愛「──お前か?」栞子「ぁ、ちが、違うんです、宮下さん」
レス数が900を超えています。1000を超えると表示できなくなるよ。
栞子(ふぅ……今日も生徒会の仕事で遅くなってしまいました。全生徒の適性と部への振り分けをしていたらこんな時間に)スタスタ
栞子(適切な部に転部した人も、また夢を追うと言って元の部に戻ってしまったり)
栞子(どうしてでしょう。適性に合わないことをしても、悲しい未来しかそこにはないのに)
栞子(いえ。それでも私は一人でも救いたい。悲しい未来を味わってしまう人が、一人でも減らせるように)
栞子(でも、大勢の生徒から反感を買っているどころか、生徒会でも意見が分かれてしまっているのは事実です)
栞子(生徒会長と副生徒会長がいつも会議のたびに意見が割れていれば、余計に良い噂は立ちませんよね)
栞子(……いいえ、今日は少し疲れました。もう、考えるのは止めましょう。荷物を持って早く帰って──)ガチャ
栞子「え」
栞子(ロッカーに入れてあった体操服がなくなってる) 栞子(クラスの人たちに避けられていると思っていましたが……遂にこんなことまで)
栞子(……探さなくては。取り合えず教室の中を。見つからなければ他の場所を……)スタスタ
──────
────
──
虹ヶ咲学園 校内
愛(ふっ ふっ ふっ)
生徒「あっ愛ちゃーん! 練習がんばーっ!」
生徒「愛ー! ランニングファイー!」
愛「おーっ! みんなありがとー!」ブンブン 愛(練習中でも声をかけてくれる生徒には自然と笑顔が浮かんでくる。校内ランニングだと、見かけたみんなが声をかけてくれる)
果林「ふふっ、愛、鼻の下伸ばしてると先に行くわよ!」ビュン
愛「うおっ!? くっそ、カリン待てぃ!」ビュン
愛(今日のランニングは絶対カリンに負けないって決めてんだ!)ダダダダダ
果林「はっや!?」タタタタタタタ
愛(へへーん、最近負け越しだったから、今日こそは勝つ──ん?)タタタタタタ
栞子「……」スタスタスタ
愛(あれ……今の、せいとかいちょー……? なんか、くらーい感じ……)トトトトトト 果林「お先にっ!」ビュン
愛「あ”っ!? しまった、くっそぉ!!」ビュン
──────
────
──
栞子「……ここにも、ない……」
栞子「どこに……」 先生「あら? 三船さん?」
栞子「あ……先生」
先生「三船さん、ここ、三年生の教室だけど……どうかした?」
栞子(あれから校内を探し回りましたが、見つからず──この教室も二度目です……)
栞子「いいえ。先ほどまで三年生と部活の事で少し話していて……」
先生「そうなの……もう最終下校時刻過ぎてるから、三船さんも早く帰りなさいね?」
栞子(もう、そんな時間に……)
栞子「はい、わかりました。すみませんでした。今日はこれで、さようなら先生」スッ
先生「はい、さようなら三船さん。気を付けてね」 栞子「……体操服は……また、明日探しましょう」
栞子(……そう、ですよね。これだけ反感を買えば、こういうことも起こる……)
栞子(それでも、私は……私は……彼女の様に悲しい想いをする人を、減らしたい……)
──────
────
── ──虹ヶ咲学園 寮前
愛「うい、おっつ〜」ブイッ
エマ「おっつ〜愛ちゃ〜ん」ブイッ
果林「ちょっと愛、エマにヘンな日本語教えないでよ」
愛「ヘヘヘ、でも可愛くない? エマっちがこういうの使うと!」
果林「う……」
エマ「えへへ、果林ちゃん、かわいい?」ニコ
果林「かわいい、です……」
愛「でそでそ!? ちょーかわいいっしょ──ん?」クイクイ
璃奈「……愛さん、おっつー」 果林「あら、璃奈ちゃんに妬かれてるわね」
璃奈「そ、そんな、意味じゃない……」
愛「りなりー! 可愛すぎかよ!!」ガバッ
璃奈「ひゃっ///」
侑「じゃあ果林さんとエマさんはまた明日ー!」
果林「みんな、また明日ね」
エマ「また明日ー!」
菜々「えっ、あ! はい、明日もよろしくお願いします!!」ペコッ
歩夢「お疲れさまでしたっ」ニコ 愛「せっつーどしたん? 心ココに在らず?」
菜々「あ、いえ……その……」
侑「どうしたの? 悩み?」
歩夢「せつ菜ちゃん、何かあったの……? 私たち、力になれる?」
菜々「あ、いえ、悩みというほどの事では……ただ、その、三船さんの事で」
侑「栞子ちゃん?」
璃奈「新生徒会長に何か、されてる?」
菜々「い、いえ! そんなんじゃないんです! ただ……生徒会の方が、上手くいってないみたいで」
侑「新体制になってそれなりに経つけど、上手くいってないの?」 菜々「副生徒会長が時々、私に相談してくれるのですがその、部活関係の事で……」
愛「しんかいちょーのアドバイスで部を移った子とかマネになった子が、元の部や選手に戻ったりとかしてるのと関係あるの?」
菜々「! 愛さんはご存じなのですね」
愛「まあアタシの友達にも結構いたからねー」
侑「副会長さんは、栞子ちゃんのやり方に反対してるの?」
菜々「はい。私が居た時のやり方を踏襲したい副会長と、自分のやり方を貫きたい栞子さんの間で軋轢があるようで」
歩夢「そんなことが……」
璃奈「確かに、三船さんとは別クラスだけど、あんまりいい話は聞かない」 侑「生徒会内でも意見が割れてるんだ……愛ちゃん、その部を移った友達は?」
愛「ん……その後もさ、また新かいちょーが説得しに来て揉めたりしてるって。親身なのは良いけど、ちょっとしつこいって」
愛(ほんとはもっとキツイ言い方だったんだけど、それはぼかしておくかな)
菜々「それが皆さんの反発を呼んでいるようで……」
璃奈「最近は来ないみたいだけど、以前は焼き菓子同好会にも時々見回りに来るから、見張られてるみたいで怖いって……」
侑「最近ウチに来ないのは、そういうことだったんだ」
歩夢「何か言われるかなって思ってたけど、本当はそれどころじゃないんだ……」 菜々「……三船さん、一生懸命にやっているのは間違いないのですが……」
愛(今日見かけたとき暗い感じだったのは、この事で……かな?)
愛「せっつーは新かいちょーとは話す?」
菜々「いいえ……副会長とは話しますが……」フルフル
愛「そっか……」
菜々「私たちとはやり方が真逆ですが、三船さんは三船さんなりに、夢を叶えてほしい……そう考えての行動だと思うのです」
菜々「夢を叶えるための場所を一生懸命その人に作ろうと、しているのではないでしょうか……」
歩夢「三船さん……ん、あっ、侑ちゃんもう分かれ道だよ」 侑「え? あ、ほんとだ! 三人とも、今日はお疲れ! また明日!」
歩夢「お疲れ様! また明日ね!」
璃奈「うん、お疲れ様」
菜々「お疲れさまでした! ……さて、私もここで失礼しますね」
璃奈「? いつもはもっと一緒……あ、今日はラノベの発売日」
菜々「あは、お恥ずかしながら……今日は最新刊の発売日で! 失礼しますね!」ビュン
璃奈「お疲れさまー」フリフリ 愛「……」
璃奈「愛さん、考え事?」
愛「……えっ?」
璃奈「三船さんの事、悩んでる?」
愛「んー、まあ……悩んでるって程でもないよ」ポンポン
璃奈「ぁぅ。愛さん、私に何かできる事、ない?」
愛「んー、大丈夫。りなりーは心配しなくていーよ」ナデナデ ──璃奈のマンション前
璃奈「愛さん、いつもありがとう」クルッ
愛「いえいえ、このくらいどーってことないよ!」ニコ
璃奈「それでも嬉しい。璃奈ちゃんボード『ハッピー』」
愛「へへ、じゃあ璃奈……んっ」チュッ
璃奈「ん……」チュ
愛「じゃ!」タッ
璃奈「あっ、き、今日も電話、していい?」
愛「家の手伝い終わってから、アタシから掛けるよ! んじゃ後で!」ブンブン
璃奈「ん……後で……」ブンブン
璃奈「……私も、すき……愛さん……」
璃奈「……///」カァアアア 翌日 生徒会室
栞子「……今日の議題としては以上になりますが、他に何か──」
副会長「会長。今度の学校説明会で行われる部活動紹介についてですが」
役員「「……」」シン…
副会長「案内が来ていない部があるようですが」
栞子「……部活紹介であって、同好会については各自の判断に任せています」
副会長「会長。私は一言も同好会とは言っていません」
栞子「っ……」
副会長「部活紹介への参加の意思があるかどうか、同好会への確認は私の方から行います。もちろんすべての同好会に、です。問題はありませんね?」
栞子「……はい。ではこれについては副会長に一任します。……それ以外に議題がなければ、今日はこれで」 さらに翌日──部室棟
侑「ありがとうございます、副会長!」
副会長「いいえ。私はやるべきことをこなすだけです」
せつ菜「……」
副会長「……その。優木せつ菜ちゃん」
せつ菜「あっ、はい!?」
副会長「が、頑張ってください! ──それでは私、他の同好会の方へ行きますので!」ダッ 侑「あっ行っちゃった……」
せつ菜「心臓に悪いです……」
侑「たまたま二人でいるところを声かけられたもんだから……せつ菜ちゃんでよかったよ」
せつ菜「私もせつ菜でよかったです……菜々と侑さんが仲良く部室に向かっている所では怪しまれるところでした」
侑「じゃあせつ菜ちゃん、早速部室に戻ってこの話も兼ねてミーティングしよう!」
せつ菜「はい!」
──────
────
── 愛(今日はミーティングだけで部活が早く終わった。りなりーと家に帰った後、私はもう一度学校に戻ってきた)
愛(一昨日の新かいちょーの暗い表情がどうも頭から離れなかったアタシは、何とか同好会とかそういうの抜きで、彼女とお喋りができないか画策していた)
愛(そして今ここに、アタシはやってきた)コンコン
愛「失礼しまーっす! 三船っち居ますかぁ!?」ガチャッ
栞子「……宮下愛さん、入る前にノックしてくださるのはありがたいですが、返事を待たずして開けては意味はありませんよ」キッパリ
愛「あっははは、こりゃ厳しい! 一本取られちった!」ペシ
愛(やっぱり。副会長や役員の友達に聞いた通り、最近は一人で事務作業してるっていうのはビンゴだったね!)
栞子「で、一体どういうご用件でしょうか? スクールアイドル同好会の活動についてですか?」
愛「いやいや、今回はそういうの抜き抜き! ってか、用事があるのは三船っちなんだよ!」ビシッ
栞子「人に指を指すのは失礼ですよ。それに私は先ほど『スクールアイドル同好会の活動についてですか』と聞きましたが」 愛「いや、だから生徒会とか同好会とか抜きにして、愛さんは三船っち個人に用があってきたんだよ!」
栞子「……は?」
愛「お喋りしようぜ、三船っち! ソファ座るぜー! ほい、三船っちもこっちこっち!」ボスボス
栞子「なんですかいきなり。私個人……? 意味が解りません。貴女と私から同好会と生徒会を抜けば、なんの関係もない間柄でしょう」
愛「だからじゃん! こうやって駄弁りにきたわけ! ほら、こっちこっち! ジュースもあるぜ! もちろんアタシのおごり!」ボスンボスン
栞子「ソファを乱暴に叩かないでください。……宮下愛さん。こうなった時の貴女に敵う人は学園中でもいないでしょうし──」
愛「へへへ! 良く分ってるじゃん!」
栞子「それは私でも例外ではないのでしょうね」スッ 栞子「──で」ストン
栞子「一体何のお話でしょう?」
愛「えっ、そっちに座んの? じゃあ……」スッ
ボスッ
栞子「……なぜ隣に」ジトー
愛「だって机が邪魔じゃん! ほい、ジュース。それとサンドイッチも付けるぜ!」トン
栞子「……そのサンドイッチはカフェの、でしたよね。缶ジュースと合計で──」ゴソゴソ
愛「後輩から受け取れるわけないじゃん、現ナマ! これはアタシの奢り! ね?」ニッ
栞子「ジュースとサンドイッチで懐柔されるつもりはありませんし、無償で何かを受け取るわけにはいきません」ズイッ
愛「……ん! わかった。じゃあ受け取るよ。ありがと、三船っち。ごめんね? 無理矢理払わせちゃって」 栞子「いいえ、謝る必要はありません。食べる気がなければお金も払いませんので」
愛「あっははは! そりゃそうだ!」ケラケラ
栞子「……生徒会の仕事がありますので、時間は長くとれません。それでもいいなら、お話、お伺いします」
愛「まーまーそう肩に力入れないでさ! 詰まんなかったらすぐ仕事に戻っていいよ! じゃあ三船っちってさ、何か好きな食べ物ある?」
栞子「……は?」
愛「ん? 好きな食べ物の話。アタシはおばーちゃんのぬか漬けが大好きなんだ! 三船っちは?」
栞子「……特に、好き嫌いは……ありません」
愛「ほんと!? すげーじゃん! アタシもない方だとは思うんだけど、なすびだけは食べられないんだよ!」
栞子「そうなんですか」 愛「こう、ぐじゅぐじゅ! ってなる食感がもうだめで背筋がぞわぞわーってなる!」
栞子「……ぬか漬け好きなのになすびは食べないのですか」
愛「ぬか漬けなら食べるよ?」キョトン
栞子「……は?」
愛「あっははは! それ言うとみんなおんなじ顔するんだよ! ウケる!!」
栞子「いやでも矛盾してますよ、だってなすびの食感がダメなのになすびのぬか漬けは食べるって」
愛「いやそれがイケるんだって! おばーちゃんのぬか漬けはほんと美味しいんだって!」
栞子「いやでも好き嫌いの理由が食感であって味じゃないなら──」
愛「だからそこがおばーちゃんのぬか漬けが美味しいところなんだよ! まま、サンドイッチ食べながら聞いてよ──」
ワイワイ ワイワイ…… ──最終下校時刻になりました。校内に残っている生徒は──
愛「あり? もうこんな時間かー」
栞子「はっ! しまった、私としたことが! 仕事が全然できてない!!」
愛「あーごめん! アタシがついつい話し込んじゃったから! ごめん!」
栞子「えっ? あ、謝らないでください、私が我を忘れて話を──あっ!」
愛「ふふーん、我を忘れるほど愛さんとのお話、楽しかったんだね?」
栞子「! な、ち、違います! 貴女のお話にはツッコミどころが多くてつい……!」
愛「愛さんは楽しかったよ、しおってぃーとのお喋り」ニッ
栞子「え」
愛「アタシの話のツッコミどころに全部反応してくれるんだもん! こんなに上手に突っ込んでくれる人もそういないぜ?」 栞子(わ、私と話をして楽しい? そんな人、初めてです……)
栞子「あ、う……そ、それにその、なんですか『しおってぃー』って」
愛「ん? ニックネーム。友達の中で語感が良いヤツ思いついたらそう呼ぶようにしてる」
栞子「と、友達? 私と? 宮下さんが?」
愛「そうだよ? もう友達じゃん。それに苗字呼びなんてやだなぁ他人行儀で!」
栞子「え、あ。えっと、あの、では、なんと呼べば」
愛「じゃあ愛さんの事は『愛』って気軽に呼んでよ!」
栞子「上級生に呼び捨てなんてできません」
愛「そうかな? アタシカリンとか呼び捨ててるけど……」 栞子「……では、名前にさん付け、で」
愛「お? 愛さんの事愛さんって呼んでくれるの?」
栞子「宮下さんは自分の事も名前にさん付けをする──」ピト
愛「違う違う。愛さんは『愛さん』だよ」ニッ
栞子「……指を唇の近くから離してください」
愛「ほーい」スッ
栞子「……おほん。では──」
ハズムココロ トブヨウナテンション サアコネクト シヨ
栞子「!?」ドキッ
愛「あっ! りなりーから電話だ! ちょっちゴメンね!」ピッ
愛「あ、りなりー? どしたん? うん、うん──」 栞子(い、一体……一体なんなんです……!? 突然現れたかと思ったら、こんなことに……)
栞子(でも……こんな風に、放課後を過ごしたのは初めてです……友達……)
栞子(ランジュとは確かに腐れ縁ですが……こんな風に心穏やかに楽しく過ごせたのは……)
栞子(みやした、いいえ、愛さん……)
愛「ん、わかった! 愛さん今家に居ないから、一旦帰ってからそっち行くね! おけまる、あとでねぃ」ピッ
栞子「あの、えっと──」
愛「ごめんしおってぃー! 急用だ! 急いで家に帰らなくちゃ! ゴミ捨てといてくれる!?」カキカキ バタバタ
栞子「え? え? ええ?」
愛「ごめんね! じゃっ!」カサ ダッシュ
栞子「へ……?」ポカーン 栞子「帰……った?」
栞子(……宮下さんが去って行った後の生徒会室は、来る前と何も変わらないはずなのに、妙に、妙に……寂しい、と思った)
栞子「……」ソッ
栞子(ほんの数秒前まで彼女が座っていたソファに触れる。僅かにまだ暖かくて、彼女が居たことと、彼女と過ごしていた時間が脳裏に浮かぶ)
栞子「……さみしい? そんな、私が寂しいだなんて」フルフル
栞子(我に返って呟きます。寂しい? いいえ、ただ、元の生徒会室に戻っただけだというのに)
栞子「……名前、呼べませんでしたね」ガサガサ
栞子(たぶん、これからも呼ぶことは無いのだと思います。たまたま時間が上手くかみ合っただけで、宮下さんもきっと忙しい人だから)
栞子(私とわざわざ話に来たのは、ほんの気まぐれ。だから、今日、たまたまの話)
栞子(そう思って、食べきったサンドイッチの包みと、空き缶を拾い上げる)ヒラッ 栞子「メモ……?」
栞子(空き缶を持ち上げると同時に、紙切れが一枚落ちました)
栞子「なんでしょう、これ……」カサ
『──××××××× ←これ、愛さんのラインID! 登録よろ!』
栞子(文字は所謂『ギャル』の人が描くような、書き順も止めも払いもないような、踊り狂った文字)
栞子(でも。私はそれをなぜか大切に、皴がつかないようにクリアファイルに挟んで鞄の中にしまいました)
栞子(……ごみを捨てて、私も帰りましょう)
栞子(サンドイッチの包みは生徒会室のゴミ箱に。空き缶は、校内のゴミ捨て場に行かないと──) ──虹ヶ咲学園 三年生教室前廊下
栞子(生徒会室から最寄りで缶が捨てられる場所は──三年生の教室の階のゴミ捨て場ですね)スタスタ
「──ほんと──なんだけど──」
「わかる──マジ──しいよね──」
栞子(まだ教室に誰かいるのですね。私からも少し呼びかけておきましょう)スタスタ
「三船、あいつほんと何様なんだよ」
「ウザいんだよね、あいつ。この前もリンコ、あいつに『貴女の適性は選手ではなくマネージャーで輝きます』とか言われてさ」
「めっちゃ泣いてたよね。それって選手としてはダメって事じゃん」
「あいつ前の生徒会長引きずり降ろしてイキってんじゃない?」 栞子(私の話、ですか──リンコ……橘凛子さん。バレー部所属でしたが、選手としての適性は高くはありませんでした)
栞子(ですが、彼女の僅かな情報から冷静に分析して癖や弱点を見抜く力を活かすなら──)
栞子(選手としてより前線から一歩引いてマネージャーとして活躍した方がきっと輝けるはずです)
栞子(……いいえ、それも彼女にとっては時間が経たねばわかりません。今はまだ漠然としているでしょうが……きっと最後には幸せになれるはずです)
栞子「失礼します。既にもう最終下校時刻は過ぎていますよ。先生の見回りの前に下校した方が良いかと思います」ガラッ
栞子(私は傷つかない。これは私にしかできない、たった一つの冴えたやり方なのですから)
──────
────
── 栞子「ふぅ……」
栞子(物凄い剣幕で睨まれましたが、とりあえずは帰ってくれました。言いたい事があるのなら、直接言ってくれれば)
栞子「さっさとごみを捨てて帰りましょう……ん?」
栞子(なんでしょう、ゴミ箱の、裏……壁とゴミ箱に挟まって、何か……)グイッ
栞子「──っ!」
栞子(私の、体操服──破かれて……ぼろぼろに……)
栞子(……そうですよね。面と向かって人を傷つけて。恨みを買えば、当然こういうことになるのは、あり得る話です)
栞子(……)ギュッ
栞子(大丈夫。私は、大丈夫。誰かを否定して自分の意見を推し進めようとしたのなら、これは当然の報い)
栞子(私は立ち止まったりしない。これくらいの事では、くじけない)
栞子「すぅー……はぁー……」 栞子(目を閉じて深呼吸。大丈夫。誰もが幸せな学園生活を送る為なら、私はなんだってする……)
栞子(これは持って帰って処分しましょう。学内で見つかっては……ややこしいことになるだけです)
栞子(私はボロボロになった体操服を鞄に無造作に詰め込みました)
栞子(大丈夫、悲しくなんてない。これは当然の報いだから──自分にそう、言い聞かせて) 栞子だけじゃなくてスクスタ世界線のモブが妙にリアルに近いクズだから本当に嫌い 侑とか副会長とかいるからアニメ世界線じゃないのかこれ まあ実際栞子のやってることは自分のしたいことをやりたい人からしたらいい迷惑だからな、善人面して被害者ぶってるけど 同好会に部活紹介教えないのも同じ虐めだからな、虐められても副会長に嫌われても当然だろうに アニメの世界線にもしも栞子がいたら?というストーリーでいいのかな
しかし副会長なら栞子めっちゃ嫌いそう アニメの世界のモブはみんな同好会に好意的なので存在自体がもう受け入れられないだろうな栞子 学校説明会って長くても普通4時間くらいんじゃね?
学問別の紹介までがあったら部活用の時間は結構減ってるし、選抜しても仕方ないだと思うんだけどな >>62
最終的に希望する部から選抜になるというなら仕方ないけど、自分が嫌ってるからそもそも通知しないというのは論外 同じ方向性の僕勉の桐須真冬が人気一位な事を考えると、
あれを参考にきっちり作れば平気なのでは? >>64
さぁ、そもそもスクドルだけが誘われなかったか、各部への案内自体が存在するのかは触れてないんだけどね
希望上げるだけで参加できたようなもんだし、説明会を校内放送やらで告知して同好会がスクフェス準備やらで気づけなかった可能性もあるんだろう 自分が始めに手を出して殴り返されてるだけだからな、同情の余地なしだわ
まあスクスタ通り、面の皮が厚い栞子と自分がよければメンバーの被害を省みない愛さんの再現でいいんじゃないか テーマ上荒れるのはある程度仕方ないかもだけど完結までは自重して これは栞子を虐めてる子達にキレてるのか、それとも何か誤解があって栞子にキレてるのか、どちらでも楽しみ 茸さんここでやらないで
議論できるスレ腐るほどあるんだから こういうとこで時と場所えらばずレスバする人って虐められる理由ありそうw 侑ちゃんと栞子が同じ時空にいるんか…?
μ'sとAqoursとかどうなってんだろこれ、楽しみ あいりな成立済みからのしおあい!!!!?
続きが楽しみです!!!!! ──────
────
──
栞子(それからというもの、私がスマホの画面を見るたびに、今までほとんど使っていなかったトークアプリには──)
栞子(必ず通知のバッチがついているようになりました)
栞子(内容は大したものではない。今日の晩御飯が美味しいとか、ネイルがキレイに乗ったから見てくれとか)
栞子(はんぺんという白い子猫の写真だとか、彼女のお婆様と散歩したときの風景の写真だとか)
栞子(そんな、他愛のないものでした。私は彼女に聞きました。なぜ、そんなことを私に話すのですか、と) 三船栞子:どうして私にそんなことを話すのですか?
あい:だってしおってぃー愛さんの事なんにも知らないでしょ?
あい:事故紹介だよ!
あい:あ、自己紹介www 草w
三船栞子:いいえ、貴女の事はよく知っています。ですから自己紹介なんて不要では?
あい:実際に愛さんから聞くのと、知識として知ってるのは違うっしょ?
三船栞子:それは確かに、そうですが あい:じゃーそういうこと!
あい:スタンプ
あい:スタンプ
あい:スタンプ
あい:スタンプ
三船栞子:待ってください。そんなに何度も同じスタンプを使わなくてもちゃんと見えていますよ
あい:スタンプ
あい:スタンプ
三船栞子:宮下さん
あい:www 三船栞子:それにそのwはなんですか?
あい:え? なんか良く分んないけど、楽しい時に使うヤツ
三船栞子:なるほど ではさっきの 草w は?
あい:それは爆笑してる感じのやつ!
三船栞子:そうなんですか
あい:っていうかしおってぃー、こういうの全然使わないの?
三船栞子:はい。このアプリも、ケータイを買った時に店員さんが入れてくれたものだったので
あい:へー
あい:じゃ今週末アタシと遊びに行かね?
三船栞子:え? ──休日 待ち合わせ場所
栞子(……おかしい。私の知っている宮下愛さんは、こんな風に暇な人ではないはず……)
──実際に愛さんから聞くのと、知識として知ってるのは違うっしょ?
栞子(あ……確かに……。私が知っている宮下愛さんは、あくまで知識でしかない……本当の宮下愛さんの事を、私は何も知らないんだ)
栞子(ですが……私と宮下さんの間に、共通点なんかない。共通の趣味だってない……一体、何をするのでしょうか)
愛「あり? しおってぃーもう来てんの?」ヒョコ
栞子「きゃあ!?」ドキッ
愛「おおっ? びっくりした?」
栞子「お、驚きました! 急に後ろから声を掛けるのは止めてください!」 愛「やーごめんごめん。一応集合の十分前とはいえ、まさかもう来てるとは」
栞子「上級生と待ち合わせているのですから、下の者が先に来ているのは当然です」
愛「はえー、偉いねしおってぃー。アタシの友達、年下でも平気で十分十五分遅れてくる奴いるよ?」
栞子「それは宮下さんに対して敬意がないのです。親しき中にも礼儀あり、です」
愛「あははは! 違いないね!」
栞子「宮下さんも宮下さんです。注意したりはしないのですか?」
愛「注意? その発想はなかったな……今度その子にガチでキレてみよっか! あははははは!」 栞子「……いえ、宮下さんのような明るくて優しい人が本気で怒ると取り返しがつかないがつかないと言いますから、止めておいた方がいいかもしれませんね」
愛「アタシが怒ったって大して怖くないよ? エマっちとかカナちゃんとかがキレた方が絶対怖いって」
栞子(一瞬いつも穏やかにほほ笑んでいるヴェルデさんや、睡魔に囚われながらもどこか優しい近江さんの表情を思い浮かべます)
栞子(もし彼女たちが本気で私を糾弾したら。眦を吊り上げ、目を限界まで開いて私に怒号を飛ばして来たら……)
栞子「それでも私は、スクールアイドルなんて……スクールアイドル、なんて……」ガクガク
愛「しおってぃー!? ごめん! なんかすっげえ地雷踏み抜いたね愛さん!?」
栞子「スクールアイドルなんて、くだらないんです……スクールアイドルなんて存在しなければ、姉さんは……姉さんは……!」ギュッ
愛「……しおってぃー」ポス
栞子「!」ビクッ 愛「ごめん、愛さん、嫌な事言っちゃったね」
栞子「ぁ……ちが、違います、いえっ、あの!」バッ
愛「でも、今日は前と一緒! そういうの、抜き! ほら行こうぜしおってぃー!」
栞子「あっ! ちょ、ちょっと宮下さん、待ってください!」
──────
────
──
コソコソ
璃奈「……」
果林「璃奈ちゃん、その、愛はああいう人間だから……人たらしというか、タチが悪いというか……」 璃奈「別に怒ってない。三船さんと出掛けるっていうのは、愛さんから聞いてる」
果林(えっ!?)
璃奈「ずっと三船さんの事を悩んでたし、私も気にしてた」
果林(この子たち、ほんと良い子ちゃんよね……同好会の活動、こんなに邪魔されて。それでもあの子の事を気に掛けるなんて)
璃奈「私は情報科だからクラスは違うけど……三船さんがいつも一人なのは、知ってる」
果林(……ふむ)
果林「それで?」
璃奈「一人が悲しい事、私もわかる。当時はそう思ってなくても、今思えば感覚がマヒしてただけで、今あんなことになったら私──」
果林「大丈夫。もう璃奈ちゃんは独りじゃない。愛が居る。私もいるし、同好会の皆もいるし、クラスの友達もファンもいる」ニコ
璃奈「うん。だから、もう寂しくないよ。璃奈ちゃんボード『むんっ』」 果林(この子も別にコミュ障とか人との関わり合いが嫌とか、そういう性格の子じゃないものね)
果林(……金髪ギャルの上級生にいきなり声かけられて、ビビらず『お友達と行ってください』ってジョイポリの割引券差し出せるくらいには豪胆だし)
璃奈「?」キョトン
果林「愛が愛なら、璃奈ちゃんも璃奈ちゃんよね……似た者同士というか……」ハァ
璃奈「……?」キョトン
果林「どうする、璃奈ちゃん? このまま歩夢ちゃんみたいに後、つける?」
璃奈「つけない。今日はたまたま果林さんと遊ぶ約束をして、たまたま居合わせただけ。全部たまたま」
果林(……愛が毎日遠回りしてでも璃奈ちゃん家まで送る気持ちわかるわ。カワイイ……)
果林「じゃあ今日は愛が妬くくらい、楽しい半日を過ごしましょうか」
璃奈「うん──あ、べ、別に私は妬いてない。璃奈ちゃんボード『ぷんぷん』」
果林「うふふっ、そうね」 ──────
────
──
栞子「あの、宮下さん、どこへ──」
愛「しおってぃー、歌は得意?」
栞子「歌ですか? 一応、それなりには」
愛「うっしカラオケ決定! 歌うぜ歌うぜ〜!」
栞子「か、カラオケ? 私、そんなところ行った事ありません」
愛「マジ? そりゃいい機会だ! 絶対楽しいから、損はさせないよ!」
栞子「はぁ……」 ──カラオケボックス
愛「最新機種の部屋が空いててよかった〜! ちっと狭いけど!」
栞子(……言われるがままにコップにジュースを注いで、言われるがままに部屋にやってきてしまった)
愛「ほい、しおってぃーコレ使い方わかる?」ズイ
栞子「えっと、これで曲を検索するのですね? でも私、流行の曲なんて何一つ知りません」
愛「別に流行の曲を歌わなくちゃなんないなんて決まりないって! 好きな曲入れていいよ!」
栞子「え、と……その」
栞子(いざ宮下さんの目の前で歌うとなると、急に恥ずかしさがこみ上げてきました) 栞子(どもってしまったらどうしよう。音程を外してしまったらどうしよう。宮下さんの知らない曲を歌って、白けさせてしまったらどうしよう)
栞子(俯いてタブレットを持ったまま凍り付く私を、宮下さんが覗き込んでくれます)
愛「? 思いつかない? じゃあ愛さんがトップバッターいくぜ! しおってぃーが知ってそうな歌は〜……」ピッピッピ
栞子(慣れた手つきでタブレットを操作する宮下さん。賑やかなテレビ画面が静まり、曲名が浮かび上がります)
愛「へへっ、ご笑覧くだせえ! 宮下愛で──そばかすっ」
栞子(マイクを握ってスイッチを入れる宮下さん。立ち上がったかと思うと、全身でリズムを取り出します)
栞子(あまりテレビを見ない私でも聴いたことのある特徴的なイントロから──)
愛「──!」 栞子(宮下さんの歌が始まる。伸びやかでパワフル。体を動かして歌っているのにブレない歌唱)
愛「〜──っ!」
栞子(楽しそうに歌う宮下さんを見て、私も自然と口ずさみたくなりました。リズムは解りますし、歌詞は覚えていなくてもテレビ画面に表示されています)
栞子(曲はサビに入る。歌詞は失恋を明るく歌いあげたもので、恋なんてしたことのない私でも楽しく歌えそうで──)
栞子「〜〜──」
愛「あっ、しおってぃーも知ってた!?」キーン!
栞子「!? み、宮下さん、声、声!」
愛「しおってぃーも一生に歌おうぜ! ほい! マイク!」キーン! 栞子(ぐい、と差し出されるマイク。ですが、この曲は宮下さんが歌いたい曲で──)
愛「ほら! 二番始まる!」グイッ
栞子「ひゃ──!?」
栞子(宮下さんに腕を掴まれて、立ち上がる。でも、私は抵抗はしなかった。むしろ両足に力を入れて、一緒に立ち上がったくらい)
愛「こわしてなおして わかってるのに──」
栞子「こわしてなおして わかってるのに──」
栞子(宮下さんと一緒なら、恥ずかしくはなかった。隣で歌う宮下さんが、心なしか一人で歌っているときより嬉しそうで……)
栞子(たのしい) 愛「ひゃーたっかいなぁこの曲! でも超気持ちいい、ねっ!」ボスッ
栞子(私たちが歌い上げると、一瞬の静寂の後テレビはまた賑やかになる。宮下さんは全身をソファに預けると、ジュースをごくごくと飲んでいて)
栞子(たのしい……私も何か入れよう。宮下さんが知ってそうな、曲)
栞子(……あ。私。何も知らないんだ。宮下さんの事。好きな食べ物と嫌いな食べ物以外、何も知らないんだ)
愛「ん? どったのしおってぃー? 突っ立ったまんまで。座ったら?」
栞子「あの。宮下さんは、どんな曲をよく聞くんですか?」ボスッ
愛「ん? アタシ? アタシかぁ……最近は老人ホームで歌うために演歌を聴いてるかな」
栞子「へっ? 老人ホーム? 歌う? 演歌?」
愛「ね、言ったっしょ? 知識だけじゃアタシの事は何もわからないって」ニヤッ
栞子「ぁ……」
栞子(意地悪く笑う宮下さんに、私は返す言葉がありませんでした) 愛「でもさ、それはアタシもおんなじ。今日やっと知ったよ? しおってぃー、意外に高音出るんだね!」
栞子「あ、え、と。あ、ありがとう、ございます……」
愛「ねえ。教えてよ、しおってぃーの事。どんな表情をして歌うの? どんな曲を聴くの?」ズイッ
栞子「ちょ、宮下さん、近いです!」
愛「へへへ、楽しいでしょ、今」
栞子「ふぇ……?」
愛「不安だったでしょ。ほんの四日前まで、アタシとしおってぃーに関係なんてなくて。急に二人きりで、カラオケなんてきて」
栞子「い、いえ、そんな、ことは……」
栞子(語尾が弱まるのが、何よりの証拠でした。それでも宮下さんは笑顔を絶やしません) 愛「アタシさ、こういう、人を心の底から楽しませるのが大好きなんだ! だってそういうの、めっちゃ楽しいじゃん?」
栞子「人を、楽しませる……のが、すき?」
愛「そう! アタシ、太陽みたいにたくさんの人を明るくしたい。笑顔にしたい。でも同時に、アタシも楽しいことがしたい!」
愛「それってさ、うぇいうぇいの関係っしょ?」
栞子「うぇい、うぇい……? Win-Winの関係、では?」
愛「うぇいうぇいの関係、だよ! さっ、しおってぃー、聞かせて? 愛さんに。しおってぃーの歌!」
栞子「……はい。じゃあ。えと。こほん、ご照覧あれ──」
栞子(迷いなく、迷う手つきで私は曲名を入力する。私が知っている曲。私の好きな曲を、宮下さんに──)
愛「おおっ!? Kiroro!?」
栞子(テレビ画面に表示された曲名は──『未来へ』) ──────
────
──
愛「いっやー楽しかったぁ! 良かった! めっちゃ良かったよしおってぃー! 超よかった!」ノビー
栞子「いえ、お恥ずかしいです……あまり新しい曲は知らずで……両親が持っているCDを時々聞くくらいで」
愛「めっちゃ歌うまいじゃんしおってぃー、特に『愛をこめて花束を』とか宇多田ヒカルの『Beautiful World』とか! 痺れたよ!」
栞子「い、いえ、そんな……それに私、愛さんの色々な歌が聞けてとても嬉しかったです」
栞子「『世界で一番頑張ってる君に』とか、あの、PVと全く同じ動きをしていた『新宝島』にはもうその、ぷくくくっ」
愛「愛さんエアギターも中々いイケるクチでしょ? デッデッ おぉん! デデデデデレデレー」フリフリ
栞子「うふっ、止めてください、こんな街中で──ふふふふっ」 やっぱりWin-Winでうぇいうぇいなんだよなあ… 愛「あははは! 絶対ウケるんだよコレ! あはははは! っと、さてさて次は──」
「あれ? みやちー?」
「あいあいなにやってんの?」
栞子「!」
愛「お? なっちゃん? かおりんも! きぐーじゃん!」ブンブン
栞子(あれは、愛さんのお友達……同じように派手な服装、派手な髪……)ドクン
──三船、あいつほんと何様なんだよ。
──ウザいんだよね、あいつ。
栞子(あ……あ……っ、こわい。もし、愛さんの前で──!)ドクンドクンドクン
栞子(急に動悸が激しくなる。ボロボロに破かれた体操服が、脳裏に浮かぶ。怖い。どうしよう。どうしようもできない──!)ドクンドクンドクン 「えーなに? あっ! せいとかいちょーじゃん! こんー!」フリフリ
「こんちは、せいとかいちょー! なに? あいあいまた年下連れまわしてんの? あはははは、ウケる!」ケラケラ
栞子「ぇ……?」ドクン……ドクン……
愛「はぁー? なに? またかおりんはアタシのことロリコン扱いかよ!?」ガシッ
「うおーいてー! ぼーりょく反対! 生徒会長、これは校則違反ですよ! 停学ですよ停学!」ブンブン
「うひひひひ、かおりんちっこいからみやちーに手ぇ届いてないし!」ケラケラ
栞子「……あ、えと、これは、その。私はその、魅惑的ではなく……その、ロリータではなく」 愛「しおってぃーと遊んでんだよ! 見て分かれよちびすけ!」
「刺さる! その単語は刺さるから止めて!」
「あはははは、もうせいとかいちょー困ってんじゃん! 二人ともその悪ノリ止めなよー……くふふふっ!」
愛「ったく。あーあ、皆しおってぃーみたいに真面目で真っ直ぐなら良かったのに」
「なにさー、アタシたちが真面目じゃないとでもー?」
「会長さん困らせてる時点でもう不真面目っしょ」 愛「ほらもー行った行った! 今日はしおってぃーと二人で遊んでんだよ!」シッシッ
「うわっ! 天ちゃんに言いつけたろ!」
「あははは! でもかおりん、アタシたちそろそろ行かないと映画の時間ヤバイよ」
「あ! ほんとだ! まったねーあいあい! 三船っち!」
「じゃあまた学校でね!」
タタタタタタタ……
愛「おー! またガッコで!」
栞子「あの、今の方たちは……」ドキドキ 愛「ん、今の? なっちゃんとかおりん。私の友達だよ」
愛「ニコニコして私と声がちょっと似てる方がなっちゃん。アタシとタメ。かおりんはちっこい方。いっこ下」
栞子「あ、そ、そうなんですね……」ドキ ドキ ドキ
愛「──……」チラ
愛「よし、ちょっと休憩しよっか。飲み物買ってベンチで座ろうぜ」
栞子「えっ、あ、はい!」
栞子(良かった。嫌なことを思い出して、ちょっと気分が悪くなってしまいましたし、一休みしたいところでした) おつ
ちゃんとこういう背景書いてくれてたならまあ20章若干わからんことはないんやがな… しおあいの可能性を感じられますね!!!!!
