと降ろさせる。
うんともすんともしなかったエマの身体は、
まるで服従をみとめるかの如くしずくに従った。

「でも普段よりも凛として引き締まった横顔、素敵ですよ」

この部屋には二人を除いて息をしている者はいない。
それなのにエマだけに聞かせるように、しずくは耳元でそっと囁いた。

その行為がエマの心を搔き乱す。
友人であっても、今の彼女は敵であり悪魔だ。
そんなことは百も承知。

それでもエマは彼女に足して魅力を感じずにはいられなかった。
……吸血鬼を狩る修道女でありながら‼
0240名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/05(金) 22:26:22.95ID:9+Gw8Qhx
「私を見て」

しずくは肩にそっと手を回し、頬にそっと触れる。
エマの身体より小柄な少女が上目遣いに赤い瞳を向け、見開く。

身体が自由に動かせない状況だが、
エマはそれだけではない理由で目を離せなくなっていた。

「無駄な争いはやめて、お互い建設的な関係を築きませんか?」

事実上、拒否権はない。
聖女と悪魔。
弱者と強者。
道徳と背徳。
二項対立だが、立場が弱いの方は誰の目にも明らか。
もとより身動きが取れない状況ではその身を相手に委ねるほか道はない。
0241名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/05(金) 22:29:34.53ID:9+Gw8Qhx
朱い瞳がぐんと近づく。彼女がつま先をのばしたからだ。
甘い吐息が肌に触れる。

それで彼女が何をしようとしているかは、エマにも直感的に感じられた。

(信じられない。
私を吸血鬼にするつもりだ)

しずくが目を瞑る。
整った顔立ち。
その頬にはまるで初恋を知った少女のように、うっすらと赤みがさしている。

そんな魔性に、エマの心は容易く支配された。

(それも、悪く…ないのかな……)

そして、二人の唇が触れ合った。
清楚かつ淫靡に。
少女達の口づけは穏やかだが大胆に行われた
0243名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/02/06(土) 00:35:54.82ID:IGLjl55C
しずくちゃんにとりついてるのはそんなに強いんだ。設定見てもすごく強そうだしな。でもエマさんやられたら話終わっちゃう
0246名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/07(日) 02:11:01.21ID:GAFl2sPj
口づけは刹那のうちに行われた。
瞬きする間に二人の唇の位置は元の場所に戻っている。
けれどエマは柔らかく甘い口唇の後味が残り続けた。

視線は見つめったまま離さない。
紅い瞳の中央は獣のように切れ長な瞳孔が居座っているのに、
虹彩は揺れていて憂いを帯びているように見える。

それは獲物を狙うようでいて、思い人に哀願するような二面性。
淫らでありながら清楚。

それが自ら情婦を名乗ったしずくの本性なのかもしれない。
0247名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/07(日) 02:12:10.71ID:GAFl2sPj
「これでも、私。
本当に同好会の皆さんのことは大切に思っているんです」

彼女の透き通るような美声は、情動に激しく訴えかける。
エマは耳を塞ぎたくなった。
きっと彼女の願いを聞いてしまえば、
それを断ることは出来なくなってしまうから。

だが、繰り返すが今のエマに拒否権はない。

「どうかお願いします。
これまでの自分を捨てて、私と同じ吸血鬼になって下さい」

淫魔は一途な告白をぶちまけた。
0248名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/07(日) 02:13:21.61ID:GAFl2sPj
それでエマの頭は真っ白になる。
こみ上げるのは愛情という名の欲望。
魂すら感応させる”魅了”に彼女は囚われた。

しずくがエマの身体をそっと抱きしめる。
優しく包み込むようで、その実絶対に逃がさないという意志表示。

「今ここで、エマさんにお返事を貰いたいです」

互いの柔らかな胸が押し合い、脚の間に片足を滑り込ませ、首元に唇を近づけた。
そしてため息にも近い、ふうという息遣い。
くすぐられた首筋を起点に、官能的な解感が全身を駆け巡る。
0249名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/07(日) 02:14:23.59ID:GAFl2sPj
「んあ」

エマは驚いた。
口が自由に動かせるようになったことではなく、己の声の色気に。
そして否応なしにしずくの魅力に、己の心が屈服しているのに気付かされる。

倍速に胸打つ鼓動、平時の半分以下に麻痺した思考。
それらすべてがエマに囁きかける。しずくに委ねてしまえと。

「私を吸血鬼に」

してください。
そう言い終える土壇場。

しずくの身体が弾き飛ばされた。
0250名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/02/07(日) 08:19:38.70ID:laoJFCBJ
吸血鬼と戦ってるのはエマさんだけじゃないっぽいから他の誰かが加勢に来たのかな
同好会ならエマさんも気付きそうだから他グループの子かな
0252名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/08(月) 01:28:39.72ID:vpyOXlez
「きゃ⁉」

吹き飛ばされたしずくが短い悲鳴とともに倒れ込む。
同時に空中に留まっていた弾丸と黒鍵が転げ落ちた。
そして麻痺していたエマの理性が戻り、身体も動かせるようになった。

「……っつ。
一体何なんですか」

しずくは心底忌々し気にエマを睨みつけた。
その疑問は至極当然のもの。

しかしエマには心当たりがあった。
0253名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/08(月) 01:29:47.90ID:vpyOXlez
「そっか。聖骸布が守ってくれたんだ」

今朝調達した聖骸布は模造品とは言え、その効果には目を見張るものがある。

「しずくちゃん、私に”魅了”の呪いをかけたね?
それも特級の」

懐にしまっていたそれは、呪いに対して絶大な効力を発揮する。
いつの間にか魅入られていたエマを、外道に堕ちる寸前に救ってくれたのだろう。

「……残念。
ばれてしまいましたか。
どうでした、私の魔眼の味は?」

しずくは紅玉を蘭々と輝かせながら尋ねた。
エマの額に冷汗が滲む。

「恐ろしいよ、本当に」

それは偽ざる本心だった。
0254名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/08(月) 01:31:57.74ID:vpyOXlez
「高位の魅了の魔眼は視界に入った者を石化させる程強力と聞くけど、
しずくちゃんのはそれを遥かに上回ってる。
何せ物の時間を止めちゃうんだから」

しずくの呪いは極めて単純。
彼女に見初められた対象の心を奪い、動きを止めるだけだ。

だが、彼女の魔眼は通常のそれと格が違う。
彼女と一度目を合わせれば、虫、植物、動物、人間、生きとし生ける物全てが呼吸を忘れ、
一生をかけて積み上げてきた己さえも忘却する。

そしてそれは『世界』さえも例外にならない。
瞳の奥の魔性に魅せられ、
時間さえも一時の間立ち止まり、彼女の立ち姿に見惚れるのだ。

それは”魅了”を極めたが故の時間停止。

桜坂しずくは原理こそ異なれど、
数十年前エジプトに復活した吸血鬼と同じ領域に到達している_____‼
0255名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/08(月) 01:33:51.89ID:vpyOXlez
「13位の能力は人々の恐れを具現化させるもの。
例え全盛期の彼でも、時間停止なんて魔法じみた法外な能力は持ってなかったはず。
どうしてしずくちゃんがそんなものを使えるの?」

「決まっているじゃないですか。
先程も言った通り、私は”タタリ”を手にしました。
この魔眼もその力にて再現したものです」

「ありえない。
火のないところに煙は立たぬ、はこの国の諺だよね?
タタリによって力を手にするには、まずそれに見合うだけの噂や悪口、
都市伝説なんかの悪性情報がいる。
真面目なしずくちゃんに悪い噂なんて……」

「ありますよ。私に関する悪い噂」

しずくは笑った。
0256名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/08(月) 01:34:42.38ID:vpyOXlez
「『声がエッチ』、『お尻が大きい』、『胸を逆サバしてる』」

総じて、

「『桜坂しずくはいやらしい』」
0257名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/02/08(月) 01:36:18.25ID:efUhTZ84
きてた。誰かが助けたわけじゃなくて、準備してた装備が機能したのか。しずくちゃんはもう大女優ってレベルじゃないな
0259名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/08(月) 01:38:43.48ID:vpyOXlez
しずくは同好会の中でも上位を争うほどの人気を誇るスクールアイドルだ。
彼女は少女らしい清楚さ、可憐さ、ひたむきさで支持を集めている。

支持を集めているからこそ、彼女にはファンたちの薄暗い欲望も集めてしまう。
清らかな少女が淫らだと興奮する。
転じて、この少女はいやらしいに違いない。

そんな根も葉もない悪性情報(噂)によってタタリが生み出してしまった無辜の怪物。
人々によっていやらしくあれ、と願われたこの世すべての欲の終点。

それが吸血鬼しずくの正体だ。

「『しずくちゃんはエッチ』という噂、
降臨した地域の人間を皆殺しにする現象タタリの性質、そして大女優としての才能。
それらすべてが、しずくちゃんにマザーハーロットという役に押し付けてしまったんだね。
あれはいやらしいものの究極だから」

「ええ、そうです。
この魔眼も大淫婦を演じた結果としてついてきたもの。
私、バビロンが持っていた能力を一部とは言え再演で出来るんです」
0261名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/08(月) 01:40:19.19ID:vpyOXlez
今日はここまでにします
0262名無しで叶える物語(たこやき)
垢版 |
2021/02/08(月) 01:43:32.27ID:efUhTZ84
妖魔夜行っていう作品では結構ふざけた噂や都市伝説でも妖魔になってるしギャグネタというわけでもない気もする
0265名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/09(火) 01:21:34.81ID:tQKjl4s9
「だけどしずくちゃん。
一部を再現できると言ったけど、
それって全部の能力を使えるわけじゃないってことだよね?」

「……」

「魅了の魔眼もそう。
時間停止は強力だけど完璧じゃない。
原理は呪いだから解呪効果のある道具で対処できる。
例えば幽波紋『世界』ならこうはいかないはずだよ」

「……さすがの慧眼ですね。おっしゃる通りです」

しずくは素直に白状した。
0266名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/09(火) 01:22:17.81ID:tQKjl4s9
「今の私には魔眼も、その他の能力も穴が多い。
動ける者と止める物を区別できるという利点もあるんですけどね。
先程だってエマさんの思考を完全には止めなかったでしょう?」

「細かい理屈は良いよ。
重要なのはしずくちゃんがまだ魔王として”羽化”前だということ。
悪いけど」

エマは黒鍵を一本取り出し、

「ここで倒れてもらう‼」

渾身の力でそれを投げつけた。
0267名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/09(火) 01:23:25.53ID:tQKjl4s9
全力での投擲。けれどそれは詠唱へと繋げるための牽制に過ぎない。
エマは急いで補助聖書を取り出して、

