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エマ「ただいま果林ちゃん」果林「おかえりエマ」
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0001名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/13(水) 06:28:13.35ID:cpDmJpqY
――――――
部室
かすみ「おえぇ〜〜〜っ!?」


かすみ「エマ先輩、スイスに帰っちゃうんですかぁぁ!!?」


エマ「うん……そうなの」

エマ「みんな、ごめんね……」


エマ「わたし……スクールアイドルフェスティバルには出れない」


侑「そんな……」


——————それは“親友”からの突然の報告だった。
0028名無しで叶える物語(茸)2021/01/13(水) 07:41:06.23ID:xhWM4X7r
開幕おぇ〜〜でワロタ
0033名無しで叶える物語(茸)2021/01/13(水) 09:16:01.89ID:RwMJA7q5
かすみ…
0034名無しで叶える物語(もんじゃ)2021/01/13(水) 10:05:41.55ID:NKrkm98Z
かすかすさぁ…
0036名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/13(水) 19:35:55.08ID:cpDmJpqY
――――――
廊下


……あのあと同好会のみんなはエマのためにできることを考えたり、餞別の言葉を送っていた。

そしてしずくちゃんに連れてこられたかすみちゃんは泣きながら謝っていた。

「かすみんは最低です。果林先輩本当にごめんなさい」ってずっと繰り返してたっけ。

けど私は何も怒ってない。

だって私だって、本音を言えば本当は……


寮に戻るころにはもう辺りはすっかり夜になっていた。


果林「すっかり暗くなっちゃったわね」

エマ「そうだね」


とぼとぼと。なにか気の利いた言葉を探しながら二人並んで廊下を歩いた。


エマ「……果林ちゃん、今日はありがとう」

果林「私は何もしてないわよ」

果林「むしろ空気を悪くしちゃったわ」

エマ「ううん。果林ちゃんはしっかり私が帰ることに味方になってくれたから」

エマ「果林ちゃんにあらかじめ言って、安心したから今日言えたんだよ」

果林「……うん」
0037名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/13(水) 19:37:57.02ID:cpDmJpqY
果林「帰国の日取りが決まったらすぐ教えるのよ」

果林「同好会のみんなと見送りに行くから」

エマ「うん。わかったよ」

果林「それからあっちでもし辛いことがあったらすぐ相談して」

エマ「うんうん」

果林「寂しいと感じたらすぐ連絡するのよ」

エマ「……果林ちゃんもね?」

果林「えぇっ、いや別に私は大丈夫よ……っ 寂しいなんて」

果林「……とにかくっ! 連絡してっ!」

エマ「ふふふっ……」

エマ「あいわかった」
0038名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/13(水) 19:40:59.33ID:cpDmJpqY
エマ「果林ちゃんは1週間に1回はお部屋のお掃除するんだよ」

果林「えっ、1週間に1回? 多くない?」

エマ「お、多くないよ〜? むしろ少ない方だと思うよ?」

果林「そうかしら」

エマ「そうだよ〜」

果林「……」

エマ「……」

エマ「……どうなんだろう? わかんないや」


……本当は。

私だってかすみちゃんみたいに言いたかった。

「帰らないで!」って。

でも自分の気持ちを押し込めて、大人ぶって、受け流そうとした。

寂しいとか悔しいとか、余計な感情を握らされるのが煩わしいから。

私は真っ向からエマの帰国を素直に受け止めようとしてなかったんだ。


果林「……私、エマがいなきゃダメ人間まっしぐらになりそうだわ」

エマ「あはは。大丈夫だよ〜」

果林「私、エマがいなきゃ……」

果林「スクールアイドルも……その……」

果林「できるか……不安だわ」

エマ「……」


エマが背中を押してくれたから、スクールアイドルとしていられるのに。

その恩人であるエマは次の大舞台に立てない。

オンラインライブも凄いけど、でもやっぱり生の舞台に立って、歌って踊りたいはず。

そんなのモヤモヤするに……決まってる。


果林「……エマ」

エマ「なあに? どうしたの?」

果林「……」


果林「やっぱり……その、帰るの、やめにしない?」
0039名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/13(水) 19:43:23.87ID:cpDmJpqY
エマ「……なんで」