続きが楽しみです!!!!! この陽キャ愛さんワイの同僚に似てるわ
なんであんなに明るく振る舞えるんや ──広場
愛「ほい、しおってぃー」スッ
栞子「あっ、ありがとうございます、えっと、お金──」
愛「ほんの小銭程度、アタシが出しとくよ」ニッ
栞子「……はい。ありがとう、ございます。戴きます」
愛「どーぞどーぞ! んぐ……っ」
栞子「んくっ……。あの、愛さん」
愛「ん?」 栞子「やはり私と遊ぶのは、止めた方がいいと思うのです」
愛「……どうして、そう思うの?」
栞子(愛さんはこちらを見ることなく、青い空を眺めて言いました)
栞子「私は、私が生徒会長として行っている行動は、およそ万人に受け入れられるものではありません」ウツムキ
愛「……」
栞子「だから、私を良く思わない人がいることは、当然です。──それによって生まれる謗りは甘んじて受け入れます。そして愛さん、貴女はスクールアイドル」
栞子「宮下愛さんといえば優しくて万人に受け入れられる太陽のような存在、というイメージが大切な部活動でしょう」
栞子「だから、私と一緒に居ることは、貴女の部活動にあまりいい影響を与えるとは思いません」 愛「……そっか。ありがと、しおってぃー。優しいんだね」ニコッ
栞子「違います! 私は私と愛さんが一緒に居ることが、適切ではないと言っているのです!」バッ
愛「呼び方」
栞子「え?」
愛「愛さんの事、愛さんって、呼んでる」
栞子「え──嘘。嘘です、ちゃんと宮下さんって──ぁ」
栞子(今気づいた。私、知らない間に、宮下さんの事、愛さんって……)カァァ
愛「ね、しおってぃー。しおってぃーは今、楽しい?」 栞子「な、今は、そんな事関係──」
愛「あるよ。とっても大事な事。だから正直に答えてよ」
栞子(逃げられない。この人が放つ光は、どれだけ臆病に逃げ回っても、その臆病さすらも抱きかかえて、照らしてしまう──)
栞子(ああ。どうしてこんなにも、陽の光に当たることが──)
栞子「……楽しい、です。愛さんを愛さんと呼ぶくらいに、間違えるくらいに」
愛「ふふふふっ、そっかそっか。じゃあいいじゃん。一緒に遊ぼうよ」
栞子「な、なぜですか。私とあなたは──」
愛「愛さんはスクールアイドルだけど、それ以前にただの『宮下愛』なんだよ」
栞子「え……」 愛「ただの『宮下愛』にはなっちゃんっていう友達がいる。かおりんっていう友達もいる」
愛「そしてしおってぃーも、アタシの友達。それを内包して、『スクールアイドルの宮下愛』なんだよ」
栞子「……」
愛「ね、しおってぃー。アタシはしおってぃーと、しおってぃーはアタシと。愛さんたちが仲良くなる才能は──適性は、ないと思う?」
栞子「な、そんな──そんなことは……私にはわかりませ──」
愛「ある。あるよ。アタシたちにはある。しおってぃー、今しおってぃーが抱えてる悩みなんてアタシにはまだわからない」
栞子「……それは」 愛「だから、今はこのベンチに、しおってぃーは悩みを置いて行こう。悩みを忘れてなんて、口で言うほど簡単じゃないのは知ってるから」
愛「忘れるんじゃなくてココに置いていくんだ。そしてアタシと一緒に楽しい事を探しに行こう。そしてまたこのベンチに来て、悩みを取りに来よう」
愛「その時も、愛さんは一緒にいる。一人で思い出すのは怖いかもしれない。不安かもしれない。でもその時に、愛さんを──」
愛「しおってぃーがアタシを友達だと思っているなら、少しはマシに思えるかもしんないぞ!」
栞子「ぁ……い、さん……」
愛「さ、一緒に楽しいことを探しに行こうじゃないか!」バッ グイッ
栞子「えっ、あっ! ちょ、ちょっと──」グンッ
愛「次はバッティングセンターだ! 愛さんの打撃みせてやんよー!」ニカッ
栞子「あ、あ、あ──愛さん!!」 栞子(声が震える。なんて人だ、この人はなんてことを、なんてことを言うのだろう)
栞子(それでも私が愛さんを呼ぶ声は、震えていた)
栞子(ぐんぐん前に進む風景に、視界がにじむ。私の足は止まらない。愛さんに連れられて、止まることなんてできない)
栞子(一度振り向いて、今まで座っていたベンチを見る)
栞子(……はい。今だけはあそこに置いて行きます。今だけはこの太陽の光を、全身で浴びていたいから──)
栞子「私を、楽しい所に連れて行ってください……!」
愛「合点承知の助!!」ニコッ ──────
────
──
愛「ふぃー、遊んだ遊んだ!」
栞子(カラオケ。バッティングセンター。その後は喫茶店で話をして、日が暮れ始めてゆっくりと二人で散歩して……)
栞子(近づいてくるのは、あの時のベンチ。あのベンチに一歩近づくたびに、えも言われぬ恐怖が蘇ります)
栞子(ゴミ箱の裏から見つかった、ズタズタの体操服)
栞子(仕方がない事とは言え、辛く苦しい、私を批判する言葉たち)
栞子(きっと独りなら、私は恐怖で一歩も動けなかったかもしれない)
栞子(それでも、それでも私は、愛さんの隣で、談笑しながら歩くことができる) 愛「ね、しおってぃー。今日一日、あー、まあ実際半日なんだけどさ、どうだった? 楽しかった?」
栞子(半日前の私なら、きっと何かと理由を付けてああでもないこうでもないと、今の私の気持ちを隠したでしょう)
栞子(けれど、今は違います──)
栞子「……はい。とても。こんな風に誰かと遊んだことは初めてで──こんなに楽しかったことは、初めてです」
愛「……」ブルッ
栞子「えっ? 愛さん?」
栞子(私の発言が終わるか終わらないか、彼女は俯いてぶるりと肩を震わせます。何か彼女を傷つける事を、言ってしまったのでしょうか──!?)
栞子「ご、ごめんなさい愛さん、私、何かとんでもない思い違いを──」
愛「愛さんもだ! 愛さんもめっっっちゃ楽しかった!!」ピョーン 栞子「きゃあ!?」
愛「愛さんも楽しかった! しおってぃーも楽しかった! アタシもしおってぃーも、おんなじ気もちだ! これってサイコーじゃない!?」
栞子「えっ!? えっ、は、はいっ、サイコーです!?」
愛「だよねだよね? 今日はほんとに楽しかった!」
栞子(今日一番じゃないかと思うほどに、弾ける笑顔を見せてくれる愛さん)
栞子(全身で楽しいを表現して、わたしもなんだか嬉しくなって、勇気が自然と湧いてきて)
栞子「愛さん。私、あのベンチに置いてきたものがあるんです」
愛「やった、やった──……うん、そうだね」 栞子(打って変わって、はちきれんばかりの笑顔から、心がきゅうと締め付けられるほど優しい微笑を浮かべる愛さん)
栞子(ああ。こんなにも。こんなにも──)
栞子「今からその置いてきたものを取りに行くのですが──一緒に、付いてきてくれますか?」
栞子(断られるなんて、思いもしなかった。だって私は、愛さんを──)
愛「アイアイサー! 愛だけに、ってね!!」 おつおつ
もしかして愛さんって友達多くて人情に厚くて誰からも好かれる人気者なのか…? いつタイトルが回収されるのかと思うと更新の度にドキドキする スレタイのお前か?は栞子をいじめていた子達に向けたものでありますように… 20章以降のサイコハート宮下のせいで忘れかけてたけど、愛さんって本来人の気持ちがわかる優しいキャラなんだよな… これは栞子を気にかけたイフの愛さん
よくスクスタであなたがいないと何もできないって言われるけど、あなた目線縛りがある以上キャラを自主的に動かす話が書きづらいんだろうな あなたちゃんが留学でいない間に部に移籍してたけどな・・・
やっぱアニガサキの愛さん最高よ 愛さんのかっこよさが堪りませんね!!!!!
続きが楽しみです!!!!! 三船家 栞子の部屋
栞子(まだ胸が、ドキドキしています……。カラオケ、バッティングセンター、喫茶店でおしゃべり、お散歩……)
栞子(高校生というとても重要な時期に……貴重な休日に、こんな、自分一人ただ楽しむことに甘えてしまって──)
──ね、言ったっしょ? 知識だけじゃアタシの事は何もわからないって。
栞子(違う。そうじゃない。私は今日、様々なことを知った。ひとつは、知識だけでは何もわからない、ということ) ──アタシさ、こういう、人を心の底から楽しませるのが大好きなんだ! だってそういうの、めっちゃ楽しいじゃん?
──そう! アタシ、太陽みたいにたくさんの人を明るくしたい。笑顔にしたい。でも同時に、アタシも楽しいことがしたい!
栞子(ひとつは、誰かを笑顔にできる人の生き様が、どれほど尊いものであるかということ)
──今はこのベンチに、しおってぃーは悩みを置いて行こう。
──そしてまたこのベンチに来て、悩みを取りに来よう。その時も、愛さんは一緒にいる。
栞子(ひとつは、ただ一緒に居てくれる人の、心強さを) 栞子(それらだけじゃない。もっとたくさんの、今の私にはうまく言語化できない事を今日知りました)
栞子(ただ楽しいことに甘えていた……そう思いましたが、本当に、そうなのでしょうか。)
栞子(いいえ。きっと違います。きっと今日の私は、何かが、どこかが、昨日とは違う……と思います)
栞子「……」
栞子(改めて夢想します。私が望む世界。それは誰もが幸せになれる世界。私の言う幸せとは、高校生活で誰もが悲しい思いをせずに卒業できる世界──)
栞子(皆が理想と現実の差に苦しむことなく、自分が持つ力を最大限に活かし、活躍し、『楽しかった』と胸を張って卒業できる世界──) 栞子(……愛さんは方法も、楽しいのカタチも、Win-Win……いいえ。うぇいうぇいの関係も。私とは何もかも違うけれど)
栞子(……それでも、今、今日私にそうしてくれたように、愛さんは大勢の人を幸せにしている。大勢の人から反感を買っている、私とは違う)
栞子(いいえ。愛さんのそれと私のそれは全く違う。比べるだけ何の意味もない。私には、愛さんのようにはできないから──)
栞子(私は、私にできる、たった一つのやり方を貫くしかない──その為に私は、耐える、耐えなくてはならない……)
栞子(ひどく心が痛んで、私は今の思考を振り捨てます。これではまるで悲劇のヒロイン気取りだ。私はそんな風に自分に酔ってはならない)
栞子「……止めましょう。こんなことを考えるのは」
栞子(それよりも。来週は部活動紹介の第五回ミーティング……まとめ上げた資料は問題ありません。後は──各部の理解を得るだけ) 栞子(ああ……うまく頭が回りません……今日は、疲れました……慣れない事をしたからでしょうか。ですが──)
栞子(すごく、充実した……一日……)
栞子(心地よい疲労感に体を預け、畳に倒れ込み少しだけ目を閉じようとした瞬間──)
栞子「ぁ……ッ」ゾクッ
栞子(畳に倒れ込んだ私の視界に飛び込んできたのは、かすかに開いた地袋から除く、丸められた体操服)
栞子(捨てようと思い、でも家族にバレないように処分する方法が思いつかなくて──)
栞子(取り合えず地袋に隠して放っておいたものが、飛び込んできて)
栞子「うっ──っぷ ぁ」
栞子(吐き気が全身を駆け巡る) 栞子「うっ、ぐっ!」
栞子(こんな風に、明確に悪意を持って嫌がらせを受けたのは初めてでした)
栞子「う──ぷっ」
栞子(しかし我慢、しなければ。やりたいことを真っ向から否定し、第三者の勝手な判断で新しい道を提示する……)
栞子(そういう言動をすれば、必ず、こういう事も起きるという事は、覚悟の上です)
栞子「ぉ、え──ぅぐっ」
栞子(込み上げてきたモノを、涙を流しながら嚥下します。これは私の望むみんなが幸せになれる世界の為で──)
栞子(私にとって当然の報い……)
栞子「はぁっ……はぁっ」 栞子(体を丸め、ただ声を殺し、吐き気と争う。眠気は吹っ飛んでしまった。喉がざらざらして、気持ちが悪い)
栞子「ぅ……うぅ……」
栞子(目を閉じて吐き気とのどの痛みに堪え、私は上体を起こしました)
栞子(眠気がもう一度襲ってくるまで、明日使うミーティング資料を──)
栞子「あ……スマホ……」
栞子「あい、さん……」スッ
栞子(スマホを買ってから初めて、私はスマホのトークアプリに、通知バッジ付いていて欲しいと思いながら電源ボタンを押しました)
栞子「……っ」
栞子(そうですよね。そんな都合いいわけ、ないですよね……) 栞子(ランジュは一先ずおいておいて……今身近にいる友達は愛さんだけだけれど──愛さんの友達は、それこそ数えることが無意味なくらいいる)
栞子(事実、通知バッジはなく、今日最後にアプリで話をした『じゃ、また明日学校で!』『はい、おやすみなさい』というやり取りだけでした)
栞子(……)ズキッ
栞子(一瞬、表現しがたいどろりとした感覚の何かが、私の心を埋め尽くしました)
栞子「いけません……集中、です。明日こそ、明日で、ミーティングを終わらせなければ──」
栞子(どろりとした何かを振り払う。集中。集中。私は、一人でも大丈夫──) おつおつ
本編でもこれをもう二周りくらい柔らかくしたくらいのことを描写してほしかった 栞子が何かして、その誤解で愛さんから睨まれ怒られて
栞子がいくら説明しても愛さんは分かってくれなくて
それで嫌われて疎遠になって正真正銘の一人ぼっちになって…
そんな展開は、やめてね… スレタイが虐めっ子に対してでも>>187でもどちらにしても楽しみ。ただ愛さんなら誤解の説明を受け入れないなんてことはないはず 展開予想なんか気にせず1の好きに書いてくれ
俺はそれが読みたい ──翌日 虹ヶ咲学園 第二視聴覚室付近廊下
果林「まあ、妥当と言えば妥当なのかしらね」
愛「アタシとカリンがミーティングに出る事?」
果林「ええ。侑は転科の件、せつ菜は身バレの危険がある、終身名誉部長のかすみちゃんは補修……そうなると次点で頼りになるのは──」
愛「ちょい待ち、カリンはなんで補修じゃないの?」
果林「エマに宿題を見てもらってるからよ」ニッコリ
愛「見『せ』ての間違いでは?」ケラケラ 果林「あの子にお願いしたら『果林ちゃん……頑張ろう?』って言って悲しそうな顔で見てくるの」
愛「は? マジで言ったの?」
果林「そうよ? 何よ、犬が棒に当たったみたいな顔して……。あんな顔されたら頼めないじゃない? それにエマと私は学科違うから案外被ってないのよ、宿題」
果林「で、学科が一緒の彼方に聞いたら『彼方ちゃんは果林ちゃんに見せる為に宿題してるんじゃないのサ』って断られるし」
愛「カリンには矜持とかないの」
果林「キョウジ? それがあると美容に良かったりするの?」
愛「その貪欲さを勉学に向けて」
果林「嫌よ、私こう見えて勉強しないで頭が良くなりたいってずっと思って生きてるんだから」
愛「っはぁあああああぁぁ……、しずくの方が良かったなぁ……」
果林「無茶言わないの。私だってしずくちゃんの方が適役だとは思うけど、あの子は演劇部の──」 演劇部部長「演劇部がどうかしたかな」スッ
しずく「果林さん、愛さん、お疲れさまです! あの、かすみさんの件、本当になんというか、すみません……私がもうちょっと勉強を見ていてあげれば……!」
愛「部長さんちーっす! しずく、お疲れ! あれはかすかすのペケだよ! しずくが気にすることは何もないって!」ケラケラ
果林「どうも部長さん、こんにちは。しずくちゃん、お疲れ様。予定通りそっちで参加するのね」ニコ
しずく「はい。以前に部長が声をかけてくださったので。同好会の方は愛さんや果林さんが出るから安心ですね!」
愛(しずくは良い子だなぁ)ニッコリ
果林「なにかしら、その笑顔は」
部長「こんにちは朝香さん、宮下さん。……どうやら生徒会の手違いで、全ての同好会に部活紹介への参加申請用紙が行ってなかったみたいだね」
果林「ええ。生徒会もかなり忙しいみたいだし、こういうミスも仕方ないわ」
部長「私も『ウチのしずく』がスクールアイドル同好会での部活紹介の話をしていないから、おかしいなと思っていたのだけど……」
果林「」ピクッ
愛「」ピキッ 部長「他の同好会も集まってこないものだから、てっきり同好会は同好会で例年とは違って、別ミーティングかと思っていたけれど」
部長「こういうことだったとはね。他の部もそんな風に思っていたらしいし、同好会側も全同好会が部活動紹介に前向きというわけでもないからね」
部長「で、部内でも考えた結果、しずくも今回の五回目のミーティングから参加してもらう事にしたのだけれど──」
部長「バッティングしたようで……すまないね宮下さん」ニコ
愛「…………まあそうっすよね! なんてったって演劇部が誇る『ニジガクの理想の大女優(ヒロイン)』なんて言われてますし? ね、カリンパイセン?」ニッコリ
果林「そうね、愛ちゃん? 『ニジガクのオードリー』なんて異名もあるくらいだから、今後のことも考えてこういう事に参加して、予め教育しておくのも大切な事よね」
部長「ああ、しずくは過去一番の期待のルーキーだよ。この子の演技力はずば抜けてる」
しずく「ぅ、あ、そんな私、まだまだ未熟で……は、恥ずかしいです……」カァァ 部長「しずくには実際期待しているよ。いずれ私の跡を──」
愛「あれぇ!?」
しずく「!? あ、愛さん? 急に大きな声を出して……どうしました?」
愛「んんーっ? カリンパイセン、『演劇部の桜坂しずく』の二つ名なのに『スクールアイドル同好会の桜坂しずく』って感じがするのは、なんでですかねぇ〜?」
部長「」ピクッ
果林「どちらも『ウチのしずく』ちゃんの持ち歌からきているからかしら?」
果林「ふふっ、どうやら大勢の人にとってしずくちゃんは『スクールアイドル』としてのイメージが強いみたいね?」
果林「」ニコッ
部長「」ニコニコ
愛「」ニンマリ バチバチするのかと思ったけど今のところしずくいじりな感じか しずく「も、もう! 皆さん止めてください!! 私は──」
ザワザワ…… ザワザワ……
ガヤガヤ…… ガヤガヤ……
しずく「!?」クルッ
──部室棟のプリンスよ!
──なになに!? どういうこと!? 誰かをめぐって言い争い!?
──やっば、絵面マッブ! マッブ!
──はぁ……果林サマ素敵……
──部長ほんと美人……
──愛ちゃんほんと可愛いのにカッコイイ……きゅんきゅんする……
──見て、挟まれて困ってるしずくちゃん、もう抱きしめたい…… なんかこうやってDDの二人が演劇部部長としずくの事で牽制しあってたイラストTwitterで見たな
もしかしてそのネタかな? 果林「」ニコニコ
部長「」ニコニコ
愛「」ニコニコ
しずく「〜っ! もう! 三人とも、いい加減にしてくださいっ!!」プンスカ
三人「「「はーい」」」ヘラッ
──ミーティングを始めますので、皆さん入室してください。
しずく「!」
愛「じゃあ入ろうしずく!」
しずく「はっ、はい! 部長、先に資料を取っておきますね!」 部長「しずくは良い子だね……」
果林「本当にね。……ところでちょっと真面目な話、いいかしら?」
部長「何かな?」
果林「いえ、私の聞き間違いじゃなければ……このミーティング、五回もやってるのよね?」
部長「……そうだよ、朝香さん」
果林「それは、私もこういう行事には明るくないのだけど……私の感覚だと一回とか二回で終わるものじゃないかしら?」
部長「ああ、そうだね。私はこの部活紹介のミーティングには去年も出てるけど、その時は二度で終わっていたよ」
果林「……そう、ありがとう部長さん。じゃあ行きましょうか」スタスタ
部長「ふぅ……今年の生徒会もとてもよく頑張っているとは、思うんだけどね」スタスタ ──第二視聴覚室
愛「カリン、部長サンと何話してたの?」スッ
果林「ん? ウチのしずくをよろしくねって。これが資料ね、ありがとう。……うわ、なんだかクラクラするわ」
愛「そう言わずにちゃんと読んで。カリンでもわかるくらいにちゃんと纏めてあるから」
果林「あーうん、でも駄目なのよ私、こういうお堅い資料とか言われるともう拒否反応示してる」
愛「カリン今だけ演劇部行ってきて。しずくと交代してきて」ピシャリ
果林「冗談よ、ちゃんと読むから……」ペラッ
栞子「──皆さんお手元に資料は届いていますか? それでは部活紹介についての第五回ミーティングを始めたいと思います……が」
栞子「その前に生徒会から謝罪をいたします。同好会の皆さん、この度は生徒会の不手際で参加申請用紙が回っておらず、申し訳ありませんでした」ペコリ
副会長「重ねて申し訳ありません。先週の内に各同好会の部長の方々に申請書をお渡しさせていただきましたが、短い期間で提出までしていただき、ありがとうございました」ペコリ 愛(あー、やっぱそうだったんだ。同好会にはないのかなーってアタシもちょっと思ってた)ボソボソ
果林(そうなのね。まあ、生徒会もこの時期忙しいとはせつ菜も言っていたし、仕方ないわ)ボソボソ
栞子「……それでは改めて、第五回ミーティングを始めたいと思います。皆さん、手元の資料をご覧ください」
栞子「こちらは前回のミーティング時に出た問題点を修正した最新版です」
果林(これがそれね。何々……参加する部が多く、一つの部活に割ける時間が少なくなる……ふんふん……それと……?)
愛(これしおってぃーが作ったんだ。凄いや、アタシたちみたいな途中参加組もわかるように端的にまとめてある)
「また資料を読まないといけないの?」
愛(ん?)
果林(あら、私と同じタイプの人間かしら)
栞子「はい。前回の修正に加えて、改善点も盛り込んでいます。その点もこれからご説明します」 愛(空気見てると、しおってぃー、ってか生徒会側の人たち、かなりキツそうだ……険悪な感じだし)
果林(見ている限り……生徒会と部側で話が全くまとまってない、といったところかしら。だから五度もミーティングをしているのね)
副会長「それでは最初のページをご確認──」
「待ってよ。改善点って言うけど、今回で決定版になるの? このミーティング、もう五回目ですよ。去年は二回で済んだって話を聞いてます!」
副会長「すみません、貴重な時間をいただいていることは把握しています。申し訳ありません。ですが、生徒会として守り通さねばならない所がありまして──」
愛(言い方に棘、あんね。ちょこっとだけど。しかもそれは不満を述べる部側の人間へじゃない)ボソボソ
愛(生徒会側、もっと言うなら、一瞬動いた視線の先、会長……しおってぃーに、だ)ボソボソ
果林(副会長さんと三船さんとでかなり意見が割れてるってせつ菜も言っていた……)ボソボソ
果林(このミーティングの内容にも、それは波及しているみたいね……っていうか『シオッティー』って何かしら)ボソボソ
愛(三船っちの事)ボソボソ 副会長「ただ、生徒会としても新入生にとっても実りの多い説明会にしたいと思っております。どうか、今一度ご協力をお願いします」
「それも毎回聞いてます! でも、修正とか改善とか言って、結局私達の希望は全然通ってないですよね? 生徒会側が決めたことがほとんどじゃないですか?」
愛(さっきのバレー部のぶちょーとは別の人……あれはソフトボール部の主将だ)
果林(ねえ愛、この中に知らない人いるの?)ボソボソ
愛(や、大体みんな友達だね)ボソボソ
果林(流石は部室棟のヒーロー……ってかこの資料ほんとわかりやすいわね……)ボソボソ
愛(言ったっしょ? カリンでもわかるって)ボソボソ
果林(こ、言葉が刺々しいわ……) 栞子「──その点について、私が最も重要視していることを、同好会の皆さんへのご説明を兼ねて改めてお話します」
副会長「──ッ!」キッ
「「!」」
愛「あ……」
愛(しおってぃー、今……私、って言った……)
果林(生徒会、じゃないのね、三船さん。その単語を用いた意図があって、敢えてそう言ってるのね) ──────
しずく(あの、部長。今三船さんは『私』と言いましたよね……?)ボソボソ
部長(ああ、そうだよしずく。彼女はいつも、この話の時は『生徒会』ではなく『私』と言うんだ。彼女に何か考えがあるのかどうかはわからないけれどね)フゥ…
しずく(これはつまり、生徒会としても承認できていない事……まさか、三船さんが一人で推し進めていることなのですか?)ボソボソ
部長(しずくもそう思ったんだね。うん、私もそうだよ。あくまで憶測の域を出ないけれど、そうではないかと思うんだ)ボソボソ
────── 栞子「大前提として、新入生にはこの学園生活の中で、将来に向けてはっきりとした道筋を見つけてもらいたいと思っています」
栞子「そのためには、何が自分に向いているか、自分にはどんな適性があるのか、そういったものを見つけやすい環境を作るべきです」
栞子「そもそもある程度将来を見据えているからこそ、専門学部が充実している虹ヶ咲学園に興味を持っているのでしょう」
栞子「ですから、部活動も個性に合ったものを選びやすいように紹介したいのです」
愛(しおってぃーはよどみなく長台詞を言い切った。もちろん、この資料の中にこんな文章はない)
愛(つまりこれは、しおってぃーが常日頃から掲げている理想なんだ……)
果林(三船さんの言い方は一言で言えば断定的。一見協力を呼び掛けているように見えるけれど……実際は有無を言わさない圧力がある)
果林(まあ、もうこれだけでこの教室の空気は最悪の一路ってわけね) 栞子「私から各部活動、同好会の皆さんにお願いしたいことは──」
栞子「説明会に来てくれた中学生たちに伝わるよう、データやグラフなどを用い具体的に数値化等を行い、部の強みを分かりやすく示すこと」
栞子「そしてどのような大会があり、その結果がどう将来に結び付くか、そして──」
栞子「その先の進路にはどのような選択があるか、できる限り詳細に説明する事、です」
果林(……言い切った。隠しなどされない、彼女だけに向けられた敵意を物ともせず、彼女は言い切った……)
愛(……しおってぃー……。しおってぃーが言いたい事、理解はできるよ……。でも……) >>214
貼ってクレメンス
できれば絵師さんの名前も >>223
こなふみ さん
メチャメチャ絵が上手い 気が狂いそうになるくらいすき しずく(こ、これが……部活紹介、なのですか?)ボソボソ
部長(いいや、こんなことは私が知る限りでも初めてだよ。虹ヶ咲学園にとってみても、初の試みではないかな)ボソボソ
しずく(……三船さん……)
部長「三船生徒会長、少しいいかな?」スッ
しずく「部長……?」
栞子「はい、演劇部生徒会長さん。副会長、マイクを持って行ってください」
副会長「……はい」スタスタ
副会長「これを使ってお話しください」スッ
部長「ああ、ありがとう副会長」カチ
部長「確かに今までとは大きくやり方は違うけれど……そういう発表をすることで、演劇部に入りたいと思う子が増える可能性は完全に否定はできないね」 部長「この部活には実際に俳優を目指して入部してくる子も居るわけだから。データ化、グラフ化、というのは面白いかもしれない。けれど、三船さ──」
「わかりやすいし親ウケはいいと思うけど、そんなの面白くないわ!」
「そうそう! ウチは実績がどうこうじゃなくて、純粋にソフトが好きな子、興味があるけど初めてやってみる子、そういう子にも入部して欲しいの!」
部長(……駄目か。誰かがキツイ言い方をする前に私が上手く緩衝したかったのだけど……)
しずく(今ここにかすみさんがいたら、どんな表情をしていたのかな……かすみさん、きっと我慢できないだろうな……)
「ウチの部の事はウチに任せてくれないかな? 正直自分の部活をどう紹介するかなんて、生徒会に口を挟まれたくないんだけど!」
愛(……しおってぃー……)
果林(……演劇部部長、先んじて緩衝役に打って出ようとしたのね──彼女だけに良いカッコはさせられない)
果林(ガタ落ちした愛からの評価を──汚名を挽回してみせる……あら? 汚名って挽回するものだっけ? 返上するものだっけ?) 「会長さんが考えてくれてるのもわかるんだけど、部活紹介なんだよ? 好きにやらせてよ!」
「そうです! グラフ化やデータ化したものだけじゃ伝わらないものだってある! やりたいようにやらせて!」
果林(収拾がつかなくなる前に……)ガタッ
果林「三船生徒会長、少し良いかしら? スクールアイドル同好会所属、三年の朝香果林よ」
栞子「ええ、どうぞ。朝香さんにマイクを持って行ってください」
生徒会役員「あ、はい……」
あ、朝香さんだ……。 凄い……綺麗な立ち姿……。
わぁっ……朝香さんが意見するんだわ……! 私、また惚れ直しちゃいそう……!
果林「ありがとう。遣わせてもらうわね。──各部活の皆が言う事も良く分るわ。こんなに大勢の部活、同好会が存在するわけだから──」
果林「様々な意見があるのは当然よね。さっき演劇部部長も言おうとしていたけれど、データ化、グラフ化することで新しい興味を持つ子も出るかもしれない」 頭は悪いけど頭の回転は悪くなさそうな果林さんいいぞ 愛(うわっでた! カリンのソレっぽい感じで意見をまとめて無理矢理話を結論付けるやりかた!)
果林「実際に三船生徒会長がこんなにわかりやすい資料を作って説明しているんだもの、そういう効果が期待できるのは間違いないわ」
愛(顔がいいから表情つけて話すと異様に説得力があるんだよなーこれ!)
果林「私もスクールアイドル同好会で同じ同好会員と切磋琢磨して実力をつけたいから、同じように実力がある子、才能がある子が入ってきて欲しい、っていう気持ちはあるわ」
果林「でもね、誰かと競い合うとまではいかなくても『スクールアイドルに興味がある』ぐらいの気持ちの子もいるでしょうね」
果林「そういう子も、私達スクールアイドル同好会は当然喜んで受け入れるわ。だってスクールアイドルが好きな、大切な仲間だもの」
果林「実際、いつも裏方に徹して頑張ってくれている仲間が居るわ。スクールアイドルが好きという気持ちで、私たちを助けてくれる子が……」
愛(ゆうゆの存在はおっきいよね)
果林「ふふ、話がそれたわね。そういう意見は部、同好会、本当にそれぞれ。だからこそ各部、各同好会の自主性に任せるのが一番だと──」 普通は何の適性もない子が大半なんだから栞子の理想は机上の空論だよな 栞子「それは認められません」
果林「──そうよね、認められないわよね。……えっ?」ポカン
愛(ダメじゃん!! 全然流れで圧せてないじゃん!!)
栞子「すべての部、同好会が統一のフォーマットで行わなければ平等ではありません。平等でないと判断もしにくいかと思います」
果林「……三船生徒会長、だから──」
栞子「加えて述べるなら、先ほど純粋に興味がある子に入部して欲しいとも仰っていた部活がありましたが、それは遠慮してもらいます」
「はぁ!?」「どういうことなのよ!?」「興味があるから部活に入るんじゃないの!?」 スクスタと流れが全くおなじなのにこっちの方が栞子側の気持ちも考えちゃうわ
がんばってください 栞子「入部希望者には試験を受けてもらいます。試験に合格した方のみ、部への入部を認めます」
しずく「ええっ!? それって合格しないと入部できないという事ですか!?」ガタッ
部長「……」
「そんなのってあり得ないわ!」「入部テストなんて、時代錯誤すぎでしょ!」
果林「……三船生徒会長、しずくちゃんの質問に答えてもらっても?」
栞子「はい。明らかに適性の無い方が入っても、本人にも部にもメリットがありませんから」
しずく「そんな……」
果林「三船生徒会長──いいえ、三船さん。それで、不合格になった子は、どうなるのかしら」
栞子「安心してください。『生徒会』がきちんと適性にあった部活を紹介し、サポートします」 >>235 訂正
栞子「入部希望者には試験を受けてもらいます。試験に合格した方のみ、部への入部を認めます」
しずく「ええっ!? それって合格しないと入部できないという事ですか!?」ガタッ
部長「……」
「そんなのってあり得ないわ!」「入部テストなんて、時代錯誤すぎでしょ!」
果林「……三船生徒会長、しずくちゃんの質問に答えてもらっても?」
栞子「はい。明らかに適性の無い方が入っても、本人にも部にもメリットがありませんから」
しずく「そんな……」
果林「三船生徒会長──いいえ、三船さん。それで、不合格になった子は、どうなるのかしら」
栞子「安心してください。私がきちんと適性にあった部活を紹介し、サポートします」 栞子が受けている苦痛が読者視点で見えてるから栞子が完全に敵っぽくならないからいいね
本編でも、ここまで暗い展開じゃなくとも丁寧に描写していれば… 果林「……それ、どういう意味か解って言っているの──?」
「そんなこと発表したら入部希望どころか、入部したいって気持ちもなくなっちゃうわよ!」
「入部テストのある部活なんて絶対に嫌。そもそもそんな管理された学園に入りたいだなんて、思う子が居ると思う!?」
栞子「そうでしょうか。私はそうは思いません。将来に繋がる、失敗しない道は誰にとっても必要なものです」
果林「三船、さん……」
「……」「そんなの……」「ウチは絶対お断りよ! 絶対に受け入れられないわ!」
「そうよ! 入部テストなんてお断りよ!」「こんなの生徒会の横暴よ!」
副会長「……」ウツムキ
栞子「理解に苦しみます。一番成功の可能性が高いルートが示されて、嫌だと思う人がいるのでしょうか?」
「はぁ!? 何様!?」「偉そうにしないで!」「そんな傲慢に示されたルート、嫌味にしか聞こえないわ!」
「黙って聴いてたら好き勝手言って! 腹立つんだよ!」「アンタいい加減にしてよ!」
愛(……だめだ、これじゃだめだッ!) >>237
それでもやってることがアレだから大差ない気がする。さすがに電波過ぎるし 愛「待った! みんなちょっと待って! ソフト部のぶちょーも、バレー部ぶちょーも水泳部ぶちょーも、みんな待ってよ!」ガタッ
「愛ちゃん……」「あいあい……」「みやちーだ……」「愛ちゃん……!」
栞子「ぁ……あいさ──宮下、さん……っ」ウツムキ
愛(しおってぃー? どうして今、アタシを見て俯いたの……? いや、今は違う、それよりも──!)
愛「しおってぃーも、ちょっと待って! みんなアツくなり過ぎだよ! 皆の考え、アタシよくわかるよ!?」
愛「納得できない事、たくさんあると思うし! アタシも『ん?』って思うところ、たくさんあったよ!」
愛「でも、だからってみんな感情的になっちゃだめだ! そんな風に言い合いしたって、なんも変わんないよ!」
「……」「……」「……」「……」
愛「しおってぃーもさ、これ、悪気があって言ってるわけじゃないんでしょ? そうしてでも貫きたい何かがあるんでしょ?」 人に対して適正、適正言いまくっているのに、これだけ批判を受けて自分に生徒会長の適正があると思える精神が凄い 愛さんと果林さんいたらそこらのディベートなら余裕でぶち抜けそう 栞子「──はい、もちろんです」
愛「だったら……もっと、理解を求められるような言い方しないと、伝わんないよ……なんでしおってぃーがこういう結論に至ったか、なんにも伝わってこないんだよ……」
栞子「だから私は、説明、をしなければ、と、思、って──……」
愛「しおってぃー、これ以上アタシ、皆が感情的になってるところも、しおってぃーが言い返してるのも、見たくないんだよ……」
栞子「……」ウツムキ
「「「「……」」」」」シン…
果林「……みんな。何回もミーティングやってるけど、もう一回、次に持ち越しましょう。副会長さん、次回の日程は今決められる?」
副会長「えっ!? あっ、は、ハイ! では、結論は次回のミーティングに回すとして──」 ──────
しずく「……部長。これじゃあ……」
部長「うん……今ちょっと、やっぱりしずくを呼ぶんじゃなかったかなって、後悔してるよ」
しずく「いいえ、そんなことは……」
──────
果林「愛、お疲れ様」ポス
愛「カ、リン……ねぇカリン……アタシ、ヘンなこと言ってないよね……?」シュン
果林「まさか。愛、ありがとう。むしろ……ごめんね、年上なのに、私がうまく纏められなくて」ポンポン これほどまでDDの二人が魅力的に書かれたSS知らないわ
期待してます おつおつ
やっぱりまんま大阪都構想だよなぁ…
もっとも部長やるような人たちが適性云々言う奴に投票したかはわからんが
まあ、部長出来るほどの実力ない奴らが投票した結果部に支障をきたしてしまったというお笑い
まあ、部長たちの本音は結局部員増やしての予算獲得だからなもともとの構造自体は面白くできないことはない
ただ、栞子個人についてはここまで強引にでもボコボコにされないと溜飲下がらんわ この愛さん達なら少なくとも監視委員会は止めてくれそうだしね こんな展開でもこの愛さんがいれば大丈夫って安心感があるわ 栞子は生徒会より風紀委員の方が適性ありそうな気がするんだよな ヤジ飛ばしてるモブ達もわりと柔らかめの言い方してるな
部長なだけあって結構人間できてそうだな
いやまぁいじめやってるモブもいるんだけど スクスタがこの先どうなるか分からんけど
部に行ったのは栞子が心配だったとかいう展開でも私は一向に構わん スクスタもこれぐらい話を丁寧に書いてくれたら楽しめるのになあ 丁寧に書かれるほど思想というか設定の異常さを感じるわ
雑に流したのもある意味正解なのかもしれん 栞子の思想って今の民主主義の体制下にある日本に絶望的に合わない考え方よな
シナリオがしっかりすればするほどヤバいヤツってことが浮き彫りになる >>259
丁寧に書いたら生徒会長になった経緯がヤバすぎてその時点で同情できなくなるかも 民主主義と自由の中で育ってきた自分たちには絶対受け入れられないよな
君主政だったら生徒の適性を見抜いて豊かな生活を与えてくれる名君ってことになったのかもしれんが しおこの言う適性ってどのレベルのことを指してるんだろうね
例えばスポーツの適性があるからその道を進めばいいって言ってもプロになれないレベルだったら、その道を選んだことの方が地獄になるかもしれんし ぶっちゃけここまで生徒達に不評ならもっかい選挙やれよといいたいくらい設定アレだしな…… まあ、言うても各部長レベルとの衝突だし
多数の一般生徒からしたら分からんだろうに >>266
そのプロってのがプレイヤーに限ってならそうかもだけど指導者とかの道を選びうるかってになるとどのみち辛いわね しお子はトップというよりアドバイザーとしてならいいと思う >>266
栞子ってけっこう社会に出てからのことに言及するから適性って競技を通じて伸ばせる特質のことなんじゃない?