「え?」

目の前の光景に困惑した。

「……フフ」

回避も迎撃もせず、しずくは己の心臓で黒鍵を受け止めた。
剣は彼女の身体を容易く貫き、血のせせらぎを垂れ流した。

そんなことも意に介さず、しずくは口元を歪ませる。
0268名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/09(火) 01:24:24.77ID:tQKjl4s9
おぞましい哄笑。
それを聞いてエマは”トラップ”を悟った。
だがもう遅い。

「魂魄ノ華ハ爛ト枯レ、
杯ノ蜜ハ腐乱ト成熟ヲ謳イ例外ナク全テニ配給、
嗚呼、是即無価値ニ候………!!」

早口で捲し立て、ひとしきり笑い終えた後でしずくはエマに問いかけた。

「私が、なんの準備もなくここにくるとでも思いましたか?」
0269名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/09(火) 01:26:03.54ID:tQKjl4s9
しずくの心臓に黒いしみが生まれる。
それはやがて空間へと伝染し、暗闇が広がる。

「ここへは様子見と交渉にきましたが、吸血鬼にならないのであれば仕方ありません。
しばらくここで足止めさせて貰います」

愉悦を含んだ言葉が響く。

「この身体は分身です。
そして破壊されたときに作動する罠がしかけてある、ね」

(これはまずい……⁉)

エマは急いで窓をたたき割り、外へ飛び出そうとした。
しかし一手遅い。
彼女の視界は黒に覆われた。

「これは対象を封印する結界です。
エマさんならいずれ抜け出せるでしょうが、それでも半日はかかるでしょうね?」

暗闇の中、しずくの笑い声だけがいやに響いた。
0271名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/02/09(火) 07:14:30.94ID:EuI1Ld9T
閉じ込められてる間にますます被害拡大しそうだからしずくちゃんはもう倒されるしかなさそうか。多分歩夢も。エマさんもつらいな
0272名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/10(水) 00:25:39.88ID:bPrsXDn3
すみません
今日はちょっと休みます
0277名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/11(木) 01:52:18.93ID:fXfctyI3
____同日・18時頃

港区の歓楽街の外れを男は走っていた。
彼の出で立ちはかなり派手で、髪を金色に染め上げている。
アロハシャツに緩めのズボン、女の子に貢がせた銀色のネックレスを身に着けていた。

「いきなり土砂降りかよ」

舌打ちしながら男は雨宿り出来る場所を探す。
この日は男にとって散々な日だった。
気分転換にいつもとは違うエリアでナンパをしていたのだが、収穫はゼロ。
おまけに常備しているタバコと麻薬も今日に限って忘れていた。
0278名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/11(木) 01:53:14.34ID:fXfctyI3
性欲のはけ口が見つからないこと、何かを吸いたい衝動、
季節外れの豪雨で男の苛立ちは頂点に達する。

「クソが‼」

やり場のない怒りを路地に置いてあるゴミ箱にぶつける。
けり上げられたそれは道路に中身をぶちまけた。

こんな男に好き好んで声をかける者はいないだろう。
触らぬ神に祟りなし。
下手に接触して乱暴されたのではたまったものではない。

だから、

「すみません」

その時可愛らしい声がするのは異常だった。
0279名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/11(木) 01:56:45.65ID:fXfctyI3
彼女たちを一目見ただけで男の苛立ちは収まった。

一人はピンク色の髪をした少女。
肩が出て、太ももまでしか丈のないネグリジェがこの雨で体に張り付き、
薄く柔肌を透かしている。

もう一人は黒髪のツインテールで、毛先だけがが緑に染まっている特徴的だ。
彼女らが高校生であろうことは、この少女の制服で理解できた。
彼女は桃色の髪の少女に背負われ、死んだように眠りこけている。

いずれにせよ上玉。
このレベルの娘は滅多にお目にかかれない。
男は股間の当たりが熱くなるのを感じた。

「助けてくれませんか?」

少女はか細い声を震わせた。
0280名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/11(木) 01:58:13.63ID:fXfctyI3
「ごめんね。見苦しいところ見せちゃったよね」

出来るだけ相手に警戒心を抱かせないように、男は優しく言った。

「さっき彼女にふられちゃったんだ。
だからどうしても苛立って……」

もちろん嘘。
ナンパしている相手の同情を引くための常套句。
男は彼女たちをどうやって連れ込むかを考えていた。
だから聞かれてもいないことをペラペラと捲し立てる。

「助けてほしいって、雨宿りできる場所を探してるのかな?
僕も丁度そこに向かってるところなんだ。
背負ってる彼女も寒そうだし、よかったら一緒にどう?」
0281名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/11(木) 01:59:04.19ID:fXfctyI3
まあ断っても連れていくんだけどな、と彼は心の中でつぶやいた。
男は麻薬をやっているだけあって、窃盗や強姦の経験も一度や二度ではなかった。
さすがに二人を拉致するとなると骨が折れるが、不可能ではないだろう。

「……」

少女は黙ってうなずいた。
簡単に彼女たちが手に入ったことに拍子抜けするが、
やれる喜びですぐにそんな思いは消え去った。

「じゃあいこうか」

彼らは狭い路地裏のほうへと消えていった。
0282名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/11(木) 02:00:51.63ID:fXfctyI3
____廃ビル

男は誰も使っていないビルを見つけ、その中に入って行った。
少女も彼に付いていく。

男は彼女たちとどうセックスするかで頭がいっぱいだった。
こんな煽情的な身体で声をかけてくること自体、
男は彼女らが誘っているようにしか見えなかったし、今ものこのこと間抜けに後ろを歩いている。

レイプしてもし騒いでも殴って黙らせればいい。
今ここで適当に犯している姿を写真で取り、脅して家に連れ込もう。
薬漬けにしてセフレに出来れば万々歳だ。

そこまで男は考えていた。

そうと決まれば二人の内どちらを先に犯すか。
どちらかと言えば黒髪のほうが好みだと男は思った。

ツインテールの彼女に手をのばして、

「この子に触らないで」

どす黒い殺意のこもった視線で睨まれた。
0283名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/11(木) 02:02:08.95ID:fXfctyI3
男は暫く桃色の髪の少女の気迫に圧倒されていた。
その間に彼女は、黒髪の娘を壁に優しくもてれかけさせた。

「なーにマジになってんだよ」

嘲笑と僅かに恐れを含んだ声で男は喋りかけた。

「お前らのほうから誘ってきたんだろ。
どうせ援交かなんかをするつもりで声をかけたんだろうが」

拒絶された苛立ちが徐々に舌に乗っかってくる。

「薄汚い雌犬のくせに何調子に乗ってんだよ。
そうだ、お前が悪いんじゃねぇか。
生意気な奴からさきに分からせてやるぜ!」

男は少女に殴り掛かった。
0284名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/11(木) 02:03:49.40ID:fXfctyI3
すみません。
今日はここまでにします。

やっと半分くらい終わりました。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
0287名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/12(金) 01:26:33.36ID:vODmRKzC
すみません
今日と日曜日はバイト入ってるんで厳しいです。
0290名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/13(土) 01:59:33.32ID:m/pLla3a
容赦なく男が右腕を振るう。
彼の暴力は少女を容易く傷つけ、最低でも口の中を切る筈だった。

だけど彼の拳は彼女には当たらない。
それを訝しんで、今度は左腕を繰り出す。
だが二度目の攻撃も空振りに終わった。

おかしな偶然の連続に男は戸惑って、自分の身体を顧みる。
そこでやっと、

「ぎゃああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

自分の両腕のないことに気が付いた。
0291名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/13(土) 02:00:52.14ID:m/pLla3a
「私、分かるよ」

少女が血のような赤い瞳を輝かせる。
装いは着の身着のままで出てきたようなネグリジェではなく、
中世ヨーロッパの貴族を思わせる紺色の軍服を身にまとっている。

紫がかった黒色の外套を翻し、
大いなるバビロンにも劣らぬ威厳を以って男を見下した。

「お兄さんもこちら側の人間でしょ。
なんとなく理解できるの。
魂の色、臭い、そのどれもが汚れてるのが」

のたうち回る男をよそに、彼女は淡々と語りかけた。

「まぁ、それでも。
罪も穢れも、あなたに似てどれも薄っぺらいかな?」

激痛で意識が淀む中、男が最後に見たものは少女の嗤笑。
三日月に開いた唇から覗く牙が、生贄の喉ぼとけに突き刺さった。
0292名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/13(土) 02:02:04.93ID:m/pLla3a
不味い。
一言感想を口にするとすれば、その言葉以外浮かばなかった。

幼馴染の、高咲侑の血液とはまるで違う。
彼女の鮮血は舌触りがよく、のど越しも爽やかで、味わいも蜜のように甘い。

対してこの男の物はどうか。
彼が歩んできた下らない人生を物語るかのように、下品で低俗な食味。

似たような人間を既に十余名程襲っては血を飲み干しているが、
誰も彼も味付けは汚らしかった。

数十リットルあるすべての水分を吸いつくされた男は、
ミイラのように干からびて元の大きさの三分の一程度に縮こまっている。
歩夢がつま先でコツンと転がすと、その場に砂のように崩れ去った。

「最後まで味気ない」

つまらない映画でも観たかのように、彼女は呟いた。
0293名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/13(土) 02:03:24.40ID:m/pLla3a
正直なところ、歩夢はこの食事に嫌気がさしていた。
彼ら彼女らから摂取する血液や人肉はあまりに不味い。

犬畜生よりは幾分ましだったが、何人も繰り返していては飽きも来る。
そもそも初めに味わった人の血が侑の物だったのも良くなかったのだろう。
彼女の味が格別過ぎて、他人の血を味わう楽しみは歩夢には生まれなかった。

それでも歩夢には血を奪わなくてはならない理由がある。
侑を吸血鬼として蘇生させるため、
彼女は一刻も早く強力な吸血鬼になりたかったからだ。

(そろそろかな)

歩夢の中で、血を通して吸い取った”魂”が純粋な”力”に変換される。

その力を分け与えるため、彼女は壁にもたれている侑のそばに膝を付き、
顎をそっと持ち上げた。
0294名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/13(土) 02:04:38.58ID:m/pLla3a
(ごめんね、侑ちゃん)

もう何度になるかわからない謝罪をもう一度繰り返し、唇を重ねた。
間違っても牙で傷つけないように、
血や人肉の残り粕が彼女の中に入り込まないように細心の注意を払って。

ビクンと彼女の身体が痙攣し、虚ろな眼差しを開いた。

「ア…ゆむ……」

けれどそれだけ。
生ける屍となった侑は、吸血鬼として覚醒せず再び眠りについた。

(これでも足りないの……?)