エマ「なんでいま、こんなタイミングでいうの」


……ほんっと、そうよね。

だって私の「帰らないで」はかすみちゃんとは違う。

散々悩みを聞いた挙句、今更本音をさらけ出そうとする卑怯な訴え。


果林「……だってエマのお父さん、怪我はしてるけど元気は元気なんでしょ?」

果林「そんなに急いでエマが帰って状況は変わるの?」

エマ「お母さんの負担は減らせるよ。お父さんも安心してくれる」

果林「帰るにしたって、すぐじゃなくてフェスティバルの後とかでもいいじゃない」

エマ「フェスティバル、3週間も先だよ」

果林「そ、それまでだから、その、ご兄妹のお世話はご親戚におまかせするとか……」

果林「何かその……別の方法が……」

エマ「……」


どれだけ自分がわがままを言っているのかわかってる。

必死に悩みに悩みぬいたエマの決断を無視してわがままを言っているのもわかってる。

家族のことなんてほっとけとばかりに冷たいことを言っているのもわかってる。

わかってる……そんなの、わかってるわよ、わかってるけど……


エマ「……果林ちゃん」


エマはポツリと私の名前をつぶやいた。

本当にただただ困り果ててしまっているかのような、そしてどこか呆れてしまったようなそんな表情で。

だけどもう私は、そんな親友の決断に自分の気持ちを抑えることはできなかった。

昨日みたいに「あらそう」だなんて。そんなすまし顔はできない。
0040名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/13(水) 19:44:58.39ID:cpDmJpqY
果林「……エマがこの学校に来て初めて会った時のこと思い出したわ」

エマ「はじめて……会ったとき?」

果林「スクールアイドルに憧れて、この学校に編入してきたって」

果林「そのために日本語を猛勉強して、頑張ってきたんだってね」

果林「凄いと思ったわ。遠い国から自分のやりたいことのために頑張れる」

果林「なんて情熱のある、ガッツのある子なんだろうって」

エマ「……そんなことないよ」


果林「私は……そんなエマっていうスクールアイドルのファン1号なの」

エマ「ふぁ、ファン……?」

果林「そうよ。だから気づいたらエマのこと、精一杯応援して」

果林「そしたら私自身もだんだんスクールアイドルに興味を持ち始めて……」

果林「気づいたら私もスクールアイドルになってた」

果林「それも全部エマの影響なのよ」


エマ「……わ、わたし果林ちゃんが思ってるより全然普通の女の子だよ?」

エマ「果林ちゃんみたいにモデルをやってるような子が私を?」

エマ「……へんだよ」

果林「だから憧れたのよ」

果林「いつでも自然体で、みんなに優しくできる女の子のあなたのことを」

果林「私みたいにいつもお高く止まってしまう人間からしたら……ね」
0041名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/13(水) 19:47:34.71ID:cpDmJpqY
果林「だから……本当はすごく悔しいの」

果林「エマがスクールアイドルフェスティバルに出られないってことが」

果林「こんなに頑張り屋で優しくてスクールアイドルが大好きな女の子がステージに立てないってことが……!」

果林「本当はかすみちゃんの、何倍も何倍も、悔しいのよ……っ」

エマ「か、果林ちゃん……」


私はどれだけ、このエマという女の子に心を動かれているのかしら。

彼女の頑張りとか優しさを想うと、今回のことが悔しくてたまらない。


―――スイスで一人、どんな夢を見て日本語を勉強したのだろう。

もしかしたら次のフェスティバルのような、一生一度あるかないかのような、

そんな誰もが羨むような綺麗できらびやかなステージに立つことを夢見てたかもしれない。

その夢が破られようとしているのだ。何も言わず帰らせるなんてできない。


果林「私、親友の夢が叶えられないのを見過ごせないの」

エマ「わたしの……夢……」

果林「ご家族のことはもちろん大事だわ。でも……エマ自身の気持ちもおろそかにしないで」
0042名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/13(水) 19:48:48.27ID:cpDmJpqY
果林「今しかできないことを、投げやりにしないで」