集中力や根性があるならプレイヤーとしてそこを伸ばすべき
分析力や気づかいに長けてるならマネージャーに回ってそちらを伸ばすべきみたいな 試験とかは馬鹿げているが
>データやグラフなどを用い具体的に数値化等を行い、部の強みを分かりやすく示すこと
これは必要だろ
ホイホイ部活やめたり入部したり出来ないんだから
どんな部活で何をやってるかの詳細な説明は必要だろう >>272
とはいえ体育会系の部活には難しいんじゃないかと思う部分はあるw
自主性を盾にはしてるけどそんなむずかしいことを押し付けるな😠💦
と言う反発もあるんでは >>272
逆にアメリカみたいに複数の部に所属して自分に合うところをいくつでも選べるようにしましょう、
という風にすればいい。自由な校風にもあうし。栞子のやり方って完全に中国の少年スポーツだ まあ栞子議論したい気持ちはわかるがほどほどにしとこう
どうしてもやりたいならスレ立ててやってくれ やっぱり中華の血が流れてるやつと友達なやつはだめだな 果林さんのポンコツまで再現するとは…この1ただ者じゃない ──視聴覚室付近廊下
部長「朝香さん、フォローありがとう。正直どうなることかと冷や冷やしたよ」
果林「いいえ、一番最初に名乗りを上げられるのは素直にすごいと思うわ。愛が収拾を付けたのであって……私も役に立てなかったし」
しずく「そんなことはありません果林さん……。あの、果林さん、部長、部活紹介のミーティング、次回はどうなるんでしょうか……」
部長「……それはわからない。けれど、このままでは私たちと三船さんで平行線を辿る一方だろうね」
しずく「……私は、ただ、お芝居に興味がある、という人も気軽に入部して欲しい、と思っています。劇の素晴らしさを、知ってほしいから……」
部長「そうだね。それは私も同じ。芝居が好き、興味がある、ポジティブな感情を芝居に抱く人間なら、入部資格は十分にある」
部長「舞台に立つだけが演劇部じゃない。それはスクールアイドル同好会も同じはずだよ」
果林「ええ、そうよ。大丈夫しずくちゃん。ただ……今のままでは部活紹介そのものがなくなる恐れだってある」
しずく「そんな……! それでは──……あれ? 愛さん、三船さんととても仲が良い感じがしましたけど……今はどこへ?」 果林「愛なら生徒会の皆が退出した後、残っていた各部の部長さん、同好会の人たちと話し合ってすぐ生徒会室に飛んで行ったわ。部活も休むって」
部長「ああ、だから私の方にも飛んできてくれたのか。今日のミーティングの事は部員には伝えないで欲しいとか、改めて今度意見を聞きたい、とかね」
果林「部員に伝えないで、というのは……多分三船さんの入部テスト云々の発言で、更に彼女への反発が広がらないようにの配慮でしょうね」
果林「愛は三船さんの事、かなり気にかけているみたい。全く、あの子はスクールアイドルを目の敵にしているって言うのにね」
部長「おや、その割に朝香さんも私と同じで場を纏めて彼女への文句を減らそうとしていたように見えたけどね」
果林「私は建設的でない議論が嫌いなのよ。愛は人と人が傷つけあうを嫌うっていう心の話で、私はただ理屈に従っているだけ」 しずく「果林さん……それは……」
部長「ふむ、ならそういうことにしておこう。しかし、こうなってくると……本格的に部活紹介がなくなる可能性も考えて動き出す必要があるかな」
果林「さっきは確かに私もそういったけど……実際のところ、その必要はないわね」
しずく「えっ?」
果林「だって愛が動いているんですもの。こういう損得勘定を抜きにして、感情だけで突っ走るのは私、得意じゃないんだけど」
果林「愛は違う。あの子ほど、人を惹きつけると同時に、自ら懐に飛び込んでいける才能に満ちた子を私は知らないわ。あの子ならやってのける」
部長「私も宮下さんの事を伝聞では知っているけれど──しずく、その辺りはどうなのかな?」 しずく「……愛さんは、凄い人です。あの人を前にして、心から楽しいと思えない時間がないほどに。ずっと話していたいって思うほどに」
しずく「私はみんなが理想とするスクールアイドルの内のひとつを演じることで、恐れながら少なくないファンの方に温かい声援を戴いています」
しずく「けれど……愛さんは違う。あの人そのものが、大勢の人が望む理想のスクールアイドルの内のひとつなんです」
しずく「あの人の生き様そのものが、人を楽しませる──楽しい事に関して、本当に天才なんです」
部長「つまるところ、楽しいの天才……か。それはまた、凄いギフトだ」クスッ
果林(ギフト……なんで贈り物?)キョトン
しずく「あの、私も実は。愛さんが言った理解を得られるような言い方について……思う事があって」
果林「話してみて?」 しずく「はい。確かに三船さんの言い方は、そうしなければならない、という確固たる意志こそ感じましたが、なぜそう思うのかが伝わりませんでした……」
果林「そうね。あの子の言い方や圧からそれを感じられた。けれどあの子、愛がそう言った時にあのミーティングの中で初めて言い淀んだのよね……」
果林「部長さん、今までのミーティングでそういう姿はあったかしら?」
部長「いや、まったくと言って良いほどなかったよ。いつもどんな意見にも明朗に、真っ直ぐ発言者を見据えて返答をしていたからね」
果林「……そう。じゃあそこら辺を聞き出すのは愛の役目になりそうね。適材適所、ってヤツ」
しずく「……」
部長「……」
果林(……あれ? テキザイテキショ、これで使い方あってるわよね? 二人して黙られると私、怖いんだけど) 部長「朝香さんは、宮下さんの事を信じているんだね」
果林「ええ。だってあの子と私は、うぇいうぇいの関係だもの」
部長「……い、意味は良く分らないけど……非常に良好な関係というのは解ったよ」
しずく「私も……私も、三船さんのこと、知りたいって思います。スクールアイドルに抱く嫌悪の理由も、あれほど『失敗しない事』を重要視する意味も」
部長「朝香さん、私達演劇部としても部活紹介を成功させたい、という想いは変わらない。もし何かあれば、微力ながら君たちDiverDivaに力を貸すよ」
果林「──ありがとう。まあ、やれるだけやってみるわ。……しずくちゃん、この後は演劇部の方に行くのかしら?」
しずく「はい、今日は演劇部の方へ行ってきます。部活紹介に向けた劇の事もありますし。部長、私はひとまず先に行きますね」タッ
部長「ああ、私もすぐ戻るよ──」
果林「じゃあ部長さん、私も行くわ。今日のこと、話す必要があるから」スッ
部長「朝香さん」
果林「……何かしら?」 部長「これはまだ、限られた部長間でしかしてない話だけど……生徒会長再々選挙への署名の話が持ち上がっているんだ」
果林「! 中川生徒会長の時と、同じことを?」
部長「署名を集めて理事会に伝えて通れば、現副会長か中川さんを担ぎ上げて三船さんともう一度選挙をさせようと考えているんだ」
果林「……そんな事があったら、部活紹介どころじゃなくなるわ」
部長「そう。だからこれはまだ、ミーティングの時に反論を飛ばしていた部長たちの間だけで話になっていることだなんだ」
果林(愛が言っていたのはソフトやバレー部、水泳やソフテニ、陸部バスケ……どの部も抱える部員数は多い部)
果林「その子たちが本気になったら……」
部長「状況は大きく動くかもしれない。今さっき宮下さんが各部長にお願いして回ったのは、本当に運が良かった」
部長「あれがなければ、彼女たちのくすぶる不満に火がついて、本格的な署名活動になりかねなかったかもしれないからね」
果林「……」 部長「私も宥めたりしてはいるが……あまり効果はなくてね。今回も宮下さんの一件も効果はあるが、結局遅いか早いかの違いになるだけだ」
果林「……ありがとう、部長さん。それでも私は愛を信じてるし、期待しているわ」
部長「朝香さんもしずくもそんなに言うなら、私も彼女に期待してしまうね」フッ
果林「……じゃあまた」
部長「ええ、じゃあまた次のミーティングにでも」スタスタ
果林「……」
果林(……期待、か。せつ菜が読んだ漫画の話を思い出す。省エネ主義者の高校生が、謎を解明していく漫画。)
果林(彼には友人が居て、その友人も主人公と違った方法で謎を追うけれど──ついに彼は謎を追うのを諦め、主人公に任せ、期待を寄せる。その時彼はこう言うの)
果林「部長さんはそう思ってはないだろうけど……『期待っていうのは、諦めから出る言葉』なのよね」 果林(愛は私にとって親友で、相棒で、ライバルで──わずかに、彼女への劣等感もある。あの子は真っ直ぐに私を見据えているけれど──)
果林(私には、どこかあの子が眩しすぎるの)スッ ピッピッ
果林「……あ、もしもしエマ? うん。そっちは今……うん、そう。こっちは終わったわ」
果林「うん、そう。愛? 愛はちょっと別の用事が出来ちゃったの。今は私一人。うん、そう……だからね、エマ」
果林「迎えに来てくれない?」 ──────
────
──
愛(視聴覚室を飛び出して、アタシは生徒会室へと突っ走る。すれ違う友達に、声は出せず手を振ったり笑うだけで精いっぱい)タタタタタ
愛(今は、ただしおってぃーと一緒に居たかった──)タタタタタ
副会長「きゃ!?」
愛「わっ!?」クルッ
愛「ご、ごめん副会長! 大丈夫!? けがはない!?」
副会長「え、ええ、大丈夫です、み、宮下さん、危ないですよ」
愛「ごめん、急いでて……副会長は……もう帰り?」 副会長「はい。生徒会室に鞄を置いていたので、一度生徒会は生徒会室に取りに戻っていたんです」
愛「そうなんだ……ねぇ副会長、しおってぃーはまだいるよね!?」
副会長「しお、ってぃー……?」
愛「せいとかいちょーだよ!」
副会長「えっ、あ、ああ、生徒会長のこと……」
愛(一瞬、副会長の目が険しくなる)
副会長「あの人なら、まだ生徒会室です。御用があるなら急いだほうが良いかと」
愛「さんきゅ、副会長!」ダッ
副会長「あっ、宮下さん、廊下は──」クルッ
副会長「え、もう居ない……」 ──生徒会室
栞子(……鞄の中に、濡れた雑巾が雑に詰め込まれている。ひとつ、雑巾を拾い上げて、生徒会長用の机の下に一先ず畳んで置く)
栞子(また一つ、摘まみ上げる。雑巾は当然絞られたものではなく、教科書もノートも、ふやけてしまっていた)
栞子(また一つ、汚れ、雑に丸められた雑巾を摘まんでは机の下に置く)
栞子「……」ジワッ
栞子(いいえ、ある意味では……良かった。皆のものと一緒に纏めてローテーブルの方においておかなくて)グスッ
栞子(鞄だけでは見分けはつかないから、他の鞄に雑巾を詰め込まれることも、私のものかどうかを確認するために、荒らされることもなくて、よかった……)
栞子「……っ」グシグシ
栞子(いけない、泣くなんて……私の自業自得で、今日だって、あんなに人を怒らせて、それで何もないわけがないのだから……) 栞子(脳裏に、瞼の裏にこびりついて離れない。夕焼けの、誰も居ないグラウンドで、最後の大会のベンチにすら選ばれずただ泣いていた三年生の姿)
栞子(二年生でありながら、あっという間に自分を抜かし活躍する一年生)
栞子(興味があって入部したものの、現実とのギャップに食い違い苦しむ一年生)
栞子(……みんな、そんな想いをしたくて入部したわけじゃない。誰もがきっと、胸を張って楽しく部活動に打ち込みたかったはずなのに)
栞子(こんなに報われないことが、あっていいはずがない! けれど、好きという気持ちだけでは、姉さんのようにすべてを失うことになる……)
栞子(だめです。そんなことは、もう誰も経験してほしくない……。ならば、いっそのこと最初から、個性に合った、適性のある世界に足を踏み入れてほしい)
栞子(……非難は受け入れます。体操服だって鞄だって差し出します。それでも私は、ただ、すべての人に、成功を──いいえ、失敗しない道を歩んでほしい……) ──そもそもそんな管理された学園に入りたいだなんて、思う子が居ると思う!?
栞子(管理なんて。ただ、ただ私は、悲しい思いをするくらいならば最初から──!)ジワッ
──こんなの生徒会の横暴よ!
栞子(ですが、三年間の努力が実らなかった三年生を、才能というたった二文字に絶望を味わった二年生を、現実と理想の乖離で苦しむ一年生を見て……私はそうは思えない!)ポロポロ
──そんな傲慢に示されたルート、嫌味にしか聞こえないわ!
栞子(傲慢……でも、それでも、あの涙の重みを、すべてを失う姉さんの姿を、私は──!)ポロポロ
──黙って聴いてたら好き勝手言って! 腹立つんだよ!
──アンタいい加減にしてよ!
栞子(私は……わたしは……それでも……すべての人が、悲しい思いをしなくていい、学園生活を)グスッ 愛「しおってぃー!!!!!!」バン!!
栞子「ぁ……?」ポロポロ
栞子(愛さん。息を切らして、髪を乱して、僅かながら肩で息をする、とろりとした蜂蜜色の瞳の彼女。その瞳は不安げに揺れていて……その姿が目に飛び込んできた瞬間──)
栞子(あ……あ……だめ、です。心が、くじけて、甘えてしまう……っ)
愛「しおっ、てぃー……? 泣いてるの……?」コツ コツ
栞子(だめ。お願い。近づかないで、私は貴女とは違う。貴女の様に人に楽しい思いを与えることなんてできない)
栞子「な、泣いてなど……それに宮下さん、ノックをするようにと以前も……」クルッ ゴシゴシ
愛「……しおってぃー」コツ コツ
栞子(愛さんが近づいてくる。足音が、こんなにうれしいと思ってしまう) この栞子はある意味楽しいの天才の愛さんと対極だよな
悲しみはないかもしれないが楽しみも生まれない 栞子「来ないで、くださいっ」
栞子(私はやっぱり、愛さんとは仲良くしてはいけない。私は、私には、愛さんと仲良くなる適性なんて、ない。だってこんなにも、私と彼女は違いすぎる)
愛「しおってぃー、大丈夫だよ」コツ コツ
栞子(私が砕ける。欲しかった言葉を与えられて、私を形成する、ちっぽけな殻はひび割れ、ボロボロになって形を失っていく)
栞子「ぁ……ぅ……ッ!!」
栞子(浅い呼吸で力任せに深呼吸して、もう粉々に砕け散らばったその殻をかき集めて、張りぼての三船栞子を掲げる) 何の適性もなく何をやってもベンチ外の子はどうすれば… 「私は、スクールアイドルなんて大嫌いです! 好きという気持ちだけで、なんの将来性もなく無駄なことに打ち込むなんて理解できません!!」
「貴女と私は仲良くなんてできない!! だから、もう!!! 私のところに来ないでくださいっ!!!」
私は叫んだ。もう自分の心すらも毀してしまうんじゃないかと思うほどの、悲鳴にも似た声で。
砕けて散らばったかけらたちが、色を失っていく。私は独りでいい。誰かと一緒に居ればいるほど、貴女と一緒に居ればいるほど、私は弱くなるから。
それでもこつん、こつんと優しい音は止まらない。どうして。あの人とって私のさっきの言葉は怒らせるに値するはず。
「振り向かないでいいよ、しおってぃー」
今まで聞いたことのないほどの、静かで穏やかな声が、砕けた殻の内側にあった私のこころに降り注ぐ。私は、何も答えられない。
何かひとつ、愛さんの質問に答えてしまったら、もうダメになりそうだったから。 そっ、と私の両肩の上から、白い肌が伸びてくる。そのまま、私のお腹の前できゅぅと手が組まれ、わずかに引き寄せられていく。
優しい、ふわりとした感覚。暖かい、陽だまりみたいなぬくもり。背中に感じる彼女のこころと、息遣い。
「アタシとしおってぃーは、友達。友達が悲しんでいたら、一緒に居るのは当然なんだよ」
優しい感覚が。陽だまりのぬくもりが。愛さんのこころの鼓動と吐息が。その言葉が。私の裸のこころを優しく救い上げていく──。
「う、うぅ、ぅあああああぁぁぁぁぁぁぁっ」
もう私は、込み上げてくる涙を抑えることはできなかった。 スクスタの愛さんがどれだけナーフされているかよくわかるスレ 何でもできるマンは話の都合上邪魔だからナーフもやむなし ナーフしないと1人で全部解決しちゃうんだなこの人… これが本物の愛さんやろなぁ…
初見がこれなら栞子を少しは許せたかもしれん >>316
生徒会長になった経緯から変えないとやっぱり厳しそう 栞子もかなりナーフされてんな
これならまだわかる。心理描写が易しくて助かるわ >>317
ただ、根本的な思想はやっぱり許せないなってのはこのスレで改めてわかってしまった
同好会への攻撃行為ってファンにとっては実際の正否関わらず悪だと思うんだわ
それに対して栞子がわかりやすい報い受けないと溜飲が下がらないだなって >>300
本編でもここまでしっかりやってくれればもっと栞子応援しようと思えたのに 栞子の考えもわかるわ
他の人も言ってるけど本編でもこれくらい丁寧に書かれていれば… 良いところでぇえええ……!!
次の更新も楽しみに待ってます 適正あるガチ部活で3年補欠と、適正無いエンジョイ部活でレギュラーはどっちが幸せなんだろうかね 適性ある子がポジションより多くいれば結局誰かは補欠になるしね。ユーフォのソロパートみたいな 部活自体もガチで大会目指したりみたいなところとただのお遊びとでピンキリだしな 雨野脚本ってこのSS作者はもちろん、ここでも熱いれて議論しちゃう連中にすらキャラへの思いがはるかに及んでないんだわな…
今まで雨野擁護(というか叩いてる連中を蔑視)してたけど、このスレ見て考え完全に変わったわ
マジでありがとな こまけえ事はいいんだよ
これは愛さんとしお子のストーリーなんじゃい これって下世話な話すると自分の意志関係なしに幽霊部員でも部員だから居るだけで部費が増額されるからな
そういう魂胆の部長ももちろん居るだろうからスクスタの形骸化した適性試験すら嫌な部長もいそう しお子の言ってることも分かるけど、しお子の適性第一主義って全ての生徒が悲しい思いをしないことにはならないよね。
確かにベンチにすら入れないとか才能のある下級生に追い抜かれて補欠にとかそういう悲しみはなくせるけど、適性だけで勝手に第三者に決められてやりたいことできないことで悲しい思いをする人もいるだろうし。 結局適性があろうが自分より適性あるやつが多けりゃ補欠落ちになるわけだしどうしようもねえわな >>332
より高い適性の新入生が入ってきたら結局抜かれることには変わりないんじゃ 言っちゃアレだが栞子のやってた事はただのひとりよがりだし
むしろスクスタ本編でこれくらい非難されたり陰湿な嫌がらせされたりとか、しかるべき報いを受けてたら嫌われなかったと思う
そしてそんな栞子に助け舟を出す愛さんという素晴らしい解釈一致SSよ SSの内容はいいのにこれをダシにしてスクスタを叩くスレチの臭い奴らが増えてきたのが残念だわ >>334
あー確かに。言い方悪いけどその場しのぎにしかならない場合もあるのか。
そうなった場合どうするんだろう… というか栞子の言う適正ってその人の絶対評価っぽいから現状でも相対評価で抜かれる可能性はある 丁寧な心情描写見てるとめちゃめちゃ感情移入してしまいますね……続きが楽しみです!!!!! 最近このせつ菜なりきり流行ってんの?一部の痛いのが流行らそうとしてるだけ? !が多いだけでなりきり認定して痛い痛い言ってる奴のがラ板に毒されすぎて痛々しいまである >>339
他の部活動と違って一つの学校から複数のチーム(グループ)が大会に出場できるスクールアイドルは、実は栞子の理想に向いてるのかも ──────
────
──
愛「しおってぃー、落ち着いた?」
栞子「……はい」
愛「まずはさ、ミーティング、おつかれさま。よく頑張ったね」ポンポン
栞子「……ッ」ジワ
栞子(さっきとは違う涙があふれてくる。堪えようとしても、一度こぼしてしまった涙の後で耐えることなんてできない)グスッ
愛「一年生なのに偉いよ。大勢の上級生の前で、ミーティングの進行をこなして」
栞子(……この言葉だけで、鼻の奥がツンとする)ポロポロ 愛「愛さんなんか、結局最後になるまで何もできなかったんだから。しおってぃーにも、キツい事言ったかもしれない、ごめんね」
栞子(そんな、事は、ないです。愛さんは、愛さんはいつだって──)
栞子「そんなことありません! 全部私の力不足で、結局今回も、話を纏めることはできませんでした」
愛「でもさ、難しいよね、話を纏めるのって」
栞子「はい……ですが、諦めるわけにはいきません。新入生の為にも、学園の為にも、私は、まとめ上げなければ……」グシグシ
愛「今日はさ、もう考えるの止めよ―よ」ナデナデ 栞子「え。で、ですが。もう猶予はありません。今日のミーティングを纏めて、もう一度、意見の摺合せを……」
愛「しおってぃー。今日はもうやめとこう。ねっ。頑張り過ぎは身体によくないぞ?」
栞子(優しく顔を覗き込まれて、私はただ、脳に刻まれた本能に従うかのように頷きました)
愛「代わりに、明日からアタシも全力で手伝うよ。生徒会」
栞子「ぇ……? 愛さんが……? しかし、貴女は──」
愛「いいんだ。明日からアタシも一緒に居る。だから、今日の事は、今日の悩みは、一旦ここに置いて行こう」
──だから、今はこのベンチに、しおってぃーは悩みを置いて行こう。悩みを忘れてなんて、口で言うほど簡単じゃないのは知ってるから。 栞子「あ……」
栞子(どくんと、胸が高鳴る。去来する記憶。心に刻まれた私への言葉。忘れることなんてできない、優しい思い出)
愛「今日はここに置いて行って、また明日、一緒にココに来よう。今度は取り戻しに来るんじゃない。解決するために来よう」
──忘れるんじゃなくてココに置いていくんだ。そしてアタシと一緒に楽しい事を探しに行こう。そしてまたこのベンチに来て、悩みを取りに来よう。
愛「明日は愛さんも一緒に居る。絶対に一人になんかさせない。どんなことがあっても、愛さんが必ず一緒に居るから」
──その時も、愛さんは一緒にいる。一人で思い出すのは怖いかもしれない。不安かもしれない。でもその時に、愛さんを──
愛「だから、宮下愛って言う三船栞子の友達を、信じて」
──しおってぃーがアタシを友達だと思っているなら、少しはマシに思えるかもしんないぞ! 栞子「あ……あぁ……」
栞子(救われていく。この人に、私は救われていく。どれだけ強く殻を纏っても、この人の放つ光は絶対に、私を優しく包み込んでくれる)
栞子「あい、さん……。わたしと……あした、ここに……きて。わたしを、たすけて、くれますか……?」
栞子(言葉を覚えたての子どもの様に、私はたどたどしく言葉を紡ぐ)
愛「もちろん。アタシに任せろ」ニッ
栞子(蜂蜜色の瞳から放たれる強い光の奔流に、私は呑み込まれる。ああ、この人は。私を、私が欲しい言葉を、惜しげもなく投げかけてくれる)
栞子(欲しい言葉が投げかけられるたびに、私はただ歓喜に打ち震え、ますます弱くなっていく気がした) ──────
────
──
──虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 部室
果林「……というのが今日のミーティングの報告よ。内容が内容だから、まず人を選ばせてもらったけど」
エマ「果林ちゃん……」
侑「……果林さん、ありがとうございます。私とかすみちゃんの代わりに出てくれて」
彼方「……ふーむ」
せつ菜「……」
果林「お安い御用。それで、どうする? 私たちとしても部活紹介がなくなるのは──」
せつ菜「あの、その前に……愛さんは今、どこへ……?」 果林「三船さんのところへ行ったわ。あの子、三船さんの事かなり気にかけてたみたいだから」
せつ菜「そう、ですか……」
侑「果林さん、私は絶対に部活紹介を成功させたいです! せっかくライブする方向で話もしていたのに、なくなるだなんて──」
彼方「でも、このままじゃ部活紹介なんて夢のまた夢だろうねぇ」
せつ菜「……話を聞く限り、まず生徒会内での仲間割れを修復する必要がありますね。そこから連携を取って、部側と話を摺合せなければ……」
侑「でもせつ菜ちゃん、三船さんが生徒会長になった時の副会長さんの言葉、覚えてる?」
せつ菜「『極一部の同好会へ私的な感情を起因とし、廃部に執着する限り、私は絶対に三船生徒会長を認めない』……でしたね」
せつ菜「ですが、今の生徒会長は三船さんです。中川菜々ではありません。虹ヶ咲学園の生徒会は、生徒会長を中心に活動されるものです」
せつ菜「そして、三船さんは正式に選挙を経て、生徒の支持を得て、生徒会長になった」
せつ菜「現在は名目上三船さんが生徒会の中枢と言っても過言ではありません。ならば生徒会は生徒会長になった三船さんをサポートしなければなりません」 エマ「待って! じゃあせつ菜ちゃんは、私たちの同好会が廃部になっても良いって思うの……?」シュン
せつ菜「いいえ、まさか」クスッ
せつ菜「私もその点では断固として反対します。ですが、今回の件に関しては、虹ヶ咲学園にとって大きな問題になりかねない事態になりつつあります」
せつ菜「それを三船さん一人が勝手を言い出したからだ、彼女に総ての責任がある、そう断じてしまうのは簡単です」
せつ菜「ですが私はそんなことはしたくない。なぜなら虹ヶ咲学園の生徒が、全員ではないにせよ私ではなく彼女を選んだから」
せつ菜「選ばれた上で、彼女は役目を果たそうとしています。だったら、選んだすべての人間には、責任がないと言えますか」
彼方「ふむ……せつ菜ちゃんの言葉は確かにスジが通っているけれど……理想だねぇ〜。果たしてそう簡単な問題かな?」
彼方「いつだってすべての罪を追って断罪されるのは、指導者ひとりなのサ」
彼方「指導者を選んだ人間は、その指導者が自分の思い通りにならないと分かるや否や知らんぷり、誹謗中傷なんてっていうのが世の常だよぉ」 せつ菜「そ、れは……」
彼方「それに誰が三船ちゃんを選んだかなんてわからないし、三船ちゃんは、せつ菜ちゃんが掲げる野望と真逆だってことに、気付いているかい?」
彼方「自分の好きを他人に押し付けず、みんなの『大好き』を誰も否定しない世界を作る」
せつ菜「ッ!」
彼方「三船ちゃんは、それが大好きだからその部活に入った人に、転部を迫るほどだったけど……せつ菜ちゃん、それは優木せつ菜の根幹にかかわる部分ではないのかな?」
エマ「彼方ちゃん、そんな言い方──!」
果林「いいえ、エマ。彼方が正しいわ。せつ菜、貴女は──どう思う? 貴女の矛盾を、貴女はどう解決するの?」
エマ「果林ちゃんまで……」
せつ菜「……それはッ」ギュゥゥゥ
エマ「……せつ菜ちゃん、手。痛めちゃうよ」ギュッ
せつ菜「っ……」 侑「……せつ菜ちゃん、矛盾してたっていいよ」
彼方「おっ」
せつ菜「え?」
侑「それでいいんだよ。確かに今はせつ菜ちゃんの理想に対して、三船さんは真逆の事をしているかもしれない」
侑「でもだってまだ、せつ菜ちゃんの野望を叶える道の途中だもん。だから、今は他の人の大好きを否定して、自分の願いを貫こうとする人がいても良いんだよ」
せつ菜「侑、さん……」
果林「……」フッ
侑「終わりよければなんとやら、って言うし! 今は清濁併せ呑んで──」チラッ
せつ菜「──私たちは、三船さんの力になりたい。彼方さん、果林さん。それが私の──」シュルッ ファサ
菜々「野望を掲げる優木せつ菜と、今は違えど生徒会長として学園の為に力を振るった中川菜々の、願いなんです」 彼方「……そっかそっか」ニコ
彼方「じゃあ、彼方ちゃんは何も言うことは無いよ〜。そっちの人はどうかな?」
果林「そっちの人て。言い方あるでしょうに……。せつ菜がそれでいいなら、私も良いわよ」ニコ
エマ「果林ちゃん!」ギュゥッ
果林「おっと」ギュッ
菜々「侑さん! 早速明日、副会長へ働きかけに行きましょう!」
侑「だね! 善は急げだ! かすみちゃん達にもちゃんと話して、理解を得ないと!」 更新ありがとうございます
キャラをもっと好きになるssだなぁ 彼方(……ふふ、こういうヒール役を引き受けてこその近江彼方サ……彼方ちゃんはクールに去るぜ)ソッ……
菜々「彼方さん!!」バッ
彼方「?」クルッ
菜々「ありがとうございます! 私の、私たちの事を、気遣ってくれて!!」ペコッ
彼方「……本気は明日から出す〜」クルッ ヒラヒラ
果林(彼方のああいう立ち振る舞い、私もやってみたいわね)
彼方「あ、ところで果林ちゃん」クルッ
果林「え?」
彼方「今さっきの一連の話、ちゃんと内容理解してたかなぁ?」ニヤ
果林「いや実は全然……ってそこまでバカじゃないわよ!」ガーッ! 毎度乙
綺麗に纏まる予感しかしないSSは初めてです おつおつ
微妙な疑問があるが次回更新で解けるかな? 正当な選挙、辺りに思うところはあるけど今は無粋やな、すまん 個人的には>>354の「生徒会は生徒会長になった三船さんをサポートしなければなりません」というのには違和感を感じる。生徒会内で意見が割れたら、会長だけ特別扱いせず普通に多数決取ったり、それでもまとまらなかったら教師に意見求めたりとか、そっちの方が健全だと思う。他の役職にも平等に発言権があるわけだし。それで終わらせたら話進まないから仕方ないけど >>367
基本的にはという言葉が抜けてると考えればまあ妥当
描写的にニジガクの選挙は会長だけ選ぶ感じだから他の役職と比べて権力が上でも別におかしくはないし 面白い
完結したらで良いので、過去作(あれば)とかも教えてほしい 美味しいところを持ってく侑ちゃんすこ
これは主人公ですわ アニメ時空でどうやって栞子がせつ菜に勝ったのか気になるな >>371
なるほど。でも今回の件は基本的にのライン超えてない…?言っても仕方ないけど。丁寧に描写されればされるほど、やっぱり栞子周りは異常な部分が出てくる気が あ、作者さんやSSの内容に対する批判じゃないです、すいません リアルに進めると「お前何馬鹿なこと言ってんの却下だ却下」
で終わるからね。仕方ないね ──────
────
──
アタシはりなりーの部屋のベッドで、りなりーと一緒に寝転んでいた。りなりーは子猫みたいに丸くなって、アタシの心臓に耳を当てている。
二人を遮るものなんて何もなくて、ただ直に触れ合う肌のぬくもりが心地よかった。
りなりーはまだ少し息を切らせていて、驚くくらいに白い肌はうっすらと朱に染まっている。
さっきまで嬌声を上げ、カラダを震わせ善がっていたその反動で流れた涙を、アタシは人差し指で掬う。
「そんな事があったんだ」
「うん。だから愛さん、少しの間部活に出れないと思うし、放課後も一緒に帰れないかもしれない」
りなりーの髪を梳きながらつぶやいた。指の隙間からこぼれていく髪は、月の光に照らされて、艶やかにきらきらと煌めいて、白いシーツに散らばっていく。 まさか今日再開してくれるとは思わなかったありがとう 「そう、なんだ」
「ごめん、りなりー」
「……大丈夫、気にしないで。愛さんが誰かのために頑張ってるところ、私、すき、だから」
アタシの鼓動を聴いていたりなりーは、僅かにまだ潤んだ瞳を、かすかにほんのり上気したままの顔を、アタシに向ける。
「りなりー……」
「それに愛さん、私も同じ学年の友達も増えてきてる」
りなりーは気丈に言う。りなりーの細くて白い、しなやかな指が、私の頬を触れていく。指先から伝わる体温と、アタシの体温が混ざり合っていく。 「だから、寂しくなんてない。っと、ちょっと待ってて……」
ふわり、と指が離れる。そのままりなりーは一糸纏わぬ姿のまま、ベッドを降りて暗い部屋の中をうろつく。
りなりーは明るい所でカラダ晒すのを嫌う。綺麗だよ、そう言っても、りなりーはただ恥ずかしそうにアタシから視線を切ってしまう。
「えっと、えっと……璃奈ちゃんボード『にっこりん』」
ぺらぺらと、ページをめくってアタシに見せてくれるのは、見慣れたいつもの笑顔のページ。
顔はボードに隠しているけれど、代わりに白い肌と、胸の先端の、まだ少しかたくなっている部分と、さっきまでとろりとしたものを溢れさせながら、アタシの指を受け入れていた場所が、月の光に照らされる。
きれい。アタシはそう思った。この世にこれ以上、きれいなものは存在するのだろうか、とも思った。
「……そのボード」
「え?」 アタシもベッドから立ち上がって、ボードごとりなりーを抱きしめる。両腕を腰に回し、少しだけそっと抱き上げる。
ほんの僅かにりなりーのかかとが床から離れ、頭のてっぺんの髪が私の頬を撫でて、りなりーの息に湿っぽいものが混じる。
「表情を出すためのものであってさ。隠すものじゃないよ」
「ぁ……」
「……なんて、私がりなりーにそういう事を、強いてるんだけどさ」
「ごめん、なさい」
しゅんとうなだれるりなりー。髪が動くたび、少しの汗と、シャンプーの甘い香りがする。
「……こっちこそごめん。りなりーにとっては、あんまりいい気持しないよね」
「ちが、きもちよかった! おっぱいも、あっちも、私、どうにかなって、はずかしいくらい……!」
「え。あ、いや、そうじゃなくて」
「あ……ぅ」 アタシはくすりと笑う。りなりーもボードを降ろし、アタシの背中に腕を回す。りなりーに抱きしめられると、ちょうど胸の谷間にりなりーの顔を包む形になって、なんだかくすぐったい。
「愛さん、私の好きなところをたくさん触れてくれるから、すき。私の事を好きだってなんども伝えてくれるから、すき」
「アタシも。なんどもアタシを呼んでくれるから、すき。必ず最後にはアタシの事を抱きしめてくれるから、すき」
抱きしめているりなりーの体温が上がってきている。たぶん、アタシもきっとそう。
りなりーがふっと、アタシを見上げる。月の光に照らされて、りなりーの潤んだ瞳が一段と煌めく。
赤く上気した頬。糖度と湿気を増した吐息。体に伝わる鼓動の音。カラダの前半分が共有する体温。熱い。何もかもが熱く、熱く、熱い。
璃奈。もっと。そう、声を出そうとした瞬間。
「愛さん、もっと私を……愛して」
璃奈のかすれた声が、しっかりと耳朶を打つ。は、と息を呑んだ声は、アタシのもの。全身がさらにカッと熱くなる。体の奥から生まれてくるこの感情に、アタシは一つ名前を付けている。
「愛してる、璃奈」
抱きしめたまま、ベッドに倒れ込む。そのまま璃奈の唇にアタシは唇を近づけ、璃奈の口の中で舌を溶け合わせた。 これが都会の令和JK…
地方出身の果林先輩がびっくりしてしまうぜ まじで絵里とかもそうだけどナーフされがちなキャラがナーフされてないssってかっこいいな 栞子の理想が仮に実現したら結果として挫折を知らない人間というものが世に解き放たれることになるよね
一度も失敗しない人生なんて絶対にあり得ないことだし社会に出てからが本番なのにこれは恐ろしいことだよ失敗を学ぶということが許されないのは >>399
挫折する人を生み出さないために適正を見てるんじゃない?その先の社会でも活躍できるように 愛さんと栞子の心情を深く掘り下げつつ、他のキャラも魅力的に描けるイッチの文才に脱帽だわ 困ってる子をほっとけない、友達に優しい、りなちゃんエッチ済みと、愛さんの魅力がたっぷり詰まってるな >>400
高校三年間でその後定年までの40年近く一度も挫折しない人間を育成できるならそら凄いけど あいりなの描写素晴らしい……
続きが楽しみです!!!!! あいりなの描写すごい
これぐらい書けるようになりたいです 愛さんは誰にでも優しいからりなりー的には心配になるんかな? 面白いわ
愛さんが本編でナーフされてた理由もわかったわ 抑えないとここまでできるんだな
栞子の思想だともし虹に勉強部が存在するならほぼ全員をそこに入れなきゃいけなくなるよな?