十数回は経験している落胆が、彼女の心を再び覆う。

「ちょっと待っててね」

目覚めないのであれば再び餌を見繕わなければならない。
周囲を確認するために、歩夢は一旦建物を出た。
0295名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/13(土) 02:05:29.02ID:m/pLla3a
空は相変わらずの雨模様。
秋の夜の空気と、荒れた天気で冷え込んだ空気が肌に突き刺さる。

鉛の空に稲妻が迸って、

「随分派手にやっていますね」

光と雨だれが不自然に静止した。

視線の先には友人で後輩の少女が一人、ドレスとマントを身にまとって屹立している。
この時初めて、歩夢は元凶(しずく)と相対した。
0296名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/02/13(土) 07:11:44.80ID:7jGaNrdG
同好会とかで顔を合わせてた時は歩夢の方は気が付いてなかったのかな。しずくちゃんの方がずっと格上っぽいし
0298名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/13(土) 22:40:18.07ID:m/pLla3a
「しずくちゃん……」

歩夢はこの時直感で、自分の身に起きる不可解な事件の犯人が彼女だということを察した。

「それにしても、ふふっ。
一日で十四人はさすがにやりすぎでは?」

しずくは上品に口元に指をあててほほ笑んだ。

「せっかく一月も我慢していたのに勿体ないですね。
いえ、これだけ長い間耐えてきたからでしょうか。
歩夢さんって自分一人で悩みや問題を抱え込んで、爆発させるタイプでしょう?」

「……ねぇ。どうして私をこんな体にしたの?」

歩夢はしずくの問いかけには答えず、ただ自分の疑問をぶつけた。

「どうしてか?
結論から言うとうっかり手を滑らせてしまったんです」

「……ふざけてるのかな?」

「事実ですよ。
あまりに背中が無防備なのでつい殺しちゃいました。
そのままだとちょっと可哀そうだったので、ついでに吸血鬼にしてあげたんです」

とりとめのない冗談を話すかのように、しずくは言った。
0299名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/13(土) 22:41:33.50ID:m/pLla3a
「それにしても、先輩がいなくなった時の侑さんはすごかったですよ。
歩夢さんにも見せてあげたかったです。
三日三晩食事も睡眠もとらずにみるみるやせ細って、
挙句のはてには学校まで放り出して探し回って。
惨めすぎるほど必死でかわい____」

しずくの言葉はそこで途切れた。
歩夢が全力をこめて、鼻柱を思い切り殴ったからだ。

生まれてから一度も、吸血鬼になった後でさえこれ程の激情を覚えたことはなかった。
ただの気まぐれで殺されたこと、親友で今は恋人の侑への侮辱で歩夢の怒りは頂点に達していた。

「痛い痛い……」

鼻血をたらしながら、半笑いでしずくは起き上がる。

「暴力はいけません」

顔を再生させながら彼女は言った。
0300名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/13(土) 22:42:27.79ID:m/pLla3a
「酷いことしますね。
女優は顔が命なのに。
舞台に立てなくなったらどうしてくれるんですか?」

「関係ない。
悪いけど、しずくちゃん。ここで死んで」

胸倉を掴み、横面を思い切り殴りつけ、鳩尾を膝で何度もけり倒す。
吸血鬼には再生能力があるのでどれも致命傷には至らない。

だが歩夢にとって、そんなことはどうでもよかった。
死に至らしめるまで何度も際限のない暴力を続ける気でいた。
0301名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/13(土) 22:44:03.48ID:m/pLla3a
「ぐ……。
おえっ……。
ふふっ、ははははは。
私のことが許せませんか?」

「黙って」

歩夢はしずくの頭を思い切り蹴りつける。
それでも彼女の言葉は止まらない。

「ぎゃっ……。
……今更正義漢を気取るつもりで?
私と同類の人食いの分際で」

「うるさい」

「ぐえっ……。
吸血鬼というのは、三日土に埋めた程度ではなれません。
普通は数年かかります。
にも関わらずあなたは驚くほどの短期間で覚醒した」

「うるさい、黙れ‼」
0302名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/13(土) 22:45:18.79ID:m/pLla3a
「分かっているでしょう?
あなたには元から備わっていたんです。
怪物としての素質が。
鏡を見てごらんなさい。
私などでは及びもせぬ、おぞましい悪鬼に会える」

なんとかしずくの口を黙らせようと、歩夢が渾身の力で拳を振るう。
頭蓋の中の脳漿をはじけ飛ばせてもなお、しずくは喋り続けた。

「かわいそうですね、侑先輩。
こんな化け物が幼馴染で。
あなたさえいなければ、きっと幸せに平穏に、人間のまま安らかに暮らせたのに」

「黙れ。黙れ黙れええええええ‼!!!!!!!!!!!!!」
0303名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/02/13(土) 23:48:38.28ID:7jGaNrdG
つづきが。歩夢は黒幕がしずくって知らなかったんだね。この感じだとしずくの方が
はるかに格上みたいだから隠すのも簡単だったのかな
0308名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/15(月) 22:10:31.17ID:j8dKYIqD
すみません
ちょっと文章作りが難航してるので今日投稿できないかもです
0309名無しで叶える物語(もんじゃ)
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2021/02/15(月) 22:15:23.76ID:BBcoy5Vx
もうしずくはまともな死に方できんなあこれは
0310名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/02/15(月) 22:21:02.30ID:84pp9Mx+
納得いくまで推敲してください

>>309
歩夢も両親と14人も殺してたらもうダメそうだし、あとは侑ちゃんの救済が可能かどうかだろうね
0313名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/16(火) 23:17:17.28ID:Ce7d+LKR
「はぁ……はぁ……」

「分からない人ですね。無駄なことだと理解してるでしょうに」

荒い息で歩夢は殴り続けていた。
しずくはそれを受け続ける。

一方的なリンチのように見えて実態は真逆。
殴りつかれている歩夢に対して、しずくは心身共に余裕があった。

「私と契約しませんか」
0314名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/16(火) 23:18:34.36ID:Ce7d+LKR
しずくがそう持ち掛けたのは20分過ぎてからだ。

歩夢は相変わらず黙って暴力を振るったが、無関心ではない様子だった。
事実先程の発言で数秒動きが止まった。

それを見抜き、踏まえた上でしずくは畳みかける。

「私が侑さんを起こしてあげましょうか?」

哀しきかな、その発言に歩夢の心は完全に絡めとられてしまった。
冷静であれば、彼女が提案する契約がろくでもない内容なことくらい気が付いただろう。

だが今の歩夢は血が上っていて、なおかつ侑は最優先事項だ。
だからうかつに聞き返してしまう。

「契約ってどんな?」
0315名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/16(火) 23:19:26.89ID:Ce7d+LKR
「まずは侑さんの状況を知る必要があります。
合わせてください」

「ダメに決まってるよね。
人を気軽に殺せる人を侑ちゃんに会わせるわけないでしょう?」

「それはお互い様では?」

歩夢が再度拳を握りしめる。

「ごめんなさい。
茶化した私が悪かったです。
話を進めさせて下さい。」

しずくは大げさに両手を上げてそれを制止させた。
0316名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/16(火) 23:21:20.67ID:Ce7d+LKR
「でもまぁ、実際気軽って言うのは半分合っていて、半分間違っています。
適当にすれ違った人間や動物はそれこそ適当に殺すことにしてますが、先輩は違います。
血を吸って殺したのは今のところ歩夢さんだけですよ」

それが特別な意味であることは歩夢にも理解できた。
吸血鬼が吸血して殺すのは、眷属を増やす意味合いがある。

数時間前、歩夢も侑に対してした行為がそれだ。
しかしそうだとしても落ちない点がいくつかある。
歩夢は尋ねた。

「その意味合いなら私より、かすみちゃんの方が……」

「ええ、言いたいことは分かります。
ですから同好会の皆さんは全員吸血鬼にするつもりです。
……それに私、メインディッシュは残しておく主義なんです。
彼女は一番最後に、犯しながら殺します」

しずくがニタリと笑う。

「無防備だったから後ろからつい手を滑らせたって」

「一番確実で好機だったので。
それに歩夢さんと侑さんは私の天敵なんです。
だから初めに殺しました」
0317名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/16(火) 23:22:21.40ID:Ce7d+LKR
「天敵?」

「周りを見てください」

歩夢が辺りを見渡す。
会った時と同じように雷は大地に落ちず、雨粒は物を濡らさず空中で蹲っていた。

静止した世界に二人はいた。

「もうお察しでしょうが、私の眼には時を止める力があります。
けどそれは先輩達には通じない」

「……どうして?」

「原理が魅了の呪いだからです。
私の時間停止を破れるモノが三つあります。
一つ、聖なる力の加護を宿した者。
二つ、目にもとまらぬ速さで動く物体。
そして最後に、私より強力な魅了の術に、既にかけられている人間です」
0318名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/16(火) 23:24:27.86ID:Ce7d+LKR
「歩夢さんと侑さんは最後に該当します」

「……私も侑ちゃんも普通の家庭で育って、魅了の術なんて持ってないけど」

「いえ。
先輩達は先輩たち同士にしかかけられない、強力な術をお持ちです」

少し考えたが、歩夢には思いあたるものがなかった。

「それって何?」

「愛です」

しずくが即答した。

「は、はあ⁉」

たまらず歩夢は赤面する。
0320名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/16(火) 23:25:43.20ID:Ce7d+LKR
「冗談を言ってる状況じゃ」

「戯れ言ではありませんよ。れっきとした事実です」

しずくはにやけ顔を素面に戻して言った。

「先輩方はお互いを強く愛し合っています。
それはもう私の”魅了”が効かないほど。
普通の愛なら私でも簡単に心を奪えますが、
とびきり強く愛し合っている二人には何回魔眼を発動しても通じませんでした」

大真面目に愛を何度も連呼する彼女を相手に、歩夢は耳を塞ぎたくなった。
これでも歩夢自身、自分の侑に対する思いが恋や愛だと知ったのは吸血鬼になってからだ。
だから第三者に秘めたる思いを指摘されることには慣れてなかった。

「正直な話、大淫婦を名乗るものとして敗北感と屈辱を覚えました。
誇ってください。
あなた方は世界に数人といない、誰にも負けない愛をお持」

「分かった‼
分かったから愛って何度も言うのもうやめて‼」
0321名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/16(火) 23:27:07.32ID:Ce7d+LKR
「それで。
しずくちゃんは、私が時間停止が通用しない相手だから真っ先に狙ったってこと?」