エマ「……!」
0043名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/13(水) 19:50:21.54ID:cpDmJpqY
エマ「……」

エマ「……ふふっ、懐かしいね」

エマ「わたしも前、果林ちゃんにそんなこと言ったよね」

果林「……そうね」


エマ「……悔しかったよ」

エマ「悔しかった……っ」

エマ「……みんなと同じ、素敵なステージに立てないんだなぁって」

エマ「だけどもちろんお父さんもお母さんも、兄妹のこともみんな大好きなの」

エマ「だから帰らないっていうのはできない」

果林「……そう、よね」

エマ「……あの時の果林ちゃんと一緒」

エマ「心をぎゅっと閉じ込めて、辛いのは気のせいだ〜って誤魔化してるだけ」

エマ「やっぱり辛いよ」

エマ「せっかくここまで頑張ってきたのに、っていう気持ち」

エマ「3年生は最後のステージかもしれないのに、って……」

果林「……ごめん」


……こんなこと言わないつもりだった。

故郷に帰るっていう彼女の言葉をすまし顔で飲み込んで、快く見送ってあげるつもりだった。

だからかすみちゃんの言葉にも冷静に対応した。

それなのに、同好会のみんなに報告して、やっとエマの肩の荷が下りたときにこんなこと言うなんて。

最低じゃない、私……
0044名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/13(水) 19:52:30.39ID:cpDmJpqY
エマ「でもね、果林ちゃん」

エマ「……わたしは日本に来て本当によかったと心の底から思ってるんだぁ」

果林「えっ?」

エマ「大好きなスクールアイドルになれて。同じ気持ちを持ったお友達がたくさんできて」

エマ「果林ちゃんと友達になって、たくさん楽しい時間を過ごせたもの」

エマ「こんなに幸せなことってないよ」


果林「……なにいってるの。最後のお別れみたいなこと言わないでよ」

エマ「えへっ、寂しくなっちゃった?」


いたずらっぽくエマは微笑む。

その時、偶然か窓辺の月夜に照らされて、エマがひと際綺麗に映った

その一瞬を眺めてたら、息を呑んで言葉に詰まってしまった。


エマ「大丈夫だよ」

エマ「わたしの夢はぜんぶじゃないけど、もう充分叶えてる」

エマ「だって日本で初めてできた大好きな親友が憧れのステージに立つんだから」

エマ「立つのは果林ちゃんだけかもしれないけど……私の想いは果林ちゃんに託してる」

エマ「幸せだよ。すっごく」

果林「エマ……」

エマ「……」スッ


エマ「遠く離れても心は一つ、だよ!」


―――そう言って、エマはハイタッチといわんばかりに手をかざす。

夜の月明かりが照らされる中、どんな人の心もぽかぽかにする太陽みたいな笑顔。
0045名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/13(水) 19:55:11.14ID:cpDmJpqY
果林「……うっ」グスッ

エマ「か、果林ちゃん?! ど、どうして泣いてるの?」

エマ「えっと、なんか変なこと言ったかな?」オロオロ

果林「違うわよ……違う、違うわ」ポロポロ


感情がぐちゃぐちゃで、もうわからなくなっていた。

悔しい気持ち、寂しい気持ち、そして親友への感謝。

次のフェスティバルは私の人生において、きっと大きな意味を持つステージになる。


果林「……わかったわ!」パシンッ!