勉強への適正あるなし関わらずその先の進路選択においては理論上最強なんだから 確かに愛さんがスペック通りの行動発揮するだけで、栞子ランジュ問題を解決できるよな…… ──翌日 虹ヶ咲学園 生徒会室
栞子「その……それで愛さん、作戦というのは……」
愛「うん。その作戦なんだけどさ、その作戦を説明する前に……ひとつ、大切な事があるんだ」
栞子「大切な、こと……?」
愛「そう。それは、しおってぃーの事」
栞子「私の事、ですか」
愛「しおってぃーはどうして、ただ『好きという気持ちだけで部活に入ってはいけない』って考えているか、知りたいんだ」
栞子「! それは──」 愛「今までの愛さんはしおってぃーの事をまだ全然知らなくて、悩みを置いて行くことしかできなかった。でも、それじゃもうダメだ」
愛「しおってぃー、もっと聞かせてほしい。しおってぃーのこと、ぜんぶ知りたいんだ。だから──ぜんぶ、愛さんに教えて」
愛「今度は置いて行くんじゃなくて、一緒に解決するために。今度はしおってぃーの全部を抱きしめて、笑顔にしてみせるから」
栞子「……愛さん、私は……その」
愛「教えて、しおってぃー。部活紹介とか、ミーティングとか、学校の事とか、そりゃ色々あるよ。けど、この思いの始まりはさ、しおってぃー」
愛「しおってぃーを、助けたいんだ。アタシが『なんでそんな結論に至ったかわかんない』そう言った時のしおってぃーを忘れられないからなんだ」
栞子「あ……」
愛「しおってぃー。話してくれるかな。しおってぃーの事」
栞子「……きっかけは、私の姉さんと家族の間に起きた事件でした」 ──虹ヶ咲学園 カフェ
せつ菜「副会長さん」
侑「副会長!」
副会長「ああ、高咲さんと……え!? せつ──え"っほ! げっほ!」
せつ菜「だ、大丈夫ですか!?」
侑「タオルタオル!」
副会長「い、いえ、ご心配なく……げほっげほっ!」フキフキ
副会長「……高咲さんから詳細は伺っています。先日のミーティングについて、ですね。私に答えられることでしたら、何でも」
侑「急な呼び出しに応じてもらえて、ありがとうございます。では単刀直入に……生徒会は、三船生徒会長の発言で意思は統一されているという事で、良いんですか?」
副会長「っ」 せつ菜「虹ヶ咲学園の生徒会は原則生徒会長を中心に活動する、と聞いています。それに従えば、昨日のミーティングの内容は……」
侑「副会長も納得した上で、ミーティングに臨んでいるんですか?」
副会長「そんなわけありません! 私は以前高咲さんにお話しした通り、あんな、あんな横暴な人、を……」
せつ菜「そうですか。では、今の生徒会は……全く連携できていない状態にあるようですね」
副会長「……処務に関しては、表面上は上手くやっています。ですが、部活の事などになると……その。お恥ずかしながら」
侑「副会長さん、このままだと部活紹介が出来なくなる可能性もあるって聞いたんだ。それは、本当なの?」
副会長「はい。このまま何一つ決められないままでは、もう……」 せつ菜「それは一番避けるべき事態でしょう。やはり副会長、まずは生徒会を一度正常な状態に戻す必要があります」
副会長「し、しかし! それでは、スクールアイドル同好会の廃部もなし崩しで認めてしまう可能性が──」
侑「大丈夫! 私たちはそんなに軟じゃないよ」
せつ菜「安心してください。その問題に関して、副会長がずっと抵抗してくれていることを、私は知っていますから」
せつ菜「私の居場所を守ってくれてありがとう、副会長。今度は私たちが頑張る番です」
副会長「せ、つ菜ちゃん……」
侑(……私信どころか最早殺し文句に近いよコレ……)
せつ菜「もちろん、副会長が納得できない事は、スクールアイドル同好会以外にも、多岐にわたると思います。ですが──」
せつ菜「今だけは、今だけは……少し、三船生徒会長に歩みを寄せてみては、くれませんか」 副会長「……少し。少しだけ、良いでしょうか」
侑「はい、もちろん。きっと言いたい事はあると思います」
副会長「──私は中川生……中川さんとは……約束して休日に遊んだりとか、そういう事はありませんでしたが……私は中川さんに尊敬の念、友情を……抱いていました」
副会長「今でも親身になって相談に乗ってくれる彼女に、私は負い目があるんです。私は中川さんを守ってあげられなかった。志を同じくした仲間を、私は助けられなかった」
副会長「私は今も中川さんが生徒会長をしてくれれば、と思っています。それなのに、彼女を見捨てて三船さんと手を組むことは、中川さんへの裏切りに、他なりません」
侑「副会長……」
せつ菜「……中川さんは、とても幸せでしょうね。副会長にこんなにも慕われていて」
副会長「しあわせ……? 私みたいな、肝心な時に役に立てなかった私に縋られてですか……?」
せつ菜「縋るだなんて、そんな事言わないでください。彼女にとってこんなに幸せなことはありませんよ。忠魂義胆の精神にあふれる貴女を友に持てたことは、彼女にとっても誇りです」
せつ菜「ですが……今のこの生徒会の状況を、中川さんはきっと胸を痛めていると思います。副会長が辛い思いをしているのも、三船生徒会長が辛い思いをしているのも」 正直アニメ時空で栞子がどうやって生徒会長の座を奪えたのかよくわからんな 副会長「三船さんも……?」
せつ菜「虹ヶ咲学園の生徒会は、生徒会長を中心に活動します。ですが、当然副会長以下のフォローがあってこそです」
せつ菜「意見の相違はもちろん理解した上で……生徒会内で意見が割れてしまう事は──副会長も三船さんも、同じように辛いはずです」
侑「副会長さん、歩み寄りが難しいなら、せめて、どうして三船さんがああいう考えを持つようになったのか、聞いてみませんか」
侑「何事もまずは踏み出す一歩です。副会長、せつ菜ちゃんもこう言ってるわけですし……ね?」
副会長「……わかりました。お二人が、そうまで仰るなら。まずは私から、三船さんに聞いてみたいと思います。あくまで、彼女の真意を知る……今はそれだけです」
侑・せつ菜「「やった!!」」コツン たまにアニメ時空とかいう人いるけどこれスクスタ時空でしょ? ──────
愛「そっか。しおってぃーにもおねーちゃんが居たんだね」
栞子「はい。姉さんは、スクールアイドルが大好きでした。ですが、そういったものを嫌う両親と言い争い、三船財閥跡取りという、確約された未来を失いました」
栞子「その時の両親と姉さんの姿は、今も私のこころの奥底に、昨日の事であるかのように、今も息づいています」
栞子「怖かった。両親と姉さんが言い争う姿が。ただ好きなものにのめり込むことが、こんなに悲しいことを産むのかと」
栞子「家を出る姉さんは悲しげな顔を。家を出て行った後の両親の悲しそうな顔を。私はただそれを何もできずに眺めていただけでした」
栞子「私が掲げる理想の始まりは、きっとあの日なんです。もう誰も、こんな悲しい思いをしてほしくない、と強く、強く思いました」
栞子「その時に、私は自分の生き方を決めたのかもしれません。両親に、姉さんに……比べれば矮小で無力な私でしたが──いいえ、だからこそ、私は決意を胸に抱きました」
栞子「もう二度と、姉さんのような思いをする人間を産み出したりはしない、と」
栞子「同時に私はスクールアイドルそのものを激しく憎むようになりました。それさえなければ、今も姉さんと両親は仲良く暮らしていたはずなのに、と」
栞子「そうやって生きていく中で、私は方法を模索し続けたのです。どうすればみんなが姉さんのような思いをせずに済むのか……と」
栞子「そして、中学や高校で見たのは、姉さんと同じように『好き』なものを選択し、悲しみを味わう人たちでした」 栞子「三年間の努力が実らなかった三年生を、才能というたった二文字に絶望を味わった二年生を、現実と理想の乖離で苦しむ一年生を」
栞子「他にもいろいろな、悲しむ人たちを見てきました。その人たちがもし、自分に向いている部活に入っていたなら」
栞子「『好き』ではなく『適正』によって自分の運命を決めていれば──三年間の学園生活は、大きく違ったのではないか、と……」
栞子「私はそう、強く思うようになりました。実際に私は自分が得意なものに打ち込めば打ち込むほど、多くの成功体験を収めてきました」
栞子「その頃は中学生で、当時も生徒会に所属していた私に相談……というより、愚痴でしたね、あれは。部活のバスケで下級生に負けて恥ずかしい、という話を聞きました」
栞子「彼女は冗談半分で『私に向いている部活ってなんだろうね』と言いました。その時私は、彼女が体育のソフトボールで活躍し、ソフトボール部に声を掛けられていたことをたまたま知っていました」
栞子「だから私は言いました。『貴女はソフトボールが上手と聞きました。折角ですし、一度挑戦してはどうでしょう』と」
栞子「彼女は随分驚いた顔をしました。私がそんな話を知っているなんて思いもしなかったのでしょうね」
栞子「ですが彼女はその翌日ソフトボールに仮入部したかと思うと、才能を露わにし、バスケット部を辞めてあっという間にソフトボール部のスターティングメンバー入りを果たしたのです」 >>431
あなたを侑名義にしてるSSなんていくらでもあるけど スクスタ時空には演劇部の部長も生徒会副会長も出てこないからこのSSはアニメ時空に栞子を入れた作品やと思うよ 愛「しおってぃーの助言は大成功だったわけだ」
栞子「はい。その時私は何かを掴んだ気がしたんです。いいえ、これしかないと、散々方法に悩み続けた私にとって、たったひとつの蜘蛛の糸でした」
愛「人の才能を、適性を見抜いて助言する……」
栞子「はい。運が良かったのでしょう、その後も何度も相談を持ち掛けられ、その度に成功して喜んでくれました……そのたびに私はこのやり方に縋るようになりました」
栞子「そして、高校生になって……私は決意を新たにしました。昔の私の願い、決意、理想を、カタチにすると」
愛「それで、生徒会長になろうと?」
栞子「はい。私は自分の掲げる理想を現実のものとするべく、中川さんを……」
愛「……なるほど、ね……」 栞子「長くなってしまいました。こんな風に自分の事を、誰かに話したのは初めてです。こんなこと話す機会、今までなかったので……」
愛「へへ、じゃあ愛さんが初めてだ。やったぜ!」ガッツポ
栞子「そ、そんなに喜ぶことですか? なんだか恥ずかしいですね……」
愛「嬉しいに決まってるじゃん! 先週のしおってぃー、アタシになんて言ったか覚えてる?」
栞子「えっ?」
愛「えーっと……確か『なんですかいきなり。私個人……? 意味が解りません。貴女と私から同好会と生徒会を抜けば、なんの関係もない間柄でしょう』って」
栞子「わーっ! 止めて下さい! 恥ずかしすぎます!!」 愛「あははははは! まあまあ、そういう時代も今となってはいい思い出ってね」
栞子「私は永久に消し去りたいです」
愛「くふふふふ、まあそれはそれとして……。やっぱさ、しおってぃーの根底にあるのは優しさなんだね」
栞子「え……と。それは、どういう?」
愛「願いなんだよ。誰も悲しい気持ちになってほしくない、傷ついてほしくないっていう、願い。もう二度と、おねーちゃんが味わった不幸を誰一人味わってほしくないって言う、願いなんだ」
愛「途方もなく、とてつもなく。到底ヒトでは成し得ないほどの、優しい願いなんだ」
栞子「やさしい、ねがい……そんな、そんなあり得ません! 私のやっていることは、皆にとっては──……!」
愛「うん……確かにそうかもしれない。でも、その根底は、優しさなんだよ。しおってぃーの願いをかなえる為にしおってぃーが採った手段は、理解を得られない方法だったかもしれない」
愛「でも……しおってぃーが最初に抱いた想いは、間違いなく不幸を遠ざけたいという祈りなんだ」 栞子「祈り……」
愛「んー、ちょっと聞いてくれるかな。愛さん、部活棟でなんて言われてるか知ってる?」
栞子「えと、部活棟のヒーロー、ですか」
愛「そうそう。アタシさ、ソフト陸上バスケテニス剣道水泳バレー……挙げたらキリないんだけど、色んな部から頼まれて助っ人をやってるんだ」
栞子「し、知ってはいましたが……改めて聞くと、凄い話ですね……」
愛「うーん……なんかこう、できちゃうんだよね。だからさ、助っ人やってると部員の子より上手、なんてことザラにあるんだ」
栞子「……開いた口が塞がらない、というのはこのことでしょうか……」 愛「それ、こう考えられないかな? 愛さんにはたくさんの適性があるんだって。でも、アタシが抜かした部員の子にとっては、その子の中で一番適性の高い部活だったんじゃないかなって」
栞子「!!」
愛「部員の子が試合に出るんじゃなくて、アタシが呼ばれることがよくあるんだよ。特にソフトとかバスケとかテニスとか、そういうガチでやってる部活って大会に、試合に勝つ為にやるから──」
愛「愛さんの方が『使える』ってなったら、当然の様に呼ばれるんだ、試合に。運動部ってさ、そういうのメッチャシビアでさ。上手い人が試合に出る、下手な人は試合に出られない。それはどうやら当然の事みたいで」
栞子「それ、は……」
愛「部員はみんな納得してるなんて言うけど、実際は愛さんもわからない。でも助っ人を頼まれた以上、愛さんは全力でやるよ。愛さんを頼ってくれるなら、愛さんは全力でやる」
愛「しおってぃー。もししおってぃーが誰かを『適正』ある部活に転部させた後、アタシがその子を抜かして試合に出ていたら、どうする?」 栞子「ぁ……」
愛「好きなことを諦めて。適性があると言われて入った部活で活躍しようと思ったら、愛さんみたいな助っ人に活躍の場を奪われて」
愛「愛さんだけじゃない。その子にとって適性のある事でも、部内で見ればベンチ入りすら届かないものかもしれない。そうしたらしおってぃーはどうする?」
栞子「あ……そ、れは……ならば、つ、次のてきせい、を──……」
愛「二番目の適性で、しおってぃーの掲げる理想は破綻ない? それにそこには愛さんが居るかもしれない。それなら、最初から『好き』を貫いた方がよっぽどマシって愛さんは思うよ」
栞子「……で、すが……」
愛「しおってぃーの根底は願いだ。だけど、その方法は、時として何よりも残酷な結果をもたらすこともあるんだ」
栞子「ぁ……あ……」
愛「愛さんは、それをひとつ伝えたかった。もちろん、しおってぃーのやり方で救われた子も居るかもしれない……でも、また元に戻る子が多いってことは」
愛「きっと、みんな好きなことがやりたい──そういうことなんだよ」 栞子「……でも、でもそれでは、姉さんの様に──!」
愛「それでいいんだよ、しおってぃー。しおってぃーが全ての人を救おうなんて思わなくていいんだ。そんなのできるのは、神さまくらいだよ」
栞子「……私では、できない……」
愛「愛さんもできないよ。いや、きっとどんなにスゴイ人でも、それは絶対に出来ない事だと思う」
栞子「……」
愛「しおってぃー、もちろんしおってぃーの言いたいこともわかるつもりだよ。しおってぃーが受けた衝撃、悲しみ、苦しみがあったからこそ──」
愛「いろんな人とぶつかってでもやり遂げる強い意志を持ってやってる。それ自体はアタシ、立派だって思う。根底が優しさだから」
愛「でもその強い意志が優しさの部分を隠してしまって、強烈な意志だけが強く出てるんだって、アタシは思うんだよね」
栞子「愛さん……わたしは……不可能なことに、手を伸ばしていたのでしょうか……」 このスレ見てると愛さんが本編でデバフ食らうのも仕方ないよねって感じはする
スペック通りの力を発揮するとあまりにも強すぎる 愛「しおってぃー。愛さんが今日ここに居るのは、諦める為じゃないんだ」
栞子「……でも、今の愛さんの口ぶりでは……」
愛「そうだね、今までの愛さんの言い方じゃ、しおってぃーのやり方を否定するだけだった。しおってぃーのやってることは不可能だって言ってる様なもんだね」
栞子「……では、やはり」
愛「違うよ。これからは違う。しおってぃーの願いも、ぶちょーさんたちの意見も上手く擦り合わせて──全員が納得できて、新入生も納得できるやり方を、これから探すんだ」
栞子「無理ですそんなの……! 全員が納得できるやり方なんて不可能──」
愛「いや、不可能を可能に変えてみせるよ。言ったっしょ? 愛さんに任せろって」 おつおつ
本当にちゃんとスクスタで書くべきだったんだよな… 何の適性もない子はとりあえず手に職付けさせるみたいな方向性なら一理ある気がしてきた 所々で愛さん楽曲の歌詞をもじった台詞を放り込んでくるのすき 愛さんが額面通りのスペック解放したらスクスタのストーリー半分以下になってたんじゃね? この愛さんかっこよすぎる……
続きも楽しみにしてます!!!!! 額面通りのスペックだと全部愛さんでよくねになっちゃうからな…… ディケイド映画で主役を立てるために倒されたブラックサンみたいだな あくまでも一般論的イメージとして、文系は論理より情緒を大事にすると思われてるだけの話 ユニコーンガンダム本編の宇宙世紀憲章をめぐる話みたいになってきた 愛さんの口調にかなり違和感あったけど、そんなん関係なくなってきた これが欲しかったんや
ありがとうございますありがとうございます ──────
────
──
虹ヶ咲学園 庭園
かすみ「もぐもぐ! もぐもぐもぐ!」
歩夢「か、かすみちゃん、そんなに食べて大丈夫……?」
かすみ「うううううう! これが納得できるかってんですよ!」モグモグ
歩夢「昨日の事、まだちょっと怒ってる……?」
かすみ「当然です! かすみんをほっといて同好会の敵に力を貸すなんて!! 歩夢先輩は何とも思わないんですか!!」モグモグモグ
歩夢「わ、私は侑ちゃんが決めたことだから……かすみちゃんだって、あの時納得したよね……?」
かすみ「それはまあ納得しましたが! でもそれとこれとは別の話なんです! スクールアイドルを毛嫌いする人に、スクールアイドル同好会が力を貸すなんて!!」モッグモッグモッグ 歩夢「昨日と言ってることが違うよ……」
かすみ「かすみんだってフクザツなんです! ダメになりかけた同好会を、侑先輩と歩夢先輩が来て、かすみんを助けてくれて!」
かすみ「で、また三船栞子のせいで廃部になりかけて!!」
歩夢(こんなに短いスパンで廃部になるならないの話が出る部活なんて、後にも先にも私たちだけになりそう……)
かすみ「かと思えば今度は侑先輩とせつ菜先輩は副会長さんに三船栞子に歩み寄れってお願いする!? 説得できるわけないですよぉ!!」
歩夢(……たぶん侑ちゃんとせつ菜ちゃんのコンビならやると思うな……)
かすみ「かすみんは……かすみんだって、誰かの事をキライ! だなんて、思いたくないんですよ……」
かすみ「でも、どうすればいいんですか……。三船栞子は敵にしか見えないんですよぉ……」
歩夢(侑ちゃんならこういう時。かすみちゃんにどんな言葉をかけてあげるかな……侑ちゃんなら──) 歩夢「うーん……じゃあさ、かすみちゃんの可愛さで三船さんをファンにしちゃうってのはどうかな?」
かすみ「へ?」
歩夢(……い、今のはヘンな発言だったかも……! 私侑ちゃんとか愛ちゃんとかせつ菜ちゃんみたいにこういうの得意じゃないから……!)
歩夢「ち、違うの! えっと、ほら、かすみちゃんの可愛さで、三船さんをファンにしちゃうの! 敵とか味方とじゃなくて、ファンに!」
かすみ「……?」
歩夢(情 報 が 何 も 増 え て な い !!!!)ガーン
歩夢「え!? どういうこと!?」
かすみ「それはこっちのセリフですよ!? 歩夢先輩、大丈夫ですか!?」
歩夢(かすみちゃんの本気の不安そうな表情が辛い! つらいよ侑ちゃん帰りたい!!) 歩夢「ち、違うの、えっとね!? 元気づけるというか、慰めるというか、そういう、その……」
かすみ「……ぷっ。くふふふふ……あはははははは!!」
歩夢「!?」
かすみ「歩夢先輩、本当にこういうのへたっぴですよね! 前の自撮りプリンセスコンテストの時もそうでしたけど!」
歩夢「あっ、あれは──!」
かすみ「『応募した人、多かったみたいだよ。入賞できただけでもすごいよ──だって入賞できたんだもん!』って」
歩夢「も、もうやめて──!///」
かすみ「でも、その後もよく覚えてますよ? 侑先輩と歩夢先輩が、私を励ますために動画を投稿してくれたこと。その思いやりは、とってもとっても嬉しかったんですから!」ニッコリ
歩夢「かすみちゃん……」 かすみ「かすみん、三船栞子の事は今は嫌いです、やっぱり。その気持ちには嘘はつけません。でも、かすみんは『一番かわいいスクールアイドル』なんです。だから──ううん」
かすみ「だからこそ、スクールアイドルが嫌いだって言う人にこそ、かすみんの可愛さでスクールアイドルを好きになってもらわないといけないんです!」
かすみ「歩夢先輩、かすみんはかすみんなりの方法で三船栞子を改心させてやりますよ!! 愛先輩とも、侑先輩、せつ菜先輩とも違う、かすみん流の方法で!」
歩夢「かすみちゃん……!」
歩夢(なんでかわかんないけど説得できたー! わーい!)
かすみ「かすみんのカワイイで三船栞子を骨抜きにしてやるんです!! そうと決まれば早速練習です! 歩夢先輩、早く部室に行きましょう!」
歩夢(モヤモヤするから話を聞いてほしいって言ってたのはかすみちゃんなんだけど……ううん、下手にツッコまないほうが良いって彼方さんが教えてくれたもんね……)
歩夢「じゃあ部室に──」
「あれ? 歩夢ちゃんにかすみちゃんだー」
「やっほー二人とも、今から部活ー?」 かすみ「あーっ! ひな先輩にあぐ先輩! こんにちはぁ! そうですこれから部活に行くんです!」
歩夢「二人は今から帰るところ?」
「うん、そうだよ。二人にも聞こうと思ってたんだけど……入学希望者説明会の部活紹介、結構大変なんだって?」
「三船生徒会長と部活側であんまり上手くいってないって……」
かすみ(……あれ? 歩夢先輩、昨日の話では愛さんが各部活に口止めしてるって話じゃ……?)ボソボソ
歩夢(そのはずなんだけど……でもミーティングは長引いてるし、話が漏れてるのはしょうがないのかな……?)ボソボソ
「なんか会長さんが新入生には入部テストがあるとかなんとか……そう聞いたよね、あぐ?」
「うん。ちぇみちゃんも『どーなるんだー!?』って言ってたし……」
かすみ(あれ!? 入部テストの話なんてまさしく昨日の話ですよ!?)ボソボソ
歩夢(な、なんかおかしいね……? いくら何でも一年生のちぇみちゃんにまで話がいってるっておかしいような……?)ボソボソ
かすみ「あの、ひな先輩、その話いつ聞いたんですか?」
「ん? 昨日の話だよ。三年生の人たちが言ってたって、部活してる子がクラスで言ってたから」
歩夢「あぐちゃん、何か他に聞いてないかな? 三船生徒会長の噂でもなんでも!」
「えーっと、生徒会長の……? それなら、なんか生徒会長を再々選挙するとか……? こっちはほんとに噂だけど……」 歩夢「!?」
かすみ「!?」
歩夢(それって部長さん間でしか話してない話だよね!?)
かすみ(おかしいですよ! 愛先輩の人望から言って、今日明日で愛先輩のお願いが破られるなんて考えられません!!)
歩夢「その話も誰から聞いたのあぐちゃん!?」
「え? え? えっとね、この話は……バレー部の子だっけ……?」
かすみ「……あ、ありがとうございますあぐ先輩! ひな先輩! 歩夢先輩、部活行きましょう!!」ダッ
歩夢「うんっ! 二人ともありがとう、また明日!!」ダッ
「えっ、あ、うん。気を付けてね〜?」
「部活頑張ってね〜!」
「どうしたんだろうね。二人とも」
「さあ……?」 ──虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 部室
果林「話が広まってる?」
歩夢「はい、そうなんです。昨日果林さんが話してくれたことの内、その……再々選挙とか、入部テストとか」
彼方「……ふ〜む、人の口に戸は立てられぬって言うからねぇ……むしろ愛ちゃんのお陰でまだ学校全体の噂になってないだけましなのかな?」
果林「実際三年でもそういう話は表立ってはなかったし、歩夢の方も特にそういう話はなかったでしょう?」
歩夢「確かに……他の部活の子は特に何も言ってなかったような……」
かすみ「かすみんたちが過敏に反応しちゃったんですかねぇ?」
彼方「ふふ〜」ナデナデ
かすみ「なっなんですか彼方先輩!?」 彼方「なんだかんだ言って、かすみちゃんも三船さんの事気にしてるんだねぇ〜?」
かすみ「なっ! ち、違います! かすみんは敵が不利な状況になっているのが嬉しいんですぅ!!」
果林「ま、普通『入部テストに受かったものだけが入部できる』なんて決まりを立案、発表すれば学園中を駆け巡ってもおかしくないし──」
果林「再々選挙の話は突拍子がなさ過ぎて、あんまりみんな信じてないんじゃない? それにまあ、愛のお陰で軽症でとどまっていると思いましょう」
歩夢「あの、果林さん、彼方さん。侑ちゃんとせつ菜ちゃんが副会長さんを三船さんに歩み寄るように持ち掛けていますけど……歩み寄った上で理解できない、副会長として断固拒否する──」
歩夢「そういった態度に出た場合は、どうなるんですか……?」
果林「ん? ああ、その心配ね。これは愛達の手腕にもよるけど……そこは心配してないわ。副会長さんは結構融通が利くタイプだから」
歩夢「そう言えばそうですけど……でも」 彼方「ほらほら、二人とも着替えておいで〜? もうすぐ練習始めちゃうよ?」
果林「エマたちは先に出ているし、私たちも行くわね」
歩夢「あ、はい! すぐに着替えますね」
かすみ「そうでした! 今は練習、練習あるのみです!」
彼方「ほいじゃあ先行ってるよ〜」ガチャ
ばたん
歩夢「ふぅ〜……やっぱりあの愛ちゃんのお願いでも、噂話っていうのは止められないんだね……」
かすみ「そうですねぇ。かすみんは愛先輩なら本当にやっちゃうかと思いましたけど……そういえば歩夢先輩、三船栞子についてなんですけど……」 歩夢「ふふ、かすみちゃんも噂話?」ニコ
かすみ「違いますよ! これは友達の話なんですけど、三船栞子って意外に抜けてるらしいですよ?」
歩夢「え? 意外に天然さんって事?」
かすみ「らしいですよぉ? 体操服を忘れて体育を見学したり、教科書を忘れて別のクラスの人に借りたり、そういうの多いらしいです」
歩夢「う〜ん……あの真面目でしっかりしてる三船さんが……? ほんとかな?」
かすみ「かすみんのクラスにも借りに来た事があるらしいんですけど……なんか意外ですよね!」
歩夢「そういうところがあると、少し親近感が湧くよね。やっぱり三船さんとも仲良くなれるんじゃないかって気がするよ」
かすみ「そうですね、きっとかすみんの可愛さに撃ち抜かれてコロッとファンになっちゃいますから!」
歩夢(う〜ん……でも、本当に想像つかないなぁ……あんなに生真面目な三船さんが……?) ──────
────
──虹ヶ咲学園 生徒会室
栞子「……」
副会長「……」
愛「副会長、来てくれてありがとう。ゆうゆとせっつーの言葉、聞き入れてくれたんだね」
副会長「……はい。私はあまりに三船さんのことを知らなさ過ぎました。だからまず、聞かせてほしい、と」
愛「だって、しおってぃー。愛さんにさっき話してくれたように、副会長にも話してみて?」
栞子「……」
愛「内容が内容だし、やっぱり話し難い?」
栞子「いえ、そういう、わけでは。──副会長、話をする前に少しだけ良いでしょうか」 副会長「どうぞ?」
栞子「私は貴女の好きなスクールアイドルについて、今もなお強く否定の意志を持っています」
副会長「それは知っています」
栞子「この話にはその話も当然含まれますが……それでも、良いですか」
副会長「……それを含めて貴女を知るための場ですから。ですよね、宮下さん」
愛「もちろん。じゃあしおってぃー、話してみて?」
栞子「はい。副会長、私には──」 ──────
────
──翌日 生徒会室付近廊下
愛(昨日は、副会長もしおってぃーの話を聞いて納得はしてくれた。部活紹介をやり遂げる為にも、今は矛を収めてしおってぃーに協力する、という話まで持っていけた)
愛(これで少しずつ足並みはそろいつつある。生徒会全体が一丸となる為に次に必要なのは、意見の統一だ)
愛(これに関してもアタシには考えがある。しおってぃーの『強い意志』による働きかけではなく『根柢の優しさ』を前面に出すべきなんだ)
愛(優しさによる働きかけなら、今までとは全く違うやり方になるはず。それならきっと、全員が納得できるはずだ……!)
愛(だから今日は、それをしおってぃーに持ち掛ける!)
愛「ちーっす! しおってぃーいる!?」ガチャッ がちゃっ
栞子「!」パッ
栞子「こんにちは愛さん。あの、遂にノックすらしなくなったのですね……」
愛「え? まあ今日もしおってぃー一人だって聞いてたし、まあ良いかなって! それよりしおってぃー、何かしてた? 愛さんが入ってきたら急いで何か隠した様な?」スタスタ
栞子「えっ、あっ、いいえ、先生から預かった書類を整理していたんです。その……」
愛「あっ、愛さんが見たらまずいやつとかもあるのか。ごめんごめん、そこまで考えてなかったよ」
栞子「いえいえ、そこまでまずい物なんてありませんよ」クスッ
愛「あはは、まあしおってぃーも生徒だもんね。……ん? しおってぃー……?」スッ 栞子「えっ、愛さん、なにを──」
愛「しおってぃー、いつも付けてるリボンは?」
栞子「え……あっ、えと、これは、その──」
愛「?」
栞子「その、体育の時に、髪飾りを外してそのまま付け忘れていて……」
愛「あはは、なるほど。着替え長引くとそういうの忘れちゃうよね!」
栞子「愛さんはその白い花の髪飾り、必ずつけてますよね」
愛「ん? これ? ああ、これはアタシのおねーちゃんに貰ったやつでさ。大事なものなんだ」 栞子「そう言えば愛さんにもお姉さんが居るんですね」
愛「あ、肉親じゃないんだよ? アタシを小さい頃から知ってる人で、実質姉みたいなところあるから、おねーちゃんって呼んでる」
栞子「なんだか羨ましいです、そういう人が居るのは」
愛「へへっ、アタシの自慢のおねーちゃんだよ。っと、今日の愛さんも真面目モードな話を持ってきたんだよね、しおってぃー、良いかな」
栞子「はい。昨日に続き今日は折衷案を作るんですね。今副会長たちは再度各部長へ意見を聞きに回ってもらっています。私たちは──」
愛「しおってぃーの意見を、今一度見直そう」
栞子「はい。愛さん、どうか一緒に考えてください」
愛「あいよ! 愛だけに!」 そこからアタシはしおってぃーに愛さんの考えをたくさん話した。今一度「悲しい思いをしてほしくない」というところに立ち返る為に。
しおってぃーの譲れないところもたくさん聞いた。ただ同時に、しおってぃーの胸の中で、それらを認めてもらうのは難しいのかもしれない、そう思っている節もあった。
しおってぃーは机から、彼女が知る限りの「悲しい思いをした人」を書き留めて、適性のあるものを書きこんでいるノートを出してくれた。
それには本当に、しおってぃーの熱意と強い意志と、やっぱり根柢の優しさが宿っていた。誰一人とて、悲しい思いをさせまいという。
人の不幸など許せない、という信念がそこにはあったんだ。
愛さんはそこも何とかカタチにしてみようと努力して、でも同時に不幸からすべての人を護るなんてできないから──。 愛「部活紹介の時に、しおってぃーが呼びかけるっていうのはどうかな」
栞子「……え?」
愛「しおってぃーの気持ちを、部活紹介に来てくれた子たちに話すんだ。もちろん全部話すんじゃなくて、しおってぃーがみんなに不幸になってほしくない、っていう気持ち」
栞子「私の、気持ちを……?」
愛「しおってぃーの理想、生徒のたった一人も不幸にしたくないっていうのを。だから、しおってぃーはまずそれを伝えるんだ。そして、もし道に悩む子が居るなら、生徒会室に来て欲しいって」
愛「一緒に考えようって。後悔しない道を生徒会と、しおってぃーと一緒に探そうって、伝えるんだ」
栞子「……一緒に……」
愛「しおってぃーが叶えたい『すべての人を不幸にさせない』っていうのは難しいかもしれない。でも、部活は誰かに強制されるものじゃないんだよ、やっぱり」
愛「自分で選択した以上その過程と結果は自分のものなんだ。そしてそれは間違いなく、無駄になんかならない」
愛「ライブ前に『失敗したらどうしよう』なんておばーちゃんに泣きついた、おねーちゃんに泣きついたアタシは、今は泣くことなんてもうないんだ」
栞子「愛さんが……? 泣く……?」 ぽむかすの下りなんだっけって思ったらフォトエッセイの奴か 愛「泣きに泣いたよ。元々結構泣き虫だしね! だからアタシ、ホントはスクールアイドルなんて向いてないんじゃないかって思った」
愛「ステージに上がるのを怖がってるんじゃ、アタシにスクールアイドルの適性はないんだって。実際最初のライブは結構滅茶苦茶でさ。緊張で思ったように体が動かないんだ」
愛「でも、そういう自分が居るんだって知れたのは、アタシの選択で得られた一つの事実」
愛「スクールアイドルは将来の役に立たないかもしれないけど、それでも確かにアタシの人生において重要なことが一つ解ったりしてさ」
栞子「……」
愛「悲しみ、悔しさの中にも、確かに得られるものはある。それはそれで、かけがえのない大切なものなんだよ、しおってぃー」
栞子「……」
愛「三年間の努力が実らなかったことに比べれば、アタシのは確かちっぽけなことだけど、それでもやっぱり、悲しみの淵からから得られるものも、確かにある」
栞子「……愛さん」 愛さんの弱味を見せつつ塩のフォローまでする皇室御用達たこやき 愛「ん?」
栞子「私が今までやってきたことが間違いだと思いたくない私が居るのも、確かです。ですが、反発を受けているという事は、きっとそういうことなんだ、とも思います」
愛「うん……うん」
栞子「それに確かに最初の私は、相談を受けて働いたからこそ、活躍の場を皆さんに紹介できたんです。けれど私から強制したことで、成功したものはわずかで……」
愛「うんうん」
栞子「転部を強いてその先でも活躍できなかったのなら、それはより大きな不幸を呼ぶ……その時に、私は責任を取る事すらできない」
栞子「私の行いは、本当に我儘でしかない……それなら私は、やっぱり原初に立ち返るべきなんだと、教えてもらいました」
愛「しおってぃー……」
栞子「愛さんが言ってくれる『根柢の優しさ』というものが私にあるのなら、悩み、苦しんで伸ばされた手を、私は絶対に離しません」
栞子「そして一緒に、後悔しない道を探したい」 栞子「やっぱり一緒に探した先でも、上には上が居て、活躍できないこともあるかもしれない。その時も私は責任を取る事なんてできませんが……」
栞子「一緒にその気持ちを共有して、少しでもその人にとって、得られるものを探したい……それが、今の私の、三船栞子の掲げる理想です」
愛「良いんだね、しおってぃー。今まで掲げてきたものとはかなり違うことになるけど、それで、後悔しない?」
栞子「はい。私は私に存在する優しさを信じることはできませんが……愛さんが言ってくれる『私の優しさ』を、私は信じています」
栞子「これは私の選択です。色んな人から教えてもらって、新しく見つけた道ですから」
栞子「後悔は、ありません。また仮に後悔しても、またそこから何かを得て、私は絶対に立ち上がります。愛さん、その時にはまた、隣に居てくれますか?」
愛(その時のしおってぃーの笑顔を、アタシはきっと忘れないと思う。晴れやかなその笑顔は、アタシも自然と笑顔になるほど気持ちが良かったから)
愛「うん、もちろんだ!」 ぽむかすのやりとりもいいですね……
続きが楽しみです!!!!! チートキャラを無理なく最大限に使いこなしてるのすごすぎるな ──────
────
──虹ヶ咲学園 普通科一年生教室 昼休み
かすみ「まゆちゃん、ご飯食べましょー!」
「かすみちゃんは今日学食? おべんと?」
かすみ「おべんとですよ〜! まゆちゃんは?」
「私もおべんとう! 一緒に食べよ食べよ! あっ、ちぇみちゃんもこっち来るって」
かすみ「みんなで食べるとご飯はもっと美味しいですよ〜」ルンルン ──かすみちゃーん!
「あれ? かすみちゃん、呼ばれてるよ」
かすみ「? なんでしょう? 今日は宿題もちゃんと出しましたよ? はーい! かすみんはここですよ!」ガタッ
かすみ(はっ! もしかしてかすみんのファン!? お昼休みに会いに来てくれたとか!? かすみん感激です!!)ルンルンルン
かすみ「はぁい、かすみんに会いたいって言う人はどなたですかぁ?」キュルン
「三船生徒会長だよ」
栞子「こんにちは、中須さん。お食事中にすみません、お時間よろしいでしょうか?」
かすみ「……wao」 ──放課後 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 部室
一同「「ええええっ!?」」
侑「三船さんが同好会に入部!?」
栞子「はい。仮入部、という形ではありますが」
果林「……愛、何を吹き込んだの?」
愛「ううん、アタシ確かに次のミーティングに向けてしおってぃーとあれこれ話したけど、スクールアイドルについては何も……」
エマ「えっと、三船さん。三船さんはその……スクールアイドル、嫌いなんだよね?」
栞子「はい。確かに私はスクールアイドルの存在が……その、憎いと思っています」 かすみ「……」
しずく(あの。かすみさん、怒らないんですか?)
かすみ(最後まで聞いててよしず子……かすみんは全部もう聞いてるから……)
しずく(?)