「そうなりますね」

歩夢はしずくの表情を伺う。
出会いがしらのにやけ顔ではなく、大真面目なすまし顔だ。

演技の可能性は無視できないが、嘘は言っていないのではないか。
歩夢はそう思った。
0322名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/16(火) 23:28:20.23ID:Ce7d+LKR
「それで侑さんに会わせてくれますか」

「……」

「疑り深いですね。相思相愛なだけはある」

しずくはマントを翻して、一本の長剣を取り出した。
それで自分の腕を薄皮一枚切り付けて、歩夢に見せる。

「治りませんね?」

事実だった。
歩夢があれだけ攻撃してもすぐに再生した身体が、
今はただ血の雫を滴らせている。
しずくは剣を歩夢に持たせていった。

「不振だとおもったら、これで私の心臓を突き刺してください。
……これで満足ですか?」

完全に信用したわけではないが、現状侑を目覚めさせる手がかりがなく、
事態が硬直しているのは歩夢も分かっていた。
彼女は渋々ながら、しずくを侑の元へ連れて行った。
0323名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/16(火) 23:45:43.94ID:Ce7d+LKR
「やっぱり血を吸ったんですね」

侑の姿を見て、特に驚きもなくしずくは言った。
歩夢はしずくの背後で剣を首筋に当てている。

「それで、なんで侑さんが吸血鬼にならないか分かります?」

「正式な手順を踏んでないから……」

「それだけではありません。
才能です。
丁度歩夢さんの反対ですね。絶望的に吸血鬼になる才能がないんです」

「それって」

「はい。
歩夢さんがこのまま人を食べて強くなり、
力を分け与えたところで彼女が目覚めることはないでしょう」
0324名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/16(火) 23:46:54.15ID:Ce7d+LKR
深い絶望が歩夢の心に影を落とす。
それでは結局、侑を自分の手で殺したのと何も変わらない。
魔道に落ちた自分を、それでも大好きと言ってくれた娘なのに。

「そんな、そんな……」

乾いた口からそんな言葉が漏れた。

「一つ解決策があります」

しずくが言った。

「私が身に着けた能力”タタリ”なら、
噂を媒介に侑さんにあり得ざる形を取らせることも可能でしょう。
すなわち、」

「侑ちゃんを吸血鬼に出来るってこと?」

歩夢はもうしずくに縋るしかなかった。
0325名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/16(火) 23:47:50.87ID:Ce7d+LKR
「お願い!
侑ちゃんをなんとかして‼
同好会のみんなを吸血鬼にするってさっき」

そんな歩夢の言葉をしずくは遮る。

「えぇ、その通りです。
ですが歩夢さんは先程、私に何度も酷いことをしましたよね。
私の能力が通じない人に暴力をされるのは、私も怖いです。
そんな方のお願いをみすみす聞くのは、ねぇ?」

「それは……」

「ですから、契約してください」

「一体何を……」

後ずさる歩夢に、しずくは微笑みかけた。

「私の奴隷になると、そう約束して下さい」
0326名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/16(火) 23:49:23.36ID:Ce7d+LKR
今日はここまでにします。
次回は若干寝取られっぽいことをやるので、耐性のない方は気を付けてください。
0327名無しで叶える物語(茸)
垢版 |
2021/02/16(火) 23:49:33.78ID:y4whgx4a
理由が悲しすぎる
0330名無しで叶える物語(らっきょう)
垢版 |
2021/02/16(火) 23:55:12.17ID:OICjWtFf
もうこの際型月の愉悦神父でもいいからこいつらをなんとかしてくれ〜
あと栞子やランジュもいるんだろうかこの世界
0333名無しで叶える物語(もんじゃ)
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2021/02/17(水) 07:27:32.56ID:a/+Wh3Kn
どこぞのラスボスでもここまでやるのは見たことないぞ...しずくは一体どんな末路を辿るんだ
追いたいけど正直限界だわ これまでありがとな
0336名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/18(木) 00:20:51.53ID:fTCRmBao
すみません。
今日ちょっと更新できないです。
0340名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/19(金) 00:45:37.76ID:L3BJXaF9
「先輩なら決心してくれるって信じてました」

「……いいからさっさと終わらせて」

鉄筋の床の上、二人は侑の前で横たわっている。
しずくが上で、歩夢が下。
上下関係を表すかのように、彼女たちは折り重なっていた。

「つれないんですね」

歩夢の細い顎をクイと持ち上げ、無理やり瞳を合わせる。
常人なら、いや場数を踏んだ聖職者さえも色香に惑わせる紅眼。

だがそれは歩夢には通用しない。
彼女の心には常に愛しき幼馴染がいる。
心に決めたあの子がいる限り、自分の思いは決して揺らぐことはない。

歩夢はそう確信していた。

「契約のために軽いキスとスキンシップ、それで終わりにするって約束したでしょう?
お願いだからはやく終わらせて」

嫌悪感すら滲ませながら、歩夢はしずくに催促した。

「これでも雰囲気を出そうと頑張ってるんですよ?
せっかくだから歩夢さんも愉しんで欲しいです」

しずくは歩夢の軍服の第一ボタンと第二ボタンをはずし、首筋と胸元を露わにした。
ブラがギリギリ見えないところで服をそのままにし、懐から小さい口紅を取り出す。

「侑さんがこれを知ったらどう思うでしょうね?」

青い色をしたその口紅で、歩夢の胸元にハートの形を描いた。
心臓の直近、豊かで柔い胸、心を許した者にのみ許される秘所。

しずくはそこに、己の所有物だと宣告する淫紋を刻んだ。

「ほら侑さんが見せつけてあげましょう」

ふざけないで。
その叫びはしずくの唇に押し潰された。

よりにもよって侑の目の前で、歩夢はキスを奪われた。
0344名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/19(金) 22:40:11.93ID:L3BJXaF9
すみません。
何故か規制かかってレス出来ないです。
クッキー削除したりして対策してますが、投稿できたり出来なかったりします。
どうしたらいいですか?
0345名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/02/19(金) 22:51:11.29ID:0gOO2wk4
ブラウザやアプリのクッキー削除したら解除されるとよく見るけど、それでもダメなら時間を置くしかないのかな?
自分はそこまできつい規制かかったことはないのでわからないです
0346名無しで叶える物語(茸)
垢版 |
2021/02/19(金) 23:22:14.38ID:mRlT7fOP
キャッシュも消したり他のブラウザ使うって手もあるがそれでも駄目なら待つしかないかもしれん
0348名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/20(土) 01:07:31.79ID:9RHivOFb
目覚めた侑が目にしたものは乱れた恋人の姿だ。
両手を抑えつけられ、はだけた胸元に青いハートがいやらしく光る。

彼女は身をよじり、僅かばかりの抵抗を示しているが、上に乗る少女の淫行を止めるには値しない。
上にまたがる彼女は唇で唇を貪った。

___嫌だ、見たくない。

侑の思考にノイズが走る。

___そんな姿は、見たくない。

脳みそが焼き切れるかのような感覚。嫉妬と嫌悪感が入り混じって、

「やめて、二人とも」

侑は叫んだ。
0349名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/20(土) 01:08:28.82ID:9RHivOFb
「なに、してるの……」

歩夢は何も答えない。

「なんでなにも答えないの……?」

か細く声を震わせ、恐る恐る尋ねる侑に応えたのは歩夢ではなかった。

「歩夢先輩は私と契約しているんです」

しずくはニヤケ面のまま、侑をまっすぐ見つめたまま答えた。

「契約って……?
そもそもなんでしずくちゃんがこんな……」

「見て分からないんですか。
私が歩夢さんにまつわる事件の犯人で、吸血鬼だからに決まってるでしょう?」

「そ、そんな……」
0350名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/20(土) 01:09:32.49ID:9RHivOFb
「ふふっ。
こんな簡単なことも分からないなんて、
先輩ったら笑いだけじゃなくて頭も赤ちゃんなんですね」

しずくがせせら笑う。

「やめて、しずくちゃん‼」

そんな彼女に異議を申し立てたのは、今まで静かだった歩夢だった。
最愛の少女への侮辱に怒りを滲ませ、強い語勢で反抗する。

だが、

「”黙れ”」

たった一言。
その一言で、歩夢は全ての口答えを禁止された。
何かを言いたげに身体を揺さぶり、息を吸い込むが言葉にならない。

そんな歩夢を、侑は無力に眺めているしかなかった。
0351名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/20(土) 01:10:38.43ID:9RHivOFb
「歩夢さんはですね、侑さんのために私とこんなことをしているんです。
あなたを目覚めさせるために身体と魂のすべてを私に明け渡したんですよ」

侑は呆然と、しずくの言葉を聞いていた。

「侑さんってば雑魚過ぎて、歩夢さんが力を分け与えても全然蘇生出来なかったんです。
今は契約のための儀式の真っ最中なんです。
あなたを蘇らせるために、歩夢さんが何をしたか分かりますか?」

聞きたくない。そう思ってもしずくの言葉は止まらない。
0352名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/20(土) 01:11:37.09ID:9RHivOFb
「土下座です。
ど・げ・ざ。
『私はどうなっても良いので、侑ちゃんを助けてください』
そういいながら先輩は、宿敵たる私に頭を下げたんです。無様ですよね〜」

そんな。それじゃあまるで、

「それもこれも全部侑さんのせいです。
あなたが間抜けで弱すぎるから、その分歩夢さんが苦しむんです。
この一か月、ずっとそうでしたよね?」
0353名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/20(土) 01:12:51.35ID:9RHivOFb
歩夢が精一杯身体を揺らす。
だがしずくはびくともしない。
罵倒を止めたいのに止められない申し訳なさで、彼女は涙を流した。

「あれれ?
なんで侑さんはレスポンスを返してくれないんでしょう。
おかしいですねぇ。……あ、もしかして。
頭が赤ちゃんだから、大人の言葉は分からないのかな?
だったら申し訳ないことをしちゃいました。
これからはちゃんと赤ちゃん語でお話しますね。
ばぶばぶばぶぅ〜」

「うわあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」

涙で顔をぐしゃぐしゃにして、侑がしずくに殴り掛かる。
だが侑の非力な拳ではしずくには届かない。
彼女は侑の右腕をなんなく受け止め、そのまま壁に弾き飛ばした。

「ざっこ💙」
0354名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/20(土) 01:13:45.50ID:9RHivOFb
「そこで大人しく見ていてくださいね。
契約の儀式はまだ終わっていません」