エマ「!」


彼女の気持ちに応えるように私も強くハイタッチを返した。


果林「スクールアイドルとしてこれ以上ないパフォーマンスを見せるわ」

果林「……私の愛する親友のためにも」

エマ「……ふふっ、うん! 応援してるね!」
0046名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/13(水) 19:57:35.11ID:cpDmJpqY
果林「……でもエマ、一つ約束して」

エマ「約束?」


果林「帰ってきたら、もう一度同好会のみんなでステージに立つの」

果林「オンラインじゃなくて、同じ場所で、歌って踊って、一つになるのよ」

果林「それだけは譲れない」


エマ「同じ場所で……みんなと?」

果林「侑とせつ菜が言ってたでしょ? 次のライブが終わってももう一度ライブしようって」

エマ「でも開催できる余裕はないかもしれないって……」

果林「大丈夫。絶対できるわ」

果林「家族から同好会のみんなまで、いつもみんなを支えてきたエマのためだもの」

果林「絶対に実現する」


果林「だから……元気よく帰ってくるのよ、約束」

エマ「……それは?」

果林「指きりげんまん。日本にある約束のおまじない」

エマ「……うん! わかった! 指きりげんまん! だね!」


……そう、指きりげんまん。

絶対に私とエマはもう一度、同じステージに立つんだ。


だからこそ次のステージは彼女の想いを乗せながら

最っ高に魅力的で、鮮やかな世界をみんなに見せてあげるわ――――
0052名無しで叶える物語(もみじ饅頭)2021/01/13(水) 23:26:38.41ID:XeWUYiGL
泣きそう
0053名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/14(木) 07:11:50.15ID:D8bygdj4
――――――
スクールアイドルフェスティバル



果林「♪〜……ッ!」


観客:ワァァァァァッッッ!!!!!

観客:きゃーーー!!果林さーーん!!!!!

観客:素敵ーーー!!!TOKIMEKI〜〜〜〜〜〜!!!!


……——————ライブ会場は盛大な熱狂に包まれて、私のステージは幕を閉じた。


果林「みんな、今日は私の魅力たっぷりなステージを堪能してくれてありがとう♪」

果林「……ここで遠く離れた地から中継が繋がっているわ」

果林「私達のかけがえのない仲間……」

果林「エマ・ヴェルデです」


……いったん照明が暗くなり、ステージ背後のモニター画面が照らされる。

そこに映っていたのは……スイスの高原をバックにした私の親友。


観客:きたああああああ!!

観客:エマさん!? エマさんと中継!?

観客:待ってたよ〜〜〜!!!!
0054名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/14(木) 07:15:23.94ID:D8bygdj4
エマ『えぇー……みんな、聞こえますか?』

エマ『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会3年、エマ・ヴェルデです!』

エマ『えっと……この映像をみんなが見ているということは』

エマ『わたしはもうそこにはいないでしょう』


観客:えっ……


歩夢「え、エマさん……なんか死んじゃった人みたいな紹介しちゃってる……」

しずく「日本でそれっぽい映画でも見て影響されてるんでしょうか……」

かすみ「……ていうかこれ、ライブ映像ですよね?!」

愛「ちょっ! あははっ……! エマっち、おもしろ……っ!」


エマ『実はおうちの事情で、スイスに帰らなきゃいけなくなって』

エマ『今回はオンラインで参加します』

エマ『本当はみんなの前で直接歌って踊りたかったんだけど……』

エマ『それはまた次の機会、ということで! 楽しみにしててね!』

エマ『すぐに帰って、みんなの心をぽかぽかさせるよ〜♪』


観客:うおおおおおおおおおおお!!!!!

観客:エマちゃーん! オンラインでも可愛い!

観客:母性を感じたのは初めてです
0055名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/14(木) 07:17:31.42ID:D8bygdj4
エマ『あ! 果林ちゃ〜ん』テーフリフリ~