侑「でも仮入部したいって考えて思ったのも三船さんなんだよね」
栞子「はい、そうです。愛さんに大切なことを教えてもらったので、私は中須さんにお願いして、ここに来ました」
愛「ん? アタシ?」
栞子「私はスクールアイドルを憎いんで居ますが、同時にスクールアイドルについて何も知らないんです」
栞子「憎しみを抱く事件は確かにありました。ですが、知らないことをなぜ憎むのでしょうか、と。実際にスクールアイドルというものを知ってから、自分の考えをもう一度見直したい……」
栞子「我儘ではありますが、私はそう考えて、今日のお昼に、中須さんに仮入部希望届けを提出しました」 彼方「ほうほう、つまるところ三船ちゃんは改めてスクールアイドルを知りたい、その為に同好会に入部する……そういうんだねぇ?」
栞子「はい、そうです。私は今までただ自分の個人的な感情で、スクールアイドル同好会を廃部にしようとしてきました」
栞子「しかし……それは、あまりに早計なことだと、私は知りました。まずスクールアイドルというものを知らなければ、無駄かどうか、憎むべきかどうかも、判断できない、と」
果林「なるほど。そう言うわけだから今までの行為は水に流せ……と」
エマ「果林ちゃん……」
果林「白黒つけておかないといけない所よ、エマ。彼女は今までの行いが間違いだったと言っているの。私たちも全員が納得できないと蟠りが残っても困るでしょう?」
エマ「それは……」
彼方「三船ちゃん、あそこの仏頂面の人はともかく、三船ちゃんは今までの事、後悔してるのかな?」
果林(仏頂面……)
しずく(彼方さんと果林さんのやり取りはどうしてこうも面白いんでしょうか) 栞子「……はい。とても、後悔しています。まず私がやるべきことは、知る事であったと痛切に感じています」
彼方「だって、部長〜」
かすみ「えっ!? かすみんに振るんですか!?」
璃奈「かすみちゃんは一応部長だから。そこらへんバシッと決めちゃって」
かすみ「……スクールアイドルが憎いって言うことに、何か理由があるのは解ったけど……歩夢せんぱぁい! これどうしたらいいんですかぁ!?」
歩夢「かすみちゃん言ってたよね、三船さんをファンにするって。じゃあ今が一番のチャンスじゃないかな?」
かすみ「ひぇ!?」
侑「そっか、かすみちゃんもかすみちゃんなりにスクールアイドルを好きになってもらおうって色々考えてたんだね!」
かすみ「えっ、えっと、まあ、はい! そうです! そうですよ!」
璃奈(投げやりになった)
しずく(かすみちゃん、どうにもならないと分かると自棄のやん八になる癖があるから……) せつ菜「三船さん、私は」グッ
栞子「ぁ……」
栞子(やっぱり、中川さんには、優木さんには理解は得られない──!)ビクッ
せつ菜「スクールアイドルが好きな仲間が増えて嬉しいです!!」ペカー
栞子「……へ? あの、好きとか、そういう以前の話で、私は──」
果林「じゃ、これで決まりね。全員今までの事は誰も気にしてないって事で」
彼方「三船ちゃんに平均六十点取れって言われて死にそうになってたけどそれはいいのかな?」
果林「う"っ……」
エマ「ふふふっ」クスクス
愛「勉強しないで頭が良くなりたい!」
璃奈「テストで良い点数をとるのって、人生で必要な事かしら?」キリッ
果林「そこ! 無駄に器用な声帯模写をしない!」ビシッ 侑「まあ果林さんには今後も勉強を頑張ってもらうとして……」
かすみ「勉強できない人は大変ですねぇ〜!」ニヤニヤ
しずく「かすみちゃんもだよ」
栞子「あの、それでは──」
侑「もちろんだよ! スクールアイドル同好会は、三船さんの……ううん。栞子ちゃんの入部を歓迎します!」
果林「言ったはずよ? スクールアイドルに興味がある子は大歓迎って、ね?」
かすみ「では、皆さん異論はありませんね? 今までの事は今までの事! では、三船……」
エマ「? かすみちゃん、どうしたの?」
かすみ「……いえ、エマ先輩。折角入部して仲間になるのに、フルネーム呼びなんて他人行儀過ぎて……そうです! しず子、りな子と来て──」
栞子「へ?」 かすみ「ようこそスクールアイドル同好会へ、しお子! 早速ですが、この同好会のルールとして、新入部員は購買部で食べ物を買ってくるのがルールで──」
栞子「そ、そうなのですか!? では、私、早速……」
しずく「かすみさん」
璃奈「かすみちゃん」
果林「かすみちゃん」
エマ「かすみちゃん……」
かすみ「……そ、そんな目で見ないでください……特にエマ先輩のまなざし本当につらいです……」
栞子「えっ? えっ?」
愛「しおってぃー、あれはかすかすのタチの悪いジョーダンだよ」
歩夢「ようこそスクールアイドル同好会へ、栞子ちゃん!」ポン
栞子「はい……はいっ! これから、よろしくお願いしますっ!」ペコッ 璃奈「愛さん」ソッ
愛「ん?」
璃奈「愛さんは凄いね、やっぱり」
愛「んーん。あれはしおってぃーが最初から持ってるモノで、アタシはそれをちょっと引っ張り出しただけ」
璃奈「意外にも謙虚。珍しいね?」
愛「お? 言ったなりなりー! 覚えてろよ〜!?」ムニムニ
璃奈「ひゃわわわわわ、あいひゃんくひゅきゅったい〜」 部長やってるかすみんいいね
しお子には幸せになってもらいたい… 栞子(あっ……愛さん、あんな風に天王寺さんとも笑いあうんですね……)
栞子(まだやっぱり、私は愛さんの事、全然知らないんですね……天王寺さんとはどうして、あんなに仲が良いのでしょうか……)モヤモヤ
侑「じゃあ栞子ちゃん、早速今日から一緒に練習頑張ろっか!」
栞子「えっ、あっ、はい! それではよろしくお願いします!」
栞子(なんでしょう、今のモヤモヤは……いいえ、前にも確か、感じた……このおかしな思いは一体なんなんでしょうか……) ──────
────
──帰路
愛「じゃあみんな、今日は愛さんたちこっちから帰るから!」
璃奈「みんなお疲れさま。ばいばい」
侑「お疲れー!」
歩夢「お疲れさまっ」
菜々「お疲れさまでしたー!」
栞子「お疲れさまでした」
侑「今日は二人、どんなふうに過ごすんだろうねぇ」ニマニマ
歩夢「ゆ、侑ちゃん!」 菜々「二人とも仲良しですもんね!」
栞子「あの、中川さん。愛さんと天王寺さんの家は方向が違うのでは……?」
侑「なになに? 愛ちゃんと璃奈ちゃんのことに気なってるの!?」
歩夢「もう侑ちゃんってば! そういうの良くないよ!」
栞子「??」
菜々「栞子さん、お二人はとても仲良しなんですよ。いつも一緒のお二人なんです」ペカー
栞子「そうなんですね……」モヤモヤ
栞子(なんなんでしょう、この気持ちは……) ──────
────
──翌週 第二視聴覚室
果林「それで、今回は私と侑が参加するのね」
侑「愛ちゃんは生徒会側で参加するって事らしくて。私も今日は転科の段取りももう一息つきましたし」
果林「二学期からは侑の躍進が楽しみね」
侑「えへへ、そう言われると私もより練習に力が入ります」ニマニマ
演劇部部長「朝香さん、高咲さん、こんにちは」
果林「あら部長さん。こんにちは」
侑「演劇部の! こんにちはーっ」 部長「遂に第六回目になったけれど……今回は随分と生徒会の皆の顔色もよさそうだね」
果林「まあ、愛の努力と栞子ちゃんの気持ちってやつを是非見て行って欲しいわね」
部長「生徒会の皆が各部にもう一度要望を聞いて回ってきたことは。とても驚いたよ。あれも宮下さんの指金かな?」
侑「栞子ちゃんと愛ちゃんが考えたことだと思いますよ! 生徒会の皆も一丸となってたみたいですし!」
部長「なるほど。今回のミーティングはどうやら一味違いそうで私も安心だよ。けれど全く、あの宮下愛という子は何者なのかな?」
侑「何者……と言いますと?」
部長「いや……普通の十六歳の子がたった一週間で生徒会を立て直して、ミーティングの参加者の顔色をここまでよくできるとはね」
果林「でもあの子の本質はただ、ノリがよくて、楽しい事と漬物とお婆様が大好きなただのギャルよ」
部長「ハハハ、どうやらそうらしいね」
栞子「皆さんお待たせしました。それでは第六回ミーティングを始めます」
部長「おっと、それじゃあ席に戻るとしようかな。二人とも、また後で」 副会長「それではお手元の資料をご確認ください」
愛「今回は一味違うからみんなよ〜く読んでよね!」ブイブイ
「愛ちゃんなんでそっちいんの〜!?」「これみやっちも作ってんの〜?」「みやちも生徒会入りかぁ〜!?」
果林(愛があそこにいるだけでこんなに空気が違うものなのね……)
「生徒会長、この前生徒会の皆が聞きに来てくれた意見は、この資料に盛り込まれてるの?」
栞子「はい。改めてすべての部、同好会の意見を拝見しました。そして私自身、考えを見直して、改めてこの資料に明記しました。これが最終……決定案になるはずです」
栞子「まず……一番最初に皆さんに伝えることは。ステージ上で行う事は、すべて各部にお任せします」
「「「!!」」」
果林(……やるぅ)
侑「流石生徒会長! やったぁ!!」ガタッ 栞子「スクールアイドル同好会さん、席に着いてください」
侑「す、すみません……」
愛「ぷぷっ、怒られてるし……」
栞子「こほん。生徒会からは発表に関して、各部、活動内容を魅力的に伝え、見に来てくれた人たちが入りたい! と思うような発表にしてください、というお願いのみです」
「本当なの!?」「やったぁ!」「じゃあ去年みたいに自由にやって良いんだ!」「これなら沢山呼び込めるぞ〜!」
栞子「ただ、第一回の資料から提示してある『各部の発表時間』についてですが……」
「あら? 前回に比べて少し減っているわね? 生徒会長、これはどうして?」
栞子「……そ、それは……」ゴクッ
「もしかして、何か生徒会で何か企んでるんじゃ……?」「本入部にはテストを強いる、みたいな説明をする気!?」
栞子「ぁ……ち、ちが……」
部長「まあまあみんな、先にきちんと生徒会長の意見を聴いてからにしよう。生徒会長、理由を話してもらえるかな?」 栞子「っは、はい……」チラッ
愛「だいじょぶ。しおってぃー、私たちがついてるから」グッ
栞子「……はい。部活紹介の前に、生徒会に……少し、時間が欲しいのです」
「時間……?」「どういうこと?」「生徒会もやっぱりなにか発表するのね?」
栞子「私が、私が伝えたいことは……自分にとって一番向いている部活が分からない人へ、道に迷う人へ、伝えたい事があるんです」
栞子「もし悩み、苦しみ、どうすればいいのか一歩も動けないのなら、生徒会に来て欲しい、と。私が──」
副会長「会長」
栞子「!」
副会長「私たち生徒会、ですよ。そこを履き違えないでください」 栞子「……はい。そうでしたよね。……私たち生徒会が、皆にとって後悔しない道を一緒に探す手伝いをする、と。そういったフォローを行わせてほしい、と」
栞子「そう伝える時間が欲しい……それが私たち生徒会の、皆さんへの要望です」
「「「……」」」
果林「栞子ちゃ……生徒会長、意見、良いかしら?」
栞子「はい、どうぞ。副会長、マイクをお願いします」
副会長「了解です」 果林「前回の生徒会の要望に比べると随分妥協……どころか、全く違う意見になっているけれど、これで本当に良いのかしら?」
栞子「はい。これが私たち生徒会が部活紹介へ皆さんへ要求する内容です。これは、これだけは。私の、ゆずれない願いなんです」
侑「私はとっても良い意見だと思う! 高校生になっても自分のやりたいことがわかんない子だっていると思うんです。私がそうだったから!」
侑「生徒会の皆は、そういう子と一緒に考えて、その子のやりたいことを、適性のあることを探すんですよね? それってすっごい良い事じゃないですか!」
栞子「高咲さん……っ」
果林「スクールアイドル同好会は大賛成、ってところね」
部長「演劇部もだよ。発表時間が減ることは確かに痛手だが……生徒会の提案は、全くと言って良いほど理に適っているよ」
しずく「私も、栞子さんの意見、とってもステキだと思います。悩む人の隣で、一緒になって考えて、背中を押して……その人に希望を与える……素晴らしいです!!」
部長「ふふっ、ウチのしずくもこう言っていることだし、ね?」クスッ
愛「今のは聞き捨てならないよぶちょーさん!」ケラケラ 栞子「あ……う……」グスッ ゴシゴシ
副会長「他の部活、同好会の方で、私たち生徒会の要望に意見はありますか?」
「賛成!」「バスケ部は大賛成!! いいじゃんそれ!」「ソフト部も異議なしよ! そっちが譲渡したんだしこっちも譲渡すんのがフェアってもんしょ」
「賛成賛成! いいじゃんそういうの」「会長さん随分丸くなったね〜?」「愛ちゃんまた口説いたのか〜!?」
愛「ちょ、アタシは一緒に考えただけだって! 口説くとかそういうのやめい!」
栞子(いえ。しっかりと口説かれてますよ、私。じゃないと、ここまで漕ぎつけることはできませんでした)グシグシ
副会長「会長。すべての部、同好会から賛成は得られているようですが?」
栞子「副会長……ありがとう、ございます」
副会長「いいえ。これが生徒会、ですから」ニコッ
栞子「……皆さん、ありがとうございます。それでは、大まかな内容はこの案で行きましょう。それでは順番等の議題に──」 ──────
────
──生徒会室
栞子「……」
愛「無事、終わったね」
栞子「はい。ありがとうございます、愛さん。本当に私、貴女が居なかったら……どうなっていたか」
愛「あはは、もとはと言えば……あれ? なんで愛さん、しおってぃーに絡みに行ったんだっけ……?」
栞子「何かきっかけがあったんですよね?」
愛「えーと……そう! しおってぃー、学校内で浮かない顔して歩いてるとこ見かけてさ。その次の日、生徒会室に突撃したってカンジ!」
栞子「……!」
栞子(私が、体操服を探しているとき……!)
愛「まあでも、これで一件落着って感じだね! 愛さんも生徒会の助っ人から、元の同好会員にもどるってわけ!」
栞子「あ……」
栞子(そういえば、そうでした……愛さんがいつも放課後一緒に居てくれたのは、部活紹介の為……今日が終わってしまえば、もう愛さんは私の隣ではなくなってしまう……) 栞子(……仮入部をしているとはいえ、私の本質は生徒会……。毎日顔を出せるわけではないし……これからは、また少しずつ距離が出来ていくのでしょうか)
愛「しおってぃー? どしたん?」
栞子「いいえ。愛さん、本当にありがとうございました。すべてあなたのお陰です」
愛「へへっ、面と言われると照れちゃうぜ」テレテレ
栞子「……私は、今日のミーティングの資料の整理がありますので……」
愛「うん、一緒にやっちゃおう!」
栞子「……え?」
愛「一緒にやって、同好会に行こう! 愛さんと一緒に楽しい事しようぜ!」
栞子(ああ。そう言えばそうでしたね。愛さんはこういう人でした。いつだって私が望む言葉を、惜しげもなく投げかけてくれる……)
栞子(……大丈夫。私はもう一人じゃない。生徒会の皆が。愛さんが、いる)
栞子「……ありがとう、ございますっ!」
栞子(愛さんが居てくれるなら、どんな理不尽でも、どんな悲しい目に遭っても、どんなに辛い事があっても、私は耐えられる……!) ──────
────
──
「……これで良いわけ? アタシ、ぜんぜん納得できないんだけど?」
「ウチも。アイツ、三船。なんなの? 愛ちゃんに媚て上手く部活紹介をまとめたみたいだけど……」
「でもアイツがまだ生徒会長やってんのホント腹立つんだけど。これで再々選挙のヤツも立ち消えっしょ?」
「今回の件でなくなったね。チッ、折角愛ちゃんのお願い裏切ってまでも話広めたのに、これじゃあ無駄になっただけじゃん……」
「ってか三船ほんとヤバい。こんだけやられてまだ生徒会長やってられるなんて。図太いって言うか」
「そこも腹立つ……ってかアイツ、今度スクールアイドル同好会に入ったってマジなん?」
「うっそ。マジ? どんなけ媚びんのよアイツ……他人を振り回しておいて自分は興味のあるものをやりますって? なんなんアイツ。リンコ泣かせといてホントないわ」
「部長はまた選手に戻したけどさぁ。それで納得できる問題じゃないし」
「……ねえ、ウチに考えがあるんだけど」 おつおつ
ここまでしてやっと理解できるレベルだわ
ただ、やっぱりせつ菜の頭の中は公式で言われてない以上、栞子が入ることに関してはどう思ってたのやら 乙です!
不満抱えたままの生徒とかりなあいしおの今後とかめちゃめちゃ先が気になるわ >>517と>>518の間に
栞子「私が、中須さんのファン……?」
歩夢「かすみちゃん、スクールアイドルが嫌いだって言う三船さんにスクールアイドルを好きになってもらうために、自分のファンにするって息巻いてて」
果林「へぇ、流石は部長。ならもう部長の胸中は決まってるわね。……侑、貴女は?」
侑「私は大歓迎だよ。例え今までの事があったとしても。仮入部の後、やっぱり三船さんと決裂してしまったとしても、今の三船さんの気持ちを大事にしたい。皆はどうかな?」
栞子(気持ちを──大事にする……)
しずく「私も異論はありません。三船さん、一緒に頑張りましょう!」
愛「りなりーはどう?」
璃奈「私も一緒に頑張りたい。今まであったことは、今まであったこと。それはそれ、だから」
歩夢「……せつ菜ちゃんは、どう?」 おつ
より一層栞子と愛さんが好きになれる
陰口がリアルで胸に刺さるわ いじめっ子側の意見も分からんでもない
散々上から目線で好き放題やってた奴がいきなり改心しましたとか言われてもね…
そんなもん知るか消えろとしか 現実でいじめまでは行かないけど多分何言っても反対するというか聞く耳持たないやつは多いと思う 説明会は無事開催できそうだけど、まだしお子のいじめが残ってたな…
スレタイがどんな状況かは分からないけどハッピーエンドになってくれ 知らん方からして見たら改心したからこれまでのこと全部水に流せだからなあ理不尽そのもの 一件落着っぽいけどしおってぃーに対するいじめ、しおあいりなの関係等々……
まだまだ問題は残ってるからどうなるのかめっちゃ楽しみ やっぱりこれぐらい時間と描写を丁寧に重ねないと栞子の件は理解を得られないよなあ 再選挙立ち消えになってるあたり大部分の部長達は納得したんだろうけど、まぁこういう意見も当然でるわな いじめはいかんけど栞子のやった事もやられた方からは権力使ったいじめみたいなもんだし、だから皆即許してハッピーハッピーじゃなくこんな描写が必要になってしまってる悲しみ
これは周囲がやってるだけっぽいからまだ納めようあるけど、やられた本人が憎しみもってやり返してたら中々収集つかないと思うし むしろなんでスクスタ本編でここまで掘り下げなかったんだレベル ラノベやエロゲみたいに際限なく書けるならともかく、決められた期間に、章ごとに起伏を付けつつ、決められた範囲内のテキスト量で、決められた終着点に持っていかないといけなかったからじゃん? ここでスクスタ貶すのはやめようよ
少なくともこの素晴らしいSSの原作なんだから ──────
────
──虹ヶ咲学園 普通科 一年生教室 昼休み
かすみ「全く、しお子はおっちょこちょいですねぇ。はい、数Aの教科書」
栞子「すみません、ありがとうございます、中須さん」
かすみ「それにしてもしお子、つい最近まで体育も見学続きだって聞いてますよぉ?」
栞子「それに関しては、言い訳できません……。つい最近、体操服を失くしてしまっていて。購買部で買おうにも、お金が少々……」
かすみ「あー、結構いい値段しますよねぇ……って、そういうのは親は払ってくれないんですか?」
栞子「ええと、その。自分の不注意で失くしてしまったので、言い出せず……」
かすみ「まあそりゃ体操服なんて誰も盗ったりしませんし……不注意なら言いにくいのもわかりますよ!」
栞子「でももう大丈夫です。この前買い直しましたから」
かすみ「流石は財閥の娘……」 栞子「では、私はこれで……」
かすみ「え? お昼ご飯食べないんですか?」
栞子「え? 誰がですか……?」
かすみ「かすみんとですよ!」
栞子「え、でも……」
かすみ「何を遠慮してるんですか! キュートでかわいいかすみんと一緒にご飯が食べられるなんて、最高じゃないですか!?」
栞子「キュートと可愛いは同じ意味ですが……」
かすみ「……ほ、ほっといてください! 強調の意味です!」
栞子「でも、中須さんが良いなら是非。私、購買部で買ってきてからまたこちら戻ってきますね」ニコ
かすみ「そうこなくっちゃ! 他にもかすみんの友達も来ますので、ここで待ってますよ!」
栞子「はいっ」 ──廊下
栞子(本当はお弁当、持ってきてたんですけど。でも、それも体育の時間の後に気づけばなくなっていて……)
栞子(……最近、本当に酷いことが続いて……夢で見るほどで……)クラッ
栞子「ぅ……」
栞子(しっかり、しないと……だめですね。例え今までの行動を後悔しても、消えるわけではない……私はずっとこういうことに向き合っていかなければなりません)
栞子(贖罪……そんな都合のいいものでもありませんが、これは私が今までやってきた行いへの罰。だから、この事に関して私は決して誰かに助けを求めてはならない……)
栞子(大丈夫、私が目指した理想の世界に、私の存在は最初から考えていませんから。私の理想の世界に、ちっぽけで矮小な私が居る場所なんてない)
栞子(姉さんにも両親にも、何もできなかった私に、人に我を押し付け不幸にした私に、幸せだけが与えられる世界なんて存在してはいけないのですから) ──放課後 スクールアイドル同好会 部室
侑「じゃあ投票の結果、今回の部活紹介でステージに立つのは愛さんでいいかな?」
歩夢「投票の結果はほぼ全部愛ちゃんだったもんね」
愛「えーと、マジでアタシでいいの? なんか照れるんだけど!」
せつ菜「愛さん胸を張ってください! 今回の一件、同好会での一番の功労者なんですから!」
しずく「そうです! 今回は愛さんこそがふさわしいですよ!」
璃奈「愛さんのステージ、楽しみ」
かすみ「まあ確かに! 今回愛先輩の活躍がなければこの発表会自体なかったかもしれませんし、愛先輩がステージに立つのはおかしくないですね」
愛「かすみんまで。いやぁ、そう言われちゃうと愛さんマジにしちゃうぜ〜?」
エマ「本当に今回は愛ちゃんが一番だと思うよ!」
果林「私も異議なし……。彼方も愛に入れてるなら何も言わないでしょうし。というか彼方はどこに──」
ガチャ
彼方「ふあぁ、遅れちゃった〜」
エマ「あ、彼方ちゃん! どうしたの? いつものお昼寝スポットは中々見当たらなかったのに……」 彼方「ここ最近また秘密の場所を見つけたの。フフフ、乙女は秘密を着飾って美しくなるのサ」
果林「いやどこに居るかわからないから普通に明かしておいてよ」
彼方「でも果林ちゃんは探しに来てくれないでしょ?」
果林「場所だけ言われてその場所に行ける人間なんて居ないでしょ」
エマ「……そうだね果林ちゃん!」ニッコリ
しずく「それフォローになってませんよエマさん!?」
璃奈(時として優しさは人を傷つける……)
愛「カナちゃん最近は保健室とかにも居ないんだよね。その秘密の場所で休んでから部室来てる感じ?」
彼方「そうだねぇ、居心地が良くてついつい……えへへ」
果林「なんで照れてるの」
エマ「たまには部室でもお休みしてね? 私のおひざはいつでも空いてるよ?」ニッコリ
彼方「かーっ、流石エマちゃん、果林ちゃんだけに占有させるのはもったいない」
果林「なっ、ばっ、彼方! そういうの止めなさい!」
エマ「も〜っ、彼方ちゃんってば……///」
侑「えーっと、あの、皆さん良いですかね」 侑「彼方先輩、昨日の投票の結果で部活紹介は愛ちゃんに出てもらうって事で決まったんだけど……」
彼方「ん? おぉ、やっぱり愛ちゃんに決まったんだねぇ。異議なし異議なし、今回の功労者だもん、諸手を挙げて賛成〜」
侑「良かった! じゃあ愛ちゃんは部活発表に向けて、簡単な挨拶とライブをするって感じになるかな」
愛「おけまる、愛さんに任せてよ。バシっと決めちゃうからさ!」ブイッ
かすみ「……あれ? 部長はかすみんじゃ?」
璃奈「かすみちゃん、トップっていうのはいつもどしんと構えてここ一番の判断を下すもの」
エマ「大丈夫だよかすみちゃん。かすみちゃんも部長として頑張っているのを私、知ってるからね!」
かすみ「あぁ〜! エマせんぱぁああああい!!」ムギュー
せつ菜「……」ニコニコ
歩夢「せつ菜ちゃん、大丈夫?」
せつ菜「……えっ? あ、すみません、今何か…?」
歩夢「ううん、さっきからずっと黙ってるから……」
せつ菜「いえいえ、愛さんの活躍に改めて思いをはせていたところで……」
ガチャ
栞子「すみません、お待たせしました」
せつ菜「!」
歩夢(あっ……せつ菜ちゃん……顔が……強張ってる……?) 栞子「生徒会の仕事が少し、長引いてしまって……もう練習は始まっていましたよね?」
かすみ「遅いよしお子! 仮入部とはいえ遅刻に厳しいのスクールアイドル同好会! こんなんじゃあここでやってけないよ!」
しずく「かすみさん」
歩夢「かすみちゃん」
果林「かすみちゃん」
エマ「かすみちゃん……」
かすみ「ごめんなさいかすみんのいつもの質の悪いジョーダンですぅ!! だからエマ先輩そんな目で見ないでくださいぃいいいい」ビエーッ
歩夢「栞子ちゃん、大変だよね。生徒会と掛け持ちして……」
栞子「はい。ですが、副会長たちと上手に連携が取れるようになって、かなり効率的に作業を進めることが出来るようになりました。これも……」チラッ
愛「ゆうゆ、挨拶の時間とかも考えるとフルで歌えるか怪しくね?」
侑「それ私も考えてた。愛ちゃん、多少編曲する必要があるかも」
璃奈「ステージの準備に関しては前後の部活の関係上ほとんどできないから、愛さんの実力勝負になる」
栞子「愛さんのお陰、ですね」ニコ
歩夢「ふふっ、栞子ちゃん、良かったね」
せつ菜「……さあ! 部活紹介の打ち合わせは愛さんたちに任せて、私たちは練習を続けましょう! 行きましょう歩夢さん!」タッ
歩夢「あっ、ちょっと待ってせつ菜ちゃん!」タッ
エマ「せつ菜ちゃんの言う通り。じゃあ栞子ちゃんも着替えて降りてきてね」クスッ タッ
栞子「あっ、はい!」
かすみ「練習着は忘れてませんね、しお子?」
しずく「かすみさんでもないのに、そんな忘れ物しませんよ」クスクス
かすみ「意外とそうでもないんですよ? しお子ってば今日も数Aの教科書忘れたとか言って! 体育も体操服を失くしたとかでちょっとの間見学したって聞きましたよ?」
果林「!」チラッ
彼方「……」チラッ 栞子「な、中須さん! 止めてください!!」
かすみ「ふふん、遅れてきた罰ですよぉ! かすみんは先に行きますから!」ビュン
エマ「あ、走ると危ないよ!」トテトテ
果林「エマも走ってるじゃない……」タッ
しずく「あの、かすみさんのこと怒らないであげてくださいね……? 多分、来るのを待ってたんだと思いますので……」
──しず子! りな子! 行きますよぉ!
璃奈「璃奈ちゃんボード『やれやれ』──じゃあ栞子ちゃん、先に行ってる」タッ
しずく「下で!」タッ
栞子「あ、はいっ、ありがとうございます……」
彼方「……」ニコニコ
栞子「あの、近江さん、何か……?」
彼方「へぇ〜……意外とおっちょこちょいなんだねぇ?」
栞子「い、いえ、たまたま……ですよ」
彼方「いやぁ、完全無欠ってわけじゃないと分かると、親近感が湧くよねぇ。……髪のリボンを付けたり付けてなかったりするのも、そのおっちょこちょいかな?」
栞子「たっ、体育の後、どうしても着替えが遅くなると……」
彼方「なるほどねぇ〜……。彼方ちゃんは体育の後でもヘアピンは忘れたことあんまりないけどなぁ〜」
栞子「近江さんは、しっかりしていますし……」 彼方「んふふ、褒められると彼方ちゃん照れちゃうなぁ〜」ニコニコ
栞子「あの……近江さんも、降りなくてもいいんですか?」
彼方「あぁ、そうだった。彼方ちゃんも行かないと」
栞子「はい、私もすぐに行きますので」
彼方「じゃあ後でねぇ」ガチャ バタン
栞子「……あ、焦りました……近江さん、妙に迫力があって……」
栞子(鼓動が痛いほどうるさい……バレるかと、思いました……)
──────
彼方「……盗み聞きとは褒められないなぁ」
果林「そういうのいいから。彼方、栞子ちゃんは何て?」
彼方「果林ちゃんの想像通りだよ。はぐらかされちゃった」テヘッ
果林「……このことは三年だけにしておきましょうか」
彼方「だねぇ。あんまりこういうことは広めてもいいことないしね」
果林「ところで彼方」
彼方「ん?」
果林「彼方の新しい寝床って……弓道場?」
彼方「……さあ?」 ──────
────
──
「り なっ」
璃奈の指がアタシのナカをかき乱す。カラダの内側から零れる熱に浮かされて、否応なしに腰が浮き、璃奈の指を誘ってしまう。
アタシの腰が揺れるたび、粘度の高い、蕩けた音がアタシの中から湧き出してくる。それがどうしようもなく、恥ずかしくて、けれど同時に璃奈にだけは全てを知ってほしいという気持ちも溢れてきて。
それが余計に快感を募らせていく。
「はぁ あっ だ めっ」
靴下を脱がされた脚でシーツを?く。それでも璃奈から際限なく与えられる快感の波に抗えるわけでもない。
「愛さん、すき……ふぁ……んっ」
璃奈がゆっくりと私の胸に顔を寄せる。あ、ヤバイ。快楽に脳を犯されつつ、更にこれから来る快感に備える暇なんてない。
湿った吐息を漏らしつつ、私の胸の、快楽を求めて屹立した先端を、璃奈が口の中に取り込んでいく。
「ん……ちゅ、っぷ……」
「ひあぁあああっ りなぁっ」
璃奈の口の中は熱くて。とろりとした唾液がアタシの肌に触れるたび、アタシはカラダを善がらせた。
唾液が肌を濡らすと、そこから熱が広がってどうしようもなくカラダが痺れて震える。
そのまま璃奈の小さな舌が先端の周りを丁寧に、器用に舐めていく。
「りなっ なん、でっ」 恥も外聞もない。璃奈の舌が、アタシのそこに触れてくれなくて、もどかしい。今度は快楽から逃れる為じゃなく、もどかしさで濡れた太ももを擦り合わせ、脚でシーツを?く。
「……ん、ぷ……」
璃奈は答えない。こういう時の璃奈は、大概怒っているとか嫉妬しているとか、そういうの。
一度彼女はアタシの胸から顔を離す。月光を受けて煌めく、とろりとした銀色の細い糸が、璃奈の口とアタシの胸を繋ぐ。アタシの胸の先は、璃奈を求めてひくひくと震えているように見えた。
代わりにと言わんばかりに止まっていた指が、アタシの愛液を指で掬い、馴染ませてからまた入り口付近で指を震わせる。
「あっ、う"っ……りっ な……ぁ……」
くち、くち、くち。くちゅ、くちゅ、くちゅ。
淫らな音だけが、部屋に響き渡る。気持ちいいのに、届かないもどかしさで、頭がおかしくなりそう。
璃奈の指から与えられる快感をアタシは奥まで取り込もうと、無意味に腰だけを揺らす。腰が揺れると、同時に誘う様にアタシの胸が揺れて、璃奈が満足そうに笑うのが見えた。
「愛さん、かわいい……すき」
「りなぁ……っ」
璃奈の指が入ってきたかと思うと、また戻って、入り口付近を乱していく。あと一歩が届かない。
「……愛さんは、私の事、すき?」
「うんっ、あ"っ うぁ──すき、だよっ」
質問に何とか答えるけれど、これ以上難しい事を聞かれても、なにも答えられないかもしれない。 「……わかった。じゃあ……ふぁ……んっ」
指が奥まで入ってきて、アタシの奥の、璃奈しか知らない場所に触れる。
暖かい璃奈の口が、小さな赤い舌が、アタシの先端を舐めとる。
もう片方の手で、アタシのもう片方の先端の、根元から親指と中指で摘ままれて指で擦り合わされる。
「あ──ふああああっ りなぁっ」
身体が弓みたいに仰け反る。頭が真っ白になる。璃奈を思い切り抱きしめる。体が震えて、全身から熱が迸る。声が止められない。どうしようもなく彼女の名前を呼び続ける。
自分のちっぽけな意思などカラダは無視して、達した反動でアタシのカラダはびくん、びくんと跳ね続ける。
「愛さん……すき」
「りなっ りなっ……りなぁ……」
どんなにきつい練習でも、ここまで息は切れない。アタシは浅い呼吸を繰り返しながら、目を閉じた。すぐに意識は重くなり、持ち続けられなくなる。
「愛さん……んっ」
唇に落とされる甘い感覚を最後に、アタシはそのまま重くなった意識を手放した。 ──────
「んあ……今何時……」
ふと、覚醒した。イった後の起床ってなんでこんなに目覚めが良いんだろうね。体は怠いのに。
横向きで眠っていたので、りなりーがいつものように丸くなって、アタシの心臓の音を聴いているのが分かった。自然と彼女を抱く形で眠っていたらしい。
「……二時。おはよう愛さん」
「ああ……二時か……。ふう。あーごめん、身体、拭いてくれたんだね」
汗と体液まみれだったろうアタシを、りなりーが拭いてくれたのだろう。体はすっきりしていた。
「……うん」
りなりーはこっちを向かず、ずっと愛さんの心臓の音を聴いていた。ときどきもぞもぞと体を動かしている。
「りなりー? どうしたの?」
「……ちょっと、妬いてた」
誰に、とは言うまい。いくら話を通していたとしても、良い顔をしないのはわかる。アタシが逆の立場でも……いや。りなりーに沢山友達が出来るのは、とても嬉しい。
沢山の人に囲まれて幸せそうにしているりなりーを見ると、こっちも嬉しくなってくる。
……? あれ? 愛さんもしかしてりなりーが幸せなら愛さんがそこに居なくてもいいのか? これが愛ってやつか。愛さんだけに。
「ごめん、りなりー。でも、こんな姿見せるのはりなりーにだけだよ?」
もぞもぞ、とりなりーが動く。
「う、ん」
「心配かけてごめん。でもアタシはりなりーの事が世界で一番大切だから」
「……っ」
りなりーの体がまたびくりと動いた。……りなりー? 「愛さん、今でも忘れないよ。りなりーから告白された時の事」
またごそごそとりなりーの体が震える。……りなりーさん?
「嬉しかった。愛さんもりなりーと同じ気持ちだったから」
はぁ、とりなりーから甘い吐息が聞こえて、愛さんの肌を打った。……璃奈?
「璃奈、愛してる」
「〜〜っぅ!!」
びくんと、ひときわ大きく璃奈の体がはねた。アタシはそのままぐい、と璃奈の両腕を掴んだ。
「!?」
「璃奈、基本的にはそっち側じゃないもんね」
そのままゆっくり腕をアタシの前に持ってくると、案の定璃奈の指は艶めかしい液でてらてらと煌めいていた。
「あ……ぅ……」
「璃奈、今夜は寝かさないよ」
「あ……あ……あい、さ……まって……めが、目が、こわい……それに、明日はがっこ……」
「半日くらいなら大丈夫。アタシら日頃の行いいいからさ」
その後も璃奈は何か言おうとしたけれど、アタシは唇で璃奈の唇を塞いだので、静かになった。璃奈の指も好きだけど、アタシはやっぱりこっち側なんだよね。
璃奈が羽織っていたパーカーのジップを降ろして、その白い肌にアタシは赤い花を咲かせることにした。 ──同時刻 三船家 栞子の部屋
栞子「……眠れません……」
栞子(同好会に仮入部してから、より私への嫌がらせ……報いが激しくなっているような気がします)
栞子(……こうも続くと……明日は私に何が起きるのか、どんなことが起きるのか……そういう不安が意識を刺激して……)ムクッ
栞子「はぁ……」
栞子(これはもちろん私が選んだ道。ですから、このくらいで……弱気になってはいけない……)
栞子(……少し、水でも飲んで落ち着きましょうか……)テクテク
栞子(少し寝付けても、結局……嫌がらせの……悪夢で目が覚めて、あまり眠れた気がしません)ジャー
栞子「んくっ……ふぅ……」
栞子(……それにしても、愛さんは凄いですね。同好会でも中心人物の一人で、誰といてもどこに居ても、大勢の人を笑顔にしていて……)
栞子(私はただ楽しくさせてもらえるだけ……愛さんは今頃どんな夢を見ているのでしょうか)
栞子(……というかどうしてこんなに私は愛さんの事ばかり考えているんです!?)ブンブン
栞子(あくまで愛さんは私が困っていたから救いの手を差し伸べてくれただけで、何一つ特別な──……特別?)
栞子(特別……私は愛さんに何を求めているのでしょうか? ただの友達、それだけのはず。なのに、どうして? 一体何を、私はこれ以上愛さんに求めるというの……?) ──────
────
──虹ヶ咲学園 一年生教室
栞子「……!」
栞子「また……」
栞子(ここ最近、席を外すとかなりの頻度で物がなくなっていることが増えましたが……また、体操服を……)
栞子(……同じクラスの人にも、やられているのでしょうか……。こうなるとまた、体育は見学するほかありませんね……)
栞子(リボンも盗られたものを見つけたり、また取られたり……このクラスの中で誰かがやっているかと思うと、気が重いです……)
栞子(その日使う教科書を一日隠されて、翌日何事もなかったかのように私の机の中に入れてあったり……)
栞子(……)
栞子「……はぁ」ガタッ
栞子(体調が悪いと言っていっそのこと授業にすら出ないでおきましょうか……そうですね、実際に寝不足気味ですし、一度くらい……許されますよね……)スタスタ
かすみ「あれ? しお子? 次そっち体育じゃないんですか?」
栞子「! き、今日は少し体調がすぐれなくて……保健室で少し休もうかと」 濃厚なあいりなからのしお虐は俺の脳がグチャグチャになる
もっとくれ かすみ「ええ!? 大丈夫なの!?」
栞子「ええ、少し寝不足なのが祟ってしまったようで……部活への参加は問題ないと思いますので」
かすみ「えと、無理せず休んでいた方がいいとは思いますけど………けどまあ、かすみんも後で様子見に行きますね?」
栞子「はい、すみません、ありがとうございます……」スタスタ フラフラ
かすみ「……大丈夫ですかね?」
──────
栞子(はぁ……中須さんに嘘を吐いてしまいました……自己嫌悪ですね……)ハァ スタスタ
栞子(あれ……あそこに居るのは……愛さん? こんな時間から登校でしょうか……?)
──ひえーっ! 遅くなった遅くなった! まさかここまで寝坊するなんて!
栞子(……何と言っているかはわかりませんが、元気そうに走っている所を見ると体調不良では……あれ? どうして鞄を二つ?)
──ま、待って愛さん、私、まだ……!
──だから愛さん言ったじゃん、おぶってくって!
──そ、それはさすがに恥ずかしい……
栞子(天王寺、さん……? また、どうして天王寺さんが一緒に……? どうして……?)ギュッ
栞子(どうして二人そろってこんな時間に遅刻を? どうして? ……どうしていつも、天王寺さんが隣に……?) 栞子(二人は、二人は……どうして、いつも……?)
栞子(天王寺さんはなぜあんなにも、愛さんと仲が良いのでしょうか……? 私と同じ一年生で、愛さんとは全く違うようなタイプなのに……)ギュゥウウウウウッ
栞子(……どうして天王寺さんが……っ)ドクンドクンドクン
栞子(……は)ジワ
栞子「血……」
栞子(な、私は、何を……いけません、きっと寝不足で、疲れているだけです……こんな、わけのわからない、支離滅裂な……)
栞子(はやく、はやく……保健室で休みましょう。眠ればきっと何もかも元に戻ります! はやく……ここから、離れないと……!)タッ ──────
────
──放課後 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 部室
栞子(結局保健室でもあまり休めませんでした……中須さんが様子を見に来てくれましたが、どういう風にやり取りしたかもよく覚えてなくて……)
栞子(いいえ、今は、今は切り替えなくては……)
栞子「失礼します」ガチャ
果林「あら栞子ちゃん。今日は早いのね」
しずく「生徒会のお仕事大丈夫なんですね!」
栞子「はい、今日は特に急くこともありませんので」
かすみ「あ、しお子! もう大丈夫なんですか?」
栞子「はい、ご心配をおかけしました。あの、今日はあまり人が……?」
果林「ああ、今日はちょっと休みの人が多いのよ。それよりかすみちゃん、大丈夫っていうのは……?」
栞子「あ、いいえ……」
かすみ「しお子、体調が悪いって保健室で休んでたんですよ! それで体育の時間休んでたみたいで……」
果林「あら、そうなの。栞子ちゃん、大丈夫なの?」
栞子「はい、もう今は大丈夫です。少し寝不足気味だったので、今はもうずいぶんと良くなりました」
果林「そう……それならいいけれど……」 彼方「やあやあ、遅れてすまぬ皆の衆〜」ガチャ
しずく「あ、彼方先輩! もう、どこで寝ていたんですか本当に!」
彼方「いやはや面目ない〜。それより栞子ちゃんが体調不良と聞いたけれども?」
果林「一応大丈夫らしいけど……体育の時間休むくらいだから、あまり無理しない方がいいんじゃないかしら?」
栞子「いいえ、本当に、本当に大丈夫ですから!」
彼方「そこまで言うならいいんじゃないかな〜? 栞子ちゃんだって自分の体調、良く分っているはずだしねぇ?」
果林「そうね。じゃあ着替えが終わった人からいつも通りランニングから始めましょうか。今日は二年生が全滅だから、しずくちゃんとかすみちゃんはチャンスよ」
しずく「!」
かすみ「!」
かすみ「しず子、行きますよ!」
しずく「行きましょうかすみさん!」
果林「あ、二人とも……じゃあ私、また先に行ってるからね。彼方、頼んだわよ?」
彼方「合点承知の助〜。彼方ちゃん達は焦らず着替えてから行こうか〜」
栞子「はいっ」 ──────
彼方「それにしても栞子ちゃん、細いねぇ〜。特にウエスト……彼方ちゃん、ちょっとうらやましいなぁ〜」
栞子(時々二人きりで着替える事があるけれど、意外にも近江先輩はよく喋ってくれる。今日もおっとりした動きとは裏腹に、悪戯っぽく微笑みながら話しかけてくれて……)
栞子「い、いえ……私からすると、その、すごく、女性らしくて羨ましいです……」
彼方「ふふふ、秘訣はよく食べよく寝る事だよ〜。栞子ちゃんはどうも学食が多いみたいだから、栄養を考えてお弁当を作ってみてもいいんじゃないかな?」
栞子(ドクン、と心臓が跳ねる。最近はお弁当も止めました。この前自分の弁当箱がなくなっていることに気づいてから、持ってくるのを止めてしまったのです)
栞子「! そ、そうですね……お、弁当の方が、栄養バランスが良いですよね……!」
栞子(中須さんとお昼を食べることが増えて、そういう話題も増えているんだ……と、私は無理やり自分を納得させて、どくんどくんと跳ねる鼓動を抑えつける)
彼方「……あ。そう言えば今日もリボンは付けてないんだね〜?」
栞子(息が詰まる。目の前の彼方さんが、急に怖くなってきた。私はスクールアイドル同好会に対しとんでもない仕打ちをしている。彼女も当然私に恨みを抱いていても、何らおかしくない)
栞子「あっ、はい、今日も体育の時間の後、つける時間がなくて……」
栞子(言ってから、自分の愚かさを呪った) 彼方「体育の時間、休んだんじゃなかったっけ?」
栞子(いつものとろんとした優しい目はどこへ。私を真っ直ぐ見据えるアメジストみたいなきれいな瞳が、捉えて離さない)
彼方「私、確か体育の時間は休んだって聞いてるけど」
栞子「ぁ……そ、れは……」ドクンドクンドクン
栞子(心臓の音がうるさい。耳のすぐ横に心臓があるみたいで、まともに考えがまとまらない。誤魔化そうと思っても、何一つ思いつかない)
彼方「あ〜、保健室で寝る時に解いてそのまま、だね? 彼方ちゃんが体育の後付ける時間なかったんだね、って聞いたから勘違いしちゃったんだね〜?」
栞子「あっ、ああ、そ、そうです。つい。いつもの癖で。すみません、私が、勘違いして」
彼方「いいんだよ〜。彼方ちゃんも聞き方が悪かったしねぇ〜」ニコニコ
栞子(いつもの優しげな眼に戻る。もう、近江さんの前に一分一秒も居られない)
栞子「あ、あの、私、もうおりますね! 先に行ってます!」タッ
彼方「はいは〜い」
彼方「エマちゃん、出てきていいよぉ〜」 エマ「……彼方ちゃん……」ガチャ
彼方「後で果林ちゃんにも話すけど……これはちょ〜っと厄介そうな問題だねぇ……」
エマ「……栞子ちゃん、本当に虐められてるの?」
彼方「出る杭は打たれる……予想だけど、かなり悪質そうだねぇ。でも本人は全く表に出したがってないし……」
エマ「駄目だよ。それだけは絶対にダメ。私、今から栞子ちゃんに聞きださないと我慢できない」タッ
彼方「ちょっ、ちょちょちょちょい待ち。今は不味いって、一年生もいることだし──」ガシッ
エマ「止めないで、彼方ちゃん」キッ
彼方(ひっ! エマちゃんの温度のない声ほんと怖い!)タラーッ
彼方「こ、ここは果林ちゃんも交えて話をしよう! ね? 一旦落ち着いて、三人で話し合ってからにしよう、ね?」
エマ「……そうだね。果林ちゃんに早く相談して、すぐに栞子ちゃんに話を聞こうね」
彼方「は、はははは……そうだね……」
彼方(この反応、果林ちゃんが正しかったなぁ。先にこの話を言わなかったら、本気で怒られたかもしんないや彼方ちゃん……)
エマ「いじめなんて……絶対に許せないよ……」
彼方(でも……疑いがあっても誰がやってるかもわかんないし……困ったなぁ……) 今日も面白かった。お話が2ライン同時に走ってるからここからどう絡むのか、明日も凄く楽しみ おつおつ
悲しいかな原作より状況はひどいのにこっちのほうが、行動に対する結果がすんなり受け入れられる 救われてもいいしいじめからは救われたけど…もいいしもう何もかもだめでもいいな…とにかく早く続きが読みたい しお子りなりーに嫉妬して自己嫌悪して、いじめのことも溜め込んで精神的に追い詰められそうで辛い…
頼むから救われてくれ 続きが気になりすぎるるる
更新ありがとうございます!!! おつ
こんなにも栞子が報われてほしいと思うssは初めてです このssの更新がここ最近1番の楽しみになってる
続きも期待してます やっぱりこれだけ見てる人多いってことはみんな栞子にしても1stシーズン、2ndシーズンにしても思うところはあるだろうなって いじめについては三年生が頼りになりそうな一方でしおあいりなの関係はいったいどうなることやら……続きがめちゃくちゃ楽しみです!!!!! おつ
せつ菜もなんかありそうで気になるな
それぞれ見せ場があって面白い スレタイわかっちまったかも知らん
予想は寒いからどこにも書かないけど このスレの影響でしお子へのセブン投票を始めてしまった 同学年とかで応援してくれる子や多少は仲良い子、友達が一切描写されないのもそれはそれで不自然なんだがな スクスタだとあゆしおわりと積極的に絡んでたけどこっちだと
愛さんがスペック通りのコミュ力発揮してるからな ──────
────
──同時刻 カラオケボックス
歩夢「えへへ、二人でカラオケって初めてだね、せつ菜ちゃん」
せつ菜「はい! でも嬉しいです、歩夢さんから誘ってもらえるなんて……!」ペカー
歩夢「うん。私、せつ菜ちゃんとカラオケ行きたいなぁってずっと思ってて。せつ菜ちゃんの歌声、すごく力を貰えるから……」
せつ菜「嬉しいですっ! スクールアイドル優木せつ菜、至上の喜びですよ!!」
歩夢「えへへ……それに、せつ菜ちゃんと二人っきりでおしゃべりしたいなぁって、思うこともあったし……」
せつ菜「私と二人……ですか? それは、どういう……?」
歩夢(私は本当に、こういうことは不得手で。いつも侑ちゃんの陰に隠れて……この前も、せつ菜ちゃんに背中を押してもらえなかったら、ずっと……)ギュッ
せつ菜「あの、歩夢さん……?」
歩夢「せつ菜ちゃん。私に……何か隠してるよね?」
歩夢(後戻りはできない。でも、これは私が気付いたことだから。私が今度はせつ菜ちゃんを)
せつ菜「隠し事……ですか? いえいえ、隠し事なんて、ましてや歩夢さんに何かを──」
歩夢「しっ、栞子ちゃんの、こと」
歩夢(から回ってちょっと噛んだ……) せつ菜「栞子さんのこと……ですか? ええと、それはどういう……?」キョトン
歩夢(うう、やっぱりはぐらかされちゃう……せつ菜ちゃんは私なんかよりよっぽど人付き合いが出来るから、私の攻め方じゃ絶対にしらを切られる……それでも……)
歩夢「……せつ菜ちゃん……私に嘘なんて吐かないで……」
せつ菜「あ、歩夢さん!? そんな、私、嘘なんて……」アセアセ
歩夢「でも私、見たんだよ……? せつ菜ちゃんの顔、すごく強張ってるところ……栞子ちゃんを見た時に……」
せつ菜「!! な、んで……」
歩夢(真っ直ぐにぶつかるしかない……! ぶつかって、ぶつかってぶつかって、砕けてもぶつかる!)