そういってしずくは歩夢の上半身を抱えた。

「このえっちな胸元が見えますか?
青いハートが光ってまちゅね〜。
これは歩夢さんが私の物だと示す証であるとともに、
身体の感覚もするどくしてしまう優れものなんです。
おバカな侑さん、いや侑ちゃんにもわかるように言うと感度3000倍です💙。
やらしいですよね」

しずくは笑った。
0355名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/20(土) 01:14:34.07ID:9RHivOFb
「今から私が歩夢さんの首筋をちゅーちゅー吸いたいと思いまーす」

一層歩夢は激しく抵抗するが、無駄なことだった。

「歩夢さんの心の声を特別に意訳してあげますね。
えっと、なになに。
『約束が違う。軽いスキンシップだけだったはず』
言いたいことは分かります。
血を吸われると気持ちよくなっちゃいますもんね。
こんな体で吸血されたら自我が吹き飛んでしまいそう」

ですが、としずくは付け加える。
0356名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/20(土) 01:15:38.67ID:9RHivOFb
「歩夢さんたち、学校でさんざんやっていたじゃないですか。
昨日だって保健室でやっていたの、かすみさんと見舞いに来た時見てるんですからね。
だから、これはスキンシップです。
まさか清純派アイドルの歩夢さんが、学校で情事にふけるなんてありえませんもんね?」

そういってしずくはその牙を歩夢の首筋に近づける。
歩夢の瞳が恐怖に見開いた。

「”豚のような悲鳴を上げろ💙”」

瞬間、無慈悲に牙が突き立てられる。
同時に歩夢が、この世のものとは思えない無様な鳴き声を上げた。

「んほおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」
0357名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/20(土) 01:17:32.10ID:9RHivOFb
今日はここまでにします。

>>345-347
いろいろ試したら一応解決出来ました。
ありがとうございます。
0359名無しで叶える物語(たこやき)
垢版 |
2021/02/20(土) 01:38:12.50ID:Zg6zxji0
侑ちゃんのせいって言われてるけど、元はといえば侑ちゃんの血を吸って目覚めなくしたのは歩夢だしな
でももっと言うと歩夢を吸血鬼にしたしずくちゃんの手の平の上なのか
エマさんはこんな強そうなの相手に勝てるんだろうかw
0366名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/22(月) 00:47:36.15ID:xfjS26cI
パソコンから投稿したレスが反映されてないのですが、わかる方いらっしゃいますか?
0368名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/22(月) 01:10:15.79ID:xfjS26cI
「もうやだ、やだよぉ」

弾き飛ばされた侑は蹲った。
しずくの慰み物にされている歩夢の姿を直視することは出来ず、かと言ってこの場を無視することも出来ない。

歩夢の淫らな豚声を黙って聞いているしかなかった。

「もうやめて……。
やめて下さい。
私が代わりになるから、これ以上歩夢に酷いことしないで……」

しゃくりあげながら侑は嘆願する。
だがしずくの返答は無慈悲だった。

「ダメです。
よわよわな先輩を蘇らせるための儀式なんですよ?
先輩が代わりになるわけないじゃないですか」

しずくがせせら笑う。

「でもあんまりにも侑さんが惨めでかわいそうなので情けをかけてあげます。
賭けをしませんか?」

「賭けって?」

「歩夢さんが私と侑さん、どちらを選ぶかです。
もし私ではなく侑さんを選ぶというのであれば、これ以上血を吸うのはやめてあげましょう。
吹き飛んだ自我も元に戻してあげます。
但し、もし私を選んだら」

侑が息をのむ。

「先輩の首から下を切り刻んで身動きをとれなくした後、永遠に歩夢さんの痴態を見せ続けてあげますね」
0369名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/22(月) 01:11:21.85ID:xfjS26cI
「どうします?
受けますか?」

侑は歩夢を見る。
白目を剥き、泡をふいて倒れている彼女を見るのは忍びなかった。
それに、愛しの彼女がしずくに蹂躙される様はこれ以上見たくない。
目覚めてからのストレスで侑の頭は爆発寸前だった。

「…受けるよ」

「決まりですね」

これは分の悪い賭け。
身体と魂は既にしずくに支配され、ヘロインに勝る快楽を叩き込まれている彼女が侑を選ぶなど、客観的な確率では1%にも満たないだろう。

そう思っているからこそしずくも賭けを提案したのだ、

___しかし。
侑はこの賭けだけには誰にも負けない自信があった。
0370名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/22(月) 01:12:15.60ID:xfjS26cI
頭が割れそうになる。
全身の血が脳髄に集結するかのような感覚。
血液が沸騰し、視界が点滅する。

「”詳細に述べて”」

「侑ちゃんの血を吸った時よりも182倍気持ちよかったです。
股ぐらが濡れぼそり、下腹部の当たりが熱くなるのを感じました。
侑ちゃんの血を吸ってもここまで気持ちよくなれません。
しずく様の完全勝利です」

勝ち誇った顔でしずくは侑を見る。

「……まだ。
まだ勝負はついてない」
0371名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/22(月) 01:13:21.31ID:xfjS26cI
「続けます?
形勢は私にだいぶ有利なようですけど」

「続ける」

明確な意思を以って侑は告げた。

なぜなら侑は歩夢を信じている。
侑は選ばれし幼馴染の子。
上原の民だ。

だから侑は、後には引かない。

「そうですか」

愚かな生贄を見る目でしずくは言った。

「”第二の質問です。
私と侑さん、容姿が優れているのはどちら?”」

歩夢が答える。

「しずく様です」
0372名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/22(月) 01:14:28.19ID:xfjS26cI
「続けます?
形勢は私にだいぶ有利なようですけど」

「続ける」

明確な意思を以って侑は告げた。

なぜなら侑は歩夢を信じている。
侑は選ばれし幼馴染の子。
上原の民だ。

だから侑は、後には引かない。

「そうですか」

愚かな生贄を見る目でしずくは言った。

「”第二の質問です。
私と侑さん、容姿が優れているのはどちら?”」

歩夢が答える。

「しずく様です」
0373名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/22(月) 01:16:02.74ID:xfjS26cI
分かりきった答えだと侑は思った。

そもそもスクールアイドルとして活動するしずくと、マネージャーに過ぎない侑とでは勝負になる筈もない。
この質問には勝てるはずもない。

だからこそ侑の心は折られない。

むしろ、

「しずくちゃんがさっきから聞いてることって、身体のことばっかり。
それ以外の要素で勝つ自信はないの?」

根拠はないが勝利する自信を増してさえいた。

「……煽ってるんですか」

しずくが苛立つ。
0374名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/22(月) 01:17:01.70ID:xfjS26cI
「愛って言うのは肉体の美しさとか、
快感の大きさで測れるものじゃないんだよ」

構わず侑は言い放つ。

「誰でもわかることだよ
しずくちゃんだって本当は知ってるはず。
……ねぇ、どうしてこんな風になっちゃたの?
元のしずくちゃんに戻ってよ‼」

「状況を理解してます?」

腹立たし気にしずくが尋ねた。

「ここまで私の二戦二勝。
それなのにまだ勝てるるもりでいるなんて、どれだけ脳みそお花畑なんですか?
身の程知らずの極みです」

「歩夢と私が本物の愛の存在を証明してみせる。
……決着をつけよう」

普段なら恥ずかしくて言えないセリフも今だけはは気にならない。
大丈夫、勝てる。
根拠は何もない。
あるのは彼女への信頼だけ。
一つの勝利を掴むため、侑は賭けをコールし続ける。

「分かりました。
次の質問で最後にしましょう」

しずくが最後の質問を口にした。

「”私と侑さん、どちらを愛してますか?”」

それは、

「侑ちゃんです」
0375名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/22(月) 01:17:58.17ID:xfjS26cI
すみませんが今日はここまでにします
0379名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/02/22(月) 08:37:55.18ID:LWd3LCuU
わりとがっつりNTRだったけど、しずくちゃんが最初に天敵とか言ってた通り二人の愛が勝って良かった
でもしずくちゃん自体にはとても勝てなさそう。エマさんじゃないとか
0380名無しで叶える物語(鮒寿司)
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2021/02/22(月) 09:18:59.41ID:eynwqgCr
@cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ でも歩夢ちゃん よくこのSSが読めたね

��cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ ううん、まだ殆ど解読できてないんだ

@cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ ? じゃあなんでゆうぽむスレだってわかったの?

��cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ ? そんなことすぐわかるよね?

✊��cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ なぜなら私は侑ちゃんを信じている!! 私達は選ばれし上原の子!! 高咲の幼馴染だ!!

   お お お お ぉ お お お
✊@cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ✊@cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ✊@cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ
  ✊@cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ✊@cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ
✊@cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ✊@cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ✊@cメ*˶ˆ ᴗ ˆ˵リ
0382名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/23(火) 00:31:05.72ID:/wY6rBBB
明日投稿します
0385名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/23(火) 23:53:58.50ID:/wY6rBBB
「……正気ですか?
私ならこの世の快楽と喜びのすべてを与えられるのに?」

「それでも侑ちゃんを選びます」

「もう二度と先程の快感は味わえないとしても」

「侑ちゃんがいいです」

それでしずくは口を閉ざした。
0386名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/23(火) 23:55:07.79ID:/wY6rBBB
「歩夢ぅ‼」

対照的に侑は歓声を上げる。
歩夢の元へ駆け寄り、その勢いのまま抱き着いて押し倒した。

「ありがとう‼本当にありがとう‼」

目に涙を浮かべながら繰り返す。

「ごめんね、守られてばっかで。
本当は私も歩夢を守ってあげなくちゃいけないのに、弱くて情けないよ」

「侑…ちゃん……」

「でも私を選んでくれて本当にうれしいよ‼
ありがとう‼」

もう何度目かになる感謝をもう一度繰り返した。

人の目を憚らず抱き合う彼女らをしばらく見つめて、しずくは呟いた。

「こんな屈辱は生まれて初めてです……‼」
0387名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/23(火) 23:56:20.78ID:/wY6rBBB
「不快の絶頂、ですか」

美しい顔に似合わぬ青筋を浮かべ、
恍惚で桃色に染めていた頬を怒りで赤色に染め直す。
プライドを傷つけられたしずくの激情は頂点に達していた。

「約束は約束だよ。歩夢を元に戻して」

侑がしずくの目の前に立ち、勝利の報酬を要求する。
しずくに壊された歩夢の自我を取り戻すためだ。

そんな彼女にしずくは容赦なくかぎ爪を振るった。

「え?」

侑の口から間抜けな疑問符が漏れる。
たった今粛清されたこと、自分の首から下がサイコロステーキのように細切れになったことに理解が追いつかなかったからだ。
0388名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/23(火) 23:58:37.02ID:/wY6rBBB
「なに甘いこと言ってるんですか?」