エマ『すっっっごく素敵なステージだったよ〜♪』


……なにいってるのよ、もう。

でもそんなところが本当にエマらしいわ。


エマ『果林ちゃんだけじゃなくて、みんなもすごかった!』

エマ『同好会のメンバーは最高の最高の、最高の仲間です!』

エマ『そしていつも応援してくれるみなさま、本当にありがとうございます!』

エマ『スクールアイドルとしてキラキラでいられる日本は、わたしにとっての心の故郷です!』


観客:ワァァァァァァァ! パチパチパチ……


エマ『……それで今回は!』

エマ『わたしが生まれた大切な故郷で、歌を歌います!』

エマ『実は病院のお庭だから踊ったりとかはあまりできないけど……』

エマ『アカペラで一曲、歌います!』

エマ『聴いてくだ……』

エマ『いや、届いてください! 「La BeLLA Patria」!』
0056名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/14(木) 07:21:00.61ID:D8bygdj4
――――――

数か月後……




「えー、3年生のみなさん、」


「ご卒業おめでとうございます……」
0058名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/14(木) 19:51:47.25ID:D8bygdj4
――――――

体育館外
かすみ「果林先輩、卒業おめでとうございますっ!」

果林「あら、かすみちゃん。ありがとう」


卒業生がつける胸の花バッジ。

在校生がそのバッジを卒業生に渡す役目なのだが私はたまたまかすみちゃんだった。


時は流れて……そう、今日は卒業式。

私にエマ、彼方はこの日もってこの学校を卒業する。


かすみ「いやぁ〜? 卒業しちゃったらかすみんと会えなくなって寂しくなっちゃいますねぇ?」

果林「うふふ、そうね」

しずく「寂しいのはかすみさんの方でしょ」

かすみ「うっ、しず子!」


しずく「果林さん、ご卒業おめでとうございます。胸のお花、とてもよくお似合いですよ」

果林「ほんと? しずくちゃん」

しずく「はい♪」


かすみ「もぉ〜! しず子! かすみんから果林先輩との時間奪わないでよぉ!」
0059名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/14(木) 19:52:54.41ID:D8bygdj4
しずく「……かすみさん、以前果林先輩についてこう言ってたんです」

しずく「“3年生の人みんな尊敬してるけど、果林先輩を一番尊敬してる”って」

かすみ「えっ?! ちょ、しず子?!」

しずく「“果林先輩はかっこよくて、自分にないものを一番持っているから”って」

果林「うふふ、嬉しいこと言ってくれるわね」

かすみ「も、もうやめてよ!? 恥ずかしいじゃん〜!!!」


しずく「だから一度、エマさんのことで果林さんと言い合いになってしまったこと、すごく後悔してました」

かすみ「あ、あっ」

しずく「“大好きな先輩に酷いこと言ってしまった、冷たい人間なんて最低なコト言ってしまった”って……」

しずく「“取り返しがつかないことをことを言ってしまった”……って」

かすみ「し、しず子〜〜〜!!! そ、それだけは本当に言わないで! いわないでぇっ!」


……怒ってない。

ただ冷淡にエマの帰国を見過ごそうとした私を、かすみちゃんが本音をぶつけてくれたんだ。

あの時のかすみちゃんの言葉がなかったら。

私は大人ぶって、余計な感情を抱くことを面倒にしてエマを見送っただけだと思う。

かすみちゃんのあの言葉があったから、私は前向きな気持ちでステージに立てた。
0060名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/14(木) 19:55:06.93ID:D8bygdj4
果林「むしろ感謝してるくらいよ、かすみちゃん」

果林「……本当にありがとう。大好き」ナデナデ

かすみ「ふえぇっ?! しぇんぱいっ?」

かすみ「そ、その……恥ずかしいですから……っ」

かすみ「やめてください、わ、わたし、果林先輩に最低なコト言ったんです……」

かすみ「エマ先輩も嫌な気持ちにして……だから優しくしないでください……かすみんのことは」

かすみ「しず子とりな子を可愛がってください……」


果林「……アハハ! もーう! 素直なかすみちゃんは特に可愛いわね」

果林「あの日すぐ許したじゃない。そんなずっと気にするようなことじゃないわ」

果林「そんな自分のこと、責めないで」

かすみ「……しぇ、しぇんぱぁい……」

かすみ「うっ、うっ、うわーん……っ!!!」


しずく「……果林さん。応援に回るのはまだ早いですよ」

しずく「だってまだ卒業公演のステージが一つ残ってるんですから!」

果林「……そうだったわね。本番までよろしく頼むわ」

しずく「はい!」


しずく「今度は……エマさんと9人で!」
0061名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/14(木) 19:56:49.26ID:D8bygdj4
――――――
部室