歩夢「その……ね? 栞子ちゃんが部屋に入った瞬間、すごく、無理矢理笑顔を浮かべたような気がしたから……」
せつ菜「な……そんな……ことは……」
歩夢「ううん。私もわかるよ。侑ちゃんが自分の夢を見つけた時も、私、すごく無理に笑顔を浮かべようとしてたから……せつ菜ちゃんのこと、わかるの」
せつ菜「……」
歩夢「せつ菜ちゃん。本当の気持ちを、私に教えて……? 今の辛そうなせつ菜ちゃんを私、見てられないから……」
せつ菜「……」
歩夢「せつ菜ちゃん……!」 せつ菜「……本当は再選挙で負けたことも、納得できてないんです」
歩夢「……!」
せつ菜「確かに私は副会長たちに任せて、生徒会の事をおろそかにしていたかもしれません。けれど、手を抜いたなんてことは、一度も……」
せつ菜「それに生徒会長として、栞子さんのように明確な理念があったわけではありません。ですが……それで……それだけで……」
せつ菜「結局選挙では私は負けてしまいましたし、そこはもうどうあっても取り繕うことはできません。私が負けた。それはもう、一つの事実として呑み込めつつありました」
せつ菜「私の生徒会長をやる意味は、確かに私の一番大切なものを護るための道具だった、というのはある意味間違いではありません。しかし、もちろん手を抜いた記憶もないんです」
せつ菜「……ですが、最近の栞子さんを見ていると、とても、辛いんです。私……」
歩夢「つらい……そう、だよね。せつ菜ちゃんにとって、それって、辛いことだよね・……」
せつ菜「部活紹介の件は、本当に栞子さんに力を貸そうと思ったんです。だから副会長に呼びかけたんです。選挙に負けた事実も呑み込めつつあったから、です」
せつ菜「そうしたら、今度は……今まで憎んできたスクールアイドルを知るために、同好会に入る……。それって、あまりにも……あまりにも……」
歩夢「良いんだよ、せつ菜ちゃん。私しか聞いてないから。自分の思う言葉を、ぶつけて?」
せつ菜「……ムシが良すぎますよ、そんなの。愛さんの言葉が彼女に響き、彼女は過去の行いを悔いて自分から同好会にやってきた、それは褒められるべき行動かもしれませんが……」
せつ菜「今まで散々無駄だ無駄だと私の大好きを否定してきた彼女が、今までの事は間違っていたからスクールアイドルをやってみるなんて……」
せつ菜「私は、私には、身勝手にしか思えなくて……どうしても、彼女に上手く笑顔を浮かべることができないんです……」
歩夢「せつ菜ちゃんは……栞子ちゃんのこと、キライ?」
せつ菜「っ! そ、そんな、そんなことは……ただ……ただ……彼女とどう向き合えばいいのか、私の胸にくすぶるこの黒い感情をどうすればいいか、わからないんです……」
せつ菜「……軽蔑、しますよね……下級生にこんな、醜い感情を……」 私の目の前で、今にも消えていなくなってしまいそうなほどか細い女の子と、あの時私の背中を押して拳を差し出してくれた女の子は、やっぱり同じ女の子でした。
侑ちゃんや愛ちゃん、エマさんみたいに万人に笑顔を向けられる人なんてわずかで、私だってせつ菜ちゃんに嫉妬したことはずっと記憶に新しくて。
せつ菜ちゃんだって、その身に余る大きな野望を抱えて、万人の大好きを大切にしようとする人だけど。本当は、やっぱり私と同じ、人なんだって。
「せつ菜ちゃん」
そっと、私は肩を抱き寄せました。こつんと顔をせつ菜ちゃんの頭に寄せて、もう片方の手でせつ菜ちゃんの頭を撫でます。
私が出来得る限りの、優しい撫で方で。大丈夫だよって。私はせつ菜ちゃんの気持ち、全部受け止めるよって。
この地球に生きてる人みんなの大好きを護るという不可能に近い理想を抱え、叶えようとする人だって──やっぱり、私とおんなじヒトなんだって。
誰かを好きになるのが難しい時だって、絶対にあるんだって。
「私に教えてくれてありがとう。せつ菜ちゃんの気持ちが聞けて嬉しいよ」
「そんな、嘘です!」
私からばっと距離を取るせつ菜ちゃん。その両目は潤んでいて、私よりも小さなその体が、もっともっと小さく見えました。
こんなに小さな体で、それでも気丈に振舞っていた彼女を、私はどうしてもっと早く手を差し伸べられなかったんだろう。
「嘘じゃないよ。せつ菜ちゃん、私は侑ちゃんみたいに問題を解決したり、愛ちゃんみたいに状況を好転させることもできないけど……」
私に出来ることなんて、全然なくて。でも、辛い時に、貴女の気持ち、わかるよって。一緒に居てくれるに人がいることが……どれだけ心強いかは知っているから。 「私、一緒に居るよ。せつ菜ちゃんが辛くて辛くて動けないとき、私は絶対にそこから離れたりしない」
「せつ菜ちゃんが苦しくて、悲しくて、もがいてももがいてもどうしようもない時も、私はその手を絶対に離したりしないよ」
「何もできない私だけど、優木せつ菜ちゃんを、中川菜々ちゃんのすべてを、抱きしめることはできるから」
「だから、せつ菜ちゃんの全部を私に教えて? 取り柄なんてない私だけど。せつ菜ちゃんの全部を世界中で誰より一番、肯定してみせるから」
上手い表現なんて見つかりませんでした。だから、私の気持ちをひたすら、せつ菜ちゃんみたいにまっすぐぶつけることにしました。
例えどれだけせつ菜ちゃんが真っ黒で苦しくて苦い思いを抱いていても。私が今ここに居るのは、きっとこのため。
せつ菜ちゃんに救われた私が、今度はせつ菜ちゃんを抱きしめる時。だから真っ直ぐに、ぶつかっていく。
せつ菜ちゃんが抱える光も闇も、全部受け止めて、またあの眩しい笑顔を取り戻すために。
「せつ菜ちゃんの大好きも、大嫌いも、楽しいも、悲しいも、嬉しいも、苦しいも、なにもかも。私に教えて?」
これから進んでいくせつ菜ちゃんの道は、きっと容易い道じゃないから。私に出来ることは、せつ菜ちゃんが疲れた時に自分を曝け出す場所として居続ける事。
「私はその全部を、大事にするから」
もう一度、せつ菜ちゃんを抱きしめる。今度は両腕で。私の胸に、せつ菜ちゃん顔を寄せる。今度はどれだけの力で逃げようとしても、絶対に離さないと。
強く強く、抱きしめました。あなたの味方だよっていう気持ちと一緒に。強く、強く。
「あ……ぅ……あ、ゆむ、さん……わたし……わたし……悔しいです……っ! 悔しいし、むかつくし、どうしようもなくて……!」
「でも、あの子だって悪い人じゃないってわかるから! だからよけいに、つらくて! 誰にもこんなの言えなくて!!」
「わたし、こんなっ──こんなのっ、すごくみじめでっ……ぅ、ぅあ……ぅああああああああっ!!!」 普通ならそうなるわ
スクスタのせつ菜がいい子過ぎる 大小あるけど現実だとそう思うだろうな
重要なことを書かなさすぎだよ ──────
歩夢「せつ菜ちゃん……落ち着いた?」
せつ菜「……」コクン
歩夢「ちょっとお水飲もっか。何か淹れて──」クイッ
せつ菜「ここに、居てください……」キュッ
歩夢「……うん。居るよ、ここに」ニコ
せつ菜「……」
歩夢「……」ナデナデ
せつ菜「とても、楽に……なりました。無理な笑顔を浮かべていても、本当の私の今の気持ちを知っていてくれる人が居てくれるって、わかったので」グスッ
歩夢「……良かった。せつ菜ちゃんの力になれて」
せつ菜「正直なところは……その。まだ私のこの感情をどうすればいいかわかりません。でも、歩夢さんという私の気持ちを知ってくれている人が居るだけで、私……とても、気が楽になりました」
歩夢「……せつ菜ちゃん、この事は……」
せつ菜「皆さんに話せばきっと理解してもらえるとは思います。ですが今の状況で場を乱したくはないんです。それに歩夢さんが居るだけで、私はもう十分です」
歩夢「──うん。分かったよ。せつ菜ちゃんが言うなら、私の胸の内に、秘めておくから。でも、いつでも話して? どんなに些細なことでも、私に全部話してくれればいいから……」
せつ菜「歩夢さん……ありがとうございます。私……私……!」グシグシ
歩夢「──せつ菜ちゃん、歌おう! カラオケなんだもん! 思い切り、好きなように歌おう! 今は全部忘れて、楽しいことを!」
せつ菜「はい……はいっ!!」ペカーッ ──────
────
──翌日 虹ヶ咲学園 某教室
彼方「以上が昨日の事の顛末。やっぱり勘は当たってたねぇ」
果林「あぁ……当たって欲しくない勘は当たるのよねぇ……」
エマ「果林ちゃん! はやく栞子ちゃんに話を聞いていじめなんて止めさせないとだめだよ!」
果林「エマ、憤る気持ちもわかるけど……直接本人に聞いてもまともには教えてくれないと思うわ」
エマ「どうして……? 栞子ちゃん、きっと辛くて、誰にも言えないはずなのに……私たちから聞いてあげないと……!」
果林「彼女があれを虐めとして認識していない限り、絶対に認めないでしょうね」
エマ「え……? どうして!? お弁当も、教科書も、体操服も、リボンも! 盗まれたり隠されたりして、それがいじめじゃないって、どういうこと……?」
彼方「……例えばだけど……栞子ちゃんが内罰的な子だとしたら、どうする?」
エマ「内罰的……自分を責めちゃう子って事?」
果林「物の例えよ。普通の子があんなに嫌がらせを受けて、夜も眠れないほど追い込まれて……それでもあそこまで気丈に振舞える?」
彼方「栞子ちゃん自体もともととてもストレスに強い子かもしれないけれど……それ以上に今の状況が正しいと思っているんじゃないかな」
エマ「そんなのあり得ないよ! いじめられることが正しいだなんて!!」 ぽむかすからぽむせつまでやってくれるとは・・・
最近ゆうぽむの重いぽむしか見てないからこういう純粋にいい子なぽむ見れて嬉しい
イッチには感謝しかないわ 果林「あの子の場合、現状自分の今までの行いを悔いている節がたくさんあるでしょう? つまり自分の今までの行いを悪だと思っているの」
彼方「だから虐められても仕方ない、これは耐えるべきこと……そう思ってしまえば、栞子ちゃんはどんどんそれを受けれいれちゃうって話だねぇ」
エマ「そんな……」
果林「あの子の人を不幸にさせない、悲しい思いをさせない……そういう願いの部分が強い分、あの子が人を不幸に、悲しい思いをさせていた原因だったと分かった分……」
果林「より自分を責めるんじゃないかしら」
エマ「……じゃあこのまま何もせずに……?」
彼方「いーや? 彼方ちゃん達も手ぶらで待つだけじゃないよ。手掛かりはあるよ〜。エマちゃんは覚えてる? 愛ちゃんが口止めしたのに漏れちゃったって話」
エマ「……生徒会再々選挙? そう言えばそういう話も……でもそれがどういう……?」
果林「かすみちゃんは知ってるのよ。出所を。あの人気を誇る愛のお願いを裏切るリスクを冒してでも、栞子ちゃんに不利になる情報をばらした存在が、居るの」
彼方「かすみちゃんが聞いた子は、バレー部の子」
エマ「じゃあバレー部の子に一人ずつ聞いて回──」ダッ
彼方「ちょいちょいちょいちょい待った! そんな事したら余計怪しいから……一人頼りになる人材を呼んでおります!」ガッシィ
エマ「え……?」
ガチャ
演劇部部長「遅れてすまないね。話はラインで聞いていたよ。それで私はさり気なくバレー部のホシと思われる人に接触すればいいわけだ」
果林「言質は貰ってるから、助かるわ」 エマ「部長さん!」
部長「やあヴェルデさん。いや、確かに『もし何かあれば、微力ながら君たちDiverDivaに力を貸すよ』とは言ったけど……まさかこんな羽目になるとはね」
彼方「しずくちゃんを演じた時もすごかったから、今回も演技できるよ〜」
部長「演劇をこんな風に使うのは信念に反するのだけど……まあ、しずくがスランプになった時に『演じることもしずくらしさ』という道を見つける手伝いをしてくれた同好会の……高咲さんへの恩もあるし」
部長「ここは私も一枚噛ませてもらうよ。私も反三舟さん勢力を演じればいいわけだ」
彼方「部長さんは栞子ちゃんをフォローするポジションだったけど、内心はそうでもなかった、みたいなキャラでお願いしま〜す」
部長「まあ、やり方については任せておいてよ」ニコ
果林「正直回りくどい方法かなとは私も思うんだけど……栞子ちゃんを抱える私たち同好会があれこれ動くと、もしバレー部の誰かが本当に黒だった場合、余計に手が出しにくくなる可能性があるのよね」
部長「先生に相談する、という手はないのかな?」
彼方「それも考えたんだけど、栞子ちゃんが先生に『そういうことは全然ないです』でしらを切り通されると思ったのサ」
部長「確かに。彼女は頑固……いや失礼。生真面目で先生方からの信頼も厚いときている」
彼方「そういうわけで、ここは使えるならなんでも使おうというわけなのだよ」
部長「近江さん、噂に聞いてる人とは全然違うね……?」
果林「彼方は私以上にリアリストよ」 エマ「うー……本当はすぐにでもバレー部の人たちに聞いて回りたいよ……!」
果林「気持ちはわかるわ、エマ。貴女ならきっと今の状況を我慢できるタイプじゃないって事」
エマ「……栞子ちゃんの行いは恨まれることはあるかもしれないけど……じゃあ、虐めていい理由になるの? 恨みがあるから、この子は虐めていい、ってそうなるの……? 私はそうは思えないよ……」
彼方「容認するわけじゃないけど、人の心は複雑だからねぇ。虐めは悪いことだってわかってても、この子はこんなに悪いことをしたから、それ相応に悪いことが起きても仕方ない──」
彼方「そういう詭弁を免罪符にいじめをやる、なんてよくある話だよ〜。それを許せるかどうかは、全く別の問題だけど」
果林「彼方、つくづく貴女と私が同じ年数を生きて来たとは思えないんだけど」
彼方「ふふふ、本は人を豊かにするのだよ」
果林(さりげなく私が活字を一切読まないということをバカにしてきたわね?)
エマ「部長さん、どうか、どうか犯人を見つけてください! 教えてさえくれたら、あとは私たちが……!」
部長「エマさんの気持ちは痛いほど良く分るよ。だから私もきちんと自分のなすべきことをこなそう。私だってそれなりに正義感というものもあるからね」
部長「さてと。早速行動開始としようかな。明日明後日にはきっと結果をたたき出して見せるさ」スッ
エマ「よろしくお願いします!」
果林「あ、そうそう」
彼方「もし回し者だってことがバレても、当局は一切関与しないのでそのつもりでね〜」
部長「えっ」
エマ「えぇっ!? 駄目だよそんなの!」
果林「冗談よエマ」
彼方「彼方ちゃん達が仲間を見捨てるわけないじゃないかぁ〜」
部長(……なんだろう。あの時の言葉を取り消したくなってきたな……ハハ……) ──────
────
──金曜日 虹ヶ咲学園 講堂
愛「っと……まあ挨拶としてはこんなもんだと思うんだよね。長すぎるのは性に合わないし!」
璃奈「短くてわかりやすかった。良いと思う」
侑「私もこれで良いと思うよ。ライブの時間も考えると、挨拶はこんなものだと思う」
愛「後は愛さんに任せとけってなもんよ!」
侑「この愛ちゃんの絶対的安心感! 大船に乗っちゃった感じだね!」
璃奈「でも他の部活も自由に発表できるから気合が入ってる感じがする。璃奈ちゃんボード『わくわく』」
愛「まあ愛さんが話題をかっさらうからそのつもりでいてよね!」
璃奈「それは当たり前。愛さんならきっとできちゃう」
愛「うへへへ! 流石りなりー、よくわかってる!」
侑「バカップルめ……そういえば二人が付き合ってること、栞子ちゃんは知ってるの?」
愛「え? んーん、言ってないよ。あんまり言いふらすもんでもないしさ」
璃奈「できればご内密で」
侑「あはは、了解。まあそうだよね!」
「愛ちゃん! おーい! ちょっといいかなー!?」
愛「ん? あー! バレー部ぶちょ〜! どったの!? ちょっち行ってくる!」タッ せつ菜の心情まで書いてくれてありがとう
そりゃそう思うし、それと向き合って乗り越えてこそ仲間だよな 侑「……璃奈ちゃん、ああいう人が彼女だと苦労するでしょ」
璃奈「でも、愛さんがああいう人じゃなかったら今ここに私はいないから。あの愛さんが、私の好きな愛さん」
璃奈「困ってる人を絶対に見捨てたりしない。どんな人にも平等に楽しいを振りまく人。そんな人が、私の気持ちに応えて、私だけを特別だって言ってくれる」
璃奈「だから、へいき」
侑「……青春、だねぇ……」
璃奈「侑さんも青春の真っただ中」
侑「いやこう、友情と恋慕と愛情が混じった関係が素敵だなぁって……」
璃奈「それを混ぜて青春と呼ぶのはどうかと思う……でも、気にかけてくれて嬉しい。ありがとう、侑さん」
侑「いやいや、単純に興味もあったからね!」ペッカー
璃奈「……そういうの、良くない」ジッ
侑「いいじゃんさり気なく惚気ちゃったんだからさ!」
璃奈「侑さん人が悪い……」
侑「あーほらほら、愛ちゃん戻ってくるよ」
璃奈「!」バッ
侑(そりゃこんなに可愛ければ愛ちゃんもぞっこんになるよねこりゃ……)ニマニマ >部長「演劇をこんな風に使うのは信念に反するのだけど……まあ、しずくがスランプになった時に『演じることもしずくらしさ』という道を見つける手伝いをしてくれた同好会の……高咲さんへの恩もあるし」
うん!……うん? 愛「お待たせぃ!」ニカッ
侑「お帰り、何話してたの?」
愛「んー? お互い明日の部活紹介がんばろ! って話とかだよ?」
侑「私も各部の部長さんとはそれなりに面識があるつもりだけど……愛ちゃんのレベルは面識どころじゃないもんね……」
愛「まあバレー部にも助っ人で出てるしね。戦友に近いかも」
璃奈「戦友……なんかその響き、カッコイイ……!」
愛「でもりなりーとだって仲間でライバルだから、実質戦友だぞ?」
侑「同時に恋人だよね!」
璃奈「!」バシン
侑「あうっ、ボードは叩くものじゃないよね!?」
璃奈「これも感情表現の一種」
愛「一理あるね……」ウンウン
侑「そんなぁ!?」
愛「さてさて、リハはこんなもんにしておいて……カリンたちのところに戻ろうか」
璃奈「うん」
侑「なんだかちょっとドキドキするな……明日……楽しみだ……」 ──────
────
──虹ヶ咲学園 スクールアイドル同好会部室
侑「じゃあ果林さん、最後戸締りだけお願いします! お疲れさまでした〜!」
果林「お疲れ様、侑。明日はよろしくね」
侑「こちらこそよろしくおねがいしまーっす!」バタン
果林「……ふぅ。これで皆行ったわね」
彼方「じゃあ部長さんに電話するねぇ」
エマ「……」ウズウズ
果林「エマ、気になる?」
エマ「ならないの!?」ガターッ
彼方「おぉう、エマちゃんどうどう。果報は寝て待てと言うじゃあないか」スヤピ……
エマ「……カホーは寝て待て……?」
果林「果報って確かいい知らせ、的な意味よね」
彼方「……果林ちゃん、偉いね……」パチクリ
果林(彼方をいつかぎゃふんと言わせたいわ……)
ガチャ エマ「来た!?」ガタッ
女生徒「あの……」
果林「え?」ポカーン
彼方「あり? えっと、キミは……誰かなぁ?」
女生徒「あの、わたし、朝香果林さんのファンで……」テレテレ
エマ「……」
彼方「……」
果林「……あら、私のファンだなんて……嬉しいわ。貴女のお名前、教えてくれるかしら?」カリィィィン
女生徒「あ、あの、わたしは──」バッ
エマ「!」
彼方「なんとぉ」
果林「貴女は!」
演劇部部長「演劇部部長さ。敵を騙した後は味方も、と言うだろう」
彼方「言うねぇ確かに」
果林「い、言うわね確かに」
エマ(あれ……? そんな言葉あったかなぁ?)
彼方「いや言わないから」
部長「いや言わないよ」
果林「……私もう帰って良い?」
部長「いや、すまない。つい揶揄ってしまった」
彼方「ごめんご〜」
エマ(やっぱり言わないよね……) 果林「で、どうだったの」ムッスー
部長「結果から言うとバレー部の数名が意図的にばらしたことは間違いなさそうだね。出所は完全にそこで、他部ではないみたいだ」
部長「どこにでもいるような生徒のフリをして部の子たちに聞いて回ったけど、やはり確かにそうらしい」
エマ「誰が、っていうのは解りましたか?」
部長「いや、残念ながら。そこまで聞こうとしても彼女たちも口を噤んでしまってね。箝口令が出ているみたいだ。どことの馬の骨とも知れない生徒には教えてくれなかったよ」
彼方「箝口令……言いふらすなって言えるって事は三年生だねぇ」
果林「一年、二年じゃ上級生にはそんなのできないもの。バレー部は結構上下関係厳しいし、尚更そういうのはあり得るかも」
部長「すまない。バレー部員の誰かが三船さんに嫌がらせ行為を行っているかどうかもわからなかった。ただ……」
エマ「ただ?」
部長「放課後の遅い時間に、三船さんのクラスの教室に生徒が数名居るのを見かけた子が数名いてね。全て違う日にだ。学年や何をしているかはわからなかった……という話だけど」
彼方「断定はできないけど、もっともっとに匂うねぇ」
果林「だけど誰が、を突き止めないと、手が出せないわ」
エマ「……うううっ、もどかしいよっ!」
彼方「私たちの友達に放課後とか見張ってもらう? あかりんとかくぼちゃん、まりちゃんとかなら手伝ってくれるかも……」
果林「……そこまで巻き込めないわ。歯痒いわね……」 彼方「……下手な考え、休むに似たり。今日の進歩は進歩として、一度各自持って帰ろう。月曜日にもう一回話し合って……」
果林「そうね、彼方……。でも、それで何か名案があるといいのだけれど……」
エマ「……私はやっぱり、栞子ちゃんに話して欲しいよ……。こんなの、絶対に合っていいはずないんだもん……」
部長「……」
──────
────
──深夜 愛の部屋
愛(バレー部部長から聞いた、しおってぃーの入部テストや、初耳の再々選挙の話がバレー部から漏れた、という話)
愛(ぶちょーは副部長や数名の信用を置く三年生に当時の事を相談したみたいで、そこから誰かが漏らした……という話を受けた)
愛(正直アタシの口止めなんてあくまでお願いで、あの案に反発して相談する部があるというのはわからないでもない。けれど、今回の件は──)
愛(悪評を広める為に広めた、みたいな言い方だった。もちろんバレー部部長もしおってぃーを良く思っていない人だったけれど、それでも正々堂々とした人だ)
愛(じゃあ……バレー部の中に、しおってぃーに悪意を持って悪い噂を広めようとした人が居る……?)
愛「……待て」ガバッ
愛(ぼんやりとした考えに、突然焦点が定まった。数多くの僅かな違和感のピースが、カチカチとハマっていく)
愛(リボンの付け忘れ。体操服を失くして体育を見学。頻発する忘れ物。お弁当から学食に変えたこと。急に何かを隠した素振り。知らない生徒を見て異様に緊張する姿)
愛(自分を良く思わない人間が居て当然という態度。浮かない顔で何かを探し回るように校内を歩き回る、しおってぃーの姿) 愛(これじゃあまるで、しおってぃーが誰かに虐められてるみたいで──)
愛(全身から汗が噴き出した。それも相当不愉快なヤツ)
愛「ッ!」バッ
愛(しおってぃー! しおってぃーに聞かなきゃ! しおってぃーに聞いて……)
愛「……なんて聞くんだ、アタシ。しおってぃー、虐められてるの? なんて聞くのか?」
愛「……いくらしおってぃーが恨みを買ったからって、いじめなんて……そんなの、あるわけ……」スッ スッ
愛(アタシの思い過ごしだ。急にそんなことを考えても、これは何の証拠もないこじつけかもしれない、妄想の域だ)スッ スッ
愛(……駄目だ。指が止められない。しおってぃー、出てくれ。アタシのバカな妄想なら、それでいいんだ)ピッ ピリリリリリリ
愛「……しおってぃー……」ピリリリリリリ
愛「……」ピリリリリリリ ピー
愛「……」ピッ
愛「出ない、か……」ポイッ ボスッ
愛(スマホをベッドに投げ捨て、アタシもベッドに寝転ぶ。駄目だ、考えがまとまらない。明日に備えて早く寝たいのに。しおってぃーの事が気になって仕方がない)
愛「くそ……っ」
愛(明日、何とかしてしおってぃーに聞かなきゃだ……!) おつおつ
せつ菜のところはやっぱりちゃんと書いてくれないと納得が行かんわ
公式さんよ… 今日もおつです
この徐々にクライマックスに近づいていってる感じがたまんねぇ せつ奈の心情描写が物凄く納得できたし、キャラの魅力が溢れてる おつおつ
せつ菜のフォローまでしてくれるとは
あと彼方ちゃんに抱かれたい 物語の盛り上げようが実に上手いわ
遂に愛さんにもいじめのことが伝わりつつあるが──果たして おつです
3年生組のバランス大好き
理屈では歓迎するべきでも割り切れないせつ菜、間違いを重く受け止めているから同好会を頼り切れない栞子……そうだよなあ…… なにこれ更新のたびにこの量読ませてくんの?
最高かよ、心が豊かになる せつ菜の心情まで書いてくれてまじで嬉しい…、
嬉しいんだけどせつ菜が悲しんだり葛藤してる描写を見ると改めてスクスタの脚本が憎くなってやっぱつれぇわ
本来ならこのssのせつ菜くらいに感情を抉られるような展開だったんだなって… 今更だけどアニメとスクスタの設定混在しているんだよね もうほんと続きが気になってしょうがない
たまらないぜ 生きる希望、物語にめちゃ引き込まれてます
ありがとうございますありがとうございます >>675
まぁ5chのSSだしそこら辺は肩肘貼らず楽しもうぜ このSSのおかげでもやもやとかが晴れて、どんどんキャラを好きになる。
めっちゃ期待してます。 >侑「この愛ちゃんの絶対的安心感! 大船に乗っちゃった感じだね!」
なんかメタ的なセリフがw ここまで丁寧にやればこんなにも輝くテーマなんだよな…… あゆせつのやりとりがめっちゃ心に響いた……せっつーだって人間だもんね
三年生組や演劇部部長もそうだけどそれぞれのキャラが生きてる感じがちゃんとあって本当に読んでて楽しい
続きも楽しみにしてます!!!!! むしろアニメ後にスクスタのエピソードもいくつかやって栞子騒動みたいな印象だわ 三年生の頼りになる感がハンパない。実際有能だし。
果林さんの勉強できないけど頭の回転早いの好き。 せつ菜も同好会と色々あった上での今なわけだし栞子もそこは同じだよね 追い付いた
正直スレタイで敬遠してたけど読んだらめっちゃおもろいやんけ タイトル的にギャグか作者による栞子いじめかと思って読むの後回しにしてたけど評判を聞いて一気に全部読んでしまった あんまり細かいこと行っても仕方ないけど菜々が降ろされた明確な理由が分からんな
相当うまいことやったのか栞子 >>698
>>248だな
本来は選ばれた人に同情するべきではあるんだけど、栞子の場合そもそもの理由が酷いせいで… >>697
同好会との一件見てもそうだけど生徒側からは色々叩きどころがあっただけだと思う
栞子ばかり悪く言われるけど その色々をきちんと描写してくれんと栞子は権力でゴリ推ししてるようにしか見えないし誰も得しないんだよなぁ公式の怠慢でしかない ──────
────
──翌日 虹ヶ咲学園 スクールアイドル同好会 部室
侑「愛ちゃん、どうしたの? あんまり顔色良くないっぽいけど……」
愛「……いや、実は昨日寝付けなくてさ。なんかすごい緊張してるみたいで」
侑「珍しい! 愛ちゃんでも緊張するんだね……意外だなぁ」
愛(嘘だ。結局しおってぃーに朝から会えてないのがアタシをひりつかせているんだ)
侑「まあまだ出番までもう少し時間あるし、ちょっと横になったほうが良いんじゃないかな?」
璃奈「……」ペシペシ
愛(……まあ、確かにそれもそうだ。しおってぃーに連絡は入れているし、部活紹介が終わった後でしおってぃーを捕まえることはできる)
愛「じゃありなりーの膝でちょっと休もうかな!」バッ
璃奈「ここは愛さん専用。存分に使って?」
愛「ありがたいありがたい……じゃあゆうゆ、時間になったら起こしてね〜」
侑「うん、任せといてよ!」グッ
愛(今は……今は、ライブの事だけに集中しよう……) ──生徒会室
栞子「……ふぅ、これで大丈夫」
栞子(今日までの事を思い返し、改めて宮下愛さんという存在の大きさに感嘆します。あの人が居なければ、今頃どうなっていたのでしょうか)
栞子(あのやり方を続けていれば、きっと今の私はいない。自分の行いに向き合い、考え、どういう事態を招いていたのか……それすらわからないままだったかもしれない)
栞子(悲しみのない学園生活を望んだはずなのに、私自身が悲しみの原因になっているとも知らずに、あの行いを続けていたのでしょう)
栞子「……っ」ブルッ
栞子(そう考えると寒気がします。最も忌避していた人間が自分であることに気づかず、自身は良かれと思っていて……いいえ。もう、この考えは止めましょう)
栞子(……もう、以前までの私はいない。過去の行いは決して忘れたりしない。だけど、囚われもしない。愛さんが信じている私の『優しさ』を信じて、私はやる)
栞子「──時間ですね」
栞子(私が望む世界はまだ見つからない。けれど、きっと今度こそ理想へたどり着ける道に、私は立てた。苦難の道かもしれない。決して平坦な道ではない)
栞子(けれど、確かに目の前に道は広がっている。だから私は今日からその一歩を踏み出していく。この道を、眩いほどに光を放つ太陽が照らしてくれているから)
栞子「すぅ……はぁ……」
栞子(髪飾りを結び直して深呼吸。そう。これが、これこそが私にできる事。私の願いは、ここから始まるのだから)
栞子「行ってきます」
栞子(私は静かに別れを告げて生徒会室を後にしました) ──虹ヶ咲学園 講堂 舞台袖
副会長『それでは、虹ヶ咲学園の特色の一つである部活、同好会を魅力を知ってもらうための時間として、部活紹介とさせていただきますが──』
副会長『その前に虹ヶ咲学園の現生徒会長である三船栞子より、皆さんにお伝えしたいことがあります』
侑「始まる……! 栞子ちゃんの演説……!」
璃奈「実際の内容までは詳しく知らないから、とても楽しみ……! 璃奈ちゃんボード『ワクワク』!」
愛「……しおってぃー」
愛(副会長の放送に呼ばれ、しおってぃーは壇上に姿を現した。アタシたちとは真逆の舞台袖からで、最後の最後までやっぱり会って話すことはできなかった)
愛「……」
愛(壇上に立つしおってぃーは、再選挙の時よりもずっと活き活きとした表情で、アタシが考えているようないじめとか、そんなのとは無縁のような気がした)
栞子『入学希望者の皆さん、初めまして。私は虹ヶ咲学園生徒会長の三船栞子と言います。どうぞ、よろしくお願いいたします』
愛(静かで穏やかな、けれどわずかに圧倒されるような喋り方。元々こういうことに場慣れしているのかな)
栞子『皆さんにとって部活紹介はとても楽しみな時間だとは思いますが、その前にひとつ、私から──いいえ、生徒会から皆さんにお伝えしたい事があります』
栞子『皆さんが部活や同好会に入るとしたら、どんなことを重点に置くでしょうか? 得意なことを伸ばすために。大好きだから、やりたいから入部する。様々な理由があると思います』 栞子『私たち生徒会としても、皆さんが様々な色の希望を持って部活に入ってくれることを、最良として願っています。ですが……』
栞子『やりたいことが良く分らない。部活を続ける中で、本当にこれは私のやりたい事なのだろうか。私に向いている部活ってなんだろう』
栞子『時として理想と現実の差に迷い、或いは希望を持てずに悩んでしまう人も大勢いるかもしれません。そして悩みを抱え続けたまま、後悔を、悲しみを抱き──』
栞子『卒業を迎えてしまう。そういった三年になることも、ないとは言い切れません。ですが私たちは可能な限り、皆さんには──』
栞子『楽しかった。嬉しかった。この部活に居て良かった。この同好会の仲間と活動できて楽しかった。そう言って、自身の未来に更なる希望を抱き──』
栞子『この学園から羽ばたいて欲しいと願います。だからもし、今自分に何の希望も、未来も、夢も、取り柄も──適性も。見つからない、そんなものない……そう考えている人が居るなら』
栞子『まずは、生徒会室へと是非足を運んでみてください。……私たちも万能ではなく、何一つ力になれないかもしれません。それでも私たちは──』
栞子『私たちは皆さんの為に、僅かでも力になれる、或いは皆さんの背中を押せる可能性があるのなら、私たちはそこに全力を賭します』
栞子『今迷う人たちへ、誰にも頼ることのできない不安を心に持つ人へ。私たち生徒会が居ます。いつでもその気持ちを打ち明けてもらう場所として在り続けます』
栞子『そしてやりたいことを心に決め、大好きを胸に抱き、これから待ち受ける様々な状況に期待を膨らませる皆さんへ──』
栞子『私たち虹ヶ咲学園の全部活、全同好会は、きっとその期待に恥じない活動ができるということを、約束します』
栞子『以上を以て、生徒会長三船栞子の挨拶と代えさせていただきます』 ──舞台袖
侑「おおおおおおお……っ!」
璃奈「……すごい」
愛「しおってぃー……!」
愛(どくんどくんと高鳴る鼓動。しおってぃーが目指す世界。心が震える。朗々と語るしおってぃーに、身体が震える。ああ、これが、しおってぃーの理想なんだね……!)