しずくが怒声交じりに問いかける。

「もとに戻すわけないでしょう?
賭けは私の勝ちです。
私は、歩夢さんがどちらを選ぶかを賭けました。
どちらを愛しているかではありません。
少し勘違いされていますね?
三回賭けて二回選ばれたので私の大勝利です」

足元に転がる首に、酷い屁理屈を早口に浴びせる。
暴論に反論しようとする頭は、すぐさま踏みつけて黙らせた。

「私の勝ちなので、侑さんには歩夢さんの痴態の一部始終を眺めてて貰いますね」
サッカーボールのように、侑の頭を壁に蹴り飛ばす。
短く漏れるうめき声もしずくの怒りをなだめるには至らない。

「”今晩中に500人喰らいなさい”」

しずくが歩夢の魂に冷酷な命令を下した。
それでしずくの嗜虐心は満たされた。

歩夢を血肉を啜る怪物にする。
それだけが目的ではない

じきにエマもあのマンションから抜けだすころだ。
街を襲う歩夢と彼女は正面からかち合うことになるだろう。
同じスクールアイドルとしてではなく、怪物と聖女として。

だから一度出会ってしまえば、どちらかが先に倒れるしかない。
歩夢の牙がエマの首筋に突き立てられても、エマの剣が歩夢の心臓に突き刺さっても、
侑の心を曇らせるには十分だ。
彼女には特等席で骨肉の争いを眺めてもらうことにしよう。

それがしずくの復讐だった。
0389名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/23(火) 23:59:34.08ID:/wY6rBBB
「そのために歩夢さんに武器を与えましょう」

ぐちゃぐちゃになった侑の顔を拾い上げ、散らばった肉片の中央に置きなおす。
しずくは親指をかみ、そこから薄く流れる血を一滴だけその場に垂らした。

それで侑の散らばった肉片はほつれ、一か所に集い、やがて一振りの魔剣に姿を変えた。
その剣をしずくは歩夢に授ける。
0390名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/24(水) 00:01:21.74ID:w8wBOGzZ
「これは剣ですが、侑さんの意識はそのまま残っています。
あなたなら会話することも出来るでしょう」

「侑…ちゃん……」

歩夢は幼馴染をたどたどしく呼びかける。
それで彼女は、彼女だけに聞こえる侑の声とテレパシーで会話を始めたようだった。

「ま、今の歩夢さんに大した会話なんて出来ないでしょうけど」

誰に呼びかけるでもなく、しずくは言った。

「私はせつ菜先輩に会ってきます。くれぐれも言いつけは守って下さいね?」

しずくは外套を翻し、歩夢と侑を置いてその場を後にした。
0391名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/24(水) 00:02:39.28ID:w8wBOGzZ
___閉ざされた暗闇がひび割れる。
亀裂は徐々に広がり、やがて光が闇を払拭した。

「だいぶ遅くなっちゃった」

その中から一人の少女が姿を現す。
マンションの一室、月明かりに照らされてエマは復活した。
0393名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/24(水) 00:04:58.90ID:w8wBOGzZ
次回から歩夢の討伐が始まります。
0394名無しで叶える物語(たこやき)
垢版 |
2021/02/24(水) 00:13:35.44ID:psq4J8yi
おつでした。侑を助けるという契約も歩夢の自我を戻すという契約も、両方反故にされちゃったのか
悪魔みたいな存在との約束を信じる方が間違ってたんだろうけど、騙された上に次から討伐されちゃうって悲惨すぎるな
0397名無しで叶える物語(公衆)
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2021/02/24(水) 14:20:35.44ID:H3SygB9R
確認したら369と370の間が一つ抜けてました。
後で追加します
0399名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/25(木) 00:10:41.47ID:8C/icL14
369と370の間です。
大幅に抜けてしまい申し訳ありません。
「”正直に答えなさい”」

しずくが歩夢に言った。
先程歩夢を黙らせたように、惨めな悲鳴をあげさせた時のように、
所有物になった魂に直接働きかける絶対命令権。

故に、この場において歩夢が偽りを述べることはありえない。

「はい、しずく様」

虚ろな瞳で歩夢が答える。
後輩に敬称をつける歩夢に、侑は心を痛めた。

彼女の魂はしずくに屈服してしまっている。
だからこその様付け。幸先の悪さに侑は胸が締め付けられた。

「”侑さんを吸血した時と、私に吸血された時。
どっちのほうが気持ちよかったですか?”」

「なっ」

なんて趣味の悪さ。
しずくは侑と歩夢の愛を徹底的に否定し、破壊するつもりだ。
でなければ手早く両者のどちらを好いていかを尋ねてしまえばいい。

それをしないのは、彼女が侑の心をじわじわと嬲り殺しにする愉しみを味わいたいからに違いない。

「それは」

歩夢が答える。

「しずく様です」
0402名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/25(木) 21:37:52.72ID:8C/icL14
歩夢の両親の遺体に短く祈りを捧げ、エマはその場を後にした。

「まずいな。
もう半日経ってる」

しずくと接触した14時から既に十時間あまりが経過し、丁度日付が変わる時間になっていた。
長時間封印されていたということは、それだけしずくや歩夢を野放しにしてしまったということ。
彼女たちが何もしていないと考える方が不自然だ。

「やっぱり」

スマホには大量の不在着信が入っていた。
発信元は今朝の刑事からだ。

エマは急いで折り返しの電話をかける。
数秒とたたず通話は繋がった。

『エマさん、今どちらに?』

切羽詰まった男の声が飛び込む。

「歩夢ちゃんのお家です」

『その上原さんが大変なことになっています』

予想していた通りの言葉が返ってきた。

『現在、上原歩夢は港区中を暴走、手当たり次第に建造物や人を襲撃しています。
死傷者は100名を超えました』

「……分かりました。
すぐに歩夢ちゃんの討伐を開始します。
警察の皆さんはしずくちゃ、桜坂しずくの行方を追ってください」

『……エマさんの後輩の?
事件と何か関係が?』

「黒幕です。
私は彼女と接触し、不覚を取りました。
今まで連絡出来なかったのはそのためです」

『分かりました。
桜坂しずくはこちらで捜索しておきます。
エマさんは上原歩夢をお願いします。
彼女は現在、六本木ヒルズを襲撃しています』

「ご武運を」

エマは電話を切った。
そしてすぐに闇の中を駆け抜けた。
0403名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/25(木) 21:39:03.01ID:8C/icL14
今夜の空は月さえ隠れた真っ暗闇だった。
対照的に大地は人工的なネオンに包まれ俗な光に包まれている。

エマは大地と空の境目を、ビルの屋上を伝いながら走り抜けた。
忍のような軽やかさで、彼女は六本木ヒルズを目指した。

その道中。

「きゃああああああああ」

下の方から凄まじい絶叫がした。
見ると、ただれた皮膚のゾンビに取り囲まれた母娘がいた。

「この子だけは!
この子だけは見逃して‼」

必死の形相で母親は怪物たちに嘆願する。
小学生くらいの娘のほうはえんえんと、ただ泣きわめいた。

だが無駄なことだ。
そもそもやつらに人を区別する知能はない。
見つけた獲物はただ食い殺すのみだ。

そんな彼女らをみて、エマは躊躇なくビルを飛び降りた。
0404名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/25(木) 21:40:07.81ID:8C/icL14
天上より舞い降りたるは黒衣の天使。
頭巾とワンピースは翼のように悠然と広がり、白色のウィンプルはヘイローを思わせる。

母娘の目の前に現れた少女は、そのまま目の前のゾンビの一体の懐に潜り込み、人差し指と中指を突き刺して唱えた。

「”あなたは私の光。
あなたの栄光は私の支え。
罪を謗るのではなく、赦し清め給え”」

彼女が起こしたのは浄化の奇跡。
触れればあらゆる浮上はたちまち禊払われる。

すなわち、少女の指先にふれたリビングデッドの血液は全て聖水に置き換わった。

通常、人間は酸素を運ぶ血液がなくては生きてはいけない。
血を純水に変えられれば、間違いなく即死する。

そして聖水は化け物にとっての毒。
化物にとっては全身の水分を猛毒に変えられたにも等しかった。

「……」

言葉なく、ゾンビは全身から聖水を吹き出して絶命する。
その肉体はすぐに天に還った。
後ろの亡者の群れはひるんで動かない。

「来なさい。
指先一つで仕留めてあげる」

エマは堂々と、そう宣戦布告した。
0405名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/02/25(木) 22:00:44.88ID:00bA2gwn
まだ救われる可能性はちょっとくらいあるかもと思ってたけど、さすがにもう無理そうか。来世で幸せになるしかないね
あとはエマさんができるだけ楽に終わらせてくれることを祈るしか
0408名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/02/26(金) 23:34:41.49ID:QbrfOClr
エマはただの詠唱、徒手空拳で十数体はいたアンデッドを制圧、一掃した。

「怪我はありませんか?」

振り返り、親子に尋ねる。

「い、いえ。
助けて下さってありがとうございます」

母親は深々と頭を下げた。

「気になさらないで下さい。
警察に連絡して家まで送ってもらうように手配しておきますね。
今日はもう家に帰ったほうがいいでしょう」

「何から何までありがとうございます」

「ねぇ、お姉ちゃんは誰なの?」

女の子がエマに尋ねた。

「……通りすがりのスクールアイドルだよ」

そう言い残して、エマはその場を去った。
0409名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/26(金) 23:35:22.25ID:QbrfOClr
___六本木ヒルズ

途中ゾンビを倒しながら、エマは六本木ヒルズにたどり着いた。
正面玄関の前で、天高くそびえる摩天楼を見上げる。
感じる重圧はこのビルの大きさによるものだけではなかった。

(この中にいる)

歩夢かしずくか。
どちらにせよ強大な力を持った吸血鬼の気をエマは感じ取った。

右手に剣を、左手に銃を。
それぞれ用意して、エマは伏魔殿の中へ足を踏み入れた。
0410名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/26(金) 23:36:13.75ID:QbrfOClr
____港区・某所

都会の光すら届かぬ路地裏で、二人の少女は邂逅した。

「来てくれたんですね」

スマホを片手に、背をビルの壁に預けながら、しずくは言った。
服装は歩夢やエマに出会う前の私服に戻している。

「可愛い後輩が、どうしても会いたいというのでやってきました。
両親の目を盗んで、抜けだすのに苦労したんですよ」

もう一人の少女は丈の長いコートに身を包み、急いで抜け出したからか三つ編みを片側だけにまとめている。
縁のうすいメガネが切れ長に光った。

「来てくださってありがとうございます、せつ菜さん」
0411名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/02/27(土) 00:03:59.29ID:3lAIlZJH
しずくちゃんがこっちにいるということはヒルズのは歩夢達か。せつ菜ちゃんはどういう立ち位置になるんだろう
0416名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/02/28(日) 23:17:35.22ID:k9qx+Ev4
___六本木ヒルズ・屋上