?「……りん……〜ん」

?「かり……ちゃ〜ん……果林ちゃ〜ん……?」

果林「んっ……」

?「おやっ……第一声、セクシーだったねぇ」


卒業式が終わって部室に訪れた私は、

どうやらそのまま部室で眠ってしまっていたみたいだった。

部室で過ごす最後の時間。少しでも味わっておきたくて。


果林「……まさか彼方に起こされるなんてね」

彼方「いやぁ〜……珍しいこともあるもんですなぁ」

彼方「すごく幸せそうな寝顔だったよ〜♪」

果林「からかわないでよ、もう」


彼方「……卒業しちゃったね」
0062名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/14(木) 19:57:45.05ID:D8bygdj4
彼方「いやぁ……私たち最高の3年生だったねぇ」

果林「それ自分で言う?」

彼方「言っちゃうよ〜♪」


彼方「……エマちゃんから連絡は?」

果林「……ないわ、全然」

彼方「そっかぁ……」


エマは卒業式までに帰ってこれなかった。

やはり家のことでなかなか手が離せず、大変だったらしい。

いまはもうお父さんの怪我は完治し、もう問題はすべて解決したようだ。

それを聞いて安心していたのにそこから連絡がなかなかつかなくなってしまった。

もうすぐ帰ってくるはずなのに……どうしても連絡がない。


彼方「……でも果林ちゃん、約束したんだよねぇ」

彼方「最後のステージは一緒に立つって」

果林「……えぇ」

彼方「大丈夫。エマちゃんは……絶対約束を守る、いい子だもの」

彼方「特に愛する親友の約束はね〜♪」

果林「な、なに言ってんのよ……そんなんじゃないから」
0063名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/14(木) 19:59:06.00ID:D8bygdj4
果林「ところで同好会の送別会は何時から?」

彼方「17時から。愛ちゃんのもんじゃ焼き屋さんでだよ〜」

果林「……まだ時間あるわね」

彼方「みんないろいろ買い出しとかしてくれてるのかなぁ?」


卒業式のあと、私たちの卒業を祝って同好会一同で送別会をしてくれるらしい。


彼方「幸せな先輩だよね〜、私達」

果林「えぇ……ほんとに」


彼方「……ねぇ、果林ちゃん」

彼方「彼方ちゃん、果林ちゃんとエマちゃんにいっぱい感謝してるんだ」

果林「私とエマ?」

彼方「だって彼方ちゃん、果林ちゃんみたいにかっこよくないし」

彼方「エマちゃんみたいな包容力もないし……みんなに甘えてばっかりだったから」

彼方「『わがままお姫様〜』なんて言って、あんまり先輩らしいことしてこなかったからね〜」

果林「……そんなことないわよ、彼方」

果林「私もみんなも彼方に救われたこと、たくさんあるわ」


彼方「……ほんとぉ?」

果林「嘘なんてつく必要ある? 本当よ」


彼方「……えへ、えへへへ〜♪」ギュー

果林「もう、後ろから寄っかからないでよ……重いわ」

彼方「いいんだも〜ん♪ これからも果林ちゃんとエマちゃんにたくさん甘えるよ〜♪」

彼方「ずっと仲良くさせてね〜♪」

果林「……ほんと調子いいんだから……」
0064名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/14(木) 20:00:23.92ID:D8bygdj4
ピロリン♪