侑「これが栞子ちゃんなんだ……っ! すごい、すごいよっ!!」ピョンピョン
愛「いやー……ちょっと愛さんうるっと来ちゃったかも」
璃奈「愛さん、娘の成長を見守る父親みたい」
愛「せめて母と言っておくれよりなりー……」
侑「じゃあ璃奈ちゃんがお母さんかな?」クスクス
璃奈「それも悪くない……璃奈ちゃんボード『ご満悦』」
愛「ははっ! じゃあ宮下璃奈、かな?」
璃奈「っ!」カァアアア
愛「だいじょーぶ、天王寺と同じくらいいい響きだ!」
璃奈「……嬉しい。愛さん、一生幸せにする」
侑(またこれだよ……ひえーあっついあっつい……お?) しずく「侑先輩! 愛さんも、璃奈さんもお疲れ様ですっ」
侑「しずくちゃん! もうすぐ出番?」
しずく「はいっ。今回も私、舞台に立たせていただいて……」
部長「やあ高咲さん。宮下さんと天王寺さんもこんにちは」ニコ
愛「ちーっすぶちょーさん! 演劇部、もうすぐっすね!」
璃奈「演劇部の劇、とても楽しみ。今回はしずくちゃんと部長さんの寸劇?」
部長「そうだね。時間が短い分如何に観客の心を掴めるかが勝負になってくる。登場人物も話も極力絞りつつ、最高の劇を魅せたいね」
しずく「はいっ! そのための稽古は積んできたつもりです」
侑「おお……しずくちゃんカッコイイ……」
しずく「侑先輩、見ていてくださいね。侑先輩と、璃奈さんと、かすみさんのお陰で見つけられた『わたし』を、侑先輩にたくさん見てほしいので!」
侑「うんっ。見てるよ、しずくちゃん。しずくちゃんが一番輝くときは、しずくちゃんが何かを演じている時だって、知ってるから」
部長「さあ開演だよ、しずく。いつも通りでいこう」
しずく「はいっ」
愛「しずく、ここから見てるから!」
璃奈「璃奈ちゃんボード『ファイト』!」 ──────
栞子「ふぅ……」
副会長「お疲れさまです、生徒会長」
栞子「副会長」
副会長「とても良い挨拶でしたよ、会長」
栞子「……! そう、思えましたか」
副会長「ええ。……私はまだ、もしかするとあなたと分かり合えない部分があるのかもしれませんが──貴女があの挨拶の内容を遵守するというのなら──」
副会長「私も微力ながら力を尽くします」
栞子「……ありがとう、ございます」
副会長「ああ、そう言えば。会長の挨拶の最中に、宮下さんのお友達が来られていましたよ」
栞子「え? 愛さんの? どんな用事だったのですか?」
副会長「はい。なんでもここに戻ってきてからでいいので、二年生の教室に来て欲しい、とのことで……」
栞子「二年生の教室に? なんでしょうか……わかりました。少しここはお任せしますね」スッ ──────
しずく『あらベン!』
部長『やあルーシー! 今日はキミにプレゼントを持ってきたんだよ』
しずく『まあ! きれいな指輪……! こんな素敵なものを貰って良いのかしら!?』
部長『もちろんだよルーシー……。ねえ、ルーシー。僕はこれから旅行に出かけるんだけど、少し確かめたい事があって……』
しずく『確かめたい事?』
部長『そう、それはとても重要で……いや、君には重要ではないかもしれなくて……でも僕にとってはとても重要な……』
アナターノリソーノヒロインー
しずく『あらごめんなさいベン! 電話だわ! もしもし──』
──────
侑「んふっ……折角プロポーズしたいって言うのに電話ばっかりで……くふふふ……この劇めっちゃ面白いね……ぷくくくっ」
愛「これなんだっけ……どっかで読んだことある様な……」
璃奈「もとはオペラ。『電話』っていう題名。寸劇用に縮めてるみたい。愛さんは私の部屋の七色いんこを読んだから覚えがあるんだと思う」
愛「ああー! 通りでなんか記憶にあるなと思ったんだよね……ゆうゆ、大丈夫?」
侑「ぐふっ……あの部長さんが、電話にすら嫉妬してて……しずくちゃんに振り回されてて……ぐふふっ」
愛「……りなりー、アタシの出番も近いし衣装の最終確認、良いかな」 璃奈「ラジャー。……愛さん、口は回る?」イショウヨシ!
愛「おぅ! あー、あー……卵か先か鶏が先? 考え──」
璃奈「ストップ。それ以上はステージ上で」
愛「なんでさ?」
璃奈「喉の元気は残しておくべき」
愛「確かに一理あるね。ゆうゆは……おーいゆうゆ、息してる?」
侑「ヒーッ……ヒーッ……あ、あいひゃ、わたし、しぬ……ぐるじぃ……」コヒュー コヒュー
愛「喜劇で死ねたら本望かもね……」
璃奈「笑顔で死ねるならそれはそれでいいのかも。……あっ。愛さん、もう劇が終わる。演劇部の後は短い発表の部だから、すぐに愛さんの番、準備はいい?」
愛「おうさ! 軽くヘビーにブチアゲてくるよ!」スッ
璃奈「うん。ここから見てる……!」パァン
侑「あははっ、しぬ、ほんと、いひひひっ、わらっ、じぬぅ……ふっきんわれる……」ピクピク……
璃奈「……侑さんしっかりして……」 私は極力急ぎ足で指定された教室へと急ぎました。長い用事でなければ、戻って愛さんのステージが見られるかもしれませんし。
愛さんのステージ。ネットでは何度も見返した彼女のライブは、画面越しからでも凄まじい力を感じました。見る者の心を照らし、上向かせる強烈な力。
きっとそれを生で見ることが出来れば、もっともっとその魅力を身近に感じることができるかもしれない……私はそう期待して今日のライブを楽しみにしていたので……。
足取りは軽く、指定された教室の一つ前の教室を通りかかった瞬間。
ぐん、と左腕を何かに掴まれました。声をあげる暇もなく。そのまま体が左に倒れる。いいえ。倒れる、というよりも引きずられる、という方が妥当だと思ったのは。
「っぁ」
教室の床に体を投げ出され、みっともなく左半身を打ってしまったから。
何を。何が。何に。
焦りとか恐怖とか痛みとか、そういうものよりもまず困惑が私の頭の中を駆け巡り──一瞬にして視界が暗くなりました。
「いやぁッ!!!」
ようやく全身に命の危機を感じ、恐怖と緊張から金切り声が私の喉から放たれました。
けれど私の叫びも虚しく、後頭部で何かを結ばれる感覚と同時に、誰かに両手首を掴まれて──そのまま身動きが取れなくなりました。
「あ……ぁ……」
叫ぼうとして、けれど今度はもう恐怖のあまり声が出せずに、情けなく掠れた音を漏らす他にありませんでした。
「……なに? 叫びたかったら叫んでいーよ?」
「どーせ今日は生徒なんてこないし? せんせーも殆ど講堂か職員室で?」
「誰も来ないけどね」 耳に飛び込んできた三つの声。一瞬の静寂の後、何がおかしいのか三つの笑い声が耳朶を打ちました。
三人とも女子の声で、床に倒れた時に一瞬見えた制服で、学園の生徒と言う事だけは解りました。
「あんた、痕だけは残すなよ?」
「わかってるって。アタシこういうの得意だからさァ」
「ウケる! あんたカレシとこういうのヤってんの?」
三つの声。それ以外新しい声音はなく、どうやらこの教室には私を含めて四人しかいないようでした。
ただ、それが分かったからと言って視界を封じられ、両手首を締め付けられ床に押し倒された状態では、何一つこの恐怖を取り払う手掛かりにはなりません。
「な、なにが……なにを、するんですか。なにが、目的なんですかっ」
声に湿り気を隠せず、みっともなく震えた声を必死に絞り出しました。叫びたくてももう叫べない。一秒時間が経つごとに、わからないことだらけの現実に恐怖の色だけが深まっていきます。
「ちょっともう半泣きじゃん。アタシらまだ何もやってないってのに」
「いやいやいやいや、もうやってるっしょコレ。何ならもう全泣きでもおかしくないから」
二人の声音はまだおもちゃで遊ぶ子供のような色で、私は微かに息を吐きます。何か聞いて、少しでも何かを知らなければ……この恐怖に耐えられない。
「ねえアンタさ、本気で何もわかってないの?」
瞬間。吸った息が全く吐けず、代わりにおかしな声が漏れ出ました。 「な、にが……」
「アンタほんとにスゴいわ。ふつうあんなに虐められたら不登校かせんせーにチクるかの二択じゃね?」
何を言っているのでしょうか……。
「一体、何の話を……」
「虐められてもノーダメなんか? って話だよ!」
顔の近くで床を思い切り蹴りつけられ、衝撃が私の体を襲い、思わず身を縮こませます。
うなる様な床の音に、もしそれが私に振り下ろされたらと考え、全身から汗が噴き出しました。
「アンタさぁ……最近の自分のことどう思ってんの」
私の問いなど道端の小石の様で、彼女たちは口早に私に質問を浴びせます。
……最近の、自分の事。一体何の。どういう質問の意図で。何を考えて、彼女たちは。
恐怖と混乱でマヒした私の頭では、彼女たちの言葉の意味を理解することはできず。
「自分が今までやってきたことはどうなんだよ!!」
今度は床ではなく。私の後ろの机を蹴り飛ばす音がしました。
がらんがらんと机が倒れる音が異様に大きく聞こえ、私は息を呑みます。
「自分さ。ここ最近随分良い子になったみたいでよかったじゃん」
「悩みを一緒に解決しましょーって。わーい会長やさしー」
「今までの事は全部水に流して、これからがんばりまーすってかぁ?」 静寂。いえ。恐怖に支配された私の荒く浅い息だけが、教室に響いています。彼女達は。彼女達の発言の意図が──。
「ざけんなッ!」
「──っ!?」
引きちぎられる思考。耳を刺す衝撃。見えない恐怖。動けない恐怖。こわい。たすけて。
「はいよかったねで済ませられると思ってんのかよお前はさぁ!?」
ぐん、とベストを掴まれて無理矢理立たされる。全身に力が入らず、膝から崩れ落ちる。
「立てよお前ッ!!」
「うぁっ──」
胸倉を掴まれて、無理矢理に立たされる。つま先が辛うじて床に触れ、息が詰まる。
「お前がやってきたことが許されると思ってんのかよ!」
見えない視界。でもきっと、目の前で怒鳴られているということが想像できて──いいえ。想像できてしまうからこそ、余計に怖い。
「ひぁっ」
もう、気丈に振舞う力も虚勢を張る勇気もなく。私はただ恐怖に震え続けます。ただもう、いっそのこと殴られた方がまだマシだと思いながら。
「なぁ」
短い言葉。視界がない分、耳でよりその感情を捉えてしまう。三人とも、間違いなく怒りに震えている。
「お前何してんの? 愛ちゃんに何言われたか知んないけどさ。他人には無理矢理他の部に転部させて、自分は何やってんの」
「興味がある部に入ってんだ。他人が泣きながら転部させられて、それでお前は自分の好きなことをやってんのか?」
「は──、ぁっ」
上手く息ができないのは、ブラウスの襟を掴まれているからじゃない。怖くて体がまともに動かなくて、息ができない。
「なあ。お前なにも考えてないよな。全部自分の都合でやってんだろ」
自分の、都合。そんなわけが。 「結局自分の理想を他人に押し付けて満足しちゃってんだろ? 自分が正しいと思ってっからなんにも思わないんだろ?」
ちがう──。そんなつもりじゃ──。
「見下してんだろ、アタシらのこと」
そ、んな……ち、がいます……。
「さぞかし三船財閥のお嬢ちゃんは凄いんだろうなぁ。アタシらとは生まれも育ちも違うから。自分だけが正しいって思ってんだろ?」
わたしは……。
「そう考えてんならさ。あんたのその態度。分からせてあげよっか。他人にも感情ってのがあるって事をさ」
ぐっと。ベストの胸の辺りを強くつかまれたかと思うと──。
「っ!?」
布が無理に引きちぎれる音。その中に混じる、ベストを留めていたボタンが床に落ちる、乾いた音がやけに鮮明に聴こえました。
そのまま後ろ手の両手首に巻き付けられて、ブラウスとスカートだけの格好になります。
「なぁ。これから何されると思う」
何が。とも。何を。とも。
「服の下ならさ、分かんないと思うんだよね。特にブラの下とかさ」
言い終わるか終わらないか。ブラウスの隙間に手が差し込まれます。そのまま掴まれて同じようにボタンが飛んで床に落ちる音がしました。 ああ。これが、私が今までやってきた罪に対する罰なのだと、恐怖に震える頭の中でかすかに思いました。
この仕打ちを受けることは、当然の帰結。罪に罰を与えられるのは、なにも間違ったことではありません。
人を悲しませ、不幸にし、自分だけは救われようとした私に、お似合いの末路だと思いました。蜘蛛の糸など、私には存在しないのですから。
そう。初めからこれは解って居たこと。私が今まで歩んできた道は、昏く狭く、人の怨嗟を踏みにじって歩んできた道。
太陽に照らされた道の前に立っていても、今まで歩んできた道が消えるわけではない。
これは私に刻まれた罪の証。贖罪を、罪の意識を抱え、片時も幸せを望むことなど、私には許されない。
他人の夢を奪い我欲のままに蹂躙してきた大罪人には、ちょうどいい末路ではないですか。
「ぁ……ぅ」
ぽろぽろと、涙がこぼれていきます。なぜ泣くのでしょう。なぜ悲しいのでしょう。
罪人が罰を受けることは自然の道理であるから、悲しむことなんてあり得ないのに。
なぜこんなにも辛いのでしょう。何が私を辛くさせるのでしょう。これは初めから決まっていたことなのに。
「愛ちゃんに媚売れば、許されるとか思ってたんじゃねえよな!!」
愛さん。ふっと。彼女の優しい笑顔が浮かびました。
──愛さんもめっっっちゃ楽しかった!!
──しおってぃーが言い返してるのも、見たくないんだよ……。
──アタシとしおってぃーは、友達。友達が悲しんでいたら、一緒に居るのは当然なんだよ。
──どんなことがあっても、愛さんが必ず一緒に居るから。
──一緒にやって、同好会に行こう! 愛さんと一緒に楽しい事しようぜ!
あ。ああ。わたし。嫌なんだ。悔しいんだ。悲しいんだ。愛さんの隣に居たいのに。こんな風に汚されてしまったら。私。愛さんの隣になんて。立てない。 悲しい。怖い。悔しい。苦しい。辛い。自業自得でも。愛さん。どうか私を。こんなわたしを。
「……たすけて、ください──っ」
私の小さな、最後の呟きは、何一つそれを現実にすることなく、虚空へと溶けて。
突如身体も虚空に投げ出され、そして──。 ──お前ら何やってんだッ!!!!
居ないはずの──。
あの太陽の輝きを──。
昏い視界の中に、確かに私は見ました。 ──
────
──────虹ヶ咲学園 講堂 舞台袖 着替えブース
愛「ふーっ……あっちぃ……」
璃奈「愛さんお疲れ様。ライブ、最高だった。璃奈ちゃんボード『大興奮』」
愛「いやー愛さんも今日は特にブチアガったよ! 身体もいつもより良く動いたし、声も出た感じする! 入学キボーの子もだいぶノってたし」
侑「愛ちゃん良かったよーッ!! 最高、トキメキがもう止まんない!!」バタバタ
愛「おおー、久々のトキメキモードのゆうゆじゃん!」ケラケラ
璃奈「この時の侑さん、面白いから好き」
侑「ええっ!? それ私がまるでいつもつまらない人みたいな!?」ガーン
璃奈「あっ、誤解。いつもはちょっと面白い」
侑「ぐへぇ!」
愛「あははははっ、りなりーもゆうゆもテンションアガって──」
「あいあい!」
愛「あれ? かおりん? どったの?」
「いや、あいあいまだここに居たんだね?」
愛「え? そりゃ……そうだけど、何かあった?」
「ううん。ただあいあいのライブのちょい前に生徒会長とすれ違ってね。愛さんの友達に呼ばれてるーって。あいあいのライブもうすぐなのになーって」
……え? 「かおりん。教室ってどこ」
唸るような声が出たが、止められない。
「え? 二年の……」
瞬間。アタシは着替えブースを飛び出していた。
「愛さん!?」
「愛ちゃん!?」
「りなりーカリン呼んでッ!!」
突っ走った。
講堂を飛び出すと、廊下を猛スピードで駆ける。曲がり角で減速などしない。重心を曲がる方向に向けて、速度でバランスをとる。
階段を一段飛ばしで駆け上がり、踊り場に足を付けず手すりを掴んで向こうの側の階段に跳んでまた駆ける。
教室に生徒が居るわけない。それどころか先生すらいない。人気なんて一切ない場所だ。つまりそれは。
(くそっ──!)
とにかく早く。一秒、いや、その刹那すら惜しい。思い違いならそれでいい。だけど。もしアタシの妄想が現実だったとするなら。
階段を登り切って、曲がる。
「頼むっ……」
母指球から爪先だけで駆け抜ける。ライブの後だろうが何だろうが、今だけは一切の疲れが感じられない。
「しおってぃー……ッ!!」
二年B組。ドア。その向こう。後ろ手で包まれたベスト。はだけたブラウス。目隠しされた彼女が居た。反対側の戸口から、逃げる三人の生徒が一瞬映る。
視界が真っ赤に燃えて、アタシは取っ手を渾身の力で握りしめた。 「お前ら何やってんだッ!!!!」
叫びながらもアタシの視線は、床に倒れ込み、熱に浮かされたように震える、栞子の姿だけを捉えていた。 多分ここ一二週間で1番ワクワクしてるわ
愛さんがかっこよすぎる……
続きが楽しみ 描写はイジメに違いないんだけど、罵倒の内容が正論すぎて心がキツい…… mateの星2でお気に入り登録していたのが更新のたびに星3,星4と増えていき今回ついに星5となった 吐き気を催す程の悪意をぶつけられる描写からの素晴らしい引きですね……
続きが楽しみすぎてやばいですよこれは 人より少し可愛く生まれたからって調子に乗るなみたいな動機よりも
せつ菜が歩夢へ感情をぶつけるのシーンを挟むことで悪役側にも感情移入できる所が面白い どこぞのシナリオライターって言われても納得する位、話の展開の仕方が上手い 栞子にしようとした報復がリンチとかじゃなくてレズレイプなところにラブライブらしさがよく出てる いじめは駄目だけど主張自体は同意できるのが何とも…好きなことやってる人に適性主義でケチつけて引っ掻き回したけど自分は好きなことしますだもん、そりゃふざけんなってなるわな…
あと1つ不安なのが、しお子もう愛さんにべた惚れだろうけどりなりーと付き合ってるの知って、嫉妬にかられてりなりーに何かしてスレタイ回収とかなったら絶望するので頼むからハッピーエンドになってくれ 正直スレタイはバッドでの回収を期待しちゃう ぞくぞくしますよ 強引に転部とかさせてたっけ。
現段階では斡旋だけじゃなかった?斡旋自体に圧はあるんだろうけど。 圧あったら悪意ある他者にはこう表現されてもまあ仕方ないだろう 顧問や同じ部活メンバーどころか全くの赤の他人に「あなた向いてないからそっちは辞めろ」みたいなこと言われたら傷付いて恨みに思っても仕方ないよね。だからって虐めたらだめだけど 余計なお世話としか思わんしな
君の過去なんか知らんわと 具体的にどう言ってたかスクスタで描写されてない
そこまでいくと、ただの叩き目的による邪推としか言えない 逃げていく生徒を地の果てまで追いかけて、この手でボコボコにしてやりたがった。だけど、そんな考えはすぐに捨てた。
腰に緩く巻いたカーディガンを解きつつ、しおってぃーの傍に滑り込むようにアタシは身体を寄せた。
冷たい。床が、濡れてる?
滑り込んだ拍子に気づいて、アタシは視線を走らせた。透明ではない色の液体溜まりは、しおってぃーの太ももの付け根辺りから始まっている。
鼻を鳴らすと微かに、けれど確かにソレ特有の匂いがした。目隠しをされたしおってぃーが身じろぐ。今はしおってぃーだ。それ以外の、怒りとかの感情は捨てろ。
「しおってぃー、アタシだよ。愛さんだよ。ここに居るよ」
アタシはしおってぃーの前に手をついて、優しく話しかける。しおってぃーは微かにアタシの声を頼りに、よろよろと顔を向けた。
「ぁ……い……さん」
涙にぬれた声に、アタシはまた抑え込もうとした感情が爆発しそうになって──思い切り唇を噛んでまた抑え込む。口の中にジワリと鉄の味が広がって、嫌な感じがした。
「カーディガン、掛けるよ──体、触るね」
「……っ」
こくんと微かに頷いたしおってぃーを抱き起すと、ぴちゃり、と濡れた音が聞こえて。しおってぃーは今度はまたぶるりと身体を震わせた。 「ぁ……みない、で……」
急いでカーディガンを肩に掛けると、しおってぃーは弱弱しくそれを掴み、身体を隠すように屈みこんで俯いた。
アタシはポケットをまさぐって、ハンカチも何も持ってない事に気づいた。ボタンを外すのももどかしいので、ブラウスを破るように脱ぐ。
そのまま彼女のそれへブラウスを放り投げた。水たまりに着地すると、ブラウスは彼女のそれを吸ってみるみる色を変えていく。
代わりにソレは、見る間に見えなくなっていく。最後にブラウスの濡れてないところで床を拭って、もう一度しおってぃーに向き直る。
「大丈夫。もう見えないから」
目を覆う様に結ばれた太く薄い、黒い布切れ。それを解く手が震えた。どうしても我慢できない。やっぱりあいつらをボコボコにしてやりたい。
一人一人しおってぃーと同じ気持ちにさせてやりたかった。こんなことが許されるはずがないんだから。
「──ッ!」
がり、と親指の付け根辺りを強く噛んだ。それでもやっぱり今はしおってぃーの事が一番だ。痛みで怒りを紛らわせ、しおってぃーへの優しさを取り戻す。
「大丈夫、もう愛さんだけだから──解くよ」
しゅるり、ぱさりと。それをアタシは解くと乱暴に投げ捨てた。そのまま手首の戒めも解くと、そっちは優しく床に置かせてもらう。やっぱりこれ、しおってぃーのベストだ。
「ぁ……あい、さん」
彼女と目が合う。間に合わなかったのだろうか。間に合ったのだろうか。彼女の両目に溜まった涙の色を、アタシは一生忘れないだろう。 目隠しが解き放たれ、私は明るみに放り出される。いきなり視界に飛び込んできたのは、スカートにブラジャー姿の愛さん。
私の肩に掛けられたカーディガンからは愛さんの強い匂いがして、どうしようもないほどの安心感と、改めて遅れて生まれる恐怖に身体がガタガタと震える。
歯の根が合わず、ガチガチと音を鳴らし自分の体を自分で抱きしめた。──ああ、まだ。汚されてはいない。
「しおってぃー……」
そっと、愛さんの体が私を包む。愛さんのコロンの香り。汗の匂い。どくんどくんと激しく鳴る心臓の音。
「ぁ……」
触れたかった温もり。心が求めていた救いの場所。
「大丈夫。アタシしかいないよ、栞子」
「……わたし……」
「良いんだよ、アタシがここに居るから」
「──っ」
愛さんの素肌に手を伸ばす。汗の感触。触れる肌の温もり。背中に腕を回す。愛さんに私の心臓を押し付けたかった。
同じ鼓動をしていると、感じたかった。夢であってほしく、夢であってほしくないから。私は、生きているって、確かめたかった。
「あ。……ああっ。──あああああああああああああああああああああああッ!!!!」
ブラジャー越しで感じた私たちの鼓動。どくん、どくんと跳ねる胸と胸が触れ合った瞬間、私は遂にようやく、内にため込んだ感情を爆発させることが出来た。
「うぁあああああああああああああああッ!! うっ、あああ、ああああああああッ!!」
涙が止まらない。恐怖。犯されるかと思って。傷をつけられるかと思って。安堵。愛さんが傍に居てくれる。大きく分けてその二つが、私のこころを埋め尽くしていました。 「しおってぃー」
「愛さん……」
愛さんがカーディガンのボタンをひとつひとつ留めてくれる。晒されていた素肌を、愛さんが守ってくれる。もし私があの時、身体を汚されていたなら、きっとこのカーディガンを着る事すらできなかった。
上半身をカーディガンで纏うと、愛さんの香りでくらくらしそうになり……今度は下半身の濡れた感覚に今更ながら嫌悪感を抱き、もぞもぞと股を動かしてしまいます。
「あ……そうか。下の着替え、いるね……アタシのブラウスはもう使えないし……あ、しおってぃーのブラウスとベストを腰に巻いて……」
「使え、ない?」
どうして愛さんのブラウスが使えないのでしょう。
「! いや、なんでも──」
一瞬焦った愛さんの表情。
「愛さん、どうして愛さんが……その」
そう言えば。どうして愛さんが上半身下着姿なのでしょう。そう思い、急に気恥ずかしくなって視線を反らしてしまいます。
「え」
反らした先には、私のものではない、何か水を吸って色の濃くなったブラウスが、乱暴に丸められていました。
「あっ」
「愛さん、まさかっ」
「……いや、その、まあ気にしないでよ。ほら」
カーディガン越しからまた抱きしめられる。愛さんの香りに包まれているその上から、愛さんに抱きしめられて、私はどくんと胸を高鳴らせます。
愛さんのブラウスを駄目にしてしまったこととか、そういう処理をしてくれたこととか、愛さんの思いやりとか、恥ずかしさとか、何もかもが溢れてきて──。 「ふぐぅっ」
「わっ、しおってぃー、ごめん!? 嫌だったよね、ああ、アタシなにやって……」
しまったな、と思った。そりゃしおってぃーから見れば、こんな姿見てほしくなんてないのは当たり前だ。
とにかく泣き止んでもらおうと何か言おうとして、しおってぃーが先に言葉を続けた。
「ごめんなさい……ありがとう、ございます……こんな……私みたいな、こんなことされて、当然みたいな私を──」
「え」
今、なんていった?
「しおってぃー、今、なんて……?」
アタシの耳がおかしいのかと思った。きっと聞き間違いだ。
「私みたいな人間は、こんな仕打ちを受けても仕方が──」
聴き間違いじゃなかった。全身の温度がなくなっていく感覚。これは怒りとかじゃない。もっと違う、別の感情だ。
「しおってぃー。今の言葉、取り消して」
こんなことされて、当然? こんな仕打ちを、仕方ないで済ませられるわけがない。
「なんでそんな事言うの」
これは──楽しいと、真逆の感情。しおってぃーに対し、ふつふつと湧いてきたこの感情の名前は──哀しみだ。
「だって……だって私がやってきたことを考えれば──」
彼女は確かに未だ色濃い恐怖をその瞳に宿しているし、まだ目じりは光っている。でも。しおってぃーのその語調は、強がりでも虚勢でも何でもない。
ただ、彼女にとっての事実を述べていた。
「……これが当然だって、思うの?」
「そうです。私が──」 自分のものを盗まれ、隠され。こんな、レイプ紛いの事をされて。それで。当然? そんなこと。そんなことが。
「そんなこと、あっていいもんか……ッ」
「え……」
「そんなことあってたまるかって、言ってるんだ。しおってぃー、その考えを今すぐ捨てて。捨てるんだ」
ぎゅうとしおってぃーを抱きしめる。そうでもしないと、哀しくて哀しくて哀しくて。アタシがアタシでなくなってしまいそうだった。
しおってぃーが誰にも弱音を吐かなかったことは、そもそもいじめに耐えていたからじゃない。最初からこの子の中で、この仕打ちを、まるで罰であるかのように、受け入れていたんだ。
「ですが愛さん、私はやっぱり、幸せになんてなってはいけないんです。楽しいことを追いかけてはいけないんです。彼女達の言う通り、私は咎人で──」
「しおってぃー。愛さんはそんなの絶対に許さない。しおってぃーが幸せになっちゃいけない世界なんて、絶対に許さない」
そんなの絶対に許すものか。
「私は許されてはいけないんです。私がやってきたことは、許されては──」
「だったらアタシが許す!! しおってぃーは楽しい事をしていいんだ!!! だから罪の意識で虐められることを正当化するなッ!!」
「は──」
「愛さんが許す。愛さん以外の皆がこれまでのしおってぃーを許さなくても、愛さんだけはしおってぃーを許し続ける! 味方で居る!」 「私の、味方……?」
愛さんの言葉を、もう一度唱える。私の味方。私の味方で居てくれる。
とくんと、今までと全く違う胸の高鳴りを覚える。
愛さんが味方で居てくれる。愛さんだけが私の味方で居てくれる。ああ。それだけでいい。それだけでいいんだ。
愛さんが許してくれると言うだけで、愛さんが味方で居てくれるという事実だけで既に、私はもう幸せだ。
「そうだよしおってぃー。アタシはしおってぃーの味方だ。愛さんが、しおってぃーを許すよ」
「……ああ、なら。この苦痛を、耐えなくても、良いのですね」
「そうだよ。もう、大丈夫だから」
「……良かった」
ああ。嗚呼。私、わかりました。私は、貴女のその言葉に救われる。
私は貴女と居ることで、弱くなったんじゃないんだ。私を形成する、ちっぽけな殻の中から生まれ出てきたものは、弱くなった私なんかじゃない。
あれは、とんだ思い違いで。
彼女の言葉が私のこころに降り注ぐたびに、歓喜に打ち震えたその理由は。私のこころを救い上げられたあの時から。
──私は貴女の事が、好きでした、愛さん。 >>785
これこそが栞子に対する最大の天罰になるだろうな ──虹ヶ咲学園 スクールアイドル同好会 部室
果林「……さて。栞子ちゃん。少し落ち着いたかしら」
栞子「……はい。あの、どうして朝香さんが」
愛「愛さんが呼んだんだよ。こういう時頼りになる……って、一瞬思ってりなりーに頼んだんだ」
璃奈「一瞬何が起きたかわからなかったけど。こういうことになってるなんて思いもしなかった」
栞子(当然の様に愛さんの隣にいる天王寺さんに、私は笑みを浮かべます。あれほど燻ぶらせた嫉妬心は、もうない)
侑「でも、栞子ちゃんがその……虐められてるなんて」
果林「……栞子ちゃん。私は実は……あるいはそうかもしれないって、思ってた節があったの。黙っていてごめんなさい」
侑「! 果林さん、どうして!」
栞子「そう、だったのですか。隠していたつもりだったのですが」
果林「ごめんなさい、侑。確証が持てなくて……それに、貴女はきっと聞いても答えてくれないと思って。現行犯で捕まえるつもりがこんなことになるとは、私……」
栞子「でも、今日の一件できっと、いじめはなくなるんじゃないかと思うのです」
璃奈「仮になくなったとしても……それでも今まであったことは、消えない。栞子ちゃんが傷ついたという現実は変わらない」
栞子(……そうですが。それでもその悲しみや苦しみの中から、確かに得られるものはありました)
果林「栞子ちゃん、貴女には今二つの選択肢があるわ。一つは──」
栞子「今日の件は、胸の内にしまい込もうと思います」
果林「!」
璃奈「!」
侑「栞子ちゃん……それは、どうして?」 愛「……しおってぃー」
栞子「本来なら、先生に打ち明けるべきでしょうが……でも、これで十分です。私がこういう状況下で居ることを知っている人間がいる、という事実は」
栞子「彼女たちも知ったはずです。ですから──」
果林「故に手出しはされにくい、と。筋は通ってるわね。けれど、貴女はそれでいいの? これまで受けてきた仕打ちに対して、思うことは無いの?」
栞子「……私は今まで、虐められることを過去の行いに対する罰であると考えていました」
璃奈「そんなの──」
栞子「さっきの彼女たちの言葉──あれは、私の本意でなくても彼女たちにとっての事実なんです」
侑「彼女たちの言葉……?」
栞子「私を虐めていた彼女たちの言葉に、難癖も虚言もないのです。事実として、私が行ってきたことに対する反発と憎しみがそこにありました」
璃奈「だからって、虐められていい事には……」
栞子「人のものを盗めば法で裁かれる。人を傷つければ法で裁かれる。罰を受けることに、別に何もおかしいことは無いんですよ」
侑「そんな! 罰といじめは全然違うよ! あの時のミーティングで部長さんたちが栞子ちゃんに直接文句言うのは解るけど、こんないじめは全然違う!」
璃奈「……人が人に罰を与えるなんて」
栞子「法も人が作ったものです、天王寺さん。どちらも、同じことであると──私は考えていました」 果林「考えていた? 今はもう、違うの?」
栞子「はい。私は……許しを得ました。もう、罰は受けません。後はただ、未来に向けて私は理想の世界へと進むだけです」
果林「……いいのね、これで。貴女の中で、もう何もかも決着がついたって事で、いいのね?」
栞子「はい。次にもし嫌がらせを受けたら……その時は皆さんにも先生にも、相談します」
侑「栞子ちゃんが、それでいいなら……」
璃奈「……愛さんは、これでいいの?」
愛「うん。愛さんはもう話を聞いたから。りなりーは気になる?」
璃奈「……愛さんがそういうなら、きっとそれでいいと思う。私より愛さんの方が、栞子ちゃんのことを良く分っているはずだから」
愛「そかそか。ありがとりなりー。ねえカリン」
果林「ん? どうしたの」
愛「ありがと、駆け付けてくれて!」
果林「……まあ、私は貴女の相棒、みたいなところあるし。もっと頼ってくれてもいいのよ」
璃奈「二人が揃っているととっても心強い」
侑「あはははっ! 確かに、愛ちゃんと果林さんが居れば怖いものなしって感じだよね」
栞子「はい。そうですよね……そうです……愛さんさえ居れば……!」ニコ
璃奈「……?」 ──帰路
侑「じゃあ愛ちゃん璃奈ちゃん、また月曜日に!」
愛「うん、しおってぃーは任せたぞー!」
璃奈「ふたりとも、ばいばい」ヒラヒラ
栞子(……二人は確かに仲がいいですが……愛さんは、もう天王寺さんだけの愛さんじゃない……だから、大丈夫……大丈夫……)ギュッ
栞子「はい。お二人とも、さようなら。今日は本当にありがとうございました」
──────
侑「……私もその、ごめんね。栞子ちゃん」
栞子「えと……それは」
侑「いじめの事。同好会とかスクールアイドルとか、そういうの抜きで、先輩として、人として、私も気づけなきゃいけない事なのに」
栞子「ありがとうございます……高咲さんは、優しいんですね」
侑「誰だってそう思うよ! そりゃあ栞子ちゃんのやってたことって、やっぱり……その、遺恨を遺しちゃうやり方だし。でもさ、それはそれで、虐めたりしていいことにはならないんだよ」
栞子「……スクールアイドルを始めたことも、彼女たちに強く批判されました。彼女達の大好きを否定して、私は興味のあるものを追うのか、と」
侑「……それは」 栞子「確かに彼女たちの言う通りで、私は過去の自分と全く相容れない行動をとっています。だから、批判を受けても仕方ない事だとは思います」
侑「それでも、こそこそ嫌がらせやいじめをするっていうのは、違うと思うんだ」
栞子「先ほども高咲さんはそう言いましたよね。直接言いあうのと、嫌がらせは違う、と」
侑「うん。ミーティングで言い合いするのは議論じゃなくてもまあ喧嘩で、お互いに感情がぶつかり合うわけでしょ? それで答えは得られなくても、お互い思ってることをぶつけ合って──」
侑「少なくとも相手の事がわかると思うんだよ。でも嫌がらせやいじめは違う。一方的に、栞子ちゃんを傷つけるのは違うんだよ」
栞子「高咲さんの考えを纏めると……河原で殴り合った不良たちが、お互いボコボコになって最後は手を取り合って友情が生まれる……的な」
侑「そういうことかな? というか栞子ちゃん、意外に面白い纏め方するね?」クスクス
栞子「あ、いえ、その。高咲さんの言い方を嗤ったわけではなくて」
侑「わかってるって! だからさ、私。この際、栞子ちゃんに文句がある人には、きちんと言い合える場を設けてほしいなぁなんて思ってるんだ」
栞子「言い合い、ですか?」
侑「議論というか……まあ、不満を述べるのもいいんじゃないかって。栞子ちゃんとしてはもう解決した問題かもだけど、こうやって遺恨があるって事は、全体として解決してない事なんだと思うし」 いじめの件は解決したが三角関係がどうなるか怖いな… 栞子「……」
侑「あ! ご、ごめん! ごめんね、栞子ちゃん、こんな目に遭ってるのに、私──」
栞子「いえ……確かに、一理あります。私だけで済む問題では、ありませんよね」
侑「昔もさー、こういうことあったんだよ。歩夢の話なんだけどね? 小学校の頃、歩夢、男の子にいたずらされててさ」
侑「私が『歩夢がキライなら直接言いなよ! こそこそ嫌がらせなんてヒキョーだよ!』って。大喧嘩になったんだけどさ」
侑「『関係ないのに高咲が出てくるな』とか言われてさー。『私は歩夢が大好きなんだから、歩夢への嫌がらせなんて絶対に許さない』ってもう大暴れだよ」
栞子「それは……」
侑「私さ、そういう陰でコソコソ嫌がらせとか、陰口とかが一番嫌で。人間好き嫌いは絶対あるからさ、分かり合えないこともあるんだよ。でも『分かり合えないことが分かる』ことができれば」
侑「きっと気にならなくなるんじゃないかなって、私思うんだ」
栞子「高咲さん……」
侑「理想論だけどね! それにあの頃の歩夢は今より内気でさ。私が守らないと! みたいな意気込みもあったんだと思う。ずっと一緒だったから」
栞子「……上原さんは、とても心強かったと思います。高咲さんが居てくれて。守ってくれる人が居て。味方になってくれる人が居て」
侑「……そうかな? そうだと、嬉しいな。今は歩夢の事を大切にしてくれる人がたくさん増えて、私もとっても嬉しいし!」
栞子(眩しい。この人も、愛さんによく似ている。私はそう、静かに思いました) ──月曜日 放課後 虹ヶ咲学園 生徒会室
副会長「土曜日はあの後こちらに戻ってきませんでしたが、大丈夫でしたか?」
栞子「ああ、すみません。結局用事が長引いてしまって……そちらは問題ありませんでしたか?」
副会長「はい。無事恙なく」
栞子「そうでしたか。副会長、ありがとうございます。助かりました」ペコ
副会長「……」ジッ
栞子「……副会長。なにか……?」
副会長「一応、その。同好会の方に許可をもらって、宮下さんのライブ映像を、撮っていますが……観ますか」
栞子「……え」
副会長「会長は、宮下さんの──ファン……愛トモだと思いましたので」
栞子(愛トモ……)
栞子「……いいえ、そんなものでは、ありませんよ」
副会長「そ、そうでしたか。これは要らない──」
栞子「でも観ます」
副会長「えっ」 ──────
────
──スクールアイドル同好会 部室
栞子「すみません、遅れました──」
彼方「いらっしゃい栞子ちゃ〜ん。生徒会お疲れさまぁ」
しずく「お疲れさまです栞子さん」
栞子「近江さん、桜坂さん、お疲れさまです。急いで着替えますね」
彼方「はっはっはっ、栞子ちゃんは相変わらず真面目だなぁ」
しずく「彼方さんはちょっとゆっくりすぎですよ?」クスクス
栞子「いえ、遅れてきたのですから早く準備をして追いつかないと──」
しずく「ふふふっ」
彼方「んふふ〜」
栞子「? えと、私、何かおかしなことを……?」 彼方「いや〜? 昔の栞子ちゃんと今の栞子ちゃんは、全然違うなぁ〜って」
しずく「私たちの活動を邪魔したり、同好会を廃部にしようとしていた時の栞子さんとは全然違うなって思うんです」
栞子「! ……そうですね。実際に私、考えが随分変わってきたのだと思います。根っこの部分はたぶん変わってないと思うのですが……」
彼方「そうだね〜。栞子ちゃん、よく笑うようになったもんね? 可愛い女の子の笑顔は百利あって一害なし、とはよく言ったものでね」
しずく「愛さんの影響でしょうか?」クスクス
彼方「あー、一理あるねぇ。笑顔が伝播してるのかもよ〜?」ニマニマ
栞子「や、止めてくださいっ。私は──……。と、とにかく! スクールアイドルに対して考えが変わってきていることは確かですっ」
しずく「……ふふっ」
彼方「彼方ちゃんは嬉しいよ〜、栞子ちゃんがそう言ってくれて」ポス
栞子「ひゃ」
彼方「だからさ、困った事があったら何でも彼方ちゃん達に言ってね?」ボソッ
栞子「え……っ」
しずく「彼方さん、そろそろ次のメニューにしましょう?」
彼方「おや、すやぴタイムはおしまいだね。じゃあ次はダンス練習だったかな〜」テトテト
しずく「もうすぐ侑先輩が戻ってくると思うので、メニューは先輩に確認してくださいね!」
彼方「さらば〜」 栞子「……ありがとうございます、近江さん。きっと、朝香さんが話をしてくれているのですね……」
ガチャ
愛「戻った〜! お? しおってぃー来てたんだ! ちっすちっす!」
栞子「あっ愛さん! お疲れさま、で……」クルッ
璃奈「あ、愛さん……もうだいじょぶ……降ろして……」
愛「りなりーよく頑張ったね! しおってぃー、ちょっとごめんよっと」ヒョイ
栞子「あ……はいっ」スッ
愛「ほい到着! 今日はめっちゃ追い込んでたねりなりー、偉いぞ〜!」
璃奈「この前のライブを観て、私ももっと、体力を付けたいって思った……から」
栞子(また、一緒にいる……。なぜだろう。他の人が愛さんと一緒に居ても特に不安には思わないのに……)
栞子(天王寺さんだけは、胸が、ざわつく……)
栞子「あの、愛さん。天王寺さん、どうかしたんですか?」
愛「ん? ランニング、ちょっとりなりー飛ばしちゃってさ。ばててフラフラになったからアタシが運んできたの」
璃奈「ご、ごめんなさい愛さん。愛さんの練習メニューもあるのに……」
栞子(どうして愛さんが? マネージャーの高咲さんがやるべき仕事では? なぜ? どうして……!?) 栞子(その想いが一気に私を埋め尽くしたかと思うと、もう止まりませんでした)
栞子「そうですよ。自分だけがメニューをこなせないならまだしも、愛さんにまで迷惑をかけるのは頷けません」
璃奈「あ……」
愛「え?」
栞子(言ってから、私はなんてことを言っているんだろうと、激しく後悔しました。天王寺さんは無表情でしたが、愛さんは少し驚いたような表情で)
愛「大丈夫だよりなりー。アタシ、迷惑なんて思ってないよ」
栞子(すぐその表情を消して、私ではなく。天王寺さんに、微笑みました)
璃奈「あ……うん……ありがとう、愛さん」
愛「しおってぃーもありがと! アタシの事気遣ってくれて。でもヘーキヘーキ!」ブイッ
栞子「は、はい」
璃奈「あ、あの、栞子ちゃん──」
栞子「あ、あの、すみません私、とても失礼なことを──!」
愛「……はいやめやめ! 愛さんこういう空気苦手だし? ヘンな言い方しちゃうなんてよくある話じゃん! しおってぃーも気にしすぎ!」
璃奈「うん。栞子ちゃんの言ってる事、間違ってない。もっと気を付ける」
栞子(──間違ってない。なぜでしょう、きっと天王寺さんのその言い方に含みなんてないはずなのに、なぜか──とても……!) ガチャッ
侑「栞子ちゃん来てるー? あ! 来てる来てる、お疲れさまー! 璃奈ちゃん大丈夫? まあ愛ちゃんが居るし大丈夫か!」
栞子「!」
栞子(……私。私、なにを。なにをかんがえているんですか。大丈夫、気にしすぎです。どれだけ天王寺さんと愛さんの距離が近くても、私の方が……!)