数多のゾンビたちを殺しつくし、エマはその場所に立った。

「歩夢ちゃん」

歩夢は蹲踞しながら死体を漁っていた。
餅でも切り取るかのように、死体を手でちぎり、それを頬張っている。

エマに呼びかけられて振り向くが、その顔はエマが知っているものとは既に違っていた。
口の周りには人肉と血がこびりつき、眼は獣のように赤くぎらついている。

上原歩夢は、エマの記憶にある歩夢は、こんな死臭にまみれてはいなかった。

耐えきれず、エマは空を見上げた。
不意に熱いものが目からこぼれそうになったからだ。

今は決戦の直前。
戦いで目を逸らすことは死にもつながりかねない。

それでも、変わり果てた歩夢の姿を見るのは忍びなかった。
哀しかった。
それで数秒、運命の巡り合わせの悪さを呪って。

「覚悟はいい?」

ゆっくりと視線を下した
0419名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/03/02(火) 00:46:32.51ID:5AOi/7RJ
____路地裏

「なるほど、歩夢さんがおかしくなったのはしずくさんのせいで、あなたは吸血鬼になったと」

「理解がはやくて助かります」

せつ菜は険しい表情でしずくを睨みつけ、しずくはそれを笑って受け流した。

「それで?
そんな話を私に明かして何がしたいんです?」

「せつ菜さんも吸血鬼になり」

「お断りします」

「即答ですか」

せつ菜はしずくの言葉を遮って、吸血鬼になることを否定した。
当然だ。
せつ菜はこの一か月、歩夢がどんな風に過ごしてきたか、それによって侑がどれほど苦しんできたかを知っている。
その元凶の誘いに乗るなどあり得ない話だった。

「しずくさん、歩夢さんだけでなくあなたも変わってしまったんですね。
本当の貴女は、人の不幸に愉悦を感じるような人ではなかった」

「ええ、まあ。
ですが人の血と絶望の表情は本当に美味しくて、癖になってしまいました」

せつ菜さんも吸血鬼になればこの愉悦が分かるのに。
しずくはそう付け加えた。

「何にせよ、私があなたに与することは絶対にありません」

せつ菜は力強く、そう断言した。
0420名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/03/02(火) 00:47:41.63ID:5AOi/7RJ
「では、この状況をどうしますか?」

そう言って、しずくは姿を消した。
せつ菜は一度も注意を逸らしていなかった。

それにも関わらず瞬きする間もなくしずくを見失う。

「こっちですよ」

声がしたのは後ろから。

「っ⁉」

せつ菜が振り返ろうとする。
だがそれよりも早く、しずくは彼女を後ろから抱きしめた。

「なんのつもりですか?」

せつ菜が尋ねる。

「洗いざらい全部話したんですよ?
このまま先輩を開放するわけないでしょう」

「……私を吸血鬼にするつもりですか?」

「その通りです。
分かりますか?
ここに来た時点であなたには初めから拒否権なんて存在しなかったんです」

そういってしずくは笑った。
0421名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/03/02(火) 00:48:50.98ID:5AOi/7RJ
「私、同好会の皆さんを吸血鬼にしたいんです。
だってみんな大好きだから」

「よく言います。
歩夢さんと侑さんにあれだけ酷いことをしておいて」

「好きだからこそいじめたく、どうしようもなく痛めつけたくなっちゃうんです。
真実の愛なんてものを見せつけられたら、さかしまに汚し壊したくなる。
それってそんなに不思議なことですか?」

「狂ってます」

「そんなものでしょうか」

しずくは抱きしめる力を強めた。

「あまり私につれないことを言わないでください。
せつ菜さんのこと、同好会の中でも上から数えたほうが速いくらいには好きなんですから」

「私も、しずくさんのことは好ましく思ってました。
演劇とアイドルの二つを頑張るあなたを尊敬してましたし、ある種のシンパシーも感じてました」

「今は違うんですか?」

耳元で、しずくが囁く。
それは媚びた女の声だった。
0422名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/03/02(火) 00:50:55.96ID:5AOi/7RJ
「私はこんなにも皆さんを愛してるのに、誰も私を一番に愛してはくれないんですね。
エマさんも、歩夢さんも、侑さんも、あなたも。
……そして、かすみさんも」

「……それはどういう?」

「なんでもありません」

しずくはさらに、せつ菜を抱きしめる力を強めた。

「せつ菜さんは本当に魅力的です。
大淫婦となった私が言うのだから間違いありません」
0423名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/03/02(火) 00:52:04.40ID:5AOi/7RJ
「悔しいですが同好会の中でも、人気が頭一つ抜けているもの分かります。
可愛らしさと恰好よさ。
真面目さと大胆さ。
繊細さと力強さ。
相反する属性を兼ね備え、使いこなすあなたは確かに最強のアイドルに相応しい」

「お褒めに預かり光栄です。
……こんな状況じゃなければ素直に喜べたのに」

しずくの言葉はやけに耳さわりがいい。
心の奥底に浸透し、揺さぶった。

そのことにせつ菜が冷や汗をかいた。
それをしずくはチロリと舐めとる。

「好き、好き好き。大好き」

暗示を繰り返すように繰り返し囁く。
けれどそれは混じりけのない純粋な好意でもあった。
だからこそ、吸血鬼にならないと拒否したせつ菜の心も惑わせる。

せつ菜でなくても、はたしてしずく程の少女を誘いを断れる人間がこの世にいるのだろうか。

実際、修道女のエマでさえ、しずくの魅了に危うく飲み込まれかけた程だ。
一般人で彼女をはねつけられる者などこの世にはいないだろう。

「私のものになってください」

そう言って、しずくはせつ菜の首筋に噛みついた。
0424名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/03/02(火) 15:35:29.63ID:HjtE0Iph
吸血鬼にするためにせつ菜を呼び出したのか。まだまだ波乱はありそうだね。このまま最初に討伐されちゃうのは歩夢達かな
0425名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/03/03(水) 00:52:52.58ID:Qq5bE+et
血を吸われたせつ菜は魂を命を奪われ、歩夢と同じようにしかるべき手段で吸血鬼として蘇生させられる。

……筈だった。

「っ⁉」

異変を感じ取り、しずくが飛びのく。

「私は吸血鬼にならない。
そう言いましたね。
それは訂正しなくてはならないかもしれません」

せつ菜は己の身体を変化させながら、そう言った。

「何せ私の身体は、もうとっくに化け物なんですから」
0426名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/03/03(水) 00:54:12.86ID:Qq5bE+et
気が付くとせつ菜が立っていた場所には、二本足で立つ一匹の狼がいた。

触れる者を拒む鎧のような、荒々しくも美しい毛並み。
横顔には鬣が生えそろい、頭にはもう一つの顔のように狼の顔の衣装が施されている。

爪は鋭く伸び切り、それが敵を切り裂だ。
ばねのように逆関節に曲がった足は、彼女の強靭な脚力を容易に想像させた。

だがしっぽだけは柔らかく、それがせつ菜の優しく繊細な心を表している。

人狼。
いまのせつ菜を形容する言葉はそれが一番ふさわしいだろう。

「灰色のその姿……。
まさかオルフェノクですか⁉」

「その通りです」

オルフェノクとはこの世界における吸血鬼の一種だ。
動物を模した灰色の怪人に変身するのが特徴で、一度死んだ人間が覚醒し蘇ることで生まれる進化形態。

しずくに血を吸われても何も起きなかったのは至極単純なこと。
せつ菜はとっくの昔に死んでいる。
死んでいる者の命を、どうして奪うことが出来よう。
0427名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/03/03(水) 00:55:30.23ID:Qq5bE+et
「……本当に驚きました。
ですがこれで分かりました。
せつ菜さんも元々こちら側の人間だったんですね。
オルフェノクは気性が激しいものが多く、使徒再生と呼ばれる特殊な方法で繁殖し、人間を襲うと聞きます。
あなたも何人もの人間の命を奪ってきたんでしょう?」

「一緒にしないでください。
私は人を襲ったりしません」

そういって、せつ菜は人の姿に戻った。

「ありえません。
オルフェノクにせよ、死徒にせよ、吸血鬼なら同胞を増やしたい、人を殺したいという欲求が誰にもあるはず。
せつ菜さんが人を襲わないなんてそんな話が」

「私も思います。
私の身体が人を傷つけてしまわないか、いつか人の心を忘れてかけがえのない物をこわしてしまうのではないかと、そう不安になります」

けれど、とせつ菜は続ける。

「守りたいものがあれば、人はいつだって強くなれるんです‼
私は絶対に、私の衝動に負けたりしない‼」
0428名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/03/03(水) 00:56:38.34ID:Qq5bE+et
「あなたのスタンスはよく分かりました。
それで、どうするんです?」

「しずくさん、あなたの目を覚まさせます」

「私の?
この期におよんで私に情けをかけようと?」

「違います」

せつ菜は言う。

「しずくさんなら、もとのしずくさんに戻れると信じています。
私はあなたのことも助けたい」

しずくは鼻で笑った。

「甘い考えですね」

「そうかもしれません。
ですがそのためなら……」

せつ菜がコートのボタンをはずす。
そこには奇妙なベルトが巻かれていた。

ポケットから時代遅れのガラパゴス形態を取り出す。
その携帯に、せつ菜は555とコードを入力した。

standing by

その機械の音声と共に待機音が鳴る。

「どんな罪だって背負ってみせます‼」

せつ菜が天高く携帯を掲げる。

「変身‼」

そのままベルトに装着すると、completeという音声と共に赤いラインがせつ菜の身体を包み込んだ。
迸る閃光。
その中から現れたのは一人の戦士だ。

「もう驚くのも疲れましたがあえていいましょう。
せつ菜さんが仮面ライダーだったなんて」

うんざり気味にしずくは言った。

「表の顔は生徒会長、裏はスクールアイドル。
人を襲うはずの怪物が正義のヒーロー。
いくらなんでも属性盛りすぎでは?」

「自覚はあります」

軽口の後、せつ菜としずくはぶつかりあった。
0429名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/03/03(水) 00:57:28.14ID:Qq5bE+et
今宵切られたカードは即ち二枚。
一つ目はエマと歩夢。
二つ目はせつ菜としずく。