突然、私の携帯に連絡が入った。連絡元は……

背中に寄っかかる彼方とその内容を確認する。


彼方「うおっ……うおおおおおおおおおっ!!!」


そんな……まさか。


彼方「果林ちゃん! 空港だよ! 迎えに行ってあげて!」

果林「で、でも送別会の時間……間に合うかしら」

彼方「えっ……えええええええええっ!!?」

彼方「な、何言ってんのさ! 迎えに行く以外ないでしょ?! ヘタレ!? ヘタレなの?!」


まるで眠気がすべて吹っ飛んだかのような口ぶりで彼方は私にまくし立てた。


彼方「いま果林ちゃんが迎えに行ってあげて、」

彼方「私たち3年生3人、卒業後のステージに立つんだよ!」


果林「……そう、よね!」

果林「私、行ってくる!」ダッ

彼方「うん、またあとで〜!」


彼方「……いやぁ〜〜〜」

彼方「きっと素敵な卒業ライブになるねぇ……」



彼方「……あの子にも届きますように」

彼方「……すやあ」
0065名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/14(木) 20:01:36.07ID:D8bygdj4
――――――
空港


息を切らしながら同好会のみんなで見送った空港のロビーに着いた。

あまりに突然すぎる。そんな素振り全くなかったのに。

帰ってくるの、どれだけ待ち望んでいたと思ってるの?

いたずらを含めたサプライズにしては、大きすぎるわ……


果林「はぁ、はぁ……」


卒業式の花バッジを抱えた制服のまま、空港まで走ってきた。

浮いてるように見えたかもしれないけど、そんなの気にしない。

ずっと会いたかった親友がやっと……


?「どうしたの? 何か困りごと?」


それはまるでかつての私の真似事のような口調で、私に話しかけてきた。


果林「……エマぁ……!」
0066名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/14(木) 20:02:41.52ID:D8bygdj4
エマ「……わたしがはじめて虹ヶ咲に来たとき、こんな感じだったよね♪」

果林「なによ……なんで何も言わずに突然帰ってくるのよ……!」

エマ「えへへ……ちょっとドッキリさせたくて」

果林「だめよ、こういうドッキリは……」

果林「……こんなの朝香果林のイメージじゃないのよ」

エマ「あはは……どんな果林ちゃんでも大好きだよ♪」


エマ「あっ、お花のバッジ……そっかあ! 卒業おめでとう」

果林「エマもでしょ」

エマ「ふふ、そうだねぇ」

エマ「でもたぶん卒業してもあんまりわたし達の関係、変わらないよね」

エマ「そんな気がする」

果林「そうね……そうよ」
0067名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/14(木) 20:05:54.77ID:D8bygdj4
これから先、私たちがスクールアイドルじゃなくなっても、

私達の関係はきっと、ずっと続いていく。

高校を卒業しても、エマがスイスに帰っても、どんな大人になっても。

私はエマのことを……


「やりたいと思ったときから、きっともう始まってるんだと思う」


そしてそれは、きっと、ずっと続いていくものだと思う。


だから次のライブは同好会のみんなと一緒に、

私達の魅力をたっぷり……見せつけてあげないとね?




エマ「……ただいま、果林ちゃん!」

果林「おかえり……エマ!」



おわり
0068名無しで叶える物語(しうまい)2021/01/14(木) 20:08:13.58ID:D8bygdj4
おわりました!
ここまでお付き合いしてくれた方、ありがとうございました。
エマかり、大好きです。
0069名無しで叶える物語(はんぺん)2021/01/14(木) 20:16:07.80ID:FfJhKpy/
おつ
これは良いエマかり
0073名無しで叶える物語(もんじゃ)2021/01/14(木) 21:11:16.61ID:JgqsDKX2
すごいよかった乙
0074名無しで叶える物語(しまむら)2021/01/14(木) 22:12:24.63ID:uYL7sCIY
ほっこりしたエマかりスレありがとう
おつ
0075名無しで叶える物語(たまごやき)2021/01/14(木) 22:41:24.74ID:yJRKemYi
おつ
めちゃくちゃ良かった
0076名無しで叶える物語(うろん)2021/01/15(金) 02:11:14.41ID:m+4wNESP
濃厚なエマかり助かる
0077名無しで叶える物語(SIM)2021/01/15(金) 11:52:52.40ID:5zuAv5w9
素晴らしい
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