愛「もっとりなりーの事気遣えゆうゆー」ブーブー
侑「だって璃奈ちゃんのこと気付くの、私より早いんだもん。それに愛ちゃんの方が良く分ってるでしょー。適材適所だよ」
愛「一理あるな?」
栞子(……っ)ドクン ドクン
璃奈「っ! ……もう、ばか。愛さん、きらい」プイッ
愛「ええっ!? り、りなりー?」アセアセ
栞子(どうして、どうしてあなたが、焦る必要があるんですか)ドクン ドクン ドクン
栞子「……あの、高咲さん! 私のメニューを教えてください!」
栞子(耐えられない……耐えられないっ……! 私の方が、愛さんに想われているはずだから……平気ですっ!)
侑「お! 栞子ちゃんもやる気満々だね? えーっとね栞子ちゃんは──」
愛「りなりーってば、ほら、機嫌直してよ〜……」
璃奈「機嫌は別に、悪くない……」
栞子(聞くな、聞くな……っ! 私は、なんとも思ってない……っ!!) ──虹ヶ咲学園 某教室
「……で、どうすんの」
「まさか愛ちゃんが来るとはね。しょーみ焦った」
「でもさ、これで終わりにすんの?」
「……多分果林ちゃんとかにも話行くし、これ以上三船に手は出せない」
「でも、全然収まんないんだけど。アタシやっぱりあいつが好きなようにやってるのは、納得できない」
「「……」」
「アタシに考えがあんだけど……」
「なに?」
「三船をさ、同好会辞めさせよう」
「「!」」
「しかも、今の同好会の子たちから追い出されるようなやり方で」
「でも同好会の子たちってめっちゃ優しい子ぞろいじゃん? そんなん無理っしょ」
「あるんだよアタシには。まあ任せなって──」 >天王寺さんは無表情でしたが
これ絶対傷付いてるよ・・・ もう辛い展開やめてくれよ(大嘘)(建前)
続きめっちゃ楽しみにしてるわ これがメインストーリーで初見だったらもう許してやれよと思ってたかもしれない あいりな確定してる中でだからな…この山をどう越えていくのか 皆幸せも勿論良いけどここまで丁寧に丁寧に描写した上で絶望を味わうエンドも最高だな 愛さん突撃のワクワク感から栞子暴走の温度差がすごくて、同じ緊張感でも全然違って面白い ここまで読んでるとしお子の気持ちもよく分かるしとてもつらい
ハッピーエンドになってくれえ この作者みたいに「つづく」「今日はここまで」等言ってくれる作者って良いよね 途中途中の描写で愛さんの一番は璃奈ってはっきりしてるからどう転んでも地獄 わくわくする 読むたびに興奮が収まらなくなる
俺は栞子ちゃんで興奮する変態です 悪役の子達あんな直接的な行動に出てたわりに悪知恵もまわりそうだった 続きが気になりすぎるし更新来ると読むの止まらないのにこの先を読むのが怖すぎる… こうなるとスレタイ回収のための悪い展開しかないから、もう読まない てかあと少しで1000行きそうだけどpart2行っちゃう? まあ完結を見届けなきゃいけない義務があるわけじゃないから、怖ければ見ないのも選択肢だな ここまでされたらしお子が愛さんに惚れるのも当然の話だけど、愛さんの一番はりなりーでしお子の想いは絶対に叶わないんだよね。
可能性が全くないのに期待だけさせてる愛さんもわりとひどい気がしてきたわ。愛さんにはそんなつもりが毛頭ないのもまた… 一文一文読む度にスレタイがよぎってヒッって声が出そうになる
心理描写がめっちゃ上手くてゾクゾクするわ 惚れるべくして惚れて報われないってキツいよなぁ
まんま絵に描いたヒーローだもんヒロイン気分にもなっちゃうわ 弱体化されてない愛さんって皆のヒーローだから
絶対救われた子の何人かは恋に落ちてそう
でも愛さんにはりなりーっていう絶対の1番がいるから報われない恋になる…… 途中のりなりーとの描写は何だろーなーと思ってたけどこのためか……せっかくなら幸せになってほしいけどその場合りなりーがね……どうなるんだろうか、一乙 解決と思いきやここからが本番って感じのどろどろ具合素晴らしいですね……
丁寧な心理描写が本当に素晴らしくて続きが楽しみです!!!!! おそろしく手の込んだしお虐
俺でなきゃ見逃しちゃうね 更新に対する反応レスの多さを考えても、次スレ行くのは確定かね? ──────
────
──夜 栞子の部屋
天井を眺めながら、意識を心中に落とし込みます。もやもやする……というよりも、イラついている。そう、私は苛立っていた。
天王寺さん。愛さんと全く違う、学年も性格も何もかも、なのに、愛さんと彼女はなぜか対等で、困らせる素振りもできる。嫌われる、なんて不安すらないのだろうか。
どうして。彼女は。たった数か月の付き合いのはず。それで、どうしてそこまで──愛さんの隣に存在できるのか……悔しい。憎い。分からない。
冷静になれ。愛さんは私の味方で居てくれる。これは紛れもない、アドバンテージ。きっと、どんな事があっても、愛さんは嘘を吐かない。
だから大丈夫。きっとどんな状況でも、愛さんは私を信じてくれる。そう思える。天王寺さんと私なら、きっと。私が選ばれる。
そっ、と。タン色のカーディガンを引き寄せる。愛さんの香りが鼻腔を擽り、背徳感が背中を撫でる。
例えどれだけ天王寺さんが愛さんと近い存在でも──。
そっ、と私は、高鳴る鼓動を抑えるために胸に右手を押しあてた。
「あつ、い……」
どくん、どくん、と心臓が高鳴る。
いつ漏らしたのか、わからないほどに怖かったあの時。今まで聞いたことのない、愛さんの怒号。きっと、天王寺さんはそんなの聞いたことない。
優越感。恐怖心。背徳感。昂揚感。ごちゃまぜになる、その感情の中で、確かに私を支える、愛さんへの想い。
「あい、さん……」 熱い。体が、燃えるように熱い。鼓動が収まらない。胸の高鳴りが収まらない。
「は、ぁ……」
服の中に手を差し込む。私の手が冷たい。というよりも、私の体が、激しく熱を持っている。
ナイトブラの上から、そっと胸を触る。
「ん……っ」
すっ。と。甘く優しい感覚が、全身を撫でた。意識せずとも、吐息が漏れた。今の、もう一度。
「……は、ぁ」
今度は、ブラの隙間に手を差し入れる。ぴくり、と指が胸の先端に触れた瞬間──。
「んぅっ!?」
びりっ、とした、さっきより甘く恍惚感を伴う、痺れるような感覚が全身を走る。今ならまだ、止められる。深呼吸して。こんなこと、止めて──。
大きく息を吸った瞬間、愛さんの香りが胸を埋め尽くした。マズイ。もっと欲しい。そう、思った。甘い香りが、頭を、善悪の判断を狂わせる。
「ふぅ──はっ、あ」
自分で服をずらし、ナイトブラもずらす。二つの胸が露わになり、私は目を閉じた。自分の淫らな姿を見ないためじゃない。
瞼の裏側に、愛さんの姿を見つけるため。その優しい表情を、或いはわずかに加虐を浮かべた表情を浮かべた、愛さんを。
胸の先端の、更にその先。いつもより微かに赤らんで見えるそれに、撫でるように触れる。ぴりぴりとした甘い感覚。
今度は両の人差し指で。先端をわずかに押しつぶすように、くるくると、指を回す。
「あっ、ああ"っ」
衝撃に似た快感が背筋を舐めて、腰が浮く。無様にぴくぴくと、へこへこと腰が動く。止められない。 また、鼻腔に、肺胞の僅かな隙間も逃さないほど、愛さんの香りをため込む。ああ、止める気なんて起きない。
瞼の裏に居る愛さんが、私の肌に指を這わせる。
──しおってぃー。
私の名前を呼ぶ愛さんの声。その声に併せて、愛さんが私の胸の先端を──その根元から強く摘まむ。
「あっ、あああああ"っ」
さっきよりも強い衝撃に、腰が弓の様にしなるのが分かる。けれど愛さんは指を止めず、擦り合わせるように動かした。
「う"あっ……あいさんっ……きもち、いいっ……」
名前を呼ぶと、愛さんの指の動きはさらに強くなる。快感を得ようとして、腰がまた浮いて、かすかに動く。背筋に走る電流と、下半身の熱さが止まらない。
愛さんはにやりと笑みを浮かべ、左手はそのまま先端を擦ったり、指でくりくりと甘く強く潰して。
「あ"……ぅ……」
右手を、ショーツと肌の隙間に差し込む。くちゅり、と淫らな音がして、愛さんの笑みが一層細くなった。
──しおってぃー?
「あ、ああ……ああっ」
指が入ってくる。誰にも触れさせたことのないそこへ、確かに指が入り込んでくる。くちゅくちゅという、淫らな音と共に。
ぬるぬると、指が自分のナカを動く。今まで感じたことのない異物感。指が火傷しそうなほど、私のナカは熱く、そして──。
「あ"……う"ぅっ……んぅ」
これが愛さんの指であるのなら、それは快感とは全く別の、幸福感が私を満たしている。
指を少しずつ動かして、より甘い感覚を強く感じられる場所を探す。 憎悪の感情まで出てるな 恋愛が自己中にしたのか元々そうなのか 人差し指が潜り込んでいく感覚。肺は愛さんの香りで一杯で、左手は先端をずっといじめられて。指が奥へ、奥へと──。
「う"あ"っ!?」
頭の中が一瞬白くなった。ナカの。指を少し伸ばした、少し浮いた部分。ここ。ここがいい。ここがたまらなく──。
「あ"っ これっ す、ご あああっ ああああっ」
指が動くたびに、私の中から淫らな音がする。たまらない。先端も、ナカも、気持ちいい。愛さん、愛さんっ。愛さん、私、愛さんの事が──。
「あ──あいさ──んぅっ!!」
ぐりっと、指を強く圧しあててほんの少しだけ擦ると。背中がかぁっと熱くなって。同時に頭の中が真っ白になって。腰が──。
「は……ひ……っ……」
弓なりに身体がしなったまま、だらしなく口を開けて酸素を求める。
「は……あい、さ……は、ぁ……」
喘ぐ。指をナカから抜くと、てらてらと人差し指から手のひらに掛けて濡れそぼっている。
力の入らない体で布団から抜け出し、ティッシュを何枚か乱暴に取る。そのまま指や手、太ももを拭って、濡れてぐしょぐしょになったショーツを脱ぎ捨てる。
今日はもう、これでいい。明日の朝に、後始末をしよう。私はそう思い、目を閉じた。瞼の裏側に、愛さんはもういなかった。 ──昼 虹ヶ咲学園 普通科 一年生教室
かすみ「にしても……改めて各所で愛先輩の部活紹介ライブの話が出てるところを見ると、やっぱり大成功だったんだね、りな子!」
璃奈「うん。愛さん大活躍。動画サイトにも今日のうちにアップロードしておく。パフォーマンスは完璧だった」グッ
しずく「流石璃奈さん、相変わらず仕事が早い……」
栞子(……昨日の事が、頭から離れない……。私は、とんでもないことをしてしまった……)
かすみ「しお子も観てたんでしょ、愛先輩のライブ! どうだった? スクールアイドル、好きになった?」
栞子「えっ?」ビクッ
しずく「栞子さん……大丈夫ですか? ぼんやりしていますし……ご飯もあまり進んでませんけど……」
栞子「あっ、いえ、私はそのっ」
璃奈「部活紹介の時、栞子ちゃんは忙しかったからライブ観れてない……ばたばたしてた」
栞子「え、あ──」
しずく「あ──そうですよね。言われてみれば、確かに……」
かすみ「ざーんねん。かすみんのライブほどじゃないにしても、愛先輩のライブもじゅーぶんに魅力的ですし? きっと評価は──」
栞子「でも……愛さんのライブ自体は、昨日副会長に見せてもらいました。生で観てみたかったですけど──スマホでも心を奪われるほどでした」
しずく「やっぱり栞子さん、スクールアイドルの事、好きになってきていますね」
かすみ「む……本当はしお子はかすみんのファンになってもらう予定だったのですか……ちょっと順番が狂いましたね……」 かすみ「はぁーあ。しお子は本当に愛先輩にゾッコンだねぇ……」モグモグ
しずく「かすみさん、喋るか食べるかどっちかにしたほうが……あれ? そう言えば璃奈さん、お昼ご飯食べないんですか?」
璃奈「うん。今日はこの後──」
ガラッ
愛「おっくれたー! りなりー居るゥ!?」
「愛せんぱーい!」
「宮下せんぱーい! お昼一緒に食べましょ!」
「宮下さん……普通科の教室に来てくれるなんて……!」
愛「あっはは、みんなちーっす! でもごめん、今日はりなりーに用事があるんだー」
璃奈「愛さんたちと、お昼なんだ」ガタッ
栞子「ッ!」
しずく「ああ、そういう事だったんですね!」クスッ
かすみ「わざわざこっち来てくれたの!?」
璃奈「三人だけ集まるの、羨ましいから……私もちょっとお邪魔した」
栞子「……」
愛「りなりー行くよー──っと、三人とも、りなりーは戴いてまいりなりー!」ブイッ
かすみ「ちぇー、一年生四人でご飯食べられるかと思ったのに―」 しずく「かすみさんと栞子さんは普通科、私は国際交流科で璃奈さんは情報処理科……クラスも学科も違いますから、友達もそれぞれのクラスに居ると中々……」アハハ
栞子「……」
かすみ「……しお子? どうしたんですか? なんか愛先輩が来てから黙り込んじゃってますけど……」
栞子「い、いえ……」
栞子(また……まただ……。また、天王寺さんが、愛さんの隣に……。しかも、今度は、愛さんの方から、迎えに……ッ)ギリッ
栞子(どうして……どうして、愛さんが……ッ)グググッ
しずく「けど、愛さんもですけど璃奈さんも凄いですよね。信頼具合は本当に……」
かすみ「毎日送り迎えしたり……家の鍵も預けてるって聞いた。パパとママの信用も得てるんだなぁって思うよ」
栞子(は……? なん、で……? いえ、天王寺さんの家は、ご両親がとても多忙で、それで愛さんが優しいから、そう……)
しずく「でも、璃奈さんの過去のことを知っていると、愛さんが居たことは……本当に、良かったなって思います」
かすみ「まあ愛先輩がりな子と仲良くなってなかったら、かすみんたちはもしかしたらりな子のことを知らずに卒業してた可能性もあるもんね」
栞子「……あの」
しずく「栞子さん?」
かすみ「どしたのしお子?」
栞子「……愛さんは。天王寺さんと、どんな」 しずく「あ、そうですよね。栞子さんは愛さんと璃奈さんの出会いとか、あまり知りませんよね」
かすみ「うーん、かいつまんで言うと……愛先輩が居なければ、りな子は独りぼっちだったかもしれない、って感じかな?」
栞子「……天王寺さんは、愛さんに救われたのですね」ドクン ドクン
栞子(どくん、どくん、と鼓動が激しくなる。少しずつ、私が持っていた優位性が崩れていく。彼女も愛さんに救われていて、一方的に慕っていて)
栞子(でも、私の方が、まだ。愛さんに想われている。愛さんは、私の過去を全て許してくれる、味方だって言ってくれた)
栞子(きっと、そこまで天王寺さんにはいっていないはず──だから、不安になることなんてない……)
かすみ「しお子? またご飯食べる手が止まってるけど……しお子〜?」ヒラヒラ
栞子「は、はいっ!?」
しずく「栞子さん、本当に大丈夫ですか? なんだかちょっと顔色も悪いですし……」
栞子「い、いえ。大丈夫です……少し、生徒会の事を考えてしまって」
かすみ「うわ、やっぱり部活紹介とか終わっても生徒会って次の仕事あるんだ。大変だなぁ」
しずく「せめて今くらい、生徒会の事は忘れて楽しくお昼を食べましょう!」ニコ
栞子「あ、はい……ありがとうございますっ」ニッコリ
栞子(もし、もし……でも。愛さんが、私ではなく天王寺さんを選んだら……? 私は……私は……)
かすみ「……?」
しずく「……?」 ──────
────
──夕方 エマの寮室
果林「……この前一応話した通りだけど、二人は何かある?」
彼方「彼方ちゃんとしては、特にないかなぁ。愛ちゃんが虐めのことを知ったっていうのと、栞子ちゃんがチャラにするって言ったんなら、それで外野がとやかく言うことは無いかな〜」
エマ「……私は、正直……ちょっと納得できてないところはあるかな……でも、彼方ちゃんが言う通り、もう栞子ちゃんが虐められることもなくて──」
エマ「栞子ちゃんももうこれでいい、すんだことだよって言うなら……うん。私も、これ以上は何も」
果林「そう。……そうよね。私もこれ以上とやかく……っていうつもりは起きないの。実際昨日今日で、特に栞子ちゃんの私物がないとかそういう事件は起きてないみたいで」
彼方「彼方ちゃんも、一応『困った事があったら言ってね?』とは伝えておいたよ〜。もちろん受け身で居るつもりはないけどねぇ」
エマ「……ねえ果林ちゃん。もし、もしだよ? もしまた、いじめが起きたら……その時は、どうするの?」
果林「その時は容赦なく先生に伝えるし、私たちも徹底的に犯人を捜すわ」
彼方「異議なし、だねぇ」
エマ「……うん」
果林「それはそれとしてなんだけど」
彼方「ん?」
果林「なんていうか……馴染んだわね、栞子ちゃん」 彼方「んん〜……確かに、初めて会ったころから想像できないほどにはなじんだよねぇ」
エマ「スクールアイドルの事を好きになってくれたのもあるんだけど、それ以上に……柔らかくなった気がするよ」
果林「ええ。だからこそ、反発を呼んだのかしら」
彼方「ほほう。果林ちゃんはそう捉えましたかぁ」
エマ「……栞子ちゃんへの反発……」
彼方「まぁ、他の子たちからすれば栞子ちゃんの行動って理解し難い所はあるかもねぇ。彼方ちゃん達は当事者だから、栞子ちゃんの心の動きを良く見えてたけど……」
果林「他の人からすれば、全くの別問題だしね」
エマ「その辺り、何か解決法は無いのかな……」
果林「侑がその点に面白い事を言ってたわね。要約すればだけど、いじめじゃなくて喧嘩すればいいって」
彼方「えっ」
エマ「確かに。不満をずっと抱えるよりケンカした後の方が仲良くなるんだよね」
果林「エマの兄弟姉妹はそんな感じだったのものね」
エマ「そういう意味で、本当に皆の不満を解消するには、そういう場があったほうが良いのかな」
彼方「……それ収拾付かなくなるんじゃないかなー……と」
果林「まあ、一つの案よ。今はとにかく状況を静観しましょう。このまま何も起きなければそれでよし。何か起きれば即座に対応する、ってことで」 ──────
────
──翌日 昼休み 虹ヶ咲学園 一年生普通科教室
栞子「ふ、二人きりって、なんだか珍しいですね」
璃奈「そうだね。昨日かすみちゃんが『今度こそ四人でお昼食べる』って意気込んでたのに、かすみちゃんは宿題を忘れて呼び出し」
栞子「桜坂さんは演劇部のミーティング……でしたよね」
璃奈「だから今日は二人。色々二人で話が出来て嬉しい。璃奈ちゃんボード『にっこりん』」サッ
栞子「あ、そ、そう……ですね」
栞子(……天王寺さんと二人だなんて……。この気まずさは、私だけなのでしょうか……)
璃奈「……」
栞子(天王寺さんはいつ見ても無表情で、顔から感情を読み取ることはできません。時々お面の様に顔の前に出す『璃奈ちゃんボード』で感情を表現しているようですが……)
栞子「あの、天王寺さんは──」
璃奈「……?」
栞子(無表情で見つめられると、どうしても威圧感を感じて……焦りに似た感覚に襲われます)
栞子「その、人とコミュニケーションを取るときは、そのスケッチブックを使うのですか?」
璃奈「うん。そうだよ。これで色んな人とお話しするの」 栞子(彼女が感情を表すことは不得手……というのはよく知っていますが、改めて聞くととても不思議でした)
栞子「笑顔を浮かべたり、怒ったり、というのも……?」
璃奈「うん。そういう想いがあっても、顔には出せない」
栞子(……愛さんが優しくしているのは、そういう弱さがあるからでしょうか……)
栞子「それは、その。愛さんと一緒に居ても……ですか?」
璃奈「うん。誰であっても、なかなかうまく表情が出せない。でも、愛さんは……初めて会った時から気持ちを分かってくれた」
栞子(ッ……!)ズキン
栞子(胸が痛む。天王寺さんと愛さんの関係性を聴くたびに、ひどく胸が痛み、鼓動が早まる……ッ)ドクン ドクン
璃奈「お、二人は。スクールアイドル同好会に入ってから、会ったのですか?」
璃奈「ううん。その前から。私が高等部に入ってからすぐ、愛さんと会って一緒にいる。同好会は、愛さんが歩夢さんに誘われて、愛さんが私も誘ってくれた」
栞子(また、愛さんから……ッ。どうして……愛さんから何もかも……ッ!)ドクン ドクン ドクン
栞子「ず、ずいぶんと、愛さんから、良くしてもらっているんですね……」
璃奈「……愛さんは、他の人と違う。人と関わることを諦めていた私に、勇気をくれた。希望をくれた。あの人が居なかったら、今の私はいない」
栞子(それは私だってそう。あなただけが、愛さんの特別なんじゃない……ッ) 栞子「愛さんは、色んな人に優しいですから。あなただけではなく、色々な人に同じように接しているのかも──」
璃奈「それは違うよ」
栞子「は──……」ドクンドクンドクン
栞子(即答……無表情な顔の中に、けれど確かに宿る確固たる意志。反論された。それが余計に、私を苛立たせる)
璃奈「あ……ごめんなさい。変な言い方した。たぶん、栞子ちゃんにとっても、特別だよね。本当に、ごめんなさい」
栞子(いちいち、カンに障る。まるで自分と他の人とで、全く違うかのような、言い方……っ!)
栞子「……だったら、謝るときくらい──」
栞子(あ、と思った。体が嫉妬と敗北感で熱くなって、冷静さを欠いていた。止めようとしても、理性より感情が上回る)
栞子「その無表情、なんとかした方がいいですよ」
璃奈「!」
栞子「……っ」
璃奈「……ごめん、なさい。私、こういうことをしょっちゅうやっちゃうから……人を怒らせたり、悲しませたりする……」
栞子「……いえ。私も……その、冷静さを欠いていました。失言です。すみません、天王寺さん」
璃奈「ううん。平気……だいじょうぶ。こういうのは、慣れっこ」 栞子(……口調は気丈でしたが、俯いてしまってそのままもそもそとお昼ご飯を食べる彼女を見て、私は自分の矮小さに苛立って──)
栞子(同時に、同時に……抑えることのできない、昏い高揚感が私の心を占めていました)
璃奈「ごめんね、栞子ちゃん」
栞子(もう一度、うつむいたまま呟くと、静かな昼食が始まり──彼女はお弁当を食べ終わるとさっと席を立って去っていきました)
──────
────
──夜 栞子の部屋
栞子(あの後私自身とても気まずくて、同好会に行く気になれず……私はその日同好会を休みました)
栞子「はぁ……明日、もう一度きちんと謝らないと……」
ピリリリリ ピリリリリ
栞子「ん……」
栞子(スマホ……! あ、愛さん!)バッ
栞子「あっ、こ、こんばんはっ」
栞子(声がひっくり返った)
愛『あ、しおってぃー? ちーっす!』
栞子(声を聴くと、ささくれた心が凪いでいきます)
愛『ごめんねーこんな時間に電話しちゃって。今大丈夫?』
栞子(電話越しだというのに、なぜか私は前髪を整えて、居住まいを正します)
栞子「はい、大丈夫ですよ」
愛『あっはは、意外に夜更かしだね? 今日は生徒会結構忙しかったんだね』
栞子「あ、はい。少し仕事が立て込んでいて……」 愛『そかそか。相変わらず大変だ。また愛さんも手伝いに行くよ』
栞子「はい。その時は是非、よろしくお願いします」
愛『うん。それでさ──今日のお昼、りなりーとなんかあった?』
栞子「えっ」
栞子(ドクン、と胸が鳴る。耳のすぐ横に心臓があるみたいに、やけに鼓動の音がうるさい)
愛『今日あんまり元気なくてさー。しおってぃーが来ないってわかると、なんかほっとした感じでさ。二人、なんか喧嘩したかなぁって』
栞子「……そ、そんなことは……」
栞子(誤魔化そうとして、けれどそんなことは無駄だと知って口をつぐんだ。天王寺さんが何も言わなくても、愛さんはきっと気付く)
愛『あ、いや、怒ってるわけじゃないんだよ? そりゃまだまだ仲良くなる道すがらだから。色々あっていいと思うよ! りなりーが何か言ってたわけじゃないからさ』
栞子「……はい……」
栞子(本当に別に、怒っているわけではなさそうで。私は胸をなでおろし──)
愛『たださ』
栞子(声が、違った。明らかに、意図的に感情を押し殺した様な、声音に、聞こえた)ドクンッ
愛『りなりーの表情のことについては、理解してあげて欲しいんだ』
栞子「は……そ、それは。もち、ろん」ドクンドクンドクンドクン 愛『まあ、しおってぃーならこんなこと言わなくていいかなって思うんだけどね!』
栞子「……っぁ」
栞子(吸った息が上手く吐けず、体の中で空気が混乱している。私が、天王寺さんの事で、注意を、釘を刺されている──?)
愛『そうそう、明日は同好会、来れそう?』
栞子「あ、明日は、だい、じょうぶ、です──」
愛『そっかそっか! よかった、じゃあ待ってるぜ、しおってぃー! また明日』
栞子「は、はい。また、明日……おやすみなさい、愛さん……」
愛『ん! おやすみしおってぃー!』ピッ
栞子(通話が切れる。私は力なく、スマホを耳から離してそのままぽろりと手から取りこぼす)
栞子(……私、は。天王寺さんに。愛さんに。二人は、一体)
栞子「……っ」ギリリ
栞子(思い切り、唇を噛んで、拳を強く丸める)
栞子(私は、天王寺さんに、負けてる……? 愛さんは、私と天王寺さんなら、天王寺さんを……選ぶのですか……?)
栞子(たし……かめないと。二人は、二人が一体、どういう関係なのか……!) おつおつ
このスレタイからここまで長編になるとは思わんかったよ おつおつ
相変わらず心象表現が上手すぎて胃と精神がキリキリいってるけど楽しみにしてる スレタイがしお子に対してだとすると、今まで気にかけて優しくしてたのに愛さんしお子信用してねぇのかよってなるんだけど…
もう一回落とされるのはほぼ確定だと思うけど、しお子自身が何かやらかすことはないと信じたい 気に食わない相手をしょんぼりさせて高揚感覚えちゃってるし踏み止まれなかったらいじめっ子と同じとこまで落ちる 乙
恋は人を狂わせるからなぁ
反響的に今スレでの完結はたぶん無理だから普通に次スレを立てるしかないと思う キモオタの承認欲求拗らせた自分語りとスクスタへのお気持ちレスで無駄にスレが消費されてしまったな レズが一般的な世界ってわけでもなさそうだし愛さんも大変だな 最初から付き合ってて栞子は恋敵にすらなれないのは😿 りなりー関係で何かやらかしたら愛さんブチギレそうな予感がする この胃がキリキリする感じの展開に丁寧な心理描写が合わさって本当に素晴らしい……
続きが楽しみすぎますね……! 栞子のイジメ問題が解決した以上はスレタイがミスリードじゃなくてそのまんまなの確定したのつらいわ それは若干感じたけど
恋は盲目ということで納得した まぁどん底からすくい上げられたし依存みたいになるのもしゃあないか… 愛さんしお子からの好意というか依存というか、しお子から気持ちを向けられてるの気付いてるのかね。まぁ気付いてないんだろうけど。
気付いてるならりなりーとの関係説明してないで優しくしてる愛さん鬼畜すぎるわ。 感想がいっぱい並んでるから読者様したくなるのはわかるけど誰も求めてないので… >>921
これまでの場面だとだいたい弱い立場になってたからこの性格が隠れてただけじゃね? >>923
俺もそう思った
今まで愛さんにだけ助けられてきた事で生まれた恋と依存心?と、栞子自体の思い込みの強さのせいでこうなってるんだと思った
展開に違和感感じなかったし ──────
────
──放課後 帰路
愛「じゃあみんなおっつー!」ブイッ
璃奈「ばいばい、また明日」フリフリ
侑「二人ともまた明日ーっ」
菜々「はい、また明日も頑張りましょう」
歩夢「二人とも、また明日ね」
栞子「お疲れさまでした」ペコリ
栞子(今日もやっぱり二人は一緒に帰るんですね……)
侑「にしてもみんな段々メニューを軽々こなすものだから、それぞれ次のメニューや弱点克服の練習を考えないとだめだなー」
歩夢「侑ちゃん、音楽の方も並行して進めてるんだよね……大丈夫?」
菜々「練習メニューなら私も考えられますから、侑さんは少し転科先の事に集中しても……」
侑「う……実は正直、夏休み明けの転科した時にはソナタに取り掛かってる、くらいにはなりたいんだ」
菜々「ソナタ!? バイエルがあって、ブルグミュラーがあって、ソナチネがあって、ソナタがあって……そのソナタ!?」
歩夢「……侑ちゃん、暇さえあればずっと指動かしてるもんね」
侑「私は遅すぎたんだよ、始めるの。作曲方面に進みたいから、もっともっと練習しないと。そうじゃないと、私の目指すものは得られないんだ」
菜々「……確かに、音楽で食べていくなら三歳から始めないといけない──とは聞きますが……」
侑「だから私は──」 栞子「あの!」
侑「? どったの栞子ちゃん?」
栞子「私、今日は少し寄るところがあって──これで失礼します!」タッ
歩夢「あっ、お疲れさま、気を付けて──……行っちゃった」
侑「随分急いでたなぁ……。栞子ちゃんが寄り道って珍しいかも。ね、二人とも」
菜々「……」
歩夢「そうだね。何か急ぎの用事があったのかもしれないけど……ここに愛ちゃんが居たら、久しぶりの二年生四人組だったのに、ね、菜々ちゃん」ニコ
菜々「え? あ、そう、そうですね! 最近ずっと愛さんと璃奈さんは一緒ですし……」
侑「妬けちゃうよねぇ、なんて! 所でさ。菜々ちゃん、ちょっと私考えてる事があって……」
菜々「? 考えていること、ですか?」
侑「うん、実は──……」
──────
栞子(高咲さんたちと別れ、一つ曲がり角を曲がると来た道を戻ります。二人は一緒に帰っているので、もしかしたら何か知ることができるかも──)
栞子(そう思いただただ駆けます。ただ送っていくだけなのか。それとも何か、理由があるのか。ただ愛さんが優しいからなのか)
栞子(ただ突き止めないと──私はただその感情のみに突き動かされ、駆けていました)
栞子「──っ」
栞子(きっと、きっと私の方が。なんの確証もなく、ただ全身を襲う不安感から逃れるように、もつれる脚を無理矢理動かして、二人の後を追いました) ──────
────
──
愛「りなりー、しおってぃーのこと、大丈夫?」
愛(昨日同好会にきたりなりーは、明らかに精彩を欠いていた。こういうことに気づいてしまうと、アタシはもう我慢できないタチで、その日にりなりーと少し話をした)
愛(少しだけ言い淀んでいたりなりーは、やがてぽつぽつと話し始めてくれて……しおってぃーと言い合いになってしまったと教えてくれた。そして今日は)
璃奈「……うん……。でも、私も、その。嫌な言い方をしたから……仕方ない。ムッとしたのは、事実」
愛「アタシはできるだけ困ってる人が居たら力になりたい、とは考えてる。けど……アタシにとってりなりーは、そういう範疇を越えた存在なんだ」
璃奈「そう言ってくれると、安心する……けど。今の栞子ちゃんはその、愛さんにすごく、近いような気がして……つい、牽制みたいな言い方をして……」
愛「近い……かな? まあでも確かに、もともと二人きりで会ってることが多かったから、距離感は近いのかもしれないね……」
璃奈「……」
愛「改めてごめん、りなりー。アタシりなりーの優しさに甘えてたかもしれない。良い気持ちはしないよね。逆の立場だったらアタシ、妬いてるかも」
璃奈「……愛さんのそういうところは、恋人としては、やきもきさせられる」
愛「うぐ」グサ
璃奈「でも、人としてすごく尊敬してる。困ってる人を助けるって、簡単に言えるけど、とっても難しい。だから……まず、今も、愛さんの事、尊敬してる」
愛「りなりー……」
璃奈「……だから、愛さんは迷わずに、愛さんの思う通りに、動いてほしい。心のままに動く愛さんだから、私は惹かれた」
愛「お、おお……」 璃奈「私も人並みにヤキモチを妬くし、私だけの愛さんで居てほしい、と思う事がある」
愛「……」
璃奈「でもそれ以上に、愛さんのそういう優しい所が大好きだから」
愛「お、う"……あ、あはは、なんか、愛さん熱くなってきたな……」パタパタ
璃奈「今更だけど……愛さんは、私の告白、どうして受け入れてくれたの?」
愛「え? あ、愛さん? あー……えっと。その、大した理由なんかじゃないんだよ。ほんとに。それでも、いいかな」
璃奈「うん」ジッ
愛「そんなに見つめられると、愛さん照れちゃうぜ……えっとね。ちょっと長くなるかもだけど……」
愛「最初はさ、寂しそうだなって思ったんだ。りなりーが言ってくれるように、困っている人に声をかけたのと同じ感覚だったのは、本当」
愛「……ジョイポリ行って仲良くなったじゃん? その後アタシと一緒に出掛けたり、アタシの友達と一緒に出掛けたりしたじゃん。その時さ、りなりーアタシの友達に大人気だったでしょ」
璃奈「うん。皆優しくしてくれた」
愛「今でこそ、りなりーの特別だってわかってるから、今はりなりーが大人気なのはすっごく嬉しいんだけど……付き合う前はさ、全然嬉しくなかったんだよ」
璃奈「え」
愛「愛さんが一番最初にりなりーと仲良くなってさー、りなりーがあっという間に人気者になっちゃって。その内アタシ抜きで遊びに行ったりされてさ」 愛「愛さんの友達、っていう枠からりなりーの友達、っていう関係になってたんだから、アタシが居なくても何にもおかしくないのに、すごいムッとしちゃってさ。結構友達にムスッとしてるって言われまくってたんだ、愛さん」
璃奈「全然、気付かなかった……」
愛「ヘヘヘ、そういうのりなりーにだけは見せないようにカッコつけるのは得意だったから。でも愛さん、なんで嬉しくないんだろうって、考えて分かったんだよ」
璃奈「理由、っていうのは……?」
愛「うん。すごく簡単で、すごく我儘だった。愛さんはりなりーの一番の特別になりたかったんだ」
愛「りなりーのイチバンになりたかったんだよ。同時に、世界で一番愛さんがりなりーに『楽しい』の感情を与えられる存在になりたかった」
愛「それがなんで、天王寺璃奈にだけ抱いたのかはアタシ、わかんないけど。でも、それに対しては理由は要らないなって気がするんだ」
愛「愛さんが困ってる人を見るとほっとけないタチなのと、楽しいことが大好きなのと、同じくらい、宮下愛を構成する当然の性質だって思ったから」
愛「たまたまあの時りなりーの姿を見つけた時点で、アタシはきっと、りなりーの事が好きになる運命だったんだ。……たぶんアタシは、そういう星を持って生まれたんだよ」
璃奈「……星……」
愛「……例え時と場所と場合が違っていても、愛さんが愛さんで、りなりーがりなりーなら、きっとアタシはりなりーに恋をしていたと思う」
璃奈「愛さん……」
愛「……りなりーが『愛さんの事が好き、です。付き合ってください』って言われたのに対して『愛さんもりなりーの事が好きだ。アタシで良いなら、付き合ってほしい』って答えたのは──」
愛「これが、理由。どう、かな。今だからこそりなりーに全部明け透けに言える内容」 璃奈「嬉しい。愛さん、たくさん好き、好き、って言ってくれるからすごく嬉しかったけど……でも、改めて理由を聞くと、すごく、胸がむずむずして……ぽかぽかする」
愛「愛さんもさ、その……りなりーに、好きって言われると、いつ聞いても、すごくドキドキする」
璃奈「! ほんと? じゃあ、愛さん、すき、すき。大好き」
愛「おおっ、りなりー、ちょっとたんま。たんまたんま、めっちゃ恥ずかしいからこれ!」
璃奈「でも……本当は、笑顔で愛さんに言いたい」
愛「……りなりー?」
璃奈「愛さんがそうしてくれるように、私も愛さんに笑顔で──笑顔で好きって、言いたい」
愛「……ありがとう、りなりー。アタシはそうやってりなりーが頑張ってくれるの、めっちゃ嬉しい。でも、焦んなくていいんだよ」
愛「できなくたっていいんだ。できないところも含めて、愛さんはりなりーのすべてが好きなんだ。愛さんがりなりーをほっぽって誰かの役に立つ姿を見て、そこも好きだって言ってくれるのと同じように──」
愛「りなりーが笑顔を作れないっていうところも含めて、愛さんは好きだよ。例え楽しい時に笑顔を浮かべられなくても。悲しい時に涙を流せなくても。急に上級生に声をかけられて怖い時に怯えた表情が出せなくても──」
愛「焦らなくたっていい。愛さん、楽しみなことを待つのも大好きなんだ。そういうのも、楽しい、嬉しいへの最高のスパイスだからさ」
璃奈「……うん。頑張る。でも、焦らない。今のままの私を、愛さんが受け入れてくれるから」
愛「そういうこと。時間はたくさんあるからさ。──それとも、しおってぃーの言葉、気にしてる?」
璃奈「……気にしてないと言えば、嘘になる。私は愛さんに笑顔を向けることもできない。それは……やっぱり、つらい」
愛「じゃあ愛さんと一緒に、もっともっと楽しいことに挑戦しよう。いつか二人そろって最高の笑顔を浮かべられるように」
璃奈「──うん」ギュッ この時点で色んな意味で凄くドキドキする…
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