運命の歯車は無慈悲に回り続ける。
勝利の女神がどちらに微笑むかは、本人たちにも分からない。
0430名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/03/03(水) 01:00:59.70ID:Qq5bE+et
今日はここまでにします。

あとせつ菜ちゃんがヒーローしてるssあったら教えてください
0431名無しで叶える物語(もんじゃ)
垢版 |
2021/03/03(水) 01:57:16.61ID:xz6lc7KD
歩夢と侑が味わった苦しみ以上のものを一体どうやってしずくに受けさせるのだろう
さすがに考えてあるんだろうけど少なくとも俺は全く思いつかねえ
0433名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/03/03(水) 05:49:30.63ID:j+s3wokC
せつ菜ちゃんも普通の人間ではなかったか。元凶のしずくちゃんはあまり大勢には見られてないっぽいから何とかなるかもだけど、
歩夢ちゃんの方は目撃者が多くて親も殺しちゃってるからもう手遅れだなあ。というか戻れてもみんな罪悪感でおかしくなりそう
エマさんに倒してもらうのが一番の救いなのか

変身とかヒーローしてるSSって小ネタみたいなのは読んだ覚えはあるけど、長いのはぱっと思い浮かばないな
0436名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/03/04(木) 00:27:19.63ID:kUlkWiaG
今日はお休みします
0437名無しで叶える物語(たこやき)
垢版 |
2021/03/04(木) 07:59:15.06ID:l80X+Vly
こうなると他の子達も気になるけど、しずくちゃんの口ぶりだと吸血鬼にしたのはまだ歩夢たちだけなのかな
0439名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/03/05(金) 01:21:18.59ID:qll9Vx53
人間を超えた速度で、歩夢とエマの拳がぶつかり合う。
遮蔽物のない空間に真空波が炸裂し、轟音が鳴り響く。

屋上に到達するまでに、エマは銃弾と黒鍵のすべてを使い切っていた。
残る武装は詠唱補助の聖書と聖骸布、そして己の肉体のみ。

エマの最大の武器は聖唱だが、それを叩き込むには隙がいる。
歩夢は既に強力な吸血鬼に成り果てており、
浄化するにはどうしても物理で弱らせる必要があった。

(ごめんね)

拳をふるいながら、目の前の敵に誤り続ける。

(痛い思いをさせて、本当にごめん)

初めてだった。
友人を殴り続けるのは。
攻撃を受けることで感じる痛みより、
友達に暴力を振るわなければならないことの方がずっと苦しかった。

「やあああああああああ!!!!!!!!!!!」

痛みを、迷いを振り払おうと雄たけびを上げながら、攻撃を続ける。

歩夢は強い。
だがこのレベルの吸血鬼なら、エマは何度も戦かったことがある。
だから天秤は徐々にエマに傾きつつあった。

「オオオオオオオオオオオオ‼!!!!!!!!!」

ひしゃげた顔を再生させながら、歩夢は人外じみた咆哮を上げる。
人間としての理性を失った彼女にしてやれるのは、死の救いだけだ。

(頃合いだね)

光の束が、粒子がエマの周りに集まっていく。
詠唱の準備は整った。

あとは詠唱を完璧に諳んじて、出来るだけ苦しまないように歩夢を昇天させるだけ。

そのはずだった。
0440名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/03/05(金) 01:22:15.40ID:qll9Vx53
歩夢が腰に差していた剣が、ひとりでにエマの方へ突撃した。

「きゃ」

短い悲鳴と共に尻餅をつく。
柄の部分で軽く殴られただけなので怪我はなかったが。

それにしてもこの不思議な剣は一体?

「だ、め、ゆう……ちゃん」

たどたどしい言葉使いで、歩夢はその剣を諫めた。

「まさかそれ、侑ちゃんなの?」

歩夢は何も答えなかったが、それは簡単に推測出来た。
それに先程の攻撃、柄ではなく刃で切り裂くことも出来た筈なのにそれをしなかった。
意志持つ魔剣が哀れみを持ち合わせるなど聞いたことがない。
きっと、剣にされた者の心が余程優しかったのだろう。
侑ならば、こんな風に歩夢を守ろうとすることも容易に想像できた。

侑がなった魔剣は美しく、刀身は雪のように白かった。
きっと一度も使われていないだろう。
事実歩夢は既に百人以上を襲っているが、一度もこの剣は使っていない。
侑を血で汚したくないからだ

怪物になっても、魔剣になっても、二人の思いやりは、ローダンセの花のように変わらなかった。
0444名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/03/06(土) 00:31:36.63ID:S700wBTA
____歩夢の無意識領域

上原歩夢の理性はしずくが与えた快楽によって完全に破壊された。
彼女はもはや人として喋ることすらままならず、契約によって魂と肉体の所有権さえ持たなかった。

そんな歩夢だが、唯一会話することの出来る例外がいた。
高咲侑だ。

彼女もしずくの被害者で、身体を一振りの剣に変えられていたが、
二人はテレパシーによって心の中で話し合うことが出来た。

歩夢の心の中で、二人は相対する。

そんな侑が歩夢に言った。

「私を使って」

侑はただの剣ではない。
しずくに力を分け与えられた強力な魔剣だ。
だから彼女を使えば、歩夢の戦闘力は飛躍的に向上するはずだった。

だが、

「それはダメ」

歩夢ははっきりと侑の申し出を断った。
0445名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/03/06(土) 00:32:42.58ID:S700wBTA
「なんで?
このままじゃ負けちゃうよ?
……エマさんに負けたら、歩夢死んじゃうんだよ?」

声を上ずらせながら、侑は歩夢を説得した。

「絶対ダメ」

歩夢の意志は固かった。

「侑ちゃんを使って人を殺すなんて私には出来ない。
ましてエマさんは大切な先輩で、友達なんだよ?」

「それは……」

「侑ちゃんを友達の血で汚すなんて、人殺しの道具にするなんて、私には出来ないよ」

それは人をやめてしまった歩夢が守った、超えてはならない最後の一線だった。

誰にも負けない深い愛情を持っているからこそ、歩夢は侑を決して使おうとはしなかった。
0446名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/03/06(土) 00:34:15.01ID:S700wBTA
「エマさんを殺すことになる。
そんなこと、私だってわかってるよ……」

彼女は拳を握り、震わせる。

侑は悔やんでいた。
歩夢が吸血衝動で苦しんでいる時に力になりきれなかったこと。
その結果歩夢が両親を殺してしまったこと。
今も大勢の人間を襲っている彼女を止められないこと。
無力さ故にしずくの凌辱から彼女を守ってやれなかったこと。

侑は歩夢に、健やかな人生を送ってほしかった。
だがそれはもう叶わない。

自分に力があれば、恐ろしい魔の手から歩夢を救うこともできたかもしれない。
だがそれをするには侑はあまりに非力だった。

改めて、侑は自分の無能さに腹立たしさを覚える。
歩夢の力になりたくて、そばに居たくて吸血鬼になることを受け入れたのに、彼女には気負わせるばかりだ。

そんな現状が、侑は悔しくてたまらなかった。
0447名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/03/06(土) 00:35:16.03ID:S700wBTA
無際限の愛を持っているのは歩夢だけではない。
侑も同じだ。
しずくの魅了、時間停止を打ち破る熱量を彼女も秘めている。

だから、魔剣となって歩夢の力になれるのは侑にとってむしろ歓迎できることだった。

「私は歩夢とずっと一緒にいたい。
バラバラだけど思いは一つって、前にいったことあるよね。
けど死んじゃうのは違うよ」

侑は泣きながら歩夢を抱きしめた。

「歩夢を失いたくないの。
だから私を使って」

侑は自分が恩知らずなことを言っていることは自覚していた。
エマは歩夢と侑に手を差し伸べようとしてくれた人だ。
命を救ってもらったこともある。

そんなエマを討つのは侑だって嫌だった。

けど、このまま彼女を放置しては歩夢が殺されてしまう。
それは何としても避けねばならない。

誰からも、どんなことからも歩夢を守ること。
それが今の侑が守りたい最後の一線だ。
0448名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/03/06(土) 00:36:11.57ID:S700wBTA
「結局、侑ちゃんにはかなわないなぁ」

守り続けた一線。
それを最終的に譲ったのは歩夢だった。

___六本木ヒルズ・屋上

「ごめんね、侑ちゃん。
……これからもよろしくね」

歩夢は剣の切っ先をエマに向けた。
魔剣を受け入れたことで、歩夢の力は飛躍的に上昇した。

究極の一心同体。
歩夢と侑は二人で一つの魔王となった。
0449名無しで叶える物語(しうまい)
垢版 |
2021/03/06(土) 00:38:24.68ID:S700wBTA
今日はここまでにします。

最近パソコンから書き込めず、スマホから投稿してるのですが、万が一スマホからもレス出来なくなった場合はピクシブに続きを書きます。
0450名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/03/06(土) 01:12:09.14ID:yMYUicuM
二人で倒されることを受け入れるのかなと思ってたけど、最後まで戦うことを選んだんだな。エマさんが何より辛いなあ
規制が早くなおって欲しいね
0453名無しで叶える物語(しまむら)
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2021/03/06(土) 18:25:47.56ID:s7XUQ1mh
おつ
0454名無しで叶える物語(もんじゃ)
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2021/03/07(日) 00:27:48.36ID:QOxhHLYf
運命とか関係なくただただ全てしずくの手のひらの上なのがなあ
強さこそ正義のこの世界だとゆうぽむは弱く生まれたことが大罪だったな
0455名無しで叶える物語(しうまい)
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2021/03/07(日) 01:35:29.36ID:ub24s/XX
今日は休みます
0456名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/03/07(日) 08:54:32.33ID:uGGX9snV
侑と歩夢の強い想いが、しずくの能力でも思い通りにならないという理由で最初に狙われたんだから、
ある意味すごく強いものを持ってたから消されたとも言えるのかもね

ところでHELLSINGがハリウッドで実写化されるそうですね。まだまだ先だろうけどちょっと楽しみ
0459名無しで叶える物語(たこやき)
垢版 |
2021/03/07(日) 23:35:05.83ID:uGGX9snV
したらばに移ったんだね。規制きついから今はそれがいいかもな
0460名無しで叶える物語(たこやき)
垢版 |
2021/03/08(月) 08:24:55.91ID:812hbykw
もうちょっと保守
0461名無しで叶える物語(たこやき)
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2021/03/08(月) 21:03:53.22ID:812hbykw
もう少し誘導保守
0462名無しで叶える物語(しまむら)
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2021/03/09(火) 19:29:28.03ID:PnOWuEGk
,,(d!.•ヮ•..)